世尊化城宝処 けじょうほうしょ を説く、
 「ある人里遠く離れたところに五百由旬 ゆじゅん もの長くて非常に険しい困難な道がありました。
  その道には
恐ろしい悪い猛獣が多く出没するので人間にはたいへん危険な道です。
  
     1由旬ゆじゅん・は、約10キロメートルの長さ、五百由旬は、約5000キロメートル。     「豆知識
 この険しい道を 高価な宝物を求めて進んでいく 大勢の人たちがいました。
  この団体には道案内人として
この道に詳しい経験豊富な一人の ー導師どうしー付き添っていました。
  この導師は
優れた智慧を具え世の中のものごとを熟知しこの道のすべてを知り尽くした専門家です。
  この道師の一行が
この難所を通過している最中の出来ごとでした。
  一行のなかには 足が弱い人もいれば、すぐ途中で弱音を吐く、根気に欠ける人もいました。
  皆元気よく出発したのですが、長い道中では、苦労の挙句の果て、
 私どもは、もうダメです 疲れ果ててしまいました。 こんなキツイ恐ろしい道はもう嫌です。もう気力は限界です。
   先はまだ遠いようなので今来た道を戻り 家に帰りましょう
と、ほとんどの人が、弱音を吐いています。
 この導師は、場合に応じて人びとを導く方法対処療法を、完全にマスターしていましたので、 
  
ああ、なんて、かわいそうな人たちなんだろう ほんと、もう少しの辛抱なのにと、心のなかで思い
  もう1息、あと少し
頑張れば大きなが手に入るのに引き返そうなんて考えるなんて‥‥‥
  そこで
その道のほんの少し向こうに街と大きな城 まぼろし として現わし見せたのです。
  つまり
この導師は方便力を用いて衆生たちを励ましたのです。

  導師は 衆生一同に、言いました
  
みなさん、もう恐れることはありませんもう大丈夫です、ここで引き返すことはありません。
   ほら、大きなお城が見えるでしょう、あそこのお城まで頑張って行って、中で自由にお休みしましょう。
   あのお城のなかに入りさえすれば 安全ですよ。  安心してグッスリ眠って、充分に体力を回復できるのです。
   それから、宝を取りに行けばよいでしょう。  今ここで、引き返すことはありません。 皆さんそうしましょう
  これを聞いた皆は、大喜びで城の中に入って、タップリと休息しました。
  しばらくすると 疲れがすっかりとれて、気も身体も回復してきました。
 それを見た導師はその幻の城を消してしまい皆に言いました。
  
今まで ここに有った街や城は、私が仮りとして造ったものです。 幻の街やお城だったのです。
    疲れた皆さんを癒すために、ひと休みして心を とり直させるため、方便として幻のお城を造ったのです。
    さあ、行きましょう、宝の有る場所はもうすぐそこです
 衆生たちは、幻のお城で身も心もすっかり回復したので、導師の言葉に従い、お城を出発しました。
  こうして、導師は衆生一同を励まし ついに、宝の有る場所まで導いてやることができました。
  そして、衆生たちは、
をたんまりと手に入れ、喜び勇んで元気に家に帰ることができました。
 大衆の皆さん、如来とは、ちょうどこの導師の立場なのです。 それでは、さらに、解りやすく説きましょう。
  如来は、この人生の道の険しさ、恐ろしさから、衆生を救おうとしているのだが、
  イキナリ、最高の教え
1仏乗 いちぶつじょう を説いたのでは衆生は チンプンカンプンで理解できません。
  あまりにも自分とかけ離れている教えに、衆生はただ困惑するだけです。
  仏の道はとても遠く、そこまで達するには 長い大きな苦労が伴うのです。
  自分は、そこまで
仏道の世界行くことはできない、という弱々しい心の衆生は、多くおります。
  そこで 仏は、途中で二つの
涅槃 ねはん ーの教え、
  二乗の教えである
声聞と縁覚の悟りを説いて、まず心の安穏 あんのん を得させるのです。
  そののち
心が安穏になった頃を見計らい菩薩行の教えを説いて最高の悟りへ導くのです。
 
一仏乗の教えが最高の教えだが仏の悟りへの過程で方便声聞と縁覚の二乗の教えを説くことは、
  衆生にとっては
尊い価値があるのです。 同時に 途中の休息の意味にもなるのです。
  だから
旅の途中で導師が方便を用い出現させたお城と街で衆生たちが休息させたのです。
  やがて衆生は
いつまでも二乗の段階でとどまっていてはならないと真剣な心に変わるのです。
  そして
本格的に菩薩道の修行に励み出しズンズンと仏の道を歩み始めるのです」。
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