Succubus Quest with Succubus Quest 短編 老司書の短い夢 Side Rosenil and Frederica and Lars and Rovissa and Ayxect - Lust Song - ------------------------------------------------------------------------- ―――歌が聞こえる。 遠い遠い、海の底。 悲しみと、色欲に満ち満ちた。 歌が、聞こえる。 ************************************************************************* 「結局、こんな所に来ちゃって…ホント、お人よしなんだから」 ルヴィッサがラルスをなじる。 港町フリーベリから東へ数里。人魚の住処、と呼ばれる洞窟。 ラルスは、オリビアを救うためにはドゥヂチの塔へ向かわねばならない、 と知りつつも…持ち前の『困った人を見ると放っておけない』勇者体質が その足を洞窟へと向けてしまっていた。 恋人を人魚に奪われた哀れな男、吟遊詩人ローズニル。 その最愛の恋人…フレデリカを救うため。 「まったく、ラルスはどうしてそうやって行く先々で面倒を抱え込んじゃうわけ?」 …言われるほど、ルヴィッサと一緒の時にそんな素振りを見せた覚えはないが。 ラルスは納得いかないような表情を見せつつも、ごめんごめんとルヴィッサをなだめた。 勿論、ルヴィッサも本気で怒っているわけではない。 ただ、このどうしようもなくお人よしなラルスが心配になった、それだけだ。 「いい?あたしが出来る事はあくまでサポート。 実際に行為に及ぶのは…ラルスなんだからね!」 ルヴィッサは、目の前で繰り広げられるラルスと夢魔達との交わりに 少なからぬ苛立ちを覚えていた。 ドラウムニョルのほこらで姿を取り戻して以来、 これまでずっと、ルヴィッサはその『行為』の支援をしてきた。 そして、その度にルヴィッサは胸に小さな、ちくちくしたトゲを突きつけられるような そんな感情を抱いていたのだ。 その正体に気づくのは、もう少し先のことだったが… 少なくとも今、ルヴィッサは不機嫌だった。 不必要な回り道は、したくない。 さっさとドゥヂチへ行って、あの女をどかさないといけないのに。 イライラしながら、ルヴィッサはラルスの歩みに合わせてついて行く。 途中、何度も人魚に襲われた。時として、歌で恍惚とさせてくる人魚もいた。 彼女らの放つ音波から逃れられなければ… ルヴィッサは自分を召喚ぶこともできず恍惚となってしまうラルスを見て、 歯痒い想いを抱いていた。 (バカッ!なんであたしを召喚ぶ前にそんな情けない姿を晒してんのよ!) そんなこんなで洞窟を進み、ルヴィッサのイライラも最高潮に達しようという時だった。 これまでに聴いた、どんな歌よりも。 これまでに感じた、どんな快感よりも。 強烈な、音の波が。 ラルスと、ルヴィッサの体中を駆け抜けてきた。 「…な…なに、この気持ちいい…じゃなくて、頭が変になりそうな歌は?」 それはまさに、誘惑の歌。 ラルスも必死で耳を塞ぎ、その魔力に抗おうとしていたが… 意志とは無関係に、身体が引き寄せられていく。 「なぜ、ここへ来たの…」 囁くような…奏でるような、鈴の音色を思わせるか細く美しい声。 歌の主は、見目麗しき人魚だった。 その姿は妖艶にして、儚く。 大きな瞳には、悲しげな感情をたたえていた。 「あなたは…まさか、フレデリカさん?」 ルヴィッサが語りかける。 女性は肯定とも否定ともつかない瞳でルヴィッサを…いや、 その後方にいる、たった一人の男を見つめていた。 「なぜ、私をそっとしておいてくれないの…」 そう、『後方にいる』男を見つめていた。 ルヴィッサの後方にいるのは、ラルスではない。 「ローズニル…!」 ラルスも敵を目前にして、思わず振り返った。 ローズニルが、そこにいた。 フレデリカに会う事を拒んでいたはずの彼が… 「何をしに来たの…?私はもう、貴方の知っている私じゃないわ 私は醜い、淫靡な魔物。私の歌は、もう誰の心にも届かない。 ほら、今もこうして…」 フレデリカはそう言うと、半ば本能に近い反射で歌い出した。 まるで、人が息を吸うのと同じように。 その魔力の強さに、ラルスの身体がどんどんと引き寄せられる。 抗う術は、なかった。 「哀れな獲物を、引き寄せるだけ…」 「フレデリカ!俺の話を訊いてくれ、俺はもう…」 だが、フレデリカは全く聞く耳を持たなかった。 「いいえ、もう貴方の言葉は沢山…」 「ここは、水中…」 フレデリカがそう呟くと、周りに水が満ち溢れる。 いや、違う。これは『まやかし』だ。 だが、そう思っていても…呼吸するたびに肺に入り込む水の幻影に 苦しみ、喘ぐローズニル。 ラルスは苦しみこそないものの、身体がふわり、と水中に溶け込むように 浮かび上がるのを感じた。 「あなたに、浮力を…愛の浮力を…」 フレデリカはラルスににじり寄ると…その美しい歌声と共に 半分が魚となった肢体を絡みつかせてきた… 「…ラルスっ!」 ルヴィッサがフレデリカに襲われる様子を見て支援に入る。 まずは、常套手段…身を守るべく、エオルグンだ。 青い光がラルスの身体を包み込む。 ラルスの快感に耐える力、精神力が上昇する。 だが、そんな様子を見てフレデリカは薄く笑い、誘惑の歌を囀(さえず)る。 たちまち、ラルスの全神経が歌の魔力に支配され…恍惚となってしまう。 「あぁっ!?」 ルヴィッサが驚く間もなく、フレデリカはラルスの唇を塞いできた。 そして、彼の身体を愛撫し、服をはだけさせ…自らの胸を押し付けてくる。 「ちょ、ちょっと!ラルス!されるがままにしてちゃダメよ!反撃して!」 ルヴィッサの叫びは届かない。 歌の魔力はラルスの聴覚をも麻痺させ、フレデリカの言葉を除いて 何も耳には入っていなかった。 ごぼごぼと苦悶するローズニルの悲鳴も。 ルヴィッサの悲痛な叫びも。 ただ、フレデリカがぼそりと呟いた愛の言葉を除いては。 ラルスはぼぉっとした頭の片隅で、彼女を救わねば、と強く決意していた。 恍惚としながらもラルスは全身から、魔王の力が徐々に高まっていくのを感じていた。 その間もフレデリカはラルスの体中に水流と手による愛撫で 少しずつ快感を与え続けていた。 「どう…?気持ち、いいかしら…?」 控えめに、それでいて淫靡に。 フレデリカは悲しげで儚げな笑みを崩さず、ラルスに問いかけた。 だが、ラルスはただ頷くのみ。操り人形のごとく。 その様子に満足したフレデリカは、更に身体を強く絡みつかせてくる。 胸の形がぐにゃり、と変わるほどに強く押し付け… 服越しにラルスのペニスにきめ細かな指を絡め、擦り上げ始める。 その様子に我慢ならなくなったルヴィッサが、思わず叫ぶ。 「…ラルスッ!意識を取り戻して!このぉっ…マインイーサァッ!」 ルヴィッサの魔法により恍惚から解放されたラルスは、 フレデリカの抱擁をかわし、一定の距離を取る。 水流により、上手く動けない。 だが、充分だ。 これから来る攻撃には身構えられる。 フレデリカはラルスのそんな浅い考えを見抜いていたかのように 強烈な攻撃を仕掛けてきた。 「…おぼれくるえ」 フレデリカの操る水流がラルスの全身を愛撫する。 いや、もはやこれは愛撫などという生易しいものではない。 巧みにラルスの感じる部分を、水を使って刺激してくる。 決まったカタチのない水だからこそ出来る、非現実的な攻め。 服の間から入り込み、ぎゅるぎゅるとペニスを締め付ける水圧。 ラルスはその余りの快楽に、イきそうになってしまう。 「ラルスっ!!」 ルヴィッサが半ば悲鳴じみた声をかける。 大丈夫、とラルスは目で伝える。 懐から鎮静剤を取り出し、ぐい、と飲み干す。 彼女には…入れない。 だから、大丈夫。 ラルスは精力が下がるリスクをものともしなかった。 彼女はローズニルの恋人だ。 出来る事なら…汚さずに事を済ませたい。 そんな、ラルスの真摯な気持ちが現れた行動だった。 「ラルス…分かったわ!」 ラルスの意図に気づいたルヴィッサは、技巧を上げる魔法 「ラグズグン」と、魅力を上げる魔法「シギルグン」による支援をすることにした。 支援中にも何度も、水流を巻き起こしてくるフレデリカ。 だが、二度とその手は食わない。 おぼれくるえ、が来る前にラルスは身を固め、快感を最小限に抑えた。 「どうして…?どうして抗うの…?」 フレデリカは悲しげな瞳をさらに歪め、ラルスへの快感を与えながらも その疑問が頭を支配し始めていた。 そして… ポロン…ポロロロン… 今まで沈黙を続けていたローズニルの竪琴が、 水の中に悲しく響き渡った。 「!?…や、やめて…!」 今までローズニルの言葉には耳も貸さなかったフレデリカが、 初めて彼の行動に反応した。言葉ではなく、音楽が。 彼女の心を揺さぶる。 ポロン…ポロロロン… 「あぁっ…そんな…ローズニル…あなたの竪琴…私の歌… 誰に…届くの…?」 フレデリカの動きが止まる。 チャンスだ。 「ラルス!奥の手を使うわよ!」 ラルスは先ほどから身体に溢れそうになっていた魔王の力が ここへきて急激に強くなっていくのを感じていた。 そうか。ルヴィッサは、最近覚えたあの魔法を使う気だ。 ラルスは自らの身体に流れ込んでくる強烈な波動に耐えるべく、ギュッと身を引き締めた。 「フリスギルデ!」 ぎゅぅん! 尋常ならざる魔力が、ラルスの全身を纏う。 「よーし、いいわ!それで一気に仕留めちゃって! 時間ないんだから、愉しもうなんて思わないでね!」 分かってるよ。 ルヴィッサの軽い嫉妬に内心苦笑しながらも、 ラルスは元より愉しむつもりなど毛頭なかった。 動きを封じられていたフレデリカに、強くキスする。 そして、胸を揉みしだく。 ただそれだけの行為が… 魔王の力を上乗せされたラルスの攻めは、超絶な快感をフレデリカに与えた。 「んんっ、んぁああああっ!」 フレデリカは一瞬にして絶頂に達せられた。 「やった!」 「フレデリカ…!」 ルヴィッサの歓喜の声。 ローズニルのフレデリカを気遣う声。 それが、人魚と化したフレデリカの耳に届いた最後の言葉だった。 …一方。 「フレデリカ…!おお!フレデリカ!人魚となった彼女が、今…解放されたんだ!」 「…何を言っておるんじゃ?」 読書室でローズニルの奏でる曲を堪能していたアイゼクトは 突然演奏をやめ、突拍子もない事を言い出すローズニルに不審な目を向けた。 「あぁ、済まない。僕の空耳かもしれない。 でも…あぁ…フレデリカがようやく、救われたんだ。 僕の心も、これで救われた…」 「…大丈夫かの?」 「僕は正気だよ。心配しないでくれ」 「ならば良いが…まぁ、おぬしも所詮はわしの夢の住人じゃからの… 多少おかしなところには目を瞑るとしよう」 アイゼクトはそう言うと再びお気に入りの本を読み続けた。 「それより、演奏の続きはまだかの? おぬしの竪琴は見事なものじゃからの、本を読む傍らで 演奏を聞くのは、精神が落ち着いて良いわ」 「お褒めに預かり、光栄だね。 そのうち、きっと彼女もここへ来るよ… そうしたら、僕と彼女の協奏曲を」 「僕の演奏と彼女の美しい歌をお届けできるだろう」 「ほぉ?そいつは楽しみじゃの」 アイゼクトは頭のおかしくなったローズニルの戯言、と 適当に切り替えしていた。 だが、それが現実のものとなるとは、知る由もなかった。 ************************************************************************* ―――うたが、聴こえる。 深い深い、海の底。 悲しみと色欲ではなく… 喜びと愛に満ち満ちた、 ラブ・ソング。 - Fin -