ヨーガの階梯

じめにヨーガの階梯について解説したい。
まずエクササイズについてだが、これから紹介するセットを例にとれば、最初は外筋で形を作り火の呼吸を行なう。
(慣れてきたら外筋ではなく出来るだけインナーマッスルで形を作る) 
これはこれで体幹を充実させ呼吸筋を鍛え、各内分泌系を活性化させるなどの優れたトレーニングになるが、
私に言わせればまだまだクンダリーニ・ヨーガ本来の価値には程遠い。
他の方法、例えば有酸素系トレーニングなどでもやり方によっては代用が可能だから、
クンダリーニ・ヨーガでしか効果が得られない差別化されたレベルの技法とは言い難い。

それ故私はクンダリーニ・ヨーガの技術レベルを表のようにあえて3段階に分けている。
もちろん、クンダリーニ・ヨーガの技法や、そのやり方についての分類だから、
全てがクンダリーニ・ヨーガには違いないのだが、質的にみてその違いはかなり大きい。

ヨーガの階梯

1.「有酸素系フィットネスレベル」

ポーズや呼吸法などの体の運動だけを練習している段階。
最初は外筋で形を作り火の呼吸を行なう。体幹を充実させるコアトレーニングとしてとても有効だ。
楽に出来るようになったら、次はインナーマッスルを使って形を作るようにする。
上半身を力ませないように心掛ける。

2.「一般ヨーガレベル」

前者に加えて、意識(チャクラなどへの集中等)の使い方が伴う段階。
火の呼吸中も指定された内観をしっかりと行なうようにする。
形と呼吸は各チャクラ等を活性化させるための誘発剤として位置付けて行なうとよい。
そしてリラックスした時も同様の内観を持続しておくこと。

3.「本来のクンダリーニ・ヨーガ・レベル」

エネルギーの循環や制御が主題となる段階。
このレベルになったらクンダリーニ・ヨーガを熟知した指導者の注意深い経過観察が必要になるので独習は困難だ。
直接指導が受けられないようならば、第2段階の「一般ヨーガレベル」までとした方がいいだろう。

カルチュアセンターなどで行なわれているヨーガのイメージは、
柔軟性やリラックスを目的としたもののように思われがちだが、それならば、別にストレッチや有酸素運動、
リラクゼーション等でも容易に代用できよう。
それで満足するならばそれでいいが、本来のヨーガには程遠いと思う。

対して、クンダリーニ・ヨーガは従来からの神秘的なイメージに加え、最近は私のせいもあるが
アスリート向けの激しいトレーニングの印象をもたれているようだ。
確かに、クンダリーニ・ヨーガは世間一般のヨーガとは異なり、ヨーガ本来の極めて深い技法を伝えている。
しかし、たとえクンダリーニ・ヨーガの技術であっても、もしも上記の有酸素系フィットネスレベルでやっているのならば、
本来期待しうる効果を得られないこともまた事実だといいたい。

だからひとつひとつのエクササイズを繊細な集中でエネルギーの循環や制御を内観しながら
極めて精密に行なう必要がある。ただ汗を流して頑張ればよいというものではない。
その意味では、正確な内観が必要であり、見よう見真似の自己流ではとてもクンダリーニ・ヨーガの成果は得られないだろう。

ところで、クンダリーニ・ヨーガは大変複雑で繊細な技法体系だ。
独学でマスターできるような安易な代物ではない。

基本をきちんとマスターした上でひとつひとつの行法を正確に練習してほしい。
そして3〜6月位練習したら、前述の3段階を思い出して、ひとつ上のやり方に進んでもらいたい。

ヨーガは深奥に近づくほど、シンプルで穏やかな技法になってゆく。
火の呼吸もなくなり、徐々に汗もかかなくなるので、何となく物足りなく感じる方もいるだろうが、
本質に迫るにつれより繊細にそして絶妙なバランスを要求される。

クンダリーニ・ヨーガをやる以上、徐々に量よりも質の向上を心掛けて欲しい。
勿論最初の1〜2年は相当な努力が要求されるだろう。
ここで紹介するメニューも簡単ではないと思う。
だが、次の段階に進むには別の鍵が必要だ。
初期の段階で必要なものが、後日目的の達成を妨げてしまう。
ある部分の封印を開ける鍵は全ての封印の鍵ではないのだ。
金科玉条の如くいつまでも初歩的なメニューに拘っていると、
或いは前述の「本来のクンダリーニ・ヨーガ・レベル」に進んでいないならば、
たとえ何十年熱心に続けたとしても初歩段階で留まっている事だろう。

ヨーガでも武道でも技の数を沢山集めて自己満足している人をしばしば見かけるが、
そのような人で大成した人を私は知らない。
より繊細に内観を充実させ、ヨーガの深奥に至られる事を切に願う。
枝葉を追うのではなく、その原理を真摯に探求することこそ道を極めるための近道なのだ。