「シーラカンスを見に行きたくなりました。」


僕の机の上には、この書置きだけが残っている。
そして手元にあるのは、わずかなお金と、潜水艦。

現実逃避といって嘲笑する人もいるであろう。
自分探しだなんて陳腐な理由をつけたがる人もいるであろう。

でも、本当に僕はただ、心の底からシーラカンスを見たかっただけなのだ。
もしかするとそいつに何かの答えを求めているのかもしれないが。


ん?何かの答えだと?何の答えだよ?

人生?

恋愛?

文明?

わからない。でも何となく、何かがありそうな気がしたから。
もしかすると、イチロー見たさにアメリカへと渡る、 にわか野球ファンの心境にも似てるかも知れない。 そこに人生訓などないとは知らずに。


でも、僕は、シーラカンスに会いたいんだ。


ミシッミシッと言う頼りない音を立てて、潜水艦は静かに海の底へと潜っていく。 「こいつは本来なら博物館行きの、年代もんのシロモノだ。間違っても海の中に潜るだなんて 酔狂な考えは起こすな。」この潜水艦を売ってくれた、横浜に住んでいる潜水艦マニア とか言う人の話をふと思い出した。


でも、それは、僕にとってどうでもいい事だったりする。


時間だけが刻々と流れていく。沈黙が辺りを支配する。
やがて、光一つない真っ暗な世界へとたどり着いた。


そして、そこで、僕は、あいつと、出会った。


ある人は言う   君は滅びたのだと
ある人は言う   根拠もなく生きてると
とは言え君がこの現代に渦巻く
メガやビットの海を泳いでたとしてもだ
それがなんだって言うのか?
何の意味も何の価値もないさ

シーラカンス   君はまだ深い海の底で静かに生きてるの?
シーラカンス   君はまだ七色に光る海を渡る夢見るの?

−Mr.Children「シーラカンス」−






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