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「住民投票とは何か」

このレポートは、私が以下の参考資料を元に、住民投票についての根本的な定義を研究したものです。
この研究結果をふまえて、今吉井町長が合併の枠組みについてやりたいと言っている住民投票の中身、条例案、町内の状況を総合的に判断すると、住民投票をできる環境、前提条件は満たしていないのではないかと私は判断しています。
住民を混乱させ、住民の間に禍根を残す可能性がある中で、それでも住民投票をやるべきなのかどうか。
「住民投票をやるべきだ」
「住民投票などやらずに、議会と執行で決めるべきだ」
という相反する二つの声が議会にも上がってきています。
皆さんは住民投票についてどう考え、どういう態度を示しますか。
またその結果について、誰がどういう責任を持つべきだとお考えでしょうか。
このレポートを読んで、皆さんの意見を伺いたいと思います。

尚、このレポートを作成するに当たって参考にした資料は、すべて「住民投票」を肯定する立場の人たちによって作られたものであることをあらかじめお断りしておきます。


*参考文献等
 「京都大学現代法学研究会 住民投票パート レポート」
「住民投票」新藤宗幸(中央大学法学部教授)著
 「住民投票立法フォーラム」会員資料

1.市町村合併における住民投票の位置づけ
 合併特例法で定めている住民投票は次のようなものです。
「首長や議会が合併に無関心でも、住民が有権者の50分の1以上の署名を集めれば法定協議会の設置を要求できる。議会が設置要求を否決しても、有権者の6分の1以上の署名で協議会設置の是非を問う住民投票を行うことができる。」
 つまり、国が市町村合併を進めるために認めた、法定協議会の設置要求に限定した住民投票の規定であり、原発の是非や合併の是非を問うような一般的な住民投票とは異なります。
 一般的な住民投票は、現時点では法制化されておらず、違法か適法かの議論を残したまま、各自治体が独自に条例で定めて行われているのが実情です。

2.住民投票の歴史と背景

@世界的な歴史
 住民投票はアメリカやスイスでは、かなり以前から広く採用されていましたが、1990年代に入って以来、それ以外の先進諸国にも広がりをみせています。例えば、1994年のカナダのケベック州の独立をめぐる住民投票や、1998年の北アイルランド和平合意をめぐる住民投票が代表的なものです。
 アメリカでは住民投票はさかんに行われており、その歴史は100年以上におよびますが、100年の歴史をもってしても賛否両論にわかれており、住民投票に関する問題の難しさがわかります。

A日本での取り組み
・1990年代に入り、中央−地方自治体関係を分権的関係に改めようとする「地方分権改革」が政治の重要課題とされた。
・1995年、地方分権推進法制定。地方分権推進委員会が活動を開始。
・1998年5月、上記委員会の勧告をふまえ、「地方分権推進計画」を閣議決定。
 このような動きの象徴として、1996年に新潟県巻町で原子力発電所設置の是非をめぐる住民投票が実施されました。この住民投票は、新聞等でも大きく報道され、実施は画期的なことだと注目される一方、国策を一地域の判断で行うのは地域エゴに過ぎないなどの強い批判も寄せられました。
 その後、住民投票という手法は、原発問題にとどまらず、沖縄の米軍基地問題、産業廃棄物処分場の問題にも用いられてきました。1998年10月現在までで、計8件の住民投票が実施されるに至っており、更に様々な問題について全国各地で住民投票の実施を求める運動が行われています。

3.住民投票の種類

@「紛争解決型」
庁舎建設の是非や文化遺産の保全といったように、自治体の事業をめぐる地域社会の対立が高じた際の、解決手段としての投票。

A「政策対抗型」
自治体が立案し提示した政策に対してその賛否を問う投票。
「東村が伊勢崎市、佐波郡赤堀町及び境町と合併することの意思を問う住民投票」などは、自治体が合併先を提示し、その政策に対しての賛否を問う形なので、政策対抗型住民投票であるといえます。

4.住民投票の是非

@問題点
・十分な資料や情報にもとづく、冷静かつ多面的な討議が浸透しにくく、いきおい扇動家やマスコミによる大衆操作の影響を受けやすい。
・住民投票の動向は、一時の情熱や偶然的要素に左右され、政策的に一貫性を欠いた予想外の結論となる危険性がある。
・たいていは勝敗が僅差で決まり、かえって住民の間にしこりを残すことになる。
・住民投票の結果に責任を持つ者が存在しない。
・代表民主主義の規定と両立し得ない。
・住民の選挙によって選ばれた代表機関の権限や責任を減殺するおそれがある。

A可能性
・議論が激しく対立している場合の議論の解決を容易にしてくれる。
・政党に対する支持とは違った、個別問題に対する意思表示は市町村レベルにおける民主主義を活性化させる。
・「住民投票がなされる場合がある」、というだけで住民と議会との間によい意味での緊張関係をもたらすことになり、地方議会の活性化にもつながる。

5.住民投票実現のための要件

@発案権者の問題
 現在住民投票条例の議決権は議会にあるので、議会と住民が対立している場合、住民が要求しても投票が実現しません。このような状況を打開するためにも、発案権(主導権)は住民側に与えられるべきだと考えられます。
 しかし、無条件に乱用されても混乱が生じます。また住民が本当に住民投票を必要としているなら多くの署名が集まるはずなので、発案条件はより厳しくするべきだと考えられます。
 また、議会・首長からの住民投票提案については、自治法に規定がない中、実際には、いくつかの自治体で行われているのが実態です。しかし、これまでの例では、圧倒的に住民の直接請求が多く、首長提案が少ないのが現状です。

A対象事項の問題−何を投票で問うのか
 住民投票の対象事項は、何でもかまわないということではありません。自治体にとって重要な事項を問う、というのが一般的な認識です。では何が重要で何が重要でないかということを具体的に問われると、簡単に答えが出る問題ではありません。学者の間では、住民投票に問うべき項目(ポジティブリスト)と、問うべきではない項目(ネガティブリスト)はどういうものであるか、ということが検討課題として挙がっています。
 また、多くの知識や検討が必要とされる複雑な案件については、住民投票には不適切であるということも確認されています。

B選択肢の問題−どのような設問方法にするか
 どの資料を見ても、「三つ以上の選択肢はふさわしくない」とあります。すべての選択肢が過半数割れになった場合、その結果をどう判断するのかが不確定だからということです。
 また、設問方法は投票者が判断しやすい内容である必要があります。本来は設問として、条例案がそのまま提示されて、その賛否を問うのが住民投票のあるべき姿であり、もっとも理にかなった方法であると言われています。

C有効投票率の問題
 有効投票率の規定がないならば、少数者による政治的決裁となりかねないので、これを設定しない住民投票は、民主政治にとってマイナスの側面が大きいと言えます。現在有効投票率の規定をする場合は、50%超が一般的ですが、この数字についても「少ないのではないか」という意見があり、さらに検討すべき課題とされています。
 また、有効投票率の規定は、地方の実情に合わせて設定すべきだということです。その場合、その地域の過去の選挙における投票率を参考にした数値が設定されるべきだと考えられます。
*有効投票率の規定とは、規定した投票率に達しなかった場合は開票しない、つまりその住民投票は成立しないということです。

D情報提供の問題
 住民投票の有効性は、投票以前にどれだけの情報公開が行われ住民理解が得られたか、で大きく変わってきます。住民投票に関する情報提供には、公開性・公正性・論点整理・わかりやすさ・公開討論や学習の場の保障など、いくつかの原則があります。
 これらの実現のためには、「争点に関する徹底した情報の公開と提供」「争点や提案の賛成意見と反対意見の論点を整理したあらゆる疑問に答える公報の配布」など、時間と労力をかけた情報提供が必要であると言えるでしょう。

Eその他
 投票資格者(二十歳未満や永住外国人)の問題、投票に向けてのPR活動、選挙期間の設定などの検討課題があります。

6.選挙中および選挙後の課題

@投票運動について
 住民投票は公職選挙法の適用を受けないため、選挙運動(投票運動)は原則的に自由ということになります。一般的には「買収等町民の自由な意思が拘束され、不当に干渉されるものであってはならない」などの一文が条例に盛り込まれます。しかし、この条文自体法的拘束力がなく、罰則規定を盛り込むことも法律上は不可能です。
 例えば巻町では、「戸別訪問・チラシ折り込み・利益誘導・企業ぐるみ・飲食付き集会・補助付きの格安ツアー」などが展開され、投票運動は過熱気味であったといわれています。
 さらに「原則自由」な住民投票の運動は、行政機関の介入がどこまで許されるかという問題も抱えています。公職選挙法が適用されないということは、公務員が投票運動をすることもできます。この場合、当該自治体だけでなく、他の自治体が関与することで投票運動に介入することも可能であり、事実上の歯止めがないのが現実です。
 「さいたま市との合併の是非を問うた上尾市の住民投票」では、市の職員を動員した選挙運動が行われ、市長自身も片方の勢力の街宣車に乗り演説を行いました。首長といえども、罰則がなければ、いざとなったらなりふり構わず自説を押し通すことがあるという実例です。  

A投票結果の取り扱いについて
 時間や費用をかけて実施された住民投票の結果をどう受け止めればいいのかという問題については、賛否両論が繰り広げられています。
 概ね確認されている事項としては、「投票結果(尊重義務)は法的な拘束力はないこと」「住民投票の結果に反する決断には相応の合理的理由が要求されることになるが、決断自体が違法に問われることはなく、政治責任の問題にとどまる」というような解釈が一般的であるようです。
 投票結果の尊重の問題は、設問の設定や投票率・白票数などの結果の分析によって、流動的であると考えられます。
 尊重の度合いをより強力なものとするためには、
・請求の署名の数
・執行側の情報提供と住民側の情報収集が真剣に行われたかどうか
・混乱や不正のない厳正な投票運動が行われたかどうか
・投票率や白票の数
などを検証する必要があります。これらの項目を検証する中で、より高度な行政(執行・議会)レベルと住民意識が達成されることが、住民投票の結果を尊重する基準になると考えられます。
 健全な住民投票の実現のためには、現在のような各自治体ごとのの条例設置ではなく、一般的な法制度としての住民投票制度の実現が求められます。もちろんこの制度の実現自体も賛否が分かれていることはいうまでもありません。


<事例紹介>

住民投票を終えて 星野 理一(埼玉県上尾市 住民投票を実現する会)

 住民投票の結果は、投票率64.48%、合併賛成 44,700、 合併反対 62,382で合併反対が多数であった。
 しかし、結果は受け入れるとして、住民投票が一体何だったのかの疑問で一杯である。
 市長が1人では判断できないと言ったので請求した住民投票。住民投票とは行政や議会が市民の判断を知るのが住民投票だと思い運動をしてきた。
 しかし、請求者(賛成派)と行政(反対派)とでは住民投票の認識があまりにも違いすぎた。反対派(相反するグループ)にとっては現在を壊されないための戦いであったのである。
 市民に判断を求めるために、合併のメリット・デメリットを提示する推進派、何が何でも現在を堅持するために合併のデメリットだけを誇張して言い続ける反対派。そして最終的には批判合戦になってしまった全国初の住民請求による合併問題の住民投票。私は、結果以上に様々な問題も噴出した今回の上尾市の住民投票が残念でならない。
 私たちは当初より住民投票は選挙ではなく、勝ち・負けを競うものでもなく、あくまで市民が未来への選択をする投票だと思い運動をしてきた。そして住民投票条例が可決した時点で、合併の可否の答えを出すのは市長や議会から市民の判断に移ったと思っていた。
 しかし残念なことは住民投票執行者である市長が、執行者としての立場を離れ、反対運動の先頭に立たれたこと、また住民監査請求や賠償請求が出されている問題に対し、今後その責任を市民に対し明らかにされることを望んでいる。
 合併に関する住民投票は今後、各地で行われる可能性があるが、1日も早く立法化され、明確なルールにより住民投票が行われる事を強く望んでいる。

参考(反対派の過剰運動の幾つかの例)
市の反対誘導のパンフレット作成、職員による全戸手配り。(住民監査請求)
週刊ダイヤモンド記事無断印刷配布30,000部(ダイヤモンド社賠償請求中)
合併反対ののぼり旗を公道のポールに大量に立てる。(土木事務所により指導撤去)
合併賛成ポスター、のぼり旗を破壊し、逮捕者が出る。
一方的な広報に、総務省・県から「行政は中立に」の指導を受ける。

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