提婆達多だいばだった への授記も終了した頃、
多宝如来の侍者の智積菩薩 ちしゃくぼさつ が
「多宝如来さま、そろそろ本土へお帰りになりましょう」と、申しあげた。
すると、世尊は
「智積菩薩よ、そのことは少し待ってはいかがかな!
今暫く時間をとって 私の弟子の文殊師利 もんじゅしり という菩薩に、ぜひ会ってみてはいかがかな。
仏の教えをいろいろお話しされてから お帰りになるというのはどうでしょう‥」と、言いました。
ー女人成仏にょにんじょうぶつー
すると、その時、たくさんの菩薩をを引き連れた文殊師利もんじゅしり が 突然現われて、
ー私は、いままで、海の向こうの龍宮りゅうぐう で 多くの衆生を教化しておりましたーと 言いました。
これを聞いて、智積菩薩は、文殊師利を褒め称えました。 すると、文殊師利は、
ーいやいや、なにも私が偉いのではありません。 私はただ、妙法蓮華経の教えを説いただけです。
菩薩たちへの教化は、日常的に当たり前のことです。 それよりも、もっと嬉しいことがありました。
それは、わずか八歳の龍王の娘・龍女 りゅうにょ に私が法華経を説いた時、彼女は 即悟りを得たのです。
この時はさすがに、私(文殊師利)は、法華経の功徳の凄さを、心から感じましたーと答えたのです。
この話を聞いた智積菩薩は、首を傾げて
ー文殊師利よ、世尊でさえ無量劫という長い間、難行を積み悟りを得たのですから、
今のその話に、おおきな疑問を感じます。
世界中の芥子粒けしつぶ ほどの小さな土地でさえ、世尊が身命しんみょう をなげうって 修行された場所です。
世尊でさえ、こんなにお骨折りをなさって、難行苦行の末にようやく 仏の道を得ることができたというのに
まだ龍女という八歳の娘が、法華経を聞いて即、悟ったとは、信用できない話ですーと、言いました。
すると、龍女 りゅうにょ が突然、現われて
「菩薩・摩訶薩・大衆の皆さん、私は必ず、菩提 ぼだい を成ずることができると信じています。
私は、大乗の教えをもって衆生を苦から救います。このことは、仏だけが御存じなのです」と語りました。
すると、今度は 「仏の十大弟子」のひとり、舎利弗 しゃりほつ が、
「しかし、龍女よ、君は瞬間の時間で、無上道むじょうどう を得たというが、それは信じられないことです。
その理由は、あれこれ・こうこう‥‥」と、女人が成仏できない理由を いろいろ述べました。
すると、龍女はふところから 1つのー宝珠ーほうじゅ を取り出して、世尊に受け取って欲しいと 捧げました。
周りの菩薩・摩訶薩・大衆たちは、世尊は絶対に受け取るはずが無い、と、心に思って見ていました。
しかし、世尊は、龍女の成仏を認めていましたので、笑みを浮かべ、即座に宝珠を受け取られました。
龍女は、舎利弗 しゃりほつ に聞きました
「世尊が わたしの奉った宝珠を お受けになられたのは 早かったでしょうか?」。
舎利弗は、ーたいへん早かったーと 答えました。
すると龍女は、
「私の成仏は それよりも早いでしょう。 あなたの神通力をもって、見ていてください」と言った瞬間
龍女の身は男子の姿に変じて、さらに、仏身 ぶっしん の身になられたのです。
その仏身の龍女は、次の瞬間、南方無垢なんぽうむく の世界で 妙法蓮崋経を、大衆一同に説いているのです。
その光景が、舎利弗をはじめ この座の皆の目に ハッキリと見えております。
龍女の成仏した姿を 自分の目でハッキリと見た大衆一同は、大きな感動に打たれました。
大衆一同のこころは、法華経の教えを心から信じれば こんな素晴らしい結果が現れるということを、
自分の目で確認できましたので、大歓喜心 だいかんぎしん でいっぱいになりました。
この座の三千人の大衆全員が、遠く南方無垢の世界で、妙法蓮崋経を説く龍女に合掌し始めました。
女人でも成仏できる事実を知った大衆は皆、不退転の気持ちで仏の道を目指す決意が固まりました。
こうして、大衆は、自分たちも将来必ず仏になれるという、自覚・自信を得ることができたのです」。
この時世尊は 今自覚を得た三千人の大衆全員に、成仏の保証(授記)を与えました。 :「授記とは」
この時、舎利弗しゃりほつ と智積菩薩ちしゃくぼさつ は、さらに深く、世尊(仏)の教えの偉大さを 信受いたしました。
世尊は、この品で、ー悪人成仏と女人成仏ーを説きました。
つまり、男女の差別無く1切衆生は皆平等で仏性をもつ、という教えを説いたのでした。
「勧持品第13」へ