今日は大学の生協でお祭りがある日だ。 と言っても山車や神輿が出るわけではなく、テントを張った下でうまいのかまずいのかよく分からない お好み焼きや焼きそばを売り、大安売りと称して在庫処分に困った品物を通常の半値で売っているだけだが。 ちなみに僕はそういった怪しげな行事が大好きで、別に何を買うわけでもないのに ふらふらとテントの周りを行ったり来たりして品物を物色していた。 ふと日常品が山積みになったワゴンに目をやると、「静電気除去用幸福のキーホールダー」なる 怪しげな品物が目に飛び込んできた。静電気を除去するのか幸せを運んでくるのか、 どっちなのかはっきりして欲しいところである。裏面を見ると定価は980円。 しかし値札には98円と書いてある。90%オフである。缶コーヒーよりも安い。 よっぽど売れなかったのか、まあ何にしても話の種にはなるかな、 そう思い僕はそいつを手にとりレジに向かった。 不意にレジの前に見慣れた顔があった。福田恵理子、僕が入っていたサークルの同期のやつで、 気さくな性格と典型的なボケキャラで誰からも好かれていた女性である。 あまり公言はしていなかったが一時期僕は彼女に好意を抱いてことがあった。 しかし彼女は、僕の頭の中のイメージの、皆で酒飲んでバカやっているころのそれとくらべて 明らかに大人びた雰囲気があった。当たり前と言えば当たり前である。 もうあれから4年も経っているのだ。しかし今でも付き合いのある同期の友人と比べ、 まるで2つも3つも年上になってしまったような、そんな雰囲気さえあった。 恋をすると女性の雰囲気が変わる。と言うのを僕は経験則上知っており、 そしてほぼ百発百中でそれを当てることが出来る、と言うどうでもいい特技を僕は持っていた。 もしかしてこいつも今誰かと幸せに過ごしているのかな、 そんなことを考え、そしてすぐにそんな変な詮索をした自分を責めた。 どちらにしよ人間はこうやって落ち着いていくのかな、僕はそんなことを思いながら彼女に話し掛けた。 「ようエリ、ひさしぶり。」 「あ、松本君。久しぶり〜」相変わらずの何も考えてないような口調で彼女は返事をした。 前言撤回。やっぱりこいつは何も変わっちゃないや、妙な安心感を僕は覚えた。 「なあエリ、就職活動どうだったん?」 「あ、決まったよ。朋友製薬、てところ。」 朋友製薬、聞いたことがない。その前に製薬会社などロート製薬と大正製薬くらいしか 僕は知らない。そんなことを僕は言ってみると、彼女は笑いながらこう答えてきた。 「うーんとねー。あまり有名じゃないけれど、外資系の企業なの。」 「外資系かぁ。よくわかんないけど、お給料とかよさげだからいいんじゃない?」 おざなりと言えばおざなりな、しかし就職活動をしていない僕にとっては これくらいの知識しかないためそんな感じのことを言ってみた。 「うーん・・・。」彼女は笑いながらそうつぶやいた。 もしかしたら本命のところじゃなかったかもしれない。余計なこと聞いちまったかな。 僕はそう思った。 その後は相変わらず壊れた生活を送っている僕の近況とか世間話とか、 そんなことを話して彼女と別れた。手には例の怪しげなキーホルダーがぶら下がっていた。 早速そいつを車のキーにくっつけ、特に用事もないのでそのまま家路へとついた。 帰りぎわ、ふと、今年でみんな卒業なんだな、と言うことを思い出した。 僕は2回ダブっているので考えたこともなかったけれど、今年でサークル関連の友人とは お別れである。そう考えるとふと悲しくなってきた。今まで卒業式ですら泣いたこともなかったのに。 この大学でいろいろなことがあったからなぁ、柄にもなくセンチメンタルな気分の自分に苦笑して、 僕はカーラジオのボリュームをめいっぱいに大きくしてみた。ラジオからは、 似たような心境の人がリクエストしたのだろうか、「星になれたら」が流れていた。
さようなら会えなくなるけど さみしくなんかないよ
そのうちきっと大きな声で 笑える日が来るから 動き出した僕の夢 高い山越えて 星になれたらいいな
−;Mr.Children「星になれたら」−
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