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法話集

悲しみは悲しみ抜いてこそ「生きる力」となる

 
先月の法話で、人には多くのご先祖様が存在しており、僅か二十七代さかのぼっただけで現在の日本の人口を超える1億3421万7728人のご先祖様が全ての人に等しく存在すると述べました。こうしたご先祖様の中には、当然のことながら生前から徳を積み、没後も修行に励んで仏への道を歩んでおられるご先祖様もいれば、決してそうではないご先祖様もいると考えられます。 盆行事の由来として、お釈迦様の十大弟子のひとり目連尊者が、飢餓道に堕ちて飢えと渇きに苦しんでいた母親を布施行によって救ったという話(参照)もあるくらいですから、 ご先祖様の中には、ご本人が気付かないうちに生前何らかの戒めを守りきれずに、厳しい修行を求められている方がいると考えるのが自然といえます。
問題は、なぜ厳しい修行をしなければならなくなったのか、亡くなったご本人も、その子孫として現世に生きる私たちも気付かないというケースです。因果という言葉があるように、戒めを守ることができなかったという原因があって、厳しい修行という結果があるわけですが、その原因が分からなければ仏への道を進むことができません。その結果、いつまでも成仏できないという原因を残したままとなり、これが過去世やご先祖様からの因縁として、現世に生きる私たちに超えるべき課題を様々な形で提示しているといわれます。超えるべき課題とは、いうまでもなくご先祖様が成仏できるように、ご先祖様と共に行う善行・修行であり、回向です。仏教では、ここに今世の意味を見出し、私達が、修行によって因縁を切る努力・行為こそが解脱への道に他ならないとしています。
現世に生きる私たちは、時として大きな悲しみに遭遇します。宗教的な観点からいえば、無常の真理を理解し、これを超えてこそ解脱があるということになります。しかし、こうした悲しみも、過去世やご先祖様からの因縁として提示される課題として捉えるなら、とことん悲しみ抜くことをせずして本当に超えたといえるでしょうか。 この点について、弘法大師の悲しみに対する処し方が分かる著書として 『亡弟子智泉が為の達しん文』があります。 ここに出てくる智泉とは、弘法大師の十大弟子のひとり智泉大徳のことで、母が弘法大師の実姉ですから甥にあたります。 早くから弟子として活動していた智泉大徳は、法を受け継ぐ者として期待され、京都の密教の拠点にしていた高雄山寺の三綱の一人としても活躍され、高野山の開創事業に当たっておられましたが、 37歳という若さで高野山にて入滅されてしまいます。時に弘法大師は52歳でした。先の著書は弘法大師が、少年の頃から24年間影の如く随って離れなかった愛弟子の死に際して、その死を悼み供養する文として書き記されたものです。
その中で弘法大師は、まず、文頭において人の死はいかに無常であること、この仏の説いた無常の真理を理解しないで迷い苦しむことは、愚かさであることを繰り返し、言葉を替えて説いておられます。しかし、その人自身のことを語る段になると、「哀れなるかな、哀れなるかな、哀れが中の哀れなり。悲しいかな、悲しみが中の悲しみなり」と、悲痛なまでにその悲しみを他に憚ることなく吐露しています。智泉大徳が密教の極意を得ていたこと、仏の言葉をよく知っていたこと、他人の過失をいわなかったことを取り上げ、その優れた人格を、聖人孔子の最愛の弟子であった顔淵に比較して、怒りを移さず、過ちを再びしなかったのは顔淵だけでなく、智泉もまた同様であったと述べています。そしてさらに、述壊に続けて「覚りの朝に夢虎なく、悟りの日には幻象なしと云う雖も、然れどもなお夢夜の別れ不覚の涙に忍びず・・・・・悲しいかな、悲しいかな、重ねて悲しいかな」と強い悲しみを再び吐露され、愛弟子智泉の死もまた夢の夜の仮初めの別れであり、それに涙するのは覚らない者のすることと分かっていても、やはり私には涙が流れて留めようもないと嘆かれたです。
弘法大師でさえも本当の悲しみに際し、己を抑えることをせずに吐露されているのです。悲しみは、悲しみ抜いてこそ、初めて生きることの力を己れに蓄えることが出来ます。生死の定めの中でこそ、過去世・現世・来世を貫く菩薩の魂が輝きを増すのです。悲しんで、悲しんで、悲しみ抜いて、その上でやがて自らの心を思いっきり切り替えることです。それでこそ悲しみが力になるのです。
                                                          合 掌

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