2015年の初めに           1015.1.20―25

                            木下秀人

 アベノミクスが3年目に入って、政治面でも経済面でも問題点が明らかになってきた。昨年末の解散総選挙には驚かされた。小生は、自民は大幅に議席を減らすとみたがこれが大間違いだった。日経新聞1.18の分析によると、解散の結果予測には株価という指標が良く当たるらしい。

@   前回より株価を上げて解散すると議席は増える。

A   前回より株価を下げて解散すると政権交代が待っている。

B   解散時の株価は内閣支持率より選挙結果に影響する。

昨年末の解散で、安倍氏がこれを意識して決断し予定どおりの勝利を得た。前回野田政権下の9026円をはるかに上回る17357円での解散だったから、安定政権をもたらすことは予想でき、新聞の調査は驚きとともにそれを報じ、結果はその通りとなった。

 この選挙の論評で小生が注目したのは、日本の政治に詳しいコロンビア大ジェラルド・カーティス教授の1.13NHK視点・論点。小生流にまとめると

@   自民・公明の与党が大勝し、野党勢力がばらばらで力なく、一党支配の時代となってしまった。かつて自民党と社会党が対峙する55年体制という時代があったが、その頃の自民党には、派閥が党内野党の役割を担い、政策論議が活発に行われ人材も育ち、野党の意見も政策に反映されたが、その条件は失われてしまった。

A   政権交代可能な二大政党をめざして小選挙区制が誕生し、民主党も政権を担当したがうまくいかなかった。そもそも階級社会でない日本で多様な意見を政治に反映させるには中小政党が議席を得やすい中選挙区制のほうが国民性に合っているのではないか。かつて野党第一党だった社会党の現状、替わって野党第一党となった民主党の政策の混迷、政策の違いが明確でない少数野党の乱立は小選挙区制が国情に合っていないからではないか。今や西欧で英国でもドイツでも連立政権であることを見ると、多様な民意を政治に反映させるには、多様な政策を掲げる政党の連立のほうが、議会の論議も明快となり、時代にふさわしいのではないか。政権獲得のためといって、政策のすり合わせもせず、人数集めで発足した民主党の失敗は克服できるであろうか。

 政治学者の間でこの種の議論がないのは、まだ小選挙区制が始まったばかりということか。民主党が岡田代表の下で安易な合同を封じてどう体勢を立て直すのか。とかく右寄りが心配される安倍首相、8月の歴史認識表明を問題なく乗り切れるだろうか。

なぜか海外では評判の良いアベノミクスも、約束の消費者物価は原油安もあり2%に届かず、株価も世界的金融緩和の中で余裕資金をもてあそぶ外国ファンドに支配されるばかり。それでも2017年に株価が上回っていれば解散して議席を伸ばし、東京五輪を安倍政権で迎えることになると日経はいう。しかし国際政治は不安定で、イスラム国のテロ、ロシアとウクライナの紛争、ギリシャ債務危機、など問題山積。東西冷戦終結後の世界は、ロシアの体制変革の失敗、米国のイスラム世界介入の失敗、民主主義押しつけの失敗など楽観を許さぬ状況となっている。

 アベノミクスについて小生は、政権成立時に既に日本経済は成長軌道に乗っていたこと、株価も米国株の上昇に同調して上がっていたことから、とにかくデフレ脱却に向かいつつあろことの評価は大方に同じるが、第三の矢がまだ見えないこと、政府・日銀の想定に反して、輸入物価の高騰が中小企業と国民生活を苦しめていること、物価は上がるのに賃金は上がらず、GDP成長率は2%の目標に達するどころか実質ではまだマイナス、ピケッティ氏の問題提起ではないが、まだ貧困に苦しむ人々が多いこと。最大の問題は政府・日銀に積みあがった1197兆円という多額の借金の償還問題が、未だに明確でないこと。GDPで見たこの比率は、第2次大戦直後の数字に匹敵するという。新円切り替え、財産税、インフレなどの生活破壊的な措置がその償還に必要だったことを忘れてはならない。

 日本はすでに歴史上もっとも豊かな経済状態にあり、大震災からの復興はいまだしではあるが、平和で安全で文化財豊富で豊かな国。外国人観光客が増えて、外貨を落としてくれるのはありがたい。しかし、2015年度予算が税収増で国債発行を減額し、基礎財政収支2015年度の赤字を、2010年度に対し半減させられそうだという話は良いことだが、それはほんの入口。経済成長率は実質で赤字、10年間の名目成長平均3%という目標にはまだ遠い。積みあがった財政赤字を次の世代に先送りしないように、財政支出の削減と社会保障制度の再構築は絶対の必要事項。

そもそもこの赤字は、1973年、田中内閣で福祉元年といって国民皆保険制度を発足させてから40余年、その後に平均寿命は70から80歳へ10年延び高齢化社会、出生率は下がって人口減少社会に突入、生産年齢人口の減少が経済成長のマイナス要因となった。こうした基礎条件の大変化にもかかわらず歴代政府は制度変更も、とりあえずの消費税の増税も先送りする政治力の貧困。そして既得権に切り込むこの問題にまともに向き合わず安易な道を選ぼうとする政治家たちの姿勢。まだ生まれていない世代にまで我々が積み上げた負債償却責任が残るというのに。

東西歴史散歩、ロシアの歴史雑観

(1) 遅い建国とモンゴル支配

(2) 「だったんのくびき」とモスクワ大公国

(3) ロシア正教

以下の3編、まとまり次第載せていく。

(4) ロシアの近代化と欧米、ソ連は体制変換になぜ失敗したか、国民はなぜ働かないか

ルーズベルトのニューディールと第二次世界大戦、ヘンリー・ウォレスとウェンデル・ウィルキー

西田哲学と西欧哲学、東洋の無と西欧の神

                                 以上      

 

                                                  

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