きーたんの森
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恵太は鳥になった
自戒
社会の中の死
Dear 恵太
土に還る
春がくるよ
恵太は鳥になった
入院している4階の窓には、
前に入院していた人が餌づけしていたのか鳩が遊びに来ていた。
たくさんの鳩に
恵太はおやつの「たまごボーロ」をあげていた。
「クックー」
と,のどを鳴らす鳩に、恵太はとても喜んでいた。
点滴が24時間抜けない状態で、感染予防のため散歩もままならず、
みえるのは、いつも同じような外の景色だけ。
そんな中、空を飛び回る鳩を見るのは恵太にとって
楽しみのひとつであったよう。

そうして恵太が天使になり、
沢山のお花に囲まれてお空に昇っていく日。
私は、昇っていく恵太を見守りたくて、
外から高い煙突を見上げていた。
小雨がちらついて、少し肌寒い日。
煙突からの熱気がゆらゆらと蜃気楼の様に見えている。
「お母さんが見えるかな。ここにいるよ」

曇り空なのに、心に染み入るくらい美しい景色。
「悲しいことがあったときは景色がとてもきれいにみえるんだ」
そんな誰かの言葉を思い出していた。

ゆらゆらとした煙突の熱気のそばを、飛び回る鳥。
恵太が、楽しそうに見つめていた鳩とかさなる。
「恵太。もう自由になって、鳥さんと一緒に遊べるんだね」
何度も何度も旋回して、側を通り抜ける。
「じゃれあって」いるみたいに。
「ありがとう。
恵太が迷わないように、連れて行ってあげて・・」

しばらくたったある日。
突然の雨に子供達と家中の窓を閉めているとき。
「お母さん、鳥さんがいるよ!」
次男が呼んでいる。見ると、窓の狭い桟に小さな雛鳥が。
「ここにいたら雨にぬれちゃうね、少しお家に入れてあげよう」
新聞紙を引いた箱の中に雛を移して、玄関に入れてあげる。
「死んじゃうの?」
恵太が天使になってから、
いろんなものが死に直結してしまう長男が
心配そうに聞く。
「大丈夫。元気そうだから」
ぴよぴよ鳴いていて、瞳もしっかりしてる。
弱っている感じはなさそう。
産毛のような柔らかい毛。飛べるのかな?
次男がなでようとしたら、羽を広げて1mぐらい飛んだ。
「ほんとに雨宿りしていただけだね。」
ほっとしたら、あの日のことを思い出した。
空を旋回する鳥。
「恵太が遊びにきたのかな・・」
偶然ではない気がした。
鳥になった恵太が、遊びにきたのかも。
「鳥さんのお母さんは、何処にいるのかな」
長男が心配そうにきく。
このまま、手元で育ててみようかと思い始めていた私は、
はっとする。
「そうだねお母さんが探しているかもしれないね」
ようやく晴れた外に雛鳥をいれた箱を置いて、
警戒されないように私達は家の中から見ていた。
すぐに親鳥がやってきて、雛鳥も一緒に飛んでいった。
「いっちゃったね。」
「うん。お母さんと一緒でよかったね」
子供達はうれしそうに、私は少し寂しく、見ていた。
恵太。また遊びにおいで。
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自戒
突然大切に抱えていたものを、
何かに気を取られている隙に奪われた。
そんな感じがしていた。

あまりのすばやさに抵抗も出来ず、しかも
奪い去った者の姿は、跡形もなく、消えている。

確かにここに居た大切なものの「ぬくもり」だけが、手の中に残る。
茫然と、立ち尽くす。

その後に訪れる猛然と湧き上がる怒りとともに、
その怒りの向く先が、すでにここには無いことに気づく。

握り締めた拳を、解くために「ぬくもり」を抱きしめる。
消えてゆく「ぬくもり」に、悲しみが込み上げる。

怒りが消えていき、自戒へと続く道が開かれる。
しっかり抱えていたはずなのに・・。
いや、もっとしっかり、つなぎとめていたら。
自分はその事を、怠っていたのかもしれない。

自戒の思いは、ずっと続く。
多分、この次、大切なあの子にまた会えるまで。
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社会の中の死
身近にあった「死」は、祖父や年老いた大叔母の死であり、
自分もいづれは辿り着く、人生の終末に訪れる「死」。
そう思っていた。
だけど
「死」によって、在ったはずの未来が閉ざされるということを、
見過ごしていた。

生きていれば、
「もう立ち上がるだろう」
「お母さんと呼んでくれただろう」
生きていれば。
そして、存在が忘れられることも無い。
生きていれば。

死んでしまった瞬間から、私達家族の一員であった事実すら
社会の中では、一般的に伏せられていく。
「子供は何人?」
初対面の挨拶。
「三人です。でも、末っ子は病気で亡くなりました。」
事実です。その言葉に、驚かせてしまうかもしれない。
けれど、彼が私達の家族であったことを、存在していた事実を
体面的な言葉で「私が」否定することはしたくない。
「皆に愛されて、励ましてもらって、とっても頑張った、
苦しい姿は1度も私達に見せなかった、やさしい子です」
確かに、ここに在た事実を忘れないように。

けれど残念ながら、それは社会の中では、
「配慮にかけている行為」
に、なるのです。
「相手が困るような、答えをするのは、良くない」
のです。
「もっと親しくなってから、告げてもいいんじゃないか」
もっともだ、とも思います。

割り切れない思いで、恵太に申し訳ないと思いながらも
従っていくしかないのか。
そんな風に思うのは、
まだ少しの時間しかたっていないからなのかしら。
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