物語とは、往々にして突然、主人公もなく始まるものである。

いや、物語は常に始まっているとも言える。
誰もが主人公であり、誰もが主人公ではなく。
ひょっとすると、終わっているのかもしれない。

ともあれ。

ここは一人の男を主人公として、物語を進めていくとしよう。

一人の魔道士と。
一人の魔道人形を。

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「…やれやれ」

エルフの男が呟く。
参った、という風に頭を抱え。

「申し訳ございません、ご主人様。
 どうやら魔力が尽きてしまったようです」

「言われなくても分かっているよ」

男の傍らには、メイド姿の人形がいた。

そう、人形。
人間と見まごうばかりに精巧に作られた、
だがそれは仮初めの命に過ぎない。

「ここのところ、随分と燃費が悪いな、クララは」

「はい…」

ため息をつきながら、彼女の手を握り締め。
そして、男はゆっくりと深呼吸を始めた。

自らの呼吸と共に。

彼女に魔力を吹き込んでいく。

すると。

「あぁ…」

クララが恍惚の表情を浮かべ(それはきっと、男にしか分からない程度ではあろうが)
全身に魔力が行き渡って行く。

「…ふぅ」

男がひと仕事終えたような顔でぐったりする。

自らの魔力を分け与えて人形を動かすというのは…
実は割と疲れる。

それこそ、あの時…夜の国からの魔力が満ちていた時ならともかく。

「さぁ、行くぞ。ぐずぐずしていたら、日が暮れてしまう」

「はい、グスタフス様」

その二人は。
かつて勇者ラルスに敗れた、魔道士グスタフスと
魔道人形クララであった。

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夢魔が人間の世界に馴染んだら、どうなるか?

その疑問は、当然あった。
そして、その答えの一つとして、王立図書館の司書長は…ある推論を打ちたてた。

「夢と現実がごっちゃになってしまえば、行き着くところは決まっておる。
 …混沌にして、世界の終焉じゃ」

では、と。
賢王は、どうするべきか。
その判断を、世界を救った勇者、ラルスに委ねた。

だが、ラルスは何も答えない。
否。
答えようが無かったのかもしれない。

何故なら、彼自身が…
夢魔を愛し、夢魔に愛され、夢魔のおかげで今の自分が在るようなものなのだから。

だから。
今の世界に、満足している彼は。
その現状に、特に何をする必要も無い。
そう思っていた。

夢と現実との混在を危惧するかのような発言をした司書長にしても、
実のところ、同じような結論を抱いていた。

「わしは既に、終わってゆく人間じゃしの。
 それに、…夢魔など認めぬが、別にいようといまいとわしには関係の無いことじゃ」

言い分はかなり違うが、つまるところ。
夢魔をどうこうするつもりはない。

そういうことだった。

そして。

今ここに居る二人も、やはり同じだった。
甘んじて夢魔を受け入れていた。
むしろ、かつては夢魔をこの世に呼び出そうとさえしていたぐらいなのだ。

甘んじてどころか願ったりの状況のはずだった。

だが…

望みとは、叶ってしまえば虚しいもの、ということなのか。
こういった形で叶った望みに意味は無い、のか。

魔道士グスタフスは、不満だった。

妙に丸くなってしまったエストに対してなのか。
それとも、当たり前のように夢魔がいる状況に対してなのかは分からない。

ただ、彼はなんとなく。

物語のハッピーエンドに対して、飢餓感を覚えていたのだ。

そこで。

彼は旅に出た。
魔道人形、クララと共に。

二人旅。

目的がある、わけでもない。
ただ、居づらくなったのだ。
リスヴェグの、ハグロフスの家には。
あの家の執事長を務めていた彼は、全てが終わったあと
自らその役目を辞して、今こうして、ここにいた。

何が見つかるかは分からない。

何を見つけたいかも分からない。

けれど彼は、この旅に何かの目的を見出したいと思っていた。

目的を求めて、旅をする。

それもまた、良いではないかと。

彼は、クララと共に、ただ二人で旅をしていた。

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