今月のひとこと バックナンバー【平成21年】

平成21年
 《1・2月》
 15日は小正月、やっと正月気分が取れる頃です。正月休みに障害の出ていた患者さんが駆け込んでいたのも一
段落、しばらく新規の患者さんの少ない時期になります。当院は高齢の患者さんが多いので、寒さがゆるむまでは
再来の方も少なくなります。
 1月3日、休日診療の当番で、渋谷区ひがし健康プラザにいました。常勤の衛生士さん曰く、例年になく急患が多
く、日に20人以上来院の日もあり、輪番で開いているもう一カ所は更に多くの患者さんに対応していたそうです。急
患は、通常の患者さんより手当に時間が掛かる場合が多いのです。 
 3日午前中は8名程でしたが、ただ単に歯が冷水にしみる、3ヶ月前に入れた仮歯が外れた等緊急性の少ないも
の、治療を中断して放置していたため痛みや腫れが出たなど自己責任によるものが多く、急に親知らずが腫れたな
ど不可避のものは僅かだと思われます。
 患者さんにとっては原因はともあれ、苦痛があるのですから責められませんが、タクシー代わりに救急車を呼ぶ現
実がある限り、何らかの規制がなければ、本当の救急を見逃すことになりかねません。

 《3月》
 いびき防止スプリントに問題が出ました。
 普段でもいびきに悩みスプリントを装着している方が、花粉症の季節には鼻づまりで口呼吸になり、苦しくて呼吸出
来なくなるのです。やむを得ずはずすと、普段以上にいびきが激しくなります。
 解決策を考えてみましたが、上下の顎を固定せず、下顎のみにスプリントを取り付け特定の傾斜を付けることにより
下顎を前方に出し、効果を出す案を取引先の技工所さんが出してきました。
 いびき予防は下顎を前方に引き出し、舌の陥没を防ぐ装置ですから、固定せずに効果が出れば呼吸も楽になり朗
報です。結果が出るまで多少時間が掛かりそうですが、試してみる価値はありそうです。

 《4・5月》
 新年度が始まると保険者からの問い合わせがやや多くなります。「当該患者さんの診療日を知りたい」が内容で
す。資格喪失後の受診日の問い合わせです。
 退職・転職・移転などにより資格喪失している場合、受診資格も喪失しています。国民皆保険ですから、資格は保
険者が変わっても継続しているはずですが、次の職場が決まらなかったり、移転後の手続きが送れたり事情は色々
でしょうが、資格に空白が生じてしまうのです。
 各保険者も、赤字続きで支払いが厳しいのでかってのような余裕はなく、資格喪失後の支払いは、医療側に次の
保険者に請求するよう要請してきます。責任は保険者にあるので保険者側での処理を要求しますが、結果本人に請
求したり、対応を厳しくしているようです。
 医療者側としては、事務的なことには関わりたくはないので、保険者間の処理をお願いしていますが制度上それは
出来ないようです。被保険者に意図的な不正使用がない限り、保険者間で円満に処理出来る制度が必要と思われ
ます。

 《6月》
  昭和43年(1968)に渋谷に初めての歯科医院を開いて、40年を越えました。診療台1台からスタートして、色々な
事情から移転を繰り返し、5年前ビルの解体により渋谷の同じ地区での開設が困難になり、杉並の高井戸に新天地
を求めました。渋谷時代の患者さんにも、電車を乗り継いで来院して頂いており恐縮しています。
 この40年、日本は戦争もなく繁栄を極めて平穏な時代でした。経済的にも余裕のある時代、ある程度満足のいく診
療が出来ていました。そのおかげで、かっての診療は20年・30年と持ちこたえていられました。ところがバブルがは
じけた後、やっと経済が回復基調になってきた時、サブプライム問題で世界同時不況の有様です。患者さん個々の
事情に依って、保険診療中心にならざるを得ません。
 失業や正規雇用の減少で一部の富裕層を除いては、歯科保険治療の一部負担金ですら重荷になっている現実が
あります。だからといって現場での対応は、手抜きやレベルの低下は許されません。出来る範囲内で、より結果が安
定する診療が出来るよう模索しています。
 最近診療の中断が増えています。仕事優先で受診の時間が取れない、収入が不安定で費用負担に耐えられな
い、老齢による外出困難、単に歯科治療がいやだ、等理由は色々ですが、社会情勢に影響されているのは事実と
思われます。歯科疾患に自然治癒はありません。中断すれば更に悪化します。ご本人の意識と努力に頼るのみな
のです。

《7月》 
 時代の流れでしょうか、歯(口の中)に対する関心が深まってきたことは、専門職として携わっている身には良い傾
向と思っています。ホワイトニングまでは望まないまでも、歯の汚れを気にする方が増えて、「たばこの脂取り」として
来院する患者さんが時々います。
 もちろん美容のためのスケーリングは健康保険の対象となりませんが、脂(やに)や歯石が付いていれば歯肉の腫
れ=歯肉炎があるのは当然ですから、診断名が付いて保険治療の対象になります。しかし保険診療となれば「療養
担当規則」に乗っ取って基本的な検査から始め、診療方針を立て、最適な治療手順を採ることになります。
 「時間がないから1回で終わらせてくれ」と言われた時がありましたが、美容的な保険外の「PMTC」(Professional
Mechanical Tooth Cleaning:専門家による歯の清掃《意訳》)なら無理も利きますが、保険では診療行為ですから当
然疾病が存在しルール通りにしなければなりません。簡便法は存在しないのです。
 その時は「早く言ってくれれば来なかった」と口腔診査もせずに帰られましたが、遠目でも汚れが分かるくらいでし
たから、専門家の意見を謙虚に聞いて欲しかった事例です。

 《8月》
 歯を無くせば「歯牙欠損症」という病気です。病気は治さなければなりません。無くした歯を補うのは「義歯」「ブリッ
ジ」「インプラント」が主な方法となります。(それぞれの特徴はこちらに記載
 インプラントがもっとも自然な自分の歯に近い状態となりますが、手術が必要で、いくつかの条件もあります。現在
では施術して(本体を骨に埋め込んで)から実際に使用出来るまで、6ヶ月近く時間を置かなければなりません。普
及が遅れているのは、高額な費用がかかることです。
 ブリッジは、自分の歯と同じように使用出来ますが、両隣の歯を削らなければなりません。又、残っている歯が多く
なければならないという制限もあります。
 義歯(入れ歯)は殆ど全ての場合に可能な応用範囲の広い方法です。欠点は、邪魔に感じたり、不必要に外れる
ことです。それでも方法や材料を工夫することで、ある程度ですが克服することが出来ます。最近では、金属のバネ
を使用せずに外観を保ったり、不用意に脱落したりしない工夫もされています。もっとも、快適さを求めると健康保険
の範囲を越えて自費負担となりますが、3つの方法の内では殆どの場合に可能で応用も利ききめす。費用も他の方
法に比べ、最小となります。
 希望を纏めて、納得のいくまで主治医と相談すると、道は開かれます。

《9月》
  総選挙が終わり初めての政権交代となり、国民の期待を集めています。4年前の小泉改革によりもっとも影響を
受けたのは、福祉と医療の分野でした。毎年20%もの費用削減が実行に移されました。「無駄を省く」もっともな言い
分ですが、元来医療も福祉も無駄な部分です。
 「無駄」というといかにも語弊がありますが、人は好んで病気になる訳でも、年老いる訳でもありません。望むのは
速やかな病気からの回復と、快適な老後です。そのため、働ける内は一生懸命働き、高くても税金や保険料(健康・
介護)を払い続けるのです。
 治療や介護の技術が高度化すれば経費も増大しますが、速やかで完全な医療や福祉を提供することによって、社
会復帰し生産に寄与出来、経済社会に貢献出来るのです。
 昔から、「損して得取れ」のことわざ通り、拙速な方策は後に悔いを残すのです。働いて税金を払いながらも低賃金
にあえぎ、生活で手一杯で保険料の滞納があると容赦なく保険証を取り上げられてしまう現状、生活保護ですら医
療は保証されているのに、です。
 フリーターや派遣の若い患者さんが最終段階で未来院になりやすいのは、歯科の週末処置(冠や義歯)は保険と
いえどもかなり値段が高くなるので、躊躇してしまうためと思われます。病気の治療や老後の生活が安心出来る社
会が期待されます。

《10月》
  弾力性のある材料を使用したバネのない入れ歯(金属が見えないので外観が自然になります)、インプラントとア
タッチメント(歯のない顎の骨に埋め込んだ人工歯根に付けたホックの様なもの)を利用した落ちない総入れ歯等、材
料や手技の進歩により義歯(入れ歯)にも急激な進歩が起こっています。
 入れ歯は噛めない、落ちる、煩わしいなどの苦情に満ちていましたが、少しづつですが改善されてきています。もち
ろん人工の異物が、人の身体の中でも特に敏感な感覚のある口の中に入るのですから、ある程度の忍耐と慣れは
必要なことには変わりはありませんが、まだまだ改良されて、身体の一部の様になるのも時間の問題で、朗報は寝
て待ての状況です。
 しかし、保険制度は未だに経済優先で、新技術は対象外=自費診療となっています。新技術は手間と材料費に費
用がかかり、赤字続きの保険には採用できないのです。もっとも、高額所得者のみが優遇を受ける制度には、医療
や福祉はそぐわないのですが・・・。
 現状では出来るだけ虫歯を作らない、歯槽膿漏を防ぐ、歯を無くさない等自己防衛するしかないのです。それには
予防の為の歯磨きと、定期検診を受けて病気は軽い内に治療!が必要なのです。

 《11月》
 時々他の歯科医院のホームページを見ることにしています。一国一城の主然としているとお山の大将になりかねな
いので、実際の歯科会の流れを見るのには、学会雑誌などより実践に役立つ内容が多いのです。サイトの多くは誘
客のための宣伝なのですが、中には真剣に患者さんに歯科に関する情報を提供し、啓発に努めているサイトもありま
す。
 最近見つけたサイトは、インプラント治療1本15万円、上部構造物の金冠5万円を入れてトータルで20万円とし、安
値の理由と原価計算が報告してあり、これでも利益が上がると論旨を展開していました。現在の実勢価格としては、
30〜40万円ですから安価な部類です。
 更に医院の決算書を掲示して、健全経営を主張していました。桁を数えて驚いたのですが、年間売り上げが(保険
外診療分)2億円の桁だったのです。それだけ安価であっても健全な利益が出て、かつ年間の施術数・経験の多さを
主張したかったのでしょう。(利益が多すぎると思えますが)
 インプラントを希望される大多数の患者さんは、義歯以外に代わるものがない時なのです。当然多数歯となる場合
が多いのです。例えば20万円×4本=80万円、この金額をすんなり払える患者さんは、そんなに多くはありません。
義歯なら歯数は価格にはほんの僅かしか影響がなく、保険治療で多くて1万円強、使い勝手が良くてお勧めの保険
外の鋳造床でも、歯数関係なく30万円以内に収まります。
 保険料が払えなくて無保険が問題になっている時、1本20万円ならお手頃価格とは、やはり医療側のおごりと受け
止められかねないのです。

《12月》
 一昔前、12月は歯科医にとっては殺人的な忙しさでした。お正月を綺麗に過ごしたい、美味しくおせち料理を食べ
たい、など一年の区切りとして年内納めの治療を希望される方が多かったのです。
 時代は変わり、正月明けの落ち着いた時期、正月目一杯使ったお小遣いが余ったら歯の治療を受けようなど、理
由はまちまちですが、普段の月替わりと同じように特に師走は気にかけないようです。歯科医院にとっても無理に急
ぐ治療をしなくて済み、平常通りの計画で進められるので、願ってもないことなのです。
 しかし、今年の正月(平成21年1月3日)会の当番で休日診療を担当した時、かなりの数の患者さんが来院されま
したが、親知らずが急に腫れたなど本来の急患は少なく、治療中断による虫歯が痛い・腫れたなどが多かったので
す。それも年末休暇の直前でなく、かなり前から中断していた模様なのでした。おそらく、年末の慌ただしさから医院
に行きそびれたのでしょう。
  多くの歯科医院は正月1週間程休みます。治療途中の患者さんは、その間支障ない程度に食べられるよう通常
より強固な仮詰めをすることが多いのです。休暇直前に、主治医を訪れ相談することが肝要です。 

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