「ふざけないでよ!!!」スターバックス中に響き渡る声でマリは怒鳴った。
携帯電話片手に新聞を読んでいた人、 コーヒーを飲みながら友達とだべっていた人、 注文を取っていたレジの女の子ですら、驚いた顔でこっちを見た。

鳩が豆鉄砲食らった顔ってこんな感じなのかなぁ、と、 その人たちを見て他人事のように僕は思った。

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事の顛末はこうだ。1週間前の土曜日、僕は職場の同僚に頼まれて、 学生時代の女友達と合コンをすることになった。 で、1次会、2次会と進むにつれ、お約束のとおり同僚は消えていく。 残ったのは俺と、同じゼミにいたユリカと言う女の子だけだった。

そもそもなんで彼女がここにきたのか、その時俺はわからなかった。 合コンだとか飲み会だとか、そういうところではひたすら浮きそうな存在だったからだ。 現に飲み会とかでも、お酒も飲まず部屋の隅っこでニコニコしながら会話を聞いていて、 11時になると「終電だから・・・・。」と、申し訳なさそうにいいながら 毎回途中で帰っていた人だ。

でも、その日は、いつも飲まないはずのお酒をちびちびとだが飲んでいた。 でも、相変わらず部屋の隅っこでニコニコしているのは変わらなかった。 同僚に話し掛けられても、赤い顔をしたまま二言三言返すだけで、 「何であんなノリの悪い女呼んだんだよ。」と、後日同僚にからかわれたものである。

「終電なくなっちゃったね、帰ろうか?」とりあえず彼女にそう話し掛けた。
「うん・・・・。」蚊の鳴くような、と言ったらありきたりだが 本当にその表現がぴたりと合うような声で、彼女はうなづいた。
「夜道に女の子一人じゃ危ないから、一緒に帰ろうか?」何気ないこの一言が、 これから先、僕の行く末を変えてしまったとはその時露ほどにも感じなかった。

そこから先は、勘のいい人なら既に気付いていると思うので省略する。 要は、彼女の方から俺を求めてきたのだ。

そして、それを僕は応じてしまった。 今の彼女、マリの親友に目撃されると言うおまけつきで。

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「あんたねぇ、あたしと言う女がいながらどういうつもりなの!!?」
今更ながらありきたりな言葉でマリは僕を罵倒する。 どうせ次は「あたしのことどう思ってるの!!?」って聞くだろうなぁ、 とか思いながらコーヒーをすすっていると、案の定そんな感じの言葉がとんできた。

「正直、飽きた。」そう言ってやろうかと思ったがやめておいた。 彼女がキレたら手がつけられないことくらい、半年も付き合っていればわかりきっている。 こんなところでキレられたらそれこそ人様の迷惑だ。既に十分迷惑をかけているし、 その前に十分すぎるほど彼女がキレているような気もするけど。

「まぁまぁ、落ち着いてくれ。」とりあえずダメ男っぽい声で僕は彼女をなだめようとした。 しかしそれが彼女のSっ気を刺激したのか、彼女の逆鱗に触れたのか、 窓ガラスが割れるんじゃないかと言う声で彼女は更にまくし立てた。

「わかってるわよ、あんたの言いたいことくらい!!!そうやってごまかそうとするのは いつもの悪い癖なんだから!!!」大噴火と言う言葉が似合いそうな勢いである。 本当にここに刃物がなくてよかった。正直そう思った。
「もういいわよ、さようなら!!!!」そう言って彼女は店を出て行った。 好奇の目で見つめる客たちを睨み返しながら。

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女ってのはなんて感情的な生き物なんだ。
男ってのはなんて倫理観のない生き物なんだ。

帰り道、そんなことを思いながら車窓に映る景色を眺めていた。 別に反省してるわけでも、怒っているわけでもない。 何となく自分が嫌になってきたのかもしれない。

不意に電話がかかってきた。見たこともない電話番号だ。 「もしもし?」きわめて事務的な声で僕は電話の向こうの相手に話し掛けてみた。

「あの、中村ですが・・・・。」怒られた幼稚園児のような、おどおどとした声が聞こえる。 ユリカからの電話だった。

混乱した愛情ゆえに友情に戻れない
男女問題はいつも面倒だ

そして恋は途切れた
一切合切飲み込んで未来へと

進め

−Mr.Children「ありふれたLove   Story」−






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