Succubus Quest 短編 老司書の短い夢
Side Ayxect(Girl) and Lars and Elvin
- 剣と槍 -
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…目が覚めると、私は女になっていた。
何もかもが、分からない。
本来は男性であるはずの自分がなぜ女性の身体になっているのか、
何故こんなにも身体が火照っているのか。
何もかもが既に曖昧でおぼろげな記憶となり、消え入りそうになっている。
私は誰?
―――私の名前は、アイゼクト。
フルネームは、アイゼクト・ヴィルノイズ。
…ただ、それ以外の私自身についての記憶は
すっぽりと抜け落ちているかのように茫漠としており、虚ろだった。
―――何も思い出せない。
私の、かつて在ったはずの記憶はどこかに消え失せてしまっていた。
いや、これは記憶を失っているというよりは、むしろ
偽りの記憶を本来の記憶の上にべったりと貼り付けられたような…
あたかも、今まで歩んでいた人生を何者かによって
部分的に上書きされたような印象に近い。
そんな違和感を覚えつつも、私は
本来あるべき記憶をどうしても取り戻せなかった。
いつから私は女だったの?
いえ、私は最初から女だった?
そう錯覚してしまうほどに、混乱する私。
そんな私の目の前には…端正な顔立ちの赤い髪の青年が一人。
そしてもう一人、精悍な顔つきの金髪の青年が一人。
私はその二人を知っていた。
二人の名前も、性格も、喋り方も、癖や能力や弱点に至るまで。
なのに、何故だろう?
以前とはまるで違った印象を二人からは受けた。
曖昧な私の記憶を頼りにするならば、別人のように思える。
そう表現するのが最も妥当なところだった。
私の目から公平に見て…共に、とても男性として魅力的な…
それぞれタイプは違うけれど、抱かれたい、とさえ思わせる風貌。
今の私は浮かぶ疑問をどこかに置き去りにしていた。
目の前の男たちの姿に目が潤み、頬が赤く染まるのを自覚するばかりだった。
私の身体はただひたすらに男を求め、熱い肉欲が、激しい劣情が
自らの内側から溢れんばかりに滾っている。
私はそれをはっきりと、頭だけでなく全身で感じ取っていた。
先程から我慢していた感情はいよいよ爆発し、私はたまらず彼らの名前を呼ぶ。
「ラルスさん、エルヴィンさん、私…」
―――そこで私の自我は完全に崩壊し、自らの内に眠る淫らな何者かに
身を委ねてしまうのだった。
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アイゼクトは虚ろな双眸で二人の男の逞しい身体に見とれていた。
発する言葉もどこか虚ろで、まるで夢に溶け込むようにふわふわとしていた。
ラルスは困惑していた。
エルヴィンは不審に感じていた。
二人は、熱い瞳で自分たちを見つめるアイゼクトに異常なほどの違和感を覚え、
そしてその理由に一つの心当たりがある事に、同時に気づいた。
―――夢魔と交わった男性は、そのあまりに強い快感のため、
廃人となってしまうか、人間の女性と交わる事ができなくなる。
また、夢魔と交わった女性は…夢魔となる。
いつか王立図書館で読んだ文献、賢王マグナスから聞かされた話。
そして…オリビアの悪夢。
それら全ての事象が符号し、今この目の前の現実…いや、夢ではあるのだが…
目の前の事実に気味が悪いほど当てはまる事に。
「オイ、こりゃぁ…もしかして、嬢ちゃん」
エルヴィンの言葉に対し、ふるふると首を横に振るラルス。
オリビアがエストに犯され夢魔と成り果てた、あの忌まわしき記憶を
蘇らせているのだろうか。
認めたくない、と言わんばかりの悲痛な瞳を以って、
ラルスはエルヴィンの言葉を制した。
「…だよな。オレも同じ気持ちだぜ、ラルス」
エルヴィンも反吐が出る、と言いたげに吐き捨てた。
これが悪い夢であってくれれば。そう思うも非常な現実は迫ってくる。
艶かしく微笑いかけ、自分たちを誘惑するアイゼクトの姿に
エルヴィンは思わず顔をしかめた。
だが、ラルスは認めざるを得ない事実に、ある種の覚悟を決めた。
「………ラルス?お前、まさか嬢ちゃんを」
意を決したかのように、ラルスはアイゼクトに向き直り
真っ直ぐな瞳で彼女を見つめた。
その力強い瞳には、魔王の力…かつてルヴィッサがラルスに与えた
夢をも退ける深き闇を宿していた。
アイゼクトはそんなラルスの視線に嬉しそうに微笑み
きて、と呟いた。
ラルスはコクリと頷き、彼女の望むように…
愛して、斃す。
そう強く心に決めたのだった。
だが一方でエルヴィンは未だ逡巡していた。
当然だ。
純朴な少女…しかも普段は年上の自分たちを易々とあしらうほどの
理知的な彼女が、夢魔の力によってとはいえ、
かように卑しい姿を見せているのだから。
胸糞が悪くなるぜ、とエルヴィンは心の中でだけ呟く。
何故なら、誰よりも夢魔の侵食によって苦しんでいるのは、
他ならぬ彼女自身のはずだからだ。
そして軽く憤慨もしていた。
ラルスが、あまりにあっさりと。
あまりに簡単に、彼女と…身体を重ねる事を選んだ、その事実に。
勿論、それには理由があり、ラルスなりの悩みもあり、
苦しみがある事は分かっていた。
それでも、オリビアを一途に愛するエルヴィンにしてみれば…
その選択は、本当に最後の最後の、止むに止まれぬ手段だと、
そう思っていたからだ。
自分が今ラルスに協力し、彼女と交わろうとしないのも
全てはそこに起因していた。
エルヴィンは、あまりに生真面目な男なのだ。
ラルスを置いて他にいるとすれば、誰よりも強くオリビアを愛するが故に
彼女以外の女性に対して軽々しく身体を許す事など、あまりに耐え難い事実だった。
ましてそれが、ただの淫らな夢魔であるならまだしも…彼女のように
純朴で清楚な少女であるなら尚更の事だ。
たとえ夢魔になりつつあるとはいえ、彼女の純潔を
そのような形で奪う事は…極力避けたかった。
自分自身へのオリビアの想いのため。また、彼女の貞操を守るため。
エルヴィンは、彼女と交わる事を、頑なに拒んだ。
だが現実は無情にも、ラルスのみならずエルヴィンの身体をも犯そうとしていた。
アイゼクトはラルスと軽くキスを交わした後、すぐにエルヴィンのほうへ向き直り…
きわめて迅速に、そして有無を言わさず彼の唇を奪ったのだった。
「ぐむっ…!う、むっ…」
アイゼクトの激しい接吻。
ラルスのときとは違い、舌を絡みつかせるディープ・キスだ。
「ちゅっ、ちゅぷっ、ちゅぶっ…ちゅぶぅうっ、れろっ、れちゅうっ…」
淫猥な水音がエルヴィンの口内で響き渡る。
口から耳に抜けるように、唾液の絡み合う音がエルヴィンの聴覚を刺激し、
彼の理性を粉々に破壊していく。
エルヴィンは何故か身体に力が入らず、彼女のいいように弄ばれる自分を
口惜しく思いながらも、その甘い口漬けに恍惚となってしまうのだった。
「うっ…く…」
エルヴィンは年下の、それも普段は決してこのような淫らな真似を
するはずのない少女に翻弄される自分に激しい羞恥を覚えていた。
流石のラルスもそれには驚いたようで、思わずアイゼクトの攻めに対して身構えた。
だがアイゼクトはラルスに対してはまるで攻めてこようとせず、
むしろ自分が攻められるのを待ち望むかのようにくすくすと笑いながら
ラルスを焦らすのだった。
ラルスは戸惑いの表情をエルヴィンに向けた。
自分から攻めあぐねた彼は、親友の助けを借りる事でこの膠着状態を
何とか打開したいと考えたようだ。しかしエルヴィンは
アイゼクトの攻めにより全身の力を抜かれて茫然自失としていた。
ラルスが動けずにいると、アイゼクトはラルスのほうを見ながら、
再びエルヴィンに迫るのだった。まるで、ラルスに対して見せ付けるように。
エルヴィンは一切の抵抗を許されず、ただラルスに対しての
誘惑の道具と化していた。アイゼクトは出来る限りゆっくりと、
ラルスからよく見えるように意識しながら…いや、無意識なのかも知れないが、
エルヴィンの服をはだけさせていくのだった。
エルヴィンの、鍛え抜かれた肉体が露になる。ラルスよりも一回り大きく
分厚い胸板と引き締まった筋肉が、その力強さを物語っていた。
アイゼクトは彼の身体に思わずほぅ…と溜め息を漏らした。
そして一言、ぼそりと呟く。
「素敵なカラダね…♥」
エルヴィンは自分が褒められている事を自覚しながら、激しい嫌悪感を募らせていた。
しかし、自分の意志とは裏腹に身体はまるで言う事を聞いてくれない。
これが…夢魔となった少女の魔力だというのか。
かつて自分がエストの配下のサキュバスに襲われた時の事がフラッシュバックする。
(ちっ、ちくしょう…また俺は…何もできねえのか…!?)
精神を全力で抵抗へ向け、アイゼクトの優しい愛撫による快感に耐えるエルヴィン。
かろうじて、イかされる事だけは避けたかった。様々な理由から。
「ふふふ…エルヴィンさん、気持ちいいかしら…?」
アイゼクトは見透かしたようにエルヴィンの耳元で甘い言葉を囁く。
エルヴィンの身体が弛緩し、言う事を聞かなくなって来る。
自らの意思に反して、エルヴィンはアイゼクトの攻めに
身を任せそうになってしまっていた。
そこに、ラルスが助けに加わった。
流石にこのまま傍観していても埒があかない。
そう判断し、自ら攻めに回る事にしたのだ。
ラルスは目でエルヴィンに伝える。
自分が彼女の気をそらす、その隙に恍惚から自分を取り戻せ。
二人がかりで、一気に彼女を…いや、夢魔を片付ける!
ラルスの視線にエルヴィンは気づく。
わかったぜ、とエルヴィンもまた虚ろな目を可能な限り動かし、ラルスに伝えた。
幾多の戦場で培われた二人の絆は、ここでも正常に機能していた。
ラルスはエルヴィンを攻め続けるアイゼクトに対して、
自ら服をはだけはじめた。その身体は華奢なようで
しっかりとしており…とても、人間のそれとは思えぬ魅力が満ち溢れていた。
アイゼクトはぴくりと反応する。そしてうっすらと笑った。
「ふふっ、自分から脱いでくれるなんて…
そんなに私と、したいの?」
ラルスはアイゼクトの反応に、自らの企みの成功を見た。
これでエルヴィンは解放される。
自分に意識が集中している間に、背後から彼女を抑えこんで貰えばいい。
そして、自分が一気に絶頂に達せられれば…!
だが、ラルスの読みは甘かった。
アイゼクトは怪しく微笑い、ただ一言呟いた。
「…時よ、止まれ」
瞬間、全てのものが凍りついた。
ラルスもエルヴィンも、読書室にいるメルヤをはじめとした
全ての時間が完全に停止した。
だが感覚だけは妙に冴えており、快感から抗う術だけを奪われたような
…そんな奇妙な状態だった。
「うふふっ、面白いでしょ、この能力