夢遊集むゆうしゅう の書
 大明萬暦だいみんまんれき 年中としなか に於いて 憗山大師りんざんだいし は 古今無雙ここんむそうの名僧めいそうなり。
 其の母 常に観音を信じける。夢中に独りの童子を携え来たり門に入る その母 童子を抱き取ると見ければ 夢覚めて 懐妊せり。
 誕生の時 白衣観音の利益によりて 生まれる印しるし 明あきらかに知りける。
 この子 のちに 報恩寺ほうおんじに到りて出家して天下の名僧となれり。 憗山大師りんざんだいし なりける。
 この名僧 夢遊集むゆうしゅう と云う書 二十一巻 著あらわせり。
  あるとき 子寅しいん と云う人 憗山大師りんざんだいしに 世継ぎ無き事を苦しみ 此の経を求む。
  憗山大師の曰く 観世音菩薩は 如幻金剛三昧にょげんこんごうさんまい に入りて 33應身おうしん14無畏むいの功徳を現げん
  三界六道の衆生と 悲仰ひごを を同じうする故 法界の衆生願ねがいに随いて 福徳智慧の男子を誕生し 皆白衣重胞の印あり。
  此の菩薩 一切の衆生と 悲仰ひごを を同じうする故に 菩薩の慈悲心 即ち 衆生願求がんきゅうの心なり。
  衆生願求の心と菩薩の慈悲心と合がっする時は
  鏡の光を交まじえて 影互いに現ずるが如く 谷の響きの声の自身より出でて 自身に応ずるが如く
  菩薩の慈悲心と衆生の心と融通ゆうづうして その子を變幻へんげんする事 疑う可べからず。
  故に 菩薩に祈り求むれば清浄しょうじょうの心より誕生する故 必ず 福徳智慧の男子を生ずべし。

  日本では
  天保てんぽう三年辰たつ 十月 阿州小松島あしゅうこまつしまに 生島馬之助いくしまうまのすけが一子 難病にあえり。
  其の時 光観上人こうかんしょうにん 此の高王観音経を施させ給う。
  生島馬之助 高王観音経を誦み信心しんじん致しければ その夜 忽たちまち 其の子の病やまい癒えて 寿命長久せり。
  
  天保てんぽう四年巳九月 同国徳島すけとう町 井筒屋平右衛門が娘ぎん 永々ながながの病なれども光観上人こうかんしょうにん
  此の高王観音経を授かりて 百巻を施さんと願いければ 其の病癒えて 寿命長久せり。

  天保てんぽう五年 九月 同国徳島に 寒川文右衛門と申す人 熱病にあへり 此の高王経 経文を授かり 一心に信心成しければ
  其の病癒えて 無病長久せり。
 
  天保てんぽう六年 十月 同国徳島 戸田半作が倅せがれ 病にあへり 此の高王観音経 授かりて 
  百巻を施さんと願がん を發おこ しければ 其の病癒えて 安全なり。

  同年 十一月 同所 横町 柴屋治郎吉 難病にて手足の自由叶わず 躄いざりとなれり 光観上人に此の経文を授かり
  百巻印施いんせ の願ねがいを致しければ 手足忽たちまち自由になりて 全癒ぜんゆせり。

  同年 十月 同国 寺澤藤次郎 妻病にあえり 光観上人に此の経文を授かり 五百巻印施の願を發おこしければ 病気平癒せり。

  高王白衣観音の霊験著ちょなる故に 一心に此の経を読誦し 或は 印施して祈願を發おこ
  其の感應
かんのう利益りやくを 被こうむらざる者無し。       高王白衣観音経 霊験利益 終    トップに戻る