世尊、口調を一段と引きしめ力説する
「天人たちが創った師子の座に座って、大通智勝如来は、遂つい に完全な仏の悟りを得ることができました。
それを見た十方世界の五百万億ある仏の国土は、喜び震え光輝いております。
十方世界の中程に位置し、光と無縁の暗黒の世界にも、大通智勝如来が得た悟りの功徳が届きました。
この暗黒の世界は、無始むし の過去からずっと、光が差し込まない暗黒の世界でありました。
その暗黒の世界にも、日月 にちがつ の光明が射しこみ、光輝く明るい世界になりました。
その暗黒の世界の中でも、さらに絶対暗黒だった片隅の場所にも光明が射しこみ 明るくなりました。
その暗黒の世界の住人たちは、今までは真っ暗だったので、お互いの存在を知りませんでした。
日月にちがつ の光明が射し込み、明るくなったその暗黒の世界の住人たちは互いに顔を見合っています。
いままでは、この世界には、自分しか居なかったはずなのに
どうしてこんなに大勢の人間が、急に出来たのだろうと、皆が不思議そうな顔をしています。
まもなく、住人たちの心は安堵あんど し、互いに笑顔で喜び抱き合っています。
この暗黒の世界の住人とは、仏の教えに縁が無かった衆生たちのことです。
仏の教えがゆき渡らない世界の住人は、我が のぶつけ合い・自己主張ばかりで・対立していたのです。
表面的には、仲良さそうに見えるが、心の中は敵対心が強く、悪口を言っていがみ合ってばかりでした。
親子・兄弟・夫婦など、ひとつの家に暮らす家族でさえ、孤独な心の人間だったのです。
しかし、ひとたびー仏の教えの光ーが差し込むと、いままで孤独だった人間たちも、たちまちのうちに、
大勢の仲間と心通い合い、幸福な人間関係が確立されるのです。 これは、間違いない事実なのです。
どうしてこんなに大勢の人間が 急に出来たのか その意味は、
それまで、廻りの大勢の仲間たちの存在を無視していた人間たちでさえ、仏の教えの光に包まれると、
今まであった我が が消え去り、周りの他人にも目配り・気配りができるようになったということです。
天上界の豪華な宮殿にも、一段と輝く日月の光が明るく照り渡り 天人たちも喜び震えています。
この時、東方の国々では、いつもよりもまして、明るい光明が射し輝いていました。
天上界の宮殿に住む梵天王ぼんてんおう たちも、こんな光はいまだかって見たことはありません。
ー何が起きたのだろう? これは、きっと、良い前ぶれに違いないーと、緊急会議が始まりました。
「梵天王」:「梵天・釈尊に懇願」
その会議の席上で、梵天王のなかでも最長老格の、救一切 ぐいっさい という梵天が
「どこかに、たいへんに徳の高い天の王が お生まれになったことなのか、あるいは、
高尚な仏ほとけ が、この世に出現されたことでありましょう。
とにかく、十方を照らすこの大光明だいこうみょう は、喜ばしい奇跡が起きた兆候に間違いないことです。
皆で、この光明が発信された所へ行き、光明の理由を探求しましょう」と、提言しました。
梵王の会合は、満場一致の拍手で決議されました。
梵王たちはー梵王会ぼんのうかい オイラたちはー煩悩会ぼんのうかい ‥‥‥つまらない冗談ですいません ボサツマン
そこで、梵天王たちは、各々の宮殿に戻り壁に飾ってある花駕籠はなかご に、美しい花をいっぱい盛り飾り
抱きかかえて、光明の射しこんでくる西の方へ飛んで行き、光輝くその場所を探し求めました。
すると、そこには、大通智勝如来 だいつうちしょうにょらい が菩提樹の下で瞑想しておりました。
如来の足元では、あらゆる世界の生き物たちが、初々ういうい しく正座し合掌しております。
大通智勝如来への合掌・礼拝をねんごろに済ませた16人の王子たちは
どうぞ教えをお説きくださいと、父であった如来に、お願いしています。そして
仏のまわりをグルグル廻りながら 如来のお身体の上に、たくさんの天の花を 振り散じ始めました。
帰依の心で振り散じられた天の花は、「須弥山」しゅみせん の高さにまで、積もるほどでありました。
このようにして、16人の王子たちは、大通智勝如来に、心を込めた供養を行いました。
一方、光明輝く菩提樹の下へ到着した梵天王たちは、
大通智勝如来に、深く拝礼はいれい し、五体投地ごたいとうち (頭・両手・両膝・を地につけ)で心を尽くしました。
次に、梵天王たちはー菩提樹の木ーにも、感謝の心を捧げ供養しました。
菩提樹の木と花への供養を終えた梵天王たちは、大通智勝如来に向かって
ーどうぞ私どもの心を憐れみ、宮殿をお受けとりくださいーと、各々がもつ宮殿を差し出したのでした。
衆生の皆さん、仏に帰依 きえ し感謝する心を表す行為が供養なのです。
梵天王たちは、大通智勝如来のみならず菩提樹の木にも供養しました。
菩提樹の木にも供養した梵天王たちの心は、衆生の皆さんにも、ご理解できるでしょう。
菩提樹は、インドの強い日射しの日光を遮断して日陰をつくり、瞑想修行中の仏を護っています。
このように、菩提樹の下は自然の道場として、仏道の修行には最適な場所なのです。
梵天王は、如来に深い帰依の心を捧げ同時に、修行道場を護る菩提樹にも、感謝の心を捧げました。
強い日射しから仏をお護りする菩提樹の木へも、供養の心を捧げたのは、このような理由があります。
衆生の皆さん、真の供養の心とはこういうものなのです」。
つづく