《1・2月》
「保険で奥歯に白い歯が入れられる・・・NHKの報道番組で“エライ先生”が話していた」と何人かの患者さんが聞い
てきました。その番組は見ていないのですが、2年に一度の改定期の4月以外に新規項目が導入されることは希な ので不審に思い調べてみました。保険治療に関しては、通常は歯科医師会から詳細が知らされるのですがそれもあ りません。
日本歯科医師会の広報(新聞)に僅かに記載されていたのは「グラスファイバー補強高強度コンポジットレジンブリ
ッジが先進医療として承認された。」というものでした。地区の歯科医師会にも都歯からの通達があった旨担当理事 に確認しましたが、「実施機関は施設基準の整った大学病院等になる。」と更に細かい項目がありました。一般開業 医には関係ないと地区の会員には通知をしていませんでした。
通達ですからお役所言葉で理解に苦しむのですが、平たく言えば「プラスチックで奥歯の1歯欠損のブリッジ(単冠
=1本だけの歯は適用外)を先進医療として保険適用とする。但し専門医がいていくつかの基準を満たす(大学病院 など)に限り実施出来る。」と解釈出来ます。
詳細はこれから知らされるのでしょうが、現場の診療を担う一般開業歯科医が何も知らないうちに、TVの番組であ
たかも福音のように報道されるのは怪訝に思われます。そして内容が分からないのですが、画期的な高性能の“レ ジン”が開発された話題はありません。憶測に上がっているのは“ポリカーボネート樹脂”ですが、これは日常的に 「暫間被覆冠(仮歯)」「乳歯冠」として一般臨床で使われていて特別のものではありません。そうでなく材料が新開 発の物としても、大学の専門医が技工(冠を作る作業)をする訳はなく技工士さんの仕事となるでしょう。専門医の必 要性は感じません。
いずれにしても臨床を担う現場にまだ何も知らされても分かってもいない内に、一般の患者さんに不確定の情報を
公表した真意が分かりません。実際の診療の概要は分かり次第このHPで解説いたします。
《3月》
「歯を削らずに虫歯の治療が出来る画期的な治療法がOO国より伝来した」と例によってTVでとある歯科医が症例
を見せながら解説していました。「ある薬品を用いて健全な部分を除いて虫歯のみを軟化(柔らかくして)掻き出す」 のがその手法です・・・と。
確かに福音なのですが、この手技や薬品はすでに十年以上前から臨床で使われています。おそらく虫歯を軟化す
る薬品に改良が加えられ、より効率的に・確実になったのでしょうか?実際の治療では場合によりその手技を使って いる歯科医は多くいますが、全てをその方法で済ませる程は普及はしていません。その方法だけでは最終的な詰め 物はコンポジットレジン(プラスティックの部類)しか使えないのです。すなわち限界があり応用範囲が狭いのです。
虫歯が大きかったり中で横に広がっていて入り口が狭くうまく掻きだせない場合、形を整えるためにはエンジンで
削らざるを得ないのです。「削らない治療」が誇大宣伝になってしまいます。
問題なのは画期的な手法があたかも新開発であり、自身はその先駆者だと喧伝し、マスコミも大々的に取り上げ
る其処にあります。今頃その歯科医院にはTVを見た患者さん達が押しかけているでしょう。画期的で先進的で最良 なら、何処の診療所にも急速に取り入れられている・・・はずなのです。
《4月》
TV放送は何でもありの様相を呈しています。4月1日、何気なく見ていると美容整形について実録をレポートしてい
ました。二重瞼、鼻の形を整える、豊胸術、皺伸ばし、このあたりまでは今までも普通に行われ、いわゆる“普通の 人”でも施術を受けていました。
今回は身長を伸ばしたり小顔に仕立てたりの手術まで踏み込んでいました。これらは“骨”を削ったり切ったりのい
わば荒療治が必要なのです。シリコンを入れるなど軟らかい肉の部分の作業はミスが出れば簡単ではないでしょう が取り出してほぼ元へ戻せます。
骨に手を付ける(削る・切り取る)となれば原状回復は困難になります。ミスがなければ問題は無いのですが、骨の
内部には太い血管や神経繊維が走っていることも多いのですから、難度も高くかなりリスクが大きいのです。そこま での必要が???
心のケアから考えるとして、心療内科のドクターが患者さんの心理状態の解析をしていましたが、欲望の限界は底
知れないようでした。
歯科の方面でも「外科歯列矯正」として顎骨の切断による短縮やズラシなど頻繁に行われるようになっています。
咬合異常で将来の“噛む”行為に問題が生じるなら必要でしょうが、単なる美容上では、今ひとつ問題があるように 思います。精神衛生上と術後のリスクとの“兼ね合い”でしょうけれど。
《5・6月》
当診療所の患者さんは渋谷時代の方はもちろん一緒に年をとってきたので高齢者が多いのです。高井戸に来て
からも土地柄なのか高齢者の新患の方が多くなっています。従って義歯(入れ歯)の方が多いのです。
義歯の扱いには考え方が二通りあります。@「寝るときは外して、粘膜を休める」A「歯磨きするとき以外は入れた
ままにして、かみ合わせの位置の保持と残存歯(残っている歯)の負担を和らげる。」
いずれも間違いではないのですが、当院ではAの方法を採っています。外して寝ると入れたときに違和感を感じ、
入れるのが嫌になることもあります。又、阪神淡路大震災などアクシデントに遭い、外して休んでいた方が放置して 逃げたため、後々新製するまで不便だった事実があったのです。
特に震災などではインフラの乱れや歯科医院の被災で診療が出来なくなったのです。長年使い込むと入れていな
いと食事も満足に出来なくなります。体の一部と成って初めて義歯が最上の役割を果たします。
《7・8月》
久し振りに渋谷区歯科医師会が運営する「障害者歯科診療所・ひがし健康プラザ」の担当に参加しました。3ヶ月
間隔週土曜日の午前中だけなので、自院の診療には最小限の影響ですが、患者さんには多少の迷惑をかけてしま います。
都歯が運営する飯田橋のセンターから指導医が開設当時は午後のみだったのが現在は全日派遣されているの
で、扱いきれない患者さんはお願いできるので今回は午前の担当を引き受けました。開業医でも若い先生方は自医 院の運営に手がかかり、ボランティアにも限度があります。その点子育ての終わった世代には時間的な余裕は作れ ます。
しかし、精神障害を伴う患者さんの中には、理解力不足から強制的な診療も必要な時があります。体動を防ぐため
に押さえ込む必要もあります。基本的には抑制具は使わず、体を使って抑制を感じてもらうためです。この作業には 高齢の上経験不足の歯科医はやや力不足(体力と経験両方ですが)は否めません。
開設当初は毎年担当していましたが、診療所の移転に伴い時間距離の関係でしばらく間が開いて、今回復帰しま
した。開設当初は待ちかねていた患者さんが多く、歯科診療への導入(診療台へ乗る理解と習慣付け)など診療以 前の課題でした。今回参加して感じたのは、定期管理の患者さんが多くとりあえずの診療体制へは誘導できている ことでした。例外はありますが、診療もスムースとは行かないまでも“可能”の域でした。
「患者さんの診療への協力の習慣付け」が出来たら最寄りのかかりつけ歯科医での診療へ移行」の願いは、まだ
まだ遠いようです。
《9・10月》
急に寒くなりました。暑い夏が長く続き早く涼しくなれば・・・と望んでいたらいきなり冬の到来のような寒さが訪れま
した。秋はあったのでしょうか?
冬が近づき水が冷たくなると、「冷たいもので歯がしみる」と来院される方が増えます。原因は虫歯もありますが、
それ以外にもあるのです。代表的なのは加齢や歯周病によって歯肉や歯槽骨が短縮して歯根が露出してしみる、歯 の頸(歯根と歯冠の境目)を削ってしまって起こる楔状欠損(きつじょうけっそん・くさびじょうけっそん)が有ります。
歯根の露出は知覚過敏処置と言ってある種の薬を塗ったり貼ったりして鈍麻します。日常的には知覚過敏を改善
する歯磨き剤(シュミテクトなど)の使用である程度改善されます。
やっかいなのは「楔状欠損」です。歯磨きの仕方を改良しないと楔は更に深くなります。とりあえずは縊れを埋めて
歯磨き方法を改善することが肝心です。本やwebでも参考にはなりますが、歯磨きの仕方は千差万別、握力やリスト (手首の返し)など人によって方法を変える必要があります。主治医と相談し指導を受けるのがベストです。
《11・12月》
最近治療の中断や主訴(痛かったり歯が欠けたりの診療に訪れた原因)の治療のみで終了(他に明らかに治療の
必要な部位があっても)する患者さんがかなりの頻度であります。
単に治療が嫌いであったり、仕事が忙しく時間が取れないなどが多いのですが、経済的な理由・支払いのお金が
工面出来ない方もかなり多くを占めています。健康保険の治療であっても歯内療法(抜髄:いわゆる神経を取るや感 染根管治療:内部が化膿した場合のお掃除)が加わり、最終冠を被せるとなると数千円、前歯では万円を超えます。 それが複数・多数有れば財布に響くのです。
診療費・点数はこの10年間で数%(コンマ以下かもしれません)しか値上げはなかったのです。それでも週末処置
(入れ歯や被せ物、差し歯の類い)が値上がりしているのは、使用している金属が銀主体であっても貴金属で、金や パラジュームなども含まれていて、相場により日に日に高騰しているのです。
初期治療で簡単に済めば、又少数であれば負担は少なくて済みます。その意味でも日頃の管理と初期治療が必
要なのです。
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