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木版画の小技
〜彫りの確認をこすり出しで〜

TOSS空知角銅 隆
作成日:2002年12月11日(水)
修正日:2010年 8月29日(日)

インクをつけて刷る前に、仕上がりが予測できる木版画の小技をご紹介します。

1. 木版画「鏡の中の自分」

今年度、5年生29名に酒井式描画法「鏡の中の自分」を木版画にして取り組んだ。

下がき4時間、彫り6時間で版を完成させた。

彫りは陽刻(線を残し面を彫る)で行った。陽刻で注意が必要なのは、彫りの流れである。

例えば、鼻は高いところから低いところへ。

例えば、頬はうずまき状に丸みをつけて。

例えば、あごは輪郭線を生かした流れで。

つまり、彫りの進め方は酒井式描画法の筆づかい一致するのである。

そこで指導の時には、彫る部分を指定して、彫りの方向を板書で確認してから彫らせた

「次は頬です。一番高いところを触ってごらん。そこからぐるぐるとほっぺたを触ってみよう。」

ぐるぐると口に出して触る子がいる。「なるとみたいだね」との声あった。それを生かし、

「なるとのようにすれば頬の丸みがでるね。(黒板に図示)こんな流れですね」

と、彫る方向を確認した。その後、鉛筆で彫り進める方向をうずまき状にかかせてから、彫刻刀で彫り進めていった。

このような指導で、部分ごとに完成させていった。

2. 児童のつまづき

頬を彫っているときである。

「先生、丸くなればいいんでしょ。」

という児童がいたので、安直に「そうだよ。」と言ってしまった。

机間指導をしながらその子のところに行ってみると、頬の外側を丸く彫り、その中を縦線で彫ってしまっていた。

鉛筆で彫りの方向をつけさせているが、その子にとっては意味がなかったのだ。

また別の児童から、「なんでこう彫るんですか?」との疑問もあった。その子には、

「絵の具でかくときに筆をそうやって動かすでしょ。彫刻刀も同じだよ。」

と言ったが、納得していない様子であった。

子どもたちには印刷をしたときに浮かび上がる線が、具体的にイメージできないでいたのである

3.彫りの確認はこすり出し(フロッタージュ)で

彫っている版木を見て、印刷後をイメージするのは子どもたちには難しいと痛感した。

そこで、頬を彫っている途中に手を止めさせて、素早く半紙と4Bの鉛筆を用意した。

片方の頬をほぼ彫りきっていたA児の版木を借り、子どもたちを注目させた。

「Aさんが左の頬を完成させたので、印刷をしたらどうなるかやってみますね。」

版木の上に半紙を置き、4Bの鉛筆の芯を立てないように寝かせて、ざっと黒く塗った。

すると、ものの数秒間で彫ったところが浮かび上がるのである。

こすり出し(フロッタージュ)という技法である。誰でも、コインなどを写し取るのに使ったであろう、簡単な技法だ。

「印刷をするとこんな感じになります。彫った流れが出るんですね。頬の丸い感じが出ているでしょう。」

子どもたちは、「すげー」と言って注目していた。

その後、自分たちでやってみたいという要望がたくさん出たので、印刷室からミスプリントのあまり紙を持ってきて、自由に子どもたちに使わせた。

こすり出しをすることで、具体的にイメージできなかった子もその意図が分かったようである。




フロッタージュと、完成作品。

4.注意事項

こすり出しを見せるときに、後ろの子から見えないという苦情があった。今回は試していないが、クレヨンならばもっとはっきり出るであろう。

こすり出しをするときには、薄い紙で行う必要がある。厚いとこすっても出てこない。

さらに、柔らかい芯の鉛筆を使うべきである。固い芯で力強くこすると、版木を痛めてしまいかねない。

今回は木版画で使用したが、紙版でも板紙凸版でも、おおよそ凹凸の出るものであれば全てに応用可能である。

しかしあくまでも小技である。彫りが長時間続いたときに適宜入れると、短時間で気分転換にもなり集中力が持続した。反面、完成作品とそっくりにはならない。時間があるのであれば、インクを使って試し刷りをすることをお薦めしたい。

(C)TOSS TOSS空知・角銅 隆