前世で読んだ本


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廃屋の幽霊

福澤徹三

福澤徹三
廃屋の幽霊 福澤徹三 双葉文庫
「廃屋の幽霊」
かつて殺人事件のあった廃屋に幽霊が出るという。持ち主である私はその家が世間の
耳目に晒されるのを望まなかった。彼は別居中の妻とともに廃墟の秘密を探りに行く・・・・。
まさに福澤徹三が最も能弁となる心理のどん詰まりが引き起こす地獄が其処にある。
特にラスト数ページの衝撃はどうだ。
嘘と混沌と腐肉のパレード。ともすれば、浮足立ってしまうテーマであるにもかかわらず
淡々と実のある描写を重ねたことで濃密な衝撃がすっくと立ち上がった。
あとがきより

藤森緑
​  占い師が語る 本当にあった20のスピリチュアル体験 藤森緑 説話社
「初めて憑依された話」
・・・・教会へ行った直後に、その男性霊を冥界へ送るように試みてみた。お札の前で両手を合わせ
脳の左側に、その男性が帰るべき冥界の故郷を思い浮かべる。
すると、その故郷の風景の中に侍の格好をした男性が登場した。そしてその侍は、私の方に向き直ると
深々と一礼をしたのである。そして、向こうへと歩き始めた。
あの男性霊は、侍の格好をしていたのか、そして彼は長く人間界を浮遊していたが、ようやく浄化の道を
選んだのである。
憑依されていたのは3週間程度の期間であったが、その間に散々苦しめられたユニークな男性霊から
ようやく解放されたのだ。
私にとっては強く記憶に残る、感動的な瞬間であった。

黒田みのる

黒田みのる
幽体の舟 黒田みのる 九重出版
「人は死んでも、その幽体は生き続ける」
人は生まれ、そしていつか必ず死を迎えて肉体は滅ぶ。
だが、その霊魂は、肉体のすぐ下にある幽体と共に死後の世界に旅立つ。
そして、やがて再び新しい肉体を得て、この世に生まれ変わる日を待つ。
生と死を繰り返しながら輪廻転生のシステムの激しい流れの中を・・・・
霊魂と共に常に生き続ける幽体こそ、人間の原型なのだと切々と説く。
人生を左右する幽体の謎に挑む、注目の黒田セオリーが、いま熱く迫る。

ひぐらしカンナ
ゆうたん幽探 実録心霊スポット取材記 ひぐらしカンナ みなみ出版

ひぐらしカンナ
ばけたん化探 実録心霊スポット取材記 ひぐらしカンナ みなみ出版

皆本幹雄
怖いけど大事な話!
あなたにも霊は憑いている 皆本幹雄 成甲書房
「異常な性行為」の陰にひそむ霊幽界人
現にあった憑依の霊を紹介してみよう。
京都の名家、S家には、奇妙な出来事が代々続く。跡継ぎの息子に嫁がくると、いつのまにか
父親と嫁が肉体関係を結んでしまう。父親は人前でも平気で嫁の尻を触ったり、いちゃついたり
するので、近所の人や知人たちにもすっかり知れわたり、格好の噂話を提供する始末。
しかし、当の息子は、そんな嫁を見てもあまり気にならないという。むしろ、親と嫁の仲のよさに
ホッとしている感じだというから『いったいこの家はどうなっているのか』と思いたくなる。
だが、これを霊的に解明してみると、『座敷霊』が起因している。かなり昔から蛇の精霊が居座り
代々その家の家人に障っているのだ。
この嫁が出産する時などは、父親の方が息子そっちのけで看護し、お祝いや見舞いに来た人にも
嫁を見せないように、嫁の体を隠すようにしたという。付添人や同室の妊産婦も、気味悪がる
ほどだったというから、義父としての愛情を通り越して、むしろ異常でさえある。
これも蛇の精霊のせいなのである。

萩原真明
梶さんの霊界通信 萩原真明監修 旺史社

23歳で病死した青年が、親友 萩原真(監修者の父)に寄せた霊界通信。
現代に生きる誰もがかかえる不安・悩み!
その不安を乗り越えるために人生の根本にある道理を知る。
「この世」をいかに生きたら良いか、「あの世」からの真剣な提言。
戦慄!現代の怨霊地図 コスミック出版
ロサンゼルス市警拘置所での疑惑死の17時間前の心霊写真

河越八雲
心霊 本当にあった怖くてちょっといい話 河越八雲 KKロングセラーズ 
「茶トラと妻の話」
妻に先立たれて一年が経った。
妻は猫好きで茶トラを飼っていた。茶トラも妻が大好きで、くつろいでいる時も寝る時も
常に妻の横から離れなかった。
妻がいなくなってからは大変だった。
茶トラは飯は食べない、トイレはしない、動物病院通いを余儀なくされた。
だが、ある日、茶トラが妻の愛用していた鏡台の前で 『ニャーニャー』 と鳴いた。
そして 『ゴロゴロ』 と喉を鳴らし始めた。
私はその光景を黙って見ていたんだが、突然、猫ちゃん用のエサが入った瓶が倒れた。
その瓶を手に取って、しばらく眺めていたが、はっと思いついて中のエサを茶トラに
与えてみたんだ。
そしたら、茶トラは嬉しそうに飯をガツガツ食べ始めたんだ。そして、その日から毎日
ちゃんと食べるようになった。
誰にも話していないが、あれは妻が現れたんだと思うんだ。

心霊Japan 晋遊舎
中岡俊哉の心霊写真

おきなわの怪談 文/徳本英隆 絵/安室二三雄 沖縄文化社
「大和の幽霊船」
屋慶名海峡は、うるま市の藪地島と屋慶名港にはさまれた天然の水路です。
かつて、この水路を船で通るときには、東大神と呼ばれる岸辺の祠で帆をおろし、頭を下げてから
船を走らせるというしきたりがありました。
そうしなければ、たちまち海が荒れ、とても船を進めることが出来なかったそうです。
伝説によると、このしきたりを知らない大和の軍船がやってきて、こともあろうに祠の石の香炉で
刀を研いでしまいました。
これがご神体の怒りに触れたのでしょう。
船はあっという間に転覆させられ、深い海の底へと沈んでいきました。
それからというもの、ときどき海峡の方から櫓のの音や船歌が聞こえてくるようになったそうです。
また、海峡に目をやると、晴天の日には帆を上げた大和の幽霊船が見えたそうです。

宇田川敬介
​​ 三陸の怪談 震災後の不思議な話 宇田川敬介 飛鳥新社
「私たちは生きているのでしょうか」
タクシー運転手の方に聞いた話。
その日も夜勤の習慣で、いつものように復興商店街の近くで車を停めていると、若者のグループが
やってきました。
『運転手さん、いいですか? みんなで乗れますか?』
人数を数えれば4人、狭いけれど乗れる旨を説明すると、声をかけてきた若者が助手席に乗りました。
目的地は少し遠いところでしたので、海沿いの道を走っていました。
すると、何もない場所で、タクシーを停められ、4人は降りて道路端にならんでいるんです。
『運転手さんに聞きたいことがあるんです』
『なんでしょう?』
『実は、自分たちは死んでしまったのかどうか、わからないんです。さっきも居酒屋でいろんな人たちと
飲んだり話したりしましたが、どうも様子が変なんです』
『何を言い出すんですか、お客さん』
『そんな私たちでも、家に送ってもらえるんでしょうか』
エッ、と思ってもう一度よく見ようと、一瞬目をしばたいた次の瞬間、彼らは跡形もなく消えてしまって
いたのです。何かのいたずらではないかと思って、車を降りて周囲を見渡すと、ちょうど道端から
彼らが見ていた方向に津波で廃車になった車の置き場があったのです。
ああ、この中のどれかの車に乗っていて亡くなった方だなと思いました。


上村信太郎
​​ 山の不思議と謎 上村信太郎 大陸文庫
「テントに近づいてくる謎の靴音!」
穂高連峰や谷川岳の岸壁に数多くの初登攀記録を持つ登山家の古川純一さんは、冬の谷川岳で
雪の夜、テントに近づいてくる謎の靴音を聞いた体験を、著書『いのちの山』の中で書いている。
昭和三十二年三月二十三日。古川さんは仲間二人と、当時、冬季は未踏だった谷川岳二ノ沢を
狙っていたときのことだった。
この日は小雪が降っていたのでアタックを中止し、夜十時半ころに寝た。
なかなか寝つけずにウトウトしていると、遠くからテントに向かって歩いてくる音が近づいてきた。
そして、粉雪を踏みしめる足音はテントの前で止まった。
古川さんはヘッドランプを手探りで探し、『誰だ』と声をかけたが返事がない。
遭難者がテントにたどり着いたかもしれないと思い、急いで入り口を開け外を照らしたが
誰もいにし、足跡もない・・・・
著者も同じような体験をしている。冬の八ヶ岳でテントの中に一人でいる時だった。
初めは小さく、だんだん大きな音になって、ピタッと止んでしまう。
人間が雪を踏みしめる時の音だった。


らくたび文庫 京都・魔界巡り コトコト
三条京阪近くに『妖怪堂』というユニークなカフェがある。
古い町家の建物でオリジナルな妖怪グッズも販売している。
オーナーの葛城さんは、明治十六年創業という伝統ある古道具屋さんの四代目。
友達に借りた本で魔界に興味を持ち、牛鬼を描いたTシャツなどの妖怪グッズを作り始めた。
その後、この牛鬼が自分の苗字と同じ奈良の葛城山にいたのを知り、『運命』を感じた。
最近、母方の先祖が、一条戻橋での鬼女退治で有名な渡辺綱とつながっていることがわかり
ますます妖怪にはまり込んでいるとのことだ。(京都市左京区孫橋通新麩屋町東入大菊町151-1)

木原浩勝

木原浩勝
ZOTTO 木原浩勝 絵・中川翔子 ポプラ社
「後ろ姿」
Aさんには、エリコさんという一人娘がいた。
そのエリコさんが、四年ほど前に結婚したときのことである。
結婚式の当日、Aさんはエリコさんが2歳の時に亡くなった奥さんの遺影を胸に抱いて
式場の人からの案内を待っていた。
『本日はおめでとうございます。お待たせいたしました。どうぞ、こちらへ』
式場の人から声を掛けられ花嫁の控室に入ると、目の前に純白のウエディングドレスを着た
娘の後ろ姿があった。
”この後ろ姿を見ていられるのも今日で最後か・・・・”と思った。
その時エリコさんの動きが止まった。
『申し訳けありません、皆さん。しばらくの間、父と二人だけにしていただけますか』
式場の担当者も親戚も、エリコさんの願いに笑顔を浮かべて、控室を出て行った。
二人っきりになっても、エリコさんは後ろ姿のままだ。
『お父さん・・・・』
Aさんが返事をしようと思ったそのとき
『お父さん・・・・お父さん』
エリコさんの呼びかけが、何度も何度も続く。
エリコさんの声が、いつしか亡くなった奥さんの声になっていた。
『母さん・・・・母さんなのか』
エリコさんの後ろ向きのベールの中に奥さんの顔が浮かんでくる。
『お父さん、今日まで本当にありがとう・・・』
ニッコリ笑うと、エリコさんの頭の中に沈むように消えていった。
唖然としていると、エリコさんがゆっくりとこちらに振り向く。
『お父さん・・・・今日まで本当にありがとう・・・・』

木原浩勝

木原浩勝
現世怪談 招かざる客 木原浩勝 講談社
「招かざる客」
私の祖父ちゃんが心筋梗塞で亡くなった時のこと。
家に運び込まれ、布団に寝かされたまま、ピクリとも動かないし、生きていれば邪魔としか
いいようのない顔に掛けられた白い布。
こんな情景を生まれて初めて見た私は受け入れることが出来ませんから、絶対すぐに
動き出すと信じて、枕元に座ってずっと見つめていたんです。
と、その時・・・・パッ!
顔に掛けてあった白い布が、強い鼻息で吹き飛ばされたかのように真上に舞い上がって
私の頭の上を飛び越えるとヒラヒラ舞いながら畳の上に落ちたんです。
その瞬間を、両親も親戚も見ていました。
父が布を丁寧に・・・・整えるように被せ終えた時でした。
パッ! また真上に舞い上がったんです。
『うちの祖父ちゃんに限って、こんな往生際が悪いわけがない!』 父が周りに言い放ったんです。
すると部屋のどこからか、嬉しそうに笑う五、六人の男女の声が響き渡った。
『これはモノノケだ。モノノケが来たんだ』 そう叫ぶと父は祖父の猟銃を持って来ると祖父の
枕元に置いたんです。
『モノノケは鉄を嫌う。鉄砲なら尚更怖かろう』
父はそう言うと、祖父の顔にまたゆっくりと布を被せたんです。
銃がこの部屋に持ち込まれた途端、笑い声が止まり、急に部屋が明るくなりました。
これが良かったのか、意味があったのか、無事に葬儀を全て終えることが出来ました。

木原浩勝

木原浩勝
現世怪談 開かずの壺 木原浩勝 講談社
「ボウリング」
私が子供の頃、ボウリングが大ブームでした。
ボウリング場へ連れて行ってくれない親は、おもちゃのボウリングを買ってくれたのでした。
それからは毎日、おもちゃのボウリングで遊んでいましたが、ある日ピンが1本なくなったんです。
しかたなく9本ボウリングをしていたのですが、仏間で遊んでいるときに仏壇の中のおじいちゃんの
位牌を見て 『これだ』 と思ったのです。
それからは、おじいちゃんの位牌を1番ピンにして遊んでいたのでした。
ある日、呼びに来た父に見つかり、こっぴどく怒られました。
次の日から、また9本ボウリングのスタートです。
つまらないなぁ~とピンを箱から出していると、やけに綺麗なピンが1本出てきたのです。
不思議に思いながらピンを並べていると10本そろっているのです。
これは父が探してくれたと思い、仏間から大きな声で 『おとうさん、ありがとう』 と礼を言うと
『違う、違う。ワシだ、ワシだ』 と言う声が聞こえて来たのです。
声がする方には仏壇しかありません。
私は、この出来事を父に言いに行きました。
すると、ゴツンと頭を殴られ
『おじいちゃんだろ! ちゃんとお礼言っとけ』と怒られたのでした。

木原浩勝

木原浩勝
現世怪談 白刃の盾 木原浩勝 講談社
「指に輪」
一九七〇年代の頃の話。
いつの間にか気が付くと三つ上の中学二年生の姉を訪ねて、毎日別々の人が来るようになった。
引っ込み思案だった姉に多くの友達ができたと喜んでいたので、来る人のことは聞かないように
していたのですが、母が我慢できずに姉に訊いてみた。
『背後霊を見て、相談役になってあげているの。私は、人に見えないものが見えるの!』
霊の話になると姉の顔は自信たっぷりになり、妹の私から見ても、もう一人の誰かに乗っ取られて
いるかのように見えました。
それから二週間ほどした日曜日。
母が、頭が真っ白なおばさんを家に連れてきました。
おばさんは、姉の後ろに回り込むと、姉の目の前で指で輪を作ったんです。
と、姉が小さく一声上げたんです。
『だめよ。目をそらしたり瞑ったりしないで、よーくごらんなさい。何が見える?』
『いい?これがあなたが見えると言ったことよ』
『こんなもの見たことない。これ一体、何ですか』
『だから、あなたがずっと見えていると言い続けてきたものでしょ?』
『ええ?』
姉はすすり泣きから大きく声を出して泣き崩れ、その拍子におばあさんは指を離したんです。
『はい、ありがと。いい?お姉ちゃん。見えないものは見えないままがいいの。今までのことは
その場限りの話からどんどん大きく膨らんで、見えていることにしないと引っ込みがつかなく
なったんでしょ?でもね、本当に見えていたら、こんな嫌なものなのよ。もう今この時点から
これまでやってきたことは止めてね。この先も言い続けたら、自分で作った話が形を成して
見えたり、見せてやるというようなモノまで集まって、お姉ちゃんがお姉ちゃんでいられなく
なるのよ』
姉は黙ったまま素直に、首を縦に振りました。

木原浩勝

木原浩勝
禁忌楼 木原浩勝 講談社
「姑」
お姑さんが怖いものって何でしょう?

夫と結婚すると、遠く離れて暮らしているはずの姑が現れては消えるということが続きました。
そして、息子が生まれると・・・
昼過ぎにうたた寝をして、息子の泣き声で目を覚ますと、姑が物凄い顔で睨んでいました。
『何やってるの!はよう、お乳をはげんかいな』
びっくりして返事をすると、顔だけが浮いていて、その後消えていきました。
こんなことをくり返しながら、息子が五歳になり、三人で実家に行ったときのことです。
息子が玄関に入るなり、出迎えた姑に飛びつきました。
『おばあちゃん、怖いから、もう夜中に来るの、止めてくれない!?』
息子にこう言われると、姑の笑顔が一瞬に崩れました。
そして、その日はしばらく、息子とは口がきけませんでした。

姑が怖いものって、孫から嫌われることかもしれませんね。

MoMo

MoMo
霊感添乗員MoMoの幽霊事件簿 旅先で起った恐怖実話報告38話 MoMo みなみ出版
「初めてなの!」
よく仕事でご一緒させていただいているガイドのJちゃん(27歳)からお聞きした話です。
その日、Jちゃんは和歌山県の温泉郷に来ていました。
通された乗務員部屋は六畳、清潔感があってバストイレまで付いていたそうです。
Jちゃんは大浴場へ行くのも面倒で部屋のお風呂で一日の疲れを癒したあと、テレビを見ながら髪を乾かしていると
カタカタと音がする・・・・それがガタガタという音に変わったと思ったら、窓の外に全裸の男が浮いていて窓を叩いている。
『きゃぁぁぁあ~』
男は ニタッ と笑うと、窓をすり抜けて部屋の中に入って来たんです。
Jちゃんは、この信じられない状況に身動き一つできず、悲鳴を上げることすらできなかったそうです。
全裸の男の霊は、再び ニタッ と笑うと、Jちゃんの足元にしゃがみ込み、彼女の露わになった両足を足首から太腿に
スゥ~とさすり上げると、ガバッと両足を大きく開いたんです。
そして、その股間に顔をうずめて・・・・
『あっ!うっ・・・あぁ~・・・いや、やめてぇ~』
しばらくして、男の霊はJちゃんの股間から顔を上げると大きくなったモノを・・・・
『い、いや! 私、私・・・初めてなんです。それだけは、それだけは』
すると、男の霊は残念そうな顔をして立ち上がり、そのまま消えてしまったそうです。
ちなみに、彼女は経験済にも拘わらず、とっさによく『初めてなの』という言葉が出たと思って聞いてみると
『だって、あんな大きいの初めて見たんだもん。壊れちゃいそうだったから』
風怪 風の怪談舎 編 三五館
「シロ」
N子さんが高校生の頃から飼っていた猫の話。
ある日、床下に入り込み、出られなくなっていた猫がシロ。
そのままN子さん宅で飼うことにした。
やがてN子さんは結婚して家を出たが、実家に帰って来ると、シロはN子さんの膝の上に乗ってきて
『忘れてないよ』 とでも言うようにゴロゴロ甘えたという。
N子さんが出産のために里帰りした際も、シロは優しく見守ってくれた。
無事に生まれてきた赤ちゃんが泣くたびに、シロは心配そうに赤ちゃんの元へ駆け寄ってきた。

事件は、自宅へ帰ろうとしていた日に起きた。
N子さんが、赤ちゃんが寝ている間に荷物の整理をしていると、シロがものすごい勢いでやってきて
ニャーニャーと鳴き、赤ちゃんのいる方向を見つめていた。
すぐにN子さんが赤ちゃんを見に行くと、顔面蒼白で、激しく嘔吐していたのだ。
救急車が呼ばれ、搬送されている途中、なんと呼吸が止まってしまった。
『赤ちゃんが死んでしまう! 神様、どうか助けて!』 N子さんは必死に祈った。
救急隊員の懸命な蘇生で、病院へ到着するときには呼吸を取り戻し、一命を取り留めた。
しかし赤ちゃんが病院へ運ばれている間に、もう一つの事件が起きていた。
これまで、絶対に家から出ることのなかったシロが、玄関から飛び出して行ったのである。
そして場所を知っているかのように、一直線に近くを流れる川に身を投げたのだ。
一部始終を見ていたN子さんの弟によると、今にして思えば、シロが命を投げ出す代わりに
赤ちゃんの命を助けたかのように見えたのだという。
N子さんも、シロが赤ちゃんを助けてくれたと思っているそうだ。

佐藤愛子
夢か現か、現か夢か 冥途のお客 佐藤愛子 光文社
「あとがき」
以上の話を真実と考えるか、妄想駄ボラと思うかは読者の自由です。
私はただ実直に、何の誇張も交えず私の経緯、見聞を伝えました。
これらの体験を書いて人を怖がらせたり興味を惹きたいと考えたのではありません。
死はすべての終わりではない。無ではない。
肉体は滅びても魂は永遠に存在する。
そのことを『死ねば何もかも無に帰す』と思っている人たちにわかってもらいたいという気持ちだけです。
三十年にわたって私が苦しみつつ学んだことを申し述べたい。
ひとえにそれが人の不信や嘲笑を買うことになろうとも。
私にはそんな義務さえあるような気さえしているのです。
この世で我々は金銭の苦労や病苦、愛恋、別離、死の恐怖など、生き続けるための欲望や執着に
苦しみます。
しかし、それに耐えてうち克つことがこの世に生まれてきた意味であること、その修行が死後の安楽に
繋がることを胸に刻めば、『こわいもの』はなくなっていく。
この記述によって好奇心を刺激された人、この私をバカにする人、いろいろいるでしょう。
でもたった一人でも、ここから何かのヒントを得る人がいて下されば本望です。
その一人の人を目指して私はこの本を上梓します。

三善里沙子
東京魔界案内 三善里沙子 知恵の森文庫(光文社)

平将門の首塚
大蔵省の大臣をも死に至らしめた祟り。また、戦後GHQが首塚の撤去を諦めたことでも有名。

安曇潤平

安曇潤平
実話ホラー 死霊を連れた旅人 安曇潤平 だいわ文庫
「乱暴な山の神」
Tさんが南アルプスのK岳を登ったときの話である。
K岳唯一の難所を越え、急勾配の登山道を登っていたとき、前を歩いていた初老の男性が
突然立ち止まると振り返って、Tさんに向かって笑顔で話しかけてきたそうである。
近づいて挨拶をし、その声に応えようとした瞬間、初老の男性の顔つきが突然変わり
拳を握った右手でTさんの左頬を殴った。
頭にきたTさんが反撃に転じようとして男性の顔を見ると、般若のような顔に豹変していたので
恐くなって、そのまま山を下りたそうだ。
下山すると、山麓に多くの人が集まって騒いでいる。
その中のひとりに話を聞くと、Tさんが男に殴られたその先で、つい今しがた尾根道が崩落
いたのだという。
あのまま登山を続けていたら、崩落に巻き込まれていたかもしれない。
もしかしたら、Tさんを殴った初老の男性は山の神で、Tさんを救ってくれたのかもしれない。
『それにしても殴ることはないのに』 

ありがとう・ぁみの
​​ 學校奇譚 ありがとう・ぁみの だいわ文庫
「宿直奇談」
彼は、かつて中学校の教師をやっていました。
『僕が働いていたときってね、宿直ってのがあったんですよ』
男性教員がローテーションを組み、毎日必ず誰かが学校の警備のために泊まっていた。
『決まった時間になると、校内の見回りをしなくてはいけないんですよ』
だいたいは何事もなく終わるとのことだが、たまに開いていた窓を閉める程度とのこと。
『その日もね、いつも通りのコースを回っていたんですよ。校舎の三階の廊下を歩いていて
ある教室を覗いたんですよ。そしたらね、教室の奥の窓、その向こうから子どもが顔を出して
いるんですよ。その窓の向こうはベランダとかないんですけどね』
彼、顔を出している子どもと目があったそうです。
でも、見なかったことにして、その教室をあとにした。
その後、二度とその子を見かけることはなかったそうです。


遠山雅
怪談実話 病棟の道化師 遠山雅 外薗昌也監修 だいわ文庫
「お化け屋敷」
Bが高校生の時、学園祭でお化け屋敷をすることになった。
教室内を工夫して、なかなか本格的な空間に仕上がった。
『これ、このまま行けるで』
クラスの皆の意見で、あえてお化けは配置しなかった。
学園祭当日。
お化け屋敷は大盛況だった。
皆が怯えた素振りで出てくる姿にクラス全員が満足した。

学園祭の後、クラス全員でアンケート用紙に目を通すと・・・・
『黒板前のマネキンの顔が怖かった』 というものが一番多かった。
マネキンなど、置いていない。

匠平
幻夜の訪問者 匠平 だいわ文庫
「冗談」
お客様のYさんには、親戚一同から『愛すべきジジイ』と呼ばれているおじいさんがいた。
『つねに笑顔で、怒っているところは誰も見たことがない。というよりも、いつもふざけているから
真面目なところを見たことがない』とYさん談。
そんな愛すべきおじいさんは五年前に亡くなった。
そんなおじいさんの三回忌の法要終了後に、ひょっこり親戚の間からおじいさんが現れた。
『え?じいさんなんでいるの?』
『俺の家に俺がいるのは当たり前だろ!』
『ちょっと待って。じいさん死んでいるよね?』
『あちゃー、そうだったな。忘れてた』
おじいさんが笑い出すと、その場にいた全員も笑ってしまった。
『んじゃ、死んだことを思い出したことだし、そろそろ俺はあの世に帰るかな』
そう言うと、Yさんの弟の右腕をグッと掴む。
『一人は寂しいからコイツを連れて帰るわ・・・』
その言葉に全員が言葉を失った。
『じいさん、それはダメだ』
『寂しいのはわかるけど、連れて行くな!』
弟は掴まれた腕を振りほどくことができないようだ。
『なんてな・・・冗談だ!』
おじいさんは、また笑い出した。みんなが笑ったのを確認すると・・・
『あー、笑った。んじゃ、お前たち死ぬまで生きろよ』
そう言うと、ふっと消えてしまったそうだ。
『匠平さん、死んで幽霊になってもじいさんは<愛すべきジジイ>でしたよ』
Yさんは嬉しそうに、この話を締めくくった。

匠平
闇夜の訪問者 匠平 だいわ文庫
「軋む部屋」
『ガタン!』
何かが倒れるような音がする部屋で撮影した写真には、首を吊った男の顔が
写っていた。

洋介犬
実話ホラー 黒い思ひ出 洋介犬 だいわ文庫
「天窓」
今は五十代となったSさんという男性が幼い時に体験した、温かくも悲しい真実が込められていた話。
彼が小学低学年のときのこと。
夜中にトイレに行った。幼いながらもから一人でトイレに行くのに慣れていた。
いつもの通り、自室から廊下へ出て1階のトイレに向う。
トイレからの帰り、何気なく階段の上の天窓を見ると誰かが覗きこんでいる・・・・
よく見ると、それは隣町に住む彼の従妹だった。
自分より3つ年上で、遊びに行けば自分に優しくしてくれる従妹が天窓に張り付いて彼を見ていた。
不思議と怖くなかった・・・・。
翌朝、家族から、その従妹が亡くなったことを知らされた。
通夜へ行くと、自分の母親の取り乱し方が激しいのに驚いた。
いくら親戚の子とはいえ、その落胆ぶりと憔悴は見るに耐えないものだった。
当時はその理由がわからなかったが、成人した後にその理由を知った。
従妹のお姉さん、実は彼女の実のお姉さんだったというのだ。
最後のお別れに、自分の存在も知らない妹の元へ現れたお姉さんの思いでした。

黒木あるじ

黒木あるじ
怪社奇譚 二十五時の社員 黒木あるじ だいわ文庫
「乗員」
Jさんは巨大高層マンションの管理センターに勤務している。
いつものように管理室でモニターを眺めていたJさんは、エレベーターへ乗り込むひとりの
老人を発見したのだという。
時計を見れば午前二時。
老人の年齢から考えて、夜更かしとも、起床したとも考えづらい。
前月に徘徊癖のある老人が行方しれずになったこともあり、現場へ急行することにした。
同僚へモニターを見ておくよう伝えて、彼はエレベーターホールへ向かった。
現場に着いてみると、老人の姿はどこにもない。
エレベーターを調べても、老人を乗せて一階へ到着したあとは動いた形跡がない。
『すでに外へ出てしまったか』 と慌ててエントランス周辺を捜索してみたが、それらしき
人影は見当たらなかった。
首を傾けつつ管理室へ戻ると、同僚がきょとんとした顔で見つめてくる。
居なかった旨を伝えると、まだ居ると言う・・・・
『さっき、Jさん・・・・このお爺さんの鼻先まで近づいて、あたりをキョロキョロ見回して
いましたよ』
嘘だろ・・・そう呟いたと同時にモニターの老人が笑いながら手を振りはじめた。
直後にモニターは消え、数秒後に復旧した画面に老人の姿はなかった。
多摩の怪談ぞくそくガイド だーくプロ  けやき出版
小峰峠 あきる野市高尾
夜中、峠道を車で走っていると黄色い帽子をかぶった女の子がカーブのたびに何度も
繰り返し現れた。
よく見ると、手を振る女の子の手首から先がなかった。
トンネルの中では『たすけて、たすけて』という女の子の声が聞こえてきた。

昭和六十三年から平成元年に起きた『連続幼女誘拐殺人事件」の被害者の霊だった。
犯人、宮崎勤被告の供述から、トンネルの上から被害者の体の一部が発見された。

吉田悠軌
放課後怪談部 吉田悠軌 六月書房
この本で語られている怪談は全て、本当にあったかもしれない話です。
直接体験した人が『こんなことがあってね』と話してくれたり
または誰かの体験談を『こんな話を聞いてね』と教えてくれたりしたものです。
彼らから受け取った話を、この本に書くことで、私もこれらの怪談の一部になりました。
もちろん、これから読むあなたも。
こうして風邪に感染するように、怪談語りの環は広がっていきます。
しかし、怪談は、文章ではなく、人から人へと口で伝えていくのが、本当のあり方です。
そこも、風邪と似ているところですね。
あなたも、この本の怪談を誰かに話してみてくれませんか。

夏目日美子
だれもが豊かで幸福な生活を営むために『神頼み』はある・・・・
二十余年にわたり思索と修行を積み重ねてきた宗教家・夏目日美子が願望実現の秘訣を伝授する。
門外不出とされてきた天之御中主大神の無限の神力を拝受する神霊術修行の秘儀を初公開し
その絶大なる恩恵力に浴しながら幸せをつかみ、神人融合の境地に到達するための手法を平易に解説。

山本文子
作者は一九二九年春日井市生まれで、チラシを使っての蝶作りの名手。
『金粉のメッセージ』 『蟻んこの独り言』 『金粉が出た人たち』 などの前書があり、我々には
想像を絶する不思議体験を語ってきた。
この書には、『蝶は善霊』として、チラシで作った蝶がカラー版で紹介されている。
一九八七年八月に三十年連れ添った夫が他界。
それ以来、生きながらにして霊界を見るようになったということだろうか。
霊感の強い人は、多分詩的なのだろう。
亡夫の遺影が、葡萄の汁を吸い上げたり、玄関のノブが動かなくなったり、セットしていないタ
タイマーが鳴り出したり、金粉がたびたび出現したり、などの異変が続く。
スプーンを曲げた話、カバラ占いや、高塚光のパワーのいきさつ、輪廻転生の話なども紹介
される。
夢の話も多くて、予知夢とか、夢の続き見なども話柄に上がって、なるほどな、と思う。

初版『私の不思議な体験』を刊行した際に、文芸誌『XYZ』に掲載された紹介文。

あいの瞳
「エビローグ 時空を超えて」
私はこの体験記を書くにあたって、ひとつだけ我が心に強く誓ったことがある。
それは『嘘』というものを、一切排除して書き上げようということである。
勿論この手の体験記を面白くするためには、嘘が必要なのは充分に分かっていながらも
あえてその手法は封印したのだ。
今こうしてエピローグを書くにあたり、心から思うことは、使命感を果たせたという充実感で
いっぱいだということだ。
ほら今、いつか出会った学生服の少年が、この私に向かって『ニッコリ』と微笑みかけた
ような気がした。
口裂け女、ベッドに潜む男、捨てても戻って来る人形・・・・どこからともなくウワサになる怖い話。
『どうせ、ウソでしょ』 ってどうして言いきれる?
あなたがまだ出会っていないだけで、本当なのかもしれないのに・・・・
たとえばこんな経験をしたことはないですか?
お風呂場で髪を洗っていると、なんとなく背後が気になったり、夜中にパシッと家がきしむような
音がしたり、風もない室内で物が揺れたり・・・・。
それは恐怖があなたのすぐとなりまで近づいている証拠。
耳鳴りは霊のささやきだって知っていました?
急に片方の肩が重くなるのは、何かがあなたに気付いて欲しくて肩に乗ってくる・・・。
今回この本で紹介するのは、恐怖と出会ってしまった運の悪い人たちの恐い話。
気付かないフリをしていても、あなたのすぐとなりまで恐怖は近づいている。
次は、そう、あなたが体験する番かもしれない・・・・

宗優子

宗優子
宗は道の選択にほんの少し、手をお貸ししただけなのです。
そして、その幸せなる道まで歩むのはあなた自身なのです。
『のどの渇いた馬を水辺までつれて行くことはできる。だが、水を飲むのは馬自身である」と
昔からのたとえがあります。幸せになる道を信じて歩み、努力を続けるのはあなたです。
さあ、あなたにも必ずいいことが待っています。
そして、人生の法則とは
『自分にとっていいことは不幸や不遇のその先にある。誰でも、いつでも、不幸や不遇を転じて
いいことがある』 ということなのです。

結城伸夫

結城伸夫
怖すぎる実話怪談 瘴気の章 結城伸夫 文庫ぎんが堂
「第一発見者」
加藤君が高校一年生の時のこと。
彼が所属していた社会歴史クラブで山城跡の見学に行くことになった。
嫌々ながら付いてきた彼は、だらだらと歩く部員、引率の教師を追い抜いて歩いて行く。
(早く見て、とっとと帰ろうっと)
つまらなさ全開で先を急いでいると、山道の前方から若い男が青ざめた顔で下りてくる。
『人が死んでる、人が死んでる』
そんな尋常でないことを呟きながら、こちらも見ずに山道を下って行った。
加藤君は、小走りに山頂付近まで駆け上がると、その辺りをドキドキいしながら見渡す。
すると、二十メートルほど奥の林の中に、こちらに背を向けて人がぶら下がっているのが見えた。
『うわ~、首吊りだ~!』
彼は一目散に駆け降りると、下から先輩や教師がのんびりと上がって来るのが見えた。
『人が死んでる、人が死んでる』 そういうと彼はその場にへたり込んでしまった。
加藤君のひきつった顔を見た全員は、山道を走って上がっていった。

教師が警察へ連絡し、加藤君が第一発見者として事情を聞かれた。
『いえ、僕と違いますよ。僕より先に、若い男が死体があると言いながら下りて来ました。
後から上って来た連中も見たはずですけど』
しかし、ここで食い違いが生じる。教師も部員も、そんな男は見ていないと、きっぱり言った。
警官はどんな男だったか訊いてきた。
『若い男で、紺色の背広姿で、確か茶色と黒の大きなショルダーバッグを抱えていました』
『君、遺体を見たの?』
『いえ、怖くて遠くから見ただけで、すぐ逃げました』
『そうか。若いかどうかはまだわからないけど、服装や遺留品も含め、遺体の男性に似ているんだよ』
警官はニヤニヤしながら、怖ろしいことを言った。
『キミ、幽霊でも見たんじゃないの!』

結城伸夫

結城伸夫
怖すぎる実話怪談 鬼哭の章 結城伸夫 文庫ぎんが堂
「異国のお坊さん」
タイ在住の私が、ミャンマーにピザを取るために出かけたときのこと。
手持ち無沙汰だった私は、近くの寺へ行ってみることにした。
寺に着くと、一人の坊さんが片言の日本語を使って親しげに寄ってきた。
坊さんの話では、この地がビルマと呼ばれていた時に日本兵から日本語を習ったという。
そして、坊さん自身も戦争を体験しているという・・・・
だが、その坊さんの年齢はどう見ても四十五歳くらい。
もし、戦争体験者なら百歳ほどになっているはずだ。
聞きかじった戦争の話をしているのかと思ったが、それにしては微に入り細に入った
自身が体験したかのような口調。
翌日も寺に行くと、その坊さんが寺の中を案内してくれた。

次の日は移動日だったので、お礼とお別れの挨拶をしようと寺を訪れた。
寺は葬式の真っ最中であったが、遺影の写真を見て驚いた。
そうなのだ。昨日まで話していた坊さんに瓜二つなのだ。
というか、写真の肖像はそのまま歳を重ねた感じだった。
あまりにも不思議に思い、寺の別の坊さんに聞いてみると・・・・
亡くなったのは寺の最長老の坊さんで、百歳だったとのこと。
しばらく入院した後の他界だったらしい。

結城伸夫

結城伸夫
怖すぎる実話怪談 怨嗟の章 結城伸夫 文庫ぎんが堂
「峠の宿場町」
場所は長野県の伊那谷と木曽谷をつなぐ峠にある宿場町の跡。
高校の陸上部に所属していた友人が夏休みに合宿へ参加したときのこと。
練習後、別の宿に高校生の女子と思われる集団を見つけ、見に行った。
すると、女子に混じって五十歳くらいの女性が見え隠れしていたが、いつしか自分を
睨んでいることに気付いた。
引率者かもしれないと思い、怪しまれないよう頭を下げながら挨拶の言葉を発した。
と、その瞬間、有り得ないことが起こった。
女がこちらを向いたまま、横滑りをしながら彼の方に向かってきた。
近づくに従い、女の姿の異様さに驚いた。
ぼさぼさの崩れた日本髪に、血色は土気色、着ているものは黒く煤けた白無垢・・・。
その異様な姿の女が、逃げる彼を追うように平行移動してくる。
彼は恐ろしさで、前だけを見て走り続けた。
宿舎にたどり着くと、女のお化けを見たと言ったが誰も信じてくれなかった。
本当に出たと言い張ると、確かめに行こうと男ばかりで出かけて行ったが何もなかった。

夕食の時、玄関に誰かが来て先生が対応していたが、戻ってきた表情が恐い。
『この先の宿を集団で覗いている男子学生がいたと苦情が来たぞ。いったい誰だ?』
みんな一斉に彼を見る。
『お化けが出たので見に行きました』
『見え透いた嘘をつくな!このバカ者が!』 怒りの鉄拳をくらったが、事実は事実である。

結城伸夫

結城伸夫
「野良猫」 テンテン(男性・兵庫県)
職場の同僚はアパートの三階で一人暮らしをしている。
夏の寝苦しい夜、窓を少し開けて寝ていたところ、すぐ近くで声がした。
『ここ、いい感じじゃない? ここにしましょう』
夢うつつだった彼は、自分は夢を見ているのだと思った。
しばらくすると、また声がした。
『ちょっと通ります』
寝ている彼の頭の上を何かがスタスタと横切っていく気配がする。
どうにも気になった彼は、のそのそと起き上って部屋の中を調べた。
すると、風呂場の脱衣かごに中で猫が子猫を産んでいた。
彼は、不思議とも思わずに母猫へ話しかける。
『そうか、お前は話せるのか? ここはペット禁止だから、少しならいいけど早く出て行ってくれよな』
彼は、しばらく餌を与えていたが、数日すると猫たちはいなくなっていたという。

結城伸夫

結城伸夫
沖縄修学旅行の際に九人で撮った写真

並木伸一郎

並木伸一郎
危険度 大 (70~95%)

金王八幡宮(70%)
JR山手線渋谷駅から徒歩10分『渋谷警察署』の裏手の坂を少し登ったとことにある。
『金運』 『開運』 『出世・仕事・商売繁盛』

花園神社(70%)
新宿駅東口から徒歩7分 靖国通り沿いにある。
『夫婦和合』 『子授け』 『縁結び』

蛇塚(75%)
東京タワーのふもとにある。
『金運』 『仕事運』

代々木森林公園(80%)
北谷稲荷神社(90%)
明治神宮(90%)
等々力渓谷(95%)

北野 翔一

北野翔一
「真夜中の訪問者」
『どうだ? 新しい部屋の住み心地は?』
会社近くの行きつけの飲み屋にいたFは、会社の二年先輩のSから声を掛けられた。
『それが、部屋はいいんですけど・・・。夜中に変な女が来て困っているんですよ』
話を聞くと、引っ越したのは3階建てのマンションの2階で、1階は駐車場、3階が大屋の住まい。
引っ越してきた当日の深夜、『コンコン』 とドアをノックされた。
時計を見ると、午前一時。時間も時間である、足音を忍ばせてドアの覗き穴を見る。
化粧気のない髪の長い女が立って、こちらを思いつめた表情で見つめていた。
『柴田さん・・・・開けて・・・・』 二~三分後、女は足音とともに去って行った。
次の日、自分の名前をドアの目立つ場所へ貼り付けておいた。
しかし、住人が変わったことに気付かないのか、女は毎晩同じ時刻にやって来る。

『おまえ、はっきり人違いだと言えばいいだけだろう』
『そうなんですけど・・・・開けない方がいいって本能が訴えるんです』
『何が本能だよ。明日は金曜日だから俺が泊まりに行って、その変な女を追っ払ってやる』
当日、Fは残業になってしまい、先輩のSが合いカギで部屋に入ったと電話があった。
午前二時ずぎにFが自宅に戻るとドアが開いていて、Sが後ろに倒れていた。
すぐに救急車を呼んだがSは『急性心不全』で亡くなった。
『先輩は柴田という男の身代わりにされたと思うんです。それ以来、女は来ていませんから』

織田無道

織田無道

美輪明宏
ぴんぽんぱんふたり話 美輪明宏 瀬戸内寂聴 集英社
瀬戸内寂聴
「オノ・ヨーコさんにお会いしたことがあるんですが、あの方も何度もジョン・レノンの幽霊に
会っているんですって。
あの方は彼に 『ああしろ、こうしろ』 と、全部教えられるんですって。何度か殺されそうに
なったときも教えてくれたそうです。ジョン・レノンが死んだあと、いろんな人に付け狙われて
とても命が危なかったんだけど、そんなとき、ちゃんと出てきて 『子供を連れて逃げろ』 とか
いってくれるんですって。」

その他、三島由紀夫と美輪明宏の親交、割腹自殺した後の話が掲載されています。

加門七海

加門七海
霊能動物館 加門七海 集英社

古くから人間と共生してきた動物たち。
彼らは、神社の狛犬、お稲荷様の狐、神社仏閣のあちこちに彫られた竜や鳥など
日本では古くから崇められる対象であった。
なぜ人は動物に神を見るのか?
狼、狐、竜蛇、憑きもの、猫、鳥、狸といった日本に存在する『霊能動物』の起源を
丁寧にわかりやすく繙く。
文献や伝承、そして著者自身の霊能体験と幅広い知識がふんだんに盛り込まれた力作。

加門七海

加門七海
あとがき
「猫じゃ猫じゃとおっしゃいますが
猫が 猫が下駄はいて
絞りの浴衣で来るものか
オッチョコチョイのチョイ」

『いや、来るかもよ』
そう思ったあなたは、この本が楽しめるかもしれない。
揚げた唄は、幕末の頃にできた俗曲で、『猫』とは芸者のことだという。
しかし、この歌を最初に耳にしたとき、私は猫そのものを想像し
『来るかもよ?』
と思ったものだ。
『化け』のあとに続く言葉の代表が『猫』であるように、猫という生き物には、生まれながらに化ける
化かすという素質が備わっている。
猫好き達はそれを承知で彼らを身近に置くのであるから、猫が絞りの浴衣で来ても、さして驚かない。
実際、私は思い切り、ののという猫に化かされた。原稿を読み返して、そう気がついた。
本書は、病気の猫を拾ってからの、なりふり構わぬ手当たり次第のオカルト格闘技子育て日記だ。

猫好きの方は、本書の随所で首を縦に振ることだろう・・・読んでいた管理人も縦に振り続けました。

加門七海

加門七海
「猫の話」
最初は夢から始まった。
夢の中、近所の公園を歩いていると、毛は汚れて艶が無く、何とも不潔に見える灰色の猫がいた。
『どこか具合が悪いのかな』
猫を抱こうとすると、少し抵抗したが、力尽きたようにおとなしくなった。
自分のマンションに猫を連れて行こうとすると、管理人が邪魔をする。
猫を穢れたものと決め付け、私の部屋まで入って来た。
『うるさいわね。出てってよ!』
見ると猫の姿がない。管理人と争っていたことで、どこかに逃げてしまったのか。
『どこにいるの?戻っておいで』 こう言ったところで夢から目覚めた。

夢うつつのまま布団から手を出すと、手に猫の毛の感触を感じた。
真っ暗な中、私は目を開いたが視界には何も映らなかった。
『ここにいて、いいんだからね』
その数日後の夕食時、テーブルの脇を通った影を目で追うと、そこに夢で見た猫がいた。
『夕食時に出るとはね。お前、お腹が空いているの?』
私は、おかずと水をそれぞれの小皿に入れ、床に置いた。
『猫の食べ物ではないけど、よかったらどうぞ』
それから、猫の姿を見るたびに食べ物を小皿へ入れて与え続けた。
ひと月ほど経つと、猫の様子が変わって来た。
毛並みが良くなり、動きが力強い。
猫が来てふた月ほどのち、猫は姿を現すと私の足に擦り付いて愛情を表現してくれた。
それを最後に、ぷっつりと私の前から姿を消した・・・成仏したのか、出て行ったのか・・・
「サーフィン」
東海地方のある海岸に、極めて難易度の高い波乗りスポットが存在する。
そこを大学生5人が訪れた時の話。
誰一人としてまともに波に乗ることができない。
それを見ていたサークルのリーダーKがボードの上で波が来るのを待っていた。
『今だ』
Kは波を見極め、タイミングを合わせて波に乗った・・・
しかし、すぐに足元がぐらつき、そのまま大きな波へ呑まれて行った。
一度、浜辺に戻ると、水を飲んだらしく呼吸が乱れていた。
『今のはちょっと油断した。今度は必ず・・・』
海上へ再び戻ろうとするKを後輩たちが必死で止めた。
『おまえら、俺が二度も失敗すると思っているのか?』
『ち、ちがいます。先輩が波に乗った時、ボードの下から何本もの白い手が出て来て
先輩の足元をゆさぶるのを、俺達見ちゃったんです。』

高橋克彦

高橋克彦
「十人が見た白い影」
私の父の実家は田舎の大きな寺である。
宿泊費がいらないことから、部長をしていた演劇部の合宿に利用したことがあった。
昼は一応、秋に予定している芝居の稽古に励んだものの、夜はすることがないので
本堂でお化けの話をすることにした。
その時のお化けの話の内容は全く憶えていないが、不思議なことはその後に起きた。
話が終わると、後輩のひとりが山門を見つめているのに気付いた。
山門を見ると、山門の屋根の下に真っ白い浴衣を着た男が立っていた。
時刻は深夜の1時である。お寺と言えども客が来るような時間ではない。
見ていると、その男は山門の扉に隠れるように消えた・・・・。
後輩の一人が山門へ走って確かめに行ったが、誰もいないとのこと。
そして、その後輩が山門の屋根の下に立ってみた。
本堂から見ると、輪郭はおろか後輩がそこに立っていることさえわからない程の闇。
どうして、さっきの真っ白い浴衣の男は鮮明に視えたのだろうと、私たちは騒いだ。
騒ぎを聞きつけた寺の住職である叔父が起きだしてきたので、先ほどの怪異を告げると
『やれやれ、今夜は起きていないといかんね』
叔父は何事もない顔で頷くと
『もう少しすると連絡が入るだろう』
つまり、死者が寺に挨拶に来たというのである。
私たちは笑ったが、一時間もしないうちに現実となった。
車で何時間も離れている病院に入院していた老人が、少し前に亡くなったという連絡が
寺に入ったのである。私たちの見たのがその老人であったのは疑いない。

加門七海

加門七海
もう四十年以上も昔、私がまだ小さかった頃の話です。
近くの公園で開かれた盆踊りに、友達と一緒に行きました。
目当ては踊りよりも、公園の端に並んだ夜店です。
私はソース煎餅を買って、浴衣を汚さないように食べました。
一緒に来た友達は、他の友達に誘われて盆踊りの輪の中にいます。
踊りの輪にはたくさんの人が入って、楽しそうに踊っていました。
知り合いに手を振ったりしていると、踊りの輪の影から、弘君が顔を出しました。
『あれ?』
思わず、私は声を出しました。
弘君は私を見つけて、少し恥かしそうにしていましたが、笑って小さく手を振りました。
私も手を振り返しましたが、なんだか変な感じがします。
『久しぶり・・・・』
続けて言おうとした時に思い出しました。
弘君は、去年の夏休みに海で溺れて死んでいたのです。

小池壮彦

小池壮彦
「幽霊街道」
京都の静原に幽霊街道と呼ばれる道がある。
ある夜、紀美子は友達十人と四台の車に分乗してドライブするうち、不気味な道に
入りこんでしまった。
『この辺から幽霊街道やろ』
周囲は闇である。
そこから先は、四台のうちの一台の車を置いて行くことにした。
一台目、二台目と発車していったが、三台目の車のエンジンがかからない。
やがて先行した二台の車が戻って来るとエンジンがかかった。
山まで行ったが何もなかったので、今日はこのまま帰ることに相談がまとまった。
みんなが、それぞれの車に乗ろうとしたとき、全員の視線が木田の車に集まった。
後部座席に知らない女が、長い髪をたらしてうつむいている。
『あんなん幻覚や』
木田は、そう言うと車に乗って帰ってしまった。
みんなが見送る間、知らない女は後部座席に座っていた。

高嶋聖峰

高嶋聖峰
「心中を迫る見知らぬ美女」
私が若い頃、山口駅近くの古ぼけた旅館に泊まった時のこと。
深夜、冷たい柔らかな手でゆすり起こされると、目の前には見知らぬ美女。
『お願いがあります。一緒に死んでください』
『今夜はこの夜のお別れに、私を抱き続けて心行くまで楽しんでください。一緒に死んで
いただきますのは明け方に致しましょう』
『ご厚意は嬉しく思いますが、今夜は飲み過ぎているので途中で肝心なものが萎れて
失礼致す心配があります。明日の夜にお願いさせてください』
次の日の夜、見知らぬ美女は昨夜と同様に現れ、同じセリフを言うのでした。
『体が冷えていますね。お風呂で温まってきませんか』
『あなたに抱いていただくと温まります』
と、突然部屋の襖が開いて、女中さんが入って来て電燈を点けました。
『部屋の前を通りますと、先生の声は聞こえるのに、相手の声が聞こえないので
幽霊が出たのかと思い、お叱り覚悟で飛び込みました』
『実は、この部屋には三年程前から、若い男前の男性が独りで泊まると、若い美しい
女の幽霊が出るのです。その幽霊と関係を結んだお客様は、翌朝、仏様になります。
今までに二人の男性が、枕を抱き締めて満足そうな顔で亡くなりました』
翌朝、その女中さんに聞いた話では、美男美女のカップルがこの部屋で心中をしたが
女性だけが死んで、男性は生き残った。
それから、この部屋で美しい女の幽霊が出るようになったとのこと。

竹内義和

竹内義和
「何を着ていこうかしら?」
ある母親思いの男性がいまして、三十歳の時のこと。
母は病弱で入退院を繰り返しながらも、現在は実家で療養中だった。
ある日の深夜、酔ってマンションに帰って来た。
そのまま寝てしまったのですが、朝方4時に目が覚めた。
そしたら、いきなり母親が部屋のドアから入って来た。
『あれ?家にいたんじゃないの?具合はいいの?』
母親は息子の質問には答えず・・・・
『何を着ていこうかしら』 手に持ったいくつかの着物を選んでいるようだ。
『どれでもいいんじゃないの。どこに行くの?本当に調子いいの?』
具合を聞こうと、再度、母親へ視線を向けた時にはいなくなっていた。
胸騒ぎを覚え、そのままマンションから飛び出した。
すると、マンションの前にタクシーが止まっていてドラーが開いた。
彼を乗せたタクシーは、行き先を告げぬまま、ある病院の前に停車。
運転手に料金を払うと、病院の中へ急いだ。
病院の中には医者がいて
『今、連絡を取ろうと思っていたところです。お母様はご臨終です。』
病室のベッドには顔に白い布を掛けた母親の横たわる姿があった。
その男性曰く
『今でも不思議だと思うのは、あのタクシーの運転手が行き先も言わないまま
どうして病院へ連れて行ってくれたかということなんです。』

加門七海

加門七海
HONKOWA 朝日新聞出版
「七海さんのオバケ生活 語り:加門七海 作画:みつつぐ

伊藤三巳華

伊藤三巳華
怪眼 伊藤三巳華 朝日新聞出版

伊藤三巳華

伊藤三巳華
スピ☆散歩 ぶらりパワスポ霊感旅4 伊藤三巳華 朝日新聞出版

伊藤三巳華

伊藤三巳華
スピ☆散歩 ぶらりパワスポ霊感旅3 伊藤三巳華 朝日新聞出版

伊藤三巳華

伊藤三巳華
スピ☆散歩 ぶらりパワスポ霊感旅2 伊藤三巳華 朝日新聞出版

伊藤三巳華

伊藤三巳華
スピ☆散歩 ぶらりパワスポ霊感旅1 伊藤三巳華 朝日新聞出版

加門七海氏は狐に守られているという

坂東眞砂子

坂東眞砂子
身辺怪記 坂東眞砂子 朝日新聞出版
「妖精の悪戯」
著者がアイルランドへ観光で行った時のこと。
ダブリンからレンタカーに乗り、クロンマイノルズを目指していた。
そろそろ到着しても良い頃との助手席に座るナビゲーターが言うが、行けども行けども
目的の町は見えない。
『ここ前、通ったところだ』
後部座席の友人が叫ぶ。
そういえば、この茂み、この道の曲がり具合は三十分ほど前に見た光景とそっくりだ。

アイルランドには 『妖精に悪戯されて道に迷った時には上着を裏返しに着ると難を
逃れる』という古い言い伝えがあるという。

つのだじろう

つのだじろう

三木大雲

三木大雲
続・怪談和尚の京都怪奇譚 三木大雲 文春文庫
「あげた薬指」
『指ちょうだい』
『え?』
思わず声を漏らして周りを見ました。
しかし、他の信号待ちをしている人たちは、何も聞こえていないのか、全く反応していません。
聞き間違いだろうかと思っていると、再び
『指が欲しいよ』
と聞こえてくるのです。

指を欲しがっているのは誰か、やがてそれが明らかになる。
思わず、ほっこりしてしまう・・・・そんな体験談。

三木大雲

三木大雲
「葬儀」
お寺である方の通夜があったときのこと。
亡くなられた方の息子さん4歳がトイレに行きたいというので連れて行こうとすると
『ぼくじゃなくて、お父ちゃんが水を飲みたいんだって』
『お供えしている水を飲んでいいんだよ』
『お父ちゃん、お坊さんが
この水飲んでいいんだって』
親戚の方が集まってきて、本当に話せるのか?という話になりました。
そこで、その子の母親が来て
『お父ちゃんは最後に何か言いたかったようだけど、聞き取れなかったから聞いて』
すると、男の子は本堂の隅の方に行くと何やら話をしている様子。
『お父ちゃんの部屋の机に手紙があるから、お母ちゃんに読んでって』
あくる日の葬儀の後に奥さんが来られて、息子が言った場所に主人の手紙があった
こと、その手紙がこれだと説明されました。
中を読むと、奥様への感謝の言葉と、息子さんへのお別れの言葉が綴られていました。
「日課」
『ごめんください』
上品そうな女性が、ここのところ毎日、会社にやってくる。
課長の奥さんだ。
彼女が現れると課長が慌てて会議室へと連れて行く。
毎日、毎日、いったい何があるのだろうと皆が思っていた。
『ひょっとして、不倫がばれた?』
公然の秘密として、課内に課長の浮気相手がいる。
これは会議室が修羅場になると思いきや・・・。
浮気相手の彼女の口から意外なことばが・・・
不倫はとっくにバレて、課長の家庭は荒れ、ノイローゼになった
奥さんは自殺したと・・・
自殺して死んだのに、毎日
『ごめんください』
とやってくるのだと言う。
千代田区7スポット、中央区3スポット、港区5スポット、新宿区5スポット
文京区3スポット、台東区2スポット、墨田区2スポット、江東区3スポット
品川区1スポット、大田区1スポット、世田谷区3スポット、渋谷区3スポット
中野区2スポット、杉並区1スポット、豊島区1スポット、北区2スポット
荒川区2スポット、板橋区3スポット、足立区1スポット、葛飾区1スポット
江戸川区1スポット

「歴代首相も恐れる軍服姿の霊  首相官邸」
2・26事件の首謀者か、被害者か・・・
軍服姿の霊が首相官邸に現れる。
2・26事件後は使用されていなかったが、佐藤栄作氏が移り住んでから
使用されるようになった。
かの村山富市元総理が官邸に住みたがらないのは、彼の身の回りの世話を
していた次女が幽霊を恐れているためという話まで記者の間でささやかれていた。

「鶯の滝」奈良県奈良市
夕暮れ時は通行止めになる精霊の宿る山奥の滝

奈良奥山ドライブウェイご通る春日奥山原生林は
豊かな自然とたくさんの精霊が宿ると言われている。
この一角に鶯の滝は存在する。
この場所に来ると、懐中電灯が壊れる、車が動かなくなる
人ではない何かが歩いている等の心霊現象が起こる・・・

管理人が行った際は、懐中電灯も車も壊れない、人でない
鹿やきつねが歩いていた・・・・。
けれど、滝を撮った画像にはオーブが写り、何やら話し声が
する方向には、鼻の大きな妖精とフクロウの映像が頭に
浮かんできました。

鶴田法男
「湖」 東京都 井上義明さんの体験
私の学校では毎年、中学一年生は一泊二日で林間学校へと行きます。
近くには湖があり、そこを一周走るのが恒例行事となっていました。
また、湖周辺にはゴミが散乱していることから、林間学校に来た生徒が清掃作業を
することになりました。
私が清掃作業をしていると、クラスメイトのM君が声をかけてきました。
『おい、ボートに乗ろうぜ』
しかし、私はカナヅチで泳げないためボートが怖くて断りました。
M君は一人でボートに乗ると、おどけながら私を大声で呼びます。
そして、バランスを崩して湖へ落ちたのです。
M君は水面に顔を出すと、悠々と泳いでボートへ上がろうとしました・・・・
が、突然、水中へ沈んでいきました。
私は先生に助けを求め、先生は警察へ連絡しました。
警察がダイバーを連れて、湖を捜索すると底に沈んだ溺死体となったM君を発見
しました。
ダイバーは発見した時の様子を・・・・
『最初は藻か何かに絡まっていると思ったんです。でも、近くに行ってよく見たら
彼の足を何人かの手がつかんでいたんです。みんな防空頭巾を被っていました』
この辺りは戦時中、焼夷弾で火の海になり、多くの人が湖で溺死していました。

小池壮彦

小池壮彦
「心霊ドキュメンタリー」
エクソシスト
ニューヨークのでのロケ中に出演者の一人が死亡し、大道具が怪我をした。
神父を呼んで清めの儀式を行ったという。
しかも儀式をすませてもロケ地が変わると、また奇妙な現象が起こり続けた。
原作者のウィリアム・ポーター・ブラッティによれば、撮影中に電話の受話器が
ひとりでに宙に浮いたことがある。
スタッフが見たと言い張るので、ある日ブラッティはその電話の横にいた。
すると電話が鳴った次の瞬間、確かに受話器がふらりと浮いた。
『結局のところ----』 とブラッティは言う。
『何があったのかは、わからないとしか言いようがないんだ。ただひとつ
言えることは、普通では説明できないってことさ』
岩手の怖い話

寺井広樹
岩手の怖い話 寺井広樹・正木信太郎 TOブックス
「トイレの個室」
岩手県内のF大学二年生のSさんが聞かせてくれた話だ。
自宅、学校、バイト先と行き来する生活が続いていた、ある日のこと。
バイト先から自宅へ帰る途中、歩いていたSさんを突然の腹痛が襲った。
トイレに行きたいが、自宅まではまだ距離がある。
慌てるSさんの目に公民館が映った。
『助かった!』
そう思うと、自然に歩く速度も上がる。
受付でトイレを借りたい旨を伝えると、二階のトイレを使うように言われた。
お礼を言って、階段を上がり三つあった個室の中央へ駈け込んだ。
誰も居なかったが、なんとなく真ん中に入った。
用を足し終え、衣服を整えて、鞄を手に持つ。
個室のドアを開け、一歩、外に出た。
その瞬間、真後ろで 『カチャッ・・・・』 と鍵を閉める音がした。
Sさんは受付係に挨拶することもなく、その場から走って逃げたという。
茨城の怖い話

寺井広樹
茨城の怖い話 寺井広樹・一銀海生  TOブックス
「観覧者」 つくばサーキット
レーサーの木田さんがサーキットを走行していると、コースの中に小学校低学年くらいの
男の子が立っていた。
それは、あるレーサーの息子で一年前に病気で亡くなったとのこと。
父親には子供の姿が視えないというので、木田さんがこう言った。
『コーナーに立っているから、カーブに気を付けろって言っているんだと思いますよ』
一年後、久しぶりにつくばサーキットに来ると、子供の姿が見えないので
『今日はライダーの〇〇さんは来ていないんだね』とレース関係者に聞いた。
『あの人、事故で大けがしたんだよ。カーブ曲がりそこねてさ』
『今は回復されているの?』
『まだ病院のベッドだよ。意識不明のまま・・・可哀そうに』
あの子・・・・応援に来ていたんじゃなくて、連れに来てたんだ・・・・

寺井広樹
しのはら史絵
お化け屋敷で本当にあった怖い話 寺井広樹 しのはら史絵 TOブックス
「お化け屋敷スタッフの恐怖体験 心霊動画」
心霊動画を使ったイベントがあった。
動画を見ていただき、動画に映っているヨシ君という男の子の霊を供養してくださいというもの。
お客様はお化け屋敷に入る前に、ヨシ君が映っている動画を観なくてはならない。
イベント中のある日、その動画を見ていたお客様が 『ヨシ君以外の子も映ってましたね』 
とスタッフに言ってきた。
そのスタッフは、お客様と一緒に動画を早戻しして、その場面を教えてもらった。
『ああ、ここです。ほら、その窓に女の子が!』
小学生くらいに見える女の子が、長い髪を真ん中で分けていて身体をゆらゆらと揺らしながら
教室の中を覗いている。

後で動画を隅々まで確認したところ、女の子は最初から窓に映っていた。
この話を聞かせてくれたAさんは、撮影から編集まで立ち会っていたが、その女の子には全く
気が付かなかったとのこと。
更に驚くことに、撮影時にAさんがいた場所が、ちょうど女の子の霊が立っていた所だ。
Aさんはその場にしゃがみ込み、動画に映らないよう隠れていたという。

牛抱せん夏
千葉の怖い話 牛抱せん夏 TOブックス
「生首さん」
オカルト作家の山口敏太郎さんの事務所を訪問した時のこと。
和室に通されて山口さんの話を聞いていると・・・・
目の前の窓ガラスに映る自分の姿にかぶって、生首が浮いて見えた。
私の様子に気づいた山口さんが
『どうしたの?何か見えた?』 と聞かれましたが、生首が見えたとは言えませんでした。
しかし、その後、夕飯の時間になると・・・
『うちの事務所、生首が出るんです』
と山口さんが言い出しました。
奥様も見ているし、下宿していた人も見ているらしい。

それから3年後、人気アイドルグループのOさんが山口さんの事務所へ来た時のこと。
『この事務所、何か感じる場所はありますか?』 と聞いたところ
『このあたり』
と示した場所は、下宿していた人と奥様が生首を目撃した場所だったのです。

山本十号
心霊家族の日常的憂鬱 身の毛もよだつ話を聞いてみないか? 山本十号
「旋律」
今でこそ霊感で飯を食っている叔母だが、もともとは僕と同じくあまり霊感が強い方ではなかった。
でも、素質はあると言われていて、その時はまだ目覚めてなかっただけ。
ではどうやって目覚めたか。
『そのネットの噂が本当かどうかわからないけど』と前置きして、叔母は自分が霊感に目覚めた
方法を教えてくれた。
『目をつぶって、部屋の中にいると考えて』
『・・・・うん、考えた』
『その部屋には大きなピアノが置いてある。見える?』
『うん、見えた』
『あなたはピアノの前に座って、鍵盤に指を下ろす』
『下ろした』
『さぁ、曲を弾きましょう』
『どんな曲?』
『なんでもいい。想像してみて』
『わかった。弾いてみる』
『最後まで弾けた? 最後まで弾けた人は霊感があるわよ。見える時には見えちゃうかもね』

小池壮彦

小池壮彦
「おいらん淵」
青森県出身の女性の体験。
ある日、職場の同僚にドライブに誘われた。
行き先は『おいらん淵』という怖い場所だと聞かされたが、彼女の出身地が
恐山の麓だったことから、全く動じていなかった。
しかし、おいらん淵の謂れを聞きながら現地に着いてみると、強烈な霊気に
圧倒された。
彼女の目には、何人もの女の狂ったように舞う姿が映ったという。
彼女は誘われるように、よろよろと崖っぷちへ足を進める・・・
慌てて飛んできた同僚に抱え込まれて難を逃れたが、そのまま進んでいたら
崖から転落していただろう。
なんでも、崖の近くまで来たときに意識が薄れたと言う。
帰りの車の中で、踊り狂う女が哀れに思えて泣いていたとのこと。

怪奇探偵の小池壮彦氏の取材によって、世に名高い心霊スポットの謎が
解き明かされる、という内容の本になっている。

菊実仔
「来なくていいよ」
祖母には大変仲の良い友人がいて松田町に住んでしました。
今度、久しぶりに二人でどこかへ出かけようという話になっていた ○月×日の早朝
その友人から電話がかかって来ました。
祖母が電話に出ると・・・・
『来なくていいよ。来なくていいから』
友人は、それだけ言うと電話を切ってしまったのでびっくりしましたが
『来なくていいって言ってたけど、今日の約束は都合が悪くなったのかな』と思い
祖母は出かけませんでした。
その日の夕方、友人の旦那さんから電話がかかってきました。
『昨日の夜のことなんですけど・・・うちの家内が亡くなりまして・・・葬儀のご案内でお電話したんです』

祖母は『奥さんから、今日の朝に電話がありました』 とは言えなかったそうです。

桜井伸也
埼玉の怖い話 桜井伸也 TOブックス
「天神様の怪」
埼玉県上尾市藤波、天神氷川八幡合社。
私が小学三年生の時、五年生に面倒見のよりIさんという少女がいた。
いつも天神様で出会うIさんだが、ある日を境に天神様に来なくなってしまった。
通学路で見かけたとき、私はその理由を尋ねたことがあるのだが、Iさんが話してくれた内容は
とても不思議な話だった。
その日は友達と日記交換だてら、おしゃべりをしようと約束し、自宅に荷物を置くと天神様へ向かった。
今にも雨が降りそうな雲行きだったが、Iさんが天神様に着いた途端、雨が降り出した。
天神様の軒下で雨宿りをしていると、いつ来たのか見たことのない少年がブランコに乗っている。
雨の中、傘もない・・・・
Iさんは、その少年に軒下で雨宿りするよう声を掛けたことから話をしようとした。
『ここら辺の子じゃないでしょ?どっちから来たの?名前は?』
『お姉ちゃん、髪が長くていいなぁ・・・・ちょうだい?』
話が噛み合わない、何か変だと思っていると、少年の手の指に爪が1つもないことに気付いた。
怖くて目を閉じて、少年を遠ざけるようにひたすら『遊ばない』 『嫌い』を連呼した。
『じゃあ、これ、もーらった』と少年が言うのと同時に指に激痛が走った。
目を開けると少年は消えていたが、左手の小指の爪が無くなって血が流れていたという。

小原猛
「俺の骨」
戦後、すぐの話。
首里に住んでいた山里さんは、首里城に転がっていた骸骨を拾ってきては近くの廃屋に集めて
遊んでいた。
今では考えられないことだが、当時は日本兵、アメリカ兵の死体がゴロゴロ転がっていたという。
その日も骸骨を拾って、木造の廃屋の中に運び込もうとしていた。
だが、廃屋の中に人の気配がした。
そこには一人の日本兵がいた。
『何しているの?』 山里さんは思わずそう聞いた。
『俺の骨を探している』
そう答える日本兵の首から上が無かった。
怖くなった山里さんは一目散に逃げ帰った。
次の日、恐る恐る廃屋に立ち寄ってみると、何故か一個の骸骨だけが石垣の上に置かれていた。
それ以来、骸骨集めはやめたという。

小原猛
沖縄の怖い話 小原猛 TOブックス
「ヒラウコー」
山入端さんは、いわゆる墓の工事業者である。
コンクリート製の墓は、門中と呼ばれる親戚一同の骨を収容するものなのでかなり大きい。
そして墓には分厚いコンクリート製の蓋がついていて、納骨の時などはそれを外すように出来ている。
門中に屈強な男手がいれば彼らが蓋を外すのだが、いない場合は山入端さんが呼ばれる。
ある時、北谷の門中墓の蓋を外して欲しいという依頼があり、同僚といっしょに現場へ向かった。
蓋を開けると、ヒラウコーと呼ばれる線香の臭いが墓の中からしてきた。
おそるおそる中に入ると、ヒラウコーを焚いた後などない。
さらに進むと頻繁に肩をポンポンを叩かれる。
そこで、山入端さんが試しに自分が持ってきた新品のタバコを一箱取り出してから、こう言った。
『あのー、すみませんが私たち二人は門中の者じゃないんで、お墓の工事業者なんです。
これからお墓の中を掃除して、門中の方をお招きしますのでよろしくお願いします。これはどうぞ
受け取ってください』
タバコを一箱、墓の内部にお供えすると、それきり肩は叩かれなくなった。
納骨を終えると一人のオバアにこんなことを言われた。
『あんたたちよ、先祖がタバコありがとうと喜んでいるよ。いい仕事したねー。また何かあったら
あんたたちに頼むさ』
それ以来、墓の中で何かあった際は、必ずタバコを一箱お供えするそうだ。

福谷修
怪異ファイル 福谷修 TO文庫
「原因」
『最初はこのマンションに何かあるんじゃないかと思ったんです』
CGクリエイターのIさんの夫はイギリス人で、夫婦と生まれたばかりの長男と三人で暮らしている。
ある日、掃除のために夫の書斎に入ったIさんは、室内が異様に寒くなっていると感じた。
夫に聞くと、やはり急に室内がひんやりすることがあるらしい。他にも、本棚の本が突然床に落ちたり
壁に飾った写真が飛び散ったり、押し入れの中で音がして、中を見ると衣装ケースが半分開いて
いることもあったという。
Iさんが不安に感じていた矢先、今度は夫がマンションの階段で滑って骨折する事故が発生する。
Iさんも家の中で転倒するなど、ケガが絶えなかった。
Iさんが母親に相談すると、霊能力があるという初老の女性を紹介し、マンションを見てもらうことにした。
女性は、Iさん夫婦からこれまでの経緯を聞いた後、物珍しそうにリビングなどを確認していたが
夫の部屋に入るや表情が一変した。
女性は、壁に貼られた二枚の布をじっと見つめた。布には白い家紋が染め上げられている。
『これをどこで?』
女性が夫にたずねると、ある服にあったもので格好よかったので切り抜いて飾った、と説明した。
『その服はありますか?』
夫が押し入れの衣装ケースから取り出した。それは黒い振袖の喪服だった。
もともとIさんの親族の家にあり、年代物の上に誰も着ないため処分する予定だったが、喪服の家紋の
デザインを気に入った夫の頼みでIさんが引き取ったのだ。
喪服は、左右の胸の部分だけが四角く切り抜かれていた。
『たぶん、これね・・・』
壁の家紋を喪服に戻し、Iさんが縫い付けて、再び収納ケースに戻すと、それ以来異変は止んだという。

福谷修
​​ 「通過」
女優のIさんが地元の高校に通っていた時の話。
寝坊したため、いつもより二つ遅いバスに飛び乗った。
一番後ろのシートに座り車内を見ると、三人ほどの老人が乗っているだけで閑散としていた。
2つ遅いバスだと、こんなにも空いているのかと思った。
やがて、バスは次の停留所に着いて後部のドアを開けた。
外でバスを待っていた人たちは、バスを見て戸惑った表情をしているだけで乗ろうとしない。
---え?なんで? 乗らなくていいの?
と思って見ていると、その中にクラスメイトがいた。
『発車します。閉まるドアにご注意ください』
アナウンスと共にブザーが鳴り、ドアが閉まった。

昼休み、Iさんは遅刻して来たクラスメイトに、どうしてバスに乗らなかったか尋ねた。
『だって、あのバス、メチャメチャ混んでいたでしょ。なんか、顔色の悪いサラリーマンがいっぱい
乗っていてさ。 ドア付近にも立っている人がいたし。 みんな、諦めるしかなかったんだよ。
Iさん、あのバスに乗っていたの?』

福谷修
恐怖のお持ち帰り 福谷修 TO文庫
「撮影妨害」
ベテラン監督のS氏がホラー映画の撮影で、海岸近くの廃墟でのことだった。
リハーサルを終えて、いざ本番を始めると、これまで正常に作動していたカメラが急に止まってしまった。
カメラマンがチェックするが、カメラには何の問題もない。しかし、本番に入るとカメラが止まる、その繰り返しだった。
スケジュールが押していたため、誰も『幽霊のしわざ』とは口にできなかった。
『くそ~! ふざけんなよ!!』
ふだんは温厚なS氏が珍しく激高して、地下室のコンクリート壁を思い切り蹴飛ばした。
『おい、幽霊! 見ているんなら黙って見てろ! このクソ野郎が!!』
そう言って何度も壁を蹴った。
(よし、あと一回だけカメラを回そう。ダメなら撮影場所を変えよう)
S氏は祈る気持ちで再び本番に臨んだ。
すると、今までのことが嘘のようにカメラが動き出した。
(まさか、俺の声が幽霊に届いたのか・・・)
その後もトラブルはなく、撮影を終えることが出来た。
『問題は、その後だったんです・・・・編集をしようと、撮った映像をチェックしたら、どのシーンにもコーンコーンって
壁を叩く音が入っていたんです。現場では誰一人聞いていない音です。聞こえたら撮影を止めています。
完全にセリフに被っているから使い物にならない。』

西浦和也

西浦和也
首都、東京。
その昔、帝都と呼ばれていた頃から、ここは怪異の大都会でもあった。
そして、今日も数多の異形がうごめく・・・・。
解体作業中に発見された古い地下通路に現れた柔道着の男。
突然、エレベーターから降りて来た黄緑色に輝く謎の男たち。
湯島天満宮で授かったお守りにまつわる奇蹟と祟り。
果ては、硫黄島から石を持ち出した自衛隊員に振りかかった災難。
怪談蒐集家・西浦和也による珠玉の実話怪談48編。

観雪しぐれ
恐怖・呪い舟 ~実話怪異譚~ 観雪しぐれ 山口敏太郎 TO文庫
「落ちてくる」 観雪しぐれ
大学生の頃に下宿先で夕食の支度をしようと台所に立った時のこと。
食材を用意し、さて包丁をと思うのだが見当たらない。
使用後は必ずシンクの水切りトレーの横にある包丁立てに戻している。
一人暮らし、尚且つ当時は友人もいないため、部屋に人を招き入れたこともなかった。
はて・・・・
前回どこかへ置き忘れたのだろうか。いや、覚えがない。辺りを探し回るも包丁は見当たらない。
・・・・と、その時・・・・
目の前を上から下に何かがよぎった。
ズドン!
音を立てて、まな板に包丁が突き刺さった。
状況を飲み込むまでに少し時間がかかったが、慌てて天井を見上げても包丁が刺さっていた痕跡はない。
無論、包丁が天井から降ってくる原因にも心当たりがない。
それだけの話だが、その後その部屋で時に変わったことは起きなかった。

実はこの話を思い出したきっかけがある。先輩のOさんと怪談話に花を咲かせていた時、彼がこんな話をしたのだ。
彼の親戚の女性が子供時分、友達と二人でバービー人形の着せ替えをして遊んでいると人形の靴が片方
見当たらなくなった。
二人でどこだどこだと部屋中を探したが見当たらない。やがて疲れてしまい、半ば諦めていたその時・・・・
二人の目の前に天井から何かが落ちてきた。驚いて目をやると、いくら探しても見当たらなかった人形の靴だった。

この世にはそういう悪戯をする妖怪のようなモノがいるのかもしれない。

中沢健
怪談・呪い屋敷 中沢健 山口敏太郎 牛抱せん夏 TO文庫
「雑居ビルの笑い声」 中沢健
友人のKが、ある雑居ビルで警備員の仕事をしていた時の話。
その日、Kは深夜2時の見回りをしていました。雑居ビルには喫茶店や学習塾などのテナントが
入っていますが、昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていました。
彼は霊やオカルト現象をまったく信じないタイプの人間でした。
『あはははは』 
突然、男の笑い声が聞こえました。
『そんな馬鹿な、こんな時間に誰か残っているのか?』
声は学習塾から聞こえます。確認しようと近づくと
『あはははは』 
また笑い声が聞こえます。Kは学習塾のドアを開けました。しかし誰もいません。

翌日、Kがまだ明るいうちに雑居ビルに出勤すると、あの学習塾の前で、泣いている女子中学生を
男性講師がなだめている光景に出くわしました。
『何かあったんですか?』
『嫌な話です。うちに通っていた男子生徒が交通事故で亡くなったんです。これから通夜に向かいます』
『も、もしかして、亡くなった子というのは大きな声で笑う・・・・』
『ええ。あの子はとても陽気で、しかも真面目でした。いつも深夜まで勉強していましたから。
昨晩、夜食を買いにコンビニへ行く途中で事故に遭ったんです』
『昨晩の何時頃ですか?』
『新聞には2時頃と書いてありました。それでは葬儀に向かいますので失礼します』

山口敏太郎

山口敏太郎
怪談・呪い神 山口敏太郎 TOブックス
「神様いらっしゃい」
天空愛さんの祖父は不思議な体験をしたことがあるという。
筑波山にある雷神様にお参りに行った時に、思わずこう言った。

『どうぞ近くに来た際には家に寄ってください』

あまり深く考えずにお願いしたのだが、数日後、雷が祖父の家に落ちた。
いくら神様といっても、やたら家に呼ぶものではない。

山口敏太郎

山口敏太郎
ネットで知り合った、妖怪や民俗学に造詣が深い女の驚愕の正体とは?
世界UFO大会に出ていると電話をかけてきた女の末路は?
自称・地底人と地底語翻訳者とのインタビュー全貌。
彼氏が宇宙人だと言い張る女の本当の姿。
ネパールでUFOに話しかけられたという女性・・・・。
テレビをはじめ、数々のメディア活躍する著者が、実際に遭遇した『トンデモ』な人々との
奇妙奇天烈な交流を描く。

人の心を描かずして、怪談と呼ぶことなかれ!!
怪談とは人間を描ききるものなのだ。
山口敏太郎は、これからも怪談を『生の汚物』として投げつける。
それは、病んだ悲鳴が詰まったニンゲンの塊なのだ・・・・・あとがきより

山口敏太郎

山口敏太郎
「あのお面は三人くらい不幸にしている。表に出さない方がいい」
ある骨董商から入手したその面を見て、霊感の強い知人は言った。
胡乱な話だと高を括っていたが、興味本位でお面に関わった人達が次々と不気味な死の
連鎖に巻き込まれ・・・・・。
テレビ放送後、ネットで物議を醸した『呪い面』の驚愕の全貌とは?!
メディアに多数出演し、膨大な知識と語り口で他の論者を黙らせ続けるオカルト界の巨匠が
自ら見聞し体験した、真の怪談=真怪の傑作選・31話を収録!!

山口敏太郎

山口敏太郎
「うるさい」  山口敏太郎
これは岐阜県で会社を経営する某さんから聞いた体験である。
彼には霊感が全くないが、若い頃に住んでいた家では奇妙なことが頻発した。
・・・・音がするのだ・・・
『パラン、パラン』
『パキパキ』
(どうせ家が軋む音だろう。あれは霊ではない)
そう思っていたが、音は鳴り続けた。
ある日、霊感の強いバイト君が家に来た。
『僕はこれ以上、中へ入れません』
そう言って、玄関から中へ入ろうとしなかった。
それ以降も音が止まないので、友人に相談すると
『人間と一緒だよ。うるさいとか、いい加減にしろだとか、言うと効果があるよ』と言われた。
数日後、奇妙な音がしたので
『うるさい!!』 と怒鳴ってみた。
すると、音がぴたりと止まった。
しかし、音の原因が 『霊だった』 とわかると怖くなり、引っ越した。
ネットでは流れてない芸能界の怖い話 TOブックス
「ラブホテルの呪縛霊」
AD歴五年の女性の体験。
それは『気になるお仕事の裏側全部見せますSP』という番組をADで担当した時のこと。
『ラブホテルの裏側にどんな苦労があるのか調べたいから。悪いけど、お前、実際に一週間
くらい働いてみてよ』
という訳で、私が体験することになったラブホテルは、渋谷にある老舗でした。
主に掃除をやってこいとのことで、使い終わったコンドームは当たり前。二十四歳の私には
刺激の強いものでした。
そんな清掃業にもようやく慣れてきた、ある日のことでした。
いつも通りベッドメイキングをしていると、背後に視線を感じたのです。
恐る恐る振り返ると、そこには色白で坊ちゃん刈の幼児が、薄汚れたうさぎの人形を抱え
恨めしそうな目で私を刺すような目で見つめていたんです。
『ギャ~、出た~~』
廊下へ飛び出すと、今度は廊下の電気が消えました。
『誰か~、助けて~』
『どうしたんだい? 大丈夫?』 一組の年配のカップルが心配そうに声をかけてくれました。
品の良い心優しい二人の姿を見た瞬間に、お婆さまに抱き着いていました。
『幽霊を見たんですぅぅ 超怖かったですぅぅ』
『幽霊は怖くないよ 大丈夫』と優しく声をかけてくださいました。
その後、全室の掃除を終えた私は、経営者のいる受付で、子供の幽霊を見た話。年配のカップルに
助けられた話をしました。
すると、子どもは経営者のお婆さんのお孫さんであることが判明!
『年配カップル・・・? 今部屋を使っているお客さんにご年配は一組もいないよ』
『え?どういうことですか?』
『あんた、それ何階で見た?』
『四階ですけど』
まさかと思うけど、防犯カメラ見てみようか』
防犯カメラには、私が一人で、”誰か”と話している映像が残っていました。
実は四階の部屋で、ちょうど一年前に年配カップルが心中をしたというのです。
しかも、容姿は私が見た通りの人だったと・・・・
テレビでは流せない芸能界の怖い話(芸人が遭遇した最恐怪談集) TOブックス
「お客さん0人のライブで」
お笑い芸人Sさんから聞いた話。
今ではテレビでその姿をよく目にするSさんですが、数年前までは都内のお笑いライブ
しかも素人同然の新人芸人も出演するような小規模ライブにも出ていたそうです。
その日は、事務所に所属していないフリーの芸人が主催するライブで、Sさんのコンビも
出ることになっていました。
19時、開演。客席に誰もいないままライブはスタートしました。
出番は進み、次はSさんコンビの番
『どうも~』
客席にだれもいないと聞かされていたが、もしかしたらお客さんがいるかもしれないと
思った期待は見事に裏切られ、Sさんはネタを真面目にやるのがバカバカしくなった。
そこで、お尻を出したり、へんなダンスを踊ったりと、ふざけはじめた・・・
相方が『マジでやめろ!客に失礼だろ!』
不思議に思ったSさんでしたが、相方の声のトーンが本気だったので、ちゃんとネタを
やり直したそうです。そしてネタを終え、袖に下がると聞いた。
『客に失礼って、0人だったじゃん』
『は? 2人いただろう。最前列に老夫婦が。お前がケツ出した時、スゲー嫌な顔してた』
その老夫婦は、Sさんの相方にしか見えていなかったそうです。
テレビでは流せない芸能界の怖い話(裏事情編) TOブックス
「赤帽のホームレス」
今では僕の手掛ける舞台のチケットは完売、俳優としての知名度もそこそこあるのではないか。
そんな風に自負している、少々、自信過剰なTです。
高校を卒業した後、舞台俳優を目指して田舎から上京した頃の話。
とにかく貧乏で、居酒屋のアルバイトの帰り道に寄った公園で知り合った赤帽のオッサン。
公園で何度か一緒に酒を飲むうちに、若いころは工事現場で働いていたが、50歳を過ぎて
現場で怪我をしたことがきっかけでホームレスになったことを知った。
ある日、オッサンに二週間後に開催される舞台のチケットを手渡した。
『これさ、俺たちの舞台のチラシ。チケット代なんていらないし、その格好のまま来てよ』
そして迎えた舞台当日。会場を見ていた僕は、例の赤い帽子を発見した。
『あ! おじさん』
僕は思わず、離れた場所から声を掛けたが、オッサンには届かなかったようだ。
舞台が終わった3日後、おっさんを訪ねて公園に行くと・・・
オッサンは1週間前に亡くなり、俺たちの舞台をとても楽しみにしていたとのことだった。
あの日、僕が会場で見かけたのはオッサンの幽霊だったんだ。
以来、オッサンの姿は見かけていないが、未だにその姿を探してしまう。
そして、いつも彼が見てくれていることを僕は願っている。
テレビでは流せない芸能界の怖い話(解禁編) TOブックス
「尾いてくる女」
イケメン俳優Tさんが、ある夜、体験した話。
その夜、Tさんは主演したテレビドラマの打ち上げ会場にいた。
都内のバーを貸し切り、カラオケ、ビンゴ大会、シャンパンタワー、ドラマのNGシーンの上映。
そんな楽しい打ち上げも終わり、会場が自宅近くだったことから歩いて帰ることにした。
繁華街を一人で歩いていると、背後に視線を感じる・・・・
後ろを見ると、知らない女がビルの壁から右半分だけ顔を出してTさんをじっと見ていた。
自宅へ帰りつくまで、振り向く度に女は右半分だけを物陰から出してTさんを見ていたという。
周りを見回して、女がいないことを確認してマンションへと入った。
そして、風呂から上がり寝室へと入った途端、さっきの女がカーテンの隙間から右半分だけ
顔を出していた。しかも、窓の外ではなく内側から・・・・
『どうやって入った? どうやって入ったかと言っているんだよ!』
Tさんは恐怖を感じながらも一気に近づき、カーテンを開いた。
その女は、顔も、体も、右半分しかなかった・・・・そして服装は古い着物。
Tさんが失神から目覚めると、女の姿はなかったという。
文献によると、江戸時代に体を真剣で真っ二つにする処刑が行われていたことがあるらしい。
テレビでは流せない芸能界の怖い話(流出編) TOブックス
「信号待ち」
一時期ブレイクした若手芸人のYは携帯電話依存症。
常に携帯電話の画面に見入っている。
そんな彼が仕事に向かう途中でのこと。
珍しく携帯電話はポケットにしまっていた。
赤信号の横断歩道の手前で止まり、何気なく反対側を見ると若者が携帯電話をいじっていた。
次の瞬間、お婆さんが若者の隣に現れた。
お婆さんは若者へ一瞬目をやると、前を向いて赤信号の横断歩道を歩き出した。
釣られるように若者も歩き出した。
そしてクラクションの音と共に若者はトラックに轢かれてしまった。
Yと目が合ったお婆さんは薄く笑って消えていった。
翌日、その横断歩道には花が供えてあった。
「よく見る幽霊」
21歳にして初めて霊を見たという女性タレントのAさんの体験。
芸歴3年目の夏、初めてAさんの好きな心霊関係の仕事が入った。
それは霊能者と何人かのタレントが有名な心霊スポットへ行くものだった。
霊能者曰く、今まで霊を見たことが無い人でも、この場所に来ると見てしまうことが
よくあるとのこと。
その話の通り、霊能者が指差した場所に存在するはずのない女性の姿を見てしまう。
あれだけ見たがっていた霊の姿だったが、実際に見ると全身が震えてしまう怖さだった。
その霊能者に、Aさんは普段の生活の中で多数の霊を見ていたのに、霊だと気付いて
いなかっただけだと言われて、すっかり信じてしまった。
そんなある日、Aさんは同じ霊をよく見ることに気が付いた。
それは中年くらいの男性でくたびれた背広を着た霊だった。思い起こしてみると
ある時は人ごみの中、ある時は金縛りの中の自宅の部屋、またある時は道端で電柱を
見上げる姿だったりした。
そんな折、AさんのDVD発売イベントの握手会に霊だと思っていた男性がやってきた。
その男性は、ちゃんと順番に並んでいて、ちゃんとスタッフに誘導されていた、紛れも
なく生きている人間だった・・・・と思った瞬間・・・
金縛りの中、自宅部屋で見た男性の姿を思い出し、何故部屋に?と急に怖くなった。
「ファンレター」
映画監督のSさんが体験した話。
当時、スランプだったSさんは次回作のアイディアが全く浮かばずに途方に暮れていた。
そんな時、一通のファンレターの内容に目が止まった。
『家を出て、最初に出会った子どもの後に付いていけば、貴方の映画は完成します』
ものは試しと自宅を飛び出し、近くの神社まで歩くと子どもがいる。
そして、子どもの後を付けていくと見知らぬアパートの一室へ入って行った。
その一室が見える場所から部屋を覗いてみると、子どもの姿はなく、バスロープを着た
女性と、その背後から刃物を持った黒い影が彼女に襲いかかろうとする姿が・・・・
犯行現場を目撃したSさんは警察に通報、警官とともに部屋へ突入したが、誰もいない
争った形跡もなかったとのこと。
その後、Sさんはスランプを脱して、新作は完成し大ヒットとなった。
そんな折、警察から連絡が入った。
例のアパートを改めて捜査した結果、床下から女性の腐乱死体が発見されたという。
『もう一度、目撃したときの様子を聞かせてもらえませんかね?』
「対処法」
一昔前に、番組をいっしょにやっていたADの女の子から聞いた話。
全ての雑用を任されるのがADの仕事、睡眠時間も驚くほど短く、ほとんど家にも
帰らずにスタッフルームで雑魚寝するのが当たり前。
とにかく、寝られる時に寝る、これが最優先の職業。
そんな生活が続くと、もちろん顔色は悪くなってやつれていくのだが、またの休みや
仕事が早く終わった時に身体を休めるのである。
そのADの女の子はどんどんやつれていくので傍から見ていて心配になった。
話を聞くと、自宅に幽霊が出て眠れないとのこと。
はじめは金縛りだったが、そのうち目に見えないながらも、その存在を感じるように
なってしまったと言う。
お祓いに行く時間もないので、聞いたり、調べたりしたら対処法が見つかったとのこと。
それは枕元に刃物を置いておく、それだけだった。
彼女は、枕元にハサミを置いて寝てみた。
すると、翌朝、目覚まし時計が鳴るまでぐっすり眠れたという。
『グッスリ寝られたんですけど、起きたら枕元にハサミが突き刺さっていたんです』
「霊の通り道」
この話は、あるディレクターに聞いた話。
地方のお盆の祭りの様子を、他のディレクターの代わりに取材に行った時のこと。
急遽の代役だったのでホテルの予約も取らずに行ったため、取材は無事に終了
したものの、当日泊まる場所がない。
途方に暮れていると、取材の窓口になってくれた自治体の方が声をかけてくれた。
『うちに泊まりに来たらええが』
お邪魔したお宅は大変に大きな家で、建ってからの年月も感じる貫禄があった。
ただ1つ気になったのは、その家の裏が墓地だったこと。
その夜、おもてなしの料理と酒を満喫した彼は寝室として通された部屋で就寝した。
ふっと目を覚ますと、大人数の足音が聞こえて来た。
その足は、金縛りで動けない彼の頭、胸、腹、足を踏みつけ、先の壁へ消える。
そして、頭の先の壁から現れた次の幽霊の群れが彼の体を踏みつけて行く・・・・。
その異様な光景に彼は気絶してしまう。
翌朝、夜中の体験を家の主人に話すと、『霊の通り道はあの部屋にあったのか』と
納得されながらも『ごめんね~』と謝罪されたとのこと。
それを聞いた彼は、すかさず
『今度、心霊の番組をやるときは使わせてください』とお願いしたそう。
「カメラマンの仕事」
お笑い芸人が海へ落ちるのを撮影するために、あるカメラマンが海の中で待機していた。
お笑い芸人2人が空気バットで打ち合い、負けた方が落ちてくる。
そろそろ落ちてくる頃だろうと身構えていると、突然、足に海草のような物が絡まり
海底へ引っ張られた。
その時、船上でモニターを見ていたスタッフがカメラマンの異変に気づいた。
そして、もしものために待機していたダイバーが出動。
カメラマンは激しく揺さぶられながらも、彼を海底に引っ張るものにカメラを向けた。
それは海草などではなく髪の毛であり、髪の先には目鼻口の付いた女性の首から上が
彼を海底へと引っ張っているのだった。
『俺は死ぬのか』と思った瞬間、両腕の下に手が差し込まれた。
ダイバーが来ると、女は海底へと消えていった。
船上では、その一部始終がモニターに映し出されていて、居合わせたスタッフ全員が
恐怖を目撃することとなった。
「誰?」
ある女優さんから聞いた話。。
彼女は霊感体質で、いろんな場所、場面で心霊体験をしているとのこと。
ただ、話としては『どこかで聞いた話だな~』というようなシチュエーションで
”特に怖い”という印象がなかった。
しかし、最後の1言で印象が一転した。
『全部、同じ男なの』
20数年、心霊体験してきた相手が全て、同じ男の霊とのこと。
誰なのかはわからないんだとか・・・
「女優に敬礼」
売れっ子舞台女優のK子さんが体験した話。
まだ売れない若い頃、劇団仲間と自主制作映画コンクールに応募するための撮影で
青森の田舎へ来ていた。
映画の内容は、日本初の女性兵士の物語。
1泊2000円の安旅館に5日間泊り込んでの撮影だった。
3日目の晩、部屋のドアをノックされた。
劇団の他のメンバーが来たと思いながら覗き窓を見ると、軍服を来た兵士が立っていた。
兵士の体の色は薄く、後ろの景色が透き通って見えた。
覗き穴から目をそらしたところ
『ドーン』 とドアが更に強い力でノックされた。
『はい』 と思わず返事をしまった。
恐る恐る覗き窓を見ると、兵士は直立不動で敬礼をしていた。
敬礼をしながら、先ほどよりも薄くなり、やがて完全に消えてしまった・・・・
翌朝、他のメンバーと話をすると、皆のところに兵士の霊が出ていたことがわかった。
『怖くてここには、もう泊まれない』 と全員の意見が一致してホテルへ宿を変更した。
そして、ホテルでテレビを見ていると、昨日まで泊まっていた旅館が炎上している
映像が流れてきた。
もし、あのまま泊まっていたら焼死していたかもしれない・・・・
軍服を着た兵士は、このことを知らせるために出てきてくれたと、全員が感謝した。
「信号待ち」
若手芸人Yの体験。
Yは自他共に認める携帯依存症。移動の際も携帯電話から目を離さない。
自宅近くの横断歩道の信号待ちの際も携帯電話から目を離さなかった。
すると、老婆と思しき人が前進するのが視界の隅に見えた。
彼は、横断歩道の信号機が青になったのだと思い、老婆と一緒に前へ進んだ。
突如、大きなクラクションの音・・・見れば、信号は赤のまま。
トラックが止まってくれたお陰で事なきを得た。
それを見た老婆は悔しそうな顔をしながら消えた・・・・
そして、その話を後輩芸人にすると『携帯依存の罰』と言われ、死にかけたこともあり
携帯電話を見ながら歩くのは止めると決めた。
次の日、件の横断歩道で信号待ちをしていると、道路の向こう側で信号待ちをしている
若者がいた。
その若者は携帯電話をいじっていた・・・・・次の瞬間、昨日見た老婆が隣に現れた。
老婆は若者を一瞥すると、赤信号の横断歩道を前へ歩きだした。
それに釣られるように若者も前へ歩き出した・・・・
その後、大きなクラクションの音とともにトラックが突っ込んで、若者は轢かれてしまった。
「やりすぎたドッキリ」
その時の番組は若手芸人をドッキリで騙すというものだった。
山奥に連れて行き、暗闇の中、火の玉、女の声、人影でもう半泣き状態。
最後に、用意された落とし穴に若手芸人を落とせば、ドッキリは終了。
プロデューサーが若手芸人へ電話をして、落とし穴へ誘導した。
若手芸人は落とし穴に落ち、すぐに救出された。
ロケバスの中で若手芸人が怒り出した・・・・
『ちょっと、あれは危ないでしょ』
『あんな落とし穴は初めてですよ。怪我したらどうするんですか』
今回の落とし穴は、深さ2メートルほどで下にマットを敷き詰めてあった。
若手芸人曰く
『あんな狭い穴の中にエキストラを入れるなんて危険過ぎます。
しかも、子供やお年寄りまでいたじゃないですか。
もしも、僕が上から落ちていたら怪我させていましたよ・・・・・』
もちろん、エキストラなんて使っていない。
「オーディション」
夏になるとかならずある心霊番組。
その心霊番組で、芸人に心霊体験を語ってもらう企画が上がってオーディションを
することになった。
ある若手芸人Eが
『僕の友達の話なんですが、小学生の頃に3人で近所の廃墟の洋館へ肝試しに
行った時、1人が突然、絶叫して洋館を飛び出した。あとの2人も絶叫して後を追った。
最初に飛び出した子に事情を聞くと  ”幽霊が出た、上から見てた” とのこと。
翌日、その子の母親が洋館で首吊り自殺しているのが発見された。
その子が見たのは自分の母親で、その後、その子もおかしくなり自殺した』
その話を聴いていたADの女性が、いつもは意見などしたこともないのに
『その話、嘘ですよね。絶対に嘘。嘘は言わない方がいいですよ』
と若手芸人に食ってかかった。
ディレクターが呆れ顔でADの女性に、知っている話なのかと聞いてみると・・・・
『Eさんが話している間ずっと、後ろで男の子が ”嘘つくな!嘘つくな!”と言ってた』
実は、Eの話で本当なのは、友達が首吊り自殺した部分だけだった。
「ブレーキが効かない・・・」
富士スカイラインからの帰り道、いっしょに行った友人が立ち小便をした。
道端の花が飾られているところだった。
『こんな場所で小便したらまずいだろう』
『平気、平気』
不安なものを感じながらの車での帰路のスタートだった。
しばらくは快調に飛ばしていたが、先の信号が赤になった。
信号待ちでトラックが停車している・・・・
減速するためにブレーキペダルを踏むが反応がない。
急いでシフトレバーで減速して、トラックを追い越して赤信号も無視する形となった。
車の故障だと思い、ガソリンスタンドを探しながら走った。
スタンドはすぐに見つかったが、タンクローリーが入り口を塞ぐように停車している。
タンクローリーに気づくのが遅かったので、あとはブレーキで止まるしか方法がない。
とっさに、効くはずのないブレーキを思い切り踏み込んだ。
『キー』 車は止まった。
『しっこしてごめんなさい』隣では友人が謝りながら失禁していた。

入江敦彦
怖いこわい京都 入江敦彦 新潮文庫
「釘抜きさん」
正式名称『石像寺』。だが誰もが『釘抜きさん』と呼ぶ。

狭い境内は地元の京都人たちでいつもいっぱいだ。
縁台に座って、お寺が振舞ってくださる渋茶を啜りながら洛中耳袋を堪能したものだ。
あるバーサマの悩みは隣人の騒音であった。夜な夜なガラゴロと石臼を挽くような、すり鉢の
ような音が響く。眠れないほどではないが、一晩中続くのでとにかくイライラする。
注意をしようと試みたが、いつノックをしても部屋にいたためしがない。
『そやし大家さんに相談してんわ。そしたら、どうえ? うちの隣、空家やってん。もう、ずーっと』
そこで釘抜さんに願を掛けに来たのだという。
ここで耳にした霊がらみの話はそれだけではない。
聞かせてくれたのは老女というにはまだ若い、色香の残るご婦人で、どうやらすぐそこの
上七軒の女将さんであるらしかった。彼女を悩ませているのは『狐憑き』。
なんと舞妓さんの一人がそうなのだという。
『可愛らして座持ちもようて、ほんまにええ子ですわ。それが春前くらいからおかしゅうなって・・・
興奮したら、泡吹いて倒れはるまで手ェつけられしまへん。 こないだなんか踊りの最中に
おいど絡げて(お尻捲って)オシッコしてしまはってねぇ・・・・』

隣家のポルターガイストだの狐憑きだの、釘抜きさんもご苦労なことである。
この小さな寺院は、まるでそんな厄介事の標本箱みたいである。

佐藤愛子
こんなふうに死にたい 佐藤愛子 新潮文庫

北海道の別荘で聞いた、屋根の上の不思議な足音・・・・。
それは霊から私へのメッセージだった。
以来、頻繁に届けられるメッセージ、死者が投げかける合図の意味を探り
私は死後の世界や祖先のこと、やがては訪れる自らの死へと思いを深めていく。
こんなふうに死にたいと考えることは、より素晴らしい生を望むこと。
いまだ科学では計れない霊体験をあるがままに綴ったエッセイ。

佐藤愛子
私の遺言 佐藤愛子 新潮文庫

北海道の山荘を建てたときからそれは始まった。
屋根の上の足音、ラップ音、家具の移動をともなう様々な超常現象、激しい頭痛。
私はあらゆる霊能者に相談してその原因を探った。
そうせずにはいられなかった。
やがてわかった佐藤家の先祖とアイヌとの因縁。
霊界の実相を正しく伝えることが私に与えられた使命だったのか。
浄化のための30年に及ぶ苛烈な戦いを記した渾身のメッセージ。 

仲村清司

仲村清司
「米兵の幽霊」
キャンプ・ハンセンの第3ゲートには、深夜、歩哨に立つ兵士に『火をくれ』とせがむ
血だらけの野戦服を着た兵士の霊が出たという。
この兵士の霊、あまりにもしつこく火をねだるので、歩哨に立つことを拒否する
兵士が続出したため、このゲートは廃止された。
ちなみに、この兵士の霊に火を貸してやると、そのまま消えてしまうとのこと。

福澤徹三

福澤徹三
「三周目」
年配の男性の若い頃の体験。
当時、住んでいた実家の近くに、奇妙な言い伝えのある神社がある。
その言い伝えとは、本殿の周りを三周すると神隠しに遭うというもの。
ある夜、酔った勢いで5、6人で本殿を周ることになった。
しかし、酔っているため二週が限度で皆、脱落していった。
そんな中、一人だけ三周目に突入。
しかし、いくら待っても本殿の後ろから出てこない。
痺れを切らした仲間が探したが、行方不明。
しかたなく、家に帰ろうとした途中で、土管から這い出てくる行方不明の
友人を発見。
話を聴いてみると、本殿を周る三周目に入ったところからの記憶がないと言う。

一条真也
最期のセレモニー 一条真也 PHP研究所
メモリアルスタッフが見た、感動の実話集
霊の本ではありませんが、著者が霊の存在を認識されたのが以下の話。
「不思議な体験」
故人は七十代後半の女性で、子供さんが三人とお孫さんが七人いらっしゃいました。
葬儀開式の一時間前、式の流れや焼香の作法などを式場で説明していた時のことでした。
突然、ひとりのお孫さんが祭壇を指差しながら叫びました。
『あそこにおばあちゃんがいる!』
『本当、笑っている、笑っている』 『手を振っているよ』とお孫さん全員が言い出し
祭壇に向かって手を振り出したのです。
驚いた親戚・親族の方々は 『どこ?どこに?』と口々にたずねられましたが、子供たちが
指差すところには、私も含めて何も見えません。
式場内は騒然となりましたが、二、三分してお孫さんにも見えなくなったようでした。
ただ、お孫さんたちみんなが 『ありがとうって言っていたよ』 と口を揃えて言っていました。
その後は何事もなく無事に葬儀を終えることができましたが、改めて『霊』というものの存在を
認識させられた不思議な体験でした。


坂本敏夫

坂本敏夫
「童舞」
夫の浮気と無理心中
自分の子供を殺した罪で服役していた女性がいた。
彼女は、親の反対を押し切り農家の嫁として結婚。
義父母の農家の手伝いをするのは彼女の仕事となった。
2児をもうけたまでは良かったが、夫が係長になると帰宅が遅くなり
やがて、夫婦生活もなくなった。
離婚を実家の母に相談しても『だから反対したのに』と言われるだけで
埒があかない。
いつしか『死にたい、死にたい』と思うようになった。
ある夜、二人の子の首を絞めて殺し、自分も死のうと高速道路のコンクリートの
壁へ車で突っ込んだが、死に切れなかった。
刑務所に来た当初は自殺することしか考えなかった彼女だが、自称占い師の
同室の女囚が二人の子の霊を呼び出してからは死ぬと言わなくなった。
二人の子の霊に会い、謝罪できたことで、二人の子のためにも生きると
決意したのだった。
現在、彼女は老人福祉施設でヘルパーとして社会復帰している。

木原浩勝

木原浩勝
「白いセダンに乗っていると・・・・」
富士五湖道路、国道138号線。
もし、車でこの道を行くなら、白いセダンは避けた方が良いという・・・
あるドライバーがこの道を白いセダンで走っていた。
すると、バックミラーに赤い点が見えた。
それは見ている間に大きくなり、4人の血を流した女性の乗る軽自動車だとわかった。
ドライバーはかなりのスピードを出していたが、それをはるかに凌ぐスピードで追いつき
ドライバーを睨んだままの女性たちは
『こいつじゃない、こいつじゃない』と悔しい表情で追い越していった。

山田誠二

山田誠二
「川に行け」
筆者が小学3年の時のこと。
近くの川で採取した、カエル、小魚、ザリガニ等と飼育していたが、世話が追いつかず
父に全てを川に返すことを命じられると共に、飼育することを禁じられていた。
そんなある日、川で亀を見つけたが家に持って帰れないために、近くに落ちていた
ポリバケツの中で飼育することにした。
数日後、父から『亀を飼ってないか?』と訊かれた。
外で飼育しているのだから父に知られる訳がないと思いながら・・・
『飼っていない』と嘘をついた。
すると、怒らないから正直に答えろと真剣な顔で言われた。
その父の態度に興味を覚え、なんでそんなことを訊くのか逆に訊いてみた。
父の口からは、思いもよらない答えが返ってきた。
ここ数日、夢に亀が出てきて
『私は竜宮への使いを頼まれているのですが、あなたの息子に捕らわれてしまい
使いが果たせません。どうか、息子に私を解放するよう、言ってください』
翌日、筆者は亀を開放したそう・・・・

結城瞳

結城瞳

ギンティ小林

ギンティ小林
著者自身が出版社の編集員とともに行く、新耳袋に掲載されていた心霊スポットの
レポート。
面白、おかしく、沼にはまった話から警官に連行されそうになったエピソード。
また、その時の気分、気持ちをさらけ出し、見栄を張ったが怖かった等の状況説明。
『現代百物語 新耳袋』の著者である木原浩勝の絶大なる推薦本。

山口敏太郎

山口敏太郎

映画『感染』に映りこんだ霊の姿(背後の看護師)
指だけが・・・

上の写真は中央やや右上に女の子の顔
下の写真は右端に女子高生と思しき上半身

稲川淳二

稲川淳二
「戸をたたいたのは一体誰だった?」
ボク以外の人といっしょに体験したことがあります。
堂ケ島の某旅館です。
作家の人が
『どうもオレの部屋は気持ち悪い。代わってくれ』
と言うのでディレクターの人といっしょに、その部屋に行って寝たんです。
すると誰かがガタガタと、外から戸をたたくんです。
『バカだな~、誰かおどかそうとしているんだぜ』
と笑っていたのですが、その後、女の声で
『うー うー うー』
と泣きはじめました。
『あのヤロー、しつこい性格しているなあー』
と言って、そのまま朝まで寝ていたのです。
朝、戸の外を確認すると、そこに人が立てるはずがなかった。
戸のすぐ外は崖っぷちだったんです。

稲川淳二

稲川淳二
「言うなよな」
稲川淳二が一人、とぼとぼと歩いていると、踏み切りの向こう側に気になる人を発見。
気になると言っても、好意がある方の反対。
雰囲気が変、姿も変、何かがちぐはぐ・・・。
まだ距離があるので、はっきりと見えない。
近くまで来たら、はっきりと見てやろうと思い、すれ違うのを待っていた。
すれ違いざま
『言うなよな』
と、その男が稲川淳二に言ったとか。

織田無道

織田無道

この部屋で亡くなった自殺者の怨霊という鑑定結果

山岸凉子
全て実話である。著者自身が実際に見たり、友人のマンガ家やアシスタントたちから聞いた
不思議な話、怖い話の数々。(コミック)
作られた怪談話とは違う、体験したものだけが語りうる、にじみ出るような本物の恐怖がここに
あります。表題作のほか、「読者からのゆうれい談」 「ゆうれいタクシー」、「蓮の糸」
「タイムスリップ」の5本を収録。(解説 木原浩勝)
今は亡き文豪たちから現代の小説家、心霊関係者までの方々の体験話の数々・・・
平山蘆江、火野葦平、阿川弘之、北村小松、矢田挿雲、牧野吉晴、佐藤春夫
富沢有為男、徳川夢声、池田濔三郎、長田幹彦、三浦朱門、遠藤周作、柴田錬三郎
村松定孝、平野威馬雄、大高興、桝井寿郎、中岡俊哉、新倉イワオ、石原慎太郎
稲川淳二

最後に 編者解説 東雅夫

中山市朗

中山市朗
「千日前怪談縁起」 中山市朗
ある打ち合わせで、大阪ミナミの寿司店に入った。
まずはビールを飲み、寿司をつまんで世間話をしていると、背後のドアが開いて閉じる。
『誰もいないのになんでドアが開くの』 と私が言うと
『さっきドアが開いたとき、きっとあの人が入って来たんだと思う』
『あの人って?』
『ほら、あのカウンター席』
見れば、二十代後半から三十代くらいのピンクのスーツを着た女性がいる。
我々が店に入って来た時には、確かにいなかった。
打ち合わせが始まった・・・・すると、またドアが開いて閉まった。
そして、カウンター席の女性はいない・・・・
カウンター内で黙々と魚をさばく職人さんに声を掛けた。
『すみません。今ここに女の人、座ってはりましたよね。何も注文せんと帰って行きはり
ましたようですけど』
すると職人さんは一瞬きょとんをした表情をしたが、次にはニヤリと笑った。
『お客さんたち、やっぱり見てはったんですね。あれ、人間やないんですわ』
『はあ? どういうことです?』
『ここ、千日前ですから』
ここに召集されるのは、怪談実話のの世界で要注目の作家たち。
それぞれに託されるのは、四〇〇字換算で五〇枚の紙幅。
すべてをついやして、渾身の一作を投入するもよし。
幾つかの物語で怪異な綴れ織りを編み上げるもよし。
与えられた紙幅をどのように活かすかは、書き手の裁量次第。
求められるミッションは唯一・・・・読者を恐怖と幻惑の極みへ誘うこと!

「地獄を選ぶ」、他六篇(朱雀門出)/夜を待つもの(松村進吉)/
帰郷(三輪チサ)/怪談女・そして(黒木あるじ)/病める魂(雨宮淳司)/
警備保障(崩木十弐)


郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋怪談 逆さ稲荷 郷内心瞳 角川ホラー文庫
「代筆」
私のドッペルゲンガーめいた体験。
高校一年の二学期のことだった。
当時、新聞委員会に所属していた私は、高体連の取材記事を書かされることになった。
試合当日の朝、私は母校の最寄り駅から列車に乗り込み、目的地の高校へと向かった。
しかし目的駅へと降り立ち、いざ市街地を探してみると、高校の所在地がわからない。
一時間ほど市街を歩き回ってはみたものの、結局高校を見つけることはできなかった。
幸い、取材記事の提出期日は一週間だった。
試合の結果は誰かに尋ねればわかるし、記事の中身ももっともらしいことを書き綴れば
誰からも文句は出まいと判じた。
翌日、果たして私の読みどおり、試合結果は同級生の口から簡単に知ることができた。
あとは適当に言葉を飾ってそれらしい記事に仕立てるだけである。楽なものだった。
試合から一週間が過ぎた昼休み、出来上がった原稿をたずさえ職員室へ行くと、満面の
笑みで私を迎え入れる担当教師の姿があった。
『素晴らしい記事だった。感動したよ!』などと、担当教師は私を過剰に褒めちぎる。
困惑しながらも黙って教師の言葉に耳をかたむけていると、朝いちばんで私が原稿を
持って職員室に来たらしい。
適当に話をごまかし、私が提出したという原稿を見せてもらった。
すると確かに私の筆名で、それも巧みな文章表現で書かれた原稿用紙を見せられた。
しかも原稿用紙に綴られた筆跡は、どう見ても私のものとしか思えないものだった。
『この調子で次もがんばってくれよ』
目じりをさげて私の肩を叩く教師の手前、『はい』と答えて職員室をあとにした。
結局、次にまかされた仕事は、悪い頭を使って高水準なものを仕立てあげねばならず
私は大層難儀させられる羽目になった。

郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋怪談 鬼神の岩戸 郷内心瞳 角川ホラー文庫
「入らなければ」
二日目に飼い猫のミイが車に轢かれた。
五日目に通勤中の駅の階段で足を滑らせ、右足首の骨を折った。
十一日目に妻が大事に飼っていた十姉妹が四羽とも一斉に死んだ。
二十五日目に次男の首筋に奇妙な腫物ができ、日に日に膨らみ始めた。
三十八日目に自宅の裏手の物置から原因不明の出火があり、自宅を半焼した。



二百六十日目に妻が台所で足を滑らせ、頭を強く打って亡くなった。

知人の勧めで、さる宗教団体に入信し、自家の仏壇と墓を処分して八か月。
これだけの災禍が延々と続き、今でも止まることなく続いている。
知人や教団の関係者は 『あなたの家に悪霊が憑いている。絶対に助けますから』 と
毎日親身になって話を聞いてくれるし、除霊の儀式もおこなってくれる。
けれどもさすがに薄々感づいている。
原因は、悪霊のせいなどでは絶対にない。
できれば自家の仏壇と墓を処分する前からやり直したいと、加山さんは語っている。

郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋怪談 来たるべき災禍 郷内心瞳 角川ホラー文庫

虚実の境が見えなくなってしまった時、人にとってあらゆるものが、怪異となり得る危険を孕む・・・。
現役の拝み屋が体験した現世のこととも悪夢とも知れない恐るべき怪異。
すべては20年以上前、ある日曜日の昼下がりに一人の少女と出逢ったことから始まった。
その少女、14歳の桐島加奈江は果たして天使か怪物か、それとも・・・・・
訪れた災禍を前に恐れ慄く一方で、必死に解決を図ろうとする拝み屋の衝撃実話怪談!

郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋怪談 禁忌を書く 郷内心瞳 角川ホラー文庫
「献花」
中学生の誠也君から、こんな話を聞いた。
誠也君が通学に利用している道路の端には献花が供えられている。
花は小さなプラスチック製の花立てに生けられ、季節の花が絶えることなく供えられているという。
向暑のみぎり、県内全域に烈しい暴風雨が吹きすさぶ早朝のことだった。
横殴りの雨の中、どうにか自転車を進ませていると、やがて前方に献花が見えた。
花は普段と変わらず、花立ての中に整然と佇んでいた。
献花をちらりと横目で見ながら通り過ぎた・・・・が、そこで『はっ』と思い、自転車を止めたのだという。
こんな烈しい雨風だというのに、花立てはぴくりとも動いていない。
思わず、自転車から飛び降り、花立ての様子をまじまじと観察してみた。
花立ては固定されておらず、花そのものさえ、そよそよと揺らいでいることもなかった。
目の前で平然と佇む花立てにどうも納得がゆかず、不遜を承知で恐る恐る花立てを持ち上げてみる。
花立ては何の抵抗もなく、片手でひょいと持ち上がるほど軽いものだった。
だんだん怖くなってきた誠也君は、それ以上詮索するのをやめ、急いで学校へ向かった。
花立ては、今でも同じ場所に佇んでいるという。

郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋を営む著者が相談を受けた話の数々。
全ての話がある家系に繋がっている。
一番まともな相談者が『母様』と呼ぶ、頭部だけで生きている物とは?
『母様』を持ち出した、その相談者が亡くなり、著者が相談者の遺志を引き継ごうとするが
先輩拝み屋に止められる。
それでも行こうとする著者に、先輩拝み屋が助勢してくれることになった。
『母様』を処理したのは先輩拝み屋だった。
彼は、その数時間後に亡くなる・・・・
数年後、『花嫁が必ず3年以内に死ぬ』といわれる東北の旧家へ嫁いだ女性から
相談を受けるが、この相談者もある家系の一族だった。
一番まともな相談者の従姉妹だったのだ。
著者は悪戦苦闘の末、良い方向へ導くことができていた。
その矢先、花嫁が急死する。
東日本大震災で、舅を助けるために家に戻って被災したのだった。
電話で夫が止めたが、聞く耳を持たなかった

郷内心瞳

郷内心瞳
「弾顔」
真夏の深夜、吉田君が遊び仲間数人を連れて地元の海岸線を車で走っていた。
両脇を松林に挟まれた狭い一本道を飛ばしていると、突然後ろから猛烈な
エンジン音が近付いてきた。続いてハイビームの閃光が車内を照らす。
白い軽自動車が、吉田君の車の真後ろをべったりと張り付くように激走している。
道路が狭いため、路肩に車を寄せて道を譲ることもできない。
『あの車、シメよう』 ということで即座に意見が一致した。
すぐさま、アクセルをベタ踏みして後ろの軽自動車を引き離していく。
適当な距離が開いたところで、車体を斜めに傾けながらブレーキペダルを踏みこんだ。
急ブレーキの大音響とともに吉田君の車が停まり、続いて軽自動車が停まった。
吉田君たちは、ただちに軽自動車を囲んだ。
車内には黒ぶち眼鏡をかけた気の弱そうな青年と、地味な服装の若い女が乗っていた。
怯える二人をみんなで怒鳴りつけていると、背後の暗闇にうっすらと光を感じた。
全員が顔を向けると、蛍光塗料のような淡い緑色の光に囲まれた球体が凄まじい
速度でこちらに向かって飛んできた。
それは、吉田君の頭上一メートルくらいの中空を弾丸のように びゅん! とかすめて
飛んで行った。それは髷を結った男の生首だった・・・・
『すみません・・・あれから逃げていたんです・・・・』 眼鏡の青年が詫びを入れた。

灯まちこ
微霊感体質 まちこ 灯まちこ メディアファクトリー

伊藤三巳華

伊藤三巳華
実話ホラーコミック
読者の感想
視える人って、こんなふうに視えるんだと面白かったです。(32歳女性)
明るくさっぱりとしていて、亡くなった方への尊い思いもあり、いいなと思いました。(43歳男性

視えなくてもいるものなんだと三巳華先生に教えてもらいました。(15歳男性)
絵がポップでかわいくて好き。(10歳女性)
読んでいると、三巳華さんの優しい人柄に涙がじわっと出てきました。(65歳女性)
私も同じ体験したいけど、したくない(笑)。(28歳女性)
3巻まで出ていると知り、全部買います!(50歳男性)

伊藤三巳華

伊藤三巳華
視えるんです3 伊藤三巳華 メディアファクトリー

伊藤三巳華

伊藤三巳華
視えるんです2 伊藤三巳華 メディアファクトリー

伊藤三巳華

伊藤三巳華
視えるんです 伊藤三巳華 メディアファクトリー

江原一哲

江原一哲
「黒い帽子」
Xさんは学生時代、和菓子屋でアルバイトをしていた。
バイトの日の前日、勤務先の社長の友人で帽子屋を営んでいる人物が亡くなり
社長はその葬儀に出るため、いつもより1時間早く出勤するように連絡があった。
Xさんは言われた時間に出勤すると、店の入り口で奥さんが水を撒いていた。
そのまま奥に入ると、いつものように社長が机に座っていた。
昨日の電話では、社長はすでに出発しているはずだった。
『予定が変わったのかな?』
そう思い、とりあえず挨拶を済ませるとローカールームに向かった。
出てくると社長がいない。
おかしいなと思っていると電話が鳴った。
奥さんが電話を取ったが、二言三言話すと両手で受話器を持ち、間もなく声が崩れた。
社長が葬儀に向かう途中で事故に巻き込まれて即死したという知らせだった。
電話は和菓子屋から30キロ離れた病院からだった。

Xさん曰く、最後に見た社長は、今まで見たこともない真っ黒な帽子を被っていた。

安曇潤平

安曇潤平
山の霊異記 幻惑の尾根 安曇潤平 角川文庫
「呼ぶ声」
『おぉぉい』 また下の方から父親の声が聞こえてきた。ずいぶんせっかちな父親である。
『ここに綺麗な水が流れているよ。顔を洗うと気持ちいいよ』
今後は湧き水らしい。
『今日のお父さんはずいぶん急いでいるわね』 母親さしき女性が言う。
『もしかして雨でも降るんじゃないの?』 小学校低学年くらいの女の子が返す。
『ここに綺麗な水が流れているよ。顔を洗うと気持ちいいよ』
また、父親の声が聞こえてきた。僕は、タバコの火を点けながら、思わず吹き出しそうになるのを
こらえていると、母親と目が合った。
優しい顔で軽く会釈をした母親につられて、僕は少しバツの悪い顔になって会釈を返した。
そのまま素知らぬ顔もできなくて、僕はそのまま言葉を繋げた。
『いつもご家族、こんな感じで山を歩くんですか?』
『はい、夏が終わり、紅葉がはじまるこの時期、一年に一回こうやって栂池から白馬大池を往復するんです』
『いえいえ、旦那さんですよ。いつも先を歩くんですか?』
母親が怪訝そうな顔をして僕を見た。
『いえ、私たちは、いつもふたりですが・・・・』
今後は僕が怪訝な顔になった。
『もしかして・・・・あなたは主人の声が聞こえるのですか?』
『聞こえるも何もさっきから、大きな声でおふたりを呼んでいるじゃないですか』
母親と女の子がびっくりしたように、顔を合わせた。
『おじさん、お父さんの声が聞こえるの?』
女の子が僕の顔を見上げて話しかけてきた。
ふたりが何を言っているのか、僕にはしばらく理解できなかった。
『主人は三年前の冬、この山で亡くなりました』
『え?』
『亡骸はまだ見つかっていません。その翌年から私と娘は山が静かになるのを待って、いつもこの山を
訪れているんです。
『ねえ、おじさん。お父さんの声が聞こえるの?』
『聞こえるよ。下の方に綺麗な水が流れているんだよね』
『わあ、聞こえるんだ』
『私たち以外に主人の声が聞こえる方に出会ったのは初めてです。主人とご縁があったのでしょうか?』
そう言われても、僕には思い当たる節がなかった。なにより僕は、自分に霊感があると思ったこともないのだ。
その時、下の方から、またあの声が聞こえてきた。
『おぉぉい、ここに綺麗な水が流れているよ。顔を洗うと気持ちいいよ』
『ほら、お父さんが呼んでいるよ。急いで行かなきゃ』
そう言って、僕は女の子の頭を撫でた。
『ありがとうございます。あなたに出会えただけで今年の山は、とても思い出に残るものになりました』
『おじちゃん、ばいばい』
振り向いた女の子が満面の笑顔で手を振った。

安曇潤平

安曇潤平
山の霊異記霧中の幻影 安曇潤平 角川文庫
「命の影」
登山の最中、行きちがう登山者に挨拶をすれども、相手は怪訝な表情をするだけで、挨拶が返って来ない。
その後、三人の登山者に行きちがったが、誰からも挨拶を返されることはなかった。
休憩所に着くと、ベンチに座った中年の男性に声を掛けてみた。
『こんにちは。今日一日は天気が持ちそうですね』
しかし、相手の顔は怪訝を通り越して、気味の悪いものを見るような表情だった。
居たたまれずベンチから歩き出すと、離れたところにあった岩の上に腰を下ろした。
その時、初夏であるこの季節にまったく不釣り合いな冬山のジャケットを着込み、ザックにピッケルを吊るした
いかにも山男という男が横に座った。
『君は自分の声が、周りに聞こえていないと思っているようだが、それは違うよ』
『なんでわかるんですか? 確かに途中から周りの様子が変だと思っていたんですけど・・・』
『声は聞こえている。正確には、微かに聞こえている。だけど、この山を登るうちに、君の存在が消え始めて
いるんだよ。周りからは君の姿が見えないんだよ』
『姿が・・・・』
『俺には君が見える。君にも俺が見える。でもな、周りの登山者たちには俺たちの姿が見えていないんだよ』
寒気がした。だとするとこの男は何者なのか。
『このまま登りつづければ、君はこの山で命を落とすことになる。とにかく周りの人間に声が聞こえているうちに
君はこの山を下りるんだ。声さえ聞こえなくなった時、君はアウトだよ』
『あなたはいったい・・・・・』
『異変に気付かず、呑気に山を登りつづけた成れの果てだよ』
『じゃあ・・・・あなたは・・・・この世の・・・・』
『ほらほら、ますます声が小さくなってきた。早く下りないと俺みたいになっちまうぜ』
猛烈な悪寒を感じながら、来た道を蹴るようにして駆け降りた。
やがて、あと少しで登山口の温泉宿にたどり着くというところで、若い女性登山者が下から登ってきた。
血相を変えて山を駆け下りてくる姿を見て、怪訝そうな顔をしている。
『こんにちは。大丈夫ですか?』
走りながら、思わず言葉を返す。
『こんにちは! 大丈夫です。あなたも気をつけて!』
この時ほど、山で挨拶されることに喜びを感じたことはなかった。

安曇潤平

安曇潤平
「急行アルプス」
急行アルプスは、登山とスキーシーズンに特急あずさを補完する列車として運行された夜行列車。
その急行アルプスを新宿駅から乗り込み、甲府駅を列車が出るとひとりの男性が乗り込んで来た。
車内はガラガラ、座席は多数空いているにもかかわらず、私の占領するボックスシートに来て
『ここ、いいですか?』 と聞いてきたことで話をすることになった。
その青年はY岳のクロユリを勧め、取りだした地図を指差して、こと細かにその地点の特徴を説明して
くれた。そして、いつの間にか私は寝てしまった。
目覚めた時は松本駅に到着したところで、塩尻に住んでいると言った青年は居なくなっていた。
私は予定通りK岳を登り、山荘へ一泊した後にY岳を目指して歩き出した。
やがて青年が説明してくれたクロユリの群生する場所に着くと、その美しさに心を奪われていた。
そして、何気なく足に触れた物を見て、それが白骨化した人間の手であることに気付いた。
私は急ぎ山を下り、昨夜泊まった山荘に戻りました。
すぐに山荘から警察に連絡が行き、Y岳の斜面で見つかった遭難者は、塩尻在住の大学生M君だと
判明しました。
その後、警察でM君のご家族の住所を教わり、線香を上げに伺いました。
仏壇の中で明るく笑う青年は、まさしく私が急行アルプスで楽しく話をしたM君でした。
私は、M君ご両親に急行アルプスでの出来事を話しました。
ご両親はボロボロと涙を流し、何度もうなずきながら私の手をきつく握りました。

安曇潤平

安曇潤平
「滑落」
足場の悪い痩せ尾根を歩いていた佐々木が、俺の目の前で北側の谷に滑落した。
谷を覗き込むと五十メートルほど下のテラスで倒れていた。
必死で声を掛けるが返事がない。
俺はザックからザイルを取りだすと、佐々木が倒れているテラスまで懸垂下降した。
それまでピクリとの動かなかった佐々木が、まるでバネ人形のように立ちあがって
俺の方を向いた。
佐々木の身体には首から上がなく、しかもその頭は、佐々木自身の右手で小脇に
抱えられていた。
その小脇に抱えられた佐々木の顔が、妙に明るい声でこう言った。
『まったく失敗したぜ。でも困ったな。首から下が見つからないんだ』
そう言い終えた途端、佐々木は仰向けに倒れ、もう二度と動かなかった。

丸山政也

丸山政也
「犬小屋」
Cさんの子供の頃、モモという雑種犬を飼っていたという。
紀州犬と柴犬の掛け合わせだったが、綺麗な白色をしていた。
友達の家からモモを貰ってきたとき、父親が大変に怒ったそうだ。
しかし、文句を言いながらも日曜大工で立派な檻と、その中に犬小屋を作ってくれた。
Cさんの幼い記憶は常にモモといっしょだった。
そんなモモが、ある日から元気がなくなり、最後は家族の見守る中で逝った。
動物病院で診察を行けた時には手遅れ状態のフェラリアだった。
父親が庭の隅に大きな穴を掘り、モモを埋葬した。
その日の深夜、隣の両親の部屋から窓を開ける音がしたと思ったら母親が部屋に
入ってきた。
『見て!犬小屋にモモが!』
布団を蹴って、両親の部屋に行く。その真下に犬小屋がある。
窓から下を見ると、檻の中に白いものが動いている。
大きさも、動き方もモモにしか見えない。元気な時の姿だった。
Cさんの横には父親が立っている。
泣いていた。
モモが逝く時も静かに見守っていた父が、埋めるための穴を黙々と掘っていた父が
肩を震わせて涙を流している。
父親が泣いたのを見たのは、後にも先にもその1回だけだという。

宍戸レイ

宍戸レイ
「不動産めぐり」
仕事の帰りに寄った長崎県の居酒屋で、隣に座った老夫婦がこんな話をしていた。
その頃、ご夫婦は家族で引っ越しを考えていて、物件をいろいろと見て回っていた。
ある日、ご夫婦はお嬢さんを連れて、日当たりの良い綺麗なマンションを見に行った。
旦那様は何も感じないが、奥様とお嬢様がどうしても建物の中に入らない。
奥様曰く
『なぜだかわからないけど、そのマンションに足を踏み入れるのさえ厭だった』
後日、他の不動産屋で例のマンションのことを聞いてみた。
すると、例のマンションのある場所は原爆が投下されたあとの仮の死体置き場に
なっていたことがわかった。

宍戸レイ

宍戸レイ
「心霊スポットにて」 宍戸レイ
原宿のMって美容院で働くアッキーから聞いた話。
ある日、アッキーは先輩と、とある有名な心霊スポットに行くことになってしまった。
アッキーは怖がりなので、ずっと車の中で待っていたんです。
そしたら、先輩たちが帰って来たので、あー良かったと思った。
みんなが車に乗り込んで、ヘッドライトを点けた瞬間・・・・
『なんだこれは!』
ヘッドライトに反射したフロントガラスには、赤ちゃんくらいの小さい足跡がびっしりと
無数についていたんです。
もう、みんな怖いんだけど、アッキーが1番後輩だから、外に出てフロントガラスを
拭き始めたですが・・・・全く取れない。
その時、アッキーは気付いてしまったの。
当たったら当たったで怖いんだけど、試してみようと車に乗り込み、内側からフロント
ガラスを拭いてみた。
そしたら奇麗に拭き取れた。
足跡は、アッキーがひとりで車に居る時に、内側から付いたものだった。
朱雀門 出、小原 猛、紙舞、紗那、松村進吉、小島水青、黒 史郎、黒木あるじ
安曇潤平、水沫流人、10氏による百物語。
しかし、実際は古(いにしえ)の作法にのっとり99話。
妖怪、前世、霊能者・・・・いろいろなジャンルの話が出てきておもしろい。

黒木あるじ

黒木あるじ
「ヲわリ」
読者の女性から届いたメールである。

その夜、彼女は怖い話が九十九話おさめられている本を布団に潜ったまま読んでいた。
夢中になって読みふけり、最後の一話を読了したときはすでに日が変わっていた。
達成感をおぼえつつ、ページを閉じる。
『もぉイちわでヲわリ』
間延びした子供の声が布団のなかから聞こえたと同時に、みしみしという足音が廊下から聞こえた。
驚いて戸口へ視線を移す。
わずかに開いた扉の隙間から白い指が消える瞬間だった。
その日は電気を消さず、布団を被って朝を迎えたという。

以来、夜に怖い本を読むのがめっきり苦手になったそうだ。

黒木あるじ

黒木あるじ
「いきさき」
Nさんの飼っている九官鳥のロクスケは、ある日突然教えてもいない言葉を喋るようになった。

『ゴメン、ジゴクダッタ。 ゴメン、ジゴクダッタ』

言い始めたのは、癌で急逝した旦那さんの四十九日の、翌日からだそうだ。

黒木あるじ

黒木あるじ
「寺障子」
S君の遠縁にあたる人物に寺の住職を務める男性がいた。
ある日のこと、S君はいつものように寺を訪ね、住職と炬燵に入って蜜柑を食べていた。
点けていたテレビでは、いろいろな物を鑑定する番組が放送されていた。
S君は住職に寺の仏像の値段を聞いてみた。
しかし、住職の答えは 『仏の価値は銭じゃない』 とS君の満足する答えでなかった。
S君の様子を見ていた住職が
『じゃ、面白いものを見せてやろう、そのかわり誰にも言うなよ』
と言うなり炬燵を抜け出し、本堂と逆の方向へ歩いて行った住職をあわてて追った。
『おまえ、寺に遊びに来ておきながら仏なんてものはいないと思っているだろう』
辿り着いたのは庫裏の手前にある部屋。
薄暗い部屋の奥には漆塗りの台座があり、その上の観音開きの扉を開けると、中から
穏やかな面立ちの仏像が姿を見せた。
『うちのご本尊だ。本堂の阿弥陀様は、代理みたいなもんでな。こっちが本物だ』
そして 『ちょっと仏に文句を言ってみろ』という。
『いんちき』  『何もできないのに馬鹿じゃねえの。偉そうに、木のくせに!』
凄まじい音を上げ、周囲の障子戸すべてが倒れた。
薄い障子戸が倒れても空気抵抗があるから、あんな凄まじい音などするわけがない。
目を丸くしているS君を見ながら、住職は腹をかかえながら言った。
『な、神様や仏様ってのは人間じゃできない事を、あっさりと気まぐれにやってのけるのよ』

黒木あるじ

黒木あるじ
「家出の代償」
体験者が二十歳の時の体験。
その日、彼は母親との些細な言い争いが原因で家出を敢行した。
財布の中身は乏しく、町外れの廃神社で一夜を開けすことに決めた。
寝床を探して社殿に転がり込むと、薄明かりに見えたものは一升瓶だった。
真新しいラベルには日本酒の銘柄が記されており、蓋を開けた形跡もなかった。
とうに廃れたと思われる社へ、お神酒を供える人がいることが酔狂と思えた。
罰当たりなこととも思わず、彼は祭壇に置かれた杯を手にすると日本酒を注いで
飲み始めた。佳い味だった。
最後は一升瓶に口を付けて飲みほした。
やがて一時間も経たぬうちに眠気に襲われ、枕代わりに空の瓶を手に取った・・・・
そこまでは記憶に残っている・・・。

息苦しさで目覚めた。しかし、息苦しさに気を失った。
次に目覚めた時は病院のベッドだった。
路上で昏倒していた彼を散歩中の人が発見、通報してくれたことを医者から聞いた。
呼吸困難の原因は、強酸性の薬品でうがいをしたように声帯が損傷し、そこから
流れた血が気道を塞いだことによる。
それ以来、彼は声を失った。
「神様はいます。とても怖いです。今も怖いです。」そんな言葉で締めくくられていた

黒木あるじ

黒木あるじ
「絶望」
A君の実家に住んでいた、お父様が亡くなった。
末期の大腸癌だった。
ただ、お父様は大変前向きの考えの方で、医者の告知を受けたときも
『残りの余生を謳歌するだけ』
と笑っていたそう。
そして、いよいよ、死が近くなったある日にA君に向かって、こう言った。
『実はな、死を迎えるのをワクワクした気持ちで待っているんだ』
死後の世界はあるのか? 先立った両親に会えるのか?
『もし、お前がお盆に実家に帰っていたら、報告のために化けて出てやる』
A君は泣きながら指切りをしたとのこと。
お父様が亡くなって、しばらく経ったの夜のこと。
アパートで寝ていたA君は人の気配で目が覚めた。
戸口の前の気配は、やがてお父様になっていった・・・
『なにもなかった・・・・』
重苦しい声と、無念そうな顔が今でも忘れられないと。

小池壮彦

小池壮彦
「軍都赤坂のメイド霊」
戦後、間もない頃にアメリカン・クラブからメイドとして24、5歳の日本人女性が
アメリカ軍駐屯地へ派遣されてきた。
そのメイドはアメリカ軍将校といい仲となり、人目をはばからず
将校の寮に泊まることもあった。
ある夜、銃声の音がしたので衛兵が見に行くと、裸で抱き合った状態の将校と
メイドが銃に撃ちぬかれていた。
将校は独身とメイドには言っていたが、本国には妻があったため
別れ話のもつれによるメイドが無理心中を図ったのではないかと思われた。
将校は病院へ運ばれたが、死亡。メイドは、その場にうち捨てられた。
それから、裸の女の幽霊が出没するようになり、メイド霊と言われるようになった。

真白圭

真白圭
「つたえたいこと」 真白圭
都内で小料理屋を営む恵子さん「視える人」から聞いた話。
ある日、常連客である外国人のKさんから相談を受けた。
『わたしの部屋、コドモが来ます。いつも困ってます』
彼の話によると、小学生くらいの男の子が部屋の中をニコニコしながら走り回り
『お兄ちゃん、△#□○よ』と言って消えるとのこと。
『△#□○』の部分は自分が聞いたことのない言葉で理解できないらしい。
一度、見に来てほしいという彼の切実な訴えに、次の休みの夜に行くことにした。
部屋に着くと、男の子の霊だけだと思っていたら、強い敵意を感じる女の霊がいた。
これまでに感じたことのない敵意に、思わず倒れそうになる体をなんとか部屋の外に
出すと 『無理無理、私には無理』 『引越しなさい』を連呼した。
その後、彼は日本語にも慣れ、幽霊の男の子が彼に伝えたかった言葉がわかるように
なったとのこと。
しかし、その前に幽霊マンションからは引っ越していた。
小学生の男の子の霊が彼に伝えたかったこととは
『お兄ちゃん、ここに居たら殺されるよ』

宇津呂鹿太郎

宇津呂鹿太郎
「さわらぬ紙に祟りなし」 宇津呂鹿太郎
水野君が通っていた高校は、実家を遠く離れた全寮制の学校だった。
入学当初より、校内にお札が貼られていることは気付いていた。
二年生の時、廊下すれすれの壁に貼られたお札を剥がしたら、何故かやみつき。
友人3人を巻き込んで、校内中のお札を剥がしまくった。
お札剥がしが進むにつれ、ランドリールームに怪しいものが姿を現し、その姿は
鬼へと変化していった。
そして、ある日の夜、憤怒の形相をした鬼に追いかけられることになる。
4人は迂余曲折の末、お札を剥がしていない体育館へ逃げ込んだ。
鉄の門扉を閉めると、突然ドーンと体育館全体が震える大きな音がした。
更に、扉や窓の隙間から靄が入り込み、それらには男の顔が付いていた。
恐怖は朝まで続き、体育館の鉄の門扉に大きな手形と凹みが残った。
4人は、これまでの行いと昨夜の出来事を漏れなく教師へ報告した。
学校は1ヶ月間、休校となり、お札も貼り直された。

郷内心瞳

郷内心瞳
「お不動さん」 郷内心瞳
お不動さんの池の鯉を盗み、あろうことか、鯉こくに料理した上に不味くて生ゴミで捨てた。
次の日の朝、部屋には湯気が立ち昇り、部屋で飼っていた熱帯魚の水槽には煮崩れした
熱帯魚が白い塊になって死んでいた。
水槽の硝子に手を触れると火傷するほど高温になっている。
夏のことでサーモスタットを使用していなかったにも関わらず、部屋に置いていた全ての
水槽で同じことが起こっていた。
昨夜の鯉への仕打ちが思い出され、涙がこぼれた。
そして、可愛がっていた愛魚の無残な最期の姿に、大粒の涙がながれた。
心底、反省した私はお不動さんへ謝罪に出かけた。
愛魚の命と引き換えになったのか、その後は特にお咎めはない。

立原透耶

立原透耶
怪談実話系 魔 立原透耶 安曇潤平 森山東 朱雀門出ほか メディアファクトリー
「柴犬」 立原透耶
Mさんの実家では柴犬をずっと飼っていた。十七年間生きて本当に人間っぽく、Mさん一家に
とっては大切な家族の一員であった。
しかし十七歳というのは犬にとっては高齢で、最後のほうは老衰がはじまり、ずっとおむつを
していた。
ある明け方、二階で寝ていたMさんの母親が突然むくりと起き上がって
『〇〇(犬の名前)ちゃん、今死んだかも』
柴犬は一階にいたので、家族全員が慌てて階段を駆け下りた。
愛犬はまだぬくもりを残していた。
けれども、もう息はしていなかった。
みんなで泣きに泣いたのは言うまでもない。

その後、台所の床下収納を開けようとするカチャカチャという犬の爪音や、ドアの隙間に
突っ込む鼻息、ガタンという物音などが毎日のように続いた。
結局、ペット専用の葬儀が済み、供養が完全に終わるまで、その気配は続いた。
そしてその度に顔を合わせて、『ああ、いるね』 『うん、いるね』 と微笑みあったのだそうである。

香月日輪
「隣のベッド」
看護師の岡野さんに聞いた話。
岡野さんの勤務する病院は、それほど大きくない市民病院。
そこへ山内さんという男性患者が入院して来た。
山内さんの奥さんは、何かと旦那さんの面倒を見ていて、傍から見ても仲の良い夫婦に見えた。
その奥さんを知る人の話によると、結婚前に他に好きな人がいたが破談となり、今の旦那さんと結婚した。
その後、旦那さんは病院で亡くなる。
ある日、岡野さんが空き部屋となった山内さんが入院していた部屋で仮眠していると・・・・
山内さんの奥さんが現れ、怒気をはらんだ目で旦那さんが寝ていたベッドに向かって
『早く死ね。あんたじゃない、あんたじゃないのよ。死ね死ね、早く死ね』 と言葉を吐き捨てる。
(嘘よ、あの奥さんがこんなことを言うわけがないわよ)と岡野さんは思うが、その後も『死ね』と言い続けた。
『やめて~~!』 岡野さんの声で同僚が部屋に飛び込んできた。
岡野さん曰く
『奥さんの生霊だと思う。だけど、病院に来ていた奥さんを見ていると、円満な夫婦だったのは間違いない。
生霊って、本人が望んで飛ばせるものではないから』
そして最後に
『真面目で大人しい人って怖い。何をためこんでいるか、わからないもの』

伊藤三巳華

伊藤三巳華
怪談ラブレター 伊藤三巳華
他9名の方は文章になります。

「天井からぶらさがるもの」
数年前に大手ホテルで働いていた時の男性の体験。
そのホテルには噂があった。
大広間はヤバイ、という噂だった。
場所をはっきり聞かなくても、『ああ~あそこか』と想像がついたとのこと。
あまり使われることのない『大広間』は、誰もが気味悪いと思っていた場所らしい。
ある深夜のこと、男性は見回りを頼まれた。
それは、ホテル内をほぼ回り終わり、件の大広間に差し掛かった時だった。
トイレから車椅子が出てきた。
黒い塊が乗っているようで、よく見えない。
彼は、車椅子を追いかけた。
その時に大広間の中を見てしまった。
部屋には何もないのだが、天井から素足が数十本もぶらさがり、皆一様に痙攣していた。
そこから先の記憶がないという。
「船玉さま」
加門七海氏の友人の体験。
ママ友になった1人から霊能者を紹介された時から始まる怪異。
現に、加門七海氏と食事をしたレストランで食べる物が全て生臭い。
レストランの味が落ちたのではなく、彼女に纏わり付いた怪異のせいだった。
たまたま、尋ねてきた伯母によって事が発覚し、その手のことに詳しい大伯父に
連絡すると飛んできた。
『船玉さまだ』
船を守るために水死した霊を船に祭る、それを船玉さまと呼ぶ。
早速、神主が呼ばれ、徐霊の儀式が行われた。
神主は藁で出来た船と餅を人型にした物を用意し、餅の人型を彼女の娘に渡すと
藁の船に乗せるよう指示した。
その時、神主は黒い影が娘に憑依していたことが見えていたのだと彼女は言う。
その後、餅の人型を乗せた船は風呂敷で包んで神主と大伯父とで運んで行った。
海へ流すという。
家に入ると、彼女に見えていた黒い影は消え、生臭ささも消えていた。
そして、家の中が明るく感じられた。
第3弾となる本書には、画期的な趣向を用意した。
巻頭収録の4篇は、怪異に見舞われた当事者(立原氏)と
それを間近に目撃した関与者(伊藤氏と加門氏)
たまたま現場に居合わせた傍観者(宇佐美氏)が
それぞれの立場から同一の出来事を作品化する。
おそらくは怪談文芸史上初といなる試みなのである。
― カバーに掲載の紹介文 ―

『幽』の企画によるイベントが大盛況のうちに終わり、執筆人が打ち上げ
宿泊地へと向かう。
ホテルに着いて、大浴場へ向かう廊下に怪異は待っていた。
その時の出来事を4名の執筆者が作品として描いたのが、巻頭4篇となる。、
「霊感DNA」 工藤美代子
姉の娘である姪が、ある日、心霊写真が撮れたと騒いだときがあった。
話を聴いてみると、建築に興味がある姪は実業家のX邸を見てきたとのこと。
著者も仕事でX邸へ行ったことがあり、なおかつ、その時に『若い男の幽霊』を目撃。
姪に『若い男の幽霊でしょ?』と訊くとズバリ的中。
姪の霊感と著者の霊感は父のDNAからの遺伝であったという話。

平山夢明

平山夢明
「きんつば」 平山夢明
青木さんは、祖父が食い道楽に入るのではないかと話した。
安くておいしいものに目のない人だった。
値の張るものには見向きもしなかったが、貰い物であれば喜んで食べた。
そんな爺さんがいけなくなった。
人柄はとても優しく、面倒見も良かったので見舞いに来た者は爺さんの好物を携えて
きたが、既に医者から絶飲絶食を実行されていた。
そして、いよいよいけなということになって親族が病室に集まった。
なかのひとりが、爺さんが喉から手が出るほど食べたがっていたきんつばを病室に
持ち込んできた。
死の間際、一瞬、爺さんの意識が戻り、皆をぐるりと見渡すと・・・・
『きんつばか・・・うめえなぁ~』
と呟いて息を引き取った。
その後、皆できんつばを食べようと箱を開けた長男が アレッ と声を上げた。
見れば、隅のきんつばに、ひとかけ齧られた跡がくっきりと残っていた。
さずがは爺さんだと、湿っぽい空気が一瞬にして和んだ。

平山夢明

平山夢明
「窓」 平山夢明
川端さんは昔、ボウリング場で働いていた。
副支配人という仕事の性格上、平らな社員よりも責任が重く、支配人よりも忙しかった。
彼の仕事で最も大事なのは、毎朝のホールの開錠と終了時の戸締り。
ある朝、鍵を開けて事務所に入り、ホールの電気を点けた。
『おはようございます』
という元気のよい女性の声がホールの方向からした。
早くから頑張っているんだと思って
『おはよう』
と返事をしたが鍵を開けたのは自分だと気付き、事務所からホールへ行ってみると
人っ子ひとりいなかった。

江原一哲

江原一哲
投稿怪談
「戦場ヶ原」 江原一哲
Gさんは、早朝の戦場ヶ原をカメラにおさめようと車でやってきた。
戦場ヶ原と言えばその昔、男体山の神と赤城山の神がそれぞれ蛇と百足に化けて中禅寺湖を
巡って死闘を繰り広げたと謂われる場所であるが、早朝の風景は静寂に包まれていた。
その風景の中、先ほどまで前を走っていたトラックが戦場ヶ原の湿原へ入り込んで行った。
トラックは湿原の中ほどで止まると、突然、荷台のリアドアが開いた。
すると、中から大量の水とともに黒く大きな物体が滑り出てきたのである。
横長で丸みをお帯びた物体の中央には鱗のようなものが見えた。
その物体は、轟音を響かせると宙に舞った。
体を鱗で覆った幅十数メートルの奇怪な物体が、空を飛び、男体山の方角へ消えて行った。

江原一哲

江原一哲
「カベトラ」 江原一哲
私が当時通っていた小学校の七不思議の中の1話が『カベトラ』だった。
その内容はいたってシンプルで、体育館に虎の形をしたシミがあるというものだった。
話の元は、虎を運搬していた車が事故に遭い、虎の檻が開いて脱走した話があった。
その虎は、町を彷徨い、最終的には小学校に進入して体育館に向かった。
体育館では一年生が縄跳びの練習をしていた。
虎は体育館の入口をくぐったところを目撃されたが、その後の姿は目撃されていない。
警察、消防等により虎の捜索が行われたが、ついに見つからなかったという。
そして迎えた小学校卒業の日。
卒業式を無事に終えた私たちは用務員のおじさんにお礼の挨拶に向かった。
私たちを前に用務員のおじさんは、カベトラに関する話を教えてくれた。
それは、この学校が出来た頃に一人の女の子が行方不明になり、その子がシミの姿になって
校内を移動しているというものだった。
用務員のおじさんは、『カベトラ』は消えた女の子が虎を壁の中に引きずり込んだものだと
笑いながら力説していた。
そして、前の用務員から聞いた話なんだと、念を押した。

数十年前、少女が本当に行方不明になったのか、虎が本当に消えたのか。
本当のところはわからない。
ただ、体育館で見た、二つの大きな目を持つトラの姿と、その傍らにさみしそうに立つ、髪の
乱れた小さな人影だけは、今も鮮明に憶えている。
「黒四」
投稿者の父上の体験。
家族を養うために、きついが金になる黒部第四ダムの工事現場で働いていた。
ある日、高熱を出して寝込んでしまった。
そこへ、重機が動かないので『頼む』と仲間が呼びに来た。
高熱を出しているのも承知で呼びに来たからには、手は尽くしたのだと思った。
元来、手先が器用な上に鍛冶屋だったことが、重機の困った問題を解決できる
唯一の人になっていたのだ。
現場に行くと、重機が半分水没していた。
原因場所と思われる箇所へ手を伸ばすと、そこには死んだ仲間の顔があった。
『迎えに来たなら、いっしょに行ってやる。だが、この重機は動くようにしてくれ』と
念じながら手を延ばすと故障箇所に手が届き、まもなく重機が動くようになった。
歓声が上がったが、それは一瞬で皆と共に寝床へ急いだ。
朦朧とする頭から、死んだ仲間の顔が離れない・・・。
何だ、どうしたんだと自問自答しているより先に体が動いて、ヘルメットと懐中電灯を
持って歩き出していた。
今日の作業とは別の場所の崖を目指して行くと、死んだ仲間の顔を見つけた。
そして、そこには亀裂が入っていた。
大急ぎで皆を起こし、その夜のうちに全重機を別の場所へ移動した。
夜明けと共に轟音が響き渡り、重機が置いてあった崖が崩壊した。
「臨終」 平山夢明
『俺って冷たいのかなと思うんだけどね』
片田さんのお父さんは長患いの末に亡くなった。
『最初は家に5年ほど寝たきりで、その後、病院に入ったんだけどね』
亡くなる3ヶ月ほど前から意識がほとんどなくなってしまった。
そして、酸素吸入が始まった。
そんなある日、いつものように見舞いを終え、立ち上がった。
『じゃあ、俺、帰るから』
意識のないお父さんに挨拶をして帰ろうとした。
突然、お父さんの目が開き、腕をぐっと掴まれ、口が動いた。
『頼む、代わってくれ』
『いやだよ』 と答えると、お父さんは静かに目を閉じた。
病院を出て30分もしないうちに訃報を受けた。
怪談之怪は、京極夏彦、木原浩勝、中山市朗、東魔雅夫の4人で結成された秘密結社。
目的は「怪談を聞き、語り、愉しむ」こと。
この4人と共に「怪談を聞き、語り、愉しむ」怪しい客人は、春風亭小朝、中島らも
山岸涼子、佐野史郎、山田誠二、岩井志摩子、露の五郎、高橋克彦、佐伯日菜子の9名。
ちょうど、怪談話を皆で披露するような構成になっている。
1回に1~2人の客人と共に、怪談之怪の面々が「怪談を聞き、語り、愉しむ」内容が
網羅されている。

福澤徹三

福澤徹三
「泣き叫ぶ島」
Tさんが、N県I島という島へ取材で訪れたときのこと。
そこには、付近の住民が絶対に触れてはならない石の塚があるのだが
同行した不心得者が塚で用を足した。
周りが止めても聞かなかったとのこと。
その時は何も起こらなかったが、夕刻になると島の中心にある山から声が聞こえる。
『おぎゃ~、おぎゃ~』
その声は大きくなり、島全体を揺るがすほどになった。
待っていた迎えの船が、ようやく着いた。
船頭は、船の故障で遅くなった言い訳をしてから
『あんたら、何かいらんことをしたやろ?』
Tさんたちを、じろりとにらんだ。
I島は、かつて付近の島で間引きした子供の捨て場所だったといわれている。

福澤徹三

福澤徹三
怪談実話 盛り塩のある家 福澤徹三 メディア・ファクトリ
「贈りもの」
飲食店に勤めるKさんの話である。
彼女は若い頃、バーを経営するAさんという男性にピアノを習った。おかげでピアノは
弾けるようになったものの、どういうわけか楽譜 ― 譜面がまったく読めなかった。
譜面が読めない場合は何度も聴いて耳でおぼえるものらしい。
Kさんはアルバイトで、ときおりクラブやラウンジでピアノを弾いていたが譜面が
読めないせいで客のリクエストに応じられないこともしばしばだった。
最近になって、ピアノの師匠であるAさんの店でアルバイトをすることになった。
ピアノを弾いていた人物が急に辞めたので、その代わりを務めるのだが
話が決まった矢先にAさんが入院した。
Kさんが見舞いに行くと、Aさんはベッドに横たわったまま
『きみとはもう逢えんが、がんばってくれ』
Kさんは驚き、縁起でもないことを言わないでくださいとたしなめた。
しかし、それから何日も経たないうちに亡くなった。
Aさんのバーは家族が経営を引き継いだので、Kさんは予定通りピアノを弾いていた。
そのときに、あることに気付いた。いつの間にか譜面が読めるようになっている。
譜面を見ただけで、どんな曲でも弾ける。
突然の変化に驚いていると、Aさんを見舞いにいって、手を握られた感触が蘇った。
『先生からの贈りものだと思うんです』

福澤徹三

福澤徹三
「おまえをつれていく」
話を訊いた女性の高校時代の友人の体験。
とても明るかった友人が、ある日を境に暗くなっていったという・・・

その原因は・・・・
夢に幽霊が出てきて
『おまえをつれていく』と言われ続けているため、怖くて寝られないというもの。
母親に相談すると、お札を買ってきてくれた。
お札をベッドの下に貼ると、幽霊は出なくなり、彼女はぐっすりと眠ることが出来た。
しかし、数日経つと、幽霊ではなく、死神が夢に現れた。
タロットカードの絵、そのもの姿だったとのこと。
そして
『おまえをつれていく』と言われた。
彼女は必死で『いきたくない』 『いきたくない』と夢の中で抵抗した。
すると、母親が夢の中に現れ
『この子はだめ。どうしてもつれていくなら、私を連れていきなさい』と言った。
翌朝、目が覚めると母親が隣の部屋で寝ていたので安心した。
けれど、触ると既に冷たくなっていたと言う・・・・

平山夢明

平山夢明
怪談実話顳顬草紙歪み 平山夢明 メディア・ファクトリー
「あいつ」
Rさんには、かつて幼稚園からの大親友がいた。
しかし、高校から進路が分かれ、Rさんは裏社会への道、親友は大手銀行へ就職した。
そして親友が大抜擢の上、支店長へ就任した。その直後、前任者が裏社会と繋がっていたことが原因で
親友は全責任を丸呑みさせられ、支店長を辞任。その後、降格、左遷。
『全ては銀行ぐるみで決まっていたんだな。それが証拠に奴の前任者はその後ものうのうと中央に返り
咲いているんだ。悪行の数々を知り尽くしているから切ることもできないわけだ。ひどい話だ』
親友は暫くしてホテルで首を吊った。
『遺書はないという話だが、俺は嘘だと思っている。様子を窺いに駆け付けた社員によって発見されたと
いうけど、奴らはあいつが死ぬのを待っていたんだな。室内にあった告発書めいたものは全て持ち去って
しまったんだよ』
Rさんはなんとかして仇を討ってやりたいと思ったのだという。
『こっちの業界で上の人たちがお世話になっている霊能者というか、普通じゃ絶対に逢えないクラスの坊さんに
頼んだんだよ。俺のルートで調べ上げた悪事を書面にして説明したら、国を危うくする連中ならばって・・・・・』
Rさんの話ではここ三年の間に頼んだ三人は全員、病死したという。
『でも、どうやって、その人たちが悪い奴らだとわかったんですか。親友の仇だと・・・・』
Rさんはある大手銀行の社員名簿を取り出し、その上をゆっくり指でなぞり始めた。
と、天井が”ドンッ”と踏み付けられたような音がした。部屋が揺れたかと思うほどだった。
その氏名には、すでに横線が引かれていた。
『奴は今でも俺を見守ってくれているみたいだ。だから、この話も筒抜けなんだよ』
ほんとうですか・・・・と口にしかけた途端、今度は壁がトントントントンとリズミカルに叩かれた。
『な』 Rさんが笑った。
頷くしかなかった。

平山夢明

平山夢明
「泥酔」
ある証券マンの体験。
仕事のストレスから毎日の仕事の後に飲むのが日課になっていた。
ある日の深夜、自宅マンションまでタクシーで帰り着くと、急に気持ちが悪くなり
体を支えるのがやっとの状態になってしまった。
やっとのことで自宅のドア前まで来たが、鍵を差し込んでもドアは開かず
呼び鈴を鳴らしても妻は出てこない。
深夜であるので、隣近所に気を使いながら声を出して妻を呼んだ。
しばらくすると、隣のドアが開いた。
隣近所の付き合いがないのでわからないが、1,2度顔を合わせたことのある
隣の奥さんのようだった。
『夜分にすみません』と詫びると、部屋の中に入るように言われた。
有無も言わさぬ強引さで玄関に入れられると、背中を押すようにと奥の部屋へ
追いやられていった。
奥の部屋には祭壇があり、黒い男と僧侶が居り、読経の真っ最中であった。
そして、遺影には自分の姿があった。
焼香となり、自分の番になった。
しかし、焼香をすると自分が死ぬという気がして、ただ正座をしていた。
すると、奥さんが裁ちバサミを背中に当て、上下に動かす。
黒い男が顔を覗き込み、読経の声が一段と大きくなった。
呼吸が荒くなり、気が遠くなって気を失った・・・・
気がつくと病院のベッドの上だった。
看護士の話によると、自宅マンション入り口で倒れているとことを発見され
一時は心肺停止状態だったと。
十日ほどの検査で、自宅に戻された。隣は引っ越していた。
『あなたが入院した日の翌日に、お隣の旦那さんが亡くなって・・・・
あなたの財布が部屋に落ちていたと、お隣の奥さんが届けてくれたのだけど
どういうことかしら。詳しく訊けなかったのだけど』
財布には、あの日のタクシーの領収書が入っていた。

木原浩勝

木原浩勝
隣之怪 息子の証明 木原浩勝 角川書店
「私のできること」
私の家は、みな信心深かったので、小学校に上がる前には、観自在菩薩と般若心経を
諳んじていました。
中学生の時、九州へ家族旅行へ行った時の話です。
ホテルの従業員の方から、紅葉の眺めのスポットをお聞きしたので家族で向かいました。
祖父、祖母、両親、そして私の順であるいていると
『もしもし』 と突然、真後ろから声をかけられました。
振り返れば、赤い半纏を着たおじいさんと、井桁の模様のズボンを穿いたおばあさんでした。
二人は、どうしてもお願いしたいことがあるので、いっしょに来てほしいと言うのです。
返事に迷っていると、二人で深々と頭を下げてお願いされるので、行くことにしました。
『では、こちらへ・・・・』
二人の後をついて行くと、大小二つのお墓が並んでいました。
『ありがたいお経を唱えてくれんか』
『はい、わかりました。それならできます』
私はお墓の前に座ると、毎朝のおつとめのように、観自在菩薩・・・・と唱えたのです。
お経を終えると、おじいさんとおばあさんの姿はありませんでした。

木原浩勝

木原浩勝
「父の居ぬ間」
体験者が小学三年生の時、実家であるお寺で体験した話。
その日、母は何かの用事で出かけ、父は檀家の法事の打ち合わせで、ともに家をあけて
いました。家には私一人だったわけです。
普段から、本堂で遊ぶなと言われていたので、ここは本堂で遊ぼうと思いました。
以前から目を付けていた『木魚』と『磬子』を思う存分叩いてやろうと思い、本堂へ向かい
ました。
ポク ポク ポク ポク ポク ポク・・・・ボワーン ボワーン ボワーン・・・・
すると、耳元で小さな声が 『やめなさい』・・・・思わず首が縮みました。
しかし、周りを見ても誰もいません。 気のせいだと思い、また叩き始めました。
ポク ポク ポク ポク ポク ポク・・・・ボワーン ボワーン ボワーン・・・・
『やめろというとろうがっ!!』
今度は、大きな強い口調で言われた僕は本堂から逃げ出しました。
しばらくすると、すごい形相の父が帰宅し、僕の悪戯を攻め立てます。
僕は見られていないと思っていたので、誤魔化す自信がありました。
『こいつ、嘘までついてとぼける気か』 父の言葉に僕は震えあがりました。
『さっきな、檀家さんで話をしていると耳の中から ポク ポク ボワーンと鳴りだした。
すると、お前の亡くなった祖父さんがな、優しくやめなさいと言ってくれているのに
おまえという奴は聞きもせず、調子に乗りおって!!』

木原浩勝

木原浩勝
「病の間」
大学時代の同級生の実家のある部屋の話。
その部屋に泊まった人は、次々と自殺を遂げてしまうというもの。
夏休みに、その実家へ遊びに行った体験者が『病の間』をカメラで撮影。
映っていたのは、映るはずのないカメラをセットしていた自分・・・・
そして、真っ白な女。

数年後、実家を取り壊すことになり、その工事に立ち会った同級生が見たものは
『病の間』の礎石に使われていた、おびただしい墓石の数々だった。

木原浩勝

木原浩勝
「百円」
体験者が5歳の時の話。
近くに、ひいおばあちゃんが住んでいて、遊びに行くと百円くれるので毎日通っていた。
そして、ひいおばあちゃんの近くには、いつもひいおじいちゃんが無言で座っていた。
ある日、ひいおばあちゃんが亡くなった。悲しかった。
百円が欲しくて通ったわけではなく、ひいおばあちゃんが好きだったんだと気づいた。
ひいおばあちゃんの葬儀が終わった後に家に行ってみると、雨戸が閉められていた。
その雨戸を無理やり開けて中に入ると、座っているひいおじいちゃんに向かって
懸命に百円をねだった。
懸命さが功を奏し、ひいおじいちゃんが奥の間を往復した手には百円が握られていた。
それから毎日、ひいおじいちゃんから百円をもらって、駄菓子屋へ通った。
ある日、毎日どこへ行くのかと父に尋ねられた。
ひいおじいちゃんちと答えると、父の顔が曇って、誰も住んでいないと言われた。
ひいおじいちゃんがいるのに変なことを言う、と思い、無視して出かけた。
駄菓子を家に持って帰ると、父に詳しく説明させられ、2度と行くなと言われた。
しかし、次の日もひいおじいちゃんの家に行き、雨戸を開けようとしたが
釘が打ち付けてあって開かない。家に帰ると父に抗議した。
すると、父にひいおじいちゃんの容貌を聞かれ、毎日見てきた姿を答えると・・・・
「ひいおじいちゃんは、おまえが生まれる、ずーっと前に死んだんだ」

木原浩勝

木原浩勝
「命日」
大学卒業が近づいた頃、友人に誘われて彼の実家へ行った男性の体験。
東北の山奥ながら彼の実家は旧家で、建物を見ると『お屋敷』というたたずまいだった。
到着すると、彼の家族が皆、歓迎してくれることはわかったが、何か雰囲気がおかしい。
友人に尋ねると『もう少ししたら話す』とのこと。
だが、二日目の夜が明けると、今までの雰囲気とは一変。
彼の親戚が全て集まってきたような大勢の人たちでが、飲めや歌えやの大宴会が
始まっていた。
彼の両親に見つかると『まあ、一杯』と酒をすすめられ、次は祖父、祖母・・・
目が覚めると布団の中だった。
二日酔いの重い頭を持ち上げて起き出すと、宴会はまだまだ続いているようだった。
席に戻ると、またまた酒を注がれる・・・
たまらなく、外へ逃げ出した元へ友人が追いかけて来た。
そして『理由を説明する』という。
すぐ近くの先祖代々の墓へ案内されると、墓の裏を見るように言われる。
墓の裏には没した日にちが刻まれえているが、ほとんどの墓石の日にちが3月27日に
なっていた。酔いが一瞬で醒めたところで友人が説明をはじめた。
『大往生だったり、事故だったり、死因についてはバラバラだけど3月27日に死ぬ。
そのため3月28日になっても皆が無事だと、今年は誰も亡くならなかったことを祝い
親戚中が集まって1~2日宴会するんだ。まるで、呪いや祟りみたいだろう?』

中山市朗

中山市朗
「相手役」
漫画家のMさんの体験である。
彼女は高校の時、広島県S女子高校の演劇部に在籍していたという。
その高校の講堂のステージに上がって、一人でセリフの練習をすることがあった。
『与ひょう』 と相手の名前を呼んだ。
すると、次の与ひょうのセリフが返ってきた。
『あれ?』 当たりを見まわしたが、相手役の子はおろか、誰もいない。
練習中にセリフを忘れたりすると背後から小さな声で教えてくれる、が振り返っても
誰もいない・・・・
そんなことがMさんのみならず、同級生たちの間で頻繁に起こっていた。
『まあ、慣れるよ』 と先輩たちは言うから、きっと同じ体験をして来たのだろう。
『ここに長いこと棲みついている幽霊たちは、セリフを憶えちゃったんじゃない?』
同級生たちはそんなことを言いだすようになり、二、三ヶ月もすると、それが当たり前に
思うようになったという。

中山市朗

中山市朗
怪談狩り 禍々しい家 中山市朗
「家賃」
K子さん夫婦が新築のマンションへ引っ越した。
K子さんは専業主婦。
夫が仕事へ出かけると、部屋の中は一人だけ。
ところが、夫が朝出かけた途端に物音がしだす。
台所のシンクから、ボンボンと音がしたかと思うと、戸棚の内側からバンバンと叩く音がする。
ある時は、地下収納庫の扉、そして押入れの襖、襖はたまに勝手に開く。
トイレにいると、家には誰もいないはずなのにノックされる。
そして、とうとうK子さんがキレた。
部屋の真ん中に仁王立ちになると
『いるんだったら、家賃払え!!』
そう一喝した。
以後、音はピタリと止んだ。

中山市朗

中山市朗
怪談狩り 黄泉からのメッセージ 中山市朗
「生首の予言」
Hさんという女性がいる。Hさんの旧姓は、ある土地と因縁が深く、また珍しいものだそうだ。
その本家筋にあたる者は、親族の不幸があると髪がザンバラの落ち武者のような生首を夢枕で
見るそうだ。幼いころから、彼女は何度も生首を見ては親族の不幸を知ったらい。
彼女が結婚する前、姉と大阪で暮らしていたときのこと。
ある早朝、パッと目が覚めた。
すると目の前に生首が浮いている・・・・
(え?今起きているのに、あれが見えている)
『摂津の国、数多の人、死に候』 と生首が声を発して消えた。
(摂津の国って、どこ? 大阪?神戸? 死ぬ?)
なんだか頭がこんがらがっていると、ガタッと家が大きく揺れた。
地震だ。それも大きい。 しばらくして揺れは収まった。
阪神淡路大地震である。
親族同士連絡を取り合ったが、全員の無事を確認した。
親族全員が、なぜか目覚めて、生首を見て『摂津の国、数多の人、死に候』の声を聞いたという。
結婚して、今の姓になってからは、もう夢枕に生首が出ることはなくなったらしい。

ちなみに、彼女が高校生の時のこと。
担任の先生が『親戚縁者が死ぬとき、生首が夢枕の中に出てきて知らせてくれるんや』と話した。
『先生の故郷はどこですか?』と聞いたところ、父親の出身地と同じだったそうだ。

中山市朗

中山市朗
怪談狩り 四季異聞録 中山市朗
「タカシの引っ越し」
OLのM子さんが数年前のこと。
当時二十七歳だった彼女には、一歳年上の彼がいた。名前はタカシさん。
春になって、タカシさんは職場が変わったので引っ越しをすることになった。
引っ越し当日はM子さんも手伝うつもりで準備していたが、見事に裏切られた。
そして数日後、彼から事情を説明された。
それは、引っ越し当日、新居となるアパートの部屋で女性が首をつって死んでいたというものだった。
女性は、彼の元婚約者。彼は、納得して別れたと思っていたが、彼女は違っていた。
彼を思い続け、首を吊ったところで彼に助けてもらうつもりで死んで行ったのだ。
その話を聞いたM子さんは彼と別れて連絡を絶った。
その後、彼と共通の知り合いの友人から彼の死を知らされる。
元婚約者が首を吊った部屋で、彼もまた首を吊って死んだとのこと。
アパートの契約は解約していたので、どうやって部屋に入ったのかも不明とのこと。
その日は、元婚約者の四十九日だったそうだ。

中山市朗

中山市朗
怪談狩り 赤い顔 中山市朗
「受信番号」
テレビ番組の収録で、真夜中の京都東山の周辺を散策した。
体験者がこの近くのホテルで遭遇した怪奇を語る。
ホテルのあった場所は、その昔墓地であったという。
そういえば、東山東麓には霊園の看板がいくつもある。
この場所からも『K霊園』という大きな看板が見える。
そのとき、マネージャーのN君の携帯電話が鳴った。
『こんな夜中にだれや』 と言いながら電話に出る。
すぐに 『えっ』 と小さく叫ぶと携帯電話を見つめた。
『これ以上詮索するな、で、すぐ切れました』 という。
N君は発信者番号を見ながら首をかしげる。
『知らない人ですね。 075、京都ですね』 というN君の顔色がみるみる変わった。
『どうした』
『あそこからです』
携帯電話に表示されていたのは 『K霊園』 の看板に書かれた電話番号だった。

中山市朗

中山市朗
怪談狩り あの子はだあれ? 中山市朗
「花嫁」
戦前の話だという。
Sさんの父が六、七歳の頃、実家は農家で茨城県Y村に家族八人で暮らしていた。
ある日、町へ出かけていったおじいさんが帰ってくると
『お客さんだよ』 と叫んだ。
こんな寒村にお客とは珍しいと思いながら庭に出てみると、馬の背中に、縄でぐるぐる巻きに
縛られた一匹の狐がいる。
『この狐、どうしたの?」
『それかな・・・・・・』
町で用事を済ませ、馬を引いて帰路について、村に通じる一本道に出た。
そこに一人の若い女性が、なんと文金高島田の花嫁衣装で立っていた。
訊けば、今日Y村へ嫁ぐことになっているという。
婚礼と言えば、村での一大イベントなのに聞いていないのはおかいい。
それに、さっきまで大人しかった馬が、女を見てしきりに嘶いている。
(そういうことか)とおじいさんは察知した。
『それは良かった。わしもY村の者でな、今帰るところじゃ。よろしかったら裸馬だけれど
乗っていきなされ』
それを聞くと、女は馬の背に乗ろうとした。そのスキを見てぐるぐるに縛ったのがこの狐だという。
おじいさんは、家族に狐を見せると 『もう悪さをするんじゃないぞ』 と言って縄を解いた。
狐は山へ帰って行ったという。


中山市朗

単行本


文庫本
中山市朗
琉球金剛院正一位法会師の肩書きを持つ男性が2日間に渡って
著者に語った体験談。

彼の仕事仲間の男性が婚約した。
婚約した女性は、彼も良く知る人物だった。
その頃、仕事仲間の男性をしきりに誘惑しよとしていた妖艶な双子姉妹がいた。
姉妹は、男性が婚約したことを知ると、婚約者の女性を執拗にいじめるようになる。
面と向かって罵倒、塩酸を掛けたり、犬の生首を彼女のアパート玄関に置いたりと・・・
エスカレートしていくいじめに耐えられなくなった彼女は自殺する。
彼女のアパートからは、姉妹を呪う書置きや藁人形が出てくる。
彼女の死後、二人の姉妹の周囲で奇妙な事件が続発、やがて被害は実家へも。
実家の父親の依頼で、琉球金剛院正一位法会師の彼が実家へと向かう。
大豪邸に住む双子姉妹家族。
それが、最後には全焼。生き残ったのは父親だけだった。
そして、なまなりさんと関わった琉球金剛院正一位法会師の彼も多くのものを失う。
なまなりさん、それは自殺した女性の怨念と、家系を呪うものの合体したもの。
怨念は、呪う相手を倒した後も、そこに居座り続ける・・・・

これは実話で、現に人が4人亡くなっている話。
この姉妹が何もしなければ、被害者は誰も出なかったのですよ。
いじめは報復されるよ・・・・必ず・・・・

工藤美代子

工藤美代子
怖い顔の話 工藤美代子 角川書店
「ノンフィクション作家だってお化けは怖い」を「怖い顔の話」へ改題して文庫化したもの。
文庫版のためのあとがき
今年になってから、私自身に起きた不思議な変化があった。
もうこの歳になって、そんなことがあるものかと今も半信半疑だ。
それは、急に他人の顔から以前より多くのものを読み取れるようになったのである。
二か月前に近所の歯医者へ行った。密かにクマさんと呼んでいる先生はとても親切で腕がいい。
以前、トラブルを抱えていると聞いていたがクマさんはすっきりした顔をしていて、肩のうしろから
真面目そうな女性の顔が覗いている。あまり化粧をしていないが綺麗な人だった。
『先生、もしかして最近、何か大きな変化がありました?』
治療が終わった後に尋ねると、クマさんはぎょっとした顔をして、私を見た。
『やっと前の件が片付いて、今ね、結婚の準備をしているんです』
『ああ、前の方はエキセントリックな人だったでしょう。でも、今度の方は理知的でおきれいな人』
『そうそう、工藤さんにお話ししてなかったですが、変な女に引っかかって・・・。でもなんで
そんなことがわかるんですか? 僕しゃべってないですよね』
『もちろん何も伺ってないですが、先生の肩越しに素敵な女性のお顔がちらっと見えたんです』
ここでクマさんは『うわあー』と大きな声を上げた。
『家に帰ったら彼女に言いますよ。それ、喜ぶと思うな』と世にも幸せそうな顔をした。
そうしたら、翌日の昼過ぎに『ノンフィクション作家だってお化けは怖い』を担当した角川書店の
光森優子さんから電話があり、この本を文庫化するにあたって『怖い顔の話』に改題したいと
相談された。もちろん、大喜びで快諾した。
さらに幸運が重なって荒俣宏先生にお会いする機会があり、文庫版のために対談をお願い
したら、気持ちよくお引き受け下さった。
こうして、山田太一先生との対談と、荒俣宏先生との対談が収録されるという贅沢な願いが
叶ったのだった。

工藤美代子

工藤美代子
ノンフィクション作家だってお化けは怖い 工藤美代子 角川書店
「ヨシエさんの霊感」
昭和三十一年に私の母と父が離婚した。
この時、母と行動を共にしてくれたのがお手伝いのヨシエさんだ。
そして、私が六歳、初めて小学校に入学した途端、毎朝ひどい腹痛になやまされた。
往診に来てくれた医者にも原因がわからない。
ベッドで七転八倒にているとヨシエさんが傍らに来て、静かに私のお腹をさすり始めた。
翌日から私は小学校に通えるようになった。あれは何だったのか、いまだにわからない。
おそらく私はヨシエさんの特別な能力に初めて触れた日だったのだろう。
また、ある時は・・・
『さっきね、玄関のチャイムが鳴ったので出て行ったら、きれいにお化粧をした隣の奥さんが
にっこり笑って、何も言わずに帰ったんですよ』
ヨシエさんの言葉に私と母は顔を見合わせた。
お隣の奥さんは末期ガンで入院中のはずだからだ。
その晩、息子さんから奥さんが亡くなったという電話が来た。

工藤美代子

工藤美代子
「三島由紀夫の首」
筆者が二十代後半だった頃、当時の夫に連れられて川端康成邸を訪ねた時こと。
川端康成は亡くなっていたが、秀子夫人が養女の夫とともに美しい日本家屋に暮らしていた。
三十分くらいでお暇するはずが夕飯を食べて行くことになった。
『あなた、ときどき不思議な体験をなさるかしら?』 秀子夫人が唐突に聞いて来た。
『はい』 と私は迷わず答えた。
秀子夫人も、度々あちらの世界の人たちを見てきた人だった。
三島由紀夫が切腹の上、介錯されて命を絶ったのが昭和45年。
その時の三島由紀夫の遺体を確認したのが川端康成だった。
秀子夫人曰く
三島が可哀相な姿で何度も訪ねて来たので、いつも法要をお願いしている高僧を呼んでお経を
上げてもらった。
三島の法要を終えると、高僧からこんな話を聞かされた。
三島由紀夫にはとんでもないもの憑いている。
なので、私ができたことは首を据えることだけだった。
この霊には、さわってはいけないものが憑いている。

立原透耶

立原透耶
怪談実話集ひとり百物語 悪夢の連鎖 立原透耶 メディアファクトリー
「会いにきたよ」
文筆業のU氏は子供の時から実家で柴犬を飼っていた。大学生になって実家を離れたが
もう年寄りになっている犬のことは常に気にかかっていた。
ある日、母親から犬が死んだと電話がかかってきた。
ちょうど土曜日で、当時は金融機関は全て休みの上、手持ちが少なく、実家に帰るほどの
金額がない。借りようとした姉ともすれ違い、結局駆けつけることが出来なかった。
母親たちからは 『おまえは冷たい』 などと叱られたが、本当は犬に会いたかったのだ。
一ヶ月後のことである。 『ああ、今日はあいつの月命日だな』 とぼんやり考えていると
部屋がなぜか獣臭くなっている。それも懐かしい臭いだ。愛犬の臭いと同じである。
そう思った瞬間、柴犬が彼の顔を舐めた。
抱きしめると短いごわごわした毛の感触がした・・・が、すぐに消えてしまった。
目を開けると、しっぽを振っている愛犬がいた。残念なことに目が合うと消えてしまった。
翌朝、彼は実家に電話した。
『俺がお別れに会いに行けなかったから、ヤマ(犬の名)の方から会いにきてくれたよ』

立原透耶

立原透耶
怪談実話集ひとり百物語 闇より深い闇 立原透耶 メディアファクトリー
「ガチャガチャ」
ある人から聞いた話である。
高校一年のある日のこと、部活で帰りがとても遅くなってしまった。
高速道路の横を自転車で走っていると、ガチャガチャという音が聞こえてきた。
こんな夜中になんだろうと思って近づいてみると、小さい子供が金網をガチャガチャと
揺すっていた。
早く帰りな、と言おうとして気付いた・・・・
車一台も走らない夜中だというのに、こんな小さな子供が一人でいるのはおかしい。
『ガチャガチャ』 子供の後ろ姿が見える・・・・
怖くなって、そのまま全速力で自転車に乗って逃げた。
翌朝、おそるおそるもう一度その場所に来てみると、小さな花束が金網の下に
供えられていた。どうやらそこは事故現場だったらしい。
よく見ると、玩具も供えてあった。
ああ、そうか、とそこで初めて納得した。

立原透耶

立原透耶
怪談実話集ひとり百物語 夢の中の少女 立原透耶 メディアファクトリー
「おーい」
雪の降りしきる冬、三泊四日の出張でホテル泊だった。
ツインルームである。窓側はどうしたって冬の寒さがしみこんでくる。
内側のベッドに陣取ると、私は携帯電話をいじりはしめた。
いつのまにか心地よい疲れが襲ってきて・・・・うとうとしていたらしい。
寝ぼけた頭で、室内の灯りを落とす。
と。
不意に、隣のベッドから 『おーい』 と呼ばれた。
男の声だ。
反射的に 『はーい』 と間の抜けた返事をしてから、気が付いた。
ここは確かにツイン・ルームだが、私一人で使用している。
隣のベッドには誰もいないはずだ。
(え?)
驚いて目をぱっちり開けた瞬間、目の前に見知らぬ中年男性の顔が大写しになった。
『わっ』
私が叫ぶのと同時に、相手も叫んだ。
そして、唐突に消えてしまったのである。

立原透耶

立原透耶
著者自身、家族、周りの人の体験を綴った百話
「床の影」

著者自身が参加した出版社のパーティー後、作家仲間がホテルの一室で怪談話を
していた時のこと。
作家の一人が突如
『私、もう寝ます』と言って、部屋を出て行ってしまった。
呆然と彼女を見送る一同。
すると一人の作家が、出て行った彼女が先ほどまで座っている場所を指差して
『あいつが出て行ったのは、このせいだ』
一同、言われた場所を見ると、そこには黒い影が居る。
今度は、部屋に残った方が一人、また一人と部屋を出て行く番になった。
その部屋に泊まる予定だった作家も、他の部屋で寝ることにした。
翌朝、荷物を取りに自分の部屋へ戻った彼女が言った。
『黒い影は、まだいた』

福澤徹三

福澤徹三
怪談実話集 S霊園 福澤徹三 角川ホラー文庫
「一四六番」
銀行に勤めるNさんの話である。
彼女の夫は自動車学校の教官だが、数年前に同僚のOさんという男性が急死した。
あとひと月で定年退職する予定だったが、学科教習の最中に倒れて亡くなった。
『おれは定年したら、バイクで日本全国を旅するんや』
Oさんは口癖のようにそう言っていただけに、皆気の毒に思った。

Oさんが亡くなってひと月ほど経った頃、ちょっとした異変が起きた。
自動車学校には、仮免許実施試験の合否を表示する掲示板がある。Nさんの夫の勤務先では
一から二百までの数字が掲示板にならび、合格者の番号が点灯する仕組みだ。
ところが、なぜか一四六番のランプだけが切れてしまう。電球を換えても、まもなく切れるので
業者に修理を依頼した。
業者は掲示板を入念に点検したが、どこにも異常はないという。
にもかかわらず一四六番のランプは点灯しない。
一同が首をひねっていたら・・・・『あーっ』と経理の男性職員が叫んだ。
その職員によれば、亡くなったOさんの教官番号が一四六番だった。
その後、校長の指示で職員全員が参加して、お祓いが行われた。
それ以来、一四六番のランプは正常にもどったという。

福澤徹三

福澤徹三
怖の日常 福澤徹三 角川ホラー文庫
「浴室」
雑貨店に勤めるTさんが棚卸のため、深夜に自分の賃貸マンションに帰宅したときのこと。
帰りに買ったコンビニ弁当で遅い夕食をすませたあと、風呂に入った。
浴槽の中で疲れた躰を伸ばしていると、首筋に水が弾けてひやりとした。
天井を見上げると、びっしり水滴がついている。
換気扇は回してあるし、ほとんど湯気もたっていない。残暑が厳しい季節なのに、これほど
水滴がつくのは不自然だった。
奇妙に思いつつ天井を見ていたら、いきなり躰がのけぞって浴槽のふちで頭を打った。
なにが起きているのかわからないまま、顔がざぶりと湯の中へ沈んだ。あわてて浴槽の
ふちに両手をかけて躰を支えた。
次の瞬間、なにかが足を掴んで両足を引っ張っているのに気付いた。
『いやあああっ』
Tさんは金切り声をあげて、両足をばたつかせ、裸のまま浴室を飛び出すとバスタオルを巻いた。
気持ちが落ち着くのを待って、浴室のドアを開けたが、何も異常はなかった。
けれども、頭には瘤ができていて、両足の足首にはうっすらと痣があった。
それ以降は何もないので、今でも住み続けているという。

福澤徹三

福澤徹三
「見知らぬ男」
Tさんの母は、ときおり奇妙なものを見るという。
あるとき、母が家に見知らぬ男がいると言い出した。
突然現れては、家内をうろついて消えるというから生きている人間ではない。
知り合いのユタに相談したが、正体はわからなかった。
『でも、悪い感じのひとじゃないらしいです。何か言いたそうな顔をしているって』
ある日、父の運転で車を走行中、ふと母は窓の外になにかの気配を感じて路肩に目を
やると、そこには件の男がぼんやり佇んでいた。
なぜ、家ではなく、こんな場所に現れたのか?と疑問に思っていると・・・
『父の兄が18歳の時にバイク事故で亡くなったという話を思い出したそうなんです』
とはいえ、事故が起きたのは結婚前で、母は父の兄とは面識がない。
母は父に車を停めさせて・・・
『あなたのお兄さんが亡くなったのは、このへんじゃないの?ってー』
男が佇んでいたあたりを指さすと、父は血相を変えた。
それで、ようやく若い男が誰なのかがわかったという。

福澤徹三

福澤徹三
「指輪」
ある有名ジュエリーブランドに勤務するTさんの話。
3年前、彼女はファッションビルの直営店で店長をしていた。
ある日、私服の刑事が来て責任者に会いたいというのでTさんが対応した。
刑事は指輪を差し出すと、遺体で見つかった女性がしていた物だという。
女性は死亡してからかなりの時間が経過していること、服、所持品がないことから
身元がわからないため、指輪が唯一の手掛かりで刻印されたブランド名を頼りに
店に足を運んだとのこと。
しかし、人気のデザインの上、販売していた店も多かったことから指輪だけで女性の
身元がわかるはずもないとTさんは思った。
無駄だと思いつつ指輪を手に取ると、指先に電流のようなものが走り、Tさんの脳裏に
女性の顔と名前が閃いた。
販売履歴で調べると、常連客でもない女性の顔と名前がなぜ閃いたのか、自分でも
不思議だし、刑事は簡単に身元がわかったので半信半疑の心持で帰って行った。
その日からTさんの体調に変化が起きた。手から肩に掛けて痺れるように重い。
あの指輪に触れてからと思うと不気味だった。
そのうちにTさんが病気やけがに見舞われた。
しかし、ある程度日にちが経つと奇妙なことがわかった。
結果的に事故や病気のおかげで、より大きな病気、事故から逃れていたのだ。
体調がよくないのに営業成績が上がったり、思わぬ臨時収入があったりもした。
指輪の件からしばらく経って、あの刑事が再び店に現れた。
『おかげさまで事件がすべて解決しました。ご協力に感謝します』
刑事がお礼を言った瞬間、指から肩にかけての重い痺れが消えた。

福澤徹三

福澤徹三
「おしいれ」
主婦のFさんの話である。
その日の明け方、ひたひたという足音で眼が覚めた。
足音が聞こえる部屋の襖を開けると、三歳になる息子がぼんやり立っている。
『どうしたん。そんなとこ立って』
Fさんが訊くと、息子はとことこと歩き出し、壁に手を当てて扉を開けるような仕草をする。
『ねえ、なにしてんの』
『おしいれあける』
『そこは押し入れやない。壁よ』
『おしいれあける』
仕方なく、押し入れの戸を開けて
『はいはい、押し入れはここよ』
中には夏物の布団を圧縮して入れてある。息子は、この上にもぐりこんだ。
次の瞬間、ぐらぐらぐらっ と激しい揺れが起きた。
あわてて床にしゃがみこんだ時、洋服箪笥が倒れて息子のベッドを押しつぶした。

あとで息子に聞くと、押し入れに入った記憶は全くなかった。
阪神淡路大地震の時の出来事だという。三

福澤徹三

福澤徹三
「ひきこもり」
自動車工場に勤める、二十代後半のOさんの話である。
彼は三年前までひきこもりだった。
大学を出て就職したが一年で辞め、ちょうど腕利きの機械工だった父が急死したのもあって
実家に戻った。
そして、働こうともせずにネットゲームにはまり、家の金はおろか、金になりそうな物は全て
売り払った。
売るものがなくなり、仏壇の引き出しに貴金属でも入ってないかと思い、引き出しを開けた。
しかし、中には数珠や線香の類しか見当たらない。
仏壇は閉まっていたが、もしかしたら金目の物があるかもしれないと扉を開けた。
次の瞬間、仏壇の棚に並んでいた位牌がいっせいに転げ落ちて来た。
『もう、なんなんだよー』 と毒づいたが、まだ新しい父の位牌が膝の上に乗ったのを見て
怖くなった彼は、二階の自分の部屋に駆けあがった。
すると、閉め切っていたはずの窓が全て開いていて、春の風が吹き込んでくる。
その風は、幽かに整髪料と機会油の匂いがした。
『子どもの頃に嗅いでいた親父の匂いでした。あんなに嫌いだったのに涙が止まらなくて』
その日を境にひきこもりをやめたが、母には理由を話していない。
なので、Oさんは毎朝、母が見ていない隙に仏壇に頭を下げるという。

福澤徹三

福澤徹三
「首なし地蔵」
女子大生のYさんの話である。
去年の夏、彼女は同級生の女の子三人で『首なし地蔵』へドライブに行った。
地蔵の首が無くなった原因については、幕末に長州軍が首をはねたとか、諸説あるらしい。
三人は山の途中で車を降りると、細い坂道を登った。
三人で話しながら歩いていると、背後でキーキーと何かが軋む音がする・・・・
振り返ると、車椅子に乗った老人がかなりの勢いで近づいてくる。
三人は、老人に道を譲り、老人の行方を目で追った。
首なし地蔵までは一本道なので、じきに老人に追いつくだろうと思っていた。
ついに首なし地蔵に着いたが老人の姿はなかった。
ここから先は行き止まりなのに、老人は何処へ消えてしまったのか。
三人は怯えながらも、首なし地蔵の前で記念撮影をして帰路に着いた。
ところが、撮った写真を確認すると、首がないはずの地蔵に首があった。
ただ、実物の地蔵に首が復活しているのかどうか、たしかめる勇気はないという。

福澤徹三

福澤徹三
忌談終 福澤徹三 角川ホラー文庫
「同居人」
建設会社に勤めるEさんの話。
四十年ほど前、当時、中学生だったEさんの実家の近くに二階建てのプレハブ住宅があった。
住人は、四十台後半の夫婦と七十台前半の老婦人の三人だった。
Eさんが高校二年の時、その住宅が全焼した。
焼け跡からは三人の遺体が発見された。
検視の結果、夫婦は火災による一酸化炭素中毒だったが、老婦人の死因は不明だった。
『近所のもんに聞いたら、遺体はミイラ化していたらしい』
つまり老婦人は火災に遭う前・・・・それもかなり前に亡くなっていたことになる。
遺体は古いうえに炭化していて、死亡時期はわからなかった。
Eさんは火災のひと月ほど前に、三人が庭にいるのを目撃している。
『でも、うちの親も近所のもんも、あの家には夫婦しかおらんやったて。なら、俺が見たのは
なんやったんやろう』
「無駄だよ」 加門七海
加門七海氏が友人から聞いた話。
あるアパートに越して来てからというもの、毎晩、女の幽霊が出る。
何をするわけでもないが、寝ている彼女の上空を通過して行く。
気持ち悪く思った彼女は知り合いに相談した。
『お払いのできるお坊さんを紹介するよ』
早速、お願いすることにして、お坊さんが部屋にやってきた。
部屋を眺め、独りで納得顔をすると四隅にお札を貼った。
『明日の晩、私はお寺でお経を唱えますので、あなたは一人でこの部屋で
お経を唱えてください』
彼女は、怖いのに何で一人でお経を唱えなければいけないのかと思ったが
相手がお坊さんなので黙っていた。
その頃の状況が加門七海氏の耳に入ったので、オカルト通の人に聞いてみると・・
『そういうのを業界用語でサジを投げるって言うんだ・・・』
サジを投げるとはどういう状況なんだろうと思っていたら、件の彼女から
その後の話が届いた。
お坊さんに言われた時刻にお経を唱えていると、部屋の外では女がぐるぐる
回っている気配がしている。
『お札があるので中に入れないはずだ』と思った途端・・・
女の幽霊が壁を抜けて現れると
『無駄だよ』と一言・・・・早々に引っ越したとのこと。

加門七海

加門七海
書けない話は存在する。
それが『力』の強い話だ。
この手のものを書こうとすると、寝た子を起こすごとく怪異は甦って禍を呼ぶ。
それどころか、洒落にならない事態を新たに招いてくる。
話の大小とは無関係だ。
この程度の話ならいいだろうとの、こちらの酌量も関係ない。
記憶が恐怖を呼び覚ますのか。
それとも、文字にすることで、何かの作用が働くのか。
私にはわからない。
けれど、『呼ぶ』 花医者呼ぶ。
書けない話は、絶対書けない。

標題作 「怪談を書く怪談」(本文より)

加門七海

加門七海

加門七海



加門七海
新倉イワオ CLAMP 立原透耶 飯田譲治 工藤美代子 平山あや
ザ・グレート・サスケ 竹内海南江 大森亮尚 松谷みよ子 稲川淳二
との加門七海の個別対談。
10人&1グループの心霊体験が多数語られています。
稲川淳二は、自分の体験を1人で話し続けていたようです。
出来上がった怪談でななく、体験した本人がそのままを語る怪談をどうぞ。

辛酸なめ子
ぬめり草 辛酸なめ子 ぶんか社
都会では、再開発以前の土地にとりついていた霊たちが行き場をなくして彷徨っているとのこと。

辛酸なめ子
霊的探訪 辛酸なめ子 角川書店
「都内納涼スポット巡り」
霊能者によると、霊のふきだまりと言われている新宿御苑トンネルをタクシーで通った時には
こめかみをしめつける霊圧と重さを感じてしまいました。
都内のスポットで最近霊気を感じているのはこのトンネルと、あと油断できないのは神社の古札納め所です。
神棚に祀っていたお札が、そろそろ一年経つので霊験期限も過ぎたと思い、神社に納めに行きました。
古札納め所はたいてい神社の裏側にひっそりとあり、それぞれの家から持ち込まれた古札には、一年の邪気が
しみ込んでいるようで、あたり一面は薄暗く感じられます。
この日はふと油断した一瞬があり、何かが肩にのしかかってきた霊的アタックを感じて、体がゆらぎました。
ヤバイと思ったのですが手遅れで、その日はさまざまな怪現象に襲われたのです。
車に乗っていたら、異様な睡魔に襲われ、まぶたの裏に『ヨウコ』と名乗る髪の長い女の顔が浮上。
彼女は、こちらを見て『フフフ・・・・』と不気味に笑っていました。
その後、カーステレオからは『外来患者のかたは・・・・・』という病院の放送のような不気味なアナウンス。
久しぶりにぞっとした体験でした。古札納め所の邪気には要注意です。

辛酸なめ子
「にがおえの家」 辛酸なめ子
前の部屋は北向きで寒く、電気をつけていても薄暗かった。
その部屋では、夜中、たびたび怪現象に襲われた。
そんななか、最も困るのは仕事中の抵抗不可能な睡魔だった。
夜の十一時過ぎ、漫画を描いていると途中で落ちて、数秒間意識がなくなる・・・・
目覚めて原稿用紙を見ると、線がぐちゃぐちゃになっていて、書き直し。
それが頻繁に発生し、目覚めると知らない人の顔を描いてる。
その見知らぬ顔は、たいてい哀しそうだったり、怒っていたり・・・・。
もしかして、霊の間で、私がにがおえを描いてくれると評判になっていたりして・・・・。
ところで最近、霊能力者の友人から聞いた話によると、霊感が高まると、霊に付け入られ
やすくなるとか。
それも、性的な対象として・・・・。
妙にリアルな性行為の夢を見ているときは、実際霊に手ごめにされていることがあるそうだ。
霊に一度でも体を許すとあとが大変で、霊の間で『やらせてくれる女』と噂が立って
次から次へと・・・・。
それを聞いて、にがおえだけで済んで良かった、と胸をなでおろした。

辛酸なめ子

「憑依体験女子トーク」
最近知り合った中で最も霊感が強い写真家の殿村任香さんに、憑依された時の対策を教えて
いただきました。

『背中を三回叩いて、壁に向かって大きく息を吐く・・・・これ、毎日やってます。
あとは、下ネタを言うことです。効果てきめんなのは、放送禁止用語の四文字言葉を叫ぶこと。
私は女なので女性器の方を叫びますね。金縛りも一瞬で解けます。』

殿村さんに伝授いただいた術を使う機会は数日後に訪れました。
六本木のけやき坂で、おかっぱ頭で着物姿の少女が丑三つ時に現れたので、早速その放送
禁止用語の四文字言葉を・・・・叫ぶのは躊躇われたので、そっと『××××』とつぶやきました。
すると、少女の霊はす~っと消えて、言霊の威力を実感できました。

加門七海

加門七海
『なんでこんなもの、買っちゃったんだろう』
人形、酒器、水晶ギツネ、掛け軸、銅鏡、香筒、幸運を呼ぶ猫。
オカルト好き、骨董好きが高じて、ひと目惚れだったはずが、気付けば妖しいものたちに魅入られ
なぜか頼られ、囲まれる日々。
怪談専門誌『幽』に連載し話題を呼んだ視える日々を赤裸々に綴った『怪談徒然日記』も収録。
あとがきとして、『お狐さん』との再会を果たした後日談も収録。
驚異と笑いに満ちたエッセイ集。

加門七海
加門七海

加門七海





加門七海

加門七海自身の体験を4日4晩にわたって語り切った実話怪談。

「療養地の一夜」
幼い頃の彼女は、体が弱くてしょっちゅう死にそうになっていた。
それで、彼女を療養させるために東京から埼玉に転居したが、父は仕事の都合で
東京に残り、母だけが彼女に付き添った。
ある晩、彼女が母に『キツク抱いて』と迫り、母は一晩中、娘を抱きしめてヘロヘロに。
その時に彼女は、自分の中身を引っ張り出される感覚と戦っていた。
この日を境に、病弱だった彼女が、殺しても死なないと思われるほどの健康体になった。
母は医者のすすめで転居することを父に説明したが、それは母の一存だったとのこと。
東京で住んでいた場所が良くないことを母は感じ取っていたのではないかとのこと。

平山夢明

平山夢明
「忘れ忘れ」 平山夢明
友田さんの高校では一人一人に密閉式のロッカーが与えられていた。
ハリウッド映画に出てくる高校生が使うタイプのもので、置かれていた場所も映画と同じ廊下だった。
夏休みのこと。
テニス部の練習が終わり、駅に着いたところで、ロッカーに忘れ物をしたことに気付いた。
既に時刻は七時をとうに回っていたので、一緒に戻ってくれるという友達を断って
彼女は一人で校舎に入った。
ロッカーの鍵はダイヤル式だ。
しかし、慌てていたのと暗いせいで、なかなか開かない。
『もう』
思わず、そんな苛立ちの声を吐いた後で足下に目が行った。
暗くて気付かなかったのか、黒いものが溢れていた。
ロッカーの扉の下から自分の足のくるぶしまで黒髪で埋まっていたのだ。
『モオウリヤヤッサーン』
突然、大勢による外国語のような叫びが廊下の奥から轟いた。
すると、髪がロッカーの中へ一気に引き摺り込まれ、同時に全てのロッカーの扉が一斉に開いた。
雷のような音だったという。
それからは、学校に忘れ物をしても、それを忘れることにした。

伊藤三巳華

伊藤三巳華
山に抱かれて 伊藤三巳華
ミミカの遠野物語(コミック) 他9名の方は文章になります。
著者の見えた亡霊だそうです

木原浩勝

木原浩勝
九十九怪談 第十夜 木原浩勝 角川書店
「みそ汁」
ある人がマレーシアのホテルに泊まった時のこと。
夜中、妙な音で目が覚めた。
グー、キュルルルル、グー、キュルルルル・・・・・。
カエルかと思ったが、何度も聞いているうちに、空腹時のお腹から鳴る音だと気づいた。
とそこへ、入り口のドアの前にいきなり男の姿が現れた。
ガリガリに痩せてドロにまみれた後ろ姿。
しかも、汚れたふんどしをしめて、頭には鉄兜。その鉄兜には日除けのボロ布が付いている。
旧日本陸軍の兵隊さんだとすぐにわかった。
ちゃんと確かめようと、枕元のスタンドの明かりを点けると、そこには誰もいなかった。
いつの間にか、あの空腹時の音もしなくなっていた。
同じ国の人間だと思うと放ってはおけない。
ひょっとして、お腹が空いたまま亡くなられた人が日本人の自分と出会ったので懐かしく思って
現れたのかもしれない・・・・
何かしてあげられることはないだろうか・・・・?
そうだと思い出して、カバンの中からインスタントのみそ汁を取り出すと、コーヒーカップに入れて
お湯を注いだ。
それを、さっき兵隊さんが立っていた場所に置いて寝たのだという。
朝、目が覚めるとコーヒーカップのみそ汁はきれいにカラッポになっていた。

中山市朗

木原浩勝
九十九怪談 第九夜 木原浩勝 角川書店
「靖国」
太平洋戦争の真っただ中、深夜、ジャングルの中で大雨に遭い、木の根方で休んでいた時のこと。
背後から大勢の人の気配がするので木を盾にして身を隠した。
こちらに近づいて来ないようなので、そっと覗いてみると、どこの部隊なのか友軍が一列にならんで
行進している。
自身は、この酷い戦局の中で部隊から逸れ、飢えと雨で体力と体温を奪われてボロボロになって
いるというのに、一行は軽やかに行進しているように見える。
元気一杯に出陣した時の自分を思い浮かべた。
眺めているうちに、彼らの異様さに気が付いた。
彼らの軍服が、下ろしたてのように綺麗なのだ。
おかしいと思いながらも我慢できなくて、彼ら一行に近づくと、最後列の若者に声を掛けた。
『おい貴様、どこの部隊だ? どこに向かっているのか? 俺も連れていってくれ』
すると若者は
『自分達はこれから ・ ・ ・ ・ ・ ・ に率いられて靖国へ行くところです。お連れすることは
できません』
靖国って・・・お前・・・・
彼ら一行の先には、ジャングルの中だというのに人ほどの大きさの白い玉のようなものが見える。
なんと彼らはその中に向かって吸い込まれるように入っていくのだ。
やがて最後の若者が入っていくと、フッと消えてなくなった。
後は元の通りの暗い雨のジャングルの中・・・・。

木原浩勝

木原浩勝
九十九怪談 第八夜 木原浩勝 角川書店
「ヤード」
古い国産車に乗っているFさんは、修理もメンテナンスも自分で行う。
ある日、部品を探しに訪れた自動車修理店でのこと。
車の部品が山積みされた場所の手前に、他とは雰囲気の違う車があったので
いろいろと社長に尋ねていると・・・・
『オカルト、信じますか?』と聞かれ、あいまいな返事をしたところ・・・・
『ちょっと、試乗してみましょう。ヤードに案内しますよ』と、Fさんを連れ出した。
車のドアを開けてFさんが乗り込むと、ドアが閉められた。
『そのまましばらくシートに座っていてください』
すると後部シートで、バンバンドンドンと、まるでシートで人が暴れ回るような騒ぎが始まった。
驚いて振り返ったが誰もいない。
これだけの騒ぎなのに車は全く揺れていない。
Fさんが後部シートを見つめているその時、後ろからポンポンと二度右肩を叩かれた。
びっくりして、叩かれた方を振り返ったが、そもそも車内にはFさんしかいない。
ドアは閉まったままだし、社長は外にいる。
Fさんは慌てて車の外に飛び出した。
『どうです?怖かったでしょ?何年かに一台こんな車が来るんです。神主さんにお祓いを
してもらってから、売りに出したり、オーナーさんにお戻ししたりするんです』

木原浩勝

木原浩勝
「達磨」
噺家の三遊亭歌橘師匠からうかがった話。
師匠が小学生の夏、友達数人でお泊まり会をしようというこになった。
友達の一人がお寺の息子だったので、そのお寺に泊まらせてもらうことにした。
泊まる部屋は十二畳、達磨の掛け軸があるだけという簡素な部屋。
泊まる前に、友達の父親(住職)から注意があった。
それは、達磨の掛け軸に足を向けて寝ないという奇妙なもの。
その夜のこと、遊び疲れて寝ようということになったが、一人がお寺の息子に尋ねた。
『ねえ、どうして達磨に足を向けて寝てはいけないの?』
『知らないよ、そんなこと』
お寺の息子がそんな答えをしたものだから、それなら皆で足を向けて寝てみようという
ことになった。
翌朝、起きてみると全員の布団がぐるりと反対へ動かされて、達磨の掛け軸に頭を向けて
いたので大騒ぎになった。

木原浩勝

木原浩勝
「四の重」
Hさんのお母さんが子供だったころ。
正月になると、必ずお父さんが重箱の蓋を取って、一の重、二の重と広げるという。
重箱は五段重ねであったが、必ず四段目が空になっていた。
四はない、つまり、死なない、という縁起担ぎだと教えられた。
更に、その重箱を広げるのは家長の役割で、家族の誰もそれをやってはならない。
Hさんのお母さんが小学三、四年生だった頃のお正月。
お腹が空いて、つまみ食いをしようと、こっそりお重を広げた時だった。
四の重の底に、三年前に亡くなったお祖母ちゃんのすごく怒った顔が映っていた。
びっくりして、周りを見渡したが部屋には自分しかいない。
再度、お重の底を見ると、もっと怒った顔になっていたので、慌ててお重を元に戻した。
それ以来、決してお正月に勝手にお重に触らないようになったのだという。

木原浩勝

木原浩勝
「会釈」
日本に長く住むアメリカ人Oさんの体験。
ある夜のこと、帰宅途中にちょっとしたことを思い出した。
毎朝、出勤途中で挨拶を交わすおじいさんの姿をここ四日ほど見ていない。
そして、おじいさんの家の明かりが点いているところも、ここ四日ほど見ていない。
ちょうど、おじいさんの家の前を通りかかると窓におじいさんの顔が見える。
よかったと思ったが、ちょっとおかしい。
窓は真っ暗なのに、おじいさんの顔ははっきり見える。
しかも、何が気になるのか、周りをキョロキョロと見回している。
まるで、誰かを探しているようだ。
その時、パッと目が合った。
咄嗟にOさんが会釈をすると、おじいさんも会釈を返した。
しかし、またキョロキョロと周りを見回し始めた・・・
『私じゃない、誰かを探しているのかな?』
そして、翌朝、おじいさんの家の前に救急車が停まって、人だかりができていた。
その中のひとりに話を聞くと、一週間ほど前に亡くなっていたらしい。
『誰かに自分のことを伝えたかったのに、私が外国人だから言葉が通じないと思った
のかもしれませんね』 とOさんが残念そうな顔をした。

木原浩勝

木原浩勝
「お姉さん」
夏休み、友達の家に遊びに行った時のこと。
トイレに行きたくて、廊下を歩いていた。
障子が開いている部屋があったので覗いてみると、中学生くらいのお姉さんが布団で
寝ていた。
病気なのかと思いながらトイレを済ませた後に、再度、覗いてみた。
すると、変なことに気付いた。
夏の最中、障子をいっぱいに開けているのに、お姉さんは分厚い布団に寝ている。
『暑くないのかなぁ』 と思いながら、部屋に戻って遊びの続きをした。
そこへ、友達のお母さんが冷たいジュースを持ってきてくれたので、さっきのお姉さんの
話をすると・・・
『あぁ、あなたも見たの? あれは私のお姉さんよ』
どうみても中学生くらいにしか、見えなかったのに・・・・
その顔を読まれたのか
『おばさんが小さい時にね、死んじゃったのよ』
と、すこし悲しそうな顔をしながら部屋を出て行った。

木原浩勝

木原浩勝
「ネズミ」
Wさんの家では鶏を飼っていた。
鶏のエサ、卵、ヒヨコを狙ってネズミが現れる。
ネズミ捕りが仕掛けられ、ネズミが入ると父が川で殺して流した。
殺されるネズミがかわいそうで、Wさんはネズミを殺す役を買って出て
捕まったネズミを山奥で逃がしていた。
そんなある日、山奥で転倒して足の骨を折ったようで、どうにも身動きが
取れなくなってしまった。
日が暮れてきたので、こんな山奥じゃ誰も来ないと焦っていると・・・・
山の斜面を自分が降りてきた。自分そっくりで、着ている服もおなじ。
こんどは父の声がして
『おいこら! どこだ!』
『父さん、ここだよ、ここにいる。助けて』 と精一杯の声を上げると・・・
自分そっくりの奴が頭をペコリと下げて
『いつもネズミをありがとう』 と言うと斜面を降りて行ったと同時に狐に変わった。
父の背中に負ぶさり斜面を登りきると
『家で、あんなに騒いで逃げ回るからバチが当たったんだ』 と父に言われた。
『え?誰が?』 と不思議に思って聞いてみると
『ふざけるな。お前、お前に決まってんだろ』

木原浩勝

木原浩勝
「お姉さん」
ある女性が大学の卒論に苦労していた時のこと。
気分転換に、近くの喫茶店で資料の読み込みをしていた。
すると、彼女と同年代くらいの女性が現れ、他の席が空いているにも関わらず
相席したいと言ってきた。
前に座ると
『お姉さん、卒論をやっているんですよね。今の時期は大変ですね』
お姉さん?誰だろう?知っている顔ではないし・・・・
その後、一方的に自分の兄の話をして、話が終わると帰ると言う。
帰り際
『そうそう、私、アメリカへ留学に行くんです』

それから数年後、ある男性と恋に落ちて結婚することになった。
結婚式当日、新郎の父から、アメリカ留学から帰って来た娘との紹介があった。
彼からの話でしか知らない妹だったが、数年前に自分を『お姉さん』と言った女性と
気づいてびっくりした。
妹さんは『やっぱりお姉さんだった』と言って笑った。

木原浩勝

木原浩勝
「手紙」
結婚が決まって、部屋の中を整理していた女性の体験。
手紙の束を見つけ、懐かしさに浸っていると、未開封の手紙を発見。
それは、彼女が高校生の時に亡くなった母からのものだった。
切手が張ってあり、消印も押してある。
消印の日付は、母が亡くなって一年後のものだった。
開封して、中を見ると更に驚く内容だった・・・
『おめでとう、。もうすぐ結婚式ね。出席できなくてごめんなさい。
幸せになってね。 母より』

恩田陸
新耳袋コレクション 恩田陸編 木原浩勝・中山市朗著 メディアファクトリー
「一緒に」
二十年前の話だという。
当時小学生だったKさんは桃谷の警察病院に入院していた。
Kさんと同じ病室に、ひどい喘息の男の子がいて毎晩、苦しんでいた。
ところが、ある日、その子が急に退院した。
なぜだろうとKさんは看護師さんに聞いてみた。

一週間前、男の子のおばあさんが亡くなった。
葬儀の準備でご両親ともに男の子の付き添いが出来なかった夜のこと。
男の子の夢におばあさんが出てきて、『持っていくからね』 と言ったのだという。
それを聞いた看護師さんたちも、『そうだったらいいのにねぇ』 と噂しあっていた。
ところがその日から喘息の発作が出なくなり、今日まで様子を見たが問題がないため
退院したのだという。

『きっとおばあさんが、あの世に喘息も一緒に持っていってくれたんだね』
看護師さんが、そう言って笑った。

木原浩勝

中山市朗

木原浩勝





中山市朗

「郵便物」
ある日、送られて来た郵便物には、なくした財布が入っていた。
1週間ほど前に、彼女とボーリング場の廃墟へ肝試しに行った先で
他のグループと喧嘩になり、その時に落としたものだった。
幸いなことに、自転車で通りかかったおじいさんが仲裁してくれて怪我もなかった。
お礼を言いたくて、差出人の住所と名前から電話番号を調べた。
そこは老人ホーム、電話をかけて事のいきさつとおじいさんの名前をいうが、信用しない。
1ヶ月前に亡くなっているので、いたずらと思われた様子。
埒が明かないので、現地へ向かった。
財布が送られて来た封筒を見せると、確かにおじいさんの筆跡だとのこと。
担当者は、恐る恐るおじいさんの写真を持ってきた。
『確かに、この人です。本当に亡くなっているのですか?』
騒ぎを聞きつけて、老人が集まってきた。
そんなバカな話があるか、という人がほとんどだったが、おじいさんと親しかったという人が
『それは、あの人に間違いない。彼は、ボーリングに勤務して、毎日、自転車で通っていた』

それからは、腹が立って喧嘩をしそうになるとおじいさんを思い出すと言う。
そうすると、気が休まるのだとか。
今も封筒は大切に保管してある。

木原浩勝
中山市朗

木原浩勝





中山市朗
「托鉢僧」
ある神社に、長旅をしてきたと思われる托鉢僧が1晩の宿を求めてきた。
旦那さんは「坊主がなんでわざわざ神社に泊まるのだ」と怒ったが、奥さんがとりなして
托鉢僧へ食事を出した。
食事を終えた僧へ更に風呂を勧めた。
僧が風呂に入ってしばらくすると、何かあったのでは?と気になり出した。
そして、待てど暮らせど、一向に出てこない。
風呂の中で倒れていても困ると、業を煮やした旦那さんが風呂場へ見に行った。
風呂場の近くまで来ると
『ピチャ、ピチャ、ピチャ』
お湯の音がしているので確かに入っているようだと思い、今度はそ~っと覗いてみた。
すると、そこに僧の姿はなく、代わりに大狸が縁に乗り
『ピチャ、ピチャ、ピチャ』と
大きな尻尾を湯船に浮かし、動かしていた・・・・・・・・・・・

逃げた大狸が使った茶碗と箸が、今もその神社に保管されているとのこと。

木原浩勝
中山市朗

木原浩勝





中山市朗
「いってきます」
女子大に通う姉と、中学に通う妹の二人暮らしの姉妹。
父は単身赴任、母は早くに亡くなったので額縁の中で笑っている。
妹はクラブ活動で朝が早いため、姉が起きる時間に家を出る。
玄関から大きな声で『いってきま~す』と聞こえる。
玄関から見れば、正面に母が笑っている。
それにしても、妹はいつからバカでかい声で『いってきます』を言うようになったのか。
近所に響き渡る大きい声、そして誰も答えてはくれないというのに・・・

ふと姉も玄関で靴を履いている時に、妹のように大きな声で挨拶してみる気になった。
『いってきます!!』
『いってらっしゃい』
母の声だった・・・

木原浩勝
中山市朗

木原浩勝





中山市朗
「蔦」
あるお坊さんの体験。
彼は、小学生の時の事故がもとで両足が不自由なため義足を使用していた。
将来を悲観し、ずいぶんと無茶をしている彼を見ていた祖母の計らいでお坊さんが
修行するよう、説得に来るようになった。
高校生になった彼は『坊主の道もありかな』と思い、初めての修行へ出かけて行った。
修行僧は1列になって雪の積もった高野山へ登って行く・・・その殿を彼は歩いた。
しかし、義足と杖で歩く彼は皆からどんどんと遅れていく。やがて、見えなくなる。
そこで杖が滑り、彼は崖から転落した・・・が、なんとか蔦に手が届き
一命は取り留めたものの、両方の義足と杖は崖下へ落ちてしまっていた。
懸命に腕の力だけを頼りに、何時間も掛けて崖の上を目指した。
しかし、義足も杖も崖下へ落ちてしまったのだから、上がれても移動する手段がない。
そう思った彼は『この世に仏なんていない』と呟いた・・・
崖を登り切った彼がそこで見たものは、崖下へ落ちてしまったはずの義足と杖だった。
『仏はいる』

木原浩勝
中山市朗

木原浩勝





中山市朗
「風呂耳袋」
一番風呂を狙って入った銭湯でのこと。
60歳くらいと70歳くらいのおじいさんが話していた。
『で、奥さん、まだ来てます?』
『ええ、夕べも来まして。これがうるさいんです』
『うらやましいですよ。うちのが亡くなって20年。一度も来たことがない』
『いえいえ、来ても黙っていてくれれば良いのですが、この食べ物は体に悪いだの
 部屋が片付いてないのと、とにかくうるさいのです』
『いやいや本当にうらやましい』
『とんでもない。これでは、うちのが死んだ気がしない。もっとゆっくりしたいのに』
・・・・
『でも、そろそろ逝ってやらにゃならんと思うのです。寂しいから出るのだと』
そう言いながら、二人は湯船から出て行った・・・

「本堂の灯り」
お寺のお嬢さんから聞いた話。
彼女が8歳の時、深夜、トイレに起きると本堂に灯りが点いていた。
お父さんがお勤めをしているのかと思い、立ち止まると後ろから肩を叩かれた。
振り返るとお父さんがいた。
本堂に灯りが点いていることを告げると
『おまえは寝なさい』と言い置いて、本堂へと向かった。
それから8年後、その時のことを聞かされた。
その日の昼、近くの廃寺から動物の無縁仏の墓石を引き取り、裏山へ奉ったと言う。
その夜の深夜、本堂に灯りが点いていたとのこと。彼女が知っているのはこれだけ。
お父さんが本堂へ向かうと、犬猫や鳥、鼠、狐、狸、馬、牛が頭に火の点いた蝋燭を
頭に立てて、びっしりと本堂を埋めつくしていた。
これは、お経を唱えてくれということだと思い、一心に読経した。
すると途中で、気配がスーッと昇っていくのがわかり、成仏してくれたと思ったとのこと。
『人間だけでなく、動物たちを鎮めるのも仏の道なんや』
お父さんは、そう言ったそうです。

木原浩勝
中山市朗

木原浩勝





中山市朗
「ブラックリスト」
不動産屋で働く人の話。
時々、ある資料に目を通すという。
お客がすぐに出て行ってしまう物件、キズのある物件等が一覧になっている
社内資料。
通称『ブラックリスト』
状態と共に原因も記入されている。
中には『夜、となりの病院の霊安室がうるさい』というものがあるという・・・

「ひとこと」
ある男子大学生の体験。
もうすぐ卒業だというのに就職先が決まらない。
決まらないと焦っていたら、今度は卒業できるかどうかということになってきた。
悩み症の彼は悩んだが、悩んで解決するわけもなく・・・・
どうにでもなれ~という気持ちから
『あ~、死んでしまいたい』と一人暮らしのアパートの一室でつぶやいた・・・
すると、天井から
『じゃあ、いっしょに』・・・・女性の声だったそう・・・・
木原浩勝

中山市朗

木原浩勝





中山市朗
「山小屋の客」
ある男性が山のガイドを始めて間もない頃の話。
ある冬の登山のガイドをしていた時のこと。
山小屋に6人のパーティが3組泊まった。
外は雪。
しかし、吹雪とまでは行かない雪で明朝には止むだろうと話していた。
夜の9時頃、当然ながら山小屋の外は暗黒の世界。
風の音だけが鳴り響く・・・。
すると『ザク、ザク、ザク』という足音が聞こえてきた。
『誰か上がって来ましたね』
足音が山小屋の入り口前で止まると、外側の戸を開ける音がした。
そして、内側の戸の前まで足音が聞こえると、今度は体の雪を払う音がした。
山小屋の戸は室温を逃がさないために二重構造になっており、外側の戸を開けて
内側の戸まで進み、内側の戸を開けると室内に入れる仕組みになっている。
内側の戸付近にいた人が内側の戸を開けた・・・・
しかし、そこには誰もいない。
「確かに音がしましたよね」と話をしていると
また「ザク、ザク、ザク」という足音が外から聞こえて来た。
そして、先ほどと同じように山小屋の外側の戸の前で足音が止まると
戸を開ける音、内側の戸までの足音に続き、体の雪を払う音・・・・
今度こそ人がいるだろうと内側の戸を開けると、誰もいない。
気味が悪いと騒ぎ始めると、同行していたベテランガイドの男性が言った。

『こんな時間にやって来るのは人じゃないんだよ』

木原浩勝

中山市朗

木原浩勝






中山市朗
「先祖の声」
男性の体験。
ある占い師にみてもらっていると
『あなた、ご先祖の墓参りに全く行ってないでしょ』と言われてドキっとした。
そこで、30年ぶりくらいとなる墓参りに行くことにした。
妻と二人の子供を連れて、霊園に到着。
地図を見ながら、ご先祖の墓を探すがわからない・・・
挙句の果ては、霊園の中で道に迷ってしまった・・・・。
『一体、うちの墓はどこにあるのだろうね』と奥さんと話をし始めると
(コッチダヨ)と背後から聞こえた。
振り返ると、そこがご先祖の墓だった

「ばあさんが来る」
ある男性の親戚に、横暴な老人がいた。
そして、ある時、その老人の奥さんが亡くなった。
老人は、何かと奥さんに暴力をふるっていた人だった。
奥さんへの同情の言葉はあっても、ひとりになった老人へは自業自得の思いが皆に
あった。
ある日、横暴なはずの老人が、家に来て頭を下げた。
『あなたの家にしばらく泊めてくれ。または、わしの家にしばらく泊まってくれ』
事情を尋ねると、毎夜、毎夜、死んだおばあさんが出てきて、体のあちこちを
一晩中、手で、ぺちゃ、ぺちゃ、と叩いているとのこと。
『一晩だけでもええから』と頭を畳にこすりつけるように頭を下げるので、無下に
断るわけにもいかず、一晩だけ老人の家に泊まることにした。
その夜、老人の隣に布団を敷いて寝た。
深夜、嫌な臭いと、老人の声で目覚めた。
『ううう~、ううう~、やめろ~、たたくな~』
見ると、老人は布団を跳ね除け、その上に座り込んでいる。
そして『ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ』という音がする度に、老人が腕を振り回して
見えない何かをふり払っているように見えた。
『ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ』という音はひっきりなしに続いていたという。

木原浩勝


中山市朗

木原浩勝









中山市朗
「閻魔大王」
ある方の祖父が亡くなった通夜の席で、祖母が明かした不思議な話。
ある大晦日の夜、祖母と叔母(祖父と祖母の娘)の2人で年越そばを食べに
近くのそば屋へ行った。
ところが、そばを一口食べただけで『気持ちが悪い』と叔母が吐いた。
急いで自宅に連れて帰り、ベッドに寝かせた。
しばらくすると、叔母は意識を取り戻したが、ベッドに誰かが座っている。
声を掛けようとすると、ポンと飛んで叔母の腹の上に乗ってきた。
それは、よく見る閻魔大王にそっくりだった。
その閻魔大王は、地獄帳のような物を叔母の胸の上に置くと、すごい速度で
ページを指でめくり始めた。
『お前は誰じゃ』と問われたので、叔母は名前を答えた。
すると、『お前は死ぬことになっておる』と言われ
『私は死にたくありません。どうか助けてください』とお願いするが
『だめじゃ』と閻魔大王に睨まれる。
私は死ぬんだ・・・・と覚悟してお経を唱えだした・・・
そこへ祖父が部屋に入ってきて、仏壇の前に座ってお経を唱えだした。
『南無妙法蓮華経・・・・』
その瞬間、閻魔大王は闇に消えた。
祖父は『何か胸騒ぎがして、襖を開けたら娘の上に大きな物ノ怪がおる。
もう、必死でお題目を唱えたんじゃ』と言っていたそう。
『おじいさんが亡くなったので、もうこの話をしてよかろうと思う』と祖母が言ったとか。

「つかんだもの」
千葉の九十九里へキャンプへ行った男性の体験。
真夜中の海は気持ちがいいということになり、夜の海で遊んでいた。
しばらくすると、足が立つような浅瀬の下から何者かに足をグイと引っ張られた。
『あ』と声を上げて足をバタつかせるが、足首をしっかりとつかまれており
引き込まれるのは時間の問題だった。
それでも、助かりたい一心で今度は手を動かして、つかまる物を探した。
すると、硬いしっかりとした物に手が届いた。
その瞬間に足首をつかんでいた物から開放され、皆が待つ浜辺まで
誘導される形で帰ることが出来た。
浜から上がってきた彼を見て、皆が大声で言う。
『お前、何を持っているんだ!』
彼がつかんでいたものは、卒塔婆だった・・・

木原浩勝

中山市朗

木原浩勝






中山市朗
「仏壇の間」
体験者が小学生の時の話で、時代は太平洋戦争の真っ只中。
ある夜、ふと目が覚めて『着替えて、仏間に行かなくちゃ』という気になった。
着替えて仏間へ行くと、家族全員が揃っていた。
とても信心深い家族だったので、仏壇に向かうことは日常的な行いだったのだが
こんな夜に皆が仏壇の間に揃うのはめずらいい。
『なんだ、おまえたちもきたのか。では皆でお勤めをしよう』
仏間の襖を閉め、父の言葉で全員が念仏を唱え始めた。
念仏は朝まで続いた・・・
『さあ、もう終わりにしよう』
襖を開けると、隣の部屋がない・・・
あたりは瓦礫の山と化し、煙が漂い、ぷすぷすと燃えている。
焼夷弾が落ちたのだ。
しかし、爆音も爆風も炎も襖1枚隔てただけの仏間には届かなかった。
家族全員が不思議な力によって命拾いしたという話。

「狐の化身」
北海道出身の男性が学生時代に体験した話。
仲間数人と肝試しをすることになった。
山へ向かっている1本道の途中にある神社へ指定した物を置いてくるというもの。
彼の順番になってスタート。
しばらく登っていくと、着物姿の女性が立っているのが見えた。
その横顔を見ると・・・綺麗だ。
そして、山からハイカーの男性が降りてきた。
男性は着物女性に声を掛ける
『すみません、駅へ行くにはどう行けばいいのでしょうか?』
『この道をまっすぐ行けば30分くらいで着きますが、今の時間では2時間ほど駅で
待つことになりますから、よろしければうちに寄って行きませんか?』
女性が誘っていると確信した彼は、そーっと2人の後をついていった。
ほどなく大きな家があり、中からは男女の嬌声が聞こえてくる。
障子の窓を見つけると、指で穴を開けた・・・・
中では、二組の足が絡み合い、上下しながら移動していく。
『おい、おまえ何やってるんだ?』
彼の帰りが遅いので、仲間が様子を見に来た。
なんと、彼が覗いていたのは馬の尻の穴だった・・・・

落語で同じような話があるが、こんな恥ずかしい体験を作ってまで人にしないとのこと。

黒木あるじ

黒木あるじ
「猫の居る部屋」
編集者のJさんが、祖母から聞いたという不思議な話を教えてくれた。
ある放課後、祖母は同級生の家に遊びに出かけた。
縁側で遊んでいると、ふいにどこかで『にゃあ~』と聞こえた。
養蚕農家にとって大敵の鼠を取るには、猫は必要不可欠であった。
この家も当然、猫がいるものと思い『にゃんこ見せて』とお願いするが、猫はいないという。
しかし、猫の声は絶えず聞こえてくる・・・
『もしかして』 同級生が唇に人差し指を当てると、静かに祖母の袖を引いた。
向かった先は、廊下の奥の和室だった。
『ちょっとだけ襖を開けて覗かないと、逃げちゃうから』
なんだ、やっぱり猫がいるんじゃないか。どうして、いないなんて言うんだろう。
部屋の中には、何も描かれていない無地の掛け軸がだらりと下がっており、その手前で
一匹の猫が遊んでいた。
『運がいいね。めったに見られないんだよ』と同級性。
そこへ同級生の父親が帰って来て
『おお、ウチの猫絵がまた遊んでいるか。ま、アレがあるからウチではお蚕さまが
鼠にやられねえんだ』
「カタカタ」
なんでも著者のお母様はホラーが大好きなんだとか。
5歳の時のある日、お母様とビデオ屋へ行った時のこと。
お母様はホラーコーナーへ、初音ちゃんはアニメコーナーへと別れた。
アニメコーナーでアニメビデオを見ていると『カタカタ』と音が聞こえて来た。
何の音だろうと思い、音のする方向を見ると・・・・・
ビデオが置いてある棚の中に白い手だけがあって、そこにあったビデオケースを
細かくゆらしていた。
『あ~』っと驚いて、すぐにお母様の元へ飛んで行き、今起こった現象を説明
しようとした・・・・
『え?白い手がどうしたって?』 しかし、うまく説明できない・・・・
すると、お母様は
『そんなことより、もっと面白いものがあるよ』と笑いながら
『初音、ここを見てご覧よ』と言われた場所を覗いてみると・・・・
ビデオの棚の中から、じっとお母様を見つめる女の顔があった。
棚の向こうは壁。
初音ちゃんは、この時思った。
『こんな母は嫌』
2005年にリメイクして放映された映画『妖怪大戦争』の
出演者の写真で妖怪を紹介している妖怪図鑑

中央左の頭の青い『油すまし』は竹中直人
その左の『ぬらりひょん』は今は亡き、忌野清志郎
その左の全身赤の『猩猩』は近藤正臣』が演じてます。
インターネットに投稿された話の中から厳選して本になりました

「御神託」
投稿者の父上が子供の頃の話。
ある日、祖母が原因不明の熱病にかかり、意識の無い状態でしきりに寝言で神社の
名前を繰り返し『御神託』をもらって来て欲しいと訴える。
半信半疑で言われた神社を探してみると、確かにあった。
しかし、神主に『うちは御神託なんぞ、やっていない』と断られたそうですが、事情を
説明すると快く御神託をいただけたそう。
御神託のお陰か、祖母は回復。
神社の名前も知らなかった祖母は、それ以来、その神社の熱心な神者になった。
神主さんが亡くなると、神様は息子さんに降りるのではなく、祖母に降りてしまった。
そのため、今は祖母が神主を務めて神託をしている。
投稿者の大学受験の神託は、怠けているから合格させないと・・・・
事実、全てに落ち、。結果が出た後、親から御神託内容を聞きかされた。

神様なんて信じていませんが・・・・この言葉を言うと必ず何かが起こる・・・・という

銀柳

銀柳

掲載されている心霊写真2枚

「お邪魔しました」
心霊スポットへ行った少年たちの1人が『お邪魔しました』と言ったとたんに
足場の悪い場所で転び、全員が怪我をした。
『邪魔』とは、仏道修行の妨げをする悪魔の意。
悪魔呼ばわりされたら穏やかには済まないでしょう・・・
『失礼しました』と言いましょうとのこと。

並木伸一郎

並木伸一郎
「片思い」
30年ぶりに高校の同窓会へ出席したS氏の体験。
故郷の両親の墓参りを兼ねて、高校の同窓会へ初めて出席することにした。
当日、少し早く到着した彼は会場へと入って行ったが、人がまばらで知っている顔がなかった。
会場を間違えたかな、と思っていると後ろから声を掛けられた。
『あらSくんでしょ? 私K子です。同じクラスだったK子です。』
今日の席で再会を心のどこかで望んでいた相手は彼女だった。
高校時代、S氏は彼女に好意以上の気持ちを持っていた。
その彼女と面と向かって話をしている・・・・
『私ね、あの頃、Sくんのことが好きだったのよ。片思いしてた・・・・』
S氏はうれしさのあまり、彼女の顔を直視できずにいた。
『よ~、Sじゃないか~、お前かわってないな~』
高校時代の野球部の面々に会うと、当時の話に花が咲いた。
場が落ち着いたところでK子を探したがいない・・・他の連中に聞くと彼女がいるなずがないと。
彼女は4年前に病気で亡くなったとのこと。
『K子、クラス会に来たかったのでしょうね・・・』 K子の親友がしんみり言った。
S氏は後悔している・・・なぜ彼女に告白された時に
『ぼくも君のことが好きだった』と言えなかったのか・・・

並木伸一郎

並木伸一郎
「輪になって笑う子供」
タクシー運転手のAさんから聞いた話。
その日、Aさんは長距離の客を乗せて東京都下のM市までやってきた。
住宅街で客を降ろすと、ポツリポツリと雨が降って来た。
早々に都内へ戻ろうと、来た道を引き返すが、幹線道路に当たらない。
その上、間の悪いことに調子の悪かったカーナビが完全に壊れ、ロードマップが出ない。
仕方ないので勘を頼りに車を走らせることにした。
しばらく行くと、道はつづら織りの登り坂に変わり、前方に切り立った崖が見えてくる。
どうしようもなくなり、Uターンしようと思ったその時・・・
”ドシン!”
何か大きな物がボンネットの上に落ちて来た。
よく見ると人間の子供だった。
Aさんは思いっきりブレーキを踏んだ。
降りしきる雨の中、傘もささずに子供を探した。
すると、車の影から覗き込む女の子の姿があった。
『大丈夫か?怪我は?』
4、5歳だろうか。まるで昔の子供のように赤い着物を着て、黄色い帯を締めている。
『くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす』
女の子は踊るように、おいでおいでの仕草をした。
すると、同じような着物姿の女の子が10人ほど現れ、Aさんを輪になって囲んだ。
囲む輪が小さくなると、その中の1人がAさんの手を握った。
その冷たさはこの世のものではない。
その冷たい手に引きずられるように崖へと近づいていく。
目の前に崖が迫ると、女の子たちは一斉にAさんの身体に取り付いた。
『もうダメだ! 南無阿弥陀仏!』
思わず経を唱えると、女の子は崖下へ吸い込まれるように消えた。

並木伸一郎

並木伸一郎
「山形での体験」
UFOの取材で行ったお宅に泊まることになったために体験した怪異。
寝ると、まず金縛り。
次に、目を閉じているのにもかかわらず次々といろんな顔が迫ってくる。
そして、あたかも見えないエレベーターが下降するように
体が沈む感覚に襲われる。
やがて、それは幽体離脱の感覚へと変わり
自分の体に『戻れないかも?』と思う状況になる。
自分の体に戻ろうと、もがくうちに何とか目が覚めた。
目覚めると別の恐怖が待っていた。
なんと、目の前に痩せこけた裸の老人の顔があるのだ。
体が重いのは、老人が乗っかっているからなのであろう。
乗られているからなのか、息苦しい・・・
もがいて、もがいて、やっとのことで『うわ~』という声が出せた。
声と同時に老人は消えた。
翌朝、家人に『何かあるのか?』と訪ねると、近くの神社にお参り(お祓い)を
させられた。
釣り人は見た水辺の怪談3 つり人社
「夕張岳に響く女の子の声」
夕張岳を下山していた時のこと。途中で2つのコースに分かれる分岐点で休憩することにした。
時間は午後3時を過ぎたころ、今の時間に誰も来ないということは後続の登山者はいない。
そう確信した時である。
『キャハ、ハハハハハ!』  『フフ、ハハハ』
驚いた。人が来ないと思っていたのに人が来た。
道の真ん中に置いていた荷物を端に寄せた。
次に、先ほどより更に近い距離 10メートルほどの場所から
『キャハ、ハハハハハ!』  『フフ、ハハハ』
声の感じからすると、大人の女性と女の子のようだ・・・
しかし、待っていてもやって来ない。
おかしいと思った。でも、もしかしたら引き返したかもしれないと思い、確かめようと思った。
下山道を走るようにして駆け降りたが、結局誰もいなかった。
後日、自分が所属している『北広島山岳隊』のHPに、この体験を投稿した。
すると半年のほどの間に3名の方から同じ内容のメールを頂いた。
『実は私も、以前に全く同じ場所で全く同じ体験をしました』 
そのメールを見て初めて、背筋が寒くなる思いがした。

水辺の怪談

水辺の怪談
「あーっ、あーっ、ウォーッ!!」
訳のわからない題名なのですが、伊豆大島へメジナ狙いで釣りに出かけた人の
心霊体験。
釣果もよくご機嫌で宿に帰った二人は、釣った魚の料理に舌つつみを打った。
ほろよく酔ったところで離れの自分たちに用意された部屋で寝た。
夜中、相方の声で目覚める。
『あーっ、あーっ、ウォーッ!!』
何をやっているのか、体が動かないらしい。
声を掛け、体を揺すると金縛りから解放されたとのこと。

実はこの時、相方は白い着物の髪の長い女の霊に、胸に乗られて首を
絞められていた。
東京に帰って釣り仲間に聞くと、伊豆大島の『○○』という宿は、離れに幽霊が
出ることで有名であった。

「月夜のススキ林」
深夜11時過ぎにバス釣りへと出かけた二人の男性。
辺り一面のススキ林の中を水辺の釣り場目指して歩いていた。
静けさの中、恐怖を打ち消そうといつもより饒舌になり
先頭を行く男性は、後方から付いてくる友人へ話し続けていた。
後方の男性は、適当に相づちを打ちながら後に続いた。
10分ほど歩いたところで、後方からの返事がなくなった。
途中から、自分の釣りたいポイントへ移動したのだろうと思い
そのまま歩き続け、釣り場に着くと釣りをはじめた。
この日の釣りは絶好調、ヒットにヒットを重ね、至福の時を
過ごしていると後方から声がかかった。
『どうだ、釣れてるか』
それは、後方を歩いていた連れだった。
途中で黙っていなくなったことをなじると、悪い悪いと言いながら
最初から別方向へ向かったので声を掛けなかったとのこと。
え?10分くらい、後ろを歩いて来なかったか?

後ろから相づちを打っていたのが、連れではないと知って
二人はすぐに釣りを止め、ススキ林を通らないコースで帰路についた。

ホラー探検隊
「死者から届いた怪奇な手紙」
幼いころから病弱だった女性が結婚、無理だと言われていた出産も無事に終え
これから幸せの絶頂という時に、最愛の旦那さんが建設現場で落ちてきた鉄柱の
下敷きになって即死。
旦那さんの葬儀を終え、死亡保険の手続きをしようと思ったが、証書が見つからない。
病弱な奥さんのために、家事いっさいを旦那さんが行っていたので、旦那さんが
どこかにしまってあるはず・・・・。
探す場所は全て探して、途方に暮れていると、一通のはがきが来た。
そこには旦那さんの筆跡で、ある数字が書かれていた。
その数字から、ある日付に撮影したテレビの上に飾られた写真に気づいた。
額の中を見ると、はたして重要な書類が全て入っていた。
「日課」
『ごめんください』
上品そうな女性が、ここのところ毎日、会社にやってくる。
課長の奥さんだ。
彼女が現れると課長が慌てて会議室へと連れて行く。
毎日、毎日、いったい何があるのだろうと皆が思っていた。
『ひょっとして、不倫がばれた?』
公然の秘密として、課内に課長の浮気相手がいる。
これは会議室が修羅場になると思いきや・・・。
浮気相手の彼女の口から意外なことばが・・・
不倫はとっくにバレて、課長の家庭は荒れ、ノイローゼになった
奥さんは自殺したと・・・
自殺したのに、毎日『ごめんください』とやってくるのだと言う。

稲川淳二

稲川淳二
「人魂の群」
心霊写真が撮りたくてしょうがないA君に頼まれて、多少霊感のあるB君が
同行した廃墟で見たものは、人魂の群れだった。
急いで逃げる二人を人魂が追う・・・・
廃墟に入る時には開いていた入り口の扉が閉じていたため、二人のすぐ近くに
人魂が迫る。
A君の体当たりで、ようやく扉が開くと人魂は跡形もなく消えた・・


「首の周りに取り憑くもの」
稲川淳二が心霊探索で訪れた、東北のあるペンションでのこと。
ペンションへ向かう途中で、事故車と思われるまだ新しいバイクが倒れていた。
あまり気にも止めずにペンションへ向かう。
オーナーが首を吊ったと言われているペンションでは、誰のイタズラか
洗面所の鏡に『サクマ』とペンキで書かれていた。
ペンションをあとにした一行は、どういうわけか道に迷い、行き止まり・・・
そこは斎場で通夜の最中であった。
故人の名は『佐久間』、気になったスタッフは事情を聞いてみることにした。
すると、例のペンションへ友人と肝試しに行き、怖がる友人を置いて
一人でペンションへ入って行ったのが亡くなった彼だった。
しばらくすると、『殺されるぞ~』と叫びながら出てきた彼はバイクに乗り
友人達と逃げたが、後に発見された彼は首を切断されていた。
「人を呪わば穴二つ」という。
ここでいう穴とは「墓穴」のこと。
「人を呪うなら、相手の墓穴だけではなく、自分の墓穴も用意しておけ」という意味である。
人を呪うのであれば、それくらいの覚悟が必要ということだろう。
じっさい、平安時代、陰陽師は呪い返されることを覚悟して、呪殺の術を行ったという話がある。
この言葉の裏には「むやみやたらと、人を呪ったり恨んだしてはいけない」という戒めがあることは
あきらかだ。
時代を経て慣用句として人々の口に上ってきたのは、いつの時代も「恨み」の感情が、私たちの
心を支配しやすいということの証であろう。
呪いが生む『不気味な世界』に、あなたが足を踏み入れぬよう、本書がなんらかの歯止め役と
なれば幸いである。

山口敏太郎

山口敏太郎
霊怪スポット 戦慄の最新ファイル 山口敏太郎 河出夢文庫
「事故を呼び寄せる魔のトンネル」 神奈川県逗子市
神奈川県民なら誰もが知っている心霊スポットに 『小坪トンネル』 がある。
この 『小坪トンネル』 には数々の幽霊伝説が残されている。
トンネルの出入り口を影のようなものが横切るだとか、タレントのキャシー中島氏の
体験談に代表されるように、車のフロントガラスに手形がびっしりと付く事態も発生
しているという。
このトンネルで、筆者の友人のT君がかつて不思議な体験をしている。
T君は友人の女性を車で自宅まで送った帰り道、このトンネルに差し掛かった。
その時である。
『なんだぁ・・・・あれは・・・・』
なんと、前方の空中に半透明の人間が横向きに寝たまま浮かんでいる。
しかも、着ている寝巻の柄まで鮮明に見えたという。
翌日、筆者に電話をしてきた。
霊の存在などいっさい信じない彼が、開口一番こう言った。
『やっぱり、幽霊っているんだね』

山口敏太郎

山口敏太郎
「軍人の償い」
重い病気で入院中の祖父を看病していた人の体験。
医者は、祖父の命があと数日で消えることを宣告していた。
その夜、祖父の隣の簡易ベッドで寝ていると・・・・
『カリカリ、カリカリ』
と音がする。
音の出所を探してみても何も見えない。
すると、危篤だったはずの祖父が目を開け、しっかりした口調で話し出した。
時は太平洋戦争の最中、エリート将校だった祖父は間違った考えから
部下の多くに食料も与えずに飢えや病気で見殺しにしたとのこと。
その罪を部下たちによって、今裁かれようとしていると言うと布団をめくった。
そこには、無数のガリガリに痩せた小さな兵隊が祖父の体に群がっていた。
どの兵隊もカリカリと音を立てて、祖父の体を食い荒らしていた。
祖父は絶叫を上げると危篤状態に戻り、数日後に息を引き取った。

志村有弘
​​ 戦前のこわい話 志村有弘 河出文庫
本書に収録した作品は、全て事実談である。
明治時代から戦前までにあった、怪談、不思議な物語、猟奇事件を生々しく伝える、怪奇と恐怖の
アンソロジー。
影の世界に住む死霊、猫の祟り、探偵趣味溢れる首なし事件といった、都会や村の民間伝承に取材した
おそろしい話を集める。
怪異、因縁、宿業、凄惨!

新倉イワオ

新倉イワオ
「霊界からの使者」
夏休み、小学5年生の女の子が母の実家に預けられていた。
父親の浮気が原因で離婚問題になっていたのだ。
お盆になって、おばあさんと墓参りに行った。
お迎えするのは、ご先祖さまとおじいさんと叔母さん。
墓参りから帰ると、女の子は一人、川へ遊びに行った。
綺麗な花を取ろうとしたら、川に落ちて流された・・・
しかし、すぐに誰かに体をつかまれ、気がつくと岸に上げられていた。
冷たいけど、やわらかい手に助けてもらったとおばあさんに告げた。
ある夜、仏間に入ると白いワンピースを着た髪の長い女性がおばあさんを見ている。
女性は、女の子に顔を向けると消えた・・・・
そして、おばあさんの様子が変なことに気づいた・・・・熱を出していたのだ。
女の子は、食事の支度から掃除、洗濯まで頑張った。
翌日の夜、疲れ果てて眠った女の子だったが、言い争う両親の夢で目覚めた。
すると、自分の手を優しく撫でてくれる髪の長い女性が隣に座っていた。
昨日、仏間で見た女性・・・・
『どうして、そんなに悲しいの?』
『ママがかわいそう。パパが家を出て行くの』
女の子は、女性から3人で仲良く暮らせるようになると聞き、安心して眠りについた。
その頃、父親は若い女とホテルにいたが、突如の停電。
フロントへ電話をすると、電話に出た相手は死んだはずの義理の妹だった。
驚いて受話器を置くと、今度は浮気相手の女の後ろから、憤怒の形相で現れた。
浮気相手の女は失神したが、義理の妹の霊は凄まじいばかりの形相で迫ってくる。
『改心しないなら、一生祟ってやる!』
父親は土下座して謝った上、妻の実家に向かった。
明朝、迎えに来た母親に飛びつく女の子。その後ろから父親もやって来た。
『このとおりだ』 父親はその場に土下座すると
『すまん。もう家を出るなんて言わない。あの女とも別れた。だから、もう1度やり直してくれ』
母親は、この時
『この人、本当に心を入れ替えたのかも』と思ったとのこと。

新倉イワオ

新倉イワオ
「もう一人の住人」
田丸典子さんから、家の中でいろいろな音がするので気味が悪くていられない
という相談を受けた。
そこで霊能者が田丸さんの自宅へ向かった・・・
霊視をしている最中に、田丸さんの夫の父親の霊が霊能者に降りた。
父親の霊は、長男に離れへ閉じこめられて自由を奪われて死んだ無念を訴えた。
『なんで早く迎えに来ないんじゃ』

夫婦は、父親の霊が家にいることを知り、不安が安心へと変わった。
死んで、ようやく自由になれた父の霊を大切に供養しようと思っているとのこと。

新倉イワオ

新倉イワオ
「死者の墓参り」
松井さん夫婦が体験した話。
夫の明さんは、割烹旅館を奥さんの悦子さんに任せっぱなしで毎日釣り三昧。
そんなある日、成田茂一さんというおじいさんと知り合う。
成田さんは、若生千香子さんという女性を探しているという。
若い時に一目惚れをしたが、つまらない喧嘩がもとで別れたままになっている。
死ぬ前に、会って謝りたいとのことで、人の良い明さんに協力を頼んだ。
松井明さんは、自分の割烹旅館に連れて行くと、奥さんに事情を説明。
その後、奥さんが若生千香子さんを見つけたが、もう亡くなっていた。
そのことを成田さんに話すと、お墓参りがしたいので案内して欲しいと言う。
翌日、若生千香子さんの墓へ行くと、いつの間にか若い女性が成田さんに
寄り添っている。二人はそのまま歩き出し、消えてしまった。
割烹旅館に帰って来ないので、宿帳に書かれた電話番号へ電話をした。
電話に出たのは、お孫さんとのことで事情を話すと、こちらに来ると言う。
翌日、お孫さんが到着すると、置いたままのバッグ、宿帳の筆跡を確認したが
成田茂一さんのものに間違いないとのこと。
ただ、成田茂一さんは既に亡くなっていて、5日前に49日の納骨を済ませた・・・

新倉イワオ

新倉イワオ
「戦場の幻」
昭和20年4月、中国の大激戦の中、高宮さんの体験した話。
戦況は、武器、弾薬、食料とも底を尽き、もはや勝利は望めない。
なんとか、激戦地から脱出できたものの、周りは敵に包囲されている。
生き残った兵は9名。
彼の同じ大学の親友、滝沢さんは昨日亡くなり、遺髪と家族写真を預かった。
『万一、君が母国の土を踏めたなら、これを母に頼む』
これが滝沢さんの最後の言葉。
9名は、一時的に身を隠すべく近くの横穴へ匍匐前進で向かった。
しかし、高宮さんだけ遅れてしまい、最後には金縛りで動けなくなった。
そこへ、死んだはずの滝沢さんが現れて『俺に、ついて来い』。
そのまま、小高い丘の上まで連れて行かれた。
その時、砲撃の音がして8名が逃げ込んだであろう横穴が攻撃された。
その後、高宮さんは、なんとか他の隊に合流できて、そのまま終戦を迎えた。
日本に帰ると、滝沢さんの家族に会って、彼の話をした。
そこで、滝沢さんが家族に出した手紙を見せられた・・・・手紙には・・・・
『戦友の高宮はどんなことがあっても死なせません』

島田秀平

島田秀平
「もう死なないで、じゅんいちくん」
静岡県にちょっと不思議なトンネルがあります。
トンネル内には手作りの看板があるのですが、その文言というのが・・・・
『もう死なないで、じゅんいちくん』
以前、そのトンネルで『じゅんいちくん』という名の男子高校生がバイク事故で亡くなって
いるのです。
その後も、事故は多発した。
そして、事故で亡くなった男の子の名前が全員 『じゅんいち』くんだった。

ご遺族の方は
『きっと、じゅんいちが寂しがって、みんなを呼んでいるんだ』 と思って
『もうこれ以上死なないで』という意味を込めて

『もう死なないで、じゅんいちくん』 という看板を設置したそう。

山岸和彦

山岸和彦
「廊下にうずくまる人は・・・」
小学四年生のある日、旧校舎にある視聴覚室へ置き忘れた筆箱を取りに行った時のこと。
私は、自分の筆箱を手に取ると、何かに追われるように走ってそこを抜け出しました。
新校舎の自分の教室へ戻るために、左の廊下へ踏み出したときのことでした。
チラッと何かが視界に入ったのです。
振り返ると、廊下の隅に人がうずくまっていました。
すぐにでも立ち去りたかったのですが、気になった私はその人の近くに歩み寄って行きました。
そして、声をかけようとした、その途端、その人は顔を上げたのです。
『ぎゃ~~』
私は必死に走りました。
どこをどう走って教室に戻って来たのか、思い出せません。
私が見たものは、体は確かに人間でした。
しかし、首から上はネズミだったのです。

山岸和彦

山岸和彦
「校舎の壁に消えるジャージ」
高校時代のこと。
朝、いつもと同じ時間に登校した。
ふと四階建ての校舎の白い壁に、何かが動いているような感覚におそわれたので
凝視してみた。
すると、そこには真っ赤なジャージを着た長身の男がランニングをしているではないか。
その様子を立ち止まって見ていると、校舎の壁が切れるところで、すーっと消えた・・・

新倉イワオ

新倉イワオ
「殺された姉の復習」
保険金を掛けられて内縁の夫に殺されたと、妹に姉の霊が訴える。
車の事故に見せかけた殺人だったと・・・・。
やがて、内縁の夫は姉の霊に追いかけ回され、姉と同じ車の事故で
死んでいくことに・・・

「血塗られたカメラ」
ひょんなことから、事故現場を撮影した写真が新聞掲載されたことから
事故現場ばかりを撮影していた男性の体験。
スピードの出し過ぎから、単独事故で電柱へと激突した車を
瀕死の重傷を負った運転者とともに撮影した。
その後、その運転者は死亡・・・。
やがて、運転者の霊に追われるようになり、車の運転中にあの電柱へ
激突する・・・・
薄れ行く意識の中で、野次馬に写真を撮られるのを見て
『もう、二度とこんな写真は撮らない』と思い、生還したとのこと。


合田一道
北の幽霊 合田一道  南の怨霊 友成純一  同朋社 角川書店
「花魁淵のの怪」
札幌市豊平区の会社役員は、自家用車を運転して定山渓温泉へ向かっていた。
途中、藻南公園そばの商店で土産を求めようと車を左端に寄せて降り立ったところ
急に物凄い地吹雪が吹き抜けてあたりが見えなくなった。
と、さっと吹雪が消えて、店の裏手に延びる豊平川ほとりにぼんやり女が立っているのが
見えた。おやっ、と思ってよく見ると、女は古風な感じの丸髷を結っており、テレビドラマに
出てくる花街の女性のように見えた。
これが少年時代に聞かされた花魁の幽霊なのだろうか。慌てて車に乗り込もうとして
足元を奪われ転倒した。起き上がり、もう一度そちらを見ると、吹雪の先で女は微かに
笑みを浮かべて、おいで、おいでをしている。
『助けて』
彼は夢中で車に乗り込み、ぶっ飛ばした。
夢中になっていたせいか、ハンドル操作を誤り、車を雪の壁に深々と突っ込んでしまった。
バックしゆとしても動かない。何気なく後ろの席を見てゾッとなった。座席がしっとりと濡れていたのだ。

小池壮彦

小池壮彦
「観光会社の人が勧めた幽霊ホテル」(北海道)
観光会社に勤務する友人がよく出るというホテルへ筆者が行った。
そして、見事に心霊体験に成功!!
朝、観光会社の友人から電話がかかって来て
『どうだった?』と聞かれたので
『出た』と答えると
『そんなに都合良く出るわけないだろう』と信用してくれなったという話。

佐藤有文

佐藤有文
「宗教団体に入団しても恐ろしい悪運が離れない」
大学の同級生から殴られたことが原因で発症した眼球異常。
この症状を改善させたいと入信した宗教団体でしたが、症状は
改善せず、更なる不幸が次々と襲ってくるという状況になった。
私はどうすれば良いのでしょうか?という相談。

このように騙されるケースが多いのでしょうね。

佐藤有文

佐藤有文

家を撮った写真に知らない男の霊が写った

佐藤有文

佐藤有文

股間にオヤジの霊は勘弁願いたいでしょうね。

氷川正
都内某所の急行も停まらない小さな駅。
乗客から通報があった。
『ホームの真ん中あたりで強烈な悪臭がある』
早速行ってみると確かに臭い。
鰹節と納豆が腐ったような臭いである。
ホームの中ほどに職員用ドアがあり、その向こうには保線作業員用のプレハブ小屋がある。
異臭はそこから漂っているようだ。
そして、どこからともなく読経が聞こえてきた。
『何妙法蓮華経何妙法蓮華経・・・・』
聞きとれないほどの早口・・・・達観したような低い声・・・・
それが息継ぎの間もなくひたすら唱えられていた・・・・

西浦和也

西浦和也
「生と死の世界をあわせもつゲームセンター」

北野誠の『おまえら行くな』でも掲載されているゲームセンターで撮影した際に
写ったオーブ画像。
「子供が溺れたと助けを求める男の霊」
体験者の男性が中校生だった時に行ったキャンプ場での出来事。
キャンプ場に到着した同級生5人は早々にテントを設営すると、近くの川へ遊びに行った。
川幅のある川で、場所によっては3メートルほどの水深があり、泳ぐにはもってこいの川。
その夜、キャンプファイヤーを終えると、昼間の疲れが出て全員が寝てしまった。
突然、大声で叫ぶ男の声で起こされた。
慌てて外に出ると、40歳くらいの男が
『向こうで子供が溺れている。手をかしてくれ』
同級生5人は男の後を追った。。
すると、川で小学5~6年生くらいの男の子が水しぶきを上げながら溺れかけている。
5人が一斉に川へ入りかけたところで、隣でキャンプをしていた大学生がやってきた。
『どうした?何か、あったのか?』
見ればわかるだろうと思いながら、溺れかけていた子供を目で追う・・・・が、いない。
そして、40歳くらいの男も消えていた。
大学生の話では、あわただしい足音がしたので後を追ってきたら、5人が夜の川へ
入ろうとしていたので、不審に思って声を掛けてみたとのことだった。
40歳くらいの男はおろか、溺れた子供も見えなかったそう・・・・
わたしの怪奇ミステリー体験4 ムー特別編集 学研
「ドアをノックする音」
女性の体験。
四国から上京して、憧れの女子大生になった時にすんでいたアパートでのこと。
ある日を境に、隣に越してきた女が毎日、友人を呼んでは深夜まで騒ぐようになった。
注意しに行っても、いやな顔をするだけで一向に改善しようとしない態度に
我慢するしかないと諦めた。
そして、引越しを考え始めた頃から、隣の騒ぎ声がなくなった。
静かなのは1日だけだろうと思っていたが、その日以来、静かになった。
喜ばしい反面、何かあったのかと思い、隣のドアをノックしてみた。
出てきた女は、彼女と同じく地方出身の女子大生で、以前の騒音について謝罪した。
その上で、毎日、午前2時になるとドアをノックされることから、友人も不気味に
思って来なくなったのだと説明した。
翌日、そのことを近くに住む大家に聞いてみると・・・・おばあさんは笑いながら・・・・
『また行ったのかい?』
なんでも、一年前に亡くなった旦那さんは、夜中に騒ぐ家があると注意して回った。
そして亡くなった後も、夜中に騒いだ家はノックされているという。
『おじいさんは、死んだ今でも管理人をやっているんだよ』
「デジカメに写ったモノ」 調査会社勤務の男性の投稿。
ある調査で伺ったお宅は、庭が広く、建物がとても古かった。
早速、建物をデジカメで撮っては確認の作業を始めた。
しばらく作業をしていると、撮った画像に白い靄のような物が写った。
事務所に帰り、パソコンの画面で確認すると、白い靄の中に人の顔があった。
もう、事務所内はパニック状態・・・・

数日して、調査した家の息子さんに会い、顔が写っていた話をすると・・・
ああ、うちではよくある話なんだと平然としていたとのこと。
なんでも16代続いている家系で、500年以上もその場所にお宅があるんだとか。
彼自身も鎧武者の霊を何度も目撃しているとのこと。
もしかしたら、ご先祖様が写っただけなんですかね・・・

並木伸一郎

並木伸一郎

並木伸一郎

公園内を徘徊する女性の霊とのこと

龍顕正

龍顕正
消しているテレビに顔が写った

小池壮彦

小池壮彦
「殺人物件」
昔、女性が殺された物件に住んでいる男性の話。
幽霊は出ないが、帰宅するとテレビがついていることがある。
また、女性用の香水の匂いが部屋中ですることもあるという。

さらに、近所の人の話では空いている部屋へ女が入っていくのを見たし
大家が部屋の鍵を換えた後も、同じ女が部屋にたたずんでいるのを
見たとのこと。

小池壮彦

小池壮彦
「娘が見たもの」
ある年配の男性から、霊が撮影されたビデオテープを見せてもらえることになった。
ただし、ダビングはだめ、見たらすぐに返却すること。
ビデオを見ると、そこには件の男性がマッサージを受けている、それを娘さんが撮影
しているという状況。
しばらくすると、娘さんの悲鳴とともに映像が動いた。
なんと、マッサージ師が席を外したというのに、腕だけが男性をマッサージしている
ではないか。娘さんはカメラを放したが、カメラは男性を撮影し続けた。

見終わってから、件の男性にいろいろ聞くと・・・
腕の霊は彼の奥様で、自動車事故で腕を失ったが命は助かった。
しかし、数日後、病院の窓から飛び降り自殺を遂げたとのこと。
また、その映像は、見る時によって内容が変わるという・・・

清田予紀

清田予紀
「プールが人を呑み込む夜」
真夏の暑い夜、ある中学校に新人警備員が配置された。
夜勤の巡回が終わり一息ついたところで、先輩警備員の引継ぎ事項が思い出された。
『この学校が建つ前、ここら一帯は無縁仏を葬る墓地だったらしい。だから、夜になると
成仏できない霊が校内をさまようんだ』
『プールには気をつけろ。夜間のプールに泳ぎに来る奴がいる。そんなバカには
厳重注意をするように!』
自分を怖がらせるための作り話だろうと思いながら、仮眠をとるために椅子に座った。
すると、ドアを激しく叩く音、水着姿の男子生徒2人が飛び込んできた。
『友達がプールでおぼれているんです。助けてください』
警備員は、1人の生徒に警備会社へ連絡を頼み、もう1人の生徒とプールへ向かった。
『あそこです』 プールから水しぶきが上がっている。
水深1.2メートルの表示が目に入った・・・
警備員は懐中電灯を持ったままプールへと入っていった。
すると、溺れた生徒の腕が首へ絡まり、そのまま底へと沈んで行く。
『水深1.2メートルなのになぜ沈んでいく?・・・』
足元を見ると、底の見えない暗黒の世界から無数の亡者が生徒と警備員の足に
向かって手を伸ばして来ていた。
更に足をつかまれて、もうだめだと思った時、急に明るくなった。
明るくなると、亡者は水底へ、水底へと去っていった。
警備会社から応援が駆けつけたのだった。
2人は人口呼吸によって息を吹き返した。
「おにーちゃんの足、ちょーだい」
軽い消化器系の病気で入院した男性が、夢に出る少女に
『おにーちゃんの足、ちょーだい』と言われたので
『両足は困るから、片方の足だったらいいよ』と答えた。
もちろん、夢の中で・・・
翌日、階段から落ちて、左足を骨折してしまった。
その夜、またもや少女が夢の中に現れて
『おにーちゃん、ありがとう。約束守ってくれて』と言った。
急に目覚めると、骨折した足が異様に痛い。
医師を呼ぶと、単純骨折だったはずの足が粉砕骨折を起こしており
足が腫れて2倍に膨れあがっていた。
結局、左足は切断した。

「呪いか、それとも偶然か?グシャリと握り潰された心臓の怪」
心筋梗塞の発作で運ばれてきた患者の手術を行うため胸を開くと
そこには、手で握られたとしか思えない変形した心臓があった。
バイパス手術が成功したにも関わらず、患者は死亡。
その後、死因解明のための解剖をしてみると、またも心臓が握られた
形に潰れていた・・・。

炎のようなものが親子の姿になった

高田寅彦

高田寅彦
あなたは幽霊を信じますか?
僧侶にとって幽霊は、いるかいないかを問題にするような存在でも
まして怖がる存在でもありません。
ひたすらに供養すべき対象であり、この現代であってもその原理に変わりはありません。
亡くなった少年に似せた人形が動き出し哀しみの声をあげる、
銀行の貸金庫から老女の手が這い出る、
土塀の上を遍路姿の女性が這う、・・・・。
怖い・・・・けれども幽霊現象という非日常的な世界をまっすぐに見据えたとき、そこには
人間のもつ限りない悲しみと怖さと温かさが、逆にくっきりと浮かびあがってくるのがわかる。
本書は何百、何千とある現代の寺院の幽霊供養談から13の実話を精選したものです。

高田寅彦

高田寅彦
「貸金庫から這い出す手」
取引のない銀行から住職のもとへ相談に来た。
それは、店舗内で居たはずの老婆が消えるというものだった。
更に防犯カメラに写っていたものは、白い猫と、ある貸金庫から這い出る
手の映像だった。
貸金庫を利用している女性の立会いのもと、貸金庫を開けると中から出て
きた物は、女性の祖母の遺骨と写真だった。
その写真には白い猫が抱かれていたという。
今では、住職がその遺骨を供養しているとのこと。

辛酸なめ子
絶対霊度 辛酸なめ子 学研
全編4コマ漫画

宜保愛子

宜保愛子
一度入ったら出られない、死霊の招く「魔の森」の恐怖
山梨県塩山市 大菩薩峠
Aさんは、3人で「魔の森」へ入ったが、午後からの濃霧で仲間とはぐれ
14日後に奇跡的に救助された。
14日間で9体ものドクロを目撃したそう・・・
「魔の森」は、昔から一度入ると出られないと言われている危険な場所。
「霊安室でタバコを吸ったばかりに・・・・」
大工見習いで働いていた体験者の親方の奥様が急病で死亡。
霊安室で奥様の遺体を見守っている時に、同僚のタケシがタバコを吸い出し、あろうことか
奥様の顔へタバコの火を付けると言う・・・・
そして、奥様にドラッグで警察に通報されて逮捕された怨みごとを言いながら線香立てで
タバコをもみ消した。
葬儀を終え、普段の生活に戻るとタケシのタバコの本数が異常に増えた。
1日100本を吸うようになり、片時もタバコを離せないようになる。
本人曰く、線香の臭いがやたらするので、タバコの煙の臭いでごまかしている。
ついには、タバコを一度に二本咥えて吸うようになった・・・・
親方に相談してタケシを病院へ連れて行こうとした翌朝、現場の梁で首を吊ったタケシが
発見された。
「学校」の恐怖体験ミステリー スクールホラー探検隊 にちぶん文庫
「三階にあるトイレの鏡」
私たちの学校は、三階建て、築二十年といったところですが、ペンキを塗り直されているので
それほど古く感じません。
その日の部活が終わったのが夕方の六時ころでした。
私と友人の大野さんは、自分の教室がある三階に向かって歩いていました。
三階についたとき、トイレに行きたくなったので大野さんを誘ったのですが、彼女は先に一階に
降りているという返事でした。
しかたなく、一人でトイレに行くともう既に薄暗くなっていたので、入り口の電灯を点けました。
すると、洗面台の上に三枚の鏡が並んでいます。今まで、真ん中の鏡が無かったのです。
私は用をたすと、真ん中の新しい鏡の前で手を洗いました。
ふと違和感を覚え鏡を見ると、そのには三つ編みの女の子が逆さにぶら下がっていました。
女の子は私の髪の毛を掴むと 『ねぇ、こっちに来て遊ぼう』
『ギャー 助けてー』 私の声が聞こえたのか、大野さんが助けに来てくれたのですが、トイレの
入り口のドアーが開かない様子。
やがて女の子の姿はシワシワの老婆に変わり、ものすごい力で鏡の中に引っ張られました。
気が付いたら保健室でした。
大野さんにトイレの真ん中の鏡の話をすると、鏡なんてないと言われました。
翌日、三階のトイレに行きましたが、真ん中の鏡は抜けたままでした。
血も凍る恐怖体験ミステリー ホラークラブ にちぶん文庫
「武者の霊が出陣するアパート」
私が小学校五年生の時のこと。そのころ、私たち家族はアパートに住んでいて、両親は共働きのため
一人っ子の私は夕方の六時過ぎまで遊んでいなければなりませんでした。
冬のある日のこと、遊んでいた友達が帰ってしまい、一人落書きをしていると・・・
私の住んでいるアパートの、誰も住んでいない部屋に明かりがついているのです。しかも部屋の
中から誰かがこちらを見ています。
よく見ると、それは鎧を着て、頭に兜をかぶった武者のようでした。武者は五分ほどで消えました。
しばらくして、いとこが休みを利用して泊まりに来ました。その晩のこと・・・・
十二時ころ、ガタガタという揺れと 『ドーンドーン、ボー、ボー』という音で目を覚ましました。
横を見ると、いとこも目を覚まし、ジッと音を聞いています。
窓から外を見ると、近くの神社の木々がボーッと光り、人の叫び声と物がぶつかり合う音がします。

このアパートから引っ越して中学生になった時、ある日の新聞に遺跡発掘の記事が出ていたのですが
私の住んでいたアパートと神社の間から大量の人骨が出てきたそうです。時代は室町時代。
私といとこが見たものは、室町時代の戦いの様子だったのでしょうか。
恐怖体験 タクシードライバーは見た! ホラープレス にちぶん文庫
「給水塔に運転手を導く幼女の怪」
六年前、私が東京でタクシー運転手をしていたときのこと。
夕方、信号待ちをしていると5歳くらいの女の子がじっとこちらを見ていたのでドアを開けた。
てっきり親もいっしょだと思ったが、乗ってきたのは女の子だけ。
『K町まで』
『何丁目とかわかるかな? 目印になるようなものとか・・・』
『キュウスイトウとダンチ』 (給水塔と団地かな・・・)
K町へ向かうが、途中で尿道結石の症状が出てしまい、うつろな意識の中で女の子に手を引かれ
『H荘』の一室へ・・・・そこには無理やり縁を切った元妻がいて、女の子が『お父さん』と言った・・・

目を覚ますと、病院のベッドだった。アパートの住人が救急車を呼んでくれたとのこと。
治療を終えると、故郷へ戻り 『K町』 『給水塔と団地』 『H荘』 を探した。
はたして『H荘』はあった。アパートの周りをウロウロしていると、一室から老人が出てきた。
『このアパートに以前、母親と娘の二人連れが住んでいませんでしたか?』 と老人に問うと
『Kさんのことか? 三年くらい住んどったかな。母親が寝たきりで、二人とも半年前に
亡くなった・・・無理心中じゃった。女の子はかわいい盛りで五歳じゃったよ』
こうして私は、かつて妻と娘が死んでいたアパートで暮らすようになった。
信じられないコワ~イ話 ホラークラブ にちぶん文庫
「車についた霊に危うく殺されそうになった」
二年前、小さい頃から憧れていたスポーツカーを格安の値段で手に入れることができた。
喜びは有頂天で、環状線を何週したか、わからない。
ふと気づいたのは、前にも後ろにも車がいない。スピードを上げても、落としても見当たらない。
不思議に思っていると、前から白い物体が飛び込んで来て車に 『ドスーン』 と当たった。
急ブレーキをかけて、何とか路肩に止めることが出来たが、他の車がいたら大事故になって
いただろう。
ショックを受けながらも、何とか車を発進させた。
しばらくすると、また前方から白い物体が飛び込んで来た。
先ほどと同じく 『ドスーン』 と音がしたが、今度は白い物体の中に子供を抱えた女性が怯えている
姿が見えた・・・・。
あまりの恐怖からブレーキを思いきり踏み込んだまま、ハンドルにもたれ掛かっていたようだ。
道路公団の職員にドアをノックされて、放心状態から解放された。
車は、左側をガードレールに接触していた。
修理のため購入した中古車店にもっていくと、なじみの店員が怪訝な顔をしたので、問い詰めてみた。
すると、その車の最初のオーナーが散歩中の母親と子供をひき殺していた。
その後、その車を購入した人は、皆早々に手放していたという。
旅館の怖~い話 ホラープレス にちぶん文庫
「幼い霊が戯れる深夜のビジネスホテル」
二年前の初夏、会社の出張で滋賀県の小さな街に赴いたときだった。
宿泊先にしたのは、駅の近くのビジネスホテル。三階建てで質素なつくり、中年夫婦が
個人で経営していた。
一通りの仕事を終えた夕方、地元の居酒屋へ行き、その流れでキャバクラに入った。
キャバクラでは美香ちゃんと意気投合して、ホテルに誘った。
ホテル名を告げると、彼女の顔が曇ったが、その時は気にしていなかった。
ホテルに帰った僕は、シャワーを浴びて、彼女の来訪を待ちわびていた。
『トントン』 部屋をノックする音が聞こえた。しかし、ドアを開けても誰もいない。
しばらくすると、またノックの音がしたが、ドアの外には誰もいない。
僕は一階のロビーまで下りることにした。一階に着くと、五歳くらいの男の子がいた。
声を掛けるが、ケラケラ笑いながら階段を上がって行ってしまった。
部屋に戻ろうと二階に差し掛かったとき、今度は八歳くらいの女の子がいた。
『い~ち、に~い、さ~ん・・・・』 まるでかくれんぼをしているようだった。
十まで数えた女の子は『キャ~』 と声を上げると、フロアーを走りだした・・・・
走り出した途端に消えたのだ。
急に恐怖が込み上げてきた僕は、部屋に戻り布団をかぶって寝た。
その後、東京に戻った僕のもとに美香ちゃんから電話があった。
ホテルに行きたかったのは山々だったが、子どもの幽霊が出ると地元では有名な
ホテルだったので、どうしても行けなかったとのことだった。
病院の怖~い話2 ホラークラブ にちぶん文庫
「同僚ナースが最後の別れを告げにきた」 神奈川県 M・M(27歳)
看護学校を出て、初めてT病院へ勤めた頃の話です。
同期生のA子とは、同じ東北出身ということもあってすぐに仲良くなりました。
ある夜勤の晩、救急車でひとりの女性が搬送されてきました。
ナイフで刺されたらしいという情報を受けて、緊急オペの支度をしている私の前を
血まみれの姿で通り過ぎて行ったのはA子でした。
誰もが驚いていました。
そして、必死の手当ての甲斐もなく彼女は息を引き取ったのでした。
その場にいた人は誰も『いったいなぜ?』という思いでいっぱいだったと思います。
事件の全貌は、A子が相手に奥さんがいることを知りながら不倫をしていた 奥さんは
夫の不実を知りA子を刺したというものでした。
その後、病院内でA子を見たという人が続出しました。
そして、私の前にも・・・
たまたまナースセンターで一人になった私の前に、きちんと白衣を着たA子が現れました。
『A子!』
私は大声で叫びました。すると、A子が私の方へ振り向きました。
『だめよ、こんなところにいては・・・・』
『あなた、死んだのよ』
心の中で呟いた直後、誰もいない部屋からナースコールがあり、目をそらした間に
A子は消えてしまいました。
その後、A子を見たという人はいませんでした。
ホントにあった怖~い話 ホラープレス にちぶん文庫
「海中に潜む怨霊」 I・S 東京都33歳
大学四年の夏、クラスメイトと三人で千葉県の九十九里浜に行った時の話。
泳ぎの得意なクラスメイトの金子と田代だったが、二人で泳ぎを競っている間に沖に流された。
金子は自力で浜まで泳ぎきれたが、田代は危うく溺れそうになったところをウインドサーフィンを
していた若者に助けられたという。
浜辺の喫茶店で休んでいると、偶然、ウインドサーフィンの若者が入ってきた。
三人で若者にお礼を言うと・・・・
『無事に助けられたから言うんですけど、田代さんをボードに引っ張り上げる時、手を放そうかと
思ったんですよ。恐ろしくて、恐ろしくて・・・・』
『ど、どうして?』 田代がゴクリと生唾をのんだ。
『田代さん、気が付かなかったですか? あなたの足に男がぶら下がっていたんですよ!
両目が無かった・・・・。あれは絶対に生身の人間じゃありません』
「病室に現れた奇怪な少女」
福岡県に住む女性が小学6年生の時の体験。
夜中の急な腹痛により、救急車で病院へ運ばれた。
診断結果は急性虫垂炎(盲腸炎)とのことで、翌日に手術することになり
点滴を受けると4人部屋の病室へと移動した。
翌日、手術は無事成功、一週間ほどで帰宅できるだろうと医者に言われた。
入院して3日目、おかっぱの幼い女の子が病室の入り口から、こちらを見ている。
『こんにちは』と声をかけ、『お名前はなんていうの?』と聞くと『ゆうこ』との答え。
彼女の名前も祐子なので、同じ名前なんだと思いながら
『おねえちゃんの名前もゆうこだよ』
そんな会話から話が始まり、ゆうこちゃんは小学2年生で長く入院しているとのこと。
そして『ゆうこ一人で寂しい。ひとりぼっちなの』と言ってすすり泣く・・・。
慰めようと思い『おねえちゃんがいてあげるから大丈夫』
『約束してくれる?ゆうことずっといっしょにいるって』
『うん、約束するよ』と無責任な約束をすることに・・・。
その晩に、高熱と激しい腹痛を発症。
朦朧とした意識の中で、ゆうこちゃんの声が
『おねえちゃんは退院できないよ。ゆうことずっと一緒にいるんだから』
翌日も高熱と腹痛は続き、夢に出るゆうこちゃん『「おまえは死ぬんだよ』と言われる。
その頃、彼女は意識不明の状態にあり、集中治療室へ運ばれるところだった。
意識不明の状態ではあったが、病室から運ばれる時に『おねえちゃん、行かないで』と
ゆうこちゃんの声が聞こえたそう。
4人部屋jから出た彼女は、何事もなかったかのように元気になり退院。
ゆうこちゃんが誰なのかと言えば、4人部屋の彼女の使っていたベッドで3年前に
亡くなったのが『ゆうこ』という女の子だったとか。
「性霊に恋焦がれる、ある入院患者」
ある病院へ入院した男性の体験。
入院した当初から、かわいいと目を付けていた看護師がいた。
それは、消灯前になると見回りに来る看護師。
ある夜、思い切って彼女の体に触りキスを迫ると、彼女もまんざらではない様子。
病院内では最後までは出来ないと彼女に言われたのだったが、彼女は口で
彼を満足させてくれていた。
ある日、面会に訪れた母に、結婚したい女性がいることを打ち明けて、看護師の
彼女の氏名と年齢を明かす・・・。
しかし、母は知らないという。名前はおろか、そんな若い看護師はいないとのこと。
しかも、3交代制勤務の彼女たちが、毎晩、消灯前に来られるわけがないと言う。
それはお化けと、母に結論付けられたが、彼は毎日、消灯時間を待っているとのこと。

朝倉三心

朝倉三心
「雪山の美女と明かした一夜」
冬山へ単独で登った男性の体験。
手ごろな山への登山だったが天候に恵まれたためルートを変更する
ことにした。
しかしながら、すぐに天候は悪化。
おまけに吹雪いてきたために道を見落とし、ルートから外れてしまった。
しかたないのでビバークすることにした。
食事も終え、やることもないので眠りにつく。
急な寒さに目が覚めた・・・
しっかりと閉めたはずのテントの入り口が開いている。
しかも、目の前には昼間見かけたベテランと思しき女性の姿があった。
『じっとしていて・・・』
女は一人用のスリーピングバッグに入ってきた。
昼間は気づかなかったが、よく見ると若くて美しい女だ。
そのまま二人は服を脱ぎ、明るくなるまで何回も果てた。
明け方、浅い眠りにまどろんでいると、入り口が開いた。
体は金縛りにあったように動かない・・・
女性はヤッケを羽織った姿で音も無くテントを出て行った。
いつの間にか寝てしまったのか、次に目覚めたのは9時。
雪も上がり、快晴だった。
その後、幾度となく、この山に登ったがあの女性に出遭うことはなかった。

朝倉三心

朝倉三心
「男女を乱交させる情欲の温泉」
土曜日の午後0時、入社研修を終えた女性とその先輩の女性に
上司の課長がドライブに誘った。
そして、課長の部下の男子社員も同様に課長の車に乗った。
ある曲で有名な地を目指して車は走り出した。
しばらく走ると、舗装の悪い道路となった。
課長は、どうも道に迷ったらしい・・・・
ついでだから途中で見つけた温泉に寄ることになった。
温泉はあったが、ひどいバラックで無人。
それでも温泉は湧き出ているので入浴することにした。
女性2人が湯に入ろうとすると、課長と部下の2人が入っていたので
びっくり。
露天の混浴風呂だったのだ。
課長たちとは正反対の場所へ入り、湯を満喫していた。
しばらくすると、先輩の女性社員が自分のバストを手で揉みながら
腰をグラインドする。
新入社員の彼女も湯から体の芯にうずいてくる刺激に
我慢しきれなくなり岩に自分の足を掛けると、性器が露に
なっていることも構わずに両手で秘所をまさぐった。
男性陣もムラムラとしながら、近づいてきた・・・。
そのままセックスを終えて温泉に入ると、欲情し
またセックスを終え、湯に入ると欲情する・・・・
そんな温泉だった・・・

宜保愛子

宜保愛子

宜保愛子

宜保愛子

宜保愛子

宜保愛子

宜保愛子

悪い霊との鑑定結果でした。(黒いのはほとんど悪い霊のようです)

平川陽一
「3階の窓の外にずぶ濡れの男の顔が」
友人3人と海水浴へ行った男性の体験。
偶然に、熱中症になってしまった中学生を病院へと搬送することになってしまった。
おまけに、中学生の親が来るまで病院で待機することに・・・
病室に急しつらえで置かれた簡易ベッドで寝ることになってしまった。
それでも昼間の疲れからウトウトとなりかけた時、病室のカーテンが揺れる。
窓が開いているのかと思ったが、面倒なので放置していた。
すると、3人が起き出し、さっきからカーテンの動きが気になっていたと話した。
気になるなら見て来いという話になり、1人が窓に近づくと、触ってもいない
カーテンが大きくめくれた。
めくれたカーテンの先には、ずぶ濡れのパンパンに膨れた顔が浮いていた。
窓は閉まっていたという。
数日前に、入水自殺があったとのこと。

平川陽一
学校の恐怖体験
平川陽一
「掘り返された蹄鉄にいつか殺される」
とある大学の料理クラブに入部した女性の体験。
そのクラブでは料理から出た生ゴミは校内の土の中に
埋めるのが『しきたり』になっていた。
その日も、やりたくない生ゴミ埋めを文句を言いながら
数人の同級生と行っていた。
その時、硬い金属のような物がスコップに当たった。
掘り出してみると、それは蹄鉄。
なぜ、こんな場所に蹄鉄があるのか不思議に思うこともなく
友人に提案された『蹄鉄をアクセサリーへ作り変えてあげる』
の言葉に心躍らせていた。
数日後、その友人が大怪我をして2~3ヶ月休学するという
連絡が入った。
早速、料理クラブの同級生はお見舞いへと出かけていったのです。
その友人の家は大きく、すぐに見つかりました。
母親に案内されて行くと、頭を包帯で巻いた友人がやってきた。
なんでも、庭で焚き火の最中に急に炎が上がり、たまたま顔を
近づけた彼女に直撃したとのこと。ただ、軽症ですんだ。
来たついでだからと、先日、校内で発見した蹄鉄を加工した
アクセサリーを持たせてくれた。
帰宅した夜中、地震に目が覚め、蹄鉄が棚から落ちるのが見えた。
すぐに隣の部屋で寝ている姉を起こすと、地震なんて起きてないから
寝ぼけるなと怒られた。
わけが解らずに蹄鉄を見ていると、蹄鉄自身がゴトゴトと音を出して
振動していることに気づいた。
次の日、気味が悪かったので蹄鉄は元の場所に埋めた。
その判断は正しかったようで、後日に以前は乗馬部があって火事により
馬が焼け死んでからは廃部となった話を聞いた。

平川陽一
オフィスの恐怖体験
平川陽一
「遺体で発見されたお客が目の前に」
海外旅行の添乗員をしている女性の体験。
ある海外ツアーに単独で参加したOLが旅行先で自殺した。

別のツアーで再度同じ場所へ行った時に自殺したはずの女性が
目の前にいる。
しかも、その女性を見かけるのは、ある新婚カップルの周りに
限定されていた。
思い切って、その女性の名前で声をかけると、新婚カップルの男性が
怪訝な顔もちで『どうして、その名で私を呼ぶのですか?』
と聞いてきた。
添乗員の彼女は、彼女のいきさつを説明した。
『そうですか。実は彼女を知っているんです。
結婚を決めた時に別れました』

北野 翔一

北野翔一
「対向車の屋根にしがみつく血だらけの男」
東北・下北半島へ向かう道路でのこと。
トラックドライバーが対向車の上に血だらけの男が乗っているのを発見。
危険であることからUターンして、その車を追いかけ、クラクションを鳴らして停止させた。
『あれ、おかしいな・・・車の上に人がいない・・・』見ると、屋根の男は消えていた。
しかし、次々と対向車が停車して
運転手が『屋根に血だらけの男がいる』と車から降りてきた。
『すまん、なんでもするから消えてくれ・・・』
血だらけの男を屋根に乗せていた男は、ある男性を山中で殺して埋めてきたところだった。

北野 翔一
私たちの怖い話 看護婦50人
北野翔一
「危篤だった患者が歩いてきた」
東京の下町の病院に看護師として勤務していた女性の体験。
夜勤だった深夜、ナースルームに変な臭いが漂ってきた。
魚のはらわたが腐ったような臭いの元を探すべく、ナースルームの
外に出た。
すると、そこには2ヶ月も前から昏睡状態だったはずの患者の歩く姿が
ありました。
これは奇跡だと思い、思わず駆け寄り『良かったですね』と言ったのです。
『おかげ様で・・・本当にありがとうございました』
病室まで送るのいう申し出を断りながら、その患者は自分の病室へ
帰って行った。
一時は喜んだものの、これはおかしいと思い、その病室へ行ってみると・・・・
先ほど歩いていた患者はすでに亡くなっていたのでした。

北野 翔一
戦慄の「霊」体験
北野翔一
「山道を迷わせる若い男女」
中級者向きの山を登った二人の男性の体験。
少々山を甘くみた二人は、ガスの出てきた山中で自分たちのいる
位置さえわからない。
そこへ、本格的な装備に身を包んだ男女が通りかかった。
『この男女の後を付いていけば山小屋へ着ける』と思った二人は
必死になって後を追った。
しばらくして、霧がやや晴れた・・・・とすぐ前は断崖絶壁・・・・
あと少し霧が晴れるのが遅ければ、二人は転落していたとのこと。

北野 翔一
私の怪異霊体験
北野翔一
「午後11時13分の留守電メッセージ」
実の母が亡くなった。時間は23時13分。
葬儀を終えて、自宅マンションへ帰ると留守電に
メッセージが入っていた。
それは女性の声で『早く病院へ行って検査してください』
3週間後、肝臓の3分2を摘出する大手術を行った。
医者曰く、あと少しでも検査が遅れたら助からなかった
だろう・・・。
あのメッセージは母からのものだと信じてテープに録音し
落ち込んだ時に聞いては元気を取り戻しているという話。
見てしまった人の怖い話 「ゴンドラ」
週に2~3日の割合で、ビルの窓掃除のアルバイトを
していたときのこと。
同僚に『今、女性の叫び声が聞こえませんでしたか?』
と言われた後に、再度、女性の叫び声が彼らの乗る
ゴンドラの上から聞こえた。
窓ガラスに映るそれは、緑色をした女性だった。
女性は、上から落ちてくると、彼らの乗ったゴンドラの
横を通り過ぎて消えた・・・

矢島誠
新怪奇体験4
矢島誠
「おんなじ」
ある温泉好きな方が東北地方の温泉へ友人数人と行ったときのこと。
深夜まで宴会で飲んだ後、温泉に入ってから寝ようと思った。
一人で温泉に向かい、岩で囲まれた湯船に入った・・・
一人かと思ったが、湯気でかすんだ先に十歳くらいの女の子の姿がある。
何も考えないで湯に浸かっていたが、リラックスしてくるに従い
『なぜ、こんな夜中に一人で子供が温泉にいるんだ? 
親は心配じゃないのか?』と疑問に思えてきた。
すると、女の子から『どこから来たの?』と声をかけられた。
『東京の練馬というところだよ』と答えた。
『私もおんなじ』という答えなので『練馬のどこ?』と聞くと
『おんなじ、おんなじ』と答えて笑っているだけだった。
へんな子だなと思い、女の子から視線を少し外した。
視線を女の子に戻した時には、女の子の姿は消えていた。
自分の前を通り過ぎなければ湯船から出られないのに・・・。

しばらくして・・・
会社から帰って、風呂に入ろうとしたら誰かが入っているような・・・。
奥さんと二人暮らしなので、てっきり奥さんが入っているのかと思い
風呂場に行ったが曇りガラスを通して写る姿がやけに小さい。
おまけに、子供のクスクス笑う声が聞こえる・・・
『おんなじ、おんなじ』
連れて来てしまったと気づき、引越しをしたとのこと。
皆さんも、お気をつけて。

矢島誠

矢島誠
「ビデオテープの予言」
幼い子供を残して妻が逝ってしまった。
数年経ったある日、日常的に見ていた生前の妻の
ビデオテープに意味不明な言葉が入っていた。
『あなた、そのトラックから離れて。危ないから離れて』
巻き戻して聞いても同じ・・・
数日後、仕事で高速道路を運転中、前を過積載と
思われるトラックが走行していた。
その時、妻のビデオでの言葉が思い出されてきた。
『そのトラックから離れて。危ないから離れて』・・・
あわてて、そのトラックを追い越した。
その直後、トラックは荷崩れを起こして建設資材を道路にぶちまけた・・・

矢島誠

矢島誠
「おいしい水」
そのころ、山東拓也さんと坂本恵美子さんは同じアパートに住んでいた。
部屋は、玄関を入ってすぐの六畳の台所と、それにドア一つで繋がった六畳の寝室。
そして、鉄筋三階建の最上階。
電話も風呂もなく、トイレだけが直接台所にくっついていた。
ただ、どういうわけだか頑丈で、両側の部屋から漏れ聞こえてくるような音は
一切なかった。
なので、夜ともなれば、物音一つしない静かな環境となる。
隣の音がしないということは、こちらの音も隣に聞こえないわけで、精力盛んな
学生が同棲するには、うってつけの部屋だった。
その日もシングルベッドと畳を往復して、最後に山東さんが果てた。
指に着いた物を洗い流そうと、山東さんは台所に向かった。
蛇口を開いて指を洗い、蛇口を閉じた・・・・
『ああ~、あいしかった・・・・』
山東さんも坂本さんも、そんな言葉を発していないことがわかると、急に怖くなった。
玄関、ベランダと人の気配を探したが、はたして誰もいなかった。

矢島誠

矢島誠
「ひとり、多い」
高校時代のテニス部の合宿でのこと。
怖いので、同学年の5人で夜中にトイレに行った。
3つのトイレに『緊急事態』の3人が入った。
まだ待てる人がトイレの前に並んで、しばらくすると
トイレに入っていた人と交代した。
みんな出す物を出すと、一様に落ち着き、あることに気づく。
トイレに入ったのが3人、外で待っていたのが3人・・・・
どう考えても一人多い。
そして、トイレから出た全員を数えても6人。
みんな悲鳴を上げながら、自分の部屋に帰って布団を被って
震えていた。
そして、よく思い出してみると、6人目の知った顔は自分だと気づく。

平山夢明

平山夢明
「銭湯」
彼女の実家は銭湯を営んでいた。
5月には菖蒲を湯船に入れることもあるだろうが、その銭湯では年中を
通して菖蒲を入れている湯船があった。
祖父に理由を尋ねると『魔よけ』との答えが返ってきた。
ある日のこと、営業時間も残り少なくなった時間帯に父母ともに不在となり
彼女が番台に座ることになった。
ふと見ると、お客が誰もいないのに湯船に浸かる頭のようなものが見えた。
それは数が増え、最後には1つの大きな海坊主へと変化していった。

・・・『魔よけの菖蒲を入れるのを忘れていたんです』

平山夢明

平山夢明
「ゴミ」
ゴミ収集を業務としている、ある方は今の日本人は病んでいるという・・・

ある日のゴミ収集の日。
ゴミ収集車を運転していると、後ろのコンテナから人の話し声がしている。
事故かと思い、コンテナを覗いてみるが人の気配はない。
気のせいかと思い、再び運転していると、今度は数人のはっきり話す声が
聞こえてきた。間違いなく事故だ、と思いコンテナを開けた。
しかし、今度も人の気配はない・・・。
すると、一人の作業員がへんな袋があったのを思い出した。
その袋を取り出してみると、中には遺影と位牌があった。
その袋を運転席に入れると話し声がやんだ。
仕事が終わってから近くのお寺に事情を話して持ち込むと、住職は人心の
荒んだことを嘆いていたという。
『今は要らなくなったら猫でも犬でも捨てる。子供は捨てる、親も捨てる。
捨てて良いものと悪いものの区別も付かない。みんな頭が狂っているんだ。
狂っているから自分が狂っていることに気がつかない・・・』

平山夢明
新「超」怖い話8
平山夢明
「イタズラ電話」
ある女性が深夜のイタズラ電話に困っていた。
『オレ、オレ、オレ』のイタズラ電話に切れた女性が言った。
『あんた、卑怯ね。隠れて電話してくるなんて!!』
『そうでもないよ』
と言い終わらぬうちに、彼女の部屋の窓ガラスに男が貼り付いた・・・

樋口明雄
新「超」怖い話7
樋口明雄

「妖怪二題」
その1
銀行のデータ管理部に勤務していた時にホストコンピューターの
メンテナンス作業で残業していた時のこと。
コンピュータールームの隅の方から「サラサラ、サラサラ」と音がする。
誰か居るのかと見に行くが、誰も居ない。
しばらくすると、別の場所から『サラサラ、サラサラ』・・・・
次の日、先輩にその話をすると『ああ、それはアズキ洗いだよ』
なんでも、そのアズキ洗いに遭遇した人は皆、出世しているんだとか。

その2
証券会社の顧客担当をしていた時に『株の名人』と言われた
お客の担当になった時のこと。
成り立て早々に呼び出しがあり、ある銀行株を全部売りたいとのこと。
言われるまま、支店に戻り、銀行株を売却した。
数日後、その銀行が倒産。
しばらくして『株の名人』に呼ばれてごちそうになった。
酔いも回ってきたころに
『何か秘訣があるんですか?』と聞いてみたところ
『誰にも言うなよ』と念を押された上で、床の間の掛け軸の前へ案内された。
『ここの前に知りたい株の名前を書く、すると天狗と河童の絵の余白に
痕がつく。天狗のうちわの形なら株は上がる、河童の手の水掻きの形なら
株は下がる』

樋口明雄

樋口明雄
「ゆきおんな」
ある3人のパーティが冬山を登山していた。
雪の中、くじけそうになる気持ちを励ましあいながら
『あと少しで山小屋だ。がんばろー』
そうして、ようやくの思いで山小屋へ到着。
上がった息を整えてから、夕飯の準備、夕飯へと進む。
夕飯が終われば、昼間の疲れが一気に出て、皆、寝るだけ。
どのくらい時間が経ったのだろう、急な寒さに目が覚めた。
見ると、山小屋の戸が開け放たれ、白い霧のような物体が
中に入ってきた。
そして、天井付近にまで上昇すると、女の姿へと変わった。
それは小泉八雲の怪談に出てくる『雪女』そのもの。
すると急降下して来て、隣で寝ている先輩の顔を覗きこんだ。
次に、また上昇したかと思うと急降下して、今度は隣の
後輩の顔を覗き込んだ。
『次は自分だ』と必死で眠ろとしているうちに朝になった。
朝食時、雪女の話をするが先輩は信じてくれなかったが
後輩は雪女を見ていたと言う・・・

樋口明雄
新「超」怖い話5
樋口明雄
「牛乳屋のおばちゃん」
深夜、飲んで家に帰る途中で、10年ほど前に死んだ牛乳屋のおばちゃんに
声を掛けられた。
『お母さん、元気?』
そのころの母は胃潰瘍で入院中だった。
ガンの疑いもあったが、ガンではないことが判明したのもつかのま
胃の多くを摘出する大手術が数日後に控えていた。
もしかしたら、母を迎えに来た???なんてことも感じたため
『母はいたって元気です。』と応えた。
数日後、母の手術は心配をよそに大成功に終わる。
すると、先日の牛乳屋のおばちゃんがなぜ幽霊となって出てきたのが
気になった。
おばちゃんの家を尋ねると空き家なっていたが、管理している不動産屋に
頼んで屋内に入ると位牌が置き去りになっていた。

樋口明雄
新「超」怖い話3
樋口明雄
「セブンスター」
ある夜、夢を見た。
それは、彼の故郷である富山県での高校の同級生の夢だった。
二人で向かい合って話をしている夢だが、相手はタバコを3本吸っただけ
だった。
銘柄は『セブンスター』・・・・
その時、電話のベルで起こされた。
それは、故郷の友人からの電話で、たった今夢で見た相手が亡くなったと
いう知らせだった。
禁煙中で、使用していなかった灰皿を見ると、吸った後のセブンスターが
3本入っていた。

樋口明雄
新「超」怖い話2
樋口明雄
「パチンコ」
パチンコ店に勤務していた時に、釘を絞めて絶対に出さないパチンコ台が
1台あった。
先輩に聞くと『死神の台だから、他の誰かが出すと怒り出す』と・・・
番号は369番台。
勤務して数ヶ月が過ぎたある日に、大学生が座った369番台がフィーバーした。

よく来る大学生だったが、それ以来姿を見ることはなかった。
次に369番台でフィーバーしたのは、隣のそば屋の店員だった。
3箱ほど出すと帰って行った。
夕方、店の前を掃除していると救急車が来た。
見ていると、先ほどの店員がグッタリした姿で、運ばれていった。
近くにいたそば屋の店主に聞くと 『そばで滑りやがった』。
空の麺入れの箱を持って、外へ運び出そうとした時に滑ってコンクリートに
頭を打ちつけたと。
結局、その店員は死んだ。外傷性脳内出血だった。

樋口明雄

樋口明雄
「飼っていた犬の話」
ケンという名のメス犬の話。
晩年、ケンはおしっこが出ない病気で悩まされた。
激痛を伴う病気で、家族が総出で看病に当たった。
特に看病をしたのは、中学生のお嬢さん。
ある日、彼女が犬小屋に行くと、歩けるはずのないケンがヨロヨロと出てきた。
『ケン、治ったの?』とケンを抱き止めると、そのまま逝ってしまった。
その後、彼女の体に異常が起きた。
1時間の間に大量のおしっこをしに、20~30回トイレに通った・・・
いったい体の何処に、こんなに水分があるのかと思ったほどの量だったという。
ケンが、したくても出なかったおしっこを、代わりに彼女がしてあげたのでしょうね。

樋口明雄

樋口明雄
「ライダー」
仲間のライダーが死んで数年経った時、彼の死が話題になった。
すると、外にバイクが止まる音と、ライダーブーツの重い足音が近づいてくる。
玄関をノックする音・・・続いて扉が勢い良く開いて見慣れたフルフェイス姿が現れた。
彼は、ゆっくりとフルフェイスのヘルメットを取った・・・
こには、あるはずの頭がない。
彼はヘルメットごと、首が切れて亡くなったのだった・・・

安藤君平
「超」怖い話
安藤君平

「イボの花が咲く」
5歳の時の筆者自身の体験。
左の手のひらの上部一面に6~7個のイボができた。
子供の手には、似つかわしくないものだったが、そのイボはなかなか
消えなかった。
そんなある日、母方の祖母が手を見るなり『イボの花が咲いとる』と言った。
『昔からイボの花が手に咲くと、身内の者が死ぬっていうからの....
誰か死ぬと、このイボは消えるんだわ....
果たして、その一週間後、父方の祖父が亡くなった。
葬式が終わった後、不思議なことに6~7個あったイボはすべて消えていた。


樋口明雄
「超」怖い話2
樋口明雄
「蔵王にて」
仲間と蔵王へスキーに行った時のこと。
スキー場の手前でチェーンを付けていると
『すみません、チェーンを付けるのを手伝ってもらえませんか?』
と若いカップルに声を掛けられた。
気持ちよく手伝うと、カップルが左のチェーンを巻いてくれた。
『お先に~』カップルが先に車を出して行った。
片付けが終わり、車を発進させてしばらくするとカップルの車が見えてきた。
もう少しでカップルの車に追いつくというところで、突然にカップルの車が視界から
消えた・・・と同時に車がスピンをして崖の手前でようやく止まった。
車を降りてタイヤを見ると、カップルが巻いた左のチェーンが外れていた。
『あいつらチェーンの巻き方も知らないのか?』
その後、チェーンを巻きなおしてスキー場へたどり着いた。

2ヶ月ほど前に、彼らがスピンした場所で若いカップルが乗った車がスピンして
そのまま崖下へ転落する死亡事故があった。
そして、その転落した車の車種と色が、出会ったカップルの車と同じだったそう・・・

文庫本の 続「超」怖い話には掲載されていない話

安藤薫平

安藤君平
「よっこらしょ」
ある男性の大学時代の体験。
彼の大学の合宿所はホントに出る場所だった。
ある日、合宿所に泊まった彼は金縛りに遭った。
初めてのことだったので、どうやって解除したらよいかと思案の末
彼の寝ているベッドから床に体を落とすことを思いついた。
早速、実行に移すが中々ベッドの端へたどり着かない・・・
やっとのことで、あと少しで落ちるところまで来た。
渾身の力を込めて体を回転させると、あろうことか床が真下に見えた。
そして彼は何者かによって、『よっこらしょ』と元のベッドの位置に戻されてしまう。
それは、彼が疲れ果てて眠ってしまうまで繰り返された。


文庫本の 「超」怖い話には掲載されていない話

黒田みのる

黒田みのる
バックミラーに霊が写った

黒田みのる

黒田みのる

黒田みのる

黒田みのる
女性の後ろに・・・
黒田みのる
黒田みのる
テーブルの下に足だけが・・・
怪談忌中録 煙仏

下駄華緒
怪談忌中録 煙仏 下駄華緒 竹書房怪談文庫
「深夜の病院で」
ある深夜二時のこと。
『〇〇病院へ向かってくれ』 と上司から連絡があり、いつものスーツに着替え目的の病院へ向かった。
到着すると裏口から入っていく。
亡くなった方は高齢の男性で、お名前は 『ミチオ』 さん。病室にはご家族が四、五人おられるということだった。
薄暗い廊下を急ぎ足でコツコツと歩いていると、前方のベンチに人影が見える。
近づいていくと、ベンチには高齢の女性が座っていた。
通り過ぎようとしたところ、その女性が頭を下げ
『お世話になります』 と言う。
え? と思ったものの 『あ、こんばんは』 と軽く会釈をして病室へ向かった。
『葬儀社のものです』 と挨拶をし、これからのことを話し合うことになった。
まずは、亡くなった故人のお顔を拝見させていただく。
ご遺体はなんと女性だった。
(あれ?男性だと聞いていたんだけどな) と心の中で思いながら、遺族に確認をした。
『亡くなられた方のお名前ですが・・・・』 と訊くと 『××ミチヨ』 であった。
電話の際に 『ミチオ』 と聞き間違えて 『ミチオ=男性』 だと思い込んでいたのだ。
そして、はっと気が付いた。
今、目の前にいる故人の顔は、先ほど廊下のベンチに座っていた高齢の女性と瓜二つだと。
『お世話になります』
その言葉の意味が、その時ようやくわかった。
未成仏百物語

小田イ輔

小田イ輔
未成仏百物語 小田イ輔 他 竹書房文庫
「憶えていて」 小田イ輔
田舎のスナックに勤務する女性の体験。
ある日、見るからに死にそうな男性客の相手をすることになった。
男性は、もうすぐ癌で死ぬという・・・・、話を聞いて欲しかった・・・・
『死ぬのが怖い』 と何度も言っていたが、それより怖いのは・・・・
『自分の死後、誰も自分のことを憶えていないだろうことが怖い』 と言っていた。
そして 『だから憶えていて欲しい』  『自分がこうして今日、この店に来たことを憶えていて欲しい』
重い話だけど 『わかりました』 と言うしかなった。
話すだけ話すと、帰り際
『本当にありがとう』 と言って、めちゃくちゃ綺麗なお辞儀をしてくれた。

それから1年後、彼氏の家でテレビを見ていると、後ろで筋トレしていた彼が・・・・
『憶えてる?』 と言う。無視していたら
『憶えてる?』 『憶えてる?』 『憶えてる?』 『憶えてる?』 繰り返し言って来る。
うるさいと思いながら 『うん』 と返事をすると
彼が私に向かって、めちゃくちゃ綺麗なお辞儀をしてきた。
うわわ~、去年の客だと思い出した。
もし、来年も同じ事があったら
『私、あなたの家族でもなんでもないんで』 と言おうと思っているとのこと。
上毛鬼談 群魔

戸神重明

戸神重明
上毛鬼談 群魔 戸神重明 竹書房怪談文庫
「飛ばす話」
悪いものを他人へ飛ばしてしまう・・・・そんな話・・・・
十年ほど前のこと、空手の有段者であるEさんは、新前橋駅近くの公園で小学生の息子と娘に
稽古をつけていた。
けれども、出し抜けに辺りが闇夜のように真っ暗になってしまった。その暗黒の中に白い髑髏が現れた。
マントに身を包んで、柄の長い大きな鎌持っている。
(死神か!)
死神は鎌を振り上げ、Eさんに襲い掛かって来た。
(殺られてたまるか!)
Eさんは気合と共に、渾身の力を込めた前蹴りを死神の鳩尾へぶちかました。
死神は吹っ飛んで、底知れぬ深い闇へと消えていった。
そして・・・・
娘の前回し蹴りが脇腹に当たって、その非力な衝撃で我に返った。
どうやら、熱中症を起こして、立ったまま昏睡していたらしい。ただちに稽古を中止してペットボトルの水を飲んだ。
『危ないところだったよ。あのまま斬りつけられていたら、死んでいたかもな』

それからひと月ほどして、Eさんの小学校時代からの親友が急死した。その日、親友は自宅にいて急に
『気分が、悪く、なった。救急車をよんでくれ・・・・』 と言って廊下で倒れた。
『死神だ・・・・。鎌で、斬られた・・・・』
譫言なのか、何度かそう呟いたのが最後の言葉になったという。
怪談最恐戦2020

井川林檎
怪談最恐戦 怪談最恐戦実行委員会編 竹書房怪談文庫
「拒まれる」 井川林檎
弟夫婦が両親と同居して以来、年末年始は帰省しないことにした。
大晦日、会社の寮はいよいよ寂しくなった。
そこへ同じ課のUさんがやって来た。
『今夜、寮にはうちらだけだよ』
Uさんはコンビニの袋からビールやらつまみやらを出して並べた。
『どうして帰らないの?』と私は言った。
早くもビールを一缶あけ、Uさんは酔っていた。
『帰る家がないの』
    *
五年前、Uさんは田舎に帰省しようとしていた。けれど、できなかった。
電車に乗って、故郷まで行こうとした。×駅で降りたら実家はすぐ近く。
どういうわけか、電車が×駅に停まらない。乗り越したと思って、反対の電車に乗っても×駅に着かない。
車掌を捕まえて、この電車は×駅に停まるはずでしょ!と抗議したら、さっき停車しましたよと言われた。
それでも何度も電車を乗り換え、×駅で降りようと試みた。
しかし、終電も×駅を通過してしまい、別の駅で宿を求めた。
実家に電話をしても誰も出ない。今日帰省する予定だから心配しているだろうと電話を掛け続けた。
真夜中の0時頃、やっと電話に出た。
『〇駅に泊まっている。明日はそっちへ行くから』 『ああ、わかったよ』 電話に出たのは母親だった。
翌朝、ニュースで火事が報じられていた。木造二階建てが全焼、住人は全員連絡がつかない。
『それ、私の家だったの』
もしあの日、×駅で降車して実家に帰省していたらUさんも火災に巻き込まれていた。
『それにしても電話に母が出た時刻、うちは燃えている最中だったはずなんだよね』
鬼怪談
現代実話異録

SOO
鬼怪談 現代実話異録 加藤一編 SOO他 竹書房怪談文庫
「鬼石」 SOO
友人Aから聞いた話。彼は十代半ばに大病をし、手術・入院をしていた時期があった。
病室は六人部屋だったが、運良く人の良い患者が集まり、居心地の良い部屋だった。そのため、ベッドの
カーテンは誰も閉めず、昼も夜も開けっ放しだった。
ある夜の消灯後、Aは隣のベッドとの間に気配を感じた。そちらに目をやると、Aのベッドとの間に誰かが
背を向けて立っている。子供くらいの背丈で全身は真っ黒、影をうんと濃くしたような雰囲気だったそうだ。
影は何かを呟いていた。けれど声が小さくて内容は聞こえない。Aは怖くなり慌てて布団を被った。
その日から影は毎晩現れた。そのたびに隣のベッドの枕元に立ち、何かをブツブツ呟く続ける。昼間の様子では
隣のベッドの患者が影の存在に気付いていないらしい。特に害がないものかもしれないと思うことにしたという。
しかし七日目の夜、隣のベッドの患者が急変し、そのまま亡くなってしまった。死ぬような病気ではなく、手術も
成功したと聞いていたのに。
Aは翌日、見舞いに来た祖父にその話をした。祖父は難しい顔で聞いていたが 『明日、また来る』 と行って帰った。
そしてその夜、影はAの枕元に立った。枕元に立たれて初めて影の言葉を聞き取れた。
『コッチイイヨコッチイイヨコッチイイヨコッチイイヨコッチイイヨ・・・・』
影は延々とそう呟き続けた。怖くて怖くて震えていたら朝になっていたそうだ。
翌日、祖父が約束通り来た。そして石を一個Aに渡した。祖父が『鬼石』と呼んで、長年玄関に飾っていたものだ。
鬼石は掌に載る大きさで、二か所 角のような突起がある。
Aは祖父の言いつけ通り、その晩、鬼石を枕元に置いて寝た。
その夜も影は現れたが、影が呟き始めると不意に野太い男の怒鳴り声が響いた。
『やかましい!』
途端、影はさっと溶けるように消えた。Aもびっくりした。声が鬼石から聞こえたからだ。
翌日、祖父にその話をすると、『鬼に勝てるものはそういないからな』 と笑った。
実話怪談 樹海村

SOO
​​​ 実話怪談 樹海村 SOO他 竹書房文庫
「慰め」
私の母は、いわゆる樹海パトロールのボランティアに参加していた。
昔から肝っ玉の太い人で、それ以上に情けに厚い人だった。
ある年の年末に近い日だったそうだ。この時期は、特に自殺を目的とした来訪者が多くなる。
この日も母たちは一体の死体を発見し、ふたりの男女をそれぞれ保護した。
その帰り道のことである。母は木々の間をゆらゆらと歩く人影のようなものを見つけた。樹海は溶岩質の
地面の上を木の根が縄のように這っているため、慣れない人はふらふらとした歩みになるそうだ。
母は、もしやと思って目をこらした。案の定、それは若い女だった。
『あんた、どうしたの』
女の青白い顔は土で汚れ、半開きの口からはヒュウヒュウと息が漏れているだけだった。
『あったまるよ』 リュックサックから水筒を取り出し、紙コップへ暖かいお茶を入れて手渡した。
『ありがとう・・・』 女は蚊の鳴くような声でこう言うと紙コップを口へと運んだ。
母は女が飲み終えるのを待つと、女の手に自分の連絡先を書いた紙を握らせた。
『さあ、戻ろう。こんな暗いところにいちゃ駄目だよ』
母がそう言うと女は頷いた。しかし、水筒をしまうわずかな時間のうちに消えてしまった。紙コップも一緒に。
数日後、母の元に警察から連絡があった。樹海で見つかった死体が握っていたメモに連絡先が書いて
あったため、電話したということだった。母は慌てて警察へ向かった。死体は発見時、既に白骨化していたらしい。
母は女と遭遇した話をした。
『奥さんのお蔭で成仏したんでしょうね』
警官はそう言った。女の死体のそばには、どう考えても新しすぎる紙コップがひとつ、落ちていたという。
『あれが、後にも先にも幽霊を見た、ただ一度の体験だよ』 と母は笑っていた。
物忌異談

籠三蔵
現代雨月物語 物忌異談 籠三蔵 竹書房怪談文庫
「半額スーツ」
『ほら、何とか紳士服とか、よくある店。一着買うと二着目が半額になるヤツ。ええ、新品でしたよ。
だから呪いとか祟りとかは関係ないと思いますけど・・・・』
電子機器メーカーの営業職であるSさんは半額品ラックの中から二着目を探したが、体格の良い彼に合う
品はそのスーツだけだったそうである。
週明けのある日。ふと気が付くと、Sさんは半額スーツを着て会社に向かっていた。
(あれ? 何でこれ着ちゃったかな?)
あまり気にせず出社すると、朝一番に突然、上司から静岡への出張を言い渡された。首尾よく商談を纏め
東京に帰ろうとすると、名古屋でシステム障害があり、そちらへ向かって欲しいと連絡が入った。
エンジニアのSさんは機器の調整も行える。ホテルに泊まり、翌朝名古屋の顧客先へと向かってトラブル解消。
すると奈良県の顧客でもシステム障害が発生、その次は京都へプレゼンに向かって欲しいと連絡がはいる。
さすがに不穏な流れを感じ始めた。
だが、プレゼンで商談を纏めると上司は『明日は有休にするから、週末京都見物でもしてこい』と気を利かせてくれた。
勘ぐり過ぎだったかと、宿で缶ビールを傾けていると、その場所は実家の大阪からほど近いところだと気付いた。
明日にでも顔を出すか、と思っていたら携帯が鳴った。兄嫁からだった。
父親が倒れて、たった今病院へ搬送されたという。
慌ててタクシーで病院へ駆けつけると、父親は既に息を引き取っていた。 死因は脳梗塞。
『おまえ、その格好・・・』
泣き濡れた母親と兄夫婦が、怒ったような表情で彼を振り返った。
Sさんの着ていたそのスーツは、無機質でしっとりとした黒一色。
喪服と呼んでも過言ではなかった。
『そんな験の悪い服を着るからだと、母親からは滅茶苦茶怒られました。出先だったんで、そのままネクタイとベルトだけ
換えて葬儀に参列しましたが、誰もビジネススーツだと気付かなかったんですよ』
その不吉な半額スーツは、また誰かが亡くなっても困るという理由で、カバーを掛けてクローゼットの一番奥に押し込めて
あるそうだ。
現代雨月物語 物忌異談

籠三蔵
現代雨月物語 方違異談 籠三蔵 竹書房怪談文庫
「粉雪」
その年の正月明け、この町で幽霊が出そうな場所はないかと尋ねたら、漁港近くの飲み屋が良いとのことで
連れて行ってもらった。粉雪のちらつく、寒い晩だった。
なるほど、落ち着かない。テーブル席に着くと背後に妙な気配を感じる。

突然ドアが、バタン と音を立てて開いた。
店内の客の視線が一斉に集中する。開いたドアの外には、誰の姿もない。
暫くすると、再びドアは大きな音を立てて閉じた。
そんなことが二、三回続いて常連客がざわつき始めた。
『風だよ。風』
引き攣った顔のマスターがカウンターをもぐって出て来ると、ドライバーを片手にドアレバーをいじり始める。
だがよく見ていると、マスターはレバーの隙間にドライバーを差し込んだだけで、何の調整もしていない。
『ちょっと失礼、電話するところがありまして』
携帯電話を掛けるふりをして店の外に出ようとする。レバーを引くとストライカーはきちんと機能していた。
しかも、入る時には気付かなかったが、カラオケに対応するべく防音材を挟んだドアは分厚いもので
片手で開けるには可なりの力が必要だ。
店外に出ると、風が吹いていた様子は全く無かった。
方違異談 現代雨月物語

籠三蔵
方違異談 現代雨月物語 籠三蔵 竹書房怪談文庫
「スコップ」
千葉県にある、薬師堂の氏子総代・Mさんから聞いた話である。
Mさんが体調を崩して寝込んでいた時のこと。
病院へ行っての診断結果は、顔の下組織の眼底と鼻骨の隔膜が切れて内出血し、膿んでしまった。
薬で散らす処方を受けたのだが、その膿が血管を経由して脳に回れば命に関わるとのこと。
微熱と痛みに魘されていると、夢の中にふあぁあんとお薬師様の厨子が現れ、中からお薬師様と
日光・月光の二仏がお見えになった。
薬師如来はその名の通り、東方浄瑠璃世界の教主といわれ、十二の大願を発し、天上の瑠璃光を以て
衆生の病苦を救うとされた仏様だ。
(ああ、助かった。お薬師様が来てくださった・・・・)
夢の中で合掌しながら、Mさんは如来様に 『この痛みと苦しみを、早く何とかしてください」と願い出た。
『申し訳けありません。実は私、両手が使えないのです。だから、あなた様の御面倒は看れないのです』
如来様の返答は、こうのような意外なものだった。
Mさんは、ちょっと声を荒げて 『ちょっとあんた、仮にもお薬師様でしょ? 病気を治す仏様でしょ?
お薬師様がそんなんで、一体どうしろって言うんですか!』
『そう申されては私も困りますので、仕方ありません。脇侍の日光・月光にあなたの面倒を視させましょう』
すると、左右の蓮の上に鎮座していた両菩薩が何かを手にして、ずんずんとMさんの元に近寄って来る。
よく見ると、ふたりの菩薩が手にしているのは≪スコップ≫だ。
(え? なにそれ?)
仰天するMさんを尻目に、日光・月光の菩薩が柔和な笑みを湛えながら、それぞれのスコップを大きく
振り被った・・・・・ (ち、ちょっと待って!!)

翌朝、Mさんが目覚めると、顔面の痛みは退いて熱も下がり、目の底にあった大量の膿は無くなっていた
そうである。
弔い怪談 葬歌

しのはら史絵
弔い怪談 葬歌 しのはら史絵 竹書房怪談文庫
「感情移入」
新聞奨学金制度を使い、大学を卒業した富山さんの話である。
朝夕の新聞配達をしながら大学に通っていた富山さんは多忙を極めていた。
朝は二時台に起きて販売所に行き、大量の新聞をバイクに積んで配り回るのだ。
配達場所の一つに五階建てのマンションがあった。
エレベーターがない上に、各部屋のドアポストに新聞を入れなくてはいけない場所だった。
はじめは苦痛でしかなかったが、いつの頃からか髪の長い可愛い女性が入り口付近に佇むように
なっていた。来るにも、来る日も悲しい表情で玄関の外から中を見つめていた。
大雨注意報が出ていた、ある日のこと、彼女はびしょ濡れになりながらも誰かを待っていた。
『こんな日にもあんな可愛い娘を待たせるなんて・・・・』
無性に腹が立った富山さんは、まず彼女にタオルを手渡そうと 『あの』 と話しかけた。
するとその女性は、ゆっくりと振り向いた。
『あなた、私のこと視えるの?』
思いがけない言葉に、富山さんは戸惑った。
『視えるなら、あれ、はがしてきて』
彼女が指さす方を見ると、壁にお札が貼られていたという。
『あれ、はがさないと、入れないの』 と話す彼女の両目はだんだん外側に寄って来ていた。
富山さんは、全速力で逃げ出したという。
憑依怪談 無縁仏

いたこ28号
憑依怪談 無縁仏 いたこ28号 竹書房怪談文庫
「新幹線奇談」
長谷川は東京駅で買ったお弁当を食べ終わり、車窓の景色を見ていた。
ふと見ると、三列前の座席の上から覘く男性の頭が奇妙なのだ。
禿げ上がった後頭部の上部半分が見えているのだが、品川駅を出たときよりも大きくなっている。
前列二列目の男性の後頭部と見比べても三倍以上あるのだ。
撮影しようとスマホを向けた。
半分しか見えていなかった後頭部がゆっくりと動いた。
長谷川はヤバイとスマホを隠そうとするが、金縛りになったように体が全く動かない。
頭はゆっくりと後ろを向こうと動いている。
顔を見たくない!
しかし体は凍りついたように固まっている。
一列目を二列目の乗客は、なぜこの異常な状態に気付かないのか?
彼らには見えていないのか?
頭は完全に後ろを振り向いたが、額より上の部分しか見えていない・・・・
やがて、大きな目と鼻が現れた・・・・

長谷川はそこから後の記憶がないという。
名古屋駅に到着する車内アナウンスでハッと我に返った。
慌てて席から立ち上がり、巨大な頭の主が座っていた座席に駆け寄る。
・・・・誰もいない・・・・テーブルの上に瀬戸物の湯のみが置かれただけだった。
終点の新大阪に着いても席に戻って来る者はいなかった。

神薫

神薫
怨念怪談 葬難 神薫 竹書房文庫
「モテる」
素晴らしい美人が付き合ってほしいと言って来る。
承知すると、女の右手がぽたりと落ちる。
間を置かず左手も落ちる。
ふるいつきたくなるような、こぼれんばかりの乳房もずるい、ずるりと落ちる。
すらりとした左足がごろりと身体を離れる。
手足の無い薄い体でうねうねと這ってくる姿は、まるで蛇だ。

そんな夢を五日連続で見た翌朝、仕事が休みだったので洗車でもしようと車を見ると
タイヤとタイヤハウスの間におつまみの鱈のような長い物が挟まっている。
引き出してみるとバリバリ剥がれるそれは、轢かれて日にちが経ち、平べったく乾いた
白蛇の死骸だった。
自分の知らないうちに白蛇を轢いていたのだ。
白蛇は神の使いだといわれているのを思い出し、庭に穴を掘って丁寧に埋めてやった。
埋葬してからというもの、ぱたりとあの夢を見なくなった。

丸山政也

丸山政也
エモ怖 丸山政也 松村進吉 鳴崎朝寝 竹書房怪談文庫
「おんぶ」 丸山政也
八十代の女性Nさんの話である。
七十年ほど前のこと、Nさんがお使いに出た時の帰りに町の目抜き通りを歩いていると
近所の小さな男の子が泣きながら蹲っていた。
どうしたのかと思ってわけを尋ねると、お腹が痛くて歩けないという。
心配なのでNさんは腰をかがめて男の子をおんぶした。その子の両親の元へ送り届けて
あげようと思ったのである。
二百メートルほど歩いた頃、話しかけても返答がないので、気になって首を後ろに向けて
みると、どうしたことか、おんぶしている感覚はあるのに男の子の姿がない。
いったいどうなっているのか、あの子はどこへ行ってしまったのか、必死に周囲を探すが
見当たらない。
不思議なのは、背負っているぬくもりがまだはっきりと背中に残っていることだった。
その足で男の子の家に行ってみると、子どもの母親が出てきて
『息子が今日、腸チフスで死にました』 泣きはらした顔でそういった。
驚きのあまり家を訪れた事情も話せず、Nさんは帰宅したそうである。
その日以降、絶えず男の子をおんぶしている感覚があったが、結婚して子どもを授かると
それもなくなったという。

高野真
東北巡霊 怪の細道 高田公太 高野真 竹書房怪談文庫
「boy meets girl」 高野真
麻生さんが大学生の時に体験した話である。
朝7時半。試験監督のアルバイトのため、麻生さんは仙台市内へ向かっていた。
国道4号線、岩沼付近。片側2車線の幹線道路である。
麻生さんが運転するミラージュの右側を大型トラックが並走する。
その後輪に、腹ばいになり、腕を両側にだらんと垂らした女が巻きついている。
タイヤは高速回転しているというのに、女はそのまま回転もせずに平然としている。
車高の関係で、麻生さんの目線のすぐ脇に長い黒髪をたなびかせた女がいる。
何だこれ。
気味が悪くて仕方ないが、どうにも目を逸らすことができない。
そのとき・・・・
それまで髪しか見せていなかった頭が 『ぐぐぐ』 と動いた。
女がこちらを向いた。目が、合った。
ひっ・・・・・! 顔を引きつらせた麻生さんを見て、女はにこっと笑った。
ものすごく可愛かった。恋をしてしまいそうなくらいに。

幽木武彦
算命学怪談 占い師の怖い話 幽木武彦 竹書房怪談文庫
「峠の出来事」
高木さんが起こしたバイク事故でのこと。
『スピードの出し過ぎだったんだよね。カーブを曲がり切れなくて、対向車のトラックとバーン!
救急車にかつぎこまれたんだけど ”俺、死ぬかもな” ってマジで思いましたよ』
意識が朦朧とした中で、処置室だったのではないかと言う。
大勢の医者や看護師が、さかんに何事かを叫びながら、高木さんの視界に出たり入ったりした。
『救急患者ってのはこんなに大勢で診るものなのかって、他人事みたいに見ていました』
やがて、事故の知らせを受け、家族が駆けつけて来た。
泣きながら自分の名を呼ぶ母親の声を、ぼんやりとしびれた頭で聞いていた。
医者たちの数は、ますます増えた。
医者だけで、七、八人はいる。
みな、ヒソヒソ話で 『今夜が峠だ。だな、峠だ。死ぬかもしれない。うん、死ぬかもな』と話す。
高木さんは ”全部聞こえているよ” と思いながら彼らのデリカシーの無さに呆れ、憤慨していた。
しかし幸運にも一命を取り留めた。
話ができるまで回復すると、多くの医者から好き放題言われたことを母親にぶちまけた。
すると、母親は怪訝そうに 『お医者さんは二人くらいしかいなかったはずよ』

思い返してみると、次々と高木さんの顔を覗き込む医者の中で真剣な顔つきで覗く医者は一部
だけだった。あとの連中は、どいつもこいつもなんだかとても嬉しそう。あからさまに笑っている
奴もいたという。
もう少しで、彼らの世界に行くところだったんだ・・・・背筋に鳥肌が立った。

怪奇な図書室 ごまだんご りっきぃ TOMO編 竹書房怪談文庫
「ラブホテル」
元彼女に聞いた話。
あるラブホテルに泊まった日のこと。
事を終え、眠りについた深夜二時頃。
突然、部屋の扉が開き、老婆が入ってきた。
老婆は、玄関付近にあるトイレやお風呂のあたりで何かを探しているようであったが
数分して、静かにいなくなった。
彼氏と固まって声も出せずにいたが、次第に腹がたってきてフロントに連絡した。
『おたくの掃除のババアが部屋に入ってきたんやけど、どーなってる?』
と言うと
『申し訳ございません。お代は結構ですので・・・・』
という話になった。思えば、入ってきた音も出て行った音もしなかったという。

春南灯
北霊怪談 ウェンルパロ 春南灯 竹書房怪談文庫
「熱い場所」
根本さんの自宅近くには不思議な場所があるという。
地元の人間か釣り人しか通らない、その旧道は、ある場所に差し掛かると身体が燃えるように
熱くなるそうだ。
空き地に接した、ほんの十メートルほどの間ではあるが、通るときは居ても立ってもいられない
ほどで、通る時は大急ぎで通過している。

『至近距離で焚火にあぶられているような感覚なんです。本当に、異常なほど熱くて』

その空き地には家屋の基礎部分と思しきコンクリートが、自然に浸食されながら残っている。
何か曰くがあるのではと郷土史を調べたが、手がかりとなるものは無かった。

『田舎ですからね、私は嫁いできた余所者ですし。ご近所の目があるから滅多な事は聞けないん
ですよ。一度、夫に訊いたことがあるんですけどね、場所を言っただけで物凄い剣幕で怒鳴られて』

今でも通るたびに焼かれているような熱さを感じるそうだ。 

さたなきあ

さたなきあ
純粋怪談 惨事現場異話 さたなきあ 竹書房怪談文庫
因縁も情念も介在しない怪との遭遇。
遭えば、やられる・・・・・そんな単純だがいちばん恐ろしい、明日のあなたにも起こりうる
恐怖を選りすぐった実録怪奇集。
ネットオークションで落札した冷蔵庫は時折ドアが開いてしまう。おまけに中から妙な音が
聞こえてきて・・・・『冷蔵庫が開く』
雑居ビルに取り付けられた不自然な外付け階段。見ているうちになぜか登りたくなって
しまい・・・・『外付け階段』
内向的な娘が突然明るくなった。初めてできた友達と頻繁に遊ぶようになってからだというが
その友達の正体とは・・・・『カナちゃん』
他、戦慄の18話を収録。日常から異界への扉が開く!

響洋平
地下怪談 忌影 響洋平 竹書房怪談文庫
「隅にいる女」
そのクラブで私はDJを終えると、バーカウンターの端でビールを飲んでいた。
隣にいた女性DJのIさんと話をしていると、彼女がこんな話をし始めた。
『響さん、怪談好きでしたよね? 実はこのクラブ、女の幽霊がいるんですよ。ほら、あそこのフロアの隅。
でも、きっと悪い幽霊ではないと思うんですよね。DJが良いプレイをすると、嬉しそうに体を動かして
踊っているんですよ。音楽が好きなんでしょうね。でも、DJがいまいちだと、つまらなそうにフロアの隅に
立っているんです』
『見えるの?』
私が尋ねると、彼女は小さく頷いた。
音楽のある場所や、飲食店には、少しくらい幽霊がいた方が繁盛するという話を聞いたことがある。
私はどうしても気になったことを彼女に訊ねた。
『僕がDJしてた時、その女の幽霊はどうしてた?』
Iさんはニコリと微笑んで言った。
『響さんんを見ながら、DJブースの傍らで楽しそうに踊っていましたよ』
私は、ホッとして胸を撫で下ろした。

三雲央
心霊目撃談 現 三雲央 竹書房文庫
「契機」
土生さんがオカルトに興味を持つきっかけとなった事件。
それは年が明けて間もない夜十一時ころのこと、寝る前に門扉の確認をしよと褞袍を羽織って
外にでた。すると、いつもは闇に沈んでいる雑木林が、わずかに明るんでいることに気付いた。
その理由が気にかかり、雑木林へと向かった。
歩いていると物が焼け焦げる臭いがしてきた。
これは火事だ、と思った土生さんは雑木林を一気に駆け抜けた。
燃えていたのは、木造二階建て、山田さんという方が暮らしている家だった。
既に炎は家全体を覆っており、、とても手を付けられる状態ではなかった。
すると、燃えている家の玄関の引き戸が音を立てて開き、そこから幼児が一人、炎に包まれた
状態で飛び出してきた。
よたよたとした足取りで、七歩、八歩、こちらに向かいかけたところで力尽き、膝を突いて
前のめりに地面に倒れこんだ。
これは大変だと、土生さんは羽織っていた褞袍を脱ぎながら、その幼児の元へ駆け寄った。
そして未だ勢いよく燃えている炎を消す為に、褞袍で幼児の半身を覆った。
褞袍を通して、幼児の身体の感触が土生さんの手に伝わってくる。
だがその感触は、ほんの一瞬で消え去った。妙に感じて褞袍を開き、中を見ると、子どもの姿はなく
あるのは真っ黒に焼け焦げた長さ六十センチの足らずの細い木材だった。

ひぐらしカンナ
とんでも不思議Watcher1 ひぐらしカンナ 竹書房

ひぐらしカンナ
心霊相談 ひぐらしカンナ 竹書房
存命の犬がご主人を事故から助けた話

鳴崎朝寝
宵口怪談 無明 鳴崎朝寝  竹書房文庫
「つけっぱなし」
八代さんが残業を終えて深夜に自室に帰ると、真っ暗な部屋でテレビが点きっぱなしになっていた。
(点けっぱなしで出ちゃったかな)
テレビでは外国の女性が歌っていたので、歌番組だろう。
バラエティのセットで、言語は英語ではないようだ。
声を震わせるような歌い方と、どこかの民族衣装。
『いつもテレビは録画したものばかり見ていたので、夜中はこんな番組をやっていたんだと思った
だけなんですけどね』
テレビの電源を切る。
視界の隅で電源ランプが赤から緑になり、プツンという音とともにありふれたバラエティ番組が・・・・
点いた。
『えっ?』 思わず声が出た。
『その日はテレビを消せなかったんです』
もう一度、その歌番組になったらどうしようと思うと眠れないまま朝を迎えた。
思い返してみれば、前日の夜中はテレビを見たものの、朝には点いていなかった。
それが映ったのはその日一度だけ。
女性にも、その歌にも全く心当たりがないという。


黒木あるじ

黒木あるじ
怪談実話 傑作選 弔 黒木あるじ 竹書房文庫
黒木あるじ初のベスト傑作選。厳選された59編と書き下ろし6編を収録。
「網目」
T君には腑に落ちない記憶がある。
『今から二十年以上前、小学四年生か五年生だった夏休みに、家族で湖畔へキャンプに行ったんだ。
テント張って一泊。二日目はサイクリングって予定でね。ところが、二日目の早朝、父親に起こされて
そのまま車で帰宅したんだ』
帰宅すると、父親とは普段は行かない映画館へ連れて行かれたそう。
その後、キャンプの二日目に帰宅した理由は聞けずじまいになっていたそうだが、昨年の大みそかに
父親から聞けたとのこと。
それは、一日目の夜に行ったバーベキューで使用した網だった。
近所のホームセンターで買った網を使ってバーベキューをした。網は綺麗に洗い、竈の上に置いたそう。
翌朝、乾いたろうから車に載せておこうと網を見ると・・・・目が細かい・・・・
よく見ると何十本もの髪が、網目を埋めるように、きれいな十字に結ばれていた。
『あの日、キャンプ場には俺たち家族しかいなかった。もし誰か来たとしても物音で気付かないはずはない。
第一、あれだけ真っ暗な中で網目全てに、あれだけきっちりと髪を結うなんて・・・・普通の人間にはできない』
『俺もちょっとパニックになっていたが、ひとつだけ直感したんだ。これは ”警告”。だから、すぐに帰った
んだよ。これ、お母さんは知らないからな。教えるなよ』

牛抱せん夏
現代怪談 地獄めぐり 羅刹 響洋平 村上ロック シークエンスはやと 徳光正行 竹書房怪談文庫
「ドライバー」 牛抱せん夏
トラック運転手の男性の体験談である。
ある夏の夜、荷物を積み込んで東北の目的地に向かった。
途中、空気の入れ替えをしようと窓を開ける。ふとサイドミラーに目をやると、荷台のシートが
風にあおられパタパタとなびいているのが見えた。
それが・・・・・・何か変だ。
シートは青色なのだが、ミラーに映るものは黒い。
不思議に思い目をこらすと、それはシートではなく黒髪だった。
車体の横に全身真っ黒な女が張り付き、運転席のすぐそばまできていた。
思わず悲鳴をあげたと同時に、開けた窓からのぞき込む女に手首をつかまれた。
急ブレーキをかけて振り払う。
幸い後続車はなかった。
車を道の端に寄せ、荷台や周辺を探したが、黒い女の姿はどこにもなかった。
届け先に到着して右手首を確認すると、爪の痕がくっきりと残っていた。

伊計翼

伊計翼
現代怪談 地獄めぐり 無間 伊計翼 深津さくら いたこ28号 響洋平 ありがとう・ぁみ 竹書房文庫
「骨壺2」 伊計翼
タクシーに乗った時のこと。
『運転手さん、どんなお客が迷惑ですか?』
『う~ん、酔っ払いは迷惑だけど、こっちも慣れてるからねえ。一番迷惑なのは、壺を置いて
いく人ですね』
遠い親戚や身寄りのない者の骨を預かることになった人が、面倒くさくなったのか、捨てるつまりか
わざと骨壺を忘れていくことがあるという。
実に罰当たりなことだと思うが、そのタクシーの運転手は続けた。
『信号待ちのとき、振り返って調べたら運転席の真後ろに骨壺があるんだもの』
『酷いことをする人がいますね。びっくりしたでしょ?』
『いや、私は ”やっぱりか” と思いましたよ』
実は、真後ろの後部座席から、ずっと男のすすり泣く声が聞こえていたという。
『見つけた途端に、 これか! って思いましたよ。世の中恐ろしいもので、私どもの営業所の
忘れ物置き場にはけっこう骨壺があるんですよ』

その忘れ物置き場でも、ときおり泣き声が聞こえることがあり、事務員が怖がっているそうだ。

内藤駆
​​ 現代怪談 地獄めぐり 内藤駆 西浦和也ほか 竹書房文庫
「手」 内藤駆
伊達さんはある夜、四歳になる息子の達樹君と二人でベッドで寝ていた。
奥さんは生まれたばかりの下の子と里帰りしていた。
なかなか寝ない達樹君に伊達さんはイライラしていた。
『達樹、早く寝ないとこのカーテンを開けるぞ。窓の外にはオバケがいるんだぞ』
伊達さんは、そう言って枕元にある窓のカーテンを開けるふりをした。
『ウソだ。オバケなんていないよ』
達樹君は強がって言ったが、窓の外に広がる闇の世界を見るだけでも怖いはずだ。
『よし、開けてやる』
伊達さんは怒って勢いよくカーテンを開けた。
窓には手のひらがふたつ張り付いていた。
伊達さんは呆然となった。
達樹君は大声で泣き出した。
窓越しに夜空を見ると、はるか上空に浮かぶ雲から恐ろしく長い腕が伸びて来ていて
伊達さんの家の窓に掌を押し付けていたのだ。
結局、その夜は近所の兄の家に親子共々泊めてもらうことになった。

戸神重明

戸神重明
怪談標本箱 雨鬼 戸神重明 竹書房文庫
「ドライバーG氏 三十七歳、男性」
『山沿いの道路を走っていたときのことです。真っ暗な夜道に狸が飛び出してきたんです。
小さかったから子狸でしょう。距離がまだ離れていたので、僕は慌てることなくブレーキペダルを
軽く踏みました。ところが、その後ろから現れたものを見て、ぎょっとしました。
人間の二本足がヘッドライトの光の中に浮かび上がったからです。それは太腿まである
ごっつい男の足でした。ズボンを穿いていなくて裸足でした。
狸はジグザグに路上を逃げ回っていて、二本足はそれを追いかけていました。
僕が運転する車が近づくと、どちらも道路を横切って暗闇に姿を消しました。
そんなもんでも、田舎の夜道で出会うと、気味が悪くてねえ、鼾をかいて眠っているお客さんを
うらやましく思ったもんですよ。』

戸神重明

戸神重明
怪談標本箱 生霊ノ左 戸神重明 竹書房文庫
「あとがき」
某デパートの四階にある女子トイレでのこと。そこは手洗い場に手を出すと、センサーが反応して
自動で水が出るのだが、誰もいないのに水が流れ出ることがよく起きていた。
そのため(お化けが出るトイレ)と噂されていたという。
ある日、女子高生の理奈さんは、学校で怪談好きのクラスメイト二人から誘われた。
『あんたなら見えるんじゃない?どんなお化けがいるのか、見て教えてよ』
『いいよ。見えるかどうか、わからないけどね』
理奈さんは、過去に見た霊に怖さを感じていなかったので軽い気持ちで承諾した。
放課後、そのデパートに行ってみると、四階のトイレは通路の奥にあった。
理奈さんがトイレに入ると、誰もいない手洗い場から水が流れ出ている。
それも何者かが手を洗っているかのように、蛇口から出た水が四散していた。
『あ、いるみたいよ、お化け』
『ほんとだ、ねえ、姿が見える?』 仲間が笑顔でささやく。
何もいないわよ・・・・と答えようとした理奈さんは、息を呑んで立ちつくした。
手洗い場の前に忽然と、セーラー服を着た娘の姿が浮かび上がってきたのである。
脳天が割れて、赤黒い鮮血が滴り、長い黒髪や衣服に広がっている。
娘の顔は、理奈さんと瓜二つ。死人のような白く濁った目を鏡に向け、半ば呆然と血まみれの
手を洗い続けていた。
理奈さんは悲鳴を上げることすらできないまま、腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。
それ以来、そのデパートに行けなくなったという。
北怪導 蝦夷忌譚

服部義史
北怪導 蝦夷忌譚 服部義史 竹書房怪談文庫
「彼女がいるとき」
ある日のこと、彼女が遊びに来て一緒にレンタルビデオを見ていた。
夕方になると、食事の支度を始めてくれた。
『もう少しでできるからね!』
『おう』
少しの間を置き、今のうちにトイレに行っておこうと思った。
ドアノブを握ると鍵が掛かっている。
(もう、早く出てくれよ。美紀・・・・)
急がすようにノックをすると、中からノックが返ってきた。
『そろそろヤバイから、美紀早く出て!』
『何が早く出てって?』
彼の背後に美紀さんが立っていた。
(え? あれ?)
ドアノブを回すと、トイレのドアは普通に開いた。

ノックが返って来るのは、いつも美紀さんが来ているときらしい。

服部義史
恐怖実話 北怪道 服部義史 竹書房文庫
「E別の古民家」
E別のとある道から少し外れると、ぽつりと建つ打ち捨てられたような家がある。
その日、津高さんはE別の古民家に二十三時に到着していた。
現地で仲間と待ち合わせをしたのだが、約束の二十四時になっても誰も来ない。
たった一人で中に入ることにした。
玄関の引き戸は、外からつっかえ棒をしているだけなので簡単に開いた。
土間が広く、目の前は居間のようで、茶箪笥や卓袱台がそのまま残されている。
津高さんは廃墟の定番の仏間を探し始めた。
居間から続く渡り廊下の一番奥が仏間であった。
次は風呂場でも探すか。と、仏間から出よとしたそのとき・・・・
後ろ髪を グンと引っ張られた。振り向くが誰もいない。
次は両肩を思いっきり引っ張られ、尻もちをつくことに・・・・
霊感など持ち合わせていない津高さんだが、これはヤバイと感じて突破を試みた。
勢いよく出した足を固定された形で前に倒れ、顔面を強打した。
見れば、津高さんの足を抑えつけたのは畳から生えた腕であった。
恐怖より危険を感じて、腕が足を離すタイミングで出口に向かって走り出した。
すると、卓袱台に座る老人の姿が目に入り、振り返る老人と目があった瞬間、意識が飛ぶ。
『ゆるさん・・・・ゆるさん・・・・許さん』 頭の中に老人の声が響き渡る。
 (ごめんなさい、ごめんなさい) 
立ち上がった老人は右手人差し指を伸ばし、津高さんの額に触れた・・・・
・・・・津高さんは車を走らせていた。運転していることはわかるが、自分の意思はそこにない。
どんどん加速し、ハンドルが揺れるのがわかる。そのまま電柱に激突し、記憶が途絶える。
一時は心肺停止の大事故で、長い入院生活の末、社会復帰したが右足は不自由になった。
それから心霊スポット巡りは止めた。 現在は、日常の有難みを痛感しているという。


104(とし)
禁足怪談 野晒し村 104(トシ) 湧田束 三石メガネ 三塚章 竹書房文庫
「讐愕旅行」 104(トシ)
これは、私104が高等専修学校時代に体験した恐怖実話である。
今は無き母校を一言で表すなら『最悪』に尽きる。
その修学旅行でのこと。
場所は韓国。バスに乗ること数時間。人里から遠く離れた場所に、その建物は存在していた。
壁を這うように巻きつく蔦、割られたままの窓ガラス。
生徒全員が不安に思うことは二つ。建物自体が左に傾いていることと、まさかこんな場所に
寝泊りさせるつもりじゃないよなという思い。
しかし教師達は、狭い駐車場に停められた数台のトラックを指さし『各自、布団と枕を部屋に運べ』と言う。
部屋に入ると、壁に弾痕と血痕・・・・
その後、全生徒が心霊体験をして、一行は建物からバスへ逃げ帰る。
次の日の宿が決まらず、生徒はまる一日自由行動。その時にたまたま遭遇したバスガイドに真実を聴く。
そして、夜食を買いに言ったはずの店も存在しておらず、買った品物は10年目に販売停止になっている物だった。

104(とし)
霊感書店員の恐怖実話 怨結び 104(トシ) 竹書房文庫
「初めての友達」
大学に入って一番最初に仲良くなった男の名は片瀬といった。
彼は時折、ひゅぅひゅぅと喉を鳴らすことがあったし、苦しそうにすることもあった。
『大学に入ってから、どうも調子がおかしいんだよ。喘息にでもなったのかもしれない』
ある日、片瀬のアパートで遊ぶことになった。
築三十年は経過しているであろう建物から感じるものは不気味さだけだった。
結局、その日は片瀬のアパートに泊まることになった。
『おやすみ』 と言って布団に入る、睡魔がやってきた・・・・と
ぴしり、と身体に電気が走ったような感覚がしたかと思うと体が動かない。
金縛りになったが、目だけは動かせたので横を見ると、片瀬の上に女がいた。
女は片瀬の首を絞めている・・・・片瀬からは ひゅぅひゅぅ という声が漏れている。
(喘息・・・・なんかじゃなかったのか・・・・) 背筋が震えるのがわかった。
すると女は、片瀬から手を離すと、ゆっくりとこちらへ向かってきた・・・・
(やばいやばいやばい・・・・自分は殺される!)と思った時、意識が途切れ、目覚めると
明るくなっていた。
昨晩のことが現実なのか、夢なのか・・・・と考えていると、片瀬の首筋に目が留まった。
片瀬の首筋は、激しく締め付けられた後のように真っ赤になっていた。


鈴木呂亜
​​ 恐怖実話 都怪ノ奇録 鈴木呂亜 竹書房文庫
こんな噂を、あなたは知っているだろうか・・・・・
その村では奇妙な村内放送が行われる時がある 「防災放送」
線路に入った人間が消失する!? 「電車事件簿」
攫われた赤ん坊の使い方 「動かない赤ん坊」
火事でも焼け残る不吉な絵とは 「本当に怖い絵」
一日に二回遭遇すると襲われる! 「ハンマーさん」
人間の足ばかりが漂着する海辺の謎 「セイリッシュ事件」など50編を収録。
口承や噂話、いわゆる都市伝説、世界には奇妙奇天烈な逸話が溢れている。
好奇心に任せてその暗部を覗き見た者はやがて・・・・


菱井十拳
怨霊黙示録 九州一の怪談 菱井十拳談 竹書房文庫
大正4年 「福岡日日新聞」で連載された稀代の恐怖実話---------「九州一の怪談」
これは、戦国大名・宗像氏の跡目争いで側室側が正室側を惨殺した「山田事件」を端に
殺された6人の怨霊が巻き起こしていく壮絶な祟り話の記録である。
だが、この話にはまだ続きがあった・・・・
昭和、平成を経て、現在までに関係者300人以上が呪い殺されている日本最大級、かつ
現在進行形の怨霊譚。
その全貌がいま明らかに!!
世界遺産「神宿る島」 宗像・沖ノ島の知られざる裏歴史。
九州の戦国と怨霊が、いっちゃん怖かたい!!
吐気草

神沼三平太
実話怪談 吐気草 神沼三平太 竹書房文庫
「錆山」
雅子さんは夕飯を軽く摘まむと、神戸の街を出て六甲山の方に向けてハンドルを切った。
最近、むしゃくしゃすることが続いているので、車通りの少ない道を走りたかった。
だが、走り出して一時間で道を見失った。案内板をどこかで見落としたのだろうか。
街灯もなくなり、店はおろか信号も標識もない。
だらだらと続く一本道。Uターンしようにも、二車線では3ナンバーの車は切り返せない。
かと言って、もはやバックで戻れる距離でもない。
しばらく進むと急こう配の道になった。このまま行けば峠を越えられると思った。
そのとき、雅子さんの目に先行する光が入った。明らかに車のヘッドライトだ。
きっと、どこかの町に向かう地元民の車に違いない。このままついて行けばいい。
だが、5分経っても10分経っても追いつけなかった。
『・・・・もういいや』 雅子さんは車を停めた。
もう疲れた。このまま先行する車に引き回されて、どこかに辿り着ける保証はない。
怖い・・・・
恐ろしいと涙が出ると初めて知った。彼女は泣きながら、大声で歌を歌い続けた。
歌って歌って、歌い続けて車内で寝てしまった。
コンコン、コンコン。
誰かが何かを叩く音で目が覚めた。朝だ。
コンコンという音は、野良仕事の格好をした中年男性が、運転席側のサイドガラスを
叩いている音だった。
慌てて窓を下げると、男性は雅子さんに訊ねた。
『ここ、うちの土地やけど、あんた何しとん』
不法侵入を詫びて、正直に夕べ迷ったことを話した。すると、男性は眉間に皺を寄せた。
『おねえちゃん、ちょっと車降りてくれるか。見てもらいたいもんがあんねんけど』
何があるのだろうと車を降りると、男性は車の前方を指差した。
『ほれ、あっちな。道なんかあれへんやろ』
確かに、五メートルも歩いた先は崖になっていた。
『おねえちゃん。あんたごっつ運ええわ』
男性が崖の下も見てみろと言うので、恐る恐る覗き込んだ。目が眩む・・・
崖の下の木々の間には、錆びついた車が何台も積み重なっていた。その横には巨大な
トレーラーがねじれたように腹を見せている。
『ここなぁ。もう何台も落ちたんか知らん。ほん最近、あのトレーラーも落ちたんやで』
ヘリコプターの手配やらが大変で、いまだにトレーラーの遺体は未回収だという。
『迷い込んできた車で命があったんは、多分おねえちゃんだけやで。あのトレーラーも
あんたみたいに、連れて来られたんちゃうかな』

神沼三平太

神沼三平太
実話怪談 怖気草 神沼三平太 竹書房文庫
「水没」
震災の年、明代さんの母方のお墓が崩れた。連絡があったのは半年も後だった。
お墓は先祖代々のものだったが、現在墓守をするのは五十歳になった彼女だけ。
家から墓までは飛行機を利用しないと行けないため、現地の業者へ依頼。
施工担当者からの連絡で見積もりや工期の話をした。
その際、最近、身内を水の事故で亡くしてないかと聞かれたが、即座に否定した。
後日、施工担当者と墓地の管理をしているお寺の住職の立ち合いの元で、先祖供養をした。
また、可能な限り早急にお墓の復旧を行うように日程も組んだ。
明代さんは、お墓が崩れてからの半年間に、水の事故で立て続けに身内を亡くしていたことを
施工担当者に告げた。
弟が浴槽で溺死。妹二人も入浴中の急な心肺停止で、計三人が亡くなっている。
『あぁ、やはりそうでいらっしゃいましたか』
頭を垂れた担当者は、住職に聞かれないように、声を潜めてこう続けた。
『この墓地には、そういうお宅様が少なからずいらっしゃったものですから』

川奈まり子
実話奇譚 夜葬 川奈まり子 竹書房文庫
「白くて丸い」
五十八歳の主婦、鶴田美智子さんの話。
よく晴れた二月の昼下がり、自宅のリビングでネットサーフィンを楽しんでいたら、ふと視界の隅で
何かが動いた気がした。
咄嗟にそちらを振り向くと、ドアを開けっ放しにしていたリビングの戸口のところに、ひと抱えもある
白い煙の塊が浮いているのが見えた。
床から七、八十センチぐらいの高さを滑らかに水平移動して接近してくるところだったが、美智子さんが
目を向けた途端、ピタリと動きを止めた。
真っ白な綿飴にも似た球体で、よく見たら球の横軸の両端にあたるところから、煙が二本伸びている。
まるで腕のようだ。顔はないが、なんとなく行き物の気配を備えている。
発見から一、二秒後、それを構成している白い煙の濃度が低くなってきたことに気付いた。
空気に溶け込むように、みるみる薄れて一分ほどで消滅してしまった。

川奈まり子
実話奇譚 怨色 川奈まり子 竹書房文庫
「同業者へ」
事件は二〇一五年七月に起きた。大阪府堺市にあるラブホテルの一室で、男性客が連れの女性を刃物で
差し殺した後、部屋の戸口で首を吊って自殺した。ラブホテル従業員からの通報を受けて駆け付けた
大阪府警堺署は、現場や遺体の状況などから、無理心中の可能性があると示唆した・・・・・。

無店舗型性風俗店でキャストとして働く美希さんによれば、毎年七月になると惨劇の舞台となった件の
ラブホテルの出入口から線香の匂いが漂いだすのだとか。
事件の翌年から始まり、今年も七月は一ヶ月間ずっと匂っていたそうである。
しかし、この匂いは、美希さんたちキャストにしか感じられない。
そこで殺された女性というのは同業者だったのだという。
線香の匂いは、同業者に向けたメッセージなのだろうか。
そのラブホテルのエレベーターの中には、こんな張り紙があるとのこと。
≪4階をご利用のお客様へ 4階で止まらないことがあります。その際は5階で降りて、階段をお使いください≫
常連客の間では、四階でエレベーターが止まらないのは霊の仕業だと囁かれているそうだ。
四階で事件があったのは周知の事実だから無理からぬことだろう。

川奈まり子
実話奇譚 呪情 川奈まり子 竹書房文庫
「野辺山高原のお百姓」
これは、畠山さんが一九九二年に長野県南佐久郡南牧村の野辺山高原駅付近で出遭った怪異である。
オートバイで野辺山高原の辺りを走っていたら、五十メートルくらい先の道の端に何か大きな道具を
肩に担いだ人が出てきた。
近くでよく見れば、人物は中年の男性で肩に担いでいるのは現代では見かけない鋤のようだが
なんと言っても大きな違和感は、みすぼらしい着物を尻っぱしょりにして、ちょんまげを結っていたことだ。
そして股引を穿いた下の足は、向こうの景色が透けて見えていた。
呆気に取られて見ていると、こちらには一瞥も寄越さず悠々と前を横切っていった。
道を渡り終えると、男の姿は道端の藪に吸い込まれるように消えてしまった。

川奈まり子
実話怪談 穢死 川奈まり子 竹書房文庫
「逆さ女」
都内有数の心霊スポット《千駄ヶ谷トンネル》の近くのビルで《逆さ女》を見たという佐藤菜々さん。
『このビルの地下に下りていく階段で見たんです』
二年前のある日。会社からの帰りに、知らない番号からスマホに着信があった。
会社からかもしれないと電話に出ると・・・
くぐもった上にかすれた女性の声で『わすれもの』 『とりにきて』 と言って切れた。
たまたま、会社の近くだったので戻ることにした。
いつも夜間は施錠されている防火扉が開いている。
『こっちこっち。わすれもの。とりにきて』 さっきの電話の声が聞こえてきた。
扉に近づき、中を覗き込もうとしたそのとき、顔の真ん中に、いきなり逆さまになった女の顔が
下がってきた。
菜々さんは悲鳴を上げて後ずさりした・・・・
女は逆さまの顔のまま床に下りると、四つん這いになり、菜々さん目掛けて走って来た。
ビルを飛び出し、無我夢中で走った。
信号を2つ渡り終えたところで振り返ってみると、《逆さ女》がすごいスピードで四つん這いのまま
千駄ヶ谷トンネルの中へと消えていった。

丸山政也

丸山政也
恐怖実話 奇想怪談 丸山政也 竹書房文庫
「水たまり」
長く認知症を患っていた祖母が亡くなり、Jさんは通夜のため久方ぶりに父方の実家を訪れた。
煙草を吸おうと庭先に出ると、小さな水たまりに足を突っ込み、買ったばかりの革靴を汚してしまった。
ここのところ何日も雨が降っていなかったので、誰かがこの場所に水を捨てたのに違いない。
翌日も煙草を吸いに庭に出ると、再び水たまりに足を突っ込んでしまった。
昨日と同じ場所である。
前日のは、とっくに干上がっているはずなので、また今日になって誰かが水を捨てたのだろうか。
ちょうどその時、従兄弟が玄関から顔を出したので、水たまりのことを告げると
『ああ、祖母ちゃんボケとったでさ、よくそこんとこで尻出して小便しとったわ。
そうか、まだおるんやなぁ』
そう言われたという。

丸山政也

丸山政也
奇譚 百物語 鳥葬 丸山政也 竹書房怪談文庫
「シュークリーム」
主婦のN子さんの話である。
十年ほど前のある日、以前の職場の同僚が家に遊びに来たという。
手土産を渡されたが、見ると最近駅前にできたケーキ店の箱だった。
礼を言って開けてみると、美味しそうなパイ生地のシュークリームがぎっしり入っていた。
一つずつケーキ皿に取りだし、コーヒーを淹れて、昔のことを色々話しながら食べた。
二時間ほどいて同僚は帰っていったが、しばらくすると部活を終えた高校生の息子が帰ってきた。
おなかがへったといって冷蔵庫を開けると
『あ、これ駅前のケーキ屋のだよね。食べてもいいの?』
夕飯前なので、ふとつだけとN子さんは答えた。
箱を開けた息子が
『なにこれ、こんなの食べられないよ』
箱の中を見ると、残りのシュークリーム全てが手で握り潰したようにペシャンコになっていて
中のクリームが外に出ていた。
そんなはずはない。どうしたら、こんなふうになるのか・・・・。
すると、その日の夜、昼間遊びに来た同僚の夫から電話があった。
妻が帰宅途中に交通事故に遭い、つい先ほど病院で亡くなったと告げられたそうである。

丸山政也

丸山政也
奇譚 百物語 獄門 丸山政也 竹書房文庫
「走り高跳び」
Uさんは高校生の時、陸上部に所属していたが、グラウンドに走り高跳びのスタンドを設置すると
突然、見知らぬ男子生徒がそこに向けて走り出し、背面跳びでジャンプしたまま姿が消えてしまう
という現象がたびたび目撃されていたそうである。
男子生徒は緑色のTシャツを着ているそうだが、背中には聞いたこともない学校の名前がプリント
されていたという。

丸山政也

丸山政也
奇譚 百物語 死海 丸山政也 竹書房文庫
「プール」
Nさんが中学生の時、水泳の授業中に潜水で泳いでいると、自分のすぐ真下に白髪の老人が
眼を開けて仰向けに横たわっている。
驚きのあまりプールから飛び出したが、泳いでいたのは底すれすれ深さだったという。

後に、二十五年ほど前に同じ町内に住む高齢の男性が夜中にプールへ飛び込んで溺死した
出来事があったのを知った。
それは、今のプールが作られる前のことだったという。

丸山政也

丸山政也
奇譚 百物語 拾骨 丸山政也 竹書房文庫
「ダム湖」
三十年ほど前、ある土木会社の社長がダム建設現場で亡くなったという。
ダム湖に沈む予定の古い墓地の前で、地面に顔を突っ伏して死んでいたそうである。
心筋梗塞だった。
社長自らが現場に赴くことはなかったので、社員は皆不思議に思ったが、それ以上に不可解だったのは
発見されるまでの丸二日間、いなくなったことに誰も気づかなかったことだ。
その後の五年の間に、社長の妻が病死、長男が自殺、次男が交通事故死で会社も潰れたとのこと。

丸山政也

丸山政也
実話怪談 奇譚 百物語 丸山政也 竹書房文庫
「作家の死」
友人C君が信州・白馬の旅館に泊まったときのこと。
夜中に寝ていると、突然金縛りに遭った。どうやっても体が動かない。
それでも瞼だけは開けられた。周囲を見廻すと、文机にうつ伏せになっている人がいる。
男だ。
どうやら寝ているようである。丸くなった背中が見えるだけで、顔は見えない。
畳の上には、くしゃくしゃになった紙のようなものが散乱している。
なんだろう、これは・・・・・
そんなことを思いながらもC君は再び眠ってしまった。
翌朝起きると、畳の上に紙のようなものはない。もちろん、文机もなければ男もいない。
仲居に事情を話すと、番頭がやってきた。
はっきりと言わないが、過去に何かあったような素振りだった。
更に執拗に訊ねると・・・
以前、その部屋の宿泊客で自殺した者がいたという。ただし、部屋で死んだのではなかった。
近くの断崖から飛び降りたそうである。たしかに男は作家だったが、無名な詩人だったという。
拝み屋忘備録
怪談腹切り仏


郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋忘備録 怪談腹切り仏 郷内心瞳 竹書房怪談文庫
「もうひとり」
真夜中、のどの渇きに喘いで目が覚める。
ベッドを抜け出し、キッチンへと向かう。
水道の前では、パジャマ姿の自分がこちらに背を向け、黙って水を飲んでいる。

郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋備忘録 怪談 首なし御殿 郷内心瞳 竹書房文庫
「死してなお」
百恵さんが早朝、町内会の当番で近所のゴミ置き場に立った時のこと。
乳白色の朝霧が辺りにうっすら立ち込める、午前五時過ぎ。
今日は何分頃から人が来始めるのだろうと思いながら、目の前を横切る細い田舎道の向こうに
ぼんやり視線を向けていた時だった。
朝霧で薄白く霞む田舎道のはるか向こうに人影がひとつ、ぼんやり浮かんで現れた。
やがて朝霧の中から人影が抜け出し、仔細がはっきり見えてきた。
とたんに百恵さんは、ぎょっとなってしまった。
こちらに向かって走って来るのは、全身血まみれの中年男性。
よく見れば、男は三村さんという、かつて百恵さんの近所に暮らしていた男性だった。。
もう何年も前、朝のジョギングの最中、車に撥ねられて亡くなった。
百恵さんが竦みあがってその場に硬直し続けるなか、やがて血まみれの三村さんは
笑顔でこちらを一瞥し、ゴミ置き場の前を走り去っていった。
・・・・死んでもああやって、走り続けているのだろうか・・・・。
ゴミ置き場の前にへたりこみながら、百恵さんは思い惑ったそうである。

郷内心瞳

郷内心瞳
拝み屋備忘録 怪談 双子宿 郷内心瞳 竹書房文庫
「コーヒーカップ」
朝早く、目覚めとともに熱いコーヒーを淹れる。
寝ぼけまなこでカップの中を覗くと、見知らぬ女がこちらを見上げて笑っている。

小原猛
琉球奇譚 キリキザ・ワイの怪 小原猛 竹書房文庫
「ウチカビ」
沖縄では旧盆になると、先祖を家にお迎えして、おもてなしをしてから再びグソー(あの世)に送り返す。
その行事の最後の締めとして、その場にいる人全員が玄関先で、黄土色の紙で出来たあの世のお金
『ウチカビ』を燃やす。
新城家では、幸春オジイが年の初めに亡くなったばかりだったので、家族一同が玄関先に集まって
ウチカビを燃やした。
『あんたはもう、生きている時は女を作ったり、隠し子を作ったり、詐欺罪で同級生から訴えられたり
はー、もう大変だったさ。あんたよ、うちのお墓に入れたのは運が良かったと思いなさいよ』
鶴子オバアが憎々しげに言い放った。
『お母さん、言い過ぎだってば』と娘のまきこさんが言った。
『言い過ぎなんてことはないよ。あいつは本当に酷い男だったさ。あんな奴にウチカビなんてあげる
必要はないんだよ。あいつにはスーパーの広告を札束の形に切ったものを燃やせばいいんだよ』
そう言って鶴子オバアは、幸春オジイに上げる予定だったウチカビを三分の一に減らして火を点けた。
『これでは三途の川を渡る船賃さえ払えないかもね』 まきこさんが言った。
『三途の川で溺れたらいいさー』 そう言って鶴子オバアは笑った。
その時だった。残りのウチカビを持っていた孫のさおりちゃんの目の前に右手が突如現れて、残りの
ウチカビを掴むと、そのまま空間に引っ込んで消えた。
その場にいた子供たち全員が泣き始めた。
『オジイ、あんたはそこまで強欲なのかい。もう二度と新城家に顔を出すんじゃないよ』
部屋に戻った大人たちは、生前に強欲だった人は死んでも強欲なんだと話をしたとのこと。

牛抱せん夏
呪女怪談 牛抱せん夏 竹書房怪談文庫
「蚊帳」
長田さんのお祖父さんの話だ。
生まれつき心臓が弱かった。十代のころ、療養を兼ねて群馬のお寺にお世話になった。
寝床は、普段は客間として使用されている座敷に住職の奥様が布団を敷いてくれ
そこに蚊帳を吊ってくれた。
寺へ来て四日目のことだった。
真夜中、寝苦しさで目が覚めた。
吊った蚊帳の上に、若い女が腹ばいに張り付いていて、笑いながらこちらを見ている。
女は目が合うと、蚊帳を爪でカリカリとしだした。
思わず悲鳴を上げ、蚊帳をめくって外に出た。
悲鳴を聞きつけて住職と奥様が客間にやってきた。
今あったことを話すと、住職は血相を変えて本堂へ向かった。
そこには新仏が安置されていた。
婚約していた男性に捨てられた若い女性だそうだ。
『あなたに惚れてしまったのかもしれないが、厄介なことになった』
どう厄介なのかはわからないが、それ以上のことは聞けなかった。

牛抱せん夏
実話怪談 幽廓 牛抱せん夏 竹書房怪談文庫
「帰り道」
塾を終えた夏美さんは自転車に飛び乗ると、いつもの大通りとは別な裏道へと進んだ。
夜は人通りもなく寂しい道だが、ここを通ればかなりショートカットできる。
鼻歌を歌いながらペダルをこいでいく。住宅街に入り少し行くと十字路が見えてきた。
その時、ふと見ると右前方にカーブミラーがあり、左方向の坂道から自転車が勢いよく
下って来るのが映っていた。
肌着姿のおじいさんだ。かなりのスピードが出ている。
夏美さんはぶつからないよう、十字路の前で自転車を止めると、おじいさんが通り抜けるのを
待つことにした。
ところが、いくら待っても自転車は下って来ない。あれほどのスピードを出していれば一瞬で
通り過ぎるはずだ。
不思議に思い、おじいさんが走ってくる坂道の方へ首を伸ばして覗いてみた。
おじいさんの姿はない。
(おかしいな) と思ったときだった。
悪寒が走り、振り向くとカーブミラーいっぱいに先ほどのおじいさんの巨大な顔があり
満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

牛抱せん夏
実話怪談 呪紋 牛抱せん夏 竹書房文庫
「祖父の葬儀にて」
マサルさんが高校二年生の時、大好きだった祖父が亡くなった。
葬儀が終わり、親族一同がお茶を客間で飲んでいるときだった。
マサルさんの母親の一番上の姉が言い出した。
『黙っていようと思ったんだけど、白装束を着せているとき父さんの目が開いたのよ』
『あんたも見たの?私も見たわよ』
と、二番目の姉も言う。
それを聞いていたマサルさんの母親は、姉たちの顔を見回しながら
『そりゃそうよ。だって姉さんたち、白装束を着せながら父さんの悪口を言っていたんじゃない!
父さん怒ったのよ』
そう言って怒りながら部屋を出て行った、という話。

営業のK
闇塗怪談 戻レナイ恐怖 営業のK 竹書房文庫
「無銭飲食」
そのショットバーに行くのは初めてだった。
大学時代の友人に誘われて神戸で飲み、その流れで訪れた店だった。
その時に 『あること』 が気になってしまい、つい怪訝な顔になっていたかもしれない。
気付いたマスターが 『どうかしましたか?』 と声を掛けてくれたのでストレートに疑問をぶつけた。
『あの・・・・さっきから何人ものお客さんがお勘定しないで、黙って店を出ていくけど、いいんですか?
あれって無銭飲食なんじゃ・・・・それともただの常連?』
すると、マスターは少し笑いながら、こう言った。
『ああ、お客さんは見える人・・・・なんですね?
お金は一度も貰ったことがありませんから、確かに無銭飲食なのかもしれませんね。
でも、あの人たちは純粋にお酒が飲みたくて此処に来てくれているんですよ。死んだ後もお酒が
飲みたくなって、幾多の店の中からこの店を選んでくれた。私にはそれだけで十分なんですよ。
生前は色々と大変な人生を送られた方もいるんでしょう。ですけど、死んだ後はそういう重荷を
全て降ろしてしてね、純粋にお酒を楽しんでもらえたらなって思うんです。 それにあの人たちが
来てくれるから、この店の独特の雰囲気も保たれている・・・・・。ほんと、持ちつ持たれつ
なんですよ。そんな人たちからお代なんて頂戴できません』
微笑むマスターに、常連客らしい男性がこう付け加えた。
『そうそう、大切な飲み仲間なんだよな!だから、もしもお代が必要なら俺たちがちゃんと払うさ』
男性はそう言って、グラスのウイスキーを一気に飲み干した。
こんな素敵な店なら、是非また来たい!! そう思った夜だった。

営業のK
闇塗怪談 解ケナイ恐怖 営業のK 竹書房文庫
「知人の死因」
知人が死んだ。自殺だというが、信じていない。
彼は地元でかなりの名家に生まれ、多くの土地と多くの影響力をもっている。
一族が住む土地には≪まだら様≫という謎の言い伝えがあった。
もっとも、それを知っているのは彼の一族の人間に限られる。
≪まだら様≫の起源は江戸時代よりももっと古く、当時の実情と≪まだら様≫がどんな繋がりで
生まれたのか、俺には知る由もない。
しかし、どうやら彼はその真相に辿り着いてしまったらしい。それを知った時、彼はかなり悩んだという。
このまま闇に葬るか、それとも事実は事実として白日の下に晒すか。彼は悩んだ末、自らの一族の
闇を記事として発表する道を選んだ。
そしてあの日の夜、俺に電話をかけてきた。それは公衆電話からで、訝しみながら電話に出た。
『Kか? 突然、公衆電話からですまない。でも、これはお前の身を守る為でもあるんだ。こんな話
他の奴に話しても理解してくれないと思ってさ。でも、お前なら、不思議な事に首を突っ込んで
ばかりいるお前なら、少しは信じて貰えると思ってさ・・・・』
『もしかしてアレか? お前の親族の忌まわしい過去に関する話か?』
『ああ。あの≪まだら様≫に関してのことだ。あれはな、過去だけの話じゃなかったんだよ。今も
現在進行形で行われている呪いなんだ。そこから生み出されて一族の繁栄を護らされているモノが
現実に存在していたんだよ・・・・』
呪いと確かに彼は言った。
『初めてそれを知った時は自分の一族が行ってきた愚行に恐怖し、そのまま見なかったことにしようと
思った。過去だけの話なら、きっとそうしていたと思う。だが・・・・そんな呪いの儀式がいまも続けられて
いて、そこから≪まだら様≫が生まれ続けているんだと悟ってしまったからには、このまま闇に葬る
べきではないと決断した。もう、この件に関する記事は出版社に届けてある。だから、三か月もすれば
全てが明るみ出て、我が一族はそのまま社会から抹殺されるだろう・・・。いや、そうなってもらわないと
困る。ただ、何らかの力が働いて出版されなかったとしたら、きっと俺も生きてはいられないだろう。
だから、もしも俺が行方不明になったり変死したりすることがあれば、それは≪まだら様≫の呪いに
よって殺されたのだと思ってほしい』
・・・・・アレは証拠一つ残さず、簡単に命を奪える。
『だから、な・・・・そうなったとしても絶対に俺の死の真相を探ったりしないでくれ。俺はお前まで巻き
添えにはしたくないんだ』
・・・・・聞いてくれてありがとう・・・・・。
そう言って、彼は静かに電話を切った。

それが、彼が自殺する一週間ほど前の出来事だ。だから俺は、彼が自殺したのではないと断言する。

営業のK
闇塗怪談 営業のK 竹書房文庫
「看護師の怖い話」
子供の頃、ナースセンターに泊まり込んでいる母親の所へ、夜に兄と遊びに行ったときのこと。
宿直の看護婦さんは五人ほどいて、楽しくお話をしてくれたのであるが、その時に何度も
ナースセンターの窓口に訪れる女性がいた。
看護婦さん全員が素っ気なく対応していたのが、子供心にも理不尽に感じた。
『ねえ、なんでもっと親切にしてあげないの?』
疑問を率直に口に出すと、近くで作業をしていた母親が眉を下げて教えてくれた。
『あの人はもう死んじゃった人だから、あまり親切にすると逆効果なの。だから、そっとして
おけばいいのよ!』

小さいながら話す声はちゃんと聞こえたし、姿もはっきり見えた。
(あれが幽霊だったのか・・・・)
そう思うと、今になって少しぞっとする。


徳光正行

徳光正行
冥界恐怖譚 鳥肌 徳光正行 竹書房文庫
「恩人」
紀藤さん、幼い頃は病弱であったという。
掛かりつけの鹿野小児科医院の鹿野先生は、病弱で友達のできない紀藤さんの遊び相手に
なってくれたこともあり、自分の父親よりも懐いていた。
成長するに従い、体が丈夫になっていった紀藤さんだったが、鹿野先生を見かけたときは
必ず挨拶をして、近況を報告していた。
大学を卒業した後、地元を離れて就職した紀藤さんだったが、鹿野先生のことはいつも気に
かけていた。
ある時、鹿野先生の調子が良くなくて病院に入っている、という話を母親から聞き、先生に挨拶をと
思い地元に帰る手筈を整えた。
『鹿野先生だけど、ボケが進んじゃったみたいで、あなたを見ても誰だかわからないと思うわよ』
紀藤さんは、母親の言葉に切なさを覚えたが、思い出してくれるだろうという期待を胸に
先生が入院している病院へと向かった。
病院に到着すると、すっかり老いてしまった鹿野先生が、看護婦に付き添われて中庭の
ベンチに腰掛けていた。
『先生、お久しぶりです、一平です』
元気よく挨拶すると、先生は起立して
『上官殿、大変ご無沙汰をしております。そしてわたくしなぞにお時間をいただき、恐縮です』
その変わりようと認知症の進行具合を目の当たりにして、涙が溢れそうになったが、できる限りの
笑顔で対応した。先生は一方的に話すと疲れてしまったのか、その場でイビキをかき出した。
心配になり、看護婦に聞くと疲れただけとのこと。
引き上げようとベンチから腰を上げた。その途端、先生が目を見開いた。
『本日は誠にありがとうございました。上官殿、お帰りの際は横断歩道にお気をつけ下さい。
青信号を一度見送ってください』
そう言うと、再びイビキをかき始めた。紀藤さんは、そのまま病院をあとにした。
帰り道ボーッと歩いていると横断歩道に差し掛かった。信号待ちをしていると先生の言葉が蘇った。
深く考えず、青信号でそのまま立ち止まっていると・・・
(ドンッ)
『青になってんだろ、早く行けよ、ばーか』 ガラの悪そうな輩が背中にぶつかると、紀藤さんを
睨みながら渡っていった。
直後、鼓膜をつんざくようなブレーキ音が聞こえたと思ったら、大型トラックが突っ込んできた。
先ほどの輩が大型車輪に巻き込まれてボロ布のようになっていた・・・・
『お役に立てて光栄です』 背後から鹿野先生の声が響いた。

徳光正行

徳光正行
怪談手帳 遺言 徳光正行 竹書房文庫
「会話だけ」
タクシードライバーの升本さんから聞いた話。
その日、遅番だった升本さんは、とある繁華街で客待ちをしていた。
”コンコン”
後部座席のドアガラスを叩かれたので急いでドアを開けると、少々酒臭い若い女性が乗ってきた。
『○〇橋の交差点までお願いします。近くに行ったら詳細伝えますね』
ほろ酔いくらいなのか、しっかりと行先は伝えてくる。ここから二十分くらいの場所だ。
しばらく車内は沈黙したが、女が話を始めた。
今はキャバクラで働いているが、服飾デザイナーを目指していて、専門学校の学費を稼いで
いるのだという。
やがて車は目的地周辺に到着し、女の説明通り細かい路地に入り、女が住んでいるであろう
マンションの前に到着した。
『私の話に付き合ってくれてありがとうございました。本当は、もう無理なのかな?って』
『私が言うのもなんですが、諦めないで頑張ってください』
その言葉に女は微笑し、マンションの中へ入って行った。
会社に戻ると売り上げと伝票を照らし合わせ、更衣室で帰り支度をしていた。
『升本さん、ちょっといいですか?』
『升本さん、X街から〇〇橋付近までお客様を乗せましたよね?』
『はい』 あの時の女の客だと思い出した。
『少しおかしいんですよ。私も何度か確認したんですけど。いっしょに見ていただけますか?』
再生装置が置いてある部屋に入り、事務員は車載カメラに録画された映像を再生した。
カメラから見て左に升本さんの肩口が映し出され、画面の中心部には客の姿が映っている
はずなのだが、女の姿が映っていない。
しかし、車内で交わしている会話は聞こえている。
ドアが開き『私が言うのもなんですが、諦めないで頑張ってください』という升本さんの声の後に
『本当にありがとう』
あの時には聞こえなかった声が入っていた。そして、誰も降りていない後部ドアが閉まった。

徳光正行

徳光正行
怪談手帳 怨言 徳光正行 竹書房文庫
「ゲンコツ」
これは高校時代の悪友Kが経験したことだ。
Kは幼くして父親を亡くし、女手ひとつで母親に育てられた。
大学受験を数日後に控えた日、いつものように高校が終わると彼女を自宅に連れ込んでいた。
すると、思いもよらぬ時間に母親が帰ってきた。
Kは母親に見つかることを恐れて2階のベランダから隣のマンションの外階段へ、嫌がる
彼女をダイブさせた。
その夜、彼女に危険なことをさせたことなど忘れて眠っていると、ガツンガツンと激痛が頭部に
走った。
『おまえはなんてことしているんだ。女の子に危ないことをさせて。恥を知れ、このバカたれが』
意識が朦朧とする中、Kが土下座しながら詫びを入れた。
翌日、彼女に会うと深々と頭を下げて詫びた。
彼女曰く、昨日の夢の中にKの父親という人が出てきて『バカ息子がひどいことをさせて申し訳け
なかった。不束者だが末永くよろしく頼みます』と言われたのだという。
その春、ふたりとも志望大学に合格した。
彼女に父親の写真を見せると、夢に出てきたのはこの人だと言う。
母親に彼女を紹介し、父親にゲンコツを食らったエピソードも話した。
『お父さん、曲がったことが嫌いな人だったから、あんたが許せなかったでしょうね。そして
あなたにまで謝りに行くなんて』
彼女の方を向いた母親の目から大粒の涙がこぼれた。

今、Kは四人で暮らしている。母親と、彼女だったUちゃんと5歳の息子とK。

徳光正行

徳光正行
怪談手帳 呪言 徳光正行 竹書房文庫
「再会」
まだ父が局アナの頃のこと。
仕事を終え、飲み会の約束場所へ向かっている時のこと。
何の拍子か、ふと学生時代の旧友 Jさんのことを思い出した。
当時はよく二人で遊び回っていたのだが、時の経過とともに、すっかり疎遠になったしまった。
そんなことを思っていると、背後から『おい!』と声を掛けられた。
見ればまさに、今思い出していたJさんの姿である。
Jさんから飲みに誘われたが、先約があると断り、名刺に自宅の電話番号を書いて渡した。
翌朝、Jさんの奥さんから電話がかかってきた。
実はJさんは一週間前に亡くなり、遺品を整理していたところ、連絡先の書いてある名刺が
あったため連絡した。
生前、病床で会いたいと言っていたとのこと。
その後、日を改めてJさんの家に、手を合わせに行ったのだと言う。
ただ1つ、非常に悔やまれるのは、あの時いっしょに飲んでおけばよかった。
恐怖実話
怪の残滓


吉田悠軌
実話怪談 怪の残滓 吉田悠軌 竹書房怪談文庫
「秋津駅・新秋津駅」
その日もいつものように秋津駅と新秋津駅を乗り換えのため移動していた。
夕方、人通りの多い時間帯なので、周囲は同じ目的の人々が多数歩いている。
ノリコはスマホをイジリながら、前を行く人だけを注意して歩を進めていた。時間にしたら、一、二分程度・・・・
ふと顔を上げたノリコは、思わずビクリと足を止めた。さっきまで周りにいた人々が全て消えたのである。
それどころか、自分自身がまったく見覚えのない場所にいるではないか。
あたりを見渡せば、周囲は畑が広がっているばかり。ただ、整地されただけの閑散とした荒れ畑だ。
秋津町はのどかな郊外だ。駅から一キロほども歩けば、田畑が広がっているのは知っている。
しかし、一瞬でそんな所に来てしまった意味が分からない。
スマホの地図で位置を確認しようとしたが、なぜかGPSは秋津駅と新秋津駅の中間点でかたまっており
うんともすんとも動かない。電波を確認しても圏外で反応なし。
とにかくこの場所を離れようと歩き出した。そのうち両側の畑が途切れ、代わりに団地のような住宅棟が並びだす。
心細くなったノリコは団地の中に入り込んで行った。
しんと静まり返った敷地を足早に進んでいくと、行き止まりのようなポイントに出くわした。ただ、住宅棟の一階は
通路となっており、向こう側へ突っ切ることができそうだ。
住宅棟の裏手へと出ると、突然、周囲がざわめきに包まれた。ノリコのすぐ横をバスが通り過ぎて行き、目の前を
人々がせわしなく行きかっている。カン、カンという踏切の音も聞こえてきたではないか。
いつのまにか、新秋津駅の裏手に出ていたのである。

秋津駅と新秋津駅の狭間、そこでおかしな目に遭ったという人はまだまだ他にもいるようだ。

吉田悠軌
実話怪談 怪の残像 吉田悠軌 竹書房怪談文庫
「六本」
職場の先輩が大学生の頃だから、三十年も前、バイク仲間五人で伊豆半島へツーリングへ
出かけた時のことだという。
日が暮れて、目についた旅館に転がり込んだ。
ツーリングの疲れから、他の人はすぐに寝息を立て始めたが、先輩はなかなか眠りにつけない。
突如、寝ている布団を引っ張られた。
驚いて顔を上げると、目の前の時計の後ろから、細い腕が六本、こちらに向けて手招きするではないか。
六本の手が、おいでおいと折れるたび、布団ごと体が腕に吸い寄せられて行く。
そして、足元が壁に触れるかと思った時、腕たちは先輩の左足へと延びていった。そして、左ふとももが
六本の手にガッシリつかまれる感触がして・・・・
目覚めると朝になっていた。
嫌な夢を見たなぁ、と思ったが、自分の寝ている布団だけが、大きくずれて壁に付いているのを見て愕然とした。
その後、現在までに、先輩は四回、左足を骨折している。
先輩はいつも、左足のふとももを笑いながら叩きつつ、こう話を終える。
『自分がいつ死ぬかわからないけど、それまでにこの足、あと二回は折れるんだろうねえ』

吉田悠軌
実話怪談 怪の残響 吉田悠軌 竹書房怪談文庫
「五人女」
夏江さんという女性の高校時代の体験談。
不良少女だった彼女は、たびたび仲間たちとの夜遊びを重ねていた。といっても
夜の公園でタバコを吸いながらおしゃべりする・・・という程度のものだったが。
その日もいつも通り、悪友二人とタバコをふかしながらベンチに座って談笑していた。
気が付くと、時刻は22時を回っていた。
そこで夏江さんは、どこからか鋭い視線が刺さってくる気配を感じた。
見ると公園の入り口あたりに、複数の人影が立っている。五人の影が横一列に並んでいる。
『誰かが通報して、警察が来たのかも』
やばい、やばい、と三人はあわててタバコをもみ消した。
少しの間、にらみ合いのような状況になったが、五人の影は動かない。
『・・・・もう、行くべ』
そうっと立ち上がった夏江さんたちは、人影から視線をそらさず、反対方向の出口へと
歩き出した。
その瞬間、人影が五つそろって、すっと前に歩き出した。
音もなく、滑るように・・・・次第に姿がはっきり浮かび上がってくる。
全員、女だ。しかし、やけに派手な格好をしているような・・・・
『ぎゃああああ~』
友人二人は悲鳴とともに走り去って行った。一人残された夏江さんは、その場に立ち止まって
近づいてくる五人の女をじっと見つめた。
『・・・なんかさ、友だち二人は幽霊だと思って逃げたみたいなんだけど、私は逆にテレビの
撮影かなっておもっちゃたんだよね。ほら、ドラマの大奥とそっくりの格好だったんだよね。
やっぱり、あれ、幽霊だったのかな?

吉田悠軌
実話怪談 怪の手形 吉田悠軌 竹書房文庫
「幽霊の証明」
竹芝さんがまだ二十歳前だった時のこと。
当時よくつるんでいた先輩はドライブが趣味で、竹芝さんを助手席に乗せては
関東近郊へと繰り出していた。
その夜は、心霊トンネルがあるという埼玉県の峠道に繰り出した。
トンネルに到着すると、トンネル手前で停車した。
そしてフロントガラスの先を見つめている・・・・
『あそこ、女の子がいるよな』 先輩はそう言うと車を降りて女の子に近づき、声を掛けた。
『どうしたの? 一人?』 『車とかないの? 待ち合わせじゃないんだよね』
『街まで送ってくから、乗ってきなよ』
女の子は返事こそしないものの、車に戻る二人の後をついてくる。
『はい、乗って乗って』 先輩はドアを開けると、後部座席に女の子を乗せた。
車を発進させると、先輩は次々に質問を投げかけるが、返事はいっこうにない。
『・・・・ここで降ろしてください』 突然、女の子が口を開いた。
『え? こんなところで?』
『ここで降ろしてください』
『じゃあ、またね』 女の子を降ろすと、先輩は窓から手を振りながら峠道を下って行く。
そして道幅が広くなったところで車をUターンさせ、猛スピードで車を走らせる。
やがて女の子が道の真ん中に佇む姿が見えてきた。
車はスピードを落とさずに突進する。
ボンネットの先が女に当たる・・・衝撃を予測してとっさに身をかがめたが、立体映像を
通過するがごとく、車体はそのままスムーズに走り抜けて行った。
『あの女、やっぱり幽霊だったな』
以上が、幽霊を証明する実験に出くわした体験談である。

吉田悠軌
実話怪談 怪の足跡 吉田悠軌 竹書房文庫
「嫌な日」
とにかく、気持ちの悪い一日だった。
十年以上も前、今田さんが当時付き合っていた彼女と旅行した日のこと。
貧乏な二人は東海道線の鈍行列車に乗って、ゆっくりと熱海を目指した。
しかし、その社内から変だった。
ボックス席の対面に座っていた老人が『バカにするな!』『そんなこと許されるのか』
と、突然怒鳴りつけてきた。危険を感じて、他の車両に移動した。
移動した車両でも、ドアに寄り掛かった男がこちらを睨んでブツブツ言う・・・。
ようやく熱海駅に着いた今田さんがホテルのチェックインを済まそうとすると
フロントから予約など受け付けていないと告げられた。
そんな筈はないと押し問答を繰り返した末、ようやく特別に部屋を確保できた。
さらに観光を楽しもうと海岸に出れば、不良の若者たちにわけもなく絡まれ
たまたま入ったコンビニでは男の子の幽霊に出くわす。
今田さんはつとめて明るい口調で彼女に言った。
『なんだろうね、今日はなんか、変なことばかり起こる一日だね』
『しかたないよ』
『え?しかたないって、何が?』
『だって今日、前の彼の命日だから』

葛西俊和
鬼哭怪談 葛西俊和 竹書房文庫
「怪談カップ麺」
部屋で夜更かしをしていた島野宇さんは腹が減っていたのでカップ麺を食べることにした。
カップ麺に湯を入れ、上蓋を押さえるのに適当なものはないかと周りを見ると、ベッド脇に
読みかけの怪談本があった。
島野宇さんは怪談本をカップ麺の上に置くと三分待った。
すると、カップ麺から『シューシュー』と米を炊くような音が聞こえてきた。
気になってカップ麺を見ると、上に乗せた怪談本から赤い湯気のようなものが上がっている。
怪談本をどかして、カップ麺の上蓋を取ると湯気も立っていないし麺もほぐれていない。
指を入れてスープに触れると冷たい・・・・確かに熱湯を入れたはずなのに・・・・。
怪談本に『こめんなさい』と呟いて本棚に仕舞った。
翌朝、本棚から怪談本を取り出すと、雨にでも濡れたかのように本全体がしわしわになっていた。
若干膨らんでいる本を開くと白かった紙が黄ばんでおり、幾つかの話のページが綺麗に折られて
いた。
島野宇さんは今でも怪談本を買って読むが、ぞんざいな扱いはしないようになったそうだ。


葛西俊和
「受け取り拒否」
『霊感なんてないと思っていたんだけど、不思議なことって本当にあるもんだね』
戸塚さんは東北地方の小さな運送会社で宅配ドライバーをしている。
ただ、担当している地区が寺町と呼ばれる場所で仏閣の密集地だということ。
仏像や祭壇に置く皿、お供え物を配達しているが、中には恐ろしい物も混ざっていると言うのだ。
配達の最中、『ガリ、ガリ、ガリ』と梱包の段ボールに爪を立てるような音がすると、毎回決まって
締め付けるような頭痛がしてくる。
しかし、お寺に到着して荷物を渡すと頭痛も治まってくる。
そんな中、一度だけ荷物の受け取りを拒否されたことがあった。
梱包されていない桐箱で、直に貼った伝票の内容物の欄には『雑貨』と書かれていた。
『寺の住職が受け取りを断る荷物だからね、嫌な予感がしたよ』
気味の悪い桐箱は貨物室の奥へ隠すように置いた。
それから3件の配達を終えて配送車へ戻ってみると、運転席に桐箱が置かれている。
もちろん、戸塚さんに移動した憶えはない。
再び貨物室へ戻そうと、桐箱を持ち上げると・・・・
『連れて行って・・・・』 女の涙声だった・・・・
急いで桐箱を貨物室へ移動させると、配送車を発車させたが、同時にひどい頭痛がしてきた。
『連れて行け!!』 今度は女の怒気を含んだ声だった。
頭痛がひどくなるのと、目眩、動悸がするのがいっしょだった。
運転するどころではなくなり、路肩へ車を停めると、荷物の受け取りを拒否した住職に相談した。
話を聞いた住職はすぐに駆けつけ、貨物室でお経を唱えた。
『住職がお経を読むと、身体の不調も和らいで。なんとか配送センターまで帰れました』

我妻俊樹

我妻俊樹
「ひさしぶり」
OLの田岡さんが深夜のスーパー銭湯で頭をドライヤーで乾かしていたら鏡に小学校の同級生だった
フミヨが映った。
びっくりして『どうしたの、ひさしぶりー』と振り返ったら誰もいない。
気のせいかと思って再び鏡を見ると、フミヨがニコニコして後ろに立っているように映る。
だが、振り返ると誰もいない・・・
そもそも小学生のときの面影が何もないくらい痩せこけているのに、どうしてフミヨだとわかったのか?
そう思ったら鏡の中のフミヨが田岡さんに近づいてきて『死んだからだよ』とささやいた。
気が付くと、田岡さんはドライヤーを頭に当て続けてやけどする手前だった。

そのフミヨは二日前に練炭自殺していた・・・

真白圭

真白圭
怪談 四十九夜 荼毘 黒木あるじ編著 竹書房文庫
黒木あるじ 黒史郎 我妻俊樹 つくね乱蔵 神薫 真白圭 他
「おりん」 真白圭
都内在住の野中さんが、友人から御嶽山への山登りに誘われた時の話だ。
元々、彼の実家は長野にあり、両親が他界した後は弟夫婦が住み暮らしている。
前日に弟夫婦の世話になった野中さんは、翌朝七時に出発の準備を始めた。
御嶽山ロープウエイの乗り場まで自家用車で行き、そこで友人ふたりと落ち合う約束をしていた。
弟夫婦は既に出かけており、家を出る前に戸締りをするよう頼まれていた。
玄関で登山靴を履き、上がり框から立ち上がると・・・・
『チリーン』 仏壇のおりんの響である。だが、家の中には誰もいないはずだ。
泥棒か? と思い仏間を覗いたが、やはり誰もいない。
不安になり、家中を見て回ったが、誰かが立ち入った気配は感じなかった。
実家のことが気がかりではあったが、とにかく御嶽山へ向かおうと車に乗り込んだ。
が・・・・なぜか、何度キーを回しても一向にエンジンがかからない。
『でも、変だと思ったんだよ。車は新車で購入して、まだ一年も経っていない。大体、東京から
長野まで何の問題もなく運転できていた訳だから』
他に打つ手もなく、JAFを呼んで整備工場までレッカーしてもらうことにした。
だが、整備士に調べて貰ってもエンジンが動かない理由は判明しなかった。
『そんなことをしているうちに、いつの間にか正午を過ぎていてね。さすがにその時間じゃ
山登りは無理だからさ。友人に電話して、謝っておこうと思ったんだよ』
だが、何度掛けても友人の携帯電話が不通だったという。

平成二十六年九月二十七日 午前十一時五十二分  御嶽山は大噴火した。
後の調査で、火口付近にいた登山者ら五十八名の命を奪う、戦後最悪の火山被害となった。
野中さんの友人ふたりも、噴火の犠牲者名簿に名を連ねることとなった。
『付き合いの長い奴らだったから辛くてね。もしも、おりんが鳴ったあのときに、アイツらを
止めていればって・・・・そう思うと、悔しいんだよ』
怪談 四十九夜
断末魔


冨士玉女

怪談 四十九夜 断末魔 黒木あるじ編著 竹書房怪談文庫
「事故物件じゃないの?」 富士玉女
一人暮らしのミズホさんは、母親が病気になったので実家の中型犬を引き取ることになった。
それを機にペット可のマンションに引っ越した。エレベーターのない四階建ての三階。
十歳の雑種犬は階段もなんなく上り下りするので、かまわない。
便利な場所なのに相場より安いのは古い建物だからだろう、お隣さんのおじいさんは十五年住んでいるという。
新生活が始まり、仕事前に早起きして散歩に出かける。犬も大喜びで玄関を出る、が階段を降りようとしない。
なんとか促して中二階の踊り場を抜けると、そこから先は飛ぶように駆け降りていく。
帰りも階段を駆け上がるも、踊り場を前に急停止するのを無理やり三階まで上げさせる。
階段を躊躇する犬に諦めて、中二階から三階までは抱っこして上り下りする羽目になった。
そんなある日、お隣のお爺さんが教えてくれた。
『その踊り場で、住んでいたヒトが男に刺されて亡くなってね。もう十年経つんだけど、やっぱり犬にはわかるんかね』
妙な納得をした。十三キロの犬を抱えての階段はやはりキツイなと思い、エレベーターのあるマンションに移ろうと
画策中らしい。

冨士玉女
怪談 四十九夜 出棺 黒木あるじ編著
「視える人」 富士玉女
マミさんは視える人だ。しかし、それは生霊に限られる。
先日の合コンでちょっと気になる男がいた。
ほどよく酒が回ってきた頃、ふと彼の背後に視線を集中してみた。
快活野談笑する男の背後に、たくさんの巨大な黒点が見えた・・・・と思ったら『女性の目玉」だった。
『あの男は手広く女性を喰ってますね。しかもその女性たち、それを知っていて裏でみんなが結託してる』
知らぬは彼ばかり。生きているモノの方がおっかないですよ。
近いうちにかなり痛い目に遭わされるんじゃないかな、とのこと。


百目鬼野干
​​ 怪談 四十九夜 鎮魂 黒木あるじ監修
「いちげん」 百目鬼野干
いちげんが来ましてね。
他に客もいなかったから、静かに呑んでくれるならってことで入れたんです。
黙ったまま、高い酒ばかりを呑んでくれたんです。
酔いが回ってきた頃、その人が顔を上げて棚に預けた鞄を指差したんです。

『マスター、俺がここへ首を持って来ていると云ったら驚くかい?』
なので、私が
『いえ・・・・・・短い髪の眉の上に薄く傷のある女の人のものですよね』
それを聞くと顔色を変えて出て行っちゃった。
その人が店に来て暫くすると壁の小さな鏡の端に、その人を睨む女の顔が浮いていたので
見たままを云っただけなんですけどね。

神薫

神薫
怪談 四十九夜 怖気 神薫他 黒木あるじ監修 竹書房文庫
「四十九日」 神薫
チアキさんと彼女の母親は長年、家の独裁者である祖母に苦しめられてきた。
『嫁はともかく孫って普通、可愛いもんじゃないですか。あのババアは違ったんですよ。
息子の血が入っていようと、憎い女の子供だからババアは私も憎かったの』
熾烈な嫁姑戦争に巻き込まれた娘と、家庭の不破を仲裁もせずに仕事へ逃げ込む父親。
そんな父親が過労死したことを機に、母娘と祖母の力関係は逆転した。
愛息の急逝に気力を失った祖母は、生活習慣病の悪化により寝たきりになった。
ついに祖母が亡くなると母娘は喜びを爆発させ、通夜のさなかに祝杯をあげた。
葬式は近所への見栄で、グレードの高いものにした。
ある夜のこと、母の悲鳴でチアキさんは起こされた。悲鳴の聞こえた部屋に行くと
あうあうと言葉にならない悲鳴を上げながら、母は布団から離れようとしていた。
母は何から逃れようとしているのか、見れば掛け布団が人型に盛り上がっている。
掛け布団を剥ぐとそこには、お棺に入れたはずの祖母が胸の上で腕を組んで寝ていた。
『化けて出たのか、この糞ババア!!』
母が箒で、祖母の体を掃きだそうとしたが、箒は祖母の体を素通りするだけであった。
そんな祖母が天井の板にめり込むようにして見えなくなったのは四十九日のことだったという。
『どうせ出るなら祖母よりも、早くに死んだお父さんに出てきてほしかったですわぁ』
とチアキさんは笑った。

神薫

神薫
怪談 四十九夜 黒木あるじ監修
「彼氏の仕事」 神薫
芙美さんが、付き合い始めたばかりの彼氏とドライブデートした時のこと。
イルミネーションを見に行く予定だったが、彼が職場に忘れ物をしたということで、車は彼の会社へと向かった。
広い駐車場の隅っこに車を停めると、彼は芙美さんを残したまま会社へ入っていった。
退屈さを携帯をいじってまぎらわせていると、突如、車体が『ぐわん』と揺れた・・・・
『え? 何? 地震???』 と地震情報を検索している間も、車のあちこちが揺れた。
それは、地震というよりも誰かが車を揺すっているようだった。
てっきり彼氏のいたずらだと思って様子を見ていたが、どうも違うようだと気付いた。
そこへ彼氏が車に乗り込んできたが、同時に濃厚な線香の臭いが・・・・
それを疑問に思った彼女は、どういうことかと彼を問い詰めた。
『合コンでは、会社員だと言っていたの。まあ、嘘じゃないんだけど』
そこは斎場で、その晩には亡くなった人が安置されていたのだという。
その時、初めて知らされた彼の職業に、芙美さんは動揺した。
『死体のそばで私を待たせたの? 信じられない!』
彼女の怒りに対する彼氏の反応は、予想外だった。
『うちのお客様が、君を脅したって? そんなことをして、ご遺体に何の得があるんだよ』
彼は声を荒げて彼女を叱ったのだという。
『本気で怒った彼を見て、真面目に働いているってことがわかった。仕事に打ち込む男って、かっこいい』
この一件で葬儀屋の彼氏は 『とりあえずキープ』 から 『本命候補』 に昇格したそうである。

宇津呂鹿太郎

宇津呂鹿太郎
客と机を挟んで対峙して座り、乞われれば怪談実話を語り、代金としてお金をいただく。
逆に客が体験談を語ってくれれば、その代金をお支払いする・・・・・。
実際にイベントで行われた「怪談売買所」で語られた怪異の数々。
鏡越しに飛び降り自殺をした女と目が合って・・・「逆になる」。
出勤途中に出会った見知らぬ女に大声で怒鳴られ続け・・・「人殺し」など。
日常のふとした綻びに垣間見える恐怖、決して他人事ではない。
怪談奇聞 嚙ミ狂イ

小田イ輔

小田イ輔
怪談奇聞 噛ミ狂イ 小田イ輔 竹書房文庫
「知らせ」
Oさんの家では、虫の知らせとして鏡が漆喰を塗ったように白くなるという。
一瞬のできごとであり、すぐに元通りになるらしいのだが、家族の誰かがそれを
目撃すると、その日のうちに必ず近しい人間の訃報が届く。
どの鏡が白くなるという決まりはないものの、使用頻度の高さもあって、洗面所の
鏡がそうなるのを目撃されることが多いとのこと。
ある朝、彼女の父が白くなった鏡を見たようで、母親に喪服をクリーニングへ出して
おいて欲しいと頼んで仕事に行った。
亡くなったのは、その父だったそうだ。

小田イ輔

小田イ輔
怪談奇聞 立チ腐レ 小田イ輔 竹書房文庫
「自己申告」
高齢者福祉に携わっているWさんは、その日、市営住宅に住む独居老人を訪ねた。
呼び鈴を押しても反応はなかったが、鍵が掛かっていなかったためドアは開いた。
すると目の前には老人が倒れており、その傍らに倒れている老人本人が座っていた。
座っている方の老人は、硬直したWさんに向かって 『死んだ』 と一言呟き消えた。
倒れている方の老人は、確かに死んでいたという。

小田イ輔

小田イ輔
怪談奇聞 啜リ泣キ 小田イ輔 竹書房文庫
「しらせ」

N氏の弁
『急にリビングの水槽が割れてさ、そこら中水浸しになっちゃって』

M氏の弁
『アパートに帰って来たら台所と風呂の蛇口が全開になっててさ』

二人の共通の幼馴染が、入水自殺した日のできごとだという。

小田イ輔

小田イ輔
怪談奇聞 祟リ喰イ 小田イ輔 竹書房文庫
「舞台袖にて」
ある俳優さんから伺った話。
彼の大学は自前の小劇場を備えており、演劇科の学生がたびたび芝居の公演を行っていたそうだ。
その日の公演は、役者も裏方も、いつもより忙しく動く必要のある構成だった。
舞台での演技の後、袖に入ってすぐに着替えを行い、再び舞台に飛び出なければならない役者もいて
終始バタバタしっぱなしという状況。
そんな中、早着替えを行わなければならない役者の一人が、舞台袖のトラブルが原因で着替えが進まず
このままでは出番に間に合わないという状況に陥ってしまった。
しかし、彼のそんな状況を見かねた女性スタッフの一人が、無言のまま飛びついて衣装替えの
手伝いを行ったことで事なきを得たそうだ。
終演後、その役者が、手伝ってくれたスタッフにお礼を述べたところ
『私、こっちにつきっきりだったので手伝っていませんよ』 と不思議な顔をされた。
それならばと、裏方全員に聞いて回ったが、彼を手伝ったと名乗り出る者はいなかった。
ただ、その時の演目が戦時中の悲劇を扱った作品だったこともあり、全員がなんとなく納得したという。

小田イ輔

小田イ輔
実話コレクション 忌怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「戻り声」
夏の暑い日だったそうだ。
Eさんたちは仲良しグループで集まり河原でバーベキューをしていた。
地元の人間しかやってこない穴場スペースなためか、Eさんたち以外は誰もいない。
昼から始まり、夕暮れ時。
『たぁあうすぅけぇえええてぇえ』
突然、川上から声が聞こえてきた。
何事かと全員が立ち上がり、皆で川の上流へ視線を向ける。
『たぁ~すけ~て~』
どうやら、徐々に近づいているようだ。
今度は目の前で声がしたが、誰もいない。
勢い服を脱いだ数人も、固まったまま動かない。
やがて、聞こえるのは川のせせらぎのみとなる。
皆が無言で、顔を合わせている。
しかしEさんだけは全く別のものに目を奪われていた。
すぐ目の前の水面から、顔を半分だけ出してこちらを覗っている子供。
目の前で声が聞こえる前から気付いていたという。
子供は、撤収作業の間も、Eさんたちを見つめていたそうだ。


小田イ輔

小田イ輔
実話コレクション 憑怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「箸」
現在大学生のR君から伺った話。
その日、家族との夕食を終えた彼は、自分の食器を台所へと運んでいた。
途中で箸が一本床に落ちた・・・・彼は食器を流しに入れると箸の落ちたあたりを探すが見つからない。
ソファーと床の間や、それらしき場所をライトを照らしながら這いつくばって探すがない。
すると、その様子を冷やかしながら晩酌をしていた父親が、立ち上がるなり居間を出て行った。
そして 『あったぞ』 と父親の声。
途端に、近くでテレビを見ていた母親が 『やっぱり』 と笑った。
何のことかわからないまま、父親の声のするほうへ行ってみると
『ほれ、あそこ』 と風呂場の照明を指差している。
風呂場の電球を覆うカバーの中に、ついさっき居間で床に落としたはずの箸が入っていた。
父と母はなんだか嬉しそうに 『懐かしい!』 と言い合っている。
話を聞いてみると、R君が小さい頃、何かを無くすたびに風呂場の照明から出てくるということが
頻発したらしい。
これまで、彼のおしゃぶりから始まり、様々な小物が見つかっているとのこと。
十年以上起きていなかったことだが、もしやと思った父親が覗いたところ案の定。
『子供のころを思い出す』 と両親はとても嬉しそうにR君の頭を撫でた。
それは、彼が進学のために上京する前日のことであったという。

小田イ輔

小田イ輔
「挨拶」
Lさんが会社帰りの道を歩いていると不意に肩を叩かれ『ヨッ!』と声を掛けられた。
声を掛けて来た男は、Lさんの会社の元同僚で数年前に亡くなっている。
たじろぐLさんを尻目に、男はそのまま立ち去って行く。

何の用があるのか不明だが、もう十数年続いているという。

小田イ輔

小田イ輔
「歴史ある宿」
Rさんは、一人である温泉宿に泊まっていた。
部屋数は少なく十部屋程度。ゆったり過ごせる分、料金は割高。
温泉の泉質は好みのものであり、食事も予想を上回る豪華なものだった。
宿の建物は古く木造で、廊下を歩けばギシギシと音がする。
鄙びた雰囲気を満喫し、寝る前にひと風呂浴びると床に就いた。
『あはははは、おお~いいぞ』
どこからか宴会でもやっていると思われる音が聞こえ、目が覚めた。
時計を見れば零時を過ぎている。
折角の良い宿の想い出が台無しになると思いながら、部屋を出てトイレに向かった。
薄暗い廊下を歩いていると、先ほどの喧騒が聞こえていないことに気付いた。
そして、受付の際に『本日は貸し切りみたいなもの』と宿の主人が言っていたのを思い出した。
『なんだ、気のせいか・・・』
用を済ませ、部屋の前までやって来ると中から先ほどの喧騒が聞こえて来た。
そのまま、階下のフロントへと向かった。
主人へ経緯を話すと『歴史ある宿ですから』と一言。
部屋を変えるという主人の提案を断ってから、部屋に戻ると静かになっていたそう。
みみざんげ

我妻俊樹

我妻俊樹
忌印恐怖譚 みみざんげ 我妻俊樹 竹書房文庫
「血まみれ入道」
友作さんの母親の生家の土蔵には、坊主頭の化け物が出るという言い伝えがあった。
しかもその化け物は顔も手足も装束も血で真っ赤に染まっており、それはそれは恐ろしい姿なのだそうだ。
母親がその家で暮らしたのは十年間だが、その十年で血まみれ入道を六回見たという。
ただ、見るたびに入道の姿は小さくなっていった。
最初は土蔵の梁越しに見下ろしてくるほどの大入道だったのが、最後に見たときは母親とたいして背丈が
かわらなくなっており 『血まみれ小坊主』 といった程度だったと彼女は語る。
化け物がさらに小さくなっていったのかは、生家との縁が切れているのでわからないという話だ。

我妻俊樹

我妻俊樹
忌印恐怖譚 めくらまし 我妻俊樹 竹書房文庫
「しんだ」
その駅では何度か飛び込み自殺があった。
昨日もあったんだよな~と思いつつ、ベンチに腰掛けていると隣に誰かが座り身体を摺り寄せてくる。
ぎょっとなって見たら、肩から上と腰から下の無いスーツ姿の男だった。
ジェスチャーで 『おれ、ここで、とびこんで、しんだ』 と伝えると消えたという。

我妻俊樹

我妻俊樹
忌印恐怖譚 くちけむり 我妻俊樹 竹書房文庫
「関西のホテル」
明奈さんが仕事で予約した関西のホテルに入ると、部屋の中に仏壇が置いてあった。
驚いてフロントに言ったら、平謝りですぐに部屋を替えてくれた。
しかし、一体どうして客室に仏壇があるの? という明奈さんの質問には・・・・
『前のお客様が置いていかれたものを係員が見落としました』 という不可解な説明だった。
そのことを出張から帰ってきた明奈さんが職場でみんなに話していたら、フロアの電話機が
一斉に鳴り出した。
電話に出てみると、どの電話も 『係員が見落としました係員が見落としました』
壊れたレコードのように繰り返した後で切れてしまったという。
着信履歴はなかったそう。

我妻俊樹

我妻俊樹
奇々耳草紙憑き人 我妻俊樹 竹書房文庫
「さそり」
西日本のかない大きな繁華街に昔からあるラブホテルでは、たまに客室からフロントに
『部屋にさそりが出た! すぐ来てくれ!』 と男の声で電話がかかって来るという。
その部屋はいつも同じなのだが、電話は使用中のときに限らず、空室時にもかかってくる。
いずれにせよ従業員が駆け付けると・・・・
『電話などかけていない』と客に言われるか、空室なら誰もいない。
だから、そういう電話があった場合は無視するようにと申し送りされているらしい。
ちなみに、これまで館内でさそりを目撃した従業員は一人もいないという。


我妻俊樹

我妻俊樹
「足を落とす」
終電で帰って来た市雄さんが、近道をするため畑の中を行こうと決めた。
夜中だし、ばれないだろうと足を踏み出した数歩目で右足がずっぽり土中に落ち込んでしまった。
その時、確かに地面の下から
『ぎゃーーーー』 という金切り声が聞こえたので、あわてて足を引き抜くと畑を飛び出して走った。
気付いたら右足の靴は履いておらず、足を引き抜いた際に土中へ置いてきてしまったらしい。

帰宅すると奥さんが部屋の中で、涙と鼻水まみれの顔で腰を抜かしている。
どうしたのか訊ねると・・・・奥さんは中空を指差し・・・・
『今、そこから足が出てきて、それで・・・・』
今度は床を指差し・・・
『これが落ちてきたの』
見ればテーブルの下に、市雄さんが無くしたばかりの革靴の右足が転がっていた。
靴の中には、あふれんばかりの黒い土が詰まってる。

真白圭

真白圭
暗黒百物語 骸 真白圭 竹書房文庫
「返礼」
土木関連の会社を経営している加納さんが大学生の時の話。
化石の発掘に興味のあった加納さんは、夏休みを利用して、同学部の友人ふたりと北海道の廃坑と
なった石炭採掘場を訪れた。
目的はアンモナイトの化石で、夏場の四日間、採掘場の近場の河原にテントを張ったのだそうだ。
二日目の夕方、採掘場から戻ると、食材を埋めておいた場所が滅茶苦茶に掘り返されていた。
地面に残された痕跡は、幅の広い三角形の足跡で、先端に三つの爪跡が地面に深く残っていたそうだ。
その爪と爪の間には水掻きのような被膜の跡が薄っすらとあった。
調べると、足跡の主は川岸から二本の足でテントに近づき、腕を使って地面を掘り返した後
まっすぐに川へ引き返したようだった。
『これって、河童だよな?』 仲間の一人が呟いた。
その翌日、加納さんたちは 『ニッポニテス』 という名前のとても貴重なアンモナイトの化石を
発見することができた。四日間という期間からすると、とても幸運なことなのだそうだ。
後に、その化石は国立科学博物館へ寄贈され、今でも大切に保管されている。

真白圭

真白圭
実話怪事記 狂い首 真白圭 竹書房文庫
「土下座」
数年前、岡本さんが父親を乗せて、車を運転していたときのこと。
父親と他愛のない会話を交わしながら、夕方の道路を飛ばしていたという。
すると、ヘッドライトの明かりの中に何かが映った。
それは、ちょこんと正座した和服姿の老婆のように見えた・・・・
が、そこは車道の真ん中である。
・・・・えっ?
一瞬、思考が停止したが、慌ててブレーキを踏み込み、ハンドルを対向車線側に切った。
老婆は車体の下に吸い込まれる瞬間、両手をつき、深々と頭を下げた。
なぜか、車体には衝撃がなかった。
何かを引きずる振動も、乗り上げた感触もない。
人を轢いたという感覚がまったくなかったのである。
あれは見間違いではなかったか、と記憶を巡らせていると・・・・
『あのババア、どこ行きやがった? 車道で土下座なんかしやがって!』
と言いながら、父親が車外へ飛び出して行った。
結局、何も見つからなかったという。

真白圭

真白圭
実話怪事記 穢れ家 真白圭 竹書房文庫
「股壺」
新崎さんの家には変わった(習わし)がある。
三親等以内の親族が亡くなると、遺族はその遺体を必ず跨がなくてはならないのだ。
それは老若男女問わず、一族の者に義務付けらっれた(決まりごと)なのだという。
『前にですね、急な仕事が入って葬式に出られなかった親戚がいたんです。そしたらその人、火葬の当日に
あっさり死んでしまって・・・・それ以来、うちの家系の葬式って出席率が百パーセントなんですよ』
以前に一度だけ、海外旅行中に亡くなった親戚の子がいた。
その国の衛生法に触れるため、遺体を出国させる許可が下りなかった。
やむなく両親は、遺体を現地で焼き、骨にして帰国させたのだという。
『でも、葬式はやってないから・・・・親戚一同がその骨壺を跨いだんですよ』
葬式さえ行わなければ、遺体を跨がなくても障りはないらしい。
この(習わし)が、いつの時代に、どんな理由でできたのか、知るものはいない。

真白圭

真白圭
実話怪事記 腐れ魂 真白圭 竹書房文庫
「定時巡回」
都内で交番勤務に就いているFさんは、最近あることに気づいた。
彼が毎晩、巡回で空けている間に、無人の交番を訊ねてくる老婆がいるらしいのだ。
と言うのも、彼が詰める交番では警官の不在時も出入口の施錠は行わず、その代わり室内を
監視カメラで録画している。
その映像を確認すると、毎晩決まった時刻に老婆が<ひょい>と、入り口から顔を覗かせる。
連日、この時間帯にしか来ないのも何かの事情があってのことかもしれない。
そう考えた彼は、ある晩、普段より早めに巡回を終わらせることにした。
そして、入り口を開けたまま、件の老婆が来るのを待った。
しかし、その晩に限って、いつまで経っても老婆は現れなかった。
念のため録画映像を確認してみると・・・・その晩も同じ時刻に老婆の姿があった。
だが、映像の中の自分は、老婆に全く気付いていない。
老婆が目の前で、Fさんの頭の上から爪先までを睨め回しているにもかかわらず・・・・。
それ以来、巡回の時刻を変えることはなかった。
老婆は今も監視カメラに映り続けている。

真白圭

真白圭
「機外カメラ」
出張帰りの飛行機内で、沖野さんがぼんやりと前席の背もたれに備え付けの液晶画面を
眺めていた時のこと。
ランディングの体勢に入ると映画が途中で止まり、液晶画面には機外カメラからのライブ
映像が流れ始める・・・・・はずだったが、何故か画面の片側半分に女性が映っていた。
俯いて前髪が顔を隠した、知らない女だった。
ふと、隣の席の液晶画面が目に入ったが、そちらの画面に女の姿はなかった。
怖くなり、思わず持っていた雑誌を液晶画面に押しつけた。
『お客様、まもなく着陸しますので・・・・』
キャビンアテンダントに注意されて雑誌を手元に戻すと、女の姿は消えていた。
飛行機は、何事もなく空港へ着陸した。

吉澤有貴
「死神の合図」
主婦の吉田さんの話。
『オカルトに興味がないタイプの父だと思っていたので、初めて聞いた時は驚きました』
吉田さんのお父さんは、会社を定年退職後、悠々自適の生活をしていたがガンが見つかり
余命宣告をされた。
取り乱すこともなく、自分の寿命と受け入れ、自宅療養をしていた。
しかし、痛みが激しくなるとモルヒネの投与のために入院した。
当時、吉田さんは北陸に住んでいたので、東京に見舞いに来られるのは月に一度程度だった。
その日も、夫に子供を預けて見舞いに来ていた。
つきっきりで看病する母に息抜きをするように言い、吉田さんは病室で洗濯物を畳んでいた。
そんな時、お父さんが昼寝から目覚めて吉田さんを見つめた。
『お前にだけ話すんだ。誰にも言うんじゃないぞ』
そう言うと死神の話を始めた。窓の外に死神がいるが、まだ顔が見えない。見えた時は最後の
死ぬ時なのだろう・・・。
それから何度かお見舞いに行った時のこと、お父さんが吉田さんを枕元に呼んだ。
『死神が・・・・お前に合図してくれるそうだ・・・・』

ある夜、子供を寝かしつけた後、旦那さんの帰りを待っているとモーターの回る音が聞こえて来た。
それは子供のミニカーのパーキングタワーで、ミニカーが上へ上へと上って行く・・・・
『すぐに、これが合図だと思ったんです』
行く準備が完了すると旦那さんが帰宅、そのまま車で東京へ向うと危篤の連絡が来た。
合図のお陰で、お父さんの最後に間に合ったそうだ。

吉澤有貴
「呼ぶ部屋」 吉澤有貴
地方病院で看護師をしている間宮さんの話。
ナースコールが怖いという。
誰かが押すのがナースコールだが、誰もいない部屋からのナースコールが怖い・・・・
間宮さんの病院では、一類感染症に対応できる入院病棟がある。
西アフリカで猛威をふるった出血性の感染症に対応するためだ。
幸いにも、今まで患者はいない。
感染症病棟は、幾つもの扉に遮られている。
その感染症病棟からナースコールがあった・・・確かめてみたが、もちろん患者はいない。
ナースステーションに戻るとナースコールが鳴るので、警備員に人の有無を調べてもらった。
そして、最後は業者を呼んで、電気系統を調べてもらったが、異常は見つからなかった。
『部屋って、ずっと使わないままだと別のものが入っちゃうのかな?』
今でも時折、感染症病棟よりナースコールが鳴る。
それが夜勤の時に起きた場合は申し送りの書類へ
『電気系統の異常によりナースコールあり』
と記入することになっているとのこと。

渋川紀秀
恐怖実話 狂禍 渋川紀秀 竹書房怪談文庫
「青い蟻」
和子さんは八歳の時、父親の口の中から大きな蟻が一匹、出て来るのを見た。
当時の和子さんの人差し指くらいの体長だった。
その時、父は母親に、帰宅が遅くなった理由を説明していた。
取引先の飲み会を断れずに、遅くなってごめん、などと言っていた。
いつもは、蚊が腕に止まったりしたら、すぐに気付くような父親だったが
なぜか、その口の蟻には気付かない。
『おとうさん、蟻が口に付いているよ』
和子さんがそう言うと、父は首をひねりながら自分の唇の先を指で払った。
青い蟻は指先の間をすり抜けているのか、平気で唇を歩き続けている。
それから父と母は寝室に入った。
間もなく母の怒鳴り声が聞こえてきた。
その後も何度か、父の口から青い蟻が出て来るのを和子さんは見た。
どうやら、父が嘘をつくと蟻が現れるらしかった。
母から、その蟻が見えた時は教えてね、と頼まれた。
ほどなく、父と母は離婚した。
それから二十年、青い蟻が見えることはなかった。
『でも、最近また見えるようになっちゃって』
結婚五年目の夫が不自然に遅く帰宅する時、その言い訳をする口から
青い蟻が出てくるという。

渋川紀秀
恐怖実話 狂縁 渋川紀秀 竹書房文庫
「口型の腫れ」
昔、ホストをやっていたというカズヤさんは、横で寝ている女が怖い。
横向き、うつ伏せで寝ている女の肌に『口型の腫れ』が突然現れることがあるからだ。
カズヤさんが見ていると、『くち』は無声だがゆっくりと動く。
その『くち』が何を言っているのか、カズヤさんが言い当てると『くち』 ニヤっと笑い消える。
そして、一週間以内に『くち』が言っていた通りのことが起きる。
・・・・ころぶ。
・・・・けんかする。
・・・・さいふをおとす。
・・・・くるまにぶつかる。
最初は、自分の未来が言い当てられることを不気味に思った。
だが、慣れてくると、これから起きるトラブルについての準備をすることで損害が少なくなった。
『でも、三日前に言われちまったんですよ』
・・・・しぬ。
たぶん、昔捨てた女の『くち』なんすよ、と言ってカズヤさんはため息をついた。

渋川紀秀
恐怖実話 狂葬 渋川紀秀 竹書房文庫
「おじい様」
愛子さんは高校生の頃、友達Yちゃんの家に泊りに行った。
Yちゃんの家は、広大な田畑を所有しており、邸宅も大きかった。
Yちゃんの母親が作る料理は、見たこともない豪華なものばかりだった。
その日はYちゃんの大きなベッドで一緒に寝た。
夜中、愛子さんは尿意で目を覚ました。
一人でトイレに行くのは怖かったが、Yちゃんを起こす気にはなれなかった。
廊下に出て歩いていくと、高齢男性と出会った。
愛子さんは驚きながらも、会釈して 『こんばんは』 と言った。
だが、高齢男性は何も言わずにすれ違った。
どうも、愛子さんの存在に気付いてないようだった。
Yちゃんの部屋に戻ると、彼女は起きていた。
『おじいさんとすれ違ったよ』
『うちのおじい様、半年前に亡くなったよ』
おじい様の遺影と比べると、やせ細っていたが、顔は同じだった。
Yちゃんによれば、おじい様はおばあ様が亡くなったのち、急にやせ衰えていったという。

渋川紀秀
恐怖実話 狂忌 渋川紀秀 竹書房文庫
「ささやく男」
美希さんが高校生の頃、家族はある古びた一軒家を借りていた。
ある土曜日の昼過ぎ、インターホンが鳴り玄関へ急いだ。
友達が約束通りの時間に遊びに来てくれたのだ。
玄関の戸を開けると、友達が腰を抜かしていた。
『青白い男の人に、上から耳元で何かささやかれた』
友達はそう言っていた。ささやく声に振り返ると、スーツ姿の男の腰と、骨張った両手があった。
足は地面から離れていて、軒先に結んだ縄に首をかけた男が微笑んでいたという。

その男は女に裏切られたものの、毎日玄関の外で女を待ち続けた挙句に首を吊ったという。
あの時、腰を抜かした友達が何をささやかれたか思い出し、美希さんに伝えた。
― やっと来てくれたね ―
『きっとその男は、私の友達に女の面影を見たんだと思います』
友達は二度と美希さんの家に遊びに来てくれなかった。

渋川紀秀
恐怖実話 狂霊 渋川紀秀 竹書房文庫
「あぶないょ」
『朝のラッシュ時に電車に人を押し込むことが主な業務でした。八時はホームに人が溢れる
ような駅でした』
ある日、いつものように乗客を懸命に肩で押し込んでいると、背後からしゃがれた声が聞こえた。
----あぶないょ、今日は落ちるよ。
乗客を押し込んだあとで辺りを見回すと、電車が出発したあとのホームをよたよたと歩く
腰の曲がった白髪の老婆の背中が見える。
しばらくすると、老婆は階段の陰に消えた。
その日、人身事故が起きた。しゃがれた老婆の声を聞いた三十分後のことであった。
その事故を別の補助員が見てしまったという。
『亡くなったのは若い女性だったそうです。その補助員に、例の白髪の老婆を見なかったかって
聞いてみたんですよ。あぶないょって言っていた老婆が、その女性を突き落としたんじゃないかと
思ったものですから。でもレールに落ちる直前、その女性の周りには誰もいなかったそうです』

別の日、『あぶないょ』というじゃがれた声を聞いた補助員がいる。
やはり、その声がした日に事故が起きたという

渋川紀秀
「アメリカの安宿」 渋川紀秀
Yさんは、大学の友人Oさんとニューヨーク市のブルックリン近郊を旅していた。
旅慣れたYさんは、ガイド料として食費、宿泊の一部をOさんに出してもらっていた。
旅行三日目、Oは一人で行動したいと言い出した。
Oさんの負担をあてにしていたYさんは困り果てた末、一つの策を講じることにした。
Yさんの泊まった寝室の天井には 『HELP ME』 (助けて)といういたずら書きと思われるものがあった。
怖がりのOさんは、幽霊のたぐいが大の苦手。
深夜、Oさんが寝た頃を見計らってOさんの部屋に侵入。
Oさんの耳元で 『HELP ME』を何度か囁いた・・・・
翌朝、Oさんが部屋に押し掛けて来るなり
『この宿はヤバイ。宿を変えよう』 と言い出した。
Yさんは、『うまく行った』と思いながら、最後のだめ押しをしようと自室の天井のいたずら書きを探した。
そこには 『KILL YOU』(おまえを殺す)と書いてあった。
他を探しても、文字が書かれた箇所は、そこしかなかった・・・・
『ああ、やばいなこの宿。宿をかえよう』
そう言う自分の声が、やけに低く感じたという。

久田樹生

久田樹生
「無銘の刀」
東郷家では、戦後、大小揃いの無銘の刀を所蔵することになった。
その刀に、東郷家の主の祖父は惚れ込んでいたのである。
いつでも目にできるよう、刀は床の間に飾られていた。
ある日、この刀が無くなった。
新興宗教に傾倒した祖母が処分したためだった。
さっそく、売った店に問い合わせをし、方々探したが、刀の行方はわからない。
そんな中、突然、刀が宅配便で送られてきた。
お礼をと思ったが、送り主の電話番号、住所に連絡は付かなかった。
次は、泥棒に刀を盗まれた。
そして、今度も刀は戻ってきた。
深夜に玄関が叩かれ、誰もいない玄関の外に置かれた箱に入っていたのだ。
その後も、祖父は刀を大事にしていた。
そんな祖父が急死した。
葬儀を終えると刀の事を思い出した。
床の間の刀を確かめると、太刀の鞘が割れ、刀身の輝きが無くなっていた。
脇差もまた、同じ状態であった。
大小が修理から戻ると、家族全員の夢に祖父が出て
『あの刀を手放してほしい。あれはもう死んでいるから』
現在、あの刀は東郷家にはない。
今も家族はこんな話をする・・・・
『祖父が刀を連れて行ったのか。それとも刀が祖父を連れて行ったのか』

住倉カオス
百万人の恐い話呪霊物件 住倉カオス 竹書房文庫
「メメントモリ」
葬儀社に努める女性が同僚と二人で、病院で亡くなった方を自宅まで搬送したときのこと。
その遺体は男性で、定年退職後、しばらくして亡くなった方で享年六十一歳であった。
搬送車は同僚が運転し、彼女は助手席に座っていた。
しばらく走っていると、後ろから突然・・・
『次、右』 という男の声が聞こえた。
彼女たちは息を飲んだ。もちろん、彼女たち以外に人は乗っていない。
『これは言う通りにしないとまずいぞ』 二人で同じことを思ったとのこと。
『次、左』 『次、左』 『次、右』 指示が出なくなったところで自宅へと向かった。
自宅に到着したが、後ろの車から降りてきた遺族には ”故人が化けて出た”と取られかねないと
思って、今の話はできなかった。
『すみません、遠回りしちゃって』 と言うのが精一杯であった。
だが、車から降りてきた故人の奥様は深々と頭を下げ礼を言った。
『ありがとうございました。○○(故人の長男)から聞いていたんですか?』
よくよく話を聞くと今通ってきたルートは、故人の勤めていた会社の前と、休みの日によく釣りに
行っていた川沿いだというのだ。
驚いた女性は、これは話しても構わないと思い、車の中での出来事を正直に奥様に話した。
それを聞いた遺族一同はとても驚いていたそうだ。

住倉カオス
「交差点の想い出」 あきこさん(仮名・事務員)
私が学生時代の話ですが、当時の私は色々なことが重なって、心身ともに不調な時期でした。
どうしても出かけなくてはならない用事が出来て、駅への道を歩いていると・・・・
交差点で変な女の人がいる・・・すごく長い髪の毛を振り乱して・・・服がボロボロで・・・・。
このまま進んで行ったら、あの人に対面してしまうと思い、嫌だったのですが行くしかなくて。
その女の人とすれ違うほど近づいた瞬間でした、耳元でボソッと・・・
『おまえ、見えているんだろう?』
それで『え?』と思って、すぐに振り向いたのですが誰もいませんでした。
周りに隠れる場所もなかったのです。
『うわぁ~怖い・・・』 と思いながら駅へ向かい用事を済ませ、また駅へと戻って来ました。
そして、駅からの階段を降りていると、進行方向の交差点のところにさっきの女が見えたのです。
『これはまずい。今度は何が起こるかわからない』 と、その日は友人に連絡を取って泊めてもらい
ました。
今だから話せますが、しばらく怖くて誰にも言えなかった出来事です。

小田イ輔

小田イ輔
「お祓いしていますから」
Hさんが母親の見舞いのために病院の玄関を入ったのは二十時ころ。
面会時間ギリギリだったため、人はまばらだ。
母親の部屋へ向かおうとエレベーターに乗り込んだところで、こちらに駆けて来る女性が見えた。
あの人もエレベーターに乗るのだろうと『開』のボタンを押したまま、待った。
急いでいる様子の割に音もなく乗り込む女性は、Hさんに黙礼をするでもなく奥へと進んだ。
『何階ですか?』 とHさんが尋ねるも無言のままなので、Hさんと同じく三階へ行くものと理解した。
”チン”と音がしてエレベーターのドアが開く。
Hさんは『開』のボタンを押すと 『どうぞ』 と言って振り向いた。
誰もいない・・・・
さっき駆け込んで来たはずの、あの女性がどこにもいない。
エレベーターから飛び出ると、足早にナースステーションへ向かった。
途中、顔見知りの看護師を見つけて縋り付く。
『いま、あの・・・エレベーターのなかで・・・・』
取りみだしたHさんの様子に、看護師は動じるでもなく言った。
『大丈夫ですよ、ちゃんとお祓いしていますから』
『大丈夫って・・・・だって、いま・・・・』
『大丈夫です、ご安心ください』
もう、頷くしかなかった。つまり、お祓いしないと大丈夫じゃないものが”出る”・・・・
異界怪談 闇憑

黒史郎

黒史郎
異界怪談 闇憑 黒史郎 竹書房怪談文庫
「お祭り」
福岡県の田舎に住む親戚から、和田さんが二十年以上前に聞いた話。
戦前のことだという。
椎茸の採れる四月前後、村の人たちが集まる日があった。
お祭りとかオコモリといっていたが祭囃子などもなく、家々で寿司やら握り飯を作って、それをヒノキの薄板で
作ったワリゴという箱に入れて氏神様のところへ持って行った。
それが済むと集会場に集まって、多めに拵えてあった寿司とにぎり飯と煮物なんかを並べ、皆で食べる。
ある年、氏神様に供えるほうではない、皆で食べるほうの握り飯だか寿司のなかに、指が入っていた。
子供の指で、そんなものが入った握り飯だか寿司が十二、三も出てきたものだから大騒ぎになった。
村の子供は一人もいなくなっていないので、どこの子供の指なのかもわからなかった。
異界怪談 暗狩

黒史郎

黒史郎
異界怪談 暗狩 黒史郎 竹書房怪談文庫
「鬼圧」
怜美さんが島根にある友人の実家へ泊まりに行った時のこと。
夕食をご馳走になっている時、友人の母親から 『経験ある?』 と訊ねられた。
怜美さんは質問の意図をちゃんと理解していた。
事前に友人から 『うちのマミー霊感あるんだよ』 と聞いていたのだ。
『ないです』 と怜美さんは答えた。
『じゃあ、話しておいた方がいいかもね』
友人の母親・咲江さんは、この家の立地の話をし出した。
近くには古い葬祭場があり、まわりには三軒の民家があり、そのうちの一軒が友人宅である。
『何が言いたいかというと、うちの入り口と葬祭場の入り口がまっすぐ繋がっていて、入り口は出口でもあるから
葬祭場から出てきたものが、この家にまっすぐ入って来ちゃうってこと』
仮通夜は故人と遺族が過ごす最後の夜であるが、住宅地が近いこともあって、遺族は自宅に帰ってしまう。
そのため、葬祭場に残された故人が寂しがってこの友人宅に来ることがあるのだそうだ。
『と言っても、すたすた歩いて入って来るわけじゃないの』
まず、家で飼っている犬が急に激しく吠えだす。
玄関ドアが開く音がする。
ドアが開くと気圧で一瞬カーテンが膨らむ。
そういうことが起き出したら、入ってきていうのだという。
怜美さんはおそるおそる訊ねた。
『それって・・・何か悪いことが起きたり、変な物を見ちゃったりとかは・・・・』
ないない、と咲江さんは笑いながら手を振る。
『なにかあったら、ここに住んでないから』
すると、友人宅のコーギーが急にバフッバフッと吠え出した。
玄関の方からガチャッとドアの開く音がする。
室内をぬるい空気が流れていき、怜美さんの肌を舐めていく。
『えっ? なに? なにこれ?』
咲江さんは 『ほらね』 という顔をしていた。

黒史郎

黒史郎
異界怪談 底無 黒史郎 竹書房文庫
「にけつ」
八城さんはバイト帰りの夜道で 『おう』 と声を掛けられた。
『あ、どうも、こんばんは』
地元の不良グループに属している先輩だ。腕っぷしは強いが暴力沙汰を好まず、性格も
優しくて面白いので後輩からは慕われている人だった。
この時、先輩は錆びた自転車に乗っており、後ろに小学生くらいの男の子を乗せていた。
『弟さんですか?』
『そやねん、こいつがな、そこの文房具店に行けって、うるさいねん』
『でも、もう閉まっているんじゃないですかね』
『でも、しゃーないねん』
その夜、先輩は文房具店付近の道路で軽自動車に撥ねられて亡くなった。
教えてくれたのは、先輩から家族同然に可愛がってもらっていた後輩だった。
弟の安否について尋ねてみたところ、『え?』という顔をする。
『弟さん、まだ小学生だろ? どうだったか心配でさ』
『いや、死んじゃいましたよ』
・・・・ああ、そうだったのか・・・・ぎゅっと胸が痛くなった。
『でも、けっこう前の話ですよ』
『・・・前?』
『ええ。四、五年前ですよ。交通事故で』
え、じゃあ、あの子は・・・・あの晩に先輩が後ろに乗せていたのは誰なのだろう。

黒史郎

黒史郎
異界怪談 暗渠 黒史郎 竹書房文庫
「白髪」
ある夏の晩。
菜苗さんが眠っていると、『えーん、えーん』 と子供の泣く声が聞こえてきた。
見ると部屋のドアが開いていて、とば口に子供の影が立っている。
菜苗さんが目覚めたのがわかったのか、『ママ、ママ』 と呼び始めた。
『なに? そこでなにしているの?』 とたずねた。
『おばあちゃん、きた』
そういうと足元に何かを置いて、パタパタと走り去ってしまった。
部屋のあかりを点けると、先ほど子供が立っていた位置に白髪が束で落ちている。
隣で寝ていた夫を揺り起こし、今あったことを伝えた。
夫婦に子どもはいない。
白髪がなにを意味するのか、わからないという。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 漆黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「まきう」
鹿塩さんが自宅でテレビゲームをやっていると、急にザァァァァッときた。
窓の向こうの景色が、あっという間に白く煙った。
『すげぇ雨だなぁ』
呑気に眺めていたが、洗濯物を外に干していたことを思い出し、慌ててベランダへ出た。
バケツをひっくり返したような大粒の雨が横殴りに吹きつける。
『痛ぁ~!』
雨が熱かった。
熱いを通り越して痛かった。
雨の当たったところが焼けるような痛みが走る。
瞬間的に 『酸性雨』 という言葉が脳裏に走り、死に物狂いで部屋の中へ転がり込んだ。
雨はすぐに止んだ。
洗濯物は無事、濡れずに済んだ。ベランダも鹿塩さんも濡れていなかった。
雨の痕跡が全くない。
ただ、シャツの肩の部分に虫食いのような穴がいくつも開いていた。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 魔黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「らいおんがいる」
十二年前のことは、まだ亜美さんの中で不気味な靄として残っているという。
年長さんの息子が唐突に
『じいじの家にライオンがいる』 と言ってきたことがあった。
じいじとは、新潟に住む亜美さんの義父のことで、息子はまだ二回しか行ったことがない。
『じいじはライオンとなにしているの?』
『じいじ、食べられちゃった』
『え?食べられちゃったの』
その日の午後、息子を迎えに行こうと準備していた時に電話があった。
義父の家が火事になり、家は全焼、義父だけが亡くなった。

ひと月が過ぎ、やや落ち着きをとりもどした頃のこと。
幼稚園の先生から、二か月前に息子が描いたという絵を返された。
しばらく玄関に展示されていたので、返すのが遅れたのだそうだ。
そこには、ライオンと、眼鏡をかけて灰色の服を着た人が描かれている。
ひと目で灰色の人は義父だとわかった。
ライオンは、グラデーションの鮮やかな炎のようなタテガミだったという。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 闇黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「鑿と盃」
昨年の春頃から花野さんの住むマンションの部屋に二人の幽霊が現れている。
一人はアイヌの民族衣装のようなものを着た高齢の男で、手には鑿と木槌を持っている。
鑿を構え、木槌を振り上げ、何かを彫るような所作をするが、音はなく、彫っているものは見えない。
それと向かい合う形で、凛とした居住まいの白装束の髪の長い男が現れる。
雰囲気から年齢は二十代くらいで、浮き出るように鮮やかな赤色の小さな盃を持っており
それを勢いよくクイッと呷る。
二人は同時に現れ、各々のやる事を黙々と繰り返すだけで、互いに目も合わせない。
おそらく、花野さんにも関心を持っていない。
そのような状況なので今のところはこれといった害はないという。
出始めの頃はすぐに引っ越したいと思ったが、何度も見ているうちに少しも怖いと思わなくなった。
ただ、これが現れると落ち着いて眠ることができず、二人とも一時間は同じことをやり続けるので
その点は少し困っているのだそうだ。

黒史郎

黒史郎
「できもの」
『これ見てよ、最悪なんだけど・・・』
呉君がアルバイトから帰ると、同棲中の彼女が顔を近づけてきた。
聞けば、目頭の横に土留色の粒が出来ていると言う。
『ねえ、こんなの前からあった? けっこう前からあった?』
そう何度も聞かれるが、正直にわからないと答える。
下手にいじると良くないからと、皮膚科を受診することを勧める・・・・
そんな夢を見て、目が覚めた。
夢の内容は現実とは程遠い、彼女もいないし、同棲何て、ほんとの夢。
しかし、彼の眠る布団の後ろには、もう一人の存在を感じる。
触れ合うほどの近さに顔があるようだが、吐息は聞こえない。
『皮膚科行った?』 思わず口に出して聞いてみた。
部屋の中の蛍光灯が勝手に点灯し、視野が一気に広がった。
おののきながら、後ろを覗いてみたが夢の彼女はいなかった。
その代わり、テレビに女の白い顔が映り込んできた。
『夢の彼女の顔ではない』
怖くなった彼は、携帯電話と財布を持って部屋を飛び出た。
部屋を出る間際に何か聞こえたが、何を言っているのか確かめる気にはならなかった。

黒史郎

黒史郎
「運動部の秘め事」
夏目さんが高校教師だった二十年以上前の話である。
当時、運動部の部室は、あらゆる校則違反の温床となっていた。
顧問の教師が部室に一切顔を出さない、それをいいことに好き放題していたのである。
教師の多くが風紀の爛れをわかっていたが、面倒という気持ちが先立ち、見て見ぬふりで放置していると
いう状態だった。
夏目さんは、こういう教師の怠慢が許せなかった。
自分が顧問を務めているバレーボール部は、月に一度、抜き打ちチェックをしていた。
いきなり鞄を開けさせる場合もあるし、練習中に無人の部室に入り、違和感がないかを確認することも
あった。煙草の臭いは誤魔化せないという。また、不自然な香水の匂いも、煙草の臭いを消すための
ものだという疑念を抱くという。
そんなある日、部室の臭いに問題がないと思った・・・・その後に・・・におう・・・精液のにおいだ。
その先にはスポーツバッグがあり、もごもごと動いている。
精液のにおいが漂うスポーツバッグからは赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
部員全員を部室に連れていき、目の前でスポーツバッグを開けさせたが、泣き声を発するこうな物は
なかった。
それ以来、風紀にうるさく言わなくなったが、「避妊だけはしっかりしろ」と忠告していたそう。

桜井館長
保志乃弓季
関谷まゆこ

「ビジネスホテルの怪」
都内の大きな駅から徒歩五分圏内というビジネスホテルでアルバイトをしていた時の話。
そのホテルには、建物内に専用のカフェと居酒屋があり、私はどちらのシフトにも入っていた。
居酒屋には若い女の子のアルバイトが何人かいるのだが、そのうちの一人がこんなことを言っていた。
『怖いからもう辞めたい』
何が怖いかと聞くと、自殺者と思しき霊が居酒屋に出るというのだ。
私は、彼女の言葉をあまり信じていなかった。
ある日、客室で遺体が発見され、大騒ぎになった。状況から自殺と断定されたそうだ。
翌日、出勤して店長から聞いた。その後、ホテルの支配人から自殺の状況を聞かされた。
『バスタブに水を張って手首を切って・・・・真っ黒いドレスみたいな布を着て、気味が悪かった』
その日の仕事の終わり間近・・・
居酒屋のバックヤードに入ると、アルバイトの女の子のひどく怯えた様子が目に付いた。
『怖いから辞めたい』と、以前から言っていた子だ。
彼女は、廊下の曲がり角を指差すと
『あそこにいる』 と言ったが、私には何も見えない。
『黒いマントみたいな物を着て、手首には包帯が巻かれている・・・・・』
彼女は涙目で、そう訴えながら震えていた。

明神ちさと

明神ちさと
「ふすま」
A子さんの住んでいる家は、曾祖父の代から受け継がれてきた見事な日本建築。
本人曰く、家も古くなると余計なものが憑いてしまう。
憑いているのは女らしい・・・『女』と断言できないのは華奢な指先しか見えないため。
夜中に、トイレに行ったり水を飲もうと自分の部屋を出て、戻って来たときにふすまの
下の位置に白い指先がヌッと出てくることがあると言う。
ちなみに、指先の先は真っ暗で何も見えないとのこと。
御主人が存命の頃は、指先にかまわずピシャリとふすまを閉めていたが、今は
年のせいか、指先の存在する間を開けて、ふすまを閉めるという。
怖いと言うより、気味が悪いんだとか。

明神ちさと

明神ちさと
「エクストリーム」
知人から、エクストリームスポーツをやっている人に話を訊くのがいいよと言われた。
何故なら、彼らはまさに死と隣り合わせだからだそうだ。

夏はサーフィン、冬はスノボー、合間にスケートボードをしている和田さんに訊いた。
『確かに練習中に変なものを視ることはありますが、あんまり気にしないですね。
お化けそのものより、そっちに気を取られた結果の怪我の方が怖いのですし』
彼が、フリースタイルのモトクロスをやっている人から聞いた話では、試合中、背骨を
折って死んだはずの選手が隣で跳んでいるのを視たとのこと。
グニャグニャの身体で、ちゃんと技をこなしていた。
このお化けの出所はハッキリしていて、少し前の試合で着地に失敗、自ら運転していた
バイクの下敷きになり亡くなった選手だという。
そのお化けを目撃した選手は、ヤバイと思って自分のバイクを思い切り前方へ
投げ出したことで、奇跡的に捻挫一つ負わずに着地できたとのこと。

MoMo

MoMo
「エレベーター」   愛知県・D温泉 『ホテルD』
神戸の食品メーカーの旅行会に添乗した時の出来事です。
宴会の後、翌日の打ち合わせをするために、お偉いさん二人と幹事さんと私の四人は
ホテル内のラウンジへ行くためにエレベーターに乗りました。
エレベーター内には二十代の女性がいて
『何階に行かれますか?』  『はい、△階をお願いします』
彼女は△階のボタンを押すと、今度は少し前に屈むような姿勢で、こう言ったのです。
『さて、ぼくは何階に行くのかな?』
え? 私には彼女が話す相手が見えません。
『は~い、◇階ね。すぐ着くからね。 へ~、パパとママと一緒に来たの。いいなぁ~』
私が呆気にとられている間にエレベーターは◇階に到着。
『は~い、◇階だよ。早くお部屋に行かないと、パパとママが心配しているぞ』
彼女はエレベーターのドアが閉まるまで、廊下に向かって手を振っています。
エレベーターのドアが閉まったのを見計らい、幹事さんが彼女に聞きました。
『失礼ですが、今、誰とお話しされていたのですか?』
『誰とって、今、◇階で降りた幼稚園生くらいの男の子ですけど? あなた方が乗られた
階から乗って来られた・・・・・』
『いえ、私たちと一緒に男の子は乗って来なかったですよ』
『え? でも』
そこで私も言いました。
『確かに、エレベーターに乗ったのは私たちだけで。他には誰もいませんでした』
『でも、私・・・確かに男の子がいて・・・・・』
その時、お偉いさんの二人が、私たちに向かってこう言ったんです。
『K君(幹事さん)とMoMoちゃんは、いったい誰と話しているんだね?』
『え? こちらの女性ですが・・・』
『おらんよ、誰も』

MoMo

MoMo
「性霊??」 宮城県・A温泉
A温泉と言えば、伊達正宗公の御殿湯として有名ですが、出るんです。
二十四~五歳くらいの芸者さんの霊が出るのですが、これが性霊。
好みの男性を見つけると現れて、コトが終わるとス~ッと消えるんです。
彼女が消えた後の布団は水浸しになり、残された男性の身体は彼女の手に触れられた
箇所が氷のように冷たくなり、しばらくの間は動けなくなるんだとか。
私、この霊を見ているんです。
数年前、この近辺を散歩していると、前から凄く艶っぽい芸者さんが歩いて来たんです。
すれ違う時の物腰に品があり、また微かに香るお香にも品があって、思わず振り返った
のですが、彼女消えていたんです。
今すれ違ったばかりだというのに・・・・
その時 『あの人が噂の・・・・』 と思ったんですよ。

神薫

神薫
宇津呂鹿太郎

久田樹生
鈴堂雲雀
橘百花
戸神重明
三雲央
泡沫虚唄
「心霊煙草」 神薫
或る女性霊能者を取材するために訪れたライブハウスでのこと。
『ここ、お化けがいるそうですね?』
『今日もいますよ。あそこに浮かんでいますね』
彼女の指摘した位置は噂と一致していた。
バー営業中のライブハウスなので、奏者は居ず、静まり返ったステージ上。
『私の身体に触っていると、霊感のない人でも見えることがあります。やってみます?』
という、彼女のお言葉に甘えて手を繋ぐ・・・1分間ほど経過したが視界に変化はない。
『あ、だめですか。じゃあ、これならわかりますよね?』
彼女は繋いでいた手を離すと煙草に火を点けて、ステージに向けて煙を<ふーっ>と
吐いた。
窓もなく空調もない部屋の中にも関わらず、煙はステージ上で鋭角に方向を変えると
お化けがいるという、ステージ右隅へと流れ着いた。
『煙草の煙は、霊のいる方へ流れて行くんですよ』
いつも霊が見えると疲れるので、自ら蓋をして霊を見えなくしていることが多いとのこと。
そんな時は煙草の煙で、霊が忍び寄って来ていないか確認しているという。

BBゴロー

BBゴロー
「配達」
M君が酒屋でアルバイトをしていた時のこと。
酒屋の納品は3連休の前と後が忙しくなるそうです。
そんな三連休明けの昼間・・・
『早くしてくれないと困るから。ね~わかってる?』
飲み屋のビルに入っている古くからやっているスナックのママだ。
もう70歳を超えていると言われているが、濃い化粧と派手なスタイルの名物ママ。
連休前に注文した物を早く持って来いというのだ。
『今日は開店時にちゃんと入れてもらわないとダメなの。たくさんお客が来るから』
『すみません。この後、すぐに回りますから』
何度目かの催促の電話に、そう答えて彼は配達に出た。
『すみませ~ん、』 なんとかギリギリ間に合った。
謝りながらドアを開けてギョッとした。
八席ほどのカウンター、全てに人が座っていた。
『連絡が行ってなかったかな?』 一人の初老の男性がM君に話しかけてきた。
『は? なんですか?』
『ママね、二日前に亡くなってね。今日は葬式の後、昔からの常連が集まっての追悼式
なんだよ』

国沢一誠

国沢一誠
「視えてますよ」
仕事で霊媒師の方に会った時のこと。
その霊媒師に、持っている心霊写真について意見を聞いていたところ、カメラが回って
いないところでしきりに言ってくる。
『あなたに憑いてますよ』
そう言われても 
『そうですか』 『ほんまですか』 
と返していたのだが、彼女の話は
『除霊をしなくてはいけない』 『除霊をしないと不幸になる』 
と飛躍した。
おまけに 
『除霊には何万円かかる』 
と金の話になってきた。
実は、彼女の後ろに女の霊が見えていた・・・恨みの籠った目で霊媒師をにらみながら
『うそつき・・・うそつき・・・うそつき・・・うそつき・・・』 とつぶやいていた。
自分に憑いている霊も見えない人が、他人に憑いている霊が見えるわけがないと思い
この霊媒師の言うことは信用しませんでした。

居島一平

居島一平
「楽しい学校」
東京の西のはずれの方で廃校になることが決まった小学校があった。
校舎の老朽化と児童数が確保できないとのことでの決定だった。
歴代のOBたちを招待して、校舎の前で記念撮影をしようという企画がもちあがった。
正規のカメラマンに依頼して、お爺ちゃんお婆ちゃんになった卒業生から現役の小学生に
至るまで、さまざまな年代の人間を集めての撮影は実施された。
紙焼きされた写真は、確認のため校長ほか地域の役員の人に届けられた。
それを見た皆が、校舎の四階の教室の窓を指さして
『この子はいったい誰?』
そこには満面の笑みを浮かべた男の子の顔がのぞいている。
『撮影当日は、こんな男の子、いませんでしたよ』
どう考えても『この世』のものではないだろうと皆が納得し、いったい誰なのか、歴代の
卒業アルバムを引っ張りだして調べてみた。
しかし、似た子供さえ見つからない。
『学校ができる前のこの土地に関係する子供なのか、それとも事情があって学校に
通えなかった子供なのか』
霊の存在など信じないようなオジサンたちが、あまりにも満面の笑みを浮かべてハッキリ
と写り込んだ子供の顔を見て、そんな結論付けをした。

ファンキー中村

ファンキー中村
「恩賜の軍刀」
十年ほど前の話。当時私が経営する会社では『家屋解体』を専門に行うグループがあった。
『社長、実は困ったものが出てきまして・・・・現場に来てほしい』との要請を受けて現場へ。
『朝一番で神主が祝詞をあげていると、大地震と言うか台風と言うか、物凄く建物が
ガタガタと揺れたんです。神主も驚いて、こんなことは初めてだって』
『それで何が出てきた?』
社員が持ってきたのは一振りの軍刀であった。
恩賜の軍刀・・・戦前、天皇陛下から授与された名誉な品。
施主はこの軍刀を受け取らないばかりか、いらない、捨ててくれと言うとのこと。
私は施主に電話をして、この御刀はお祖父様が大切にしていた品なので遺志を受け
継いで欲しい旨、伝えました。

その晩の寝入りばな、社員から電話が入って、すぐに現場に来てほしいと言う。
車で現場に行ったが誰もいない代わりに、白い軍服に身を包み多くの勲章を胸に付けた
伊藤博文公にそっくりな軍人と思われる人が立っていた。
『面目次第も御座らぬ』 そう言うと右手を上げ敬礼をした状態で薄くなっていった。
『ちょっと待って!』 自分の声で覚醒すると、なんと布団の中だった。
翌日、施主から電話があり、刀は大切に保管するので返してほしいとのこと。
早速、軍刀を持って伺ったついでに、なぜ気が変わったのか訊ねてみると
『昨夜、元気だった頃の祖父が夢に出て来まして、怒鳴られた揚句、軍刀の鞘で頭を
殴られまして・・・・』
『お祖父様のご尊顔を拝見してもよろしいですか?』
施主が持ってきたアルバムに写る姿は伊藤博文公にそっくりの、あの人物だった。

久田樹生

久田樹生
「凶涯渡世、の凶涯は、凶と境涯を融合させたものだ。それぞれの意味は彼のことを間接的に言い表して
いるかもしれない。と同時に渡世もまた、同じ役割を担わせた。
そして、この『凶涯渡世』には隠された副題がある。懺悔録、である。
どうして彼が私にここまで語ってくれたのかを考えるとそう思えて仕方がない」 (本文より)

本書は、所謂人生の裏街道を歩んだ、とある男の一代怪異録である。
悪事と恐怖の記録と言ってもいい。血と業、人の欲望と悪意が彼岸から引き寄せてしまった恐るべき怪事の
すべてをここに記す・・・・・

久田樹生

久田樹生
某氏は夜中に車を走らせていた。
すると、道路の真ん中に裸の子供のような姿がヘッドライトに映し出された。
それは、あっという間にガードレールを飛び越え、川へ飛び込んだ。
急ブレーキをかけ、あわてて外に飛び出し、ガードレールから身を乗り出して
川面をのぞきこむが、わずかな波紋が残るばかりだった。
子供の腕は異常に長かったという。

某氏とは別の男性が、夜中の国道を車で走っていた。
大きな河川にかかった橋を渡っている時、橋の手すりに座る裸の子供を発見した。
何をしているのかと思った瞬間、子供は下の川めがけて飛び降りてしまった。
唖然としながら橋を横を通り過ぎる・・・
子供の腕は異常に長かったという。

外薗昌也

外薗昌也
黒異本 外薗昌也 廣済堂文庫
数々の話題作を手掛けてきたホラー漫画家・外薗昌也が満を持しておくる
背筋も凍る実話怪談、第2弾。
「怪談作家とは忌まわしい話ばかり聞き込み、文にする商売だ。」
その言葉通りの忌まわしい〈死〉に纏わる奇妙な話が目白押し。
「ドッペルゲンガー」「怪トンネル」「人形の話」「団地」「黒い人」、前作で読者を震撼させた
「僕の家」後日談も収録。
巻末にはホラー作家。黒史郎氏との対談を掲載。
「読後感、最悪!」と、折り紙つきの怪談から目が離せない!」

外薗昌也

外薗昌也
「書かれたくない」
昨夜遅く、以前から気になっていた開店したばかりのラーメン屋に妻と行ってみた。
人懐こい店主と世間話をしている内に怪談を聞かせれて驚く。
短い話だったがあまりに怖いので、ラーメンがのびるのも構わずその場でメモを取った。
帰宅後、急いでメモを見ながらパソコンに書き込みして保存。
安心して眠りに就いた。
翌朝、起きてパソコンを見てみると、昨夜保存したはずのデータが消えていた。
どこを探しても、履歴もなし。
仕方ないので、昨夜書いたメモを探すが見つからない。
そこで、昨夜の話を思い出そうとするが、まるで思い出せない。
妻を呼び、せめてヒントでも聞き出そうとするが、妻も知らないと言う。
それどころか、昨夜はラーメン屋なんて行っていないと言う。
『書いちゃいけない話』だったのか? それとも『書かれたくない話』だったのか?
いずれにしても、またあの不味いラーメンを食べに行かねばならないようだ。

小林玄

小林玄
「怪談は感染する、その話をした人のところにやってくる、または試した人の身に降りかかる」
それが感染怪談だ。
かつて芸人としてデビューした小林玄は、現在『道化師』として国内外での活躍の場を広げている。
そんな彼のフィールドワークのひとつが怪談蒐集だ。
多彩な経験とネットワークから蒐集した多くの怪談から選りすぐりをお届けする。
霊を呼び出そうとしたグループが見たもの『ハイビーム』
すべては預言されている・・・・という言葉で始まるマジックが引き起こした怪異『予言霊』
怪異を体験したくてTVを購入した男の顛末『砂嵐の儀式』
など・・・。
読むことでリアル体験も可能かもしれない。

小林玄

小林玄
「ムシノシラセ」
昔の相方Hは、よく『ムシノシラセ』が来る奴だった。
彼が18歳の時に1ヶ月ほどアメリカへホームステイに行っていた時のこと。
一週間くらいで、なぜかホームシックにかかり、同時に『お祖父ちゃんに電話しなきゃ』と
いう思いに駆られて電話をしたら、Hの家にいるはずの母親が出た。
母親になぜ、お祖父ちゃんの家にいるのか尋ねると、お祖父ちゃんが亡くなったから
来ているんだけど、おまえのホームステイ先の電話番号がわからなくて困っていたとのこと。
タイミングよく息子から電話が来たので安心した様子だったと。
彼は、その場でホームステイ先の家族に事情を話し、予定を繰り上げて帰国することを
母親に告げて電話を切った。
その時になって、彼はお祖父ちゃんの家に電話をかけたことがないことを思い出した。
そのどころか、かけたことのないお祖父ちゃんの家の電話番号など記憶すらしていない
ことに気が付いた。
その後、いくら考えても自分がダイヤルしたお祖父ちゃんの家の電話番号は思い出せ
なかったという。

並木伸一郎

並木伸一郎
「塞がれた卵管」
美空さんには結婚を約束している恋人がいた。
すでに半同棲状態であるが、彼に離婚歴があることと高校生と中学生の子供がいること
姑、小姑が離婚の原因であることから、美空さんの両親が強く反対していた。
『さすがに孫ができれば両親も認めてくれるだろう』
しかし、5年6年と経っても妊娠の兆しがない。
『子供を作らないと実家に帰れない』と思い、不妊治療を受けることにした。
産婦人科での検査を終えた帰路、たまたま見かけた『占い』の看板に引かれた。
中に入ると、母親と同じくらいの女性がテーブルに座っていた。
せっかくだから子供がいつ頃授かるか見てもらおうと思い、今の状況を説明した。
しかし、占い師の口から出る言葉は『無理です』という、そっけないものだった。
『どんなことでも我慢できるのに・・・どうしてもだめなんですか?』と縋る思いで聞くと
『ごめんなさい。でも、無理さんです。どうしてかと言うと、あなたの卵管をあなたの
ご先祖様が握りつぶしているんです。今、この瞬間も・・・』
美空さんは彼と別れ、実家に帰った。

並木伸一郎

並木伸一郎
「ツクゾ」
1970年代から80年代前半にかけて日本中を席捲したコックリさん。
会社勤めをしていた当時の私も、常連のスナックにたむろしては仲間と興じていた。
コックリさんは、通常は2人以上で行うものだが、私は1人で試してみたことがある。
午前2時、鉛筆をグーに握り、鳥居の上に置いて呪文を唱えた。
3回目の呪文で、鉛筆を握る手に『ビビッ』という感覚が一瞬走ると手が勝手に動く。
『はい』 で止まったものの、質問をしているわけでもないのに手は再度勝手に動き
不吉な文字をなぞりはじめた。
『ツク』 『ツクゾ』 『ツケバハナレヌ』
『憑く』という言葉には、さすがの私も動転した。
困惑していると気分が悪くなり、脂汗がにじんできた。
コックリさんを返そうと、必死に呪文を繰り返すが手は動かない・・・
異変に耐え切れなくなった私は左手で、無理やり右手を紙から引き離した。
それ以来、鉛筆をこぶし握りをすると、紙の上で勝手に動くようになってしまった。
癖ではなく、何かが憑いている・・・・うっかりそれが始まると止めることは容易ではない。
その『憑き』は今も消えていない。

並木伸一郎

並木伸一郎
「猫の恩返し」
淑子さんが8歳の時にミーという猫が家族に加わった。
猫嫌いだった父が猛反対をしたが、飼うことにした。
それから17年が経ち、ミーは死んだ。
看取ったのも、一番大泣きしたのも、猫嫌いな父だった。
その1年後、父の喉頭がんが再発した。
一人暮らしをしていた淑子さんは、休みを取り、実家に帰った。
玄関を開けると、猫のミーがいるような懐かしい気配がした。
「お父さんを心配して、ミーちゃんが様子を見に来ているのかもね。」
母が冗談ぽく言っていたが、家族が皆、同じことを考えていた。
そして、淑子さんの夢にミーが現れ、何か言いたそうな顔をしていた。
その数日後、父の検査が行われた。
手術をするか、薬で治すかの判断をするための検査だった。
結果は、驚くことに癌が消えていた。治療前に消えていたのだ。
ミーが心配して治してくれた・・・淑子さんは信じている。

伊計翼

伊計翼
怪談社書記録 闇語り 伊計翼 竹書房怪談文庫
「無視できない」
Hさんがバイトをしていたカラオケボックスは京都にあった。
市外にあったせいか、週末でも滅多に満室になることはない店だった。
レジの下には、お客に見えないように貼られた、注意書きのような紙があった。

『いらっしゃいませ』 『ありがとうございました』 は愛想よくすること。
お釣りはしっかり数えるところをお見せして、間違いないようにすること。
部屋は明るくしてから、きっちりと掃除すること。
四つん這いの赤ん坊を見ても (特にお客さまがいるとき) 無視すること。

新しいバイトがすぐに辞めてしまう店だったという。

伊計翼

伊計翼
怪談師の証 呪印 伊計翼 竹書房文庫
「自殺目撃談」
ある昼に、会社で弁当を食べながら隣のビルにふと目をやった。
屋上で男性と女性が向かい合って話をしている。
柵を越えて立っており(あんなところで危ないな。落ちたらどうするんだ)などと思っていたら
本当に落ちた。
正確には落ちたというより、ふたりで息を合わせ手をつないで飛び降りたという感じだ。
他にも見ていた者がいたらしく 『自殺だ!』 とオフィスは大騒ぎになった。

ふたりが飛び降りる瞬間を、数人の社員が目撃していた。
しかし、死体は男性のものだけだった。
いちばん目の良い社員が言う。
『あの白い着物の女はどこに行ったんんだ?』

伊計翼

伊計翼
恐國百物語 伊計翼 竹書房文庫
「第十九話」
昭和六十年の夏、Sさんは高速で渋滞に巻き込まれていた。
『なんでこんなに混んでるんだよ』
助手席では、Sさんの妻がため息をつきながら彼の文句を聞いていた。
しばらくすると大破した車が二台見えてきた。
事故による、わき見渋滞だったのだ。
『なんだよ、事故かよ。すげえ迷惑、ホント腹立つわ』
そう言った瞬間に、流れていたラジオの曲がぶつッと消えた。
『あなたが、代わりに、死ねば、良かったのに、死ねば、死ねば』
おんなの声が大音量で響いてきた。
声は事故車の横を通り過ぎるまで、車内に響き渡った。

伊計翼

伊計翼
「第十九話」
平成二十四年の夏、ある少女が亡くなった。
彼女は常日頃から 『私には霊感がある』 とうそぶいていた。
まわりの友人の話によると 『絶対にウソ』 だということだ。
どうしてそう断言できるのかと聞くと
『どうみたって目立ちたいだけですもん』
友人たちは全員、そう口をそろえて答えた。
皆さんは幽霊を信じていないのですか?と尋ねると、意外にも全員が信じているとのこと。
『だって、その子が死んだのって、多分幽霊のせいだと思います』
その少女は心霊スポットへ肝試しに行って、皆の前で自己流の『お祓い』を披露した。
その夜に彼女は亡くなったのだ。
彼女の死因は、就寝中に布団の中で、首を骨折したことによる窒息死だそうである。

伊計翼

伊計翼
怪談社 黄之章 伊計翼 竹書房文庫
「趣味」
ある女性がお見合いパーティに参加したときのこと。
『ご趣味はなんですか?』の問いに、ある男性がこう答えた。
『珍しいと言われるのですが、私の趣味は霊を集めることです』
『幽霊が視えるのでしょうか?』
『はい、視えます。幽霊はいろいろなことを教えてくれます。例えば寿命とか』
『あなたの寿命は、あとどれくらいなんですか?』
『私の寿命はまだまだですけど、あそこに居る男性は間もなく寿命が尽きます』

(今日はいい人いなかったな、次に期待しようっと)
女性は会場をあとにすると、横のカフェに入って文庫本を読みだした。
すると救急車がやってきて、先ほどお見合いパティーで話した男性を運んで行った。
『あら、あの人って・・・』
『だから言ったでしょ。あの人は、もう寿命だったのです』
ふいに後ろから声を掛けてきたのは『霊を集める』と言った男性だ。
『あなたも長くありませんから、こんな所で本を読んでる場合じゃないですよ』

伊計翼

伊計翼
「おっぱい最高」
男ばかりでキャビンに泊まりにいった。
たくさんある部屋の一室でひとりで眠っていると、いい香りが漂ってきた。
洗いたての服についた柔軟剤のような香りだ。
目をあけると暗闇のなか、おんなの服が浮いている。
ちょうど自分と重なりあうように、目の前にあるのは胸のふくらみだ。
妙な衝動に駆られて、思わず抱きしめてしまう。
胸の感触がちゃんと伝わってきた。
『おっぱい最高!』
おんなの顔が気になって、そのままの体勢で見上げる・・・・

首から上がなかった。

伊計翼

伊計翼
「真夜中の人力車」
R代さんが京都に住んでいたころの話である。
ある夜のこと、友人宅に向かって歩いていると人力車を引いた車夫とすれ違った。
時計を見ると午後十時を過ぎている・・・
『こんな時間に仕事をしているわけないよね・・・』
人力車を移動させているか、走りの練習をしているかだろうと思った。

友人宅に到着後
『そういえば、さっき人力車を見たよ』
その瞬間、友人と家族が真っ青な顔をした。
『ここらへん、観光地と違うでしょ。アレは人間やないよ』
友人の母親が真剣な顔で言った。

伊計翼

伊計翼
「水風船」
休日の昼間、Tさんは大学時代の先輩と再会。
その先輩が、手伝って欲しいことがあるのでウチに来てくれと言う。
その足で先輩のマンションへと向かうと、十四階建ての最上階の2DK。
で、自分は何を手伝えばいいのか?と尋ねると、もうすぐ来るからとのこと。
『来た!』とのことで、先輩は窓を指さす。
鳥が一羽、窓に向かってまっすぐに飛んでくる。
(鳩・・・? いやあれは白いボールのような塊)
『なんか、飛んで来ますよ』
『お前、見えるんか?ホンマに見えるんか?』
『見えてまよ! あ!あぶない。ぶつかる!』
塊は窓の外側に、べっちゃッと貼り付いて、真っ白な顔になった。
『うわぁ~、なんですか、この顔は!』
『お前、ホンマに見えるねんな。やっぱりこれ、そうなんや。供養へ行った方がいいよな』
Tさんは、耐えきれずにその場から逃げ出した。
窓に貼り付いたのは、おんなの顔だった。

伊計翼

伊計翼
「追心」
Iさんが彼女とラブホテルに行った時の話。
どのホテルが良いか、彼女に選んでもらって入った。
入ったホテルの受付では、二人でパネルを見ながら入る部屋を決めた。
エレベーターに乗り、二人で選んだ部屋の階で降りて、ランプが点灯する
方向へ向かう。
彼女がドアを開けた。
『あ、ごめんなさい』 と言ってドアを閉める。
『どうしたの?』と尋ねると
『部屋を間違えちゃったみたい』と答えた。
しかし、部屋のランプはちかちかと点灯している。
ここで間違いないと、再度ドアを彼女が開けるが人がいると言う。
Iさんが中を見ると、ベッドの上にIさんの浮気相手が座っていてドアの方向を
向いている・・・
にたり・・・と笑って、うすくなって消えた・・・

伊計翼

伊計翼
「刀がおかれる」
刀がおかれた患者は死ぬという光景を見てきた看護師のM保さんの病院のもとへ
友人I美さんの娘であるYちゃんが運び込まれてきた。
公園から飛び出したところを車に跳ねられ、意識はない。
五時間にも及ぶ手術の末、集中治療室へ移された。
I美さんのもとへ行くと、医師から説明を受けているところだった。
『今夜持てば助かるって。でもそれって今夜で駄目かもしれないってことでしょう?』
集中治療室が見える待合室でI美さんが泣き続けている。
今夜持てば助かる・・・・しかしM保さんにはもう1つ不安なことがあった。
刀である。ほとんどの刀は、この集中治療室でみている。
なんとか、あれを止める方法はないのか。
一晩中見張っていれば刀をおかれることはないのか、M保さんにはそうは思えない。
(どうせ刀が置かれるなら、もういっそのこと・・・・)
『I美・・・聞いて』 伏せていた顔をあげたI美さんにナイフを突き付けた。

ひと月後、Yちゃんは無事に退院した。
あの夜、M保さんはナイフをYちゃんの胸元に置くと、I美さんに
『おまじないだから、このままにしておいて。そして、眠らずに入口を見張って』
I美さんの話によると、深夜三時ころの疲れがピークに達したころ、人の形をした影が
ユラユラ揺れているのが見えた。
影はしばらく入口に立って様子をうかがうような動きをしていたが消えた。
『見張っていたのが良かったのか、胸にナイフを置いたのが良かったのかは
 わかりませんが・・・・』

伊計翼

伊計翼
「墓ガードナー」
高校生の時のNさんの体験。
夏休みに親戚から、お寺のアルバイトをしないかと言われた。
部活に入っていなかったNさんはやってみることにした。
アルバイトの仕事は、お墓の掃除だった。
初日こそ、苦労したものの、その後は慣れ、墓参の方との挨拶、お墓の掃除の前後に
手を合わすことも自然と行えるようになった。
不思議なことがいくつか、あった。
草を取って墓の掃除を終えると誰もいないのに「ありがとう」と聞こえてきたり
幼い女の子に話掛けらた直後に姿を消されたりしたが、怖いという気持はなかった。
台風が接近していた、ある夜、自分の布団で寝ていると、枕元に男と女が立った。
『墓を守ってるのは、お前か?』 『・・・』 『墓を守っているのは、お前かと聞いておる』
『ぼ・ぼく、アルバイトなんです・・・』 恐怖に怯えるNさんがやっと答えた。
『届けてやってくれぬか」 男はそれを繰り返す・・・・
目覚めると、母親に呼ばれ、玄関に卒塔婆が6本あるので纏めておいたと言う。
男が届けろと言ったのは卒塔婆のことだったのかと納得して、お寺へと運んだ。
夜の出来事を住職に話すと、とても喜んで
『出家する気になったら、いつでもいらっしゃい。あなたならきっと、良い僧になれますよ』

伊計翼

伊計翼

本の中で説明のある紙舞氏が待ち受け画像にしている心霊写真
右はわかると思いますが、左は天井付近に顔が写っています。

伊計翼

伊計翼
「うわき」
『あんた、浮気したでしょ!』
Dさんは突然、家にやってきた彼女に怒鳴られた。
『浮気なんてしてへんわ』
彼女曰く、昨日、生駒で友達のUちゃんがDさんと知らない女性が一緒にいるところを
目撃しているとのこと。
『Uちゃんは、ちゃんと見たと言ってたで・・・・あんたが霊園の中から・・・・』
そこまで言って、事の異常さに彼女自身が気づいた。

『・・・・霊園の中から知らない髪の長い女をおんぶして出て来たって・・・・』

伊計翼

伊計翼
「ゆうれい」
田舎の古い風習の残る、そんな村で育ったSさんの子供の頃の体験。
ある夜、布団に入ると、生まれて初めての金縛り。
金縛りに遭うと霊を見ると聞いていたので、怖くて怖くて堪らなかった。
突然、襖がガタガタと揺れ出した。
しかも、揺れているのは1つの襖ではなく、いくつもの襖が振動している。
これから何が起こるのか、怖いと思っていると・・・・
閉まったままの襖を通り抜けて、女が現れた。
白装束に腕を前にたらし、頭には白い三角巾まで付けた、まさに幽霊。
女はSさんの上を通り抜けると、別の襖へと消えていった。
『あ~良かった』 と思ったのもつかの間。
次から次へと同じ格好の女の幽霊が現れては、Sさんの上空を通過する。
6~7の女の幽霊が通過した後、金縛りが解けた。
すると、父親が大丈夫かと部屋に入ってきた。
何でも、Sさんの部屋へ幽霊が向かう姿を目撃して飛び込んで来たんだとか。
次の日、隣の家の住人が亡くなったと父親が聞いてきた。
それからも何回か、同じものを見たとのこと。

伊計翼

伊計翼
「ザンコクゲキ」
あるクリスチャンの方の体験。
娘さんが幼稚園に通っていた時のこと。
午後、娘を迎えに幼稚園へ行った。
『ママ~』の声とともに娘が園庭を飛び出してきた。
道路工事のためのトラックの横を通り過ぎようとした時、荷台の何本もの柱が
娘めがけて崩れてきた。
見ている前で、その1本が娘の顔に直撃し、娘がすっ飛んだ。
娘に意識はなく、大急ぎで救急車が呼ばれ、病院へと運ばれた。

午後9時を過ぎた頃、帰宅。
『あ~、お腹すいた~』と何事もなかったように言う娘。
病院へ運ばれて精密検査等を受けたが、どこにも異常は見つからなかった。
あれだけの事故にもかかわらず、娘は気を失っていただけだった。
いつものように祈りをささげようと祭壇の前に座った。
見ると、陶器でできたマリア像の顔の部分が粉々に砕けていた。
今も感謝の祈りは続けている。

松村進吉

松村進吉
「逆上」
佐渡氏は今から二十年ほど前、当時の恋人と酷い別れ方をした。
『いやー、本当にもうちょっとで死ぬところだっただよ、俺』
別れる、別れないの怒鳴り合いの末、もうこのマンションに来ないように伝えたところ
彼女が急に静かになった。
そして、ソファーに座って泣き始めた。
喫煙者の佐渡氏は、ベランダへ出て煙草を吸い、灰皿へ吸殻を入れようとしたその時・・・
身体がその場でブワッーと五十センチほど持ち上がり、ベランダの手すりの外へ上半身が
飛び出した。
慌てて両手で手すりを掴み、十二階から転落死することから逃れた。
その後、警察を呼び、彼女は殺人未遂で逮捕された。
だが話は、女性の逮捕で終わらなかった。
裁判が始まった辺りから、コップが粉々に割れる、皿が粉々に割れる現象が二、三日
おきに連続して起きた。
そのような現象は女性の実刑が確定するまで、都合二十数回発生したという。
『・・・まったく、彼女が浮気したことで別れたのに、勝手なもんだよな』

久田樹生

久田樹生
「超」怖い話 ひとり 久田樹生 竹書房文庫
「護り袋」
小国さんはひとつの護り袋を持っていた。
母方の祖母からもらったものだ。祖母が亡くなってからも、ずっと持っていた。
その祖母の死の数年後、小国さんが成人する少し前にこんなことがあった。
外出していると急に護り袋が気になり、手に取ると中身が砕けているような感触があった。
同じ護り袋を母も持っていたことから、帰宅して訊いてみることにした。
家に帰ると、同居していた父方の祖母が倒れたという話だった。
そして、担ぎ込まれた病院で亡くなった。
驚きはあったものの、ほっとした。
父方の祖母は、母親と自分を嫌ったおり、何かと酷い扱いを受けてきたからだ。
そして、四十九日が過ぎた頃、母方の祖母の夢を見た。
『護り袋は役目を終えたから、神社へ納めてやってくれ・・・』
母親も同じ夢を見たというので、護り袋を神社へ納めた。
その夜、母方の祖母が再び夢枕に立ったが、傍らに土下座をする父方の祖母がいた。
『ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ』
土下座する父方の祖母は、こう言いながら手を擦り合わせている。
母方の祖母が、父方の祖母の襟首を掴み上げると背後に広がる暗闇に向けて投げ込んだ。
この夢は母も父も見ていた。
『なんか、お袋、地獄に落ちた気がする』 翌朝、そう父親がつぶやいた。

久田樹生

久田樹生
「超」怖い話 死人 久田樹生 竹書房文庫
「いちびり」
内藤さんはひとり車を、遠く離れた祖母が入院する病院へ向けて走らせていた。
途中、祖母が好きな和菓子店の菓子を買い求める。
天候は急な大雨、細心の注意を払って運転する。
やがて山道に入り、あるカーブを超えた時だった・・・・
右側から人の頭くらいある、黒い丸い物体が止まることなく車に向かってくる。
驚きながら急ブレーキを踏んだ。幸い、その落下物の直前で止まることができた。
道に落ちた岩は邪魔だと思い、ハザードを点け、傘を持って外へ出る。
そこに落ちていたのは碁石程度の大きさの石だった。
目の錯覚だったのだろうと小石を蹴り、車内へ戻る。
時計を見ると、かなりの時間を経過していた。
通い慣れた道だから、各地点の所要時間は把握しているのに、今日はやけに時間がかかる。
そう思ったら、助手席に置いていた菓子が落ちた。
化粧箱が紙の手提げ袋から飛び出す。菓子が転がり出てしまう。
対向車、後続車を確認して、再び車を止めた。
飛び出た菓子を集めるが、ひとつ足りない。車内をくまなく探したが見つからない。
おかしいと思いながらも、気を取り直して車を発進させる。
山道から平地へ出た途端、携帯電話が鳴り響く。
着信は母からで、祖母の急死を知らせる電話だった。

通夜の席、母親と寝ずの番をしていると
『お祖母ちゃんね、あんたにだけは死ぬとこ、絶対見せたくないわ、って言ってたよ』
なぜ、内藤さんだけなのか、理由はわからない。
内藤さんはふと、あのときのことを母親に聞かせた。
急な大雨、おかしな落下物、無くなった菓子・・・・
『死ぬとこ見せたくないから、俺の到着を遅らせたのかな?』
母親は泣き笑いしながら、何度も頷いて言った。
『祖母ちゃん、ちょい、いちびり(ふざけてはしゃぐ人)やったもんなー』

久田樹生

久田樹生
由緒正しきお寺のご住職から聞き集めた正真正銘の実話怪談、『「超」怖い話 怪仏』。
圧倒的な恐怖とリアリティでもって読者を震撼させたこの『寺怪談』の続編がついに届けられた。
仏も滅亡するような最悪の日=『仏滅』と冠した本書には、前作を凌ぐ摩訶不思議な話
身の毛もよだつ心霊譚がびっしりと収められている。
怨み、妬み、執着・・・・生者死者問わず人間が引き起こす怪事件のおぞましさはまさに阿鼻叫喚もの。
もちろん中には不思議な良い話もある。
それらすべてをひっくるめて人間の業と言えるかもしれない。
今回は「拝む」をテーマに占い師の方からも奇怪な話を伺った。
厳しい修行を積まれた僧侶の方、そして数々の悩みに立ち会ってきた占者だからこそ見えたもの・・・・
拝む人が目撃した戦慄の実話怪談をとっくりと味わっていただきたい。

久田樹生

久田樹生
「山下」
須藤さんは学生時代ラグビー部で活躍したが、卒業後は普通の会社員をしていた。
そんな彼にラグビー部の先輩から、土日に子供のラグビーを教えているので
コーチ兼補佐をしてほしいとの依頼があった。
学生時代にお世話になった先輩でもあるので二つ返事で了承した。
しかし、体調不良が原因で一年足らずで辞めることになった。
ただし、体調不良はコーチ兼補佐を辞めるとすぐに治った。
体調不良の源・・・・それはラグビーチームに所属する一人の少年とその両親だった。
その山下一家に近づくだけで体が引き寄せられる感覚と、エネルギーを吸い取られる
感覚になって、非常に不快となる。
そして、ついには山下家と接触した日には目眩が数日ほど止まらなくなった。
そればかりか、怪我をしたり、車に轢かれそうになったりと酷いことが増えて行った。
そんなある練習時、山下少年から質問を受けていた時に、ふいに彼からボールを
渡された。
目眩に耐えつつ反射的にボールを受け取った瞬間、脳裏に『死んでしまう』という
言葉が浮かんだ。この山下家と関われば、酷い死に方をする・・・・
それからすぐに、コーチ兼補佐を辞めた。

久田樹生

久田樹生
「彼の地で」
牧原さんは、仲間たちとボランティアに参加した。
東日本大震災の後だ。
彼等に海沿いの家を片付けて欲しいと依頼があった。
まずは、中の仏壇を外に出してほしいとのこと。
傷を付けないよう、ゆっくり丁寧に運ぼうと仏壇に手を掛けて、力を入れようとした時
その先に小学校くらいの女の子がいた。
『え?』 と思った一瞬の間に仏壇の陰に姿を消す・・・・
この場所には大人しかいないはず。
仏壇から手を離して、女の子の居た場所を確かめた。
隙間がなく、誰も入ることのできない場所だった。

その家の住人で亡くなった方に小学生の女の子が居たと後から聞いた。
今も女の子の遺体は見つかっていない。

久田樹生

久田樹生
「死因」
飼っていた馬に蹴られて死ぬ。
荷馬車に轢かれて死ぬ。
農耕馬を洗いに川へ入って、急に倒れてそのまま死ぬ。
水野さんが教えてくれた『水野家親類縁者の男性たちの死因』の一部である。
大正から昭和にかけての出来事だ。
最近も一人、競馬で負けが込んでの借金苦による自死があった。
本当かどうかわからないが、水野家の男は馬に祟られている、らしい。
確かなのは 『馬絡みで命を落とす』男が多いということだ。
馬を運んでいる車に轢かれる・・・・干支の午年の人に害を加えられえる・・・・
想像すればするほど、世の中には馬に関するものが多く、どれも怪しく感じてしまう。
今、一番気にしているのは干支であるらしい。
すでに前回の午年が越えている。

次の午年が、とても怖い・・・・
「超」怖い話 辛

松村進吉

松村進吉
「超」怖い話 辛(かのと) 松村進吉 竹書房怪談文庫
「魂追い」
工藤さんの田舎では人魂が非常に縁起の悪いものだと伝わっている。
これは大昔の話ではなく、今現在も警告として、言い伝えられているものだという。
当時の地元の若い衆は、何かにつけて寄り集まり、酒を飲んでは自慢話をしたり
小競り合いをしたりするのが日常であった。
彼女の大叔父である工藤氏も、呼ばれれば平日であろうが残業帰りであろうが
ホイホイと出向くのが当たり前の習慣だった。
そんなある日、いつものように誘いの電話があったのは、風呂と夕飯が済んだ午後七時。
支度をして、ぶらりと某氏の家に向かったのだが、夜の空気が騒めいているようで
どことなく落ち着かない。
やがて遠くにポッと某氏宅の灯が見えてきた。
それと同時に 『・・・・あっちだあっちだ!』 『ああー、消えた、いやまた出た』 と興奮した
若い衆の声も聞こえる。
工藤氏は咄嗟に走り出した。
『なんだなんだ、どうした!』
『おお、クッさん、アレ見てみろ!人魂が出たぞ』
樹々に覆われた深い谷の合間を、すう、すう、と蛍のような動きで浮遊する物体が見えた。
『ワイ、降りて行ってみるわ』 『おお、そんならワイも』
どやどやと、谷への道を走り出す者達。いっしょに行こうと当然誘われたが、こちらを誘うような
人魂の動きが気になったので行かなかった。
『・・・・あんなモンを追いかけたら、騙されて、谷に落とされてしまう。ワイは行かん。お前らもやめろ』
『なんじゃクッさん怖気づいたんか。そしたらワイらが捕まえてきてやるから、ここで待っとれ』
竿の長いタモを手に取り、都合三人ばかりが谷の中へ入って行った。
残った工藤氏ら数人は、上から彼らの声が遠のいていくのを眺めていた。

・・・・そして誰も帰って来なかった。
三人とも谷底の川に落ち、流されてしまったのである。
『・・・・大叔父は、その時のことをずっと悔やんでいましたね。引き留めればよかった、って』

松村進吉

松村進吉
「さまたげ」
ベテラン大工の鷲尾さんに伺った話。
平成になってすぐのこと、彼は田舎町で新築工事を請け負うことになった。
渡された図面を確認し仕事の段取を組んだ。
そして、着工前の地鎮祭に出席することにした。
当日は朝から猛烈な風が吹いていた。
四方に立てた細い竹は、今にも折れそうに揺れ、それらを繋ぐしめ縄は
ゴム紐のようにピョンピョンと上下に跳ねた。
綺麗に整えられた三角の斎砂が、上から上から渦を巻いて削り取られ
みるみる目減りしていく。
なんだか妙な具合だと思っていると、神主の祝詞を打ち消すように女の
甲高い声が聞こえて来た。
それを聞いた神主さんは、真っ青な顔になり・・・
『もう、続けられない』 と言って途中で儀式を中断して帰ってしまった。
鷲尾さんも即座に仕事を断り、逃げて来たとのこと。
その女の声が唱えていたのは般若心経、遥か頭上の空中から響いていた。

原田空
深澤夜

原田空
深澤夜
「超」怖い話 戊(つちのえ) 原田空 深澤夜 竹書房文庫
「遅喋」 原田空
間もなく米寿を迎える翁から聴いた話。
五十年程まえのこと、甥御が嫁を迎えて女児を授かったという。
病気ひとつするわけでもなく、すくすくと育ったが、二歳を過ぎた頃、言葉の遅れを感じるようになった。
集落の同じ頃の子供たちが、月齢に合わせて二語、三語と意味を含んだ言葉を発するようになる中
甥御夫婦の子は発語こそあるものの、意味を成さない言葉を話す。
『ゲ』 『ガ』 『グ』のような濁音を含む言葉が目立って多い。
子が五歳を迎えようとする頃、一度、大きな病院で医師の診断を受けようという話になった。
田舎町なので、町長に相談して、県境の大学病院を紹介してもらった。
診察当日、丸椅子に座った医師は子に幾つかの質問をした。
子は医師の言葉を理解しているのか定かではないが、何事かを一心に話し続けている。
いつも通りの意味を成さない言葉。

一通りの問診の後、夫婦は医師から 『身内に外国籍の人間がいるか』 と訊かれた。
夫婦は首を横に振る。医師は首を傾け、眉間に深く皺を寄せる。
子が発していたのは、流暢なドイツ語であったという。

原田空
深澤夜

原田空
深澤夜
「超」怖い話 丁(ひのと) 原田空 深澤夜 竹書房文庫
「通子」 原田空
今年、三十路を迎える川村さんから伺った話。
彼女は、現在のご主人と六年前に入籍した。
彼女には習慣・・・というよりも変わった癖がある。
トイレに入ると、ドアを開けていなければ用を足せないのだという。
幼いころ、姉がふざけてトイレのドアを押さえ付け、閉じ込められたのがトラウマに
なったのだと川村さんは話す。
『無論、家以外の場所では我慢して閉めますよ』
しかしながれあ、ドアを閉めて用を足すと、動悸が激しくなり、未だに眩暈がして
脂汗が出てしまうそうだ。
ある朝、ご主人を会社に見送った後、トイレに行き、便器に腰を下ろす。
いつものようにドアは開けっ広げにしていた。
二人の幼い子供たちが、トイレの前の廊下を無邪気に戯れながら走って行く。
柱の陰から顔を覗かせ、ドアを開けて用を足す川村さんを笑いながらながめていた。
彼女はご主人と二人暮らし。
ご主人は子供が嫌いで、川村さんは結婚後に二度、妊娠した子供をいずれも堕胎している。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 子 加藤一編著 久田樹生 深澤夜 渡部正和 竹書房怪談文庫
「要救助者ゼロ」
その日、佐倉さんは久々に仕事が早く片付いた。
日があるうちに会社を出るなんて、いつぶりだろう。
車通りの多い大通りを避け、線路沿いの道を目指して通りを折れた。
と、線路にぶつかるT字路の突き当りに、何か塊のようなものがある。
道路上に蹲るそれは布か袋か。
数歩近づいたところで正体がわかった。路面に人が倒れている。
Yシャツにスラックスの見知らぬ男である。
俯せに倒れたまま、ピクリとも動かない。
意識がないなら最初にすべきは何だっけ。救急車だっけ。ADEだっけ。
懐の携帯電話を確かめながら、佐倉さんは男の元へ足早に駆け寄った。
何はともあれ助けなければ。
『大丈夫ですか?』
声を掛ける。
倒れた男まで、あと数歩。
そこで男は忽然と消えてしまった。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 亥 加藤一編著 久田樹生 深澤夜 竹書房文庫
「あかんでー」
安斉さんの勤める会社はそこそこ大きい。
専務以上になると専用の部屋を与えられる。
その中の常務の部屋には、会社の中で一番立派な神棚があった。
なぜ常務の部屋の神棚が一番立派なのか、古株の上司にたずねたところ・・・
『常務の部屋に神棚があると、常務が死なん』
わけがわからない・・・・
詳しく聞くと、常務の部屋から神棚を撤去すると、その時の常務が死んでしまうというのだ。
歴代の常務の中に、昇格して神棚を撤去させた人が数人いたらしい。
そのたびに、その命令を下した当人・・・・その時の常務が死んだ。
『事故死、自殺、病気、いろいろあるげな』
他の役職の部屋はどうなのかと訊ねても、一切そんなことはないらしい。
『それだで、常務に昇進した者には (神棚を動かしたらあかんでー) と毎回直で教えとる
らしいぞ、会長が』

加藤一

加藤一
「超」怖い話 戌 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「用水路」
『うちの近くに小さな水路があるんですけどね・・・・』
齢七十を疾うに越したと目される小関さんは、好奇心旺盛なご婦人である。
彼女の住むアパートの裏に、コンクリートで固められた横幅三メートル程の小さな
用水路があるが、何故か人が寄り付かない。
魚はいるのに釣りをしている人を見たことがない。
『それで私、気になっちゃって・・・』
近くの大型釣具店の店長をしている知人に、その用水路について聞いてみた。
『うーん、あそこは近寄り難いというか、とにかく嫌なんだよね。あそこはうちの
釣り場案内でも絶対に紹介しないことにしているんだ。うん、あそこはダメ』
ある日の夜更けに、彼女はその用水路を一人で見に行った。
懐中電灯で用水路を照らしていると、一匹の大きな鮒が水面から飛び上がった。
そのとき、真っ黒な影が水路を横切り、飛び上がっていた鮒を水路の向こう側へと
飛ばした。その鮒目掛けて、多数の黒い影が殺到したのである。
『逃げなきゃ、早くにげなきゃ』 と思った時に、背後から腰の辺りをポンと叩かれた。
うまく首が回らない状態で振り返ると、ボサボサに乱れた長い髪、黒く変色した上着
真っ赤なスカートを身にまとった小さな女の子らしき姿があった。
その口元には、汚らしい歯でしっかり咥えられた、血濡れの鮒の姿が垣間見える。
瀕死の鮒の鰓蓋が、断末魔のようにピクリと開いた。
それを見た瞬間、彼女は生まれて初めて気絶した。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 申 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「夏のドライブ」
それは、七月の夜十時~十一時のこと。
眠巣君は仕事から自転車で帰る途中だった。
怪しかった空模様から雨が一気に降り出した。
自宅まで、あと少しというところで一台の車が眠巣君を追い越して行った。
左側の窓から女性の肘が突き出されている。
思わず、いい女が左ハンドルのオープンカーでハイウエイを飛ばす映像を思い出す。
『いやいや、何も雨の中に肘を突き出すこともあるまいに・・・』 と思った。
前方を見ると、肘を突き出した車が赤信号に捕まって速度を落とす・・・・
そこに追いつき掛けたところで、眠巣君は幾つかの事柄に気付いた。
まず、運転手は男だった。
車は右ハンドルの国産車で、乗っているのは男だけで助手席は無人。
車内はエアコンが効いているようで、眠巣君から見える助手席の窓はぴっちりと
閉まっていた。
無人の助手席側の閉じた窓から、女の腕だけが突き出ていた。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 酉 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「インガオーホー」
伊藤さんが以前ワーキングホリデーで某国に訪れた時のこと。
人種差別的な発言の多い国から来た、嫌われ者の男が二人いた。
その男たちが、伊藤さんの知人の小柄で美人で人当りの良い園さんという
日本人女性に近づいた。
園さんは毅然とした態度で、『隙あらば・・・』という男二人を突っぱねた。
すると、彼らは彼女へ嫌がらせを始めた。
周囲に悪い噂を流すが、周囲が彼らの言うことを信じない。
業を煮やした彼らは園さんへ攻撃を始めた。
周囲が彼女を心配すると・・・
『大丈夫。ちょっと、あの人たちやり過ぎたと思う』

それは、園さんが実家から持ってきた般若心経の経本と数珠を盗み、破ったり
壊したりしてから彼女の部屋の前に捨てたのだ。
『そんなことして、無事に済むわけないよね!』
嫌われ者の男二人は、大金を落とす、病気や怪我で弱っていく、果ては
強制退去となり母国へ送還されて行った。

『ソノは憎い相手を呪うことができる呪術者だ』
そう言われた園さんは
『呪いと言うより、因果応報だねぇ、あれは』
日本人全員で英語圏の人たちへ、因果応報を説明した。
これにより誤解を解いた彼らの間で『インガオーホー』という言葉が流行った。
微妙に違った用法もあったが、苦笑いしてスルーしたのも、今はいい思い出だ。

加藤一

加藤一
「羊蹄山」
秋満さんの友人に 森という小太りの男性がいた。
彼は運動が苦手なうえ、食べることとゲームが好きというインドア派。
そんな森が突然こんなことを言い出した。
『僕、羊蹄山へ行きたい。登りたい』
今は初冬で雪の心配もあるのでと忠告するが、どうしても登りたいと言う。
飲みながら理由を聞くと・・・・
昨年、亡くなった祖母が毎夜、彼の元を訪れるという。
その祖母が『羊蹄山へ行け』と森へ命令してくるのだ。
そして、羊蹄山へ行ったら登山し、ある場所の湧水を汲んで、それを墓前に供える。
そう指示してくるのだと森は言う。
『羊蹄山へ行かないと、僕死ぬんだ』
取ってきた湧水を供えなければ死ぬぞ、と祖母は脅しつけると続けた。
それから二週間後、森は失踪した。
会社を無断欠勤して消息を絶った。
その後、森の両親が会社を訪ねて来て、手掛かりを訊ねる。
秋満さんは、あの『羊蹄山』のことを両親へ伝えた。
あれから十一年、森が見つかったという話は未だ聞かない。

加藤一

加藤一
「看護学校の寮」
大川さんが看護学校で寮住まいをしていた頃の話。
寮の友人の部屋には、知らない女がいた。
髪の長い無表情な女で、肩を落としてかくりと項垂れている。
窓とベッドの間に立っていて、窓を背にしている。
その長い髪はベッドに触れるか触れないか、といったところまでの長さだった。
初めて訪室した時は驚いたが、いつ訪ねても同じ場所に、同じ姿で立っている
だけなので、そういうものだと納得した。
ある日、その友人から相談を受けた。
『大川さん、霊感が強いんでしょ? うちの部屋に何かいない?』
『どうして?』
『寝ているとね、顔に何かが当たるんだよね』
『頭、どっちに向けている?』
『窓側』
女の髪の先が友人の顔に触れているのだ。
『頭の向き、変えた方がいいよ。窓側に足を向けて寝たらいいと思う』
寮生活があと半年ある・・・・友人に女のことは黙っていた・・・・。

加藤一

加藤一
「泡沫」
犬の散歩は、いつも決まった道を行くことにしている。
ある日、散歩の途中で新しいシルバーアクセサリーの店を見つけた。
入口ドアのガラス越しに店内をのぞく。
狭い店内にいかつい人間が二人した。どちらも客でないことは見て取れる。
リードの先で犬が吠える。
宥めながら、もう一度店内を見る。
すると、沢山の風船が浮かんでいる・・・と思ったものの、それは人の頭だった。
数にして十数個、驚きを通り越してしまい、冷静に観察する余裕が出てくる。
色は黄ばんだ白、年齢、性別はバラバラのようだ。
ゆらり、ゆらりと幽かに揺れながら、その場に留まっている。
店内の二人は、それに気付いた様子はない。
犬が吠えながらリードを引っ張る。早くこの場から離れたいようだ。
何となく、あそこに入る店がすぐに潰れる理由が分かる気がした。

松村進吉

松村進吉
「挨拶」
つい昨年のこと。
猪田氏が車で営業先を回っていると、奥さんから携帯に電話があった。
『今、うちに≪ニシオさん≫という方がいらしていたんだけど、様子が変で・・』
少し考えてから、猪田氏はブレーキを踏んで路肩に車を停めた。
『イシオって、○△建材の西尾さんじゃ?』
『わからないわよ、名刺とかなかったから』
『その人がなんだって?』
『会社を辞めることになったんだけど、ご主人に大変お世話になったので
帰ったら宜しくお伝えくださいって。・・・でも変なの。顔色が真っ黒で
ずっと目を瞑っているよ、話している最中も。私もう、気味が悪くって』
『はあ・・・』とため息をついた。

その日のうちに、彼は郊外の西尾氏宅を訪れ、葬儀に参列できなかったことを
仏前で詫びたという。
奥さんには、今でも事の次第は打ち明けていない。
自分が死人と話したと知れば、卒倒しかねない・・・

松村進吉

松村進吉
「だるま」
暗い、帰り道。
住宅街を歩いていると、遠くの街灯の下に女の姿がある。
真上から照らされている光のせいで、服も顔もよくわからない。
こちらを向いたまま、何をするでもなく佇んでいる。
― 厭な感じだな、と思った途端。

スッー と女の頭だけが真横に移動して、右の闇に消えた・・・

スッー と首から膝までが真横に移動して、右の闇に消えた・・・

音はしない。
後には、膝から下だけの足がこちらを向いて立っている。

足が竦んで動けなくなる。

加藤一

加藤一
「入る」
ふと、目覚めた。
耳元から女の声が聞こえた。
『わたしはいるの』
その言葉を繰り返す。
体は金縛りになったように動かない。
動く目だけで周りを見ると、白く浮かび上がった女がいた。
(私に何をしたいの)と強く念じると・・・
『私、あなたに、入る』と、はっきり言った。
同時に頸を掴まれ、口が上下に開けられていく。
『入るの、私。ここからあなたに入る』
苦し紛れに体をよじると、玉のような物を掴んだ。
そのまま、気を失った。

気が付くと手には数珠が握られていた。
これ以降、女が現れることはなかった。
ただ、女が入った後なのかどうかは、わからない。

松村進吉

松村進吉
「免許証」
昨日、交付されたばかりの乙野さんの運転免許証はゴールドである。
三センチ足らずの顔写真の中で澄まし顔の彼女。
その首にうっ血痕がある。
やや赤味がかった黒色の内出血。
向かって右端は、四本の細い筋に分かれている。
恐らく指の痕だと思われる。
ご存知の通り、運転免許証の写真は免許サンターで撮影される。
今、目の前にいる乙野さんの首に、うっ血痕のかけらもない。
心当たりは、ないという。

久田樹生

久田樹生
「超」怖い話ベストセレクション 怪恨 久田樹生 竹書房文庫
「宿題」
弘紀君は夏休みの宿題を全くやっていなかった。
夏休み最後の日、慌てて始めたはいいが、終わるはずがない。
両親は、手伝わない と冷たく言い放つ。
夜中の十二時まで頑張ったものの、いつの間にか眠ってしまっていた。
『朝よー、起きなさい』
母親の声で目覚める・・・・目の前には宿題達・・・・
『終わらなかった・・・・あれれぇえ?』
全ての欄が埋まっている・・・夏休みの友も漢字の書き取りも全てだ。
確認すると、全部自分の字で書いてある。
『寝ている間に、自分で全部やっちゃったのかな?』
何はともあれ宿題は提出できた。
翌日、先生に呼ばれた。
『これ見て』
書き取りノートの一部に、二ページに渡り自分の字でないカタカナが書かれていた。
先生に、声に出して読むように言われる・・・
『センセイ ナンカ チョロイ チョロイ・・・』
『やるに事欠いて、これ? 罰としてやり直しと追加書き取りね』

久田樹生

久田樹生
「帰ります」
田淵さんはひとり暮らし。
それでも自宅に【帰るコール】をしてから帰る。
そうしてから帰宅しないと≪また出るから≫だ。
彼はまだまだ引っ越せない。
だから、今もため息混じりに【帰るコール】を続けている。

加藤一

加藤一
過去に掲載された話 87話と書きおろしの4話。
「蜘蛛の巣」 書きおろし
樋木さんの子供の頃の話。
罰あたりなことだが、樋木さんたちは墓地でお供え物を投げて遊んでいた。
ある日、いつものように墓地で遊んでいると掌が痛み出した。
どこをぶつけたのかと掌を見ると、手首から掌に向けて蜘蛛の巣のような模様が浮かび上がっている。
手を擦ってみても、洗ってみても消える気配がない。
『罰が当たったかもしれない』
怖くなった樋木さんは母親に泣きついた。
母親は樋木さんを拝み屋さんへ連れて行った。
彼は墓に連れて行かれ、投げ散らかした墓のお供え物をきちんとやり直した。
すると痛みは消え、蜘蛛巣の模様も消えた。
拝み屋さんが言うには、墓の横に立つ家が死んだ人の通り道になっているとのこと。
『今になって思えば、墓で遊んでいた時に注意された爺さん婆さん達も、人じゃなかったかも
しれません』

平山夢明

平山夢明
新作3話と「超」怖い話A~Mのベスト44話

「穴ふたつ」
ある2歳差の姉妹の話。
姉は勉強が出来て、スポーツ万能。
それに比べて、妹は勉強もスポーツも並以下。
両親はことごとく二人を比較して、妹を腐らせた。
また、中学校では教師に比較されて、またまた妹を腐らせた。
そんな中、体育祭が行われることになり、姉は対抗リレーで花形選手。
妹はと言えば、騎馬戦の『馬』。
ある日、妹は玄関で姉のお気に入りの運動靴を見た。
彼女は、その運動靴を持つと、近くのお地蔵様のところまで持って行き
お地蔵様の頭を靴で撫でながら
『ねえちゃんがリレーでビリになりますように』
と念じ、これを運動会の前日まで続けたと言う。
運動会当日、姉は2位でバトンを受けたが、1人抜いてトップに躍り出た。
誰もが1位のままゴールすると思われた瞬間、何かに躓いて、顔から転倒。
『やったー!』
妹が喜びの声を上げた途端、口の中に小石のような物が入ってきた。
彼女の顔を見た誰もが悲鳴を上げた。
なんと、彼女の犬歯から犬歯の上下の前歯がごっそりと抜け落ちていたのだ。
痛みは無かったと言う・・・・医者は原因不明とのこと。
妹は今も差し歯である。

平山夢明

平山夢明
新作3話と「超」怖い話A~Mのベスト59話

「雨だれの部屋」
仕事で地方の旅館に泊まることが多かった男性の体験。
その日は、車のワイパーを高速にしても前が見えないほどの大雨だった。
泊まれる安い宿はないかと探していると、入り口の小さな宿を発見した。
入り口と思っていた場所から入ってみると、そこは裏の入り口で
正面玄関がりっぱな高そうな宿だった。
高くても良いと腹をくくり、宿泊することにした。
部屋は離れで、料理もことのほか豪華だった。
明日も仕事と早めに寝床に就いたが、雨だれの音がうるさくて眠れない。
我慢していたが、我慢しきれず起きだした。
雨だれの音がする場所を見てみると、雨は既に止んでいた。
では、何の音か・・・すると、突然、首のない馬が現れた。
首があったであろう箇所からの大量の墳血が、雨だれの音を作っていた。
更に奥から具足の音がしたと思うと、鎧を身に纏った首のない武者が現れ
彼の髪の毛を掴むと、刀で首を切り落とそうとした。
彼は必死に庭に逃げ、武者が消えるとフロントを呼び出した。
高いと思われた宿泊代はただ、それに商品券が付いてきたとのこと。

平山夢明

平山夢明
「ドンとしたもの」
風と雨の強い夜だった。
『駅から家に帰る途中、携帯でメールしながら歩いていたんですね』
江本さんは不意に脇から現れた人影とぶつかった。
『あ!』
予想外に強い当たり方に傘が手を離れてしまった。
その直後、一歩先に音を立てて倒れたものがあった。
自動販売機だったという。
見回しても、ぶつかって来た人はおろか、誰も居なかった。
唖然としている彼女の携帯が震え、可愛がってくれていた祖母の訃報を聞いた。

安藤君平

安藤君平
勁文社の「超」怖い話の初版の筆者。
初版本に掲載された安藤君平執筆の23話と
新作14話から構成されている。

「夢枕に立つ」
近所の主婦が亡くなる時に、夢の中で挨拶に来た。
翌朝、そのご主人より同じ内容の死因を聞く。
また、その数年後は、亡くなった主婦が『久々に家に戻ったが知らない
女が家にいるのであの世へ帰る』と夢に出た。
再婚していたのを知らなかったよう・・・


「お札の霊験」
禅の修業を積んだことのある男性の奥さんがたびたびの霊の出現と
金縛りに悩まされていた。
男性は、ある密教系のお札を取り寄せ、それを部屋の天井へ貼った。
すると、今まで頻繁に起こった金縛りがパタリと止んだ。
その後、その密教のお寺は脱税で上げられ、坊さんが殺人罪で逮捕される始末。
しかし、その後もお札の効き目は抜群だったとのこと。

樋口明雄

樋口明雄
勁文社の「超」怖い話の復刻版。

「霊と格闘した話」
古式拳法を習うツワモノの彼が霊と格闘したエピソード話。
ある夜、自室で眠っていた彼は、ふと目を覚ました。
すると、体が全く動かない。
いつもの金縛りか~と思っていると、その日は何者かが彼の胸に圧し掛かってきた。
何者かと見ても、黒いもやもやした物があるだけで実体がない。
これが幽霊か・・・今までの金縛りもこいつが原因かと思うと腹が立ってきた。
『なんとか一糸報いなくては!』
彼の格闘家としての根性がメラメラと燃え出した。
まず、金縛りを解こうと体に力を入れてみるが、思うように動かない。
そこで、幽霊と同じ土俵に立てばいいわけだと気づき、精神統一で幽体を離脱させ
幽霊に襲い掛かった。
突き、蹴りで幽霊を叩きのめし、最後は絞め技まで決めた。
幽霊はほうほうの態で逃げ出し、以来、金縛りに遭っていないという・・・。


樋口明雄
「超」怖い話(∞(エンドレス))
樋口明雄
勁文社の「超」怖い話の復刻版。

「キューピット様」
幼い二人の女の子がキューピットさんをやっていた。
10円玉が『の・ぞ・み・を・か・な・え・る』と動いたので
天国へ連れて行って、とお願いしてみた。
すると『そこ木の枝から飛べ』と10円玉が動いた。
二人は、近くの木の一番低い枝から飛び下りて
キューピットさんの元に戻ってきて『天国へ行けないよ』
と言うと『も・つ・と・た・か・く』と10円玉が動く。
いくら飛んでも天国へ行けないということで、二人は
バカバカしくなり帰宅。
家にいた母親にキューピットさんをした時の話をすると
顔面蒼白となり、二度とやるんじゃないと怒られる。

平山夢明

平山夢明
「友達」
情報処理部門でセキュリティを担当する彼女には
中学校からの友達がいるという・・・

コックリさんがもとで、一人ぼっちになってしまった彼女が
友達にしたのが、他ならぬコックリさん。
さびしくなると、10円玉で「オジュウ」と名づけたコックリさんを
呼び出していたという。
今は、パソコンの壁紙とマウスポインターで手軽に友達と
会えるんだとか。

平山夢明

平山夢明
「おりん」
中学3年生の時、クラスでいじめがあり、一人の女の子が自殺した。
いじめがあったのではないか?という声もあったが
教師がうやむやにしてしまった。
女の子の通夜の時、中学校の生徒は焼香せずに「おりん」をチーンと
鳴らして手を合わせるように指示された。
彼女をいじめていた一人がおりんを叩くと、チーンと鳴らずに『うえ~ん』と
泣くような音がした。慌てた彼女は人混みに逃げて行った・・・
次に、いじめのリーダーだった女の子がおりんを叩くと音が出ない・・・
慌てた彼女が何回もおりんを叩くと、『ゲ~』という悲鳴のような音がして
おりんが割れた。
母親が、ものすごい形相で彼女を睨みつけた。
『ごめんなさい』と叫ぶと、その場にしゃがみ込んだ。
結局すべて明るみに出て、いじめを行った生徒の推薦は破棄となった。

通夜の前日、母親は夢枕に立った娘から「おりんを使って」との啓示を
受けたらしい。

平山夢明

平山夢明
「おぶわれて・・・」
彼女は幼い頃、喘息だった。時には重篤な場面も迎えたとのこと。
彼女の父は、3歳の時に事故死した。
ある時、呼吸が楽になる時があった。
そして天井が間近にあると思ったら、近くにいた男におぶわれた。
しばらく後、彼女が「帰りたい」と言うと『帰らなくても・・良い』
『いやだ、帰る』・・・・・・大声で呼ばれる声で目覚める・・・
彼女の心臓が二度止まった直後のことだった。
彼女をおぶっていた男の話を母にした。
母は即座に立ち上がり、仏壇から位牌を壁に叩きつけた。
『勝手に死んで、娘まで連れて行くのか!』・・・・
彼女は現在、2児の母になっている。

平山夢明

平山夢明
「箸」
中国に仕事で滞在している際に胸の病にかかった。
胸の痛みは重くなるばかりだが、原因がわからない。
そんなとき、福建から中国人の友人がたずねてきた。
その友人は、傍からも重い病気とわかる様子を見ると・・・・
使用人を全員解雇させた上で、同じ中国人として恥ずかしいと謝罪した。
実は、その箸は人骨で出来ており、呪う相手に使わせれば1年足らずで
殺せると言う・・

使用人全員が人骨の箸とともに送り込まれた共犯者だった。

加藤一

加藤一
「握手会」
おばあさんがシンガポールのホテルに宿泊
した時のこと。
寝ていると天井から何本もの腕が下りてくる。
その手を見た瞬間に「兵隊さん」と思った。
咄嗟に、その手と握手。
片っ端から握手をすると、手は満足したのか
スルスルと天井へ帰って行った。

平山夢明

平山夢明
「入っている」
深夜、トイレに入っていると、ドアノブをガチャガチャと乱暴に回された。
『入っているよ!!』
思わず怒鳴りつけたところで、独り暮らしであることに思い当たる。

平山夢明

平山夢明
「じいさんエレベーター」
深夜、ちょっと飲みすぎて帰宅した女性の体験。
彼女が住んでいるマンションのエレベーターは、上昇下降するスピードも
ドアの開閉スピードも飛びぬけて遅い。
その夜も、這うように上昇する『じいさんエレベーター』にため息が出る。
ふと、エレベーター内に手をダラリと下げた影を見つけた。
それは確かに彼女の足に繋がっていたが、手を振ろうが影は動かない。
『え?』と思ったら、彼女は全く動けなくなってしまった。
すると、エレベーターが勝手に止まり、ドアが開いた・・・・
そこには、ボロボロのワンピースを纏い、針金のような細い腕をダラリと下げた
後ろ向きの髪の長い女が立っていた。
彼女の足が引かれる・・・・と女は急に廊下の端まで滑るように移動を始めた。
その途端に彼女の体が動くようになり、『じいさんエレベーター』の『閉』ボタンを
必死に押し続けた。
すると、今度は女が廊下の端から戻ってきた。
『はやく、はやく・・・』
もはや、彼女は女の姿を見られなくなっていた。
何かがドアに当たる『バン!!』という音と同時に『じいさんエレベーター』は上昇した。

平山夢明

平山夢明
「衣」
実家のおじいさんの手伝いで、海へ漁に出たときのこと。
漁の合間の休憩中に海に潜って遊んでいた。
すると、海の奥から幅50センチくらいのトイレットペーパー
みたいな物がヒラヒラと漂っていた。
好奇心から、どこまであるんだろうと潜ってみても先は
見えなかった。
船に上がると、おじいさんにその話をした。
『つるつるの手触りだった』
すると、おじいさんの顔色が変わった。
『けえるぞ』漁の途中だったが慌しく帰り支度を始めた。
理由を聞くと、おまえが触ったのは『乙姫の衣』で、乙姫は
衣に触られるのを大変に嫌がるので大時化になるとのこと。
はたして、夕方には風が強くなり、暗くなる頃には大時化となった。

平山夢明
「超」怖い話(Δ)
平山夢明
「レレレ」
友人と待ち合わせをしていると、すごい美人が目の前を
通っていった。
待ち合わせの友人も目撃。
しかし、何か変・・・・変な理由は足にあった。
『レレレのおねえさん・・・・』
レレレのおじさんが走るアニメみたいに足が4本あった。
友人は足しか見ていなかったとのこと。

平山夢明

平山夢明
「ごろり」
2Kのアパートで隣の部屋からゴロリ、ゴロリと音がする。
音の正体を確かめるようとした彼女が見たものは
ボーリングくらいの大きさの球だった。
球には目鼻口が付いていた・・・

平山夢明

平山夢明
「ボール神」
某有名サッカーチームのサッカー場の管理をしている父の仕事場に
遊びに行った時のこと。
グランドに小屋が建てられいて、有名選手が次々と出てきた。
何をやっているのだろうと思い、誰も居なくなった小屋を見にいった。
そこには、ピラミッド型に組まれたボールと選手直筆のお札のような
物があった。
それを父に言うと・・・・
『まいったなー、見られちゃ効果がないんだよ・・・』
・・・実は、毎日蹴られるボールへの感謝と供養。
そして < 力を貸してください > という意味で、大事な試合の前には
必ず行う儀式なんだが、他人に見られると効果がなくなると言われている。

加藤一

加藤一
「理由」
喫煙していることを隠していた女性が体験する序曲。
会社で受けた電話で聞こえてきた言葉が
『ユルサヘンデ ユルサアヘンデ・・・』
やがて、自分のアパートまで『ユルサヘンデ』の男がやってきて彼女を襲う。
たばこを吸わなきゃ良いので・・・・
躊躇することなく禁煙に踏み切ったとのこと。

「狩猟」
昭和初期の尋常小学校でのこと。
何をしでかしたのかは憶えていないとのことですが
クラスの男子と校舎の外の川の前に立たされた。
教室の前なので、教室から丸見えの場所。
『おまえが悪い』だの『おまえのせいだ』だの
言い争っているうちに、ふいに大人の背丈の手の長い
ものすごく猫背の『何か』がクラスの男子を後ろから
羽交い締めにしたかと思うと、そのまま川に飛び込んだ。
『ああああああああああ~~~』
大声を上げると教師や生徒が集まってきた。
事の顛末を告げると、警察、消防が捜索したが、結局
男子は見つからなかった・・・・

河童ですかね

加藤一

加藤一
「やまめ」
ある男性が野草を採るために山に入った。
かなり歩いた場所でとても立派な1本のクヌギの木を見つけた。
夏になると、クワガタやカブトムシがこの木に群がるのだろうな~と思っていると
目の前の枝に蛇の尻尾が見えた。
マムシだと危ないな~と思いながら見ていると、今までに見たことのない蛇の模様。
そして、蛇が鎌首を上げると・・・そこには平安時代を思わせる女の顔があった。
その女の顔が何か珍しい物でも見るように、こちらを眺めている。
どれくらいにらめっこをしていた後だろうか、女が言った。
『あんたぁ~、ここきたら~、あかんよぉ~』
馴れ馴れしい、京都訛りの若い女の声だった。
思わず腰を抜かし這うようにして、その場を逃げ出した。
後日、山に詳しい友人に話すと、それは山の女で『やまめ』というらしい。
魚のやまめとは別ものとのこと。

加藤一

加藤一
「バイト」
フリーター時代に塗装屋でバイトしていた男性の体験。
親方から筋が良いと褒められ、一時は一生の仕事にしようかと思ったこともあった。
そんなある日、あるアパートの仕事が入った。
現場に行くと、紙が壁一面に張られている・・・お札だ。
塗装をする前に、塗装面をサンダー(ヤスリ)で綺麗にしなくてはならない。
サンダーを使い、表面を削ろうとするが何箇所かが、削れない。
親方に、その話をすると『トラックから白い道具箱を持って来い』と言われた。
白い道具箱の中には粗塩が入っていた。
親方は粗塩を手に取ると、壁にこすり付けていく。
すると、綺麗にお札が落ちた。。
『サンダーで落ちないのに、粗塩でおちるんじゃホンモノだ』
その日、家に帰ると高熱と悪寒に襲われ、そのまま数日床に伏した。

それがきっかけで、そのバイトを辞めた。

加藤一

加藤一
「最後の米」
高橋さんが貧乏学生だった頃の話である。
彼がアルバイトから帰ってきて夕飯の準備を始めたところ、米櫃には米がほんの
少ししか残っていなかった。
一粒残らず計量カップに入れると、丁度ぴったり一合分だけは確保できた。
今日はこれで何とかなるが、明日からどうしようか?
アルバイトの給料が入るのはまだ先だし、米を買う金などあるはずんもない。

翌日、昨夜同様、アルバイトから帰ってきて夕飯の準備を始めたところ、米櫃には
米がほんの少ししか残っていない。
一粒残らず計量カップに入れると、丁度ぴったり一合分だけは確保できた。
『あれ?昨日もこんなんじゃなかったっけ?』
確かに、米はもう一粒もないはずである。
少々気味悪く思いながらも、ありがたく夕飯を頂いた。
この現象が続いたのは三日の間だけだった。
翌朝、実家から長らく昏睡状態だった祖父が亡くなったと連絡が入った。
卒中で倒れるまでは米作りだけが生きがいの、優しいおじいさんだったという。

松村進吉

松村進吉
「連れて帰る」
後輩の頼みを聞いたことで、自分の部屋に霊を招き入れてしまった男性。
どうしたら良いのかと考えてながら歩いていた時に見たものは、車に轢かれた
猫の親子だった。皆、死んでいると思ったら1匹だけ彼を見て威嚇し始めた。
『ウウウ、ウウウルルル』
彼は子猫を自分の部屋に連れて帰り、ホームセンターで粉ミルク等を買ってきた。
部屋にいる霊に悩まされていた彼だったが、子猫がいるだけで気が休まる思いだった。
ミルクを飲んで気持ちよく寝ていた子猫が起きだした。
風もないのにユラユラと揺れるカーテンに向かって
『ウウウ、ウウウルルル』と威嚇をはじめた。
するとカーテンの下の方から灰色の男の顔が現れた。
彼は、逃げなければと思うのだが体が動かない。
その間も子猫は灰色の顔を威嚇し続けた。
やがて、動かなかった体が動くようになると霊は消えていた。
その後、霊が部屋に出ることはなかった。
しかし、部屋に猫がいることを隣人より通報されて、猫を飼うなら出て行くように通告された。
長年、住んだ部屋だったが彼は引っ越した。
そして、ペット可の部屋に移り住んで、今では『ウルル』と名づけた子猫と同居している。

松村進吉

松村進吉
「無言」
美容師の女性の体験。
その日は、仕事を終えると彼のマンションへ向かった。
閉店後のミーティングが長引くと、お店に近い彼のマンションに泊まるのが常だった。
渡されている合鍵を使ってドアを開けると、女物のサンダルがあった。
一瞬、逆上して頭に血が上るのが解ったが、何かの事情があるに違いないと自分に
言い聞かせて落ち着きを取り戻した。
『ただいま~!』
いつもより大きな声で言うと、彼女は部屋の中へ入って行った。
部屋の中に彼の姿はなく、彼女と同年齢と思われる二十歳前後の見知らぬ女が
正座をしていた。
『ど、どちら様ですか?』
女は急に立ち上がると、あろうことか、そのまま床から30センチほど浮き上がった。
見上げる彼女の目には、首に巻きつけられたコードと、死体と化した女の姿が
首吊り自殺の映像となって飛び込んできた。
気絶した彼女は、部屋に戻ってきた彼氏によって起こされた。
タバコを買いに外出して、戻ったら彼女が倒れていたんでびっくりしたとのこと。
そして、今日の仏さんが彼女と同じくらいの年齢で可愛そうに思っていたところだと言う。
彼氏の職業は葬儀屋で、その日は首吊りで亡くなった看護師の葬儀だった。

松村進吉

松村進吉
「ある別れ」
大島さんのお母さんが専門学生だった頃の話。
当時、彼女には社会人の彼氏がいた。
大きな会社に勤務していたが、ある日、他県へ異動になった。
若い二人にはショックだったが、毎日の長電話で穴を埋めていた。
そんなある日、彼に電話をすると数回の呼び出し音の後に電話が切れた。
また、電話する・・・・切れる・・・・そんなことを繰り返していると・・・・
『もしもし・・・』 突然、女の声が聞こえた。
受話器を取る音もないまま、女の声が聞こえたので受話器を置いてしまった。
次の日から長電話は再会したものの、女の影が気になってしかたがない。
思いつめた彼女は、土曜日の晩に彼のアパートを訪ねた。
彼の部屋のドアを開けると、部屋の中に女が座っていた・・・
女は座ったまま滑るように彼女に近づくと・・・
『か・・か・・・かえれ!』
浮気の疑いは晴れたが、それよりはるかに質が悪い。
それ以来、彼との仲はギクシャクして、ついに別れてしまったとのこと。
今でも思い出す度に寒気がするのは・・・
彼女が見た女の顔には目玉の代わりにぽっかりと開いた黒い穴がふたつ
あるだけだった。


松村進吉

松村進吉
「骨を拾う」
ある女性が、過去に5回、墓に落ちたという話。
そして、怪我はないが、必ず、骨を触ってしまうという・・・
割れた瓶に腕を突っ込んでしまったり、土に混ざったかけらを掴んでしまったり。
3回は実家の墓地で、1回は遠縁の親戚の墓、もう1回はご主人の実家の墓。
不注意と言えばそれまでだが、気づいた時には落ちているらしい。
骨を収集している業者の人が、驚いた顔をしながら助け起こしてくれる。
親戚たちは『またか』をいう顔をして『早く手を洗って来い』と言う・・・

ご主人が、ある霊能者に奥様の話をしたところ、笑いながら奥様に向かって
『それは全部、あなたを好きだった人や、あなたが産んだ人の骨ですよ。
それだけ、あなたはたくさんの人に好かれていたということです。前世、前々世で・・・・」

小田イ輔
「ついてくる者」
E子さんが中学生だったころ。
授業中、ふとした拍子に廊下に目をやると、黒いスーツを着た教師らしきショートカットの若い
女が通る。
しかし、そのような職員は学校にはおらず、目撃したのもE子さんだけだった。

高校は、地元から百キロ以上離れた、別の町の進学校だった。
『あの中学校へ行くこともなくなったので、もうあの女を見ることもないなと思っていたのですが』
女は高校にも現れた。
地元の中学校に居たはずの幽霊ではなかったのか?
E子さんはその時点で、初めて嫌な感じを覚えた。
高校を卒業して、首都圏の大学へ進学したが、そこにも女は現れた。
『こうなったらこれは土地に憑いているものではなく、私自身に憑いているものだと感じたんです』
最後に、彼女にこの話を書いて良いか確認する。
『ええ、もちろん書いてください。土地のものでもなく、私自身にも全く身に覚えがない女ですから。
あるいは、この話を読んだ人の所へ行っちゃえばいいなって、そういう気持ちで話しています』

黒木あるじ

黒木あるじ
「朝写」
四月の早朝、K君は通勤ルートのI駅に向かっていた。
改札を通って数歩足を進めたところで、前方がざわついていることに気付いた。
口をハンカチで押えながら階段を下りてくるOL・・・
何度もホームを振り返り、足早でその場を立ち去る男性・・・・
衝動的に彼はホームを目指して階段を駆け上がった。
今なら、線路に飛び込んだ人間の死体を携帯電話で撮影出来るかもしれない・・・・・
そう考えたのだという。
何とも不謹慎な考えだが、こういう輩が事故に遭えばいいと思ってしまうのは私だけ?
人波を掻き分けてホームへ向かう。
見なれた看板と電車の時刻を知らせる電光掲示板が目に飛び込んで来た瞬間、突然
視界が遮られた。
黒いすだれののようなものが、目の前にぶら下がったのである。
驚いて立ち尽くす彼の耳たぶに生温かい息がかかり、同時に女の声が聞こえた。
『 はぢ を かかす な 』
よく考えると、あの『すだれ』は髪の毛だったかもしれないとのこと。

我妻俊樹

我妻俊樹
瞬殺怪談 刺 我妻俊樹 平山夢明 伊計翼 小田イ輔 神薫 川奈まり子ほか 竹書房文庫
「地獄の声」 我妻俊樹
優子さんの職場にバイトで来ていた男の子は霊感があって、葬式の家の前を通るとたまにひどい怒鳴り声が
聞こえてくるらしい。
『死んだ人の名前がいろんな声で呼ばれてるんだ』
最初は何事かと思ったが他の人にはきこえないとわかり、この世のものの声ではないのだと知ったという。
彼曰く 『たぶん、名前を呼ばれてる仏さんは地獄に落ちるんだと思う』
呼ぶ声は老若男女さまざまに入り乱れているが、やさしく呼びかけるような口調はひとつもない。
まさに地獄から響いているような声ばかりなのだそうだ。
瞬殺怪談 死地

平山夢明

平山夢明
瞬殺怪談 死地 平山夢明 他 竹書房怪談文庫
「深夜」 平山夢明
『いや、まいったよ』 とタナカは云った。
先日の夜中、十台のタクシーに乗車拒否をされたのだという。
一時間程が過ぎ、ようやく停まってくれた運転手が 『誰も停まらなかったでしょ』 と笑った。
『ええ』
『だってお客さん、血まみれの女が載っかってんだもん。無理だよ、無理』
その日、救急で運び込まれた患者のことだった・・・・彼女は手当の甲斐なく亡くなった。
『私は昔っから、よく見る方だから平気』
運転手はそう云うと車を出した。

平山夢明

平山夢明
瞬殺怪談 斬 平山夢明 他 竹書房文庫
「おんなのひと」 平山夢明
お風呂場にいる女の人はだんだん薄くなっている。
そう力説する娘の言葉を、瑕疵物件と知って購入した自分は強く否定できない。

伊計翼

伊計翼
13名の短編怪談集 157話。
過去に出版された話が47話、新たに書き下ろされた作品が110話 掲載

「侵入」 伊計翼 書き下ろし作品
ある雨の日にU美が読書をしていると窓が叩かれた。
部屋はマンションの一階だったが、そんな訪ね方をする友人はいない。
変な人かもしれないと思っていると、カチャリッと窓の施錠が解かれる音がした。
『え・・・・・』
驚くU美さんをよそに、彼女の目の前で窓はひとりでに開いた。
外には誰もいないが、すぐに窓を閉める。
怖くなって部屋を出ようと振り返ると、真後ろでびしょ濡れの女が笑っていた。

伊計翼

伊計翼
7名の短編怪談集 156話。
過去に出版された話がほとんどだが、新たに書き下ろされた作品を39話 掲載

「いってらっしゃい」 伊計翼 書き下ろし作品
休日、T郎さんが玄関を出るとき、妻の声が聞こえて来た。
『いってらっしゃい』 
ではなく
『はかまいり』
と言われた。
彼は慌てて予定をキャンセルすると、霊園に向かった。

その日が妻の命日だったことを思い出したのだ。

黒木あるじ

黒木あるじ
「入居」 黒木あるじ
その日、不動産業を営む辻野さんは、学生とその母親を連れて賃貸物件を巡っていた。
『前のアパートを飲酒騒ぎで退去させられたとかでね。正直、いいお客じゃないな と
思っていたよ』
物件探しは難航した。
卒業シーズンならともかく、中途半端な時期とあって手頃な部屋は埋まっていたのである。
いつしか辻野さんは『次の物件で決めよう』と決意していたそうだ。
着いたのは、郊外にぽつんと建っている一軒のアパートだった。
気だるそうな態度を崩さない学生と疲れた表情の母親へニコニコ笑いかけて、間取りの
広さを強調しながらアパートの階段をあがり部屋のドアを開けた。
複数の足音がバタバタバタバタと彼の足元を走り抜けて行った・・・・
足音が過ぎ去る間際に 『またしぬね』 と幼子の声が聞こえたという。
『ぞっとしたけど、幸か不幸か親子は気付いていない様子だったからね。そしらぬ顔で
”ここはオススメです” と言った。おかげで契約成立、貸してやったよ』
入居してから三ヵ月が過ぎたころ、学生は中退して故郷へ帰ったそうだ。

吉澤有貴
獄・百物語 吉澤有貴 ほか 竹書房文庫
「お盆のコール」 吉澤有貴
介護施設で働く女性、野田さんの話。
『入所者さんの愉しみって結局食事なんですよね』
お盆と正月のメニューは、入所者が一番愉しみにしているという。
行事食は、食堂での会話も弾んで和やかな空気がながれる。
『でもね、そんな時ナースコールが鳴るんです』
コールのあった部屋番号は、職員が首から下げている医療用PHS端末にも表示される。
その部屋番号は、食堂で美味しそうにお盆のお膳を食べている入所者のもの。
『念のため、部屋にはいきますが、もちろん誰もいません』
食堂に戻って、他の職員に目配せする。他の職員も訳知り顔でうなずいた。
『お盆にね、こうやってコールが鳴った部屋の入所者さんは、その年うちに亡くなるんですよ。
私たちはこのことを”呼ばれた”と言ってます』
今年のお盆もコールが鳴った。今年は二人”呼ばれた”そうである。

平山夢明

平山夢明
「三階」 平山夢明
深夜、終電で帰って来たが、運動不足解消にエレベーターを使わずに三階の自室まで
階段を使った。
途中、降りてくる女の人がいた。
見知らぬ女だった。
軽く会釈した。
と、すれ違ったはずの女がついてくる。
三階の廊下に出た。
女は2メートルほど後ろにいた。
急いで部屋に入り、鍵を掛ける。
気持ちの悪い女だとドアスコープで確認すると姿は消えていた。
ホッとして振り返ると

部屋の真ん中に立っている・・・・
恐怖箱 心霊外科

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 心霊外科 神沼三平太 竹書房怪談文庫
「金色の宝船」
年末に体調を崩して、年越しで入院していた中村さんは、その朝も病院の窓から皇居の方向を見ていた。
彼の世代は天皇陛下に対する思い入れが強い。
昭和天皇の体調は、テレビなどで伝えられていることもあり、何となくそちらの方向を眺めて回復を願っていた。
その朝は視界に奇妙なものが映り込んだ。
金色に輝く巨大な宝船である。
俄には信じられなかったが、ああ、そういうことかと得心した。
中村さんはその場で合掌し、深く深く首を垂れた。
時計を確認すると、午前6時半。
昭和64年1月7日の出来事である。

内藤駆
恐怖箱 夜泣怪談 内藤駆 竹書房文庫
「ツツジ」
数年前の春、OLの戸内さんが体験した話。
戸内さんの出勤途中にある大きなマンションには沢山のツツジが植えてあり、朱色の花が辺りを彩っていた。
子供の頃を思い出し花に触れていると、その中に小さな手が突き出ていた。
驚いた戸内さんが手を引っこめると、小さな手は消えていた。

仕事帰りの夕方、なんとなく気になってマンション前のツツジを見た。
また、花々の間から小さい手が出ていて、ゆっくりと グー と パー を繰り返している。
可愛らしく思い、自分の人差し指を小さな手に当ててみた。
小さな手はゆっくりと彼女の指を握った。
戸内さんが微笑んでいると、突然、植込みの中から別の大人の手が出てきて彼女の手首を強く掴んだ。
そして、そのまま思いきり引っ張られ、ツツジの中に上半身を突っ込む形になった。
植込みの中には、顔色の悪い痩せた女の顔があり
『すみません、私がやりました』
女は目を大きく見開き、まるで機械のような抑揚のない喋り方で言った。
戸内さんは叫び声を上げてその場から逃げると、二度とマンションに近づかなくなった。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
恐怖箱 厭獄 つくね乱蔵 竹書房文庫
「新しい家族」
二年前に夫を亡くした甲本さんに、結婚を申し込む男性が現れた。
相手は中田利伸さん、職場の上司で、同じく再婚だ。
真っ先に考えることは一人娘の明日香ちゃんのこと。
再来年に小学校を卒業する。なるべくなら、多感な青春時代を迎える前に新しい家庭を築きたい。
甲本さんは、結婚したい男性がいることを打ち明けることにした。
『ほら、この人だよ。優しそうでしょ』
スマートホンの画像を見た瞬間、明日香ちゃんが悲鳴を上げて離れた。
畳に突っ伏したまま、怖い怖いと譫言のように繰り返している。
甲本さんは、ようやく明日香ちゃんを落ち着かせ、何が怖いのか訊いてみた。
この人が半年ほど前から夢に現れる。
『この人が怖いんじゃなくて、いっしょにいる変なのが怖い』
甲本さんは中田さんに、おかしいのはわかっていると前置きして相談した。
すると、心当たりがあると言う。
『多分、前の妻だと思う』
病魔に侵された前妻の最後の言葉が『あなたをずっと見守るから』
明日香ちゃんが怖がっているのは、僕の側にいる妻ではないか。
中田さんは涙声でそう言った。
帰宅した甲本さんは、明日香ちゃんに話し始めた。
中田さんと一緒にいるのは奥さんさった人で、中田さんを心配して離れられないの。
だから怖がることはないの。
『天国へ行ってください、とお母さんといっしょにお願いしてほしいの』
『わかった。わたし、がんばってみる』
その週の日曜日、甲本さんは明日香ちゃんとともに中田さんを出迎えた。
『明日香、見える?』
『ねえ、お母さん、どの人にお願いするの?』
どの人とはどういうことか・・・・訊かれた明日香ちゃんは、そっと呟いた。
『七人いるよ』

つくね乱蔵

つくね乱蔵
恐怖箱 万霊塔 つくね乱蔵 竹書房文庫
「石の箱」
上松さんが子供のころの話である。
八月に入って間もない頃、学校の近くの森の中を仲間とともに歩いていた。
目的は、上級生から聞いた噂を確かめるためである。
森の奥に石でできた箱があるのだが、それは古代の棺桶で、中にはミイラが入っているというのだ。
二十分ほど歩いたところで、木々の間からそれらしきものが見えてきた。
鉄柵に囲まれていたが、難なく乗り越えられた。
一辺が一メートル程度の正方形の石の箱。高さが、上松さんの胸あたり。
蓋に使われているも同じ石で、厚さが十センチほどあり、押したくらいではビクともしない。
全員で力を合わせ、少しずつ、少しずつ動かすと、ようやく隙間が空いた。
上松さんはリュックサックから懐中電灯を取り出すと、箱の中を照らしてみた。
中には古びた布が一枚と、茶碗のような容器が一つ。
急につまらなくなり、帰ることにした。
来た道を引き返すと、背後の石から音がした。
振り返ると、蓋が動いている。
蓋が閉まる最後の瞬間、下から押し上げている手が見えたそうだ。
とても小さい手だったという。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
恐怖箱 絶望怪談 つくね乱蔵 竹書房文庫
「希望」
ここに集めてきた怪異は、何ひとつ解決せずに続いているものが多い。
考えてみれば、それは当然のことである。
どういう形であれ決着が付けば、いつの日かそれは淡い思い出に変えて片付けておける。
あのときは本当に怖かったねぇ、とほんのり笑って話せる。
だが、真に悪意ある存在は、安易で穏やかな決着から遠く離れた場所にいる。
そして私も、そのような穏やかな思い出話を書こうとは思わない。
ということで、ここには絶望という言葉に値するような怪異が揃ってしまった。

今回の表紙は、厭怪も担当してくださった芳賀沼先生の手によるものだ。
凄まじく怖い絵だ。
けれど、その巧みな筆致による質感が何とも言えず美しい。
この絵のタイトルは 『恵みの雨』 描かれたテーマは 『希望』 だという。
絶望怪談の表紙が希望という、あまりにも上出来な仕掛けである。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
恐怖箱 厭魂 つくね乱蔵 竹書房文庫
「足湯」
うまいラーメン屋ができたと聞き、徒歩5分の散歩に出かけた。
開店早々に行けたおかげで、テーブル席でゆっくりと楽しめた。
すっかり気に入ってしまい、休日のたびに足しげく通った。
その日は用事があり、いつもの時間には行けず、たまたま空いていたカウンター席に座った。
厨房では、手際よく麺を湯切りしている者、その奥で餃子を焼いている者、あと一人は大きな
寸胴鍋に足を入れて立っている者が見える・・・・
『え?』
おしぼりで顔をぬぐい、もう一度、寸胴鍋を見た。
間違いない。やはり、男が寸胴鍋に足を入れて立っている。
ふと、視線を上げると男は寸胴鍋に立っているのではなく、首を吊ってぶら下がった足の先に鍋が
あるという感じだった。
その時、餃子を焼いてい店員が、スープ作りに取り掛かった。
寸胴鍋に近づいて、中身をかき回す。
その間、男の体はふわりと揺らいでいたが、その姿が消えることはなく、店員が離れると足はふたたび
寸胴鍋の中へと入って行く・・・
『へい、お待ち』
目の前に盛大な湯気を放つラーメンが置かれた。
そのラーメンと吊り下がる男を交互に見つめるうち、吐き気に襲われたので勘定を済ませて店を出た。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「長い土下座」 つくね乱蔵
聡美さんが中学生の頃、女手一人で育ててくれた母が再婚を決めた。
相手は大手スーパーの経営者である。
幼い頃から苦労してきた母が掴んだ幸せに、聡美さんも心から祝福した。
ついでに、いつも疑問に思っていることを母に尋ねた。
『あの人はどうするの? って言うか、いつまであのままなの』
母は少し躊躇った後、淡々と話し始めた。
『あんたの五歳の誕生日に、あいつは父親のくせして逃げたの。部下と不倫した揚句
借金だけ残して。お母さん、親の反対を押し切って結婚したからさ、帰るに帰れなくて。
あんた抱えて、やれることは全部やったわね』
初めて聞く話である。
『半年くらい経った頃かな、警察から連絡があって。お宅の御主人が自殺されたので
確認して欲しいって言われた。だから、こう言ってやった』

自分には主人はいません。誰が死んだか知りませんが、勝手に処理してください。

『それからずっと、ああやって部屋の隅で土下座してんのよ』
聡美さんは黙ったまま、母を見ているしかなかった。
今でもまだ、土下座を続けているという。
黒木魔奇録
魔女島


黒木あるじ

黒木あるじ
黒木魔奇録 魔女島 黒木あるじ 竹書房怪談文庫
「ホンモノ」
沙智さんの実家はお寺である。
ある日、総代が父に 『あんたんとこはホンモノだなあ』 と唸ったのである。
『ホンモノって、何が?』 沙智さんの問いに
『お前さんとのこ寺はな、霊験あらたかなことでひそかに有名なんだ。公に謳ってこそないが
口伝えで広まっている』
難しい言葉ばかりだったが、除霊の類で評判らしいことは理解できた。
けれども不思議なことに、お祓いを頼んだり護摩を焚いてもらう参拝者はいなかった。
みな、沙智さんの両親と茶飲み話をして一時間ほどで帰っていく。それだけ。
『そもそも父は鈍い性格なんです。とてもじゃないけど総代の言う〈霊験〉があるようには見えない』

小学五年の秋だった。
その日も、夕暮れに呼び鈴が鳴った。
いつもの時刻、いつもの弱々しいチャイム。近所に住む、檀家の《草本のジイ》に違いない。
『はぁい』 沙智さんが玄関へ駆けだそうとした矢先、母が叫んだ。
『開けるんじゃない』 普段の柔和さが嘘のような、鋭く冷たい声だった。
あまりの剣幕に驚いて、走りかけたポーズのままで固まる。母も彼女を睨んだまま、動こうとしない。
呼び鈴が、もう一度鳴った。
沙智さんは戸惑っていた。居留守を使うにしても、家の灯は庭先まで漏れているのだ。
と、ふいにチャイムの音が止まった。
次の瞬間、玄関から聞いたことがない耳障りな音が響いた。
そして音は激しさを増していく。
なのに母は身じろぎもせず、父もやってくる気配がない。
『ねえ、あれって草本のジイじゃないの。怒っているんじゃないの』
居た堪れずに訊ねる。
母は眉も動かさず 『怒っているよ。だから構っちゃいけないの』
十分ほどが過ぎ、ようやく音は止んだ。待っていたかのように母が父の部屋へと走っていく。
まもなく父は袈裟と法衣、お経の折本を手にやってきた。檀家で葬儀の際の道具一式だ。
『今夜かな、明日かな』
『たぶん、まもなくだと思います』
慌ただしく支度を整えながら、父と母が会話を交わす。その最中、廊下の固定電話が鳴った。
草本のジイが急死した・・・・との知らせだった。
すでに袈裟をまとった父が、慌てるふうもなくジイの家に向かう。遠ざかる背中を呆然と見送る
沙智さんの肩に、母がそっと手を添えた。
『あのね、ウチの仕事はこの世に未練がある人をちゃんと送り出してあげることなの。だから
生前はどれだけつきあいがあっても、死んだあとは構ってはいけないの。さもないと、連れて行かれる』
あ、なるほど・・・・
お母さんがホンモノなんだ。
そのときようやく、総代の言葉に納得したという。
黒木魔奇録
狐憑き


黒木あるじ

黒木あるじ
黒木魔奇録 狐憑き 黒木あるじ 竹書房怪談文庫
「訂正」
友人の誘いを断れ切れず、真夜中の県境へふたりで向かう。
目的地は一軒の廃屋で、どうやらいわくつきの建物らしかった。けれども、友人はこちらの反応を
愉しんでいるのか、現地に到着しても詳細を教えてくれない。勿体ぶった態度にいら立ちつつ庭の
藪を漕ぎ、割れガラスをまたいで縁側から室内に入った。
懐中電灯の光に、腐りかけた畳や剝き出しの根太が浮かび上がる。
そんな中友人が 『な、ヤバイだろ』 と得意げに声をひそめる。
『はいはい。で、ここは何なの?』
同意するのも癪なので、無関心を装い、訊ねる。
『実は、この家で・・・・殺人事件が起こったんだってさ!』
友人がこちらの肩を揺さぶった直後・・・・
『ちがうう』
耳のそばで声が聞こえたかと思うと
『いっかしんじゅうッ』
声と共に背後から延びる手が懐中電灯の光を遮った。
光の輪に一瞬だけ見えた掌は黒く萎びていた。

黒木あるじ

黒木あるじ
黒木魔奇録 黒木あるじ 竹書房文庫
「納得」
K子さんの住むアパートの部屋では、ときどき妙なことが起きる。
深夜になると玄関のドアノブが、かか、かかかか、と小刻みに揺れる、ドアスコープを覗く
誰もいない、ドアから離れるとドアノブが、かか、かかかか、と揺れる・・・その繰り返し。
ある日、友人が遊びに来て、ドアノブの話になった。
『なにそれ、絶対にストーカーだって。警察呼びなよ』
『だから、絶対に生きている人じゃないんだって』
『だってさ、幽霊だったらドアなんて関係ないでしょ。すり抜ければいいだけじゃん』
友人が冗談めかして言った直後
『そうだよね』
低い声がして、細長い顔の女がドアをするりとすり抜けるやリビングをずたずた横断して
道路に面した窓へぶち当たるようにして消えた。
泣きじゃくりながら、二人で抱き合って朝を迎えたそうである。

丸山政也

丸山政也
怪談五色 破戒 丸山政也 我妻俊樹 川奈まり子 渋川紀秀 福澤徹三 竹書房文庫
「砂場」 丸山政也
Cさんは中学生のとき、修学旅行先の宿で友達と怪談話で盛り上がった。
その夜、幼い頃よく遊んだ公園の夢を見た。
陽が落ちて、薄暗い砂場の前にひとり佇んでいる。
ただそれだけなのだが、目覚めが悪い。
寝る前に怪談話などしたせいかと思っていた。
その日、自宅に帰ると、仲の良かった大学生の従兄弟がくだんの公園のトイレで首を吊ったことを知った。
砂場のほうを見つめるように揺れており、両眼の充血が凄まじかったという。

黒木あるじ

黒木あるじ
怪談五色 呪葬 黒木あるじ 黒史郎 朱雀門出 伊計翼 つくね乱蔵 竹書房文庫
黒木あるじの母校の大学にて、怪談売買所の屋台を出店した際にお聞きした話。
「ほくろ」 黒木あるじ
『話者/市内在住の五十代男性』
ウチの親父、左足の甲に十円玉ほどの大きさをしたホクロがあるんですけどね。
聞いたら『これは曽々祖父(ひいひいじい)さんの所為なんだ』なんて言うんです。
なんでも、曽々祖父さんは幼い長男を病気で亡くしているそうなんです。
我が子を失った悲しさはたいそうなもので・・・
『もしも生まれ変わってきたときは、また我が家の子になっておくれ』って、棺桶に入れた
我が子の左足に墨で目印をつけたそうなんです。
ええ、そうなんです。親父の左足の甲にあるホクロと、曽々祖父さんがつけた墨の目印
場所がぴったりと一致するらしいんですよ。
『曾孫になって戻ってきた』って家族にはずいぶん喜ばれたらしいですが、まあ、本人は
複雑な心境だったみたいです。
『前世の記憶もなにもないんだもの、喜びようがないよなあ』って、困っていましたよ。
いまでも、我が家の語り種です。

我妻俊樹

我妻俊樹
怪談五色 死相 我妻俊樹 平山夢明 岩井志麻子 小田イ輔 福澤徹三 竹書房文庫
「骨壺」 我妻俊樹
丸田さんの同い年の友人が若くして亡くなって、一年後に彼の夢枕に立った。
『どうして俺だけ暗いところにいるんだ。出してくれ。女のいっぱいいるところへ連れてってくれ』
懐かしい友が泣きそうな顔で訴えてくるので、さっそく墓に行って骨壺を取り出そうとすると・・・
ちょうどそこへ共通の友人であるSが来て止められた。
実はSもまったく同じ夢を見て、友人の骨壺を持ち出そうと墓地へ来たのだが、白い箱を
抱えた丸田さんの姿を目の当たりにして急に正気に返ったのだという。

たぶん丸田さんたちと同じ夢を見た者が、他にもいたのだろう。
というのも翌年の命日に墓参りに来た家族が中を確かめたところ、骨壺が何者かによって
盗まれていることがわかり、二十八年経った今も行方不明のままだからである。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「笑顔の記念写真」
関口さんは貧しい家庭で生まれ育った。
夫婦共働きでようやく一般家庭の収入と同じくらいであったが、根っから明るい
父母のおかげで笑いの絶えない毎日だった。
そんな父の口癖が
『おまえを遊園地に連れて行ってやりたいな』
そんな父が自動車事故で他界した。四十二歳だった。
悲しみに耐えながら葬儀を終え、日々の暮らしが落ち着いて来た頃、封書が届いた。
父宛の封書の中には遊園地の招待券が入っていた。
生前の父が出版社の懸賞に応募していたのだ。
父の葬儀以来、涙を見せなかった母が泣いた。
快晴の日曜日、関口さんは母とともに、生まれて初めての遊園地を楽しんでいた。
ジェットコースターから降りてきた時のことである。
『絶好のポイントから撮れています。お写真どうですか?』
写真を持った係員が話しかけて来た。
贅沢はできない。招待券はあるものの、お弁当持参で来たくらいなのだ。
だが、写真を見るなり、母は高価な写真を購入した。
『どうしたの?お母さん。そんなの買っちゃって』
『ここ、見てごらん』
ジェットコースターが下りに差し掛かる瞬間を捕えた写真だ。
楽しげに笑う母子の後ろで、もっと楽しげに笑う父の顔が写っていた。

朱雀門出

朱雀門出
「震える三人」
Mさんという女性が子供の頃、体験した話。
ふと、夜中に目が覚めた。
すると、気配がする。
突き当たりの廊下を小さい何かが歩いている。
よく見ると小人だ。それも三人いる。髪が長いので女性だと思った。襦袢のような薄着だった。
首を震わせながら歩いていた。
と、突如三人が一斉に振り返った。
その三人の顔に見覚えがあったが、その時は思い出せなかった。
翌年の二月下旬のこと、母親と雛人形を出していると三人官女だけがなくなっていた。
不思議なことに着物はそのままで、中身だけがなかった。

Mさんがあの夜に見た三人の顔が、無くなった三人官女と全く同じであるかどかは
今となってはわからない。
ただ、手元に残っている他のお雛様の顔は、あの小人とそっくりであった。

宇津呂鹿太郎

宇津呂鹿太郎
「最終バス」
『また、あれを聞かなきゃならないのか』
そう思いながら、久谷さんは乗客の少ない最終バスに乗り込んだ。
座席に座ってぐったりしていると、背後からハミングが聞こえて来る。
微妙に音程がずれていて、聞いていて気持ちが悪い。
そうこうする間に、降りるバス停が近付いてきた。
ハミングはまだ続いている。
降車ボタンを押して、バスが停車した。
まだ続いているハミングに、座席から立つと後方へ視線を送った。
その途端にハミングは止み、後ろには誰もいない。
その路線の最終バスに乗る度に繰り返される出来事である。

神薫

神薫
「当世妖怪気質」
オカルト好きの三郎さんが夏の心霊番組を見ていると、中学生になった彼の倅の太郎君が
声をかけて来た。
『おやじ、いい年こいて、まだそんな子供騙しのような番組を見ているのかよ!!』
三郎さんと太郎君が言い争っていると、太郎君が爆弾宣言をした。
『ろくろっ首ならまだしも、幽霊なんてこの世にいるわけないだろう!』

太郎君の体験は、団地の1階に住んでいた小学生の時のこと。
三郎さんが夜勤の丑三つ時、蒸し暑さから目覚めた太郎君は外で大勢の人が無言で歩く
気配を磨りガラス越しに見る。
最初は黒っぽい服装だったが、最後の方では赤、青、緑、黄とカラフルになっていった。
そして、たまたま透明なガラス越しに見えた先には着物を纏った女性の胸元が見えた。
と、次の瞬間、女の首fがゴムのように伸び、透明なガラスの上部から顔が覗いた。
艶やかな日本髪に簪の細工が揺れ、富士額の下から煌めく双眸が太郎君の目と合う。
ろくろっ首は、いたずらっぽく 『にぃ~』 と笑いかけて来た。
太郎君は布団にまるまって気絶した。

三郎さんは 『倅は百鬼夜行を見たのでしょう。磨りガラスではなく透明なガラスで見たら
もっと多くの妖怪が見えたはずです。あ~もったいない』

神薫

神薫
「あとがき」
宮城へボランティアに行った若い女性の話を聞いた。
物の欠片が積もる街で彼女たちボランティアは数人のグループで作業を行い、1日の
作業を終えて宿に帰る途中のことだった。
『あの、すみません』
最後尾を歩いていた彼女は、後ろから声を掛けられた。
『何でしょう?』 と彼女が返事をしながら振り向くと、若い男性が一人立っていた。
『僕は生きていますか?』
この人は何を言っているのか。足もある。服も着ている。透けてもいない。
変な人に絡まれたと思い、前を行く友人に声を掛けた直後・・・
『僕は死んだんですか・・・・』
ぽつりと、そんな声が聞こえたので振り返るが若い男は消えていた。

岡本美月

岡本美月
「お賽銭」 岡本美月
OLのナオミさんの趣味はパワースポット巡り。
ある日、隣県に住む友人のマオさんの誘いで、マオさんお勧めの神社へ向かった。
マオさんの愛犬 ロングコートチワワのペペも一緒に出かけた。
神社の入口には 『ペットの散歩はご遠慮ください』 と書いてあったが
『散歩じゃないもん。ペペも参拝にきたんだもんね』
マオさんはペペに話しかけるように言った。
そして、神社に入ると、他に人がいないこともあり、マオさんはペペのリードを外した。
すると、ひときわ大きな杉の木の根元でおしっこをはじめた。
ナオミさんは、鈴を鳴らし、お賽銭を賽銭箱に入れ、二礼二拍手一礼の作法通りに参拝。
マオさんも、バックからお金を取り出し、無造作に小銭を賽銭箱に投げた。
『 チャリーン 』
背後で音がした・・・・驚いて二人が振り向くと砂利の上に百円玉が落ちていた。
『もう一度やるから見ていてね』
マオさん、今度は五百円玉を賽銭箱へ投げた。
すると、後ろに落ちた百円玉のすぐ脇で五百円玉が突然現れ、跳ねた。
『うっそー』 思わず大きい声をあげてしまった。
『やだ、気持ち悪いから帰ろう』
マオさんは、そう言うとペペを呼んでリードを繋いだ。
足早に境内を後にするマオさんの後ろ姿を見ながら、ナオミさんはもう一度本殿に
向かって手を合わせた。
『ごめんなさい。悪気はないんです。許してください』
ナオミさんは砂利の上に落ちた百円玉と五百円玉を賽銭箱へ入れた。
今度は賽銭箱の中に落ちた。
その後、マオさんやペペの身に悪いことが起きた話は聞かない。
幽戸玄太

幽戸玄太
「お化け撃退法」
小学生の時、同級生のトキタ君に
『お化けを撃退する方法を知っている?』
と話しかけられた。
『知らない』
と首を横に振るとトキタ君は難しい顔つきでこう説明した。
『服をな、全部脱ぐでしょ。パンツもね。それで走り回るとチンチンが揺れるでしょ。
その音でお化けが逃げるんだ』
ぼくが疑った目でトキタ君の見ると
『死んだ九州の叔父さんが言っていたんだから本当だって』
『死んだ叔父さんって、いつ死んだの?』
『ぼくが生まれる前』
『そうしたら、幽霊に教えてもらったということなの?』
うん とトキタ君は自信たっぷりに頷いた。
『絶対の絶対に本当だから。だって教えてもらった時に裸になって走り回ったら
叔父さん、慌てて消えちゃったもん』
それ以来、叔父さんは二度とトキタ君の前に現れないだそう。

幽戸玄太

幽戸玄太
「死者との約束」
父親の法事で久しぶりに会った叔母から、生涯で一番怖ろしかった話を聞いた。
それはぼくの祖父が亡くなった時の話。
叔母は、給仕に駆り出されていて昼間は祖父の棺に近づけなかったことから
深夜、人がいない時に棺桶の小さな扉を開けた。
手を合わせて、頭を下げた。
もう一度、祖父の顔を見たら目が開いた。
ぎょっとしたが目が離せない。
そして今度は、口が動いた・・・・
『なに?おじさん』 叔母は祖父の顔に耳を近付けた。
『おまえも来い』
すかさず叔母は『こどもが小さいから駄目』と答えた。
叔母には、ぼくと同い年のタエコという娘がいる。
『最初は高校入試。次は成人式、大学卒業、就職。節目節目でびくびくしてきたわよ。
今はタエコもお母さんで孫の顔も見たし。今なら、おじさんが迎えに来てもいいかなって』

ムラシタショウイチ

ムラシタショウイチ
「幽霊の話」
初めて幽霊らしき物体を見たのは十二歳の頃だった。
友人の家から自転車で帰宅途中、対岸の土手に髪の長い女が立っていた。
黄昏時だったが、やけに女がはっきり見えた。
女は私を追いかけるように対岸の土手を、起立したままの姿勢で移動していた。
やがて土手が切れて国道に差し掛かると、対岸の女は、いつのまにか消えていた。
安堵の息をついたのもつかの間、自転車が追突されたような揺れ方をした。
驚いて振り向くと、対岸を移動していたはずの女が荷台をグイグイ押していた。
荷台を押す指には赤紫の斑点がいくつも浮かんでいた。
気が動転するとは、まさにこのことである。
私は、倒けつ転びつ、ほうほうの体で家まで逃げた。
お陰で、自転車はハンドルがおかしくなってしまった。
翌日、同級生から、あの川で数日前に男女が死んでいたのだと聞かされた。
心中という言葉を知らなかった身でも、あまりよくない死に方なのは理解していた。
それにしても、何故、女だけが化けて出て、男の姿がなかったのは今も謎のまま。

小田イ輔

小田イ輔
「湯船の中で」
年頃になる二人の娘さんの父である橋本さんが大好きな風呂に浸かっていた。
『その日は丁度、お盆時期で盆礼のために親戚中を回ってきたところだったからクタクタ
だったんだ』
追い炊きに、追い炊きを重ねていた。
すると、突然、給湯穴からブクブクと空気が沸いてきた。
『今までは、そんなことはなかったので故障かなと思って・・・
明日は休みなのに、故障の手配をしなくてはだめかな・・・お盆の時期では業者も休みかも
しれないな・・・』
しょんぼりしていると、湯船の中に自分の手の他に、もう一本の手が見えた。
その、もう一本の手を凝視していると見覚えのあるものが目に入った。
『妻に贈った指輪だったんだ』
橋本さんは数年前に奥さんを亡くしている。
『ああって納得したんだよ。さっきから考えていたことと言えば明日をどうダラダラ過ごす
かということだから』
------ 心配しなくても朝一番で会いに行くから。
心の中でそう告げると、妻の手は湯船に溶け出すように消えた。
次の日は早起きをしてお墓に向かったという。
『たぶん、心配もあったんじゃないかな、若い頃は湯船の中で寝てしまう事が多くって
何度も彼女に怒られていたから』
給湯器は壊れていなかった。

我妻俊樹

我妻俊樹
「見送り」
笠間さんが某県の競技場でサッカーの試合を見た帰り、ラーメン屋に立ち寄った時のこと。
店の奥から 『ぐしゃっ』 という音がした。
すると、店員たちが慌てた様子で動き出した。
やがて店の前に救急車が止まり、担架であご髭のある恰幅のよい店主と思われる男性が
運ばれて行った。
心配げにに戸口に立って見送る店員たちに混じって、店主そっくりの恰幅のよいあご髭の男が
うつろな目で救急車を見送っていた。
双子なのだろうかと思って笠間さんが見続けていると、他の店員たちは持ち場に戻って行ったのに
その男だけがその場に立ったままだった。
そして、時間の経過とともに体が透けていったという。
二ヶ月後に店の前を通るとシャッターが下り、閉店を知らせる貼り紙があった。

我妻俊樹

我妻俊樹
「自転車」
線路沿いの、人がすれ違うのもやっとの道を歩いている時だった。
後ろから自転車のベルを続けて鳴らされた。
素子さんは立ち止まった。
夕闇のあかりの中で、くすんだ黄色いポロシャツを着た女が自転車で近づいてくるのが見えた。
端に寄って待っていると、女はスピードも緩めず、目礼もせずに走り去って行った。
女は、はるか先の陸橋の階段の下に自転車をとめて陸橋を渡る。
やがて素子さんも女がとめた自転車のところに辿り着いた。
今の今まで女が乗っていたはずの自転車だったが、錆びてボロボロな上に、線路の金網から伸びた
ツタがスポークに巻きついていた。
他に自転車は見当たらない。
とてもじゃないが、昨日、今日に置いた自転車ではない。
その時、強い視線を感じた・・・・階段の手すりから、さっきの女がすごい形相でにらんでいた。

我妻俊樹

我妻俊樹
「一字」
Nさんの職場では毎年のように自殺者を出しているが、今まで亡くなった人たちは
ほとんどの場合、氏名にある漢字一文字が含まれている。
読み方はまちまちで苗字だったり名前だったり、位置もさまざまだが、どこかに
その一文字が入っていた。
そして、その一文字とは旧社名に含まれていた一文字なのである。
『人名として決してありふれているとは言えない、その一文字の入った氏名の
新入社員やアルバイトを、会社が毎年少なからぬ人数を採用し続けていることが
一番怖いんですよ』
とNさんは声をひそめてつぶやいた。

我妻俊樹

我妻俊樹
「お昼寝」
慎二さんは幼稚園に1ヶ月くらいしか通わなかったらしい。
登園を嫌がったという記憶もないので不思議に思い、中学生の頃に母親へ尋ねた。
『お昼寝の時間に、あんたが白目剥いておじいさんみたいな声で
≪ゆるせ~ゆるせ~≫と唸るから保母さんが怖がっちゃって』と言われた。

我妻俊樹

我妻俊樹
「食べ合わせ」
書店員の大迫さんの家では、芋類を二品以上同時に食卓に並べてはいけないという
決まりがある。
謂われがあるわけではなく、経験上でやめたほうがいいと伝わっている程度のもの。
なんとなく守ってはいるが、いつ破ってもいいだろうと思っていた。
それは、大迫さんのお母さんも同じで、お父さんのいない晩の食卓にポテトサラダと
サツマイモの天ぷらが並んだ日があった。
『芋のおかずがかぶっているねー』 と二人で相談したが、まあいいか~と
食べ始めようとしていたところで家の電話が鳴った。
『電話は父の上司からでした。会社を出たところで父がバイクにはねられて
救急車で運ばれたという連絡でした』
かけつけた病院では、さいわい命に別条はなく、照れ笑いをしたお父さんがいた。
『さすがに芋のことは父に言えませんでした』
もし、芋に箸を付けていたらどうなっていたかを考えると寒気がするという。

黒史郎

黒史郎
「いたずら」
『キャッ、キィィーって、最近は猿なんだよね』
今年、還暦を迎える式部さんは ”この手のもの”の悪戯が珍しくないという。
昨日、猿の鳴き声のようなものを聞いた時も『またか』と思ったが、聞こえた場所が
寝室からだったので妻の仏壇が心配になり向かった。
寝室の襖を開けた。
カタカタという音が仏壇の方から聞こえてくる。
仏壇の扉を開けると、音は更に共鳴した。
妻の遺影が、彫りの深い見知らぬ男性の顔に変わっている。
遺影がパタンと倒れる。
遺影を起こすと妻の顔に戻っていた。
『まったく、何がしたいのやら・・・』
呆れて部屋を出る式部さんを呼び止めるように、キャッキャッキャッと猿の鳴き声が
聞こえた。
それからも度々、いたずらをされる。
『寂しい一人暮らしだから歓迎したいが、何者かが知りたいんだ。妻でないことは確か』

我妻俊樹

我妻俊樹
ふたり怪談 弐 我妻俊樹 黒木あるじ 竹書房文庫
「深更」 我妻俊樹
交差点の真ん中にトラックが停まっている。
事故だろうか?
深夜で車の通りはばったり途絶えている。
運転手の急病かもしれない。
通報すべきか、迷いながら黄点滅の信号を横断した。
トラックから、かすかにアイドリングの音がひびく。
背後からライトに照らされる・・・・振り返るとパトカーが1台近づいてきた。
ほっとして、歩道から事態を見守ることにした。
ハトカーが交差点に進入する。
トラックは動かない。
ハトカーは音もなくトラックに接近すると・・・・
そのまま速度を落とさずにトラックの荷台を通り抜けて行った・・・・

黒木あるじ

黒木あるじ
「託死」 黒木あるじ
二十年程前に、異業種からタクシードライバーへ転職して間もないFさんの体験。
その頃は『不況』の二文字が新聞やテレビで踊っていたし、現に客足も減っていた。
先の見えない生活で、幼い子どもと女房を食わせていけるのか、非常に不安だった。
ある日、車を流していると車道に半身を乗り出して手を上げるサラリーマンの姿が目に
入りハザードランプを点けて停車。
ドアを開けると酔っぱらいと思われる男が乗り込んできた。
ルームミラーで男の顔を確認すると、偶然にも前の職場の後輩だった。
Fさんは前の職場を辞める時、『引き抜きの話も出ているんだ』と嘯いていたため
タクシードライバーに転職したとは誰にも話していない。もし、ここで面が割れて
しばえば、あの時の発言が大ホラだったとばれてしまう・・・・
気付かれないようにルームミラーで後輩の姿を確認しようとすると・・・ずれている・・・・
後輩の顔が左右にずれている、シュレッダーにかけた写真を乱暴に繋ぎ合わせた様。
ルームミラーにヒビでも入ったかと見直したが、後輩が座っているシート、リアガラスには
異常は見られない。戸惑う間にも、顔や手、足、胸に腰と各部位が細かく裂けて行く・・・
やがて車は目的地の手前まで辿り着く。
『せんぱい、せんぱい』
やはり解っていたのかと、挨拶を返す・・・すると・・・
『おれ、しにました』 突拍子もないセリフであったが、バラバラになる姿を見ていたので
納得できてしまった。
『しぬって、あまりよくない。やめたほうがいいです・・・・・いきてみましょうよ』
死にたいと思っていたFさんが涙をぬぐう一瞬の間に、シートは無人になっっていた。
そして、後輩は亡くなっていた。半月前に快速電車に飛び込んでの、轢死だった。
それからは、毎年後輩の墓へ花を手向けに赴いているそうである。

松村進吉

松村進吉
「それはそれ、これはこれ」  松村進吉
彼女が敵の正体を察したのは、初めてその存在に気付いてから、半年ばかり
過ぎた頃のことであった。
・・・・夫は不倫をしている・・・・
その不倫相手は図々しいことに、彼女たち夫婦と同居していた。
夫の寝室を数十分おきに覗いてみるのだが、こちらの動きを察するなり
滑るようにして夫のベッドの下へ隠れてしまう。
『な・・・頼むから、一回だけ俺と病院へ行こう。俺を信用してくれ』
『うるさい。私に近付かないで。私をどうかしたいんだったら、その前に
あの女をここに連れて来て』
『・・・だから、そんな女はいないんだよ。何回調べれば気が済むんだ』
『ケ!よく言うわよ。白々しい』
彼女は音を立てないように夫の部屋の前に移動すると、ドアを開け放つ。
『ほら見ろ、そこにいるじゃないか』と叫ぶ間に、相手はベッドと床の間の
5センチほどの隙間に逃げ込んでしまう。
怒号を上げた彼女は、自らも5センチの隙間に入ろうとのたうつ。
そんな錯乱を繰り返すうち、両手の指を脱臼するに至り、救急車で搬送。
『結果としてそれで、きちんと処置が受けられた。夫には今でも本当に
申し訳けなかったと思っています。』
あれ以来、不思議なものを見るようになってしまったとのこと。

福澤徹三
平山夢明

福澤徹三
平山夢明
「訃報」 福澤徹三
健康食品会社を経営するJさんの話である。
昨年のこと、事務所のファックスに訃報が送られてきた。

父○○○○儀、○月○日 ○時○分、永眠いたしました。
ここに生前のご厚誼を感謝し、謹んでご通知申し上げます。

ところが亡くなったのは知らない人で、喪主についても同様。
おまけに通夜の日付は一週間後の日付だった。
送信間違いに、日付までおかしいとあっては必要ないと思い、ゴミ箱に捨てた。
一週間後、近所に住んでいる父が喪服で店に顔を出した。
これから知人の通夜に行くとのことで、先日のファクスを思い出した。
『ねえ、○○さんて知ってる?』
父が通夜に行く家が○○さんとのこと。
父によれば、○○さんはおととい急に倒れて、そのまま亡くなったという。
訃報のファクスが来た時点では○○さんは生きていたことになる。
ゴミ箱を探したがファクスは見つからなかったという。

黒史郎

黒史郎
「沈黙の龍」 黒史郎
『絵に描いたような江戸っ子でした』
大島さんの祖父は、破天荒で口が悪く、いつも誰かとケンカしているイメージがあったという。
好きなものは祭りと朝風呂とするめ。
祭りになると誰よりも目立ちたがり、上着を脱いで裸になる。
その背中にある昇り龍の刺青は、祖父唯一の自慢だった。
そんな元気な祖父が、ある日突然に亡くなった。

四十九日が過ぎて落ち着くと、家がやけに静かに感じる。
『ああ、もうおじいちゃんはいないんだ』と実感した。
部屋でひとり遺品の整理をしていると、涙で曇る視界の隅に見慣れた背中がある。
『おじいちゃん?』
おじいちゃんのことだから、自分が死んだことに気付いていないんだ。
背中には、自慢の昇り龍がない・・・・
祖父は堅気になったのだな・・・・そう思った。
小林玄

小林玄
「ミウ」 小林玄
『遺体はまだ置いてあるから、早く帰ってきなさい』
久しぶりの母からの電話は、大切に飼っていた猫、ミウが亡くなった知らせだった。
仕事が終わって、そのまま実家へ飛んで帰った。
小さな箱に納められたミウは年寄りだったけど、いっそう小さくなっていて、涙があふれた。
『一人にしてくれる?』
僕が可愛がっていたことを家族はわかっているから、部屋にミウを残して出て行ってくれた。
線香を焚いた。
『おいで』 と膝を叩く合図で乗ってきたことを思い出し、また泣いた。
『もう一度、膝に乗ってきて欲しかったな』
試しに、膝をポンポンと叩いてみた。
すると、締め切った部屋で、まっすぐに上げっていた線香の煙が直角に曲がり、僕の方へ
漂ってきた。
やがて煙は、僕の膝の上に集まるとミウの寝る形になった。
それを見て、どっと涙が溢れた。
『もう行っていいよ』
そう声を掛けると、煙はゆっくりと宙に消えた。

神薫

神薫
「見えるの見えないの」  神薫
祐希さんが中部某所に出かけた時の話。
地下道の発達した街で、食堂からブティックまであり、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
そして、いつもは上がる地上への階段をやり過ごすと行き止まりだった。
その当たりは昼間、営業していない店がシャッターを下ろしていた。
そんな寂しい場所で赤い服の女の子が一人、遊んでいる。
空中を指差して、楽しげに笑いながら何か言っている・・・
何が楽しいのか理解できなかったが、言っていることは聞こえてきた。
『アハ! いっぱい! いっぱい!』
屈託なく笑いながら、少女は突然こちらに向かって走り出した。
『その子、まっすぐ私に体当たりしてきたの』
祐希さんの腹部に頭から突っ込んだ少女は、勢い余って地面に転がった。
『大丈夫?』 と声を掛けるが、目の焦点は合っていないし、こちらの声も聞こえていない様子。
『ごめんなさいねぇ』 突然、背後から声を掛けられた。
その人は座り込んだ少女を片手でひょいと立たせると、祐希さんに耳打ちしてきた。
『ごめんなさいねぇ。この子、生きている人は見えていなくて』
『え? どういうこと?』
振り向いた時には、その人と少女の姿は忽然と消え失せていた。

多田遠志

多田遠志
「君とは長いつきあいになりそうだね」 多田遠志
よしえさんはデリバリーヘルスに勤めているが、ぽっちゃりの女性が在籍する店である。
『太っていないと客が付かないし ≪もっとデブだと思ったのに≫ってクレーム言われたり
するからさー、体型維持には苦労するわけよ』
ある日、よしえさんが付いた影の薄い初老のサラリーマン風の男は変わっていた。
待ち合わせ後、ホテルにチェックインすると、いきなり大量のコンビニ弁当、サンドイッチを
テーブルにぶちまけ
『おなか減っているでしょ?食べて』
よしえさんは太りにくい体質なのでいただくことにした。
食べるよしえさんの姿を見て、男はニコニコとテーブルに肘をついて眺めていた。そして
『合格!君とは長いつきあいになりそうだ』
その客の発言は本当だった。週一度は必ず指名し、追加料金を払ってまで、よしえさんの
食事風景を携帯ムービーで撮影する。外食店に連れて行ってくれる時は、店外デートでは
なく規定時間内で食事を御馳走してくれた。
一年以上、毎週遊びに来てくれていたが、ある日を境にぷっつりと来なくなってしまった。
太い常連客を失ったことで収入も減り、お店でのランキングも落ちた。
そんなある日、稼ぎ時であるはずの週末に客が来ないことがあった。
よしえさんは弁当、おつまみ、ビールをコンビニで購入すると帰宅した。
つまみを開けて、ビールを一口飲み、さて、テレビを点けようとリモコンにい手を伸ばした・・・
すると、テーブルの端にガリガリに痩せこけた、あの常連客が肘をついて座っていた。
お化けだろうと思って怖かったが、お腹が減っていたので1口食べた。
するとお化けの常連客が明らかに喜んだ。
実は、よしえさんは『霊が視える』体質で、自縛霊とかに悩まされていた。
しかし、常連客の霊が来てからは他の霊が気にならなくなったとのこと。
ここに二人の利害が一致して、君とは長いつきあいになりそうだね・・・が再延長になった。

平山夢明

平山夢明
「一度だけ」 平山夢明
『一度だけ、この人ホントに死ねばいいのにと思ったことがあるんです』
近衛さんは大学時代に妻子ある人とお付き合いをしていた。
二年ほど経った時、彼女は妊娠。
産む決心を彼に伝えると、奥さんから呼び出しがあった。
『認知させない』 『恨みを差し込んでやったから、その子はまともじゃないよ』
そう言うと相手は立って出て行った。
二週間後に彼女は流産、こどもには一目でわかる障害があった。
部屋に帰り、腹がしくしくと痛むと彼女は声を殺して泣いた・・・と突然、物凄い怒り。
そして、妻に呼び出された時のことが思い出せれてきた。
自分を品定めするような目つきには軽蔑の色、毛穴の開いた脂ぎった丸い顔。
『しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね』
彼女は絶叫し、いつの間にか寝てしまっていた。
翌日、起きると夕方の4時を過ぎていた。
『あいつ、死んじゃった』と彼からメールが来ていた。
それから、彼のメール、電話は全て無視した。
夏の始めころ、雷が夜に鳴っていた。
次のは大きいと思って身構えていると、一瞬の稲光に照らされた目の前のガラスに
自分の後ろで憎悪をむき出しにした丸い顔の女が立っていた。
振り返ると黒いものが周囲に飛び散った。
以来、腰まであった髪はシュートカットへ・・・もう髪を伸ばす気はないという。

平山夢明

平山夢明
「夜中のこと」 平山夢明
里見さんが彼と渋谷のラブホテルに泊まったときのこと。
『夜中にふと気付くと彼が腕枕をしてくれていたんですね。寝てから時間も経っていたし
悪いなあと思って外そうとしたら』
その瞬間、彼が≪うう~≫と短く呻いて反対側へと値返りを打った。
『でも、腕枕はあたしの首の後ろに、しっかりされていたんです』
≪えっ?≫と思った瞬間、回されていた指が動いて彼女の肩を、ぎゅうと抓ったという。
それだけで彼女は気を失ってしまった。

平山夢明

平山夢明
「硯」 平山夢明
吉田の曾祖母は、実家が神社だったため、年頃の時は巫女をしていた。
その関係から、川が氾濫することを予言したり、近所の田畑に病気が蔓延するのを
知らせたりしていた。
そんな曾祖母が吉田にこんなことを告げた。
『おまえ、すずりなんぞいじっているとろくなことにならんぞ』
そのことを聞いてから、習字も墨も遠ざけた。
その年に曾祖母は亡くなった。
それから数十年経ち、結婚して子供もでき、幸せに暮らしていたある日
妻から携帯電話に電話がかかってきた。
五歳になる娘が、また帰宅しないと言う。
あれこれと電話で受け答えをしていると、突如
『ごらぁ~』という怒号とともに座席が強く蹴られた。
慌てて急ブレーキをかけると、フロントに手をかけた娘が車の下へと消えていった。
急いで車から降りて、娘を助け起こすと足の擦り傷だけで済んでいた。
その時、座席に置き去りにした携帯電話は確かに『すずり』に見えた。
携帯電話を知らないで曾祖母は、携帯電話が硯としか見えなかったのでしょう。 

平山夢明

平山夢明
「おとしもの」 平山夢明
まだ、小学校に上がる前に母の実家に帰省した時の大橋さんの体験。
深夜、目を覚ました。
すると、彼女の横で寝ていた母親の首に蛇のような物が付いていた。
手で払おうとするとが、その時、何者かに肩を捕まれた。
振り返ると、顔の無い僧衣を纏ったものがいた。
顔があるであろう位置には筋が走り、やがて筋が上下に開くとテニスボールくらいの
目玉がひとつ現れた。
『口をきいてはならない』 自分の頭の中に響く声を聞いて間もなく、彼女は気を失った。
翌日、母親に夕べの話をしたが、仏間があった場所だから何が出てもおかしくないと
いうようなことを言われた。
その後、昼食を取って昼寝をした。
ふとした気配で目を覚ますと、彼女の前に背を向けた母親が縫い物をしているようだった。
そして、ごとんと大きな振動がして何かが床に落ちた。
それはゆっくり転がり、彼女の背中へと移動した。
『ねえ、ねえ』 母親の声だった。
目の前にいた母親の姿は消えていた。
『ねえ、ねえ、死んじゃうよ』
言い終えると、彼女の肌を服越に噛んできた。
悲鳴をこらえた彼女は気を失った・・・・

その母親が、その頃、彼女に内緒で子供を堕ろしたということを知ったのは、それから
30年以上経ってからのことだった。

平山夢明

平山夢明
「またがり」
結城さんは関東近郊にある看護学校を卒業した。
卒業後、仲間の一人からSOSが入った。
勤務が厳しすぎて体調を崩してしまって何日か休むように言われたが、その間助けて
くれないかということだった。
彼女が勤めていたのは親戚が経営する個人病院だったこと、暇な時期だったこともあり
一週間くらいなら休んでも良いとの許しが出た。
彼女が向かったのは、横浜の産婦人科の夫婦で営む個人病院だった。
二年ぶりに会った友人は、かなり痩せて目の下には黒々した隈が出来ていた。
病院の仕事は堕胎・・・彼女から説明は受けたが実際にやってみると精神的に辛い。
特に辛かったのは胎児の始末と器具の洗浄。
そんな彼女を見ると、院長夫人がヒステリックに『仕事でしょ!ちゃんとして!』と叫ぶ。
病院内の部屋で寝ていた、ある夜 『ぜぃぜぃ』という音で目覚めた。
すると、目の前によちよち歩きの赤ん坊が結城さんの顔を覗きこんでいた。
そして『ポン』という音とともに、赤ん坊からひも状の物が彼女の顔に落ちてきた。
それは、赤ん坊の手足だった・・・・
『いや~』 と声をあげて、赤ん坊の顔を押す・・・・
その瞬間、風が全身を打った。とっさに、足の間にあった硬い物を握りしめた。
『あたし、病院の屋上のフェンスをまたいでいたんです』
屋上に出た記憶はない・・・恐ろしくなった彼女は病院を出るとファミレスへ向かった。
次の日からビジネスホテルに泊まった。
約束の一週間が経つと、夫婦は彼女を慰留しにかかった。
給料は良かったが、彼女は断った。
『死んだら、元も子もないですから・・・・』
友人も半年ほどで、その病院を辞めたとのこと。

松村進吉

松村進吉
「番」
愛川さんのお母さんの実家は、町から少し外れた田園地帯にある。
お祖母さんが一人で住んでいて、農家を営んでいる。
もう七十歳を超えているというが、大変お元気だという。
『いつもテキパキしていて。たまに訪ねて行くと、一緒に畑に行こうって』
愛川さんも自分専用の長靴、作業用エプロンを付けて、ついて行く。
その際、お祖母さんは必ず、出がけに玄関の方を振り返って
『ほな、留守番な!』 と声を張る。
すると----長い板張りの廊下の奥からパタパタパタパタパタパタ と何かが
駆けて来る。
音、だけである。
一度もその姿を見たことがないが、確かに何かが走って来るのだという。
『もう慣れました。小学校の時はちょっと怖かったかな』

二十年ほど前、幼い愛川さんがお祖母さんと一緒に畑から帰って来ると
少しだけ開いた玄関の前に、猿が----何やら赤い泡を吹いて死んでいた。
猿の首は百八十度反対を向いていたという。

松村進吉

松村進吉
「かけっこ」
午前4時頃・・・コンビニの帰り道。
公園で動き回る顔が薄っすらと見えた。
嬉しげな奇声を上げていたことから、子供かな?と思った。
しかし、子供だとしたら異常な時間帯である。
気味が悪いので、その場を早く通り過ぎようと早歩きになった。
ちょうど、もっとも公園に近づく場所で何気なく子供を見ると・・・
顔しか見えない子供が、遊具全ての存在を無視して通り抜けていた。

黒木あるじ

黒木あるじ
黒木あるじと平山夢明が企んだFKBシリーズは惨たらしい都市伝説系人間狂気実話集。
過剰と欠如が同居している壊れた人々が引き起こす悲惨な事件は日々増殖しているに違いないし
綿飴のように一晩で萎んでしまう人の夢に比べれば、骨と肉が裂ける痛みを伴う事件はリアルに
胸を刺す。
「ファン心理」 バンドの歌詞のように生きることはできるのか・・・・
「なう」 携帯電話に送られてくるおぞましい画像・・・・
「ネックレス」 バイト先で知り合った彼氏との別れの悲劇とは・・・・
「蔡女」 葬式マニアがたびたび出会った女は何のために葬儀に・・・・
など、41編収録。
どちらの人間が生き残るのか・・・・

黒木あるじ

黒木あるじ
怪談実話 終 黒木あるじ 竹書房文庫
「烏賊」
知人にミサエさんという『拝み屋がいるが、彼女が引っ越すという。
『別に引っ越したいわけじゃないの。神在月はそこに居なきゃいけなくなったの』
いつも指定されるイタリアンレストランのチェーン店にやってくるなり、ミサエさんは溜息。
『あのね、今日呼んだのは、最後の忠告をしにきたの』
『烏賊みないな姿のものが両手を広げるようにして、あんたを迎い入れよとしている・・・』
『なんで、僕がその烏賊もどきに狙われなくちゃいけないんですか?』
『美味しいんじゃないの、あんたが聞いたり書いたりしている話って。ひとつふたつなら
薄味だけど、百も二百も集めたら、酒のアテにはたまらないでしょう。ま、仕方ないよ』
あんた、早死にするかもね。
そこだけちょっぴり寂しそうな口調で言うと、残りのパスタを一気にたいらげ、彼女は
店を去っていった。

黒木あるじ

黒木あるじ
「手形」
U君という大学時代の後輩に聞いた話。
その日、彼はガールフレンドとドライブを楽しんでいた。
話題は 幽霊は存在するか?
『絶対いるって、俺の先輩も怪談の本たくさん出しているんだぜ』
『いるわけないでしょ。なんで男っていつまでも子供っぽいの』
『お前さ、どうしていないって断言できるんだよ』
『じゃあ、逆にいるって証拠みせなさいよ』
笑いながら、彼女がU君をたしなめた瞬間、運転席の窓が凄まじい音を
立てて震えた。
顔を見合わせ、無言で窓へ視線を移す。
脂染みの浮いた手形が窓にくっきりと残っていた。
ドライブは、その場で中止になった。

黒木あるじ

黒木あるじ
「賽銭」
当時、大学二年生だったTさんは、年の暮れに友人と賭け麻雀に興じて大負けした。
普段なら日雇い労働で手早く稼ぐところだが、年末が近いとあって働き口がない。
餅はおろかパンも買えない正月を迎えることになった。
三が日を過ぎた頃になると、空腹も限界になる。
やむなく金を無心しようと同輩のアパートへ行く途中、古い小さな神社を発見する。
もしかして、初詣の賽銭がたんまりあるんじゃないか・・・・
普段なら思いもしない邪な考えが頭をよぎる。
帽子を下げ、人の気配がないことを確認して賽銭箱に近付くと、腕を突っ込んだ。
『三百と二十五円。今でもはっきり憶えてえています』
おけげでパンが買えた。これで三日は生きられると思った、その夜のこと・・・・
ハンマーで鉄を叩くような耳障りな音で目を覚ました。
電灯を点けるが音源は見当たらない。
堪え切れずに両耳を塞いだところで、賽銭を投げ入れる時の音だと気付く。
『すみませんでした、ちゃんとお返ししますから勘弁してください!』
音は、一週間後に三百二十五円を賽銭箱に返すまで、延々と続いたそうである。

黒木あるじ

黒木あるじ
「戒名」
Sさんの祖父が、齢九十を目前に大往生を遂げた。
遺言状には、財産分与から自分で考案した戒名まで記されていた。
しかし、住職に相談すると、祖父の考案した戒名は仏教用語では使わない漢字が
用いられていたために好ましくないと説得された。
やむなく、家族は住職がつけた戒名で故人を送ることにした。
四十九日の法要が終わって、白木の位牌から黒塗りの位牌に変えた翌日。
仏壇に供えた本位牌が、雷が落ちた杉のように縦に裂けていた。
はじめは何かの間違いだと言っていた住職も、交換した位牌が三度裂けたのを
見るに至って、ようやく戒名を故人の望んだ名前に変更した。
そして、改めて法要を執り行った。

頑固な祖父らしい話だと、S家では十年以上経った今でも語り草になっているそうだ。

黒木あるじ

黒木あるじ
「寺猿」
ある寺の住職が寺内で食べ物を持った猿を見かけた。
お墓にお供えした食べ物の味を覚えて、参拝者を襲ったりしては困ると思い
ある日、爆竹と猫避けスプレーを持って猿の後を追いかけた。
猿は逃げるでもなく、住職が追いつくと先に行って待ち、追いつくとまた先に行く。
まるで先導しているかのような行動。
やがて、寺のはずれまでくると無縁仏の塔がある場所で集合した猿が一様に
頭を垂れ場面に出くわした。
住職も忘れていた無縁仏だった。
猿は、持ってきた食べ物を無縁仏にお供えをしていたのだ。
住職がお経を唱え始めると、お経が終わるまでじっと手を合わせていたという。
『きっと、この無縁様は猿を助けたことがあるのでしょう。人間より獣の方が
感謝の念が強いのでしょうね』
それからは週に1度は掃除に訪れるようになったんだとか。

神薫
花房観音
田房永子
明神ちさと

神薫
花房観音
田房永子
明神ちさと
「土屋さんのお姉さん」 神薫
土屋さんが小学生の頃、家で留守番をしていると電話がなった。
受話器を取って応答したところ、男の声がかえってきた。
『お姉さんに代わってもらえる?』
しかし、土屋さんは一人っ子で姉などいない。
その旨を男に説明するが、いくら説明しても男は頑として聞き入れようとしない。
『間違い電話じゃないですか?』
土屋さんが男に言うと、電話番号はおろか、住所、父母の氏名、年齢までも言い当てる。
それでも、いない、いないと答えていると・・・
『ああ? ふざけるなよ土屋~』 
怒気を含んだ男の声が頭の中に反響した。
とっさに受話器を置いて、電話を切った。
家の中にはいたくないと玄関へ出たところに母が帰って来た。
奇妙な電話のことを話すと、母の顔は蒼白となり、十六年前に事情があって産めなかった
子がいるのだと教えられた。
母と二人、父には内緒で菩提寺へ供養に行って以来、奇妙な電話はかかって来ない。

怪談売買録
 嗤い猿


黒木あるじ

黒木あるじ
怪談売買録 嗤い猿 黒木あるじ 竹書房怪談文庫
「落涙」 【話者・ネイルサロン勤務の二十代の女性】
あたし、人が死ぬ前の日に涙が出るんです。
悲しい気持ちになったわけでも目にゴミが入ったわけでもないのに、ぽたぽた涙が垂れて来るんです。
すると、次の日、きまって親戚や知り合いの訃報が届くんです。五歳くらいで発見してから、ざっくり数えても
十一人がしんじゃっています。
そんで去年、サロンの先輩とお喋りしていたら、すっごい涙があふれてきちゃって。
もう、尋常じゃない量で、着ているシャツが絞れるくらいに濡れちゃったんです。
そんで、先輩に涙の理由を話したら 『じゃあ、ウチの店長あたりが死ぬんじゃね? アイツ不健康だし』 と
爆笑してて・・・・翌日にその先輩がくも膜下で死にました。
これ、なんかの仕事にできないですかね。かなり自信あるんですけど。

黒木あるじ
「検索」 【話者・山形県在住の三十代男性】
以前、小樽に住んでいた時の話です。
当時、付き合っていた彼女のアパートでテレビを観ていたら、札幌かどこかの心霊スポットが紹介
されていたんです。
んで、彼女が 『そういう場所って、小樽にないのかな』 と言うもんで、彼女のパソコンで検索したん
です。
《小樽 心霊スポット》 みたいな単語を打ち込んで、エンターキーを押したと同時にパソコンの電源が
落ちたんです。
彼女、もうガチ泣きしちゃって 『あんたが変なこと調べようとするのが悪いんだ』 って逆ギレして
しばらくパソコンに触らせてもらえませんでした。
ええ、俺もなんだかそれ以来、その手のものは検索しないようにしています。

城谷歩
怪談師 怖ろし話 裂け目 城谷歩 竹書房文庫
「死者からの電話」
練炭自殺をした兄の顔は苦悶に歪み、とても二十七歳の青年には見えなかった。
友人たちが集まり、嗚咽しながら遺体に話しかけるさまを見ながら、せいかさんの心は空っぽだった。
昨日まで普通に過ごしていた兄が、突然骸になってしまった。
と、スマホが鳴った。
『はい・・・』
『あ、せいかか?』
『・・・誰ですか?』
『俺だよ。暗くて、どこにいるかわかんない』
その時、兄の彼女が電話しているせいかさんに気付いた。
相手が兄だと言うと、スピーカーに切り替えるように言われた。
兄の彼女は溢れる涙をぬぐいもせず、気丈な声で言った。
『あんた、死んだの。もう死んだんだよ。だから、こっちに帰って来られないから。ちゃんと、向こうに行って』
『・・・・』
『わかる?もう帰って来られないの、こっちには』
『・・・そうだ、俺死んだんだよな・・・・そうだ、あ、ごめん。じゃあ行くわ。みんな元気でな』
通話が切れると、みんなが振り返って兄の顔を見て声を上げた。
『苦痛に歪んでいた顔の腫れは完全に引き、鬱血斑が消えたばかりか口元には微かな笑みをたたえて
穏やかな表情で瞼を閉じていた。まるで静かに眠っているかのようだったという。

城谷歩
怪談師 怖ろし話 骨々 城谷歩 竹書房文庫
「湯煙に紛れて」
今から二十年ほど前の話である。
インターンシップを終えたばかりの坂木さんは、先輩の紹介で長野県のリゾート施設でアルバイトをした。
仕事内容は、搬送されてくる凍って息をしていない人間の脈をとり、死亡診断書を作成すること。
実際は、浴槽の温泉で解凍した人間の脈、瞳孔等を診断する。
アルバイトも残り一週間となり、都会の喧騒に戻らなければいけないと思うと憂鬱な気分になった。
幸いなことに、坂木さんはこの日まで仕事をしないでいられた・・・・
そんな彼の元に施設の担当者が現れた。
『三人です。よろしくお願いします』
『夜には大体よろしいかと思いますから、またその頃にお知らせに参ります』
やがて夜になり、担当者の連絡を受けて大浴場へ向かう。
衣服を脱がずに浴場へ入ると、洗体場に年配の男性と若い男女が横たわっていた。
どの人も口が半開きで、閉じ切らない瞼の奥の瞳はうっすら灰色がかっていた。
一人一人、脈をとり、瞳孔を確認すると、確認した時刻を書類に記入した。
『ありがとうございます。あ、先生そうしましたら、これからご遺体を搬出したらお風呂使ってください。
清掃中の札はそのままにしておきますから、他の方は入ってこないようにしておきますので』
全身はぐっしょり汗ばんでいて、へとへとに疲れていたので有難かったという。
連絡を受けて再び大浴場へと向かい、迷うことなく露天風呂に浸かった。
湯気の先に一人の男性が見えた。
いくつかの言葉を交わした後に、貸し切りを思い出した。
湯気の向こうから見える男性の瞳は灰色で血の気の失せた皮膚、口元は半開き。
自分が脈をとり、一時間前に搬出されたはずの年配の男性だったのである。

『毎年季節になると、今年もどうだと打診されましたけど、二度とと行きませんでした』

城谷歩
「死者の手」
十数年前のこと、池内さんという医師が勤務先で資産家の老人の臨終に立ち会った際の話である。
老人は七十代後半といったところで、入院時には既に病態は手の施しようがなかった。
見舞いに訪れるのは次男夫婦で、それは献身的に看病していた。
そんなある日、珍しく長男が病室を訪ねて来ているところにたまたま出くわした。
何やら個室でもめている様子だった。
『わしに早く死ねと言っとるのか! おまえにはビタ一文やるもんか。ろくに顔も出さんで、出したと思えば
遺言だの財産だの、そればかりじゃないか』
その一件以来、長男は二度と見舞いにこないまま、三ヶ月後のある夜に老人は息を引き取った。
老人の遺体を一番奥の霊安室に入れ、生者と死者どちらにも配慮して安置室を整える。
遺族が全員霊安室に入ってから、改めて悔みの言葉を伝え、黙礼したときだった。
長男がずかずかと老人の枕元に近づき、顔に当ててあった白布をはぎとった。
もめていたとはいえ、親子。やはり別れは辛いのだろうと思った時、長男が口にしたのは驚くべき言葉だった。
『おう、じじい!やっとくたばったか。遺産の半分は俺のだからな。ざまみろ。もう手も足も出ねえだろ』
その時だった。昏睡状態で一カ月、亡くなって一時間も経っている老人が、両腕を突出してガバッと
上半身を起こし、その両手で長男の首を絞めつけたのである。
数人で、長男から老人を引き離した。池内医師は即座に脈をとったが生き帰るはずもない。
後日、先輩医師に事の仔細を話すと・・・
『あるよ、そういうこと。だからな、手は胸の前で組ませるんだよ。酷い時は暴れだすことこともあるみたい。
手を組ませておくと動かないんだわ。なんでか知らんけど、死後硬直で固まるまでは油断できない』

朱雀門出

朱雀門出
第五脳釘怪談 朱雀門出 竹書房怪談文庫
「鶏妖」
今から五十年くらい前の話。
鳥取県の安来市に住む、ある男性が自宅裏の用水路で鶏をさばいていた。
彼は楽しそうに、また、鬱憤を晴らすかのように、鶏に鉈を叩きつける。
と、鶏の首が切断したときの勢いで、用水路脇の壁に張り付いた。
鶏の首は目を見開いていた。
鶏と男性の目が合った。
男性に怒りが湧いてきた。それは怖れの裏返しだったかもしれない。
『何見とんじゃ! 祟れるもんなら祟ってみィ!』

それからしばらくして、その男性の娘に子供が生まれた。
生まれたその孫は、尾てい骨に鶏の尻尾のような羽が生えていた。
あのときの言葉を男は思い出していた。
『祟れるものなら祟って・・・・』
男性は孫の尾に生えたその羽を抜いた。しかし、抜いても抜いても生えてきたという。

朱雀門出

朱雀門出
「怪談をしていると・・・・」
友人Yさんの話。
彼女が高校生の時、臨海学校があった。
夜、一つの部屋に集まり、車座になって怪談をしたそうだ。
幾つか怪談話が語られていくうちに、Yさんは隣に気配を感じるようになった。
その気配というのが、なんとなく湿っぽい。それ加え、とてもゆっくり呼吸しているのが伝わってくる。
もちろん、クラスメートのものではないし、窓は閉まっているので湿気が流れてくることもない。
薄気味悪さから、何度も気配の方を見ていると、隣にいた女の子が小声で訊いてきた。
『もしかして、Yちゃん、何か感じる?』
Yさんも小声で、先ほどからの気配の話と、感じたままを言葉にした。
『濡れた・・・・人だよね』
『溺れて死んだ人じゃない?』
声が聞こえたようで、周りの子達がざわめき始めた。
『怪談をすると 寄って来る って言うよな』
と、誰かが言ったのを皮切りに怪談の会はお開きになった。
ただ、寄って来たなら、寄って来た『何か』も写るんじゃないかと、最後に全員で記念撮影が行われた。
その期待通り、Yさんと隣の子の間には、誰のものでもない足が写っていたそうだ。
その足は、水死体を思わせるように、青白くふやけていた。

朱雀門出

朱雀門出
「穴水もまた魔所なること」
この話をしてくださった方は女性なのだが、剃髪はしていないが僧侶であるという。
彼女が友人たちと連れ立って石川県の穴水に行ったときのこと。
友人たちの中には、彼女と同じように僧籍にある人が四名いた。
到着したのは夜で、海岸に出た。
夜の海は、全くロマンチックではなかった。
海面から無数の白い手が飛び出し、何かを掴もうとうごめいていたのだ。
波打ち際に近付こうとする友人を、彼女は引き止めた。
『え? なんで?』
と不思議がる者と、無数の手が見える者にはっきりと分かれた。
無数の手が見えているのは、僧籍の四人で、あとの友人はきょとんとしていた。

八田ゐあん

八田ゐあん
「階段」
ある晩のこと、隣町の祭りへ出かけた佳美は家路を急いでいた。
つい友達と話し込んで、気づけば21時の門限まであとわずか。
普段あまり佳美の行動をうるさく言わない母だが、門限だけには厳しかった。
『お母さんが言った時間に帰れないなら、もう外には出しません』
以前も、門限に間に合わなかった時、母は彼女を酷く叱りつけると、それから半年間
学校から帰ってきてからの外出を禁じた。
『まいったなぁ~、また外出禁止になっちゃうよ~』
一生懸命に走ったが無情にも時は過ぎ、門限の21時を過ぎてしまった。
彼女の住んでいる団地の3号棟にたどり着いた。
階段を駆け上がり、踊り場というところで思わず立ち止まった。
目の前の階段に光の柱が立っている・・・そして薄紫の着物を纏った老婆が宙に浮いていた。
『なにこれ、どうしよう・・・』
四階にある自分の家に入るには老婆の横を通らねばならない・・・無理、無理、絶対無理。
携帯電話を持った彼女は自宅に電話を入れた。
『あ、もしもし、お母さん。私だけど建物の下まで迎えに来て・・・』
『階段のおばあさんでしょ!!だから9時までには帰りなさいと言ったのに!』
と明らかに不機嫌な声で途中で電話を切られた。
なぜ、母が門限にうるさかったのか、その理由をようやく理解した。
獄ノ墓

西浦和也

西浦和也
西浦和也選集 獄ノ墓 西浦和也 竹書房怪談文庫
「正直に言うからだ」
それは今から三十年ほど前の話。まだ駆け出しのS水さんは、不動産会社で同じく新人のT中さんと
コンビを組んで、担当するエリアのマンションを管理していた。
その日もT中さんとマンションへ向かうと、六階へ上がりチェックを始めた。六階、五階と終わり四階に
差し掛かった時だった。階段を降り、廊下の電気をチェックしていると、突然廊下の突き当りで何かが動いた。
二人でその方向を見ると、下着姿の男が部屋のドアの方を向いたまま、何かに驚いている。
薄手の黄ばんだランニングシャツに紺色のトランクス姿で裸足のまま廊下に立っているのだ。
気になった二人は、男の元へと廊下を歩いていく。
すると男はそのことに気付いたのか、こちらを振り向くと驚いた表情をした後、薄笑いを浮かべ、会釈を
しながらドアの中へと消えた。
『え?』
驚いた二人が慌てて近寄るが、ドアが開いた様子も音もない。ただドアの中に吸い込まれたように見えた。
慌ててチャイムを鳴らしたが応答がない。ドアノブを回しても鍵がかかっている。
『S水さん、何か臭いませんか?』
確かにドアの前に立つと、ものすごい臭いがする。
二人は急いで一一〇番に連絡をすると警察官の到着を待った。
やがて警察官が到着し、立ち合いのもと、合鍵でドアを開けると玄関の前に男の腐乱死体があった。
服装はさっき二人が見たままの姿。さっき見た男に間違いないだろう。
『ご苦労さまです。どうしてお二人はここで死んでいると思われたのですか?』
おもむろに警察官がS水さんに聞いた。
S水さんは、さっき見た光景をそのまま警察官に話した。
『幽霊ですか?』
警察官は怪訝そうな顔をすると
『では死体の検案が終わるまでは、お二人は第一発見者兼、容疑者ということで署まで来てもらえますか』

『結局、検案が終わったのはその日の夕方で、会社に戻ったのは夜だったんですよ』
会社に戻ると何人かの社員は残っていた。てっきり自分たちの苦労に、お疲れ様と労いの言葉をかけてくれると
思っていたが、返って来たのは 『正直に幽霊なんて話すから、そういう目に遭うんだよ』 
以来、S水さんは、管理先で何を見ても幽霊とは絶対に言わないことにしている。

西浦和也

西浦和也
「いまもいる」
かつて、東京都内の『幽霊が出るゲームセンター』を取材したことがあった。
6回ほど取材に行ったが、その後、ゲームセンターは撤退した。
つい先日、そのビルの近くで仕事の打ち合わせがあったので立ち寄ってみると
うどん屋がテナントに入っていた。
店に入ると若い女の子に、いらっしゃいませの声とともに席へ案内された。
もう怪異は起きていないのか?などと思っていると店員の女の子同士の会話が
聞こえてきた。
深夜、二階席に男が座り、何も注文しないでいる。
催促しても黙っているのでチーフを呼ぼうと階段に行ったら、チーフが上がって来た。
男の座っている席を再度見ると、男が消えていた。
二階席からは階段を使わないと移動できないにも関わらず、男は消えた。

『ああ、まだここにはいるんだ』
次は、彼女たちに取材できる日を楽しみにしている。

西浦和也

西浦和也
「菊の花」
小林さんの石材店では、お墓参りに来られない家族の代わりにお墓の掃除と
お花を供えるサービスを行っている。
『・・・・ちゃんと頼んだ通りにして貰わないと困るでしょ!!』
突然のクレームの電話で現場に行ってみると、それは昨日、掃除、供花をした
お墓だった。
『あれほど”菊の花”はやめてくださいと言ったのに。これは何?』
連絡の行き違いだろう。
それにしても、昨日、供花したばかりだというのに、すっかりしおれている。
『菊の花なんか供えるから、昨晩はお義母さんが出てきて大変だったのよ』
女性は怒りが収まらないらしく、小林さんを怒鳴りちらした。
『そんなにお義母さんが怖いなら、自分でやればいいのに・・・・』
そう言いかけた言葉を、小林さんはグッと飲み込んだ。

西浦和也

西浦和也
怪談(西浦和也)とホラー漫画(うえやま洋介犬)からなる構成。
実話怪談と創作怪談あり。
私は実話怪談しか読みませんので、以下も実話の中からの抜粋。
「擦りすぎ」
Yさんの家の近くに、身代わり地蔵がある。
このお地蔵様には、家から持っていったタワシで自分の身体の悪い所と同じ
場所を洗うと傷病が治るという言い伝えがあり、多くの参拝者で賑わう。
Yさんが中学生の時、バスケットボールの試合で腰を痛めた。
痛みは、なかなか引かず、思うように動けない。
そこで、Yさんは身代わり地蔵にすがることにした。
夜、夕飯を済ませてから身代わり地蔵へと向かうと、持参したタワシで
お地蔵様を洗い始めた。
すぐに治りますようにと、力を込めて洗っていると・・・・
『・・・痛い! やめてくれ・・・・」
お地蔵様から声が聞こえた。
翌朝、Yさんは背中の激痛で飛び起きた。見ると、背中がみみず腫れになっている。
母に、身代わり地蔵での事情を話すと・・・・
『台所にあった スチールタワシ を持っていったのはアンタね・・・あんな物で
擦られたらお地蔵様だって怒るわよ』と、腹をかかえて大笑いされた。

西浦和也

西浦和也
「予約客」
ホテルでフロントマンをしている風間さんが、グループ会社のホテルへヘルプとして
応援に行った時の話。
引き継ぎを終え、そのままフロントにいると、キャリーバッグを引いた二人組の女性客が
『スィートルームを予約していたオカモトですが・・・・』
宿帳を確認するが、予約客にオカモトという名前は見当たらない。
『すみませんが、オカモト様のご予約は見当たらないのですが・・・』
『そんなはずないんですけど・・・また来ます・・・』 二人組はホテルを出て行った。
翌日、風間さんがフロントにいると、昨日の女性二人組が入って来た。
『スィートルームを予約していたオカモトです』
しかし、またしても今日の予約に名前がない。
二人は困ったように顔を見合わせている。
すると、そのやりとりを聞いていた支配人がつかつかとやって来て
『オカモト様ですね、1201号室をお取りしてありますので・・・』
『良かった~』 女性客は、キーを受け取るとエレベーターホールへと歩いて行った。
女性客が見えなくなると、支配人は小声で言う・・・
『あのお客様ねぇ、この世の人じゃないから・・・・何年か前、1201号室に泊まって
翌日、近くの岩場から自殺しちゃったんだよ。それ以来、なぜかこの時間にやって
来るんだ。不思議と部屋のキーを渡せば、7~10日くらい来なくなる。今度来たら
そうしてくれる?』

西浦和也

西浦和也
「ギャラリー」
SMの女王様をしているサユリ様の体験。
ある日、お客と一緒に都内のSM専門ホテルに入った。
入ってすぐ、室内に人の気配が漂い始めた・・・・
目隠ししたお客を壁の十字架に縛り付けると、言葉で攻め始めた。
すると、背後に強い気配を感じた。
振り向くと、ずらりと並んだ半裸の男性が思い思いの拘束具を身につけ
物欲しそうに彼女を見つめていた。
幽霊は何度か見たことがあるので問題はないが、これだけのギャラリーが
目の前にいると集中できない。
サユリ様はお客を縛ったままプレイをやめると、退出の時間までトイレに
籠もっていた。
『お客はその間放置だったんだけど、プレイだと思って満足してくれたみたい』

西浦和也

西浦和也
「おお~い」
毛利君は彼女と夜のダムへドライブに出かけた。
車を駐車して、ダムに架かる橋を渡っていると、下から
『おお~い』と声を掛けられた。
橋から身を乗り出して声のする方向を見ると、白いポロシャツを着た男がこちらに
向かって手を振っている。
こちらからも応えて、手を振り返した。
すると、男は暗闇の中を滑りながら、あっという間に橋の下までやってきた。
『おお~い、こっちに来ないか~』
ようやく、この男がこの世の者でないことに気づいた二人は、大慌てで
その場から逃げ出した。

西浦和也

西浦和也
「船主」
ある漁師さんの体験。
息子さんが独立したいと言い出したため、知り合いに頼んで船を買った。
前の持ち主が亡くなってから長く使われていないということだったが、状態は良い。
早速、独立する息子へはなむけとして贈った。
独立して二ヶ月ほど経った頃、息子から船のことで相談があった。
なんでも、時々、船が操縦不能になるとのこと。
船が勝手に移動した場所で漁をすると、決まって大漁になるという・・・
『そりゃあ、いいこっちゃねーか』 と息子に言うと 『キモチ悪いんだよ』
その船に一人で乗ってみろということで、翌朝、漁場へ向かった。
ある漁場に着いてエンジンを止めて、漁の準備をしようとしていると船が流される・・・
流されるのは潮目とは逆の方向で、これは確かにおかしい。
ふと、舳先へ目をやると、年老いた男がいる。
前方へ手を指しながら、振り向く顔と目と目が合うと消えた・・・・
前方を見るとカモメの大群が海面のしぶきに群がっている。
『ああ、すごい魚群だ。ありがたい』

『あの爺さんは、今でも船主のつもりなんだろうな』
船は、息子さんと交換したのだとか。

西浦和也

西浦和也
「大凶」
葬儀社に勤務する男性は、月に1回、近くの神社でおみくじを引くという。
引いたおみくじが、『凶』に近いほど、葬儀社の仕事が忙しくなるのだとか。
『その頃は、心が麻痺していて、毎月『凶』が出ることを望んでいましたよ・・・』

ある元日におみくじを引くと『大凶』と出た。
『今年は大忙しになるぞ』と高鳴る胸を押さえながら帰った。
次の日、警察から電話があり、夫の実家へ帰省していた娘夫婦と孫二人の車が
事故に巻き込まれて亡くなった。
次の日から葬儀の準備に大忙しとなった。
『人の不幸の上で商売をさせて貰っていることを、身内の不幸で初めて解りました』

今でも近くの神社でおみくじを引くが、大吉が出るまで何度でも引くのだそうだ。

西浦和也

西浦和也
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ある男性の体験。
最近、引っ越した事務所で残業を一人していた。
終電もなくなり徹夜を覚悟して、近くのコンビニへ食料の買出しに行った。
さ~、もうひとがんばりするか~と事務所のドアを開けると
メイド姿の若い女性が立っている。
『お帰りなさいませ、ご主人様~』
『た・ただいま・・・」
若い女性は薄くなって行くように消えた。
翌日、社長から、この事務所が以前はメイド喫茶だったことを聞かされた。
男性は残業になることを密かに期待しているとのこと。

西浦和也

西浦和也
「猫が啼く」
ある家に越してきた人が、飼い猫の行動に気味が悪いという。
居間の何もない空間に向かって、よく啼くので気味が悪いと。

近所の人の話では、その家の前の住人は居間で首を吊って死んだとのこと。
猫には本当に見えるのですね。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 怪玩 神沼三平太 竹書房怪談文庫
「唄い独楽」
それを祖父がそれをいつ入手したものかは、もう分からない。
多趣味で顔の広い祖父は、土産物だと言って時々おかしなものを持ち帰った。
『この独楽は、元旦の朝にだけ回すんだそうな』
独楽回しは正月の遊びだが、亀田家では吉凶を占う為の儀式になった。
そこから吉凶を読み取ることが出来るのも祖父だけだった。
五年、十年と続くと正月に占うのは当然のことになった。
その年も家族の見守る中、祖父が独楽を回しはじめた。
『これはダメだ。何が起きるか話したくもない』
祖父はその夜から体調を崩した。二月に肺炎をを起こして亡くなった。
次は祖母だった。 そして父。夏までに葬式が三回。
元々病気がちだった母は、親戚に家の処分をを頼み、都内に引っ越した。
『あんな独楽、お祖父ちゃんが持ってきたから、あんなことになったのよ』

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 魍魎百物語 神沼三平太 竹書房文庫
「駿河台」
都内にあるその施設の地下には、女性専用の室内プールがある。
石山さんはそこの警備員として働き始めたときに、深夜のプールの水面に自動掃除機が
浮いているのに気付いたという。
それは、黒くて直径が二十センチくらいの丸形、中心から放射線状に黒くて細長いブラシが
ゆらゆらと水面に漂っていた。
それがプールのコースに沿うように、幾つも動いていた。
『最近、自動掃除機が流行っているから、それのプール版だと思ったわけ。大きい施設は
さすがだな~と思って、先輩に言ったんだよ』
報告を受けた先輩は、石山さんに呆れた顔をした後で、吐き捨てるように言った。
『それは掃除機じゃねぇよ。水に浮いた女の頭だよ。夜になると、あのプールは出るんだよ』

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 切裂百物語 神沼三平太 竹書房文庫
「口紅」
以前、舞台女優をしていた人の話。
『昔ね、あたし、物がなくなる劇場に出演していたことがあるの』
なくなると言っても金目のものではなく、ライターや筆記用具といった小物ばかり。
そして何かの拍子に見つかる。
関係者は皆、小さな男の子が悪戯しているのだと言っていた。
ある日、彼女が楽屋に戻ると、まだ小学校にも上がっていないような歳の男の子が
自分の化粧ポーチに手を突っ込んで中を漁っていた。
『悪さしちゃダメでしょ!』
頭ごなしに怒鳴りつけると、男の子はビクッと身を縮め、口紅を握りしめたまま消えた。
最後にカランと口紅が落ちた。
『その後、その劇場では別の男の子も出るようになっちゃってね。二人揃って悪戯するから
どんどんエスカレートして、最後は鏡を割られたりして大変だったのよ』
その劇場は今もある。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 常闇百物語 神沼三平太 竹書房文庫
「音飛び」
木下さんは、深夜に冨士の樹海を走っていた。
カーステレオでロックのCDを大音量でかけていたが、道に穴が開いていたらしく
車体がガクンと跳ねた・・・・CDが音飛びをした。
普段ならすぐに音が復帰するはずだが、なかなか再生が始まらない。
旧式のカーステレオだからかなぁと思いながら、カーブでハンドルを切る。
そのとき、スピーカーから声が聞こえた。
『わたし、ここで死にました』
淡々とした男性の声だった。
木下さんが『え?』と思った瞬間に、CDの大音量が復活した。

戸神重明
恐怖箱 呪祭 戸神重明 雨宮淳司 神沼三平太竹書房文庫
「古寺の裏手」
啓一さんは日が暮れた頃、山の麓にある寺に用事があって赴き、便所を借りた。
男子便所に入ると大きな窓がある。
用を足して、手を洗いながら何気なく窓の外を眺めたところ、便所から広がった灯りで裏手の土手が見えた。
そのとき、夕闇の向こうから・・・ゴトン、ゴトンゴトン、ゴトン・・・・と音が聞こえ、つづけて線路の上を照らす灯りが
見えてきた。
電車が来るな ― 鉄道が好きな啓一さんは、窓から電車を眺めようとした。
やがて、大きな物体がやって来たのだが・・・・・電車ではなかった。
数万か、数十万かと思われる人間の足が絡み合い、わさわさと蠢きながら線路を進んでいるのだ。
どの足も何も履いておらず、青白い光を放っていて、ゴトン、ゴトンと大きな金属音を発している。
それは、唖然として目を瞠る啓一さんの目の前をゆっくり通り過ぎると暗闇の中へ遠ざかって行った。

戸神重明
恐怖箱 煉獄怪談 戸神重明 雨宮淳司 竹書房文庫
「午前三時の電話」 戸神重明
『もしもし、あたしだよ。駅に着いたんだけど来ていないからどうしたのかと思ってさあー』
寝苦しい真夏の午前三時、鳴り響く電話に渋々受話器を取ると、知らない老婆の声が・・・
『ええと、どちらさんですか?』
『もしもし、あたしだよ。駅に着いたんだけど来ていないからどうしたのかと思ってさあー』
相手は壊れた機械のように、同じ言葉を何度も繰り返す。
『何だ、いたずら電話か。馬鹿野郎!』
怒鳴りながら受話器を叩きつけるように置いた。
(あれ~? うちの電話って、もう使っていなかったよな・・・)
長年独り身の彼は外出していることが多く、携帯電話だけで事足りる。
基本料金だけ払うのも不経済なので固定電話は解約していたのである。
念のために電話機のコードを見ると、壁の差し込み口から確かに抜けていた。

三雲央
恐怖箱 怪画 加藤 一編 三雲央 ほか 竹書房文庫
「青いバラ」 三雲央
数年前、優紀さんが高校生の頃の話。
『ねえアニキ、気付いている?』
妹の唐突な質問に戸惑っていると、がらりと窓を開けた。
窓から半身を乗り出して 『ほら、あれ』 と指を差す。
優紀さんの部屋と妹の部屋の間の白い外壁に、直径二十センチほどの青いバラの絵が
描かれていた。
『なんだこれ?』
『分かんないけど、今帰って来た時に気付いて。いつからこんなのあったのかなぁと思って』
『誰かのイタズラ、かな?』
『・・・何かこれ、キモくない? ねぇ、キレイに落としてよ』
『ちっ、メンドイなぁ。明日学校休みだから明日な。今クタクタだから』

翌日の午前中、優紀さんはブラシ片手に自部屋の窓から身を乗り出して、外壁の青いバラの
絵を消し落とそうとしていた。しかし、一向に落ちる気配がない。
ならばもっと力を込めて・・・・と思った瞬間、優紀さんの体は窓の外へ落下した。

手当を終え、父親の運転する車で病院から戻った優紀さんに、玄関先で待っていた妹が
半泣きになって抱き着いてきた。
そんな妹を宥めながら、何気なく家の外壁を見上げると、あの青いバラの絵が綺麗に消えていた。
『あのバラ、誰かが消したのか?』
『え?アニキが消したんじゃないの? だってアニキが落ちて、のたうち回っているのを見つけた
とき、壁はもうキレイだったし』
・・・・外壁の青いバラの絵が誰の手により描かれ、そして誰がどのように消したのかはわからない
ままだという。

三雲央
恐怖箱 酔怪 加藤 一編 三雲央 ほか 竹書房文庫
「千鳥足」 三雲央
倉坂君にはともや君という霊感持ちの友人がいる。
その夜、二人は倉坂君のアパートへと向かって歩いていた。
すると、倉坂君がよく目にする、ふらついた人影があった。
『ああ、またあの爺さんかぁ。あれ、いつも酔って千鳥足なんだ』
時々、奇声を上げたりする旨、ともや君へ耳打ちする。
その爺さんを通り過ぎると・・・
『さっきの爺さんだけどさぁ、酒に酔っていたんじゃないよ』
ともや君がそんなことを言い始める。
『霊の仕業だね。ヤバいのが二体憑いていたよ。あいつら日本人と違うな』
そして
『あの爺さん、多分そう長くないと思う。奴らの両腕が肘くらいまで爺さんの頭部に突き刺さって
同化しかかっていたし。もう記憶の混濁とか超えて、意識を保つことさえ難しいと思うよ』
助けられないかと問うと、誰にも無理だと返答があった。
『ほんと、深夜に墓地や心霊スポットへ肝試しに行くなんて止めるべき。ましてやそこであれこれ
霊の関心を惹く行動を取ったり、神経を逆撫でする行為なんてのは愚の骨頂ってこと』
『ところでさぁ、その憑いているのが日本人じゃないってどういうこと?』
『見た感じ、目付きや雰囲気がモンゴル系か中国系。服装も今のものじゃないから・・・・・
なんだろうな?昔の戦争で殺した相手が憑いたとか?』

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 叫怪 神沼三平太 竹書房文庫
「カラスの神様」
関西圏の大学に通う小山さんの体験。
彼の実家のある地域ではカラスを祭った神社があるが、大学のゼミの研究対象に決定した。
ただ、過去に別の大学の調査があった時、奉納してあった砂金を助手が盗むという事件があり
結局、助手は車ごと崖から転落した状態で見つかった。
しかも、遺体となった助手の両目がなく、周りにはカラスの羽が散乱していたことから呪いと噂された。
そして、小山さん達の現地調査の時も、何者かが砂金を盗んだ。
盗んだのは、調査に同行したアジア人留学生だった。
彼は、カラスに見張られていて外出できないと、小山さんに電話で助けを求めてきたのだ。
砂金を返すよう詰め寄る小山さんに、アジア人留学生は開き直った態度で砂金を渡した。
さらに、神社と地域の人々をまとめて呪うと言い出した。
数日後、小山さんの地元では何事もなかったが、アジア人留学生の両親が自動車事故で亡くなった。
懇意にしていた呪術師も同乗していた。
地元警察によると、事故直後にカラスの群れが車を取り囲んで近づける状況ではなかったが
カラスが去った現場を確認すると三人の目がなかった。
翌日、アジア人留学生はバイク事故で亡くなった。彼の周りにもカラスが集まり、両目が失われていた。

神沼三平太

神沼三平太
「カナヅチ」
長沼さんの祖父が亡くなった時の話である。
祖母が『散骨をしよう』と言い出した。
先祖代々の墓もあったが、一族で船に乗り、沖合でセレモニーを行った。
その翌日、長沼さんの伯父が祖母の元を訪ねてきた。
『昨晩、ぐっしょり濡れた親父が出てきて、恨みがましそうな目で俺を見るんだよ。
お袋、親父のことで何か思い当たることはないか?』
しかし、何も思い当たることがないと祖母が伝えると、安心したように帰って行った。
その後、祖母は何か思い出したようで
『そういえば、あの人が泳いだところを見たことがなかったなって、考えていたのよ。
もしかしたら、あの人、カナヅチだったんじゃないかしらねぇ・・・・』
数日後、伯父が訪ねてきて、菩提寺の住職に相談したとのこと。
住職が言うには
『遺骨が全部あれば何とかできるかもしれないが、それは無理でしょうから
とりあえずお経を上げておきますから』
祖父が亡くなって四十九日が経った。
伯父は布団の中でぐっしょりと濡れ、冷たくなっていた。
検死の結果、死因は溺死。
伯父の肺の中は、海水と同じ濃度の塩水でいっぱいになっていた。

高田公太

高田公太
恐怖箱 青森乃怪 高田公太 竹書房文庫
「冬」
そのスキー場にはジャンプ台があり、スキーの大会も開催されている。
大会のない日、練習中のスキーヤー達が次々とジャンプしていく。
ザッと飛び、着地。
ザッと飛び、着地。
これが通常であるのだが・・・・
ある日、ザッと飛んで・・・・空中で消える・・・・ということが起こったそうだ。
ジャンプ台周りの来場客は騒然とし、しばらく誰もジャンプしようとしなかったという。

高田公太

高田公太
恐怖箱 学校怪談 高田公太 鈴堂雲雀 三雲央他 加藤一編監修 竹書房文庫
「彼はずっとそこにいる」 高田公太
『柿崎剛』  『はい』
『佐藤慎一』  『はぁい』
『立花和枝』  『はいっ』
教師が順調に生徒の出席を確認する。
あと二人、名を読み上げれば確認は終了だ。
『丸山肇』  『はい』
『三橋こず恵』  『はーい』
『森本ケンタ』

『はい』

ああ、またやってしまった・・・またこの声を聞いてしまった。
生徒たちは皆、肩をすくめる。
森本ケンタ、という名の生徒はこの学校にいない。
何故、その知らない生徒の名を呼んでしまうのかは、職員室の誰一人わからない。
昔からその教室でよくある事例なので、今更話題にもならないのだそうだ。

高田公太

高田公太
「カヤック」 高田公太
とあるアウトドアショップの店長の話である。
夫婦二人で人里離れた海へ行った。
持参したシーカヤックで遊ぶためだった。
無事に浜に着いた二人は、カールーフに載せていたカヤックを外し、胸躍らせて
海へ入っていった。
波に乗り、岸から少し離れた頃に、砂浜に停めた車の横にパトカーが横付け
されているのに気付いた。
二人はオールを漕いで、急いで岸に向かった。
制服を着た警官と私服姿の男がいたが、定期巡回なので気にしないようにと
話をしたのは制服警官のみだった。
『一カ月前に、ここで行方不明になった方がいましてね』
その日、岸に一台の車が停まっているのを遊びに来た男性が見つけた。
この場所は、歩いて人のいる場所まで帰れるようなところではない。
警官は、話し終えるとパトカーに乗り込んだ・・・・私服姿の男を残して・・・
私服姿の男はスタスタと森へと入って行ってしまった。
パトカーの警官に私服姿の男のことを話したが、全く相手にされなかった。

高田公太

高田公太
「海撮り」 高田公太
夏場、総勢七~八人で海辺のキャンプをした。
夜、缶ビールを皆で飲んで騒いだ。
ある友人が使い捨てカメラで、キャンプの様子を写真に撮りまくっていた。

キャンプから数日経過すると写真が出来上がったきた。
『こいつ誰だと思う?』
言われるまま写真を確認すると、半数以上に見知らぬ男が写っていた。
男の写り方には、幾つかのルールがあった。
まずは、海パン姿で砂の上に仰向けで寝そべっていること。
顔は必ずカメラに向いている。
そして、誰かが座るビールケースがある光景にしか写っていないということ。
男の風体は中肉中背、色黒の二十代後半といったところだった。
『ええと。いなかったよな、こんな奴』
『ううん、だよね。でも、思いっきり写っているな・・・・』
写真とフィルムは、撮影者の手で燃やされたとのこと。

神沼三平太

神沼三平太
「不惑蒸散」
磯田さんの祖父は、庭に生えている樹を伐ってはいけないと常々繰り返し言っていた。
祖父曰く この家を建てるときに悪いものを樹に封じている。下手なことをすると祟られるぞ。
育ちすぎた枝葉の手入れを磯田さんの父親が申し入れるが、祖父の態度は一貫して頑なだった。
そんな冬のある日、祖父がくも膜下出血で亡くなった。

『親父も亡くなったことだし、庭を整理しよう』
業者に依頼すると、ここまで広かったのかと思うような何もない庭になった。
その年の夏、父親の肩に植物の葉が付いているのに気がついた。
その葉は、どうも自分にしか見えていないようだ。
『どうもやたら喉が渇くんだ』
父親がやたら水を飲むようになった・・・・一日二リットル水を飲むと良いと言うが、そんな量を遥かに超える。
そして、ある日、蒸し暑くなった自室の中で死んでいた。
遺体は警察へ回されることに・・・・
父親の身体は水分が異常に不足していた。
死因は、脱水症状による急性循環不全。

橘百花
恐怖箱 死縁怪談 橘百花 竹書房文庫
「死んでもやめられない」
会社員の尾鈴さんは喫煙者だ。
勤務中に煙草を吸う際は、社内の喫煙スペースを利用する。
その日もいつものようにそこへ向かった。
喫煙スペースの入り口はガラス扉になっており、中がよく見える。
中では数人の男性が煙草に火をつけていたが、入り口付近には誰もいなかった。
尾鈴さんが扉を引いて中に入ろうとした時
『・・・・すみません』
小さな、男性の声がした。
先に外に出ようとした人がいて、自分がその人の行く手を遮ってしまったのでは?・・・・と
尾鈴さんは思った。
『あ、こちらこそすみませ・・・・』
そう返しつつ顔を上げたところ、彼女の目の前にヤニ色の煤けた人形が立っている。
その人形は申し訳なさそうに身体を小さくしながら、こそこそと彼女の横を抜けて消えた。
同じ喫煙仲間だから理解できる。
『死んでも煙草は、やめられない』

橘百花
「大文字ネオン」 橘百花
日向さんはその日、飲み会の予定があった。
待ち合わせは駅の改札口。
一番乗りで仲間を待った。

最初に、仏門に関わる職業の方が来た。
『何か変な臭いがするね』
妙な気配と共に、妙な臭いが日向さんから漂っていると言う。

次に、霊能者の方が来た。
『日向さん、あそこに行ったでしょ?』
とある地名を口にした。
そこへは二週間ほど前に足を運んでいる。
どうしてわかったのかと問うと・・・・
『頭の上に大文字のアルファベットで四文字、○○○○って・・・・ネオンみたいに光っているよ』
派手に光るそれは、しばらくの間消えずに残った・・・・らしい・・・・

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「救急絆創膏」
朝、起きようとして、右手に違和感を覚えた。
小指と薬指をひとまとめにして絆創膏が巻かれていた。
記憶を辿ったが思い当たらない。傷もない。この種類の絆創膏は家にない・・・・
その翌朝、また貼ってあった。
昨日と同じ指だが、絆創膏の種類が昨日とは違う。
その夜、手袋をして寝た。
目覚めた時には手袋を脱いでいた。
そして、指にはまたしても絆創膏。
もしかしたら、自分は寝ている間に彷徨っているのではないかと考えた。
納得できる答えは見つからないが、自分が夢中歩行しているのなら証拠が残ると思い
ベッドサイドに薄く小麦粉を撒いた。
翌朝、右手の指全てがひとまとめになっていた。
小麦粉には足跡が残っている。
ただし、自分のものではない。
小学生くらいの小さな足跡が、外側からベッドに向かっているのがわかる。
しかし、戻った足跡はない・・・・
誰にも相談できないまま二週間が過ぎ、それは突然止んだ。

鈴堂雲雀

鈴堂雲雀
「瓜二つ」
内藤さんは、築十年のアパートで一人暮らしをしている。
そこでの生活が三年を過ぎたころ、二十代前半と思われる女の霊が出るようになった。
最初は霊ということで恐怖心があったものの、『美人である』ことが下心へと変わった。
『お恥ずかしい話なんですが、胸を触ってみたい、と思いまして・・・・』
手を伸ばし、触れた・・・・生身の女性と同じく、柔らかな感触が手に伝わる。
その瞬間、無表情だった霊が嫌悪感を浮かべ、強烈なビンタを見舞って来た。
その後も女の霊は現れ続けた。
そんなある日、友人からの合コンの誘いで出かけてみると・・・
霊の女と瓜二つの女性がテーブルに座っていた。
女性の名は里美というらしい。
あからさまに内藤さんを避ける。
二次会へ移動した際、内藤さんは彼女に近づいた。
『ねえ、さっきから無視しているようだけど、俺何かした?』
『え?あ、ちょっと知っている人に似てたから・・・』
5分ほどすると、里美は意を決したように話を始めた。
『貴方の顔が私の部屋に出る霊と瓜二つなんです。胸を触ってくるんです・・・』

合コン後、里美とは何度か会って飲んでいるが、話は互いの家に現れる霊の報告会。
現実社内では何の進展もない二人であるが、『霊としての内藤さん』の行動は日に日に
エスカレートしているようで、里美さんは嫌悪感を顔に表す。
一方『霊としての里美』も、無表情だった顔に侮蔑の表情を宿すようになってしまった。
何ともやりきれない内藤さんは、今現在、背を向けて寝ているとのこと。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「笑う女」
夫婦の寝室に、女が突然現れた。
『あなた、誰? どこから入ってきたの?』
大きな声に起こされた古川さんが目覚めると、確かに女が部屋の角に立っている。
女は、古川さんと妻が見ている前で消えた。
これが始りであった。
女は、時と場所を選ばずに現れ、消えた。
妻が言うには恨みでも買っているのでは? とのことだが、情けない話、女性経験が
少ない上に全ての女性に捨てられたのは古川さんの方だった。
そして、繰り返す恐怖に疲れてしまった妻は実家に戻ってしまった。
とうとう、古川さん夫妻は離婚に至った・・・
独りきりの部屋で、郵送されてきた離婚届けに実印を押した瞬間、女が現れた。
裂けそうなくらいに口を開け、涙を流しながら笑っている。
それまで、溜まりに溜まっていた怒りが恐怖を打ち消して噴出した。
『おまえ、いったい俺の何なんだよ』 古川さんは怒りのままに怒鳴った。
『赤の他人よ』
女は、そう言って消えた・・・・以後、現れていないという。

高田公太
「寄せ」
篤子さんは、東北は青森、恐山へ行った。
恐山と言えば『イタコ』・・・
入山入り口で訊ねると、今はイタコが山に常駐していることはないのだそうだ。
残念な気持ちのまま、宿泊先に着いた。
対応に出た仲居に、冗談まじりに愚痴ったところ、イタコを紹介してくれるという。
すっかり機嫌のなおった彼女がイタコの家に向かう。
そこは近代的な二世帯住宅だった。
目の前でニコニコしている老婆がイタコだった。
『死んだ父をおろして下さい』
と告げると、白装束も供え物もなしで、急に始まる口寄せに面食らった。
≪インチキ・・・とか言っちゃいけないよね。・・・・・これも趣があって・・・・≫
『・・・・篤子か・・・・。お前に話さないといけないことがある』
老婆は声音をすっかり変えていた・・・・頑張る老婆に自分も合わせなければ・・・・
『お父さん、会いたかった。なあに、話って?』

旅行を終え、地元に戻った彼女は、母にイタコの珍エピソードを笑って聞かせた。
しかし、母は笑わずに泣いた。
イタコを通して父が言ったこと・・・・お前は俺の娘じゃない・・・・本当の父は母さんの前夫だ。
『あたし、母さんが泣いたから、もうマジじゃんと思って問い詰めたら、やっぱりマジだったわよ』

戸神重明

戸神重明
「白い壁」
栃木県でのこと。
武雄さんが長年暮らしている洋風住宅で、ある日キッチンのほうから猫の鳴き声が
聞こえて来た。
彼は猫嫌いで一度も飼ったことがない。
野良猫でも入り込んだか? とキッチンへと行ってみると・・・・・
白い壁から猫の首が突き出ていた。
『こらっ!!』
大声で怒鳴ると、猫は壁から勢いよく飛び出してきた。
虎毛の大きな猫で、武雄さんの足元をすり抜けると庭へ出て、どこかに行ってしまった。
白い壁を調べたが、穴は開いていなかった。
のちに、リフォームでその壁を壊したが、猫の死骸は出てこなかったという。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「多勢に無勢」 つくね乱蔵
宮本さんは終戦後間もなく、山に籠もった。
家族も家も全てを失い、しかし死ぬことも出来ずに山へ逃げた。
瓦礫で小屋を作り、魚を捕り、山菜や野草を食べて暮らしていた。
そんな世捨て人の暮らしの中で、たったひとつの生きがいが呪いだった。
きっかけは、近くの古い神社の裏手に無数の釘を打ちつけられた木があり、その場に
残った藁人形で何が行われていたのか理解できたの言う。
最初のターゲットは新兵時代に散々いたぶってくれた上岡という上等兵。
昼夜を問わず熱心に、心に占める恨み事を延々と言葉にし続けたある日、上岡が苦しむ
姿が炎の中に浮かんで消えた。
『ああ、今死んだな』
相手が死んだことが唐突にわかったと同時に、たまらなく快感だった。
次のターゲットは真田上等兵、こいつも酷い奴だった・・・・
そして最終のターゲットとして思案した結果、自分を戦争に追いやったと思える
尊い御仁に決定した。
死ぬしかなかった戦友のためにも、宮本さんは今まで以上に呪いの念を強く送った。
が、その試みは三日と保たなかった。
『無理ですね。呪いをぶつけようとしたんですが、とんでもない数の人に守られている。
しかも私と違って、その全員が本職。勝てるわけがない』
四日目の夜、純白の衣装に身を固めた本職達が宮本さんの夢枕に立った。
『もう止めておけ、宮本』 ・・・・・名前で呼ばれたという。

加藤一編

加藤一編
恐怖箱 屍役所 加藤一編 竹書房文庫
鏑木さんが自衛隊の任務に就いていた九州は小郡駐屯地の話。
駐屯地のの近隣には大原古戦場を始めとする古い戦の跡地が散在しているため
施設内に祠を建てて祀っている。
当時は管理を自衛隊生徒が担当していたそうで、業務内容は祠の盃の水替えや祠の清掃など。
教官から 『サボると祟られっぞ』 と脅しつけられているのだが、実際に舐めてかかってサボると
身体の一部が腫れたり謎の高熱に見舞われたりする。しかも再現率百パーセントである。
ある晩のこと。鏑木さんは一日の業務を終え、営内の居室で横になっていた。
デスクワークもあるが基本は訓練など日々身体を使う仕事であるので、寝台に入ると寝付きは早い。
横になるのと眠りに就くのがほぼ同時くらいの寝付きの良さである。
寝返りを打ったその拍子に、背中に激しい衝撃が走った。
まるで全力疾走してきた馬に踏まれたかのような打突である。
激痛に呼吸が止まり、んがっ、とも声が出ない。
身体を捻ると、背中の上で堂々たる体躯の馬が蹄を蹴立てている。
鐙と具足がチラリと見えた。
『まあね、よくあるんですよ。うちの駐屯地、古戦場跡にある訳ですからね』

加藤一編

加藤一編
恐怖箱 遺伝記 加藤一編
原因不明の怪異は勿論それだけで十分怖い。
だが、それに呪いや祟りといった原因、因果が絡む時、怖さは何倍にも膨れ上がる。
いわくつきの恐怖は理由なき恐怖を遥かに凌ぐものなのだ。
そしてその因果が過去に深ければ深いほど、未来に犠牲が連なれば連なるほど
おぞましさは増大する。
そんな恐怖の本質に迫ろうとしたのが本書、実験的ホラー小説大会【遺伝記】の傑作選である。
収録の24話はどれも独立したひとつの話として楽しめる。
どこから読んでも構わない。
だが、すべてがどこかで繋がっていることにお気づきになるだろう。
巧妙に張り巡らされた因果の糸。
邪悪な蜘蛛の巣の罠にかからぬようくれぐれもご用心あれ。

加藤一

加藤一
「封筒」
榊原さんが勤めるショッピングモールで、とあるイベントが行われることになった。
イベント会場は盛況で、家族連れやカップルが招待券を手に続々押しかけてくる。
『いらっしゃいませ!招待券はこちらにお願いします!』
そこへ、ひとりの中年女性が現れた。
おばさんは、ぺらっとした薄い封筒を差し出した。
(招待券はこの中に入れたままなんだな)と思いながら、封筒を受け取る。
ズシッ・・・・と重い。
あわてて中を確認するが、封筒の中は空っぽだった。
おばさんは榊原さんの対応を待たずに、勝手に会場へと進んでしまう。
声を掛けようとして、言葉に詰まった。
ざわめきと人いきれに目の前を遮られる。
一人、二人、三人・・・・もっと沢山。
まるで、おばさんが集団を引率しているようだが、おばさん以外の姿はない。
何やら得体の知れない集団は、おばさん共々会場に吸い込まれて行った。
イベントは事故もなく成功裏に終えた、とのこと。

戸神重明

戸神重明
「ごめんね」 戸神重明
『・・・ごめんね・・・・・ごめんね・・・・・』
午前四時、電話の向こうで若い女が泣きじゃくりながら謝り続けている。
携帯電話が普及する以前、勝則さんの家では黒電話を使用していた。
ひと月か、ふた月に一度、未明に電話があり、電話に出ると無言・・・
『どちらさまですか?』 と問いかけると、小声で泣き出す。
電話に出ないと、いつまでもベルが鳴り続ける。
そうなると出るしかないので怒鳴りつけてやったこともあるが効果がない。
寝る前に電話線を外すことにしてから、電話機が深夜に鳴ることはなかった。
半年ほど過ぎた頃、勝則さんは風呂場で自分の陰嚢に黒子を発見した。
どす黒くて、割と大きいのが三つある。
黒子は癌化することがあると聞いていたので、気になった。
そこで、ある晩、無料の医療電話相談窓口に電話をしてみることにした。
電話に出たのが若々しい女医だったので、詳細は省くことにした。
『あのう・・・黒子が出来て気になるのですが、何科の病院へ行けばよいでしょうか?』
『皮膚科です』 ああそうですかと電話を切ろうとしたところ・・・・
『金玉に黒子が出来ているんだろう!癌だよ、癌。苦しんで死にやがれ』
女医は急にドスの利いた口調で言い放つと、電話を切った。
(ひどい医者だな、でも何でわかったんだろう?)
クレームの電話を入れようと受話器を上げるが発信音が出ない。
『あれ?』 よく見ると電話線が外れていた。

鈴堂雲雀

鈴堂雲雀
「具現」
『はじめて見たのは二年程前なんですが・・・・』
奥さんと喧嘩をした際、何も言わずに涙を流している奥さんの背中から黒い靄が出て
やがては身体全体を包み込むほどに広がった。
『その時は吃驚しましたが、オーラというものかと思いまして・・・・』
お互いが冷静になって仲直りをすると、奥さんから発せられていた黒い靄は消えた。

三カ月ほど前、いつもの夫婦喧嘩を始めると、奥さんから黒い靄が出てきた。
黒い靄は奥さんの身体を離れると、凝縮されて蝶の形へ変化していった。
やがて、蝶へと姿を変えた黒い靄は、窓から外へと飛んで行ってしまった。
その途端・・・
『私、考えたんだけど・・・』
奥さんが冷静になった。
これ以降、奥さんから黒い靄が出ることはなくなったとのこと。

鈴堂雲雀

鈴堂雲雀
「ベランダの蛍」 鈴堂雲雀
集合住宅の四階に住む名越さんはベランダで煙草を吹かしていた。
すると、蛍を彷彿とさせる小さな灯りがふわりと落ちてくる。
灯りは消えることなく、彼の肩辺りで直角に方向を変えて、ベランダの中に入って来た。
そして、毎日、火の点いた煙草が落ちてくるようになった。
上は空き部屋、その上は独居老人が住んでいる。
止める奥さんを宥めすかして、名越さんは独居老人の部屋に向かったが、返事がない。
そこで、管理会社へ今までの経緯を説明し、証拠の品を差し出す旨、伝えた。
次の日、仕事から帰ると、奥さんが待ってましたとばかりに駆け寄って来た。
独居老人は亡くなっていたのだ。
老人の遺体が見つかって以降、煙草が落ちてくることはなくなった。
散々止められなかった煙草も、吸う気が全く起きなくなり、その後は一本も手にしてない。
だが、奥さんが他の主婦と井戸端会議をしていた最中に真下の住人から言われた台詞は
一瞬にして奥さんを凍り付かせた。
『―あの・・・気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど・・・御主人にベランダから煙草を
投げ捨てるのを止めてほしい、って、それとなく伝えてくれないかしら・・・・?』

戸神重明
深澤夜
鳥飼誠

戸神重明
鳥飼誠
深澤夜
「アオガエル」 戸神重明
勝沼さんが登山に行った帰りのこと。
山奥の森に囲まれた舗装道路を車で走っていると、途中で大雨が降ってきた。
すると、次々に蛙が道路に飛び出してくる。
減速して轢かないように運転したが、何匹かは轢いていしまった。
大きい緑色の蛙を轢いた時は、タイヤの感触があって後味が悪かった。
暫く走ると、緑色をした軽自動車が対向車として現れ、こちらの車線へ進入して
減速せずに突っ込んで来た。
よく見ると、それは巨大なアオガエルだった。
『駄目だ!』
急ブレーキを踏んだと同時に目をつぶってしまった。
次の衝撃を覚悟していたが、伝わって来ない。
目を開けると、巨大なアオガエルは消えていた。

寺川智人

寺川智人
「フレームイン」 寺川智人
二階堂さんは、電信柱の設置状況の検査・報告のために撮影した写真を見ていた。
そのため、被写体は電信柱。
四方から撮影されているが、他の対象物を撮影したりしない。
が、1枚の写真の電信柱の手前に三輪車に乗った親子と思しき二人が写っていた。
三輪車のサドルに跨る子供と、後部の踏み台に乗る短髪の男性。
しかし、横向きの彼らの姿は、うっすらと透けているため後方の電信柱の設置状況は
確認できるものだった。
納期が差し迫っていたため、そのまま写真を親会社に提出した。
親会社からの問い合わせはなかったという。

寺川智人
つくね乱蔵
鈴堂雲雀

寺川智人
つくね乱蔵
鈴堂雲雀
「もう一度だけ」 鈴堂雲雀
絵里子さんのお爺さんは、その昔、瓶のサイダーを好んで飲んでいた。
お気に入りの栓抜きで 『シュポーン』 と栓を抜くと豪快にラッパ飲み。
しかし、最近はペットボトルが幅を利かせており、瓶のサイダーを入手することは
困難になっていた。
『ペットボトルでななく、瓶のサイダーが飲みたいんだよ。味が違うんだよ』
『お爺ちゃん、もうお店で売っていないんだよ。それに味も変わらないよ』
そんな会話が繰り返されていた。
ある日、お爺さんは布団の中で冷たくなっていた。
葬儀も終わり、日常の落ち着きを取り戻した頃、絵里子さんは夜中に目を覚ました。
ポーン シュポーン・・・ 
見ると、目の前にお爺さんが生前と同じ姿で座り、サイダーの栓を開けるしぐさを
しながら、口から『ポーン シュポーン』と声を発していた。
未練があるのか・・・・と感じた絵里子さんは
『分かった。お爺ちゃん、3日待って。必ず、見つけてくるから』
翌日の朝から探しはじめ、3日目には3本のサイダーが見つかった。
それをお爺ちゃんの仏壇へ、愛用の栓抜きと共に供えた。
『シュポ シュポ シュポ』 小気味よい音がすると栓が抜けた。
その時、お爺ちゃんの遺影が幸せそうに笑っていた。
その栓が、今は家族のお守りになっているんだとか。

神沼三平太

神沼三平太
「肩まで」
繁華街の産婦人科で看護師をしていた木村さんから聞いた話。
場所柄、その産婦人科には水商売や身体を売る女性も多くやって来た。
そして、堕胎に来る女性の多くが、木村さんが見ると赤ん坊を身体にしがみ付かせている。
勿論、身体に何も付いていない人もいるが、そういう人は≪初めて≫の堕胎手術の人。
堕胎した回数が3回だと、一人目は足 二人目は腰 三人目は肩にぶら下がる。
ただ、不思議と肩にまで赤ん坊にしがみ付かれている女性は、それ以降その病院には
姿を見せなくなる。つまり、堕胎の回数が四回を超えると来なくなってしまうのだ。
病院を変えたのか、堕胎する必要がなくなったのか・・・。
待合室で待っている女性を見ていると、赤ん坊はいずれも泣き声一つ上げずに
<ぎゅっと>母親の身体にしがみ付いている。
どの赤ん坊も例外なく、その母親の顔をじーっと眺めているという。

雨宮淳司
​​
雨宮淳司
「老いて来る」
坂上さんの家の近くに老人ホームが立った。
ある日、奥さんが帰宅すると老婆が家の中にいた。
鍵がかかっているのに、どうやって入ったのか・・・
老人ホームへ連絡すると係員が直ちに迎えに来た。
低姿勢でお詫びを何度も言って、老婆を連れ帰った。
数日後、今度は剥げた老人が玄関で糞尿を垂れ流していた。
どうやって入ったか不明だが、今度は御主人が怒り狂い、玄関掃除はもちろんのこと
家のカギ全てを老人ホームに交換させた。
その後、何事もなく数ヶ月が経過したある日、家の中に薄汚れた浴衣を着た老婆がいた。
奥さんは早速老人ホームへ連絡を入れたが、食事中ということで全員の確認が取れて
いるので脱走している老人はいないということだった。
御主人に相談してみると・・・・幽霊かもしれない・・・・
御主人は曰く、老人ホームもこの家も生活排水の川が下に流れていて、昔はその川で
増水があると必ず老人が何人も亡くなっていることを父親から聞いていたとのこと。
この川の幽霊が老いた人間を川に引っ張り込むため、川に蓋をしたと。
御主人も奥さんも老齢と言わないまでも、近い年齢であるため、この点を考えた。
この家に老人の幽霊が出たということは、引っ張りこまれる可能性があるということ。
坂上さんは家と土地を売り払い、実家の近くのマンションに住んでいる。

雨宮淳司

雨宮淳司
「衿」
宮里さんは、車での独り旅の途中で車が故障、修理に2~3日かかるとのことで
『おひとり様歓迎』と出ていた宿に泊まることにした。
宿に向かう途中、1対3で喧嘩になりそうな女子校生『津田茅』を助けたことから
仲良くなり、祖父の形見の人形が起こす騒動を静めていること聞く。
車の修理が終え、帰宅する前に彼女と食事をした。
その時、彼女が諳んじた『文天祥』が記憶に残った・・・
別れ際、携帯電話を持っていないということで、彼女の家の電話番号を聞いた。
帰宅して数日後、夢に旧日本軍の男たちが『文天祥』を諳んじる姿が出て来た。
そして、マスコットのキーホルダーがカサゴソと動き出す・・・・
何か、『津田茅』とのことで自分が操られている気がして、自宅へ電話をした。
祖母らしい人が出て、独りでしゃべる言葉から『津田茅』の危機を悟る。
そのまま車で現地に行き、別荘地で彼女の危機を救った。
彼女の家に行くと、祖母が彼を命の恩人と称し、何泊でもしていくように言う。
何泊目かに祖母がある写真を持ってきた。
その頃には、宮里さんの祖父と津田茅の祖父に繋がりがあろうことは予想できた。
そして、祖母がなくなり、彼は葬儀を仕切ることになる。
帰宅後、宮里さんの両親に津田茅を紹介すると、大喜びで迎えた。
やがて、宮里さんは有名私立大医学部へ通うため下宿。
津田茅は宮里さんの地元の短大に通うようになる。
祖父がそれぞれの孫を娶せた・・・・

雨宮淳司

雨宮淳司
「あとがき」
著者が風に纏わる怪談として最初に思い出すのは 『ある港町の旅館に幽霊が
出るのだが、出現時に必ず凄い突風を伴って現れる』という古い噂話である。
当然、旅館の中で突風が起こるはずはないという否定要素はある。
ところが、以前、書いたが1度金縛りになったとき、顔面に息継ぎができないくらいの
風を吹きつけられたことがあった。
吹きつけられている最中に 『これなら、あの話もアリだな』 と思った。

戸神重明

戸神重明
「座敷翁」 戸神重明
その日、村井さんが外出先から自宅へ戻って来ると、隣家の前の路傍に老人と老婆が
座り込んでいた。
どちらも小奇麗な和服を着て、真っ白な髪を調えて品が良い。
具合でも悪いのかと思い、声を掛けると二人は微笑んだ。
『この家に長く居た者なんだがね・・・・今日、出て行くことになって・・・・』
言い終わるか終らぬうちに、二人の姿は消えてしまった。
『え? 今のは何だ?』
村井さんは家に逃げ帰ったが、二人のことは誰にも言わなかった。
隣家は江戸時代から続く旧家で、当代の主は近くで商店を経営しており、かなりの財を
蓄えていると噂されていた。
ところが、翌日、その家の主が車で人を轢き殺してしまい、逮捕された。
代わって、息子が店を継いだが、一度失われた信頼は回復せず、数年後に倒産した。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「赤い指輪」 つくね乱蔵
仕事を終え、帰宅途中の電車の中で早野さんは胃に不快感を覚えた。
じんわり締め付けられるような痛みで、ここ最近ずっと続いている。
帰宅すると、嘘のように痛みが消えるため、仕事のストレスと自己診断していた。

この日も例に違わず、胃が痛みだした。
苦痛に顔をゆがめていると、その顔を正面から見据える着物姿の女性がいる。
『あの、私の顔に何か付いていますか?』
『あんた、今、胃のここが痛くないか? あんたの胃袋を手が握りしめているだわ。
小指に赤い石が付いた指輪をしている。早いとこ何とかしないと、あんた胃がんになるよ』
指摘を受けた場所は、まさに痛い場所だったが、馬鹿げたことと鼻で笑った。
女性はそう言い捨てると去って行った・・・。
家に帰ると、妻の小指には赤い石の指輪があった。
『あのとき、もっとしっかり妻と向かい合っておけば良かった・・・』
病院の待合室で、痩せ細った早野さんは寂しげに笑った。

加藤一

加藤一
「つまらない余興」
芳紀が高校の修学旅行へ行った時のこと。
宿の大広間で夕食を終え、宿の人々との交流会が行われた。
宿の女将はステージに上がると、近隣の名所、地名の由来や名物といった観光案内を
淡々と語った。
続いて、旅行期間中行動を共にするバスガイドさんの簡単な自己紹介があり、マイクは
学年主任へと渡り、高校の学校紹介を終えると言葉に詰まった。
まだ、始まったばかりで解散とはしがたい。そこで、学年主任は芳紀を指名した。
『芳紀、おまえ、何かやれ』
指名されたものの、咄嗟に何をしようか思いつくものでもない・・・
『じゃあ、面白い話も特にないから、つまらない話をします』
それでいいからやれ とステージに押し上げられた芳紀は、怪談話をすることにした。
芳紀自身、心霊体験には事欠かない。毎日、何らかの心霊体験をしていると言っても
過言ではない。こんな機会なら語って聞かせても余興のひとつにはなるだろう。
『え~、僕が家で寝ていたら金縛りにあって・・・・』
心霊体験を話し始めると、皆、前のめりになって聞き入っている。
そして、話が山場に差し掛かった時だった。
『で・・・そのとき・・・・』 そのとき、バンッ!というサッシのガラスを叩く大きな音が
広間に響き渡った・・・・。しかし、視聴者一同に変化はなく、騒ぎも起きない。
演出のための間にしては長すぎる沈黙の芳紀へ学年主任が声を掛けた。
『・・・それで?』 どうやら彼らには一切聞こえていないと理解した。
今度はガラスに髪を振り乱した女が張り付き、話を聞きながら芳紀を見据える。
女を見ないように話をするのが精一杯で、何の話をしたのかもわからないまま
漸く、話を終えた。
それでも同級生達には大評判だった。
放心状態でステージを降りるとき、傍らにいたバスガイドさんが耳打ちしてきた。
『さっき、話の途中で凄い音がして・・・急に嫌な感じがしたんだけど、大丈夫だった?』
『・・・いや・・・・もう、身体ガチガチで気持ち悪いっす』
『そうよねえ。こんなたくさんの人の前で怪談なんてやるもんじゃないわねえ』

加藤一

加藤一
「しゃせー」
今はいぶし銀の男前になっている真さんは、若い頃は新宿の有名ホストクラブの
ナンバーワンだった。
ホストの世界では1日でも早く入ったほうが先輩。
後輩の接客は先輩が教える。
挨拶もできないような奴もいるので、挨拶から教える。
その店では、挨拶が完璧な奴がカウンターにいた。
ホストが出勤してくると 『しゃせー』 と頭を下げてお辞儀をする。
お客様が入店すると、これまた『しゃせー』と頭を下げる。
店の人間は、この挨拶を手本としている。
そいつは深々と頭を下げると、その姿勢のままじわじわ薄くなって消えてしまう。
カウンターからは1歩も出ない。
『彼、指名はできないの?』と戯れに訊ねてくる客もいる。

ねこや堂

ねこや堂
恐怖箱 閉鎖怪談 ねこや堂 他 竹書房文庫
「期間限定」 ねこや堂
八月、お盆の頃の話である。
九州のある地方では、川や海へ流さない代わりにお焚きあげ専用の精霊舟を作って海岸に積み上げる。
お供えを山のように載せた舟は、水に浮かせるという役割がないために大きなものもあるという。
この海岸は海水浴場にもなっていて、シャワーやトイレも常設されている。
ふと尿意を覚えトイレに行くと、幾つかならんでいる個室のどれもが『使用禁止』になっていた。
管理者らしき人物に故障しているのかと尋ねれば、故障ではないが使えないので数百メートル先の
コンビニまで行くようにとのこと。
そこまで行くのは面倒なので、粘りに粘って交渉をしてみたが、ダメなものはダメと突っぱねられた。
『この時期は女の霊が出るんだ。中から呻き声がしたりもする』
『ここにあるトイレ全部?』
『ああ、全部だ』
この時期だけ限定で、それ以外は出ない。
だから、今日は使えないと・・・・・・管理者は苦虫を嚙み潰したような顔で言った。

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
恐怖箱 百舌 高田公太 神沼三平太 ねこや堂 竹書房文庫
「手ブラ」 ねこや堂
小西君は幼馴染の雄大君から、できたばかりだという彼女を紹介された。
照れ臭そうに雄大君の後ろから現れた彼女は、小柄で可愛らしい。
胸に付いたリアルな模様が、パステルカラーのTシャツの色とそぐわないのが
気になった。
何度か見直して、その正体に気付く。
両脇から伸びた大きな手が、彼女の乳房をしっかり掴んでいた。
以来、彼女に会う度、小西君はどうしても胸に目が行く。
手は今日もそこに張り付いている。

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
恐怖箱 百聞 高田公太 神沼三平太 ねこや堂 竹書房文庫
「風の子供」 ねこや堂
畦道を歩いていた。
風は強くもなく、程よく涼しい。
にも拘わらず、ザァーっと音を立てながら稲穂が激しくなびいていた。
見れば、稲穂の上を子供が走っている。
青い着物を着た坊主頭の小さな男の子が、稲穂を蹴って跳ぶように。
蜻蛉の群れに追い立てられ、勢いよく飛んで行った。

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
恐怖箱 彼岸百物語 加藤一 高田公太 神沼三平太 ねこや堂 竹書房文庫
「現代的魔女」 神沼三平太
友人に日英ハーフの女性がいる。日本語も英語も堪能である。
英国に住んでいる彼女の友人から聞いた話。
ある夜、その友人の父親が道を歩いていると、空を飛ぶ魔女を見た。
行きつけのパブでその話をすると、スコッチの飲みすぎだろうと信じて
もらえなかった。
しかし、数日の間にそのパブの常連の中から何人もの目撃者が出た。
俄には信じられない話だが、皆が同じものを見たと口を揃えるので
周囲も信じるほかになかったという。
『その魔女さ、飛ぶ時にサイクロン式の掃除機に跨っていたんだって。
あの吸引力が変わらないってコピーで有名な奴。 あれさ会社もイギリスだし
魔女も国産品を買うんだなって話で落ち着いたらしいよ』

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
「俊足」 神沼三平太
新幹線の窓から外を眺めていると、何かが新幹線と同じ速度で並走している。
いや、まさか。
最初は自分の見ているものが信じられず、別のものではないかと思いながら観察した。
・・・・あれ、やっぱり人 だよね。
自分自身に問いかけたくなるほど、不思議な光景。
黒い服を着て、覆面をしている忍者姿の人影が、何処までも付いてくる。
場所は、岐阜県から滋賀県に入ったあたりだという。

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
「黙祷」 高田公太
小学生だったある日、校長先生が脳溢血で亡くなった。
朝の全校集会が行われ、皆で黙祷をしていた最中のこと。
一人の教師がおもむろにマイクの前に立ち、校長先生の声で
『ありがとう』
と言って倒れた。


「風の子供」 ねこや堂
畦道を歩いていた。
風は強くもなく、程よく涼しい。
にも拘わらず、ザァーっと音を立てながら稲穂が激しくなびいていた。
見れば、稲穂の上を子供が走っている。
青い着物を着た坊主頭の小さな男の子が、稲穂を蹴って跳ぶように。
蜻蛉の群れに追い立てられ、勢いよく飛んで行った。


「判子」 神沼三平太
『何これ~』
温泉の脱衣所で、洋一さんは友人に背中を指さされた。
『何か変?』
と訊くと
『判子がいっぱい捺してある・・・・』
と言われた。
そこで、友人にデジカメで背中を撮ってもらった。
そのプレビュー画面を見て洋一さんが絶句した。
鈴木、山田、佐藤、出口、山下・・・・
まるで印鑑を押したような、小さな円で囲まれた薄桃色の文字が背中一面に
無数に浮き出ていた。

鳥飼誠

鳥飼誠
恐怖箱 呪毒 鳥飼誠 竹書房文庫
「刀の話」
中田さんがまだ幼かった頃の体験で、当時、彼の実家はかなりの名家であった。
しかし、家長である父親が急死してからは、家は傾き始める。
それに追い打ちをかけたのが、父親の弟、酒と賭博が大好きな銀蔵の存在だった。
銀蔵が村のあぶれ者とつるんで愚連隊のようなものを結成したとき、兄から縁を
切られた。
その銀蔵が、兄が亡くなった途端、荒くれ者を多数引き連れて家に乗り込んできたのだ。
『土蔵の中身をちょいと頂いていくぜ』
『刀だ、刀を探せ。親父と兄貴がアホみたいに大切にしていたものだ。きっと名刀に
違いない』
土蔵に入るや否や、次々と中の物を持ち出していった。
『銀蔵の兄貴、刀なんか見つかりませんぜ』
ほぼ空になった土蔵を、更に探し回ったが刀の鞘すら見つからない。
すると、突然、荒くれ者の一人が叫んだと思ったら、彼の右肘の下が切断された。
その場にいた荒くれ者たちの腕が、足が、次々と床に転がっていく。
銀蔵は、土蔵から逃げ出た途端に両手、両足を切断され、仰向けに倒れると・・・
『おおおおお、親父~、すまねえ~、許してえええ~』
皆、叫び声が笑い声に変わったという。
その後、荒くれ者たちの命は助かったものの、精神は壊れたままで今も病院で
笑い続けているという。

鳥飼誠

鳥飼誠
恐怖箱 禍族 鳥飼誠 雨宮淳司 神沼三平太他 竹書房文庫
「あと五分」 鳥飼誠
国枝さんの家にある全ての時計は、一時期おかしな動きをいていたという。
その現象は国枝さんのお母さんが亡くなった次の日から起こるようになった。
午前十一時二十五分になると家中の時計が一斉に五分だけ巻き戻るのだ。
そして暫く経つと、全ての時計が一斉に正しい時刻に戻る。

歳を取って衰弱したお母さんを自宅に招いて面倒を見ていたのだが
国枝さんが買い物へ行った少しの時間の間に心不全で亡くなってしまった。
午前十一時二十五分はお母さんが亡くなった時刻。
『あと五分早く帰ってきてくれたら・・・・母がそう訴えていたんだと思います』
母親を救えなかったと国枝さんは悔しそうに言った。
四十九日を過ぎた頃、五分巻き戻る現象は起きなくなったという。

鳥飼誠
深澤夜
戸神重明

鳥飼誠
深澤夜
戸神重明
恐怖箱 魂迎 鳥飼誠 戸神重明 深澤夜 竹書房文庫
「ラブホの風呂」 鳥飼誠
久しぶりにラブホテルに泊まった。
彼より先に風呂に入ったが、仕事の疲れもあってか、うっかり湯船の中で寝てしまった。
唐突に足を掴まれたので、吃驚して目を覚ました。
広い湯船だったので、彼が潜っていたずらしたんだろうと思って掴み返した。
そのとき、彼が素っ裸で入って来た。
『え?』 掴み上げたのは、派手なネイルをした女の足だった。
足はすぐに消えたが、手には派手なネイル一枚が残った。

鳥飼誠
怪聞亭
つきしろ眠

鳥飼誠
怪聞亭
つきしろ眠
「おぶつだん」 鳥飼誠
保育園に勤務する木村さんは、他の保育士といっしょに池のある大きな公園に
園児たちを連れて行った。
そこで、池と水鳥をスケッチさせるためだ。
木村さんは、スケッチブックを開いた園児ひとりひとりを見て回っていた。
ある男の子の絵を見て足が止まった。
池の中央に建物らしきものが描かれている。
『これ、なあに?』 と園児に尋ねると
『おぶつだん!』 と元気の良い声が返ってきた。
その後、他の園児の見回りに行くと、数人の園児の絵に『おぶつだん』が描かれていた。

加藤一

加藤一
「貼付中」 鳥飼誠
中村さんがリゾートホテルに泊まったときのこと。
ホテル内のプールに行こうと歩いていると、前方から清掃員と思われる女性が
紙袋を持って走ってきた。
『何を急いでいるのやら・・・・でも廊下は走るなよ』 と心の中で思った。
清掃員の女性は、すれ違う時に軽く頭を下げただけで行ってしまった。
何を急いでいるのかと思って清掃員を舐めるように見ていた中村さんは
紙袋の中に大量のお札があったことを見逃さなかった。
おそらく、大急ぎで多くの部屋に貼るのでしょう・・・・

加藤一

加藤一
「帰郷」 寺川智人
久栄さんが子供を連れて帰省したのは数年振りのことだった。
子供たちは大はしゃぎで遊びまわった。
しかし、楽しい時間は早く過ぎるもので、帰宅の時間となってしまった。
駅までの道を歩いている最中に子供たちは、やたら後ろを振り向く。
『どうしたの?』 とたずねると・・・・
長男がジェスチャーを交えながら・・・・
『大きくて、ふさふさな毛でタヌキみたいな、しっぽがふわふわなワンコがついてくるの』
それは、彼女が実家に住んでいた時に飼っていた大型犬のボス。
彼女に大変懐いていた犬だったが、もう他界している。
『ついてくる』
『まだいるよ』
そんなやりとりが続いたが・・・
『あ、いなくなっちゃった~』
久恵さんには見えなかったが、ボスに見送られたと思うと嬉しかった。
彼女は今も、ボスの写真を大切に持っている。

加藤一

加藤一
「先読み」 ぼっこし屋
著者の祖父は、人の生死に関わる事に対して鋭い予見を発揮した。
『いきなりな、その情景が浮かぶんだわ』
祖父は自らの能力をそう説明した。
その祖父が、ある日の朝食の後に倒れ、それから4日後に亡くなった。
早速葬儀の手配をと考えていたところ、すっかり疎遠になってしまった
菩提寺の住職が訪ねてきた。
『生前の故人に頼まれたものですから』
聞けば、1週間前に祖父がふらりと現れ、枕飾りを頼んだとのこと。
『故人から《手紙を用意してあるから、もし、俺が死んだら葬儀の時に
読み上げてほしい》と言付かっております』
その手紙は御斎の席で読み上げられた・・・書き出しはこんな一文・・・・
『本日は晴天に恵まれ、ご参列いただいた皆様のお足を汚さずに・・・・・』
その日の空は、連日の荒天が嘘のように晴れ渡っていた。

加藤一

加藤一
「それで、何を?」
ある男性が大学時代に家賃 月2万5千円のボロアパートに住んでいた時のこと。
住んでいるのは貧乏学生の男ばかり、そして皆彼女がいないのも同じだった。
そんなボロアパートに女の幽霊が出た、そして若くてかなりかわいい。
他の部屋の住人に話をすると、皆の部屋にも出るとのこと。
ただ、出るだけで実害がない・・・・どころか、かわいいので見ているだけで嬉しい。
そんなある晩、インスタントラーメンを作ろうと共同の炊事場へ向かった。
すると、ある部屋のドアが大きな音とともに開き、中から先輩が飛び出して来た。
『寝ていたら、突然、女の幽霊に首を絞められた・・・・』
今までは害がなかったが、首を絞められるとあっては放っておけない。
『お祓いとか、しないとダメですかね~』
そう進言すると、慌てたように
『あ、いやいや、それには及ばん。もう、慣れたし、落ち着いたから寝るわ』
そう言って、自分の部屋へ帰って行った。
女の幽霊が首を絞めたと聞いて、住人の誰もが次は俺かと身構えたが何もなかった。
先輩が襲われたのも、その1回だけで、後には何も起こらなかった。

『あのとき先輩は、女の幽霊にエッチなことをしようとしたんじゃないかと思うんです。
幽霊だけど、かわいい子だし、先輩はずっと女いなかったし・・・』

鳥飼誠

鳥飼誠
「つねる」
ある女性が20代前半の頃、仕事や人間関係で悩みに悩んでいた。
折角、熾烈な就職活動で入社した会社だったので
一生懸命頑張った・・・・が、もう限界だった。
『死のう』と思った。
病院で処方されている抗うつ剤を飲んで実行すれば、恐怖が
和らぐだろうと思い、一気に薬を口に入れて水で流し込もうとした。
”グイッ”
左頬を思い切り抓られた痛みで、薬も水も一気に吐き出した。
あっけにとられていたが、頬をつねられる感触から記憶が蘇った。
それは、幼かった頃に悪いことをすると頬を抓られた
大好きだった祖母のことだった。
もう、随分前に亡くなったはずなのだが・・・・
『おばあちゃん・・・』
吐いた薬と残った薬、全てを捨てた彼女は会社を辞めた。
今は、派遣社員として資格取得を目指しているんだとか。

加藤一

加藤一
「近所迷惑」
深夜、一人暮らしのアパートで横になりながら歌っていたら
所狭しと天井いっぱいに張り付いた数十個の顔に
『しーー』 とたしなめられた。
『「しーー』 に人差し指は付かなかったとのこと。

加藤一

加藤一
「仲間」
毎朝、ジョギングをしているという方の体験。
5時に起きて30分ほど走る。
出会う顔ぶれはほとんど決まっている。
それと、顔のない足音に出会うという。
1度、足音にぶつかって、いつの間に脱げたのか
ジョギングシューズが目の前から足音と共に
走り去っていったそうだ。
未だ、走り去ったジョギングシューズは見つからないとのこと。

神沼三平太

神沼三平太
「放置自転車」
湘南の海の近くに住んでいた時の男性の体験。
その一軒屋は、海の近くではあったが、駅から遠かった。
元々は祖父母の家だったが、二人が亡くなると男性が管理人兼住人となった。
ある夜、酒に酔った勢いで、駅で見慣れた放置自転車の1台を拝借してきた。
次の朝に、元の場所へ返せばいいだろうとの考えであった。
もう1週間以上前から同じ場所に放置された自転車で、黒いペンキが塗られていた。
翌朝、自転車を昨晩あった場所に置き、改札へと向かった。
その夜、帰宅してみると、今朝返したはずの自転車が敷地内に置いてある。
不思議に思ったで、次の日には別の駅の有料駐輪場へ置いて来た。
しかし、帰宅してみると、またも自転車は自宅に戻っている。
恐ろしくなった彼は、自転車を橋の欄干から川の中へ捨てた。
けれど、またも自転車は戻って来た。
これは悪戯や嫌がらせの類ではなく、ヤバイものだと感じたが、対策がわからない。
そこへ弟から電話が来た。
『最近、何かに追われていることってある?』
『なんでお前がそれを知っているんだ?』
『実は、毎晩、兄貴が黒い犬に追われる夢を見るんだ。そして、最後は犬に食われて
兄貴が死ぬ』
弟から、お祓いには塩か酒を使うという話を聞き、酒を使って清めることにした。
自転車をバラバラに分解して、酒で清めて1日置いた・・・
元の自転車に戻らないことを確認して、半分だけ燃えないゴミとして出した。
1日待って、自転車が戻って来ないことを確認して、もう半分をゴミに出した。
黒い自転車が戻ってくることはなかった。

雨宮淳司

雨宮淳司
「田舎の事件」
九州のある町でのこと。
その町に住んでいた体験者が中学生の時に、殺人事件が起きた。
女性が刺殺され、犯人は夫とわかり、すぐに逮捕。
その後、その家に女性の幽霊が出ると噂になった。
昼間、その家の前を通るが何も起きないので、同級生と夜、行くことにした。
夜十時に待ち合わせの場所へ着いた3人は、各々が乗ってきたサイクリング自転車で
現場へと向かう。
問題の家までは、自転車を置き、歩いた。
すると、十メートルほど先から白い浴衣姿の若い女性と思われる人影が来る。
急に足早になった白い女に気づいた3人は、逆方向へ走って逃げた。
『見世物じゃない』
女はそう言うと、近くにあったテントの桁を引っこ抜いて3人へ投げつけた。
それは、1台の自転車に当たり、ウインカーが壊れた。

月日は流れ、高校を卒業した3人は、一人が買ったハコスカでドライブへ行くことにした。
深夜、忘れていた家の前を通ると、物好きな一人が降りてみると言う。
仕方なく車を止めるが、すぐに乗るように急かした。
『たから、見世物じゃないと言ったろう!』
あの時の女の声が耳元で響いた。
車を急発進させて逃げたが、後で見ると車の後部のトランクの辺りがバイクで
突っ込んだように凹んでいた。

深澤夜

深澤夜
「佐藤さん」
神社の絵馬を見るのを楽しみとしている絵馬ハンターから聞いた不思議な話。
その絵馬には、絵馬に書いた本人と『佐藤さん』という人物の関係から書かれていた。
幼い時に両親とともに事故に遭い、両親は他界するが、佐藤なる人物に事故現場で
救出されて以来、世話になりながら生活をしてきた。
職場で、いやな部長にゴルフへ誘われた際も佐藤さんは行くなと言った。
そして、ゴルフに参加した部長以下は自動車事故で亡くなってしまう。
佐藤さんは、事故の様子を部長と同じ車内に居ないとわからない内容まで説明する。
退職後、佐藤さんの薦めに従って持ちビルの地下1階にCD・レコード店を出す。
絵馬ハンターが1度だけ、そのCD・レコード店へ足を運んだことがあったが
店には誰もいなかった。
その後の絵馬への書き込みを見ると、神社へ願掛け(絵馬)をしていることが佐藤さんに
知れてしまい、大いに怒られたので絵馬への願掛けはここで終わりにしたいとあった。
絵馬ハンターは、自分が店に行ったことで絵馬のことがバレてしまったと思ったとのこと。
そして、この件には関わりたくないと言う・・・・
この『佐藤さん』、生きている人間とは思えないのですよ。

高田公太
深澤夜
神沼三平太

高田公太
深澤夜
神沼三平太
「分かりません」 高田公太
仏間にて。
仏壇の観音扉を開けると、白い足が中を横切り、消えた。
見えたのは太腿より下、それも片足のみ。
若々しい肌質だった。
先祖代々のうち、どなた様の御足だったのだろう・・・

鳥飼誠
寺川智人
高田公太

鳥飼誠
寺川智人
高田公太
「賽銭泥棒」
年金暮らしの体験者が腰を痛めてしまった時のこと。
歩いて病院へ行けないためにタクシーを使った。
腰が完治するころには少ない蓄えも底を尽き、正月の餅を買う金もなかった。
たまたま通りかかった神社を見て、賽銭泥棒を思いついた。
家に帰ると、賽銭泥棒の準備をして夜を待った。
神社に着いて、人がいないことを確認してから、賽銭箱を懐中電灯で照らした。
数枚の硬貨に混じって、1万円札が見えた。
針金に粘りを出したガムを付けて、狙い通り1万円札へ落とした。
あとは引っ張り上げればいいだけだが、力を入れても1万円札が上がって来ない。
ついには、ガムは針金を外れて1万円札に付いたまま、針金だけが上がってきた。
『くそ~』
悔しい思いで顔を上げると、そこには美味しそうな柿の実が1個だけあった。
柿の実を懐へ入れると、嬉しい気持ちになって自宅アパートへ帰って行った。
そこで大家さんと鉢合わせになり
『あんた、何持ってんの』と言われ、よく見ると柿の実がスズメバチの巣に変わっていた。
『一体、あんた何をやったの?』の問い詰めに観念し、大家さんへ賽銭泥棒を白状した。
すると、家賃は数ヶ月待ってくれることになり、また少ないながらもお金を借りることが
できた。次の日、日本酒の小瓶を買って神社へ謝罪に行った。
『もう二度とあんなばかなことはいたしません』
何度も頭を下げてアパートへ帰ったところ、部屋の前にスズメバチの巣が落ちていた。
捨てようと思って拾い上げると、巣の割れ目にはガムの付いた1万円札が・・・・
体験者は神社の方向へ、泣きながら何度も何度もお辞儀をしたという。

松村進吉
深澤夜

松村進吉
深澤夜
「異聞フラグメント」
毎朝5時ころにウォーキングをしている時のことだったという。
月に1~2度見かけるリーゼント頭のヤンキーが近づいてくる。
『おはよう』と声をかけるが、相手は黙ったまま・・・・
最近の若者はばか者か・・・などと思いながら遭えば声を掛けていた。
そんなある日、そのリーゼントのヤンキーがいつもと違う場所を走っていた。
『ん?』
なにか、おかしい・・・
そこに道はなく、海の上を走っていたという。
それから2年、リーゼントのヤンキーとすれ違うが、声はかけていないとのこと。

つくね乱蔵
山際みさき
橘百花

つくね乱蔵
山際みさき
橘百花
「宝物」
我慢できない、すぐ切れる、そんなことの繰り返しで長続きしない仕事の数々だったが
彼を全うな人間に育ててくれた、そんな恩人の話。
気まぐれで受けようと思った面接、しかし、面接時間は既に大きく過ぎていた。
ダメもとで面接会場へ行くが、誰もまともに相手にならない。
そんな中、『おい、お前。なんで面接時間に遅れたのに来たんだ?』ときかれた。
彼は『給料が1番良かったからです』と答えた。
すると『よし、お前、いい根性しているから採用。明日から来い。いいな?』
この採用を決めた人が、彼の上司となり教育係となった恩人。
彼が辞めます、と言えば飲みに連れて行き、愚痴をきいてくれたあとで散々怒られた。
無断欠勤しようものなら、家まで押し掛けてきた。
彼を真正面から受け止めた上司は、恩人がはじめだった。
『この人に一生ついて行こうと思いましたよ』
彼が心を入れ替えて、必死に働くようになって数ヶ月経ったある日の朝。
彼が出社すると、皆の様子がおかしい。
なんとなく自分を避けているような・・・いつもは出社しているはずの恩人もいない。
すると、廊下を歩く恩人の姿を見つけた彼は、名前を呼びながら追いかけた・・・
この時、既に恩人は死亡していた。前日に倒れ、早朝に息をひきとった。
この時、見たのは幽霊じゃないかと訊ねると
幽霊は信じないが、亡くなった恩人の姿を最後に目にできたことが大切な宝物だとか。

加藤一

加藤一
本書「恐怖箱 超-1怪コレクション 金木犀」は最強実話怪談著者発掘大会
超-1/2011年大会の傑作選である。
著者挨拶
戸神重明―初めまして。『怪談の鬼』を目指して今後も修行を重ねます!
三雲央―気持ちの整理がつかないまま今に至っています。色々ありすぎました。
つくね乱蔵―金木犀の花のように、散り果てて尚、残る想いを描いていきたい。
宇津呂鹿―怪異溢れるこの世界で得られた全ての出会いに友情と感謝を込めて。
ねこや堂―今年も眠れぬ夜を過ごしました。皆様に障りがないことを祈りつつ。
イスカ―悩めるという幸せ。再び此処に名を連ねられた奇跡に感謝します。
高野清華―挑戦。被災。迷い。続行。全てのものに感謝します。そして祈り。
神沼三平太―金木犀の花言葉に「謙遜」と「真実」の語有。是実話怪談への戒也。

加藤一

加藤一
「地下住居」
定年後は、沖縄で暮らすために家まで購入していた男性の体験。
ある時、出張で沖縄へ行くことになった。
出張のついでに、購入した家に泊まって草むしりでもしようと思っていた。
家に到着すると、近くを散歩しよう歩き出す。
前から気になっていた防空壕へと足が向く。
天然の洞窟を利用して、太平洋戦争時は数百人もの人たちが避難していたとのこと。
現在は史跡として、数百円払えば誰でも入場できる。
入り口は質素なものだった。
受付の老人に入場料を払うと、懐中電灯を渡され
『中は暗いので、気をつけてください』
洞窟の入り口から中に入ると、大人3人が並んで通れるほどの道をを奥へと進んだ。
すると、少し広い空間に出た。
そこには、鍋や釜の生活用品が散乱しており、当時より手付かずの状態のようだ。
そう思った途端、周囲に数百人の気配がしてきた。
息遣い、衣擦れ、足音、焦げ臭いにおい・・・
『取り殺される』と思い、体を動かそうとするが金縛りになったように動けない。
それでも渾身の力を振り絞り、這うようにして洞窟を出ると体から汗が噴出していた。
受付を出ようとすると、彼を見た老人が
『そんな真っ青な顔をしてどうしたんですか。それに頭から水をかぶったように
びっしょりだ』
そう言いながら、その老人には驚いた様子は全くなかった。

雨宮淳司

雨宮淳司
「蛇の杙」
雀荘で、おそろしく麻雀が強い女性から聞いた自身の体験談。
彼女が中学生の時、実家に幽霊が出だした。
それは、彼女の双子の姉妹だと知ることとなる。
生まれる際、二人の首が絡まっていたことから首を切られた・・・
そして、自分だけが生を受けた。
医療の専門学校に行くようになって、チンピラ風の男に声を掛けられる。
『生首を背負っている』のが見えるという。
そして祓うことも出来ると言う。
彼女は父親に相談の上、払ってもらうことにした。
祓ってもらった数日後、再度、チンピラ風の男に声を掛けられ
そのままなんとなく付き合うようになる。
専門学校をやめ、男と同棲。
賭け事で稼ぐ男で、麻雀は男に教わったとのこと。
しかし、ある地点から賭けに負けるようになり、借金が増えた。
もう、どうにもならないとなった時、姉妹の霊に操作されていることに気づく。
すると、生首姿の姉妹の霊が姿を現し
『妬ましい』と言いながら彼女の意識を朦朧とさせ始める。
これで取り殺されるんだと思った時、首のない童子が現れ印を結ぶと
生首の霊は真っ二つに弾け飛んで消えた。
それからは、賭け事で稼ぐ生活に戻って、男と結婚したとのこと。

雨宮淳司

雨宮淳司
「集団肖像画」
ある呪いにより一家全滅した家族の謎を解明しようとした浪人生と高校生。
解明してみれば、この呪いは自分の素数年齢と素数年が交差した年に
亡くなってしまうというもの。
現に、高校生一家は全滅。
話を聞いてしまった著者も例外ではなく、67歳で死ぬとだろうとのこと。
事情は知らなくても、この話を聞いただけでも何人もの人が死んでいる。

あなたは、この本を読みますか?

雨宮淳司

雨宮淳司
「ぞろびく」
九州の病院での話。
五十代後半の女性が入院していたが、<足がぞろびく>としきりに訴えていた。
整形外科で痛み止めの注射をされたが、それでも<足がぞろびく>は
治まらないようだった。
<足がぞろびく>とは九州の方言で、自分の足より丈の長いズボンをはいて
裾から足を出さないまま引き摺って歩いている状態のことだそう。
ある日、患者である彼女がある看護婦の女性をからかって逃げた。
それをからかわれた看護婦が追うという展開。
女性患者は普段から<足がぞろびく>の状態だったので、歩みがとても遅い。
看護婦は余裕で追いつくと思っていたが、1歩踏み出した途端に
足に重いものが乗っているかのような状態に。
とてもスローな追いかけっこが始まった。
すると、突然看護婦は自分の足に向かって
『きえぇぇぇ~!』と気合を発した。
すると「ぷちっ」と音がした。
皆は看護婦のアキレス腱が切れたと思った。
次の瞬間、看護婦は軽い足取りで歩き出した。
そして、女性患者に追いつくと、軽く耳打ちをした・・・
すると女性患者も軽い足取りで歩き始めたではないか。
<足がぞろびく>は霊の仕業だったという話。

原田空
矢内倫吾
高田公太

原田空
矢内倫吾
高田公太
「ピッピッピッ」
ある女性の体験。
朝、ベッドから出ようとすると足元から『ピッ』と音がした。
何の音だろうと足下を見るが、何もない。
気のせいかと思い、ベッドから降りた。
『ピッピッピッピッピッピッピッピッピッ』
また音がする・・・・
その日は、幼くして交通事故で亡くなった娘さんの一周忌
生前、歩くと『ピッピッピッ』と音がする靴をお気に入りで履いていた。
その日は女性が歩みを止めるたびに『ピッピッピッ』と音がした。
『ママ、元気出して』と言われているようで、涙が止まらなかった・・・・

鳥飼誠
矢内倫吾

鳥飼誠
矢内倫吾
「宝船」
予知夢を時々見る妻が、宝船に乗って郷里の氏神様の階段を上がっていく
夢を見た。宝船だけでは何の意味か不明だが、彼女の母が肝臓を患い入院し
容態が思わしくないことから、そのことに関する何かとは想像できた。
数日後、妻と買い物に行った際、めずらしく別行動を取った。
たまたま、歩いていた方向に神社があった。
『医薬の神・病気平癒の神』との看板を見ると、妻の母親を思い出して
祈祷祈願をお願いすることにした。
祈祷は明日になり、祈祷札は祈願主へ郵送してくれるとのこと。

次の日、妻はまた夢を見た。彼女の実家に、父母の古い友人が
ワンボックス車で迎えに来た。
彼女の母をしきりに誘うが、断った。次に父が誘われるが断った。
夢から覚めた妻は、父母を誘いに来た友人たちが全て亡くなっていることに
気づく。
実家に、夢の話をするために電話をすると、今祈祷札が届いたという。
そして、祈祷札には宝船が描かれていたそうだ。まもなく妻の母は持ち直した。

つくね乱蔵

つくね乱蔵
「商社に勤務している女性の話」
ある夜、帰宅した彼女がビール片手にソファーでリラックスしていると
おならがしたくなった。
一人暮らしであるので、誰に気兼ねすることもない。
『ぷぅぅぅぅぅ~』
軽快感と、すっきり感を同時に味わっていると
『ぎゃはははっは~』
男の笑い声が部屋中に響いたが、もちろん一人暮らしである。
その声にびっくりした彼女は、またも
『ぷすっ』と漏れてしまった。
『ぎゃはははははははぁ~』
『くっくっくっくっくっくっく!』
『うわっはっはははははは』
数人の男の笑い声が部屋中に響き渡った。
それ以来、その部屋でおならはしていないという。

加藤一

加藤一
「町の散髪屋さん」
ある男性が行きつけの散髪屋さんへ行った時のこと。
その日は体が重く、だるくて、店のクーラーで涼もうと思っていた。
いつもはニコニコを迎えてくれる老夫婦が、ジロジロと男性を見ている。
『やれやれ、どこで何をしてきたのか』
爺さんは、見たこともないしかめっ面で男性を一番奥の椅子に座らせると
新しい上着に着替えて、神棚へ向かった。
老夫婦が並んで拍手を打ち、爺さんが朗々と声を張り上げた。
ほたら祓うか、とポツリと言うとバリカンを手にした。
『爺ちゃん、丸刈りは勘弁してよ』
『黙てーぃ!』
丸刈りを終えると、両手を組んで頭、両肩、背中と打ち始めた。
『よし!何とかなった』
ふぅと力が抜けた男性が鏡を見て、悲鳴を上げそうになった。
自分の背中から黒い影のような物が出て来て、やがて消えた。
すると、今まで重かった体がスーっと軽くなった。
『あんまり妙な場所で遊ぶんじゃねぇぞ』
爺さんは朗らかに笑い、汗を拭った。
「忌」怖い話
大祥忌


加藤一

加藤一
「忌」怖い話 卒哭怪談 加藤一著 竹書房怪談文庫
「カミサマ」
津軽にはカミサマがいる。
この場合のカミサマというのは、恐山などで知られるイタコと概ね同じで、祖霊を憑依させて
口伝えする役割を持つ霊能者である。
あるとき、鈴木さんはカミサマと会う機会があった。
カミサマは会うなり全ての行程をすっ飛ばして鈴木さんを指差し
『あんた!仏壇さご飯あげへぇ!』 (ご飯をあげなさい!) と怒鳴りつけた。
確かに、このところ仏壇にお供えを疎かにしがちだった。
『なすて分かったの?』 (なぜ) 驚いて訊ねたところ
『なの父っちゃんが、なの後ろで空腹いたって訴えでらはんで。守る力が出ねって喋っちゅう』
(あなたのお父さんが、あなたの後ろでお腹がすいていると訴えているから。守る力が出ないと喋っている)

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 卒哭怪談 加藤一著 竹書房文庫
「パレード」
ある年末のこと。
例年なら山口君は正月休みに合わせた帰省はしないのだが、この年は珍しく大晦日に帰った。
とりあえず、床の間のある客間に布団を敷いて寝ることにした。

夜中に目が覚めた。
夜の静寂の中で、ひそひそと声が聞こえる。
『帰ろう』
声のするほうを見ると、そこに行列があった。
『帰ろう。この年を終えて帰ろう』
ひそひそ、わいわいと賑やかしい。
姿形は人とさほど変わらないが、それらは何とも福福しい。
百鬼夜行のようでもあったが、あやかし類はおらず、福の神というのか、ひと仕事終えた
歳神の類が行列を作っていた。
『兄ちゃん、一緒に行くか』
一行から山口君を招く声が聞こえる。
付いて行こうと体を起こそうとするのだが、ぴくりとも動かない。

気が付くと夜が明けていて、新年になっていた。
あのまま彼らに付いて行きたかった。
ただ 『行く』 のか 『逝く』 のか、それを自分で選べるのかはわからないけれども。

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 回向怪談 加藤一著 竹書房文庫
「猫追い」
郁未さんが可愛がっている猫が興奮気味に廊下を駆け抜けて行った。
一人遊びをしているのかと思ったが、どうも違うようだ。
少年が猫をじゃらして楽しそうに戯れている。
猫はバタバタと廊下を駆け、踵を返して少年の足にじゃれつく。
郁未さんはこの少年の名前を知らない。どこの誰なのかさえも知らない。
先だって、榛名神社にお詣りに行った後、Tシャツの裾を引っ張られたので誰だろうと
振り向いたが誰もいなかった。
猫と遊ぶ少年が家に現れるようになったのは、この日の後からなので、恐らく拾って
来てしまったのだろう。
今のところ、猫と戯れる以外に害はないので放置している。
猫の後を追いかけて走る少年の後ろを、郁未さんの祖父がトコトコと付いて行く。
祖父もまた故人である。

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 香典怪談 加藤一著 竹書房文庫
「看護師長」
川添さんは非常に優秀な看護師で、系列病院からヘッドハンティングされて
看護部長の肩書で移籍した。
川添さん自身は有能かつ円滑な日々を過ごしたが、移籍先の病院はそうでもなかった。
まず、手術室看護師長のお子さんが事故で大けがを負い、入院。
次に外科病棟看護師長の実母が脳梗塞で倒れ、亡くなった。
続いて内科病棟看護師長の実父が事故で亡くなったのである。
どういうわけか、各病棟の看護師長の縁者ばかりが次々と不幸に見舞われる。
それも川添さんが着任した後に始まっている。
いつしか『新しい看護部長が何かを連れてきたのではないか』という疑いが噂された。
川添さんは、偶然だと思っていたが・・・・
そんなある日、病気を苦にした患者が病棟の屋上から投身自殺をした。
その患者が落ちた場所が川添さんの車の駐車スペースだったのだ。
この日は非番だったで被害はなかったが、出勤日であったら巻き込まれていた
可能性がある。
偶然だと思っていたことが、狙われているという悪意を感じたことで厄払いを受けた。
ごく普通の厄払いであったが、あれほど続いていた看護師長の不幸は、この日を
境にぱったりと止んだ。

加藤一

加藤一
「首輪」
いつもより少し早い時間に仕事が終わって、自転車で地元の道を走る。
逢魔ヶ時よりやや遅い、辺りが薄闇から深い闇に変わる時間帯。
自転車のペダルを漕いでいると、ライトに照らされた先を横切るものがいる・・・・
『うおっと!』
慌ててブレーキをかけて減速・・・・
そのライトの先を横切ったのは、赤い首の・・・・・いや・・・・首輪のみ。
首輪の主であるはずの生き物の姿はなく、ただ首輪だけが空中をツーーーっと
横切っていく。
首輪の横切った高さと首輪の大きさから言えば、おそらくは猫。
呆気に取られているうちに、首輪は自動販売機の隙間に潜り込んで横丁の路地裏に
消えた。

加藤一

加藤一
「どすんどすん」
ある夜、千葉氏が寝ていると、明け方近くに寝床から縦の衝撃が響く。
身体が弾むほどの強い衝撃が続く。
『な・・なんだ? 地震?』
千葉氏が瞼を開けると目の前に誰かの尻があった。
ベッドの縁に腰を下ろした誰かが、尻圧でマットレスを揺らしているのである。
寝ぼけ頭で真っ先に思い浮かんだのは奥さんであるが、奥さんは出産のため
実家に帰省中・・・
『何してんねん?』
誰かと問うより、ベッドを揺らすことを咎めた。
すると、尻を揺らしていた人物が尻の動きを止め、こちらに振り向いた。
『ごめんねぇ』
それは千葉氏の会社の後輩だった、三瓶さんという女性だった。
見慣れたニコニコ顔だが、どこか寂しそうな表情を浮かべている。
彼女は暫く前に会社を辞めているので、連絡先は知らないし、家を教えたこともない。
驚く千葉氏が声を掛けた瞬間に、彼女は消えた。
どうしたことかと首を捻りながら、翌朝、出社したところで謎が解けた。
『おい、千葉、三瓶さん亡くなったらしいで』
亡くなったのは今日の明け方だったそう。

加藤一

加藤一
「タメスケ」
夜、尿意で目が覚めた。
暗い廊下をひたひた歩いてトイレに入った。
トイレの明かりを点けたと同時に、窓の外からジャラジャラと鎖の音がした。
丁度、トイレの外側にタメスケの犬小屋があるのだ。
家族がトイレに起きるたびに目を覚ましてしまうのか、タメスケは自分を繋いだ
鎖をジャラジャラ鳴らして犬小屋の周りをうろうろする。
『いっぺん目を覚ますと夜中でも散歩連れて行けとか騒ぐんだよな、あいつ。
しょうがねぇな~・・・』
洗面所で洗った手をぷらぷら振りながら乾かして、勝手口に向かおうと・・・
そこで気付いた。
タメスケ。あいつ昨年に死んだんだ。
その後、1度だけ『ふわうっ!』というヘタレた鳴き声を聞いた。
確かにそれも長年聞き慣れたタメスケの一鳴きだった。

加藤一

加藤一
「遺託 位牌の遺言」
ネットラジオ放送から始まった怪異。
亡くなったお婆さんの霊から加藤一に委託された遺言の実行。
加藤一が選ばれて、お婆さんの意思を確認する。
今回の件を本に執筆することも許された・・・・

本当?っと思った方は是非読んでみてください。

加藤一

加藤一
「整備工場」
外車好きの小牧君の話。
3度の飯より車が好きで自らポルシェに乗っている小牧君は、好きが高じて
仕事も外車専門の整備工場勤務という、腕のいい修理工である。
持ち込まれる車は高級車や稀少車ばかり。
いつものように持ち込まれた車を整備していると、ガレージの入口に人影がある。
老人が周囲を見回し、整備工場の中を覗き込む。
客か、不届き者か、と思い小牧君は車の下から這い出た。
小牧君の姿を見ると、老人は両手を合わせ、拝むように擦り合わせた。
2~3度手を擦り合わせると、笑みを浮かべた。
その笑みは、侮りと憐みが入り混じったものだった。
それから数日後、整備工場で小火が出た。
整備中の車から漏れたオイルに引火したのだという。
預かっていた車には損傷があったものの、初期消火が早かったことから大事には
至らなかった。
しかし、当日はスパークが飛ぶような作業はしていなかった。
引火の原因になるものが何もない。
その工場は千日前の近所にあるが、仮店舗で近日中に移転するとのこと。

そんなわけで、大阪最強の心霊スポットとして名高い千日前の障りは、どうやら
21世紀の今も燻り続けているらしい。

加藤一

加藤一
「法事の晩」
幼かったエリさんが親戚の法事に出かけて行った家でのこと。
日が落ちた頃、縁側に寝そべって庭を眺めていると、庭の右手から何かが
転がってきた。
ごろんごろんごろんごろん・・・・・
大人の身の丈ほどある大きな丸いもの。
『なんだろう?』
よく見ると、それは大きな顔だった。
眉はなく、歯が黒く染められている・・・・
巨大な顔は、ごろんごろんと転がってエリさんの前を通り過ぎると
左手の暗闇の中へ消えていった。
後ろを向いたが大人は誰も気づいていないので、このまま黙っている
ことにした。

加藤一

加藤一
「セクハラ」
ある女性の体験。
会社帰り、突如、抱きつかれた。
『ひえ~』と声を上げると
『驚いた?』と聞き慣れた声。
取引先の男性だった。
『これって、セクハラですよ』と言うと
『ごめんごめん、急ぐからまたね!』
豪快に笑いながら去って行った。

翌日、同僚にその話をした。
すると、その取引先の男性は先月に亡くなっていた・・・・
『またね!』と言われたことを思い出し、セクハラより困る。

加藤一

加藤一
「2008年3月4日にメールで送られてきた話」
ある高校生の男子がアルバイトで叔父の仕事を手伝っていた。
昼も近くなったことから、叔父が昼飯をコンビニで買ってくると言う。
暇だった彼は、何気なく持っていた携帯電話でトラックの助手席周りを
撮影してみた。
撮影してみては映像を確認するということを何度かしていたのだが・・・
どうも最初に撮った映像にだけ、居るはずのない女性の顔が映っている。

問題の動画はこちら
 ←でダウンロードできない場合はこちら
18秒目と23~27秒目で映っているサイドミラーの右下に女性の顔が
映っている。
MP4ファイルなので、リアルプレイヤー等でご覧ください。

加藤一

加藤一
「家」
ある投稿者から、ある理由によって日本一強い神社のお守りを手に入れたいと
著者へ相談が入る。日本一強い神社の話は平山夢明氏が執筆したため
氏へ問い合わせるが、もう忘れてしまったとのことだった。
そこで『ある理由』というのを聞いてみると・・・・
学生時代の友人が結婚して、資産家である夫の実家へ入ってからというもの、不幸続き。
実家の税金滞納を肩代わりさせられた他、義理の兄の借金までも肩代わり・・・・
そして子供たちは原因不明の病気で入院してしまう始末。
友人自身は、立派な家と資産を子に継がせたいという一心で不幸にしがみついていた。
姑は姑で先祖を大事にしないばかりか、義理の母を死ぬまで小屋へ追いやっていた。
そのため、今の不幸は先祖霊のためではないかと思い、日本一のお守りを友人に
渡したかったとのこと。
一度、入院した友人の子供の見舞いに行くと
『おばさん、この病院お化けが出るの。でも、家よりはよっぽどまし』
その後、友人は夫と離婚して家を出た。
それから数年後、以前と変わらない友人と会って、安心したとのこと。


平山夢明

平山夢明
日記をそのまま本にしたという感じ。
筆者がいかに異常と巡り合っているかが浮き彫りになっている。
何時、死んでもおかしくないオーラの持ち主でありながら、御祓いを受けずに
なんとか生きている・・・・
それにしても、変な人が周囲にたくさんいるわいるわ・・・・

加藤一

加藤一
「壁紙」
こっくりさんソフトを使っていた人の話。
パソコンのマウスポインターが10円玉の役目を果たして
質問に答えてくれるという。
ある日、いつものように『お帰りください』と言うと
『いいえ』と答えが出て帰ってくれない。
何度やっても『いいえ』と出るので、無理やり『はい』へ
動かしてお帰りいただいた。
『ふ~』と安心のため息をつくと、メールが来ていることに
気が付いた。
『あれ?』自分からメールなんておかしいな~と思いながら
開封すると『かってにかえすな』・・・・
それ以来、ソフトも削除して、壁紙も削除したが、時々
マウスポインターが勝手に動くという。
でも、パソコンを買い換える余裕はないらしい・・・

加藤一

加藤一
「甘味」
彼氏と八王子城址へ肝試しへ行った女性の体験。
その帰り道、彼氏とファミレスへ寄るとたまらなく
甘い物が食べたくなった。
ダイエット中なので必死に我慢・・・。
その夜、着物を着たたくさんの女性が世話をして
くれる夢を見たが、お饅頭をすすめられた時は
夢の中なのに必死で我慢した。
目覚めると、甘い物がたまらなく食べたくなり
我慢できずにファミレスでデザートを3品平らげた。
帰宅後、寝込んでしまった夢の中で・・・
たくさんの着物を着た女性が喜んでいた。
『ありがとうございました』
『おいしかった』と涙を流していた・・・・。

加藤一

加藤一
「てんぷら」
台所で母が夕飯の支度をしていた。
その日の晩ご飯はてんぷらだった。
『あー!!』
母が大声を出した。
『ジュ!!』ひときわ大きな音。
火傷でもいたのかと思い、台所へ駆け込む。
<ピチピチピチピチピチ>
何かが勢い良く足元を通過して行く。
それは、台所を抜け、居間に入り狂ったように暴れる。
やがて、それは動かなくなった。
父が帰り、油にまみれた『それ』を摘み上げると
まぎれもなく、こんがり揚がった海老の天ぷらだった。

加藤一

加藤一
「ならばよし」
ある夫婦が新居へ越したばかりのこと。
ベッドの代わりに、キャンプ用のエアーマットを敷いていた。
そのマットに二人でゴロンと横になった時に子供の頃の話になった。
『ねーねー、私ね、小さい頃、お化けが見える子だったんだよ』
『へえー、そうなんだ。この部屋に居そうかい?』
『う~ん、ちょっとわからないな』
すると夫が悪戯っぽく、天井へ向かって言った。
『おい!もし、ここに幽霊がいるなら今すぐ出て行け!』
軽いジョークのつもりで言ったのだが、部屋中の灯りが一斉に消えた。
夫は色を失ったが、妻の前で怯えた姿は見せられないと思ったのか・・・
『よ、よし。じゃあ、邪魔しないと約束するなら、居てもいい』
すると、部屋中の灯りが点灯した。
この部屋で3年ほど暮らしたらしいが、いろいろなことがあったとのこと。
『邪魔しない約束』はあまり守られなかったと。

加藤一

加藤一

「喋る」
自分の彼氏とアレをいたしていると、彼氏の一物が浮気を喋ると言う・・・。
彼氏の一物を口にしていると・・・・
"ケイコの方が上手だったな" とか "ヨウコは裏まで舐めてくれた" とか・・・
"昨日はケイコと3回した" 彼氏の声ではない声が話し出すのだとか。
腹が立ってきたので、舐めるのを止めて
『あんた、昨日、何してた?』と彼氏に言うと
『パチンコ、遊んでた』とか言い訳をしている間も彼氏のアレは喋る・・・
"ケイコとした。口に1回、後ろで1回、中に1回・・・・"
『そうやって嘘つかれると、すごくムカつくんだよね。ケイコって女とやったでしょ。
口に1回、後ろに1回、しかも中出しまでしてさ』
彼氏は顔面蒼白・・・
前の彼氏の時も同じだったが、ただ体だけの関係の男の一物は喋らないとのこと。

加藤一
「弩」怖い話(2)
加藤一
「橋の下の借家」
修子と二郎が結婚して、初めて住んだのが橋の下の借家だった。
住んで1年もしないうちに、たびたび橋からの身投げ自殺があり、遺体に慣れてしまったほど。
そんなある日、修子の幼馴染の和一が尋ねてくる。
二郎とは初対面だったが、お互いに気持ちよく酒を飲んだ。
二郎は寝てしまったが、和一は泊まることを遠慮してナナハンで帰って行った・・・・
しばらくすると、ドンドンと戸が叩かれ、再び和一が現れた。
『修ちゃん、ごめんよ』と言うと、ナナハンを乗って帰って行ったが・・・・
不思議とバイクの音がしなかった。
次の日、駐在がやってきて和一が行方不明になっていることを告げた。
そして、橋の下から和一と思われる胴体が見つかったが、首が見つからない。
その日から和一が暗い部屋に毎晩、出て来るようになった。
『修ちゃん、ごめんよ』
しだいに、昼夜問わずに修子の前に現れるようになって
『修ちゃん、ごめんよ』というと消える。
修子は、首が見つかれば出てこなくなると思い、警察が何度も捜した場所へ行った。
こんな場所にあるわけない、と思いながら草を掻き分けると、和一がいた。
綺麗な顔で、まるで生きているようだ。
すぐさま、駐在に知らせに走った。戻ってみると、首は綺麗ではなかった。
首が見つかり、葬儀が済むと和一は出なくなったが・・・・
夫の二郎が毎晩、うなされるようになった。
「ゆるしてくれー、ゆるしてくれー」 誰に許しを請うているのかは、わからずじまいだった。

加藤一

加藤一
「いたずらをした」
大学生の小林と高校生のカオリは家庭教師と生徒という隠れ蓑で、付き合っていた。
しかも、高校生の彼女を既に食っていた。
しかし、貧乏学生の小林にホテルに入る金などないことから、もっぱら二人はお外で
いたすことが多かった。
しばらくは、森林公園の駐車場の車中でいたしていたが、それに代わる場所を探していた。
それを見つけたのはカオリだった。
『センセ、いい場所見つけたよ』
それは稲荷神社だった。木に囲まれ、宮司も不在なことから昼間でも使える。
さっそく、神社へ足を踏み入れ、お社の中で日が傾くまで楽しんだ。
『もう、そろそ帰らないといけない時間だろう』
二人は下着を身に着けたり、洋服のしわを延ばしたりした。
送っていくと言う小林の申し出を断り、カオリは帰っていった。
次の日からカオリは無意識のうちに下半身を露出させて手で弄ぶようになった。
小林がたまたま通った公園で、カオリが下半身を露出させているのを発見して
無理やり引っ張ってきた。
『ねえ、神社でしよ?』 カオリは指の動きを止めない。
その時、小林の携帯電話がなった。母親からだった。
『いますぐ、山本の伯母さんのところへ行け。彼女も一緒にな』
タクシーを拾って、山本の伯母さんの家に着くなり、一喝された。
『あなたたち、もういったい何をやっているの!』
いきなり怒鳴られ、事情を飲み込めないでいると・・・・
『お稲荷さんでエッチなこと、してたでしょ? わかるのよ、バカやってると』
伯母はカオリの背中を数珠でさすりながら、小林を睨みつけた。
カオリに狐が憑いてしまったということらしい。
神社でアオカンはタブーなんだとか。

樋口明雄

樋口明雄
「雪女」
雪山で仲間に見捨てられて死を待つばかりの
彼の前に姿を見せたのが真っ白い雪女。
雪女は、彼を助け、彼を見捨てた5人を殺すと言う。
彼が目覚めた時に聞いた話は、彼を見捨てた5人の死。
普通、雪山で亡くなる場合は安らかな死顔が多いが
5人の死顔は、何かの恐怖に襲われた直後になくなった
ような感じだという・・・


加藤一

加藤一
「自慢の心霊写真」
里帰りをした時に行った墓参りで取った写真。
心霊写真ということで『あなたのしらない世界』へ応募。
見事、番組で採用され、出演していた霊能者には
『たいへんに良い写真』と太鼓判を押されたので大事に保管していた。
数年後、霊能力のある人に、その写真を見せようとすると
写真の入った封筒を見せただけで、『恐ろしい』と言いながら
帰ってしまったという話。

松村進吉

松村進吉
「穴で待つ」
数年前、千葉氏の父親が亡くなった時の話だという。
葬儀自体はつつがなく終り、四十九日も過ぎた。
これまで家に置いてあったお骨を、先祖代々の墓へ納めなければならない。
法要を済ませると、親戚らと墓へ向かった。
墓を洗い、水を替えて、花と線香を供えた。
次に墓の蓋を千葉氏の弟が開け、そこに陶器の骨壷を納めようとした。
その時、千葉氏と弟だけが墓の中にいる母親の顔を見ることになる。
千葉氏は驚く弟を押しのけると、素早く父親の骨壷で母親の顔を隠して
蓋を閉めた。
『・・・親父は母を、若い時からずっと苦労させてきて。丁度今の僕くらいの
年に、母は先に亡くなってしまったんです』
・・・・あれだけ苦しめたんだから、恨んでないとも言い切れないでしょうな、とも
言っていた。
どんな苦労をかけていたのかは、千葉氏が話したくないようだった。

深澤夜

深澤夜
「神様」
個人タクシー運転手の杉本さんの話。
ある日、ホームレスの男を乗せた。
『普段なら絶対に乗せないんですが、その時は見過ごしてはいけない気がして』
船橋まで行って、車内に臭いが残ってしまったので、その日の営業は終了。
車を洗車に回した。
次の日、老紳士が乗車拒否を繰り返されていた。
見れば、ズボンのお尻の部分が膨らんでいる・・・脱糞だ。
杉本さんは車を前に停めると・・・『いいですよ』と言って乗せた。
その日も車内に臭いが残り、営業はそれで終了。車を洗車に回した。
しかし、洗車から戻って来た初日から運が向いて来た。
ほとんど無駄に流すことがないくらいにお客が拾えた。
1ヶ月の売り上げが100万を超え、150万を超えた。

他のタクシー運転手が乗車拒否をするようなお客を乗せた後には、売り上げが上がる。
そのため、そういうお客を『神様』と思っているとのこと。
鬼窟

渡部正和

渡部正和
「超」怖い話 鬼窟 渡部正和 竹書房怪談文庫
「イチゴ」
静子さん夫婦は念願であった中古の一戸建てを購入した。
それを機に、長年の夢であった猫を飼うことにした。
友人の薦めで、保護施設へ行ってみた。
そして、彼女は一匹の黒猫に心を奪われた。
その黒猫は生後五ケ月程度の女の子で、殺処分間際に保健所より救い出されたらしく、やけに人懐っこい。
だたし、風邪が悪化して片眼を患ってしまい、避妊手術と同時にその片眼も摘出していた。
『でもそんなの関係ないんです。もう主人もメロメロになっちゃって。ウチの初めての猫はこの子だって』
黒猫はイチゴと名づけられて、静子さん夫婦の一人娘になった。
最初に異変に気付いたのは旦那さんであった。
『イチゴを可愛がっていると、変な泣き声が聞こえるって言うんですよ。ええ、まるで女性の嗚咽のような』
無論、家には夫婦と猫しか住んでいないので、そのような声が聞こえるはずがない。
『ううん、おかしいね、なんて言ってたら・・・・ワタシ、見ちゃったんですよ』
深夜、トイレに起きた彼女は、寝室のクッションで寝ているイチゴを見つけた。
大音量でゴロゴロと喉を鳴らし、とても気持ち良さそうであった。
『・・・・ん? ん?』
イチゴの喉元を女性の手と思われるものが愛おしそうに撫でている。
思わず悲鳴を上げそうになった時、イチゴの上半身に大きな瓜のようなものが浮かんできた。
それは次第に形を為していき、女の生首へと変わっていったのだ。
薄っぺらい唇の周辺には擦り傷が幾つもできており、赤黒く異彩を放っている。
『ご・・・・め・・・・ん・・・・ね・・・・ご・・・・め・・・・ん・・・・』
生首はそう言うと、いきなり静子さんの目前まで、すぅ~っと移動した。
余りの状況に微動だにできずにいると、その生首はペコリと頭を下げた。
『よ・・・・ろ・・・・し・・・・お・・・・ね・・・・が・・・・い・・・・し・・・・ま・・・・す』
弱々しい声でそう懇願すると、哀しげな嗚咽とともにすぅと消えてしまった。
『恐らく、前の飼い主だったんでしょう。とにかく、この子は幸せにならなければいけないんです。ええ、絶対』
どんな理由で手放したのか、どんな理由で逝ってしまったのかは最早、分かりようがないが、恐らく
さぞや無念であったのだろう。
『ウチは大丈夫ですよ。何があっても幸せにしますから!』
最近遊びに飢えているイチゴに、弟か妹がいたらどうだろうか、と夫婦で話し合っているとのことである。

渡部正和

渡部正和
「超」怖い話 隠鬼 渡部正和 竹書房文庫
「フラッシュバック」
中秋らしく爽やかな風が心地よい、祝日の早朝であった。
石田さんは日課であるジョギングをしながら、いつもの大通りの交差点を北に向かう。
歩行者信号が青になるまで、その場で足踏みし続ける。
もうじき信号が変わりそうなタイミングで、急に頭の中が真っ白になってしまった。
何が起きたのか全然分からずに足踏みをやめた途端、妙に鮮明な画像が脳裏に浮かんで来た。
まるで写真のような静止画が、次から次へと繰り出される。
その中で、自分はなぜか車のハンドルを握っている。
目の前で怯えた表情をしている小さな男の子の視線が、確実にこちらを見つめている。
自分の運転している車が、その男の子に向かって接近して行く。
男の子は逃げようと身体を斜めに捩るが、どう考えても間に合わない。
そして、車を通して感じる、衝突の際に生じた強烈な振動。

どうやら他のジョギング仲間でも、同様の目に遭ってしまってコースを変えた人が数人いたらしい。
『それで気になったんで、皆で近くの交番に行ったんですよ』
あそこで事故か何かあったんじゃないかと、お巡りさんに訊ねた。
『ああ、あそこですか? 最近、そういう質問多いんですよ』
結局、実際に事故があったかどうかは今でもわからない。

渡部正和

渡部正和
「超」怖い話 鬼門 渡部正和 竹書房文庫
「外道」
台風接近の真夜中、幾重にも積み重ねられたテトラポットの上で、谷中さんは数本の竿から釣り糸を垂れていた。
周りには 『いせえび採捕禁止!』 『密猟は犯罪行為です!』 の看板があるが、彼には何の効果もなかった。
突然一本の竿先が弾むような動きを見せてから、一気に折れ曲がった。
『よっし! きたっ!』
彼は急いで竿を掴み上げると、軽く合わせて鉤掛りを確認してからリールを巻き始めた。
釣り上がってきたのはヒトデであった。
谷中さんは舌打ちをしながら、鉤を外そうとヘッドライトでヒトデを照らした。
それは、皮膚がざくざくに切り裂かれた手首から先の人間の掌だった。
思いっきり悲鳴を上げた谷中さんだったが、その悲鳴に反応したのか小刻みに震えた掌は、下部に掛かった釣り鉤を
器用に外すとテトラポットの上を素早く這って海の中へと消えていった。
そして、次は三本の竿先が同時に跳ね上がり、海中へ向かって曲がりはじめた。
今後こそ海老に違いない。谷中さんは適当に一本を選ぶと、リールを巻いた。
しかし、獲物が大き過ぎてテトラポットの隙間に挟まっているようで釣りあげることができない。
谷中さんはLEDライトでテトラポットの隙間を照らした。
『あ!』
彼は即座に釣り糸をハサミで切ると、その場から立ち去った。
LEDライトが照らしたものは 『しゃれこうべ』 だったとのこと。

渡部正和

渡部正和
「釣行夜話 其之壱」
小雪舞う師走の防波堤で、藤本さんは釣りを始めようとしていた。
魚を釣りすぎて塗装の剥げ落ちたルアーをラインにしっかり結び付けると、彼はやや
遠目のポイントを凝視した。
そして、竿をしならせて投げようとした瞬間、彼の動きが止まった。
目の前の海面に、Tシャツに麦わら帽子姿の中年男が浮かんでいるではないか。
波の高低も関係なく、その身体は微動だにしない。
上半身だけ海面に出しながら、防波堤と平行に『すーっと』移動し始める。
その男がそのままテトラポットを通り抜けていったことを横目で確認すると
彼は即座に撤退の準備を始めた。

久田樹生

久田樹生
「約束」
中学校からの親友 笹野が死んだ。
彼は長い間病気を患っていた。
『先に死んだ方が化けて出る』
『後から死ぬ方は、先に死んだ奴に会いに行く』
これが二人の約束だった。
彼が亡くなって二週間目。
目の前に見たこともない光の球が浮いている。
笹野の名を呼ぶ、あの世はあるのか?と問いかけると頷くように上下に揺れた。
球は、その後細かい粒になり、四方八方へ飛び散ると消えた。
その球を見て以来、何かと死にかけている。
道路を渡る時にこちらに向かってくる車を見落とす、駅構内で線路の方向へ勝手に
足が進んでいたり・・・・同僚に止められなかったら線路に落ちていただろう。
また、いろいろな人からこんなことを言われた。
死にたい、死にたいとため息混じりに独り言を漏らす・・・・
自分には全く覚えがない。
『まさか、笹野が・・・・』 と考える度にその想像を打ち消す。
親友である、だから、まだ、信じたい・・・・。

久田樹生

久田樹生
「煙の向こうから」
冬の早朝、社用車で日帰り出張に出かけたときのこと。
高速道路に乗り、走行車線を走る。
開けた景色の中に、赤と白の縞模様に塗られた煙突が見えた。
煙突からは白い煙が垂直に立ち上がっている。
風もないなら、ハンドルを取られる心配はないだとうとアクセルを踏みかけた。
視界の端、煙突の煙がぐにゃりと歪んだ。
目だけをそちらに向ける。
上下に伸びる途中から、ぱっと断ち切れていることがはっきりと解る。
まるで、そこだけを掻き消したようだ。
ややあって、運転席側の窓が音を立てた。
それは一秒も経たない内に轟音に変わった。
車体を横から押された状態になり、ハンドルを取られる。
壁のある路肩へ吸い寄せられるように近づく。
減速とハンドリングで何とか制御し、走行車線に戻りかけると
後方から突き刺してくるようなクラクションの音が鳴り響き、右車線から
スポーツセダンが追い越して行った。
手の震えが止まらず、全身に汗をかいていたので、近くのパーキングエリアに入り
駐車スペースに車を停めて、外に出た。
車を見ると、運転席側のドアミラーは外側に倒れている。
加えてドアに放射状の汚れが付いていた。白い車体にうっすらと黒い色が広がっている。
殆ど全体を覆うほどの広範囲であり、よく見るとガラスにまで広がっていた。
その正体も衝撃の原因も不明だった。

久田樹生

久田樹生
「その時」
サツキさんの家近くに驚くほど美味しい和菓子を売っている店がある。
そこの豆大福に家族全員で舌堤を打っているときだった。
お祖母さんがぽつりともらした。
『---ああ、ここの和菓子ね。そのうち不味くなるよ』
理由を訊くと
『だって、店主がそのうち死ぬもの』
皆が怪訝な顔をしていると更に続けた。
『今は良い味だが、ある時にもの凄く菓子の味が落ちる。それから僅かな間を置いて
店の主人が死んでしまうからね』
昔から不思議なことばかりいう人だが、今回は特に理解不能。

しかし、確かにその通りになった。
ある日、その店から買ってきた練り切りが生臭く、吐き気を催すような味になった。
直後、店主が亡くなった。
ひとつ言えば、練り切りが不味いと感じたのは、お祖母さんとサツキさんだけだった。

久田樹生

久田樹生
「可哀相」
彼女の娘は生まれた時から持病を持っていた。
長くは生きられないと、宣告すらされていた。
それでも諦めず、病院のベッドで寝たきりの娘に愛情を注いだ。
その横で義母は泣いた。
『可哀相 可哀相。代われるものなら、お祖母ちゃんが代わってあげる』
数ヶ月、義母は亡くなった。
朝起きてこないとと思ったら、心臓が止まっていた。
娘の症状はほんの少し改善された。
ただ、時々真夜中に娘が泣く。
『いたい くるしい いたい くるしい』
そしてこちらを睨みつけ、叫ぶ。
『かわるなんて、いわなければよかった。おまえが しねば よかったんだ』
そして、いつもこの言葉で終わる。
『かわいそう かわいそう わたしは かわいそうだ』
娘が七歳という短い生涯を閉じた後、彼女は夫と別れた。
旧姓に戻り、もう結婚することも、子供を産むこともしないと決めている。

久田樹生

久田樹生
「東北より」
タクシー運転手に従事している運転手が言う。
『夜は海岸付近でお客様を乗せません』
乗せたらいつの間にか消えている、という話ではない。
客を乗せ、目的の場所まで行けば帰りはひとりになる。
そういう時に限って、海岸線の近くを通ることになってしまうことが多い。
そんなとき、空のはずの後部座席に沢山の人影が見えるのだ。
『だから、夜、海岸近くではお客様を乗せないんです』
何故、影たちがタクシーに乗るのかは分からない。

久田樹生

久田樹生
「2・9」
『ワーン・・・・トゥー・・・・』
カウントが聞こえる・・・全身を押さえつけられた感覚・・・・
思い切り跳ね起き、ファティングポーズを取る・・・
『あ・・・』  ああ~、夢か・・・
リアルな夢だった・・・肩口には痛みまであった。
元プロレス研究会所属ならではの夢・・・そう苦笑していると携帯がなった。
康成君の親友で、彼の永遠のライバルの死を知らせる電話だった。

葬儀の時、ご家族がこんな話をしていた。
『あの子、息を引き取る前にこんなことを言ったんです。』
・・・・康成ィー カウント 2・9だったなぁ~・・・・
その死に顔は笑っていたという。

久田樹生

久田樹生
「幼き頃」
小学3年生の時。
その日、小さい頃から虚弱体質だった彼女は、朝から喉が痛かった。
『喉が腫れ始めているのね。病院へ行きましょう』
母が行きつけの病院へ連れて行ってくれた。
なかなか、名前を呼ばれないまま待っていると、熱が上がったのか
周りの景色がぐらんぐらんと揺れだした。
そして、子供が走り回って騒ぐ声・・・・
さっきまで待ち合い室内を見ていたが、子供なんていなかったはずと不思議に思う。
名前が呼ばれ、診察室に入ろうと歩きだすと、後ろから子供のはしゃぐ声が響いた。
『病院なのに、子供が煩いわね』
母が非難の声を上げたが、声は白い壁の中から聞こえていた。

久田樹生

久田樹生
「幸運のシャープペンシル」
このシャープペンシルで試験を受けると必ず合格する・・・・・
学生時代によくあるジンクス。
何の変哲も無い200円ほどで市販されているシャープペンシルが体験者の女性の
ラッキーアイテムだった。
しかし、社会人になってからはラッキーアイテムの存在自体を忘れていた。
ある日、必要に迫られ自分の部屋の片づけをすることになった。
部屋が片付くと押入れの中のカンの箱が目に入った。
彼女の宝物を仕舞った箱だと思い出し、1番のお気に入りだったシャープペンシルを
手に持った。
すると、勝手に手が動き・・・・
『みつもり AR101 すうじ だめ』
『AR101』は彼女が勤務する会社で扱う製品の製品番号だった。
まさかと思ったが、月曜日の出勤時間を30分早くして見直した。
見積書の個数が違った・・・・このまま出していたら大損をするところだった。
それからは度々、シャープペンシルに助けられた。
『じゅちゅうしょ みなおし』 『でんしゃ いっぽん まえ ずらせ』
でも、結婚が決まった日、シャープペンシルが姿を消した・・・・

久田樹生

久田樹生
「第九スタジオ」
ベッドで眠るシーンを撮影しようとしている。
演じるのは少女、彼女が撮影直前に起き上がった。
天井の通路(キャットウォーク)に人が歩いていたとのこと。
撮影を中断し、全員が上を向くが誰も居ない・・・・

アクションシーンを引き受ける体育会系の人たちがスタジオ脇で深夜の酒盛り。
ふと見ると、仮眠室入り口まえに見知らぬ女性が立っている。
『誰だ、お前は』 『いっしょに飲むか?』と声を掛けたが、仮眠室の方向へ行ってしまった。
誰かが見に行ってみると、そこには誰も居なかったとのこと。
仮眠室は入り口も出口も1ヵ所しかないので、居ないはずはないのだが・・・

久田樹生

久田樹生
著者が偶然に知り合った、お爺さんの旅先での体験。
ある路線バスに乗っている時のこと。
隣の席に、母と息子と思われる親子連れが座っていた。
「おばあちゃん、喜んでくれるかな~」
これから祖母の家に行くのかな、と思いながら見ていると
子供が降車ブザーを押した。
二人は次の停留所で降りていった・・・・
すると、バスの運転手が「お降りの方は誰もいませんか?」とアナウンスしている。
『今、親子が降りて行ったろうに』と思い隣の席を見てみると、降りて行ったはずの
親子が座っている・・・・
そして、お爺さんがバスを降りるまで、それは繰り返された・・・・

久田樹生

久田樹生
「ぶぅらぶら」
キャンプ場を目指して車を走らせていたが、なかなか目的地に
たどり着けない。
それどころか、だんだんと道幅が狭くなって来た。
イライラしながら、前方のカーブミラーを見ると托鉢僧が
ミラーの下に立っている。
道幅が狭いので十分にスピードを落としてからすれ違う。
ふと見ると、托鉢僧の腰の辺りに大きいヘチマがぶら下がって見えた。
再度バックミラーで確認すると、ヘチマと見えたのは尻尾で
今、まさに尻尾が『ぐい~ん』と上を向いたところだった。

松村進吉

松村進吉
「ショベルヘッド」
バイク好きが集まる集会所みたいな場所があった。
仲間内では最年長で、バイクいじりに関しては自信があり
若い連中の指導したり、説教じみた話もするKさんの体験。
ある日、若い後輩が、ハーレーのビンテージモデルである
『ショベルヘッド』に乗ってやってきた。
『なんで、そんなバイクに乗っているんだ?』の問いに
『先輩に譲ってもらった』。
ふと、Kさんがショベルヘッドを見て大声で
『誰か、奴を止めろ』と言ったが、若い後輩は行ってしまった。
しばらくすると『ドーン』と大砲のような音。
数百メートル先でショベルヘッドが大破していた。
乗っていた彼は、木材を積んだトレーラーの隙間に挟まり
絶命していることは明らかだった。

この事故の前に、Kさんは何を見たのか・・・
若い彼が乗ってきた『ショベルヘッド』は、エンジンからプラグは
抜けているし、エンジンのボルトは絞まってないし・・・
全く動くはずのない死んだ『ショベルヘッド』だった。

つのだじろう

つのだじろう
「あの時の子犬が・・・」
小学1年生の時の女の子の体験。
犬が欲しくて、欲しくて、何回も両親に頼んでみても・・・
『あなたには世話ができないから、ダメ』の一点張りだった。
ある日、それなら神様に頼んでみようと思い立ち、その日の晩からお願いをした。
何日か経過したある日、いつものようにお願いの言葉を口にしていると
目の前の布団が膨らんで犬の形になり、中から子犬が飛び出してきた。
その日から、彼女が寝る頃になると子犬が現れ、朝には消えていた。
それに、子犬は鳴かなかったので両親にも気づかれなかった。
彼女は子犬にピーポという名を付けた。
ところが、ある晩からピーポが来なくなった。
心配したためか、彼女は熱を出して寝込んでしまう。
彼女が寝込んで4日めの朝
『今晩、おとうさんがお友達の家から子犬をもらって来てくれるって』とお母さん。
でも、彼女はピーポのことで頭がいっぱい。
その晩のこと、おとうさんが帰って来ると子犬が彼女の元へ飛びついて来た。
『ピーポ、ピーポだ』
と騒ぐ彼女を見た、おとうさんが
『何で名前を知っているんだ?』
つのだじろう

つのだじろう
「夢の中で」
高校生の女の子の体験。
いつのころからか、夢に10歳くらいの女の子が出て来るようになった。
山の中と思われる場所で、赤いセーターを着た女の子に『危ないよ』と言われる。
夢はそれだけのものだったが、見たこともない少女だった。
その年の夏休みに部活の合宿で、長野県の山村へ行った。
2日目の夜に、また少女の夢を見た。
『弘子、行っちゃだめ!弘子、危ない』
今までは『危ない』だけだったが、今度は自分の名が呼ばれた。
10歳の少女から呼び捨てで呼ばれたことは、何の違和感もなかった。
翌日、山の中を歩いていた彼女は、道を踏み外て川へ転落してしまった。
全く泳げない彼女は、沈んで行くだけの自分をどうすることも出来なかった。
『弘子!手を』
夢の少女の声だった。それに水中でかすかに見えた赤いセーター。
先生、先輩の話によると、彼女は大きな岩の上で横たわっているところを発見された。
自宅に帰り、母に出来事を話すと・・・・
彼女の合宿で行った場所は母の故郷であり、彼女の溺れた場所はなんと
母の妹が溺れ死んだ場所だった。
『赤いセーターが好きな子だった』と言いながら、1枚の白黒写真を見せられた。
そこには、『弘子』と彼女を呼んだ少女の姿があった。

平谷美樹
岡本美月

平谷美樹
岡本美月
「おみくじ」
サラリーマンのササキさんは守護霊の加護を信じている。
身の回りの出来事を守護霊からのサインと受け止め、良い知らせがあれば喜び
悪い知らせがあれば、それを回避できるように気をつける。
そうやって過ごしていた、2014年の秋のこと。
たまたま参拝した神社で、彼はおみくじを引いた。
結果は 『凶』。 『旅には出るな』 とある。
そのアドバイスを素直に受け、友人から誘われていた登山の誘いを断った。
ササキさんが行かないのならと、友人も登山計画自体を中止にした。
ふたりが行くはずだった登山の予定日は 9月27日 行き先は 御嶽山。
こうして、ササキさんと友人は、あの噴火から免れたのだった。

平谷美樹

平谷美樹
「検診車」
ある小学校に教師への胃部検診のための検診車が来ていた。
体験者は自分の順番になったので車に入った。
そこには、同僚の教師と隣の中学校の教師がいた。
隣の中学校の教師は確か入院をしていたはず・・・
『もう1回検査をするんです』つぶやくように中学教師は言った。
『バリウム検査は1回だけですよ』と同僚教師。
レントゲン技師は、中学教師を無視するように言われているのか全くの無視。
バリウム検査が終わると体験者は車の外に出た。
すると、先ほどの中学教師と同じ学校の教師がいたので声を掛けた。
『〇〇先生、中にいましたよ』
『え?そんなはずはない。だって今日か明日かって・・・・』
『今日か明日って?』
『胃癌なんです』
声を掛けられた教師は青ざめた顔でその場をあとにした。

平谷美樹

平谷美樹
「ペット墓園」
怪談倶楽部の会員の方の体験。
この方はペットが大好きで、好きだからこそペットの霊を見てしまうとのこと。
この日は、仕事の打ち合わせに向かった途中でペット墓園に遭遇してしまった。
いつもなら遠回りをして避けて通るのだが、この日は打ち合わせまでの時間が
少なかったため、まむなく直進した。
薄暮から夕闇へと移り変わる時間帯、ペットの墓と思われる石碑の前には
お座りをした犬、遠くを見ている犬、猫や墓石の周りを走り回るフェレットの姿も
あった。
彼らは、飼い主を待って、待って、待って、墓石に縛り付けられてしまっている。
体験者の飼った犬は、土地が広かったので庭の隅に埋葬したことから
霊となっても寂しがることはなかったと言う・・・・・
大切な家族なら、亡くなった後も忘れないように自宅に埋葬してあげて欲しい・・・

平谷美樹

平谷美樹
「クイズ番組の電話」
あるローカルテレビ局の生放送中のアナウンサーの体験。
そのアナウンサーが担当している番組は、情報バラエティで番組の最後には
クイズのコーナーがあって、正解するとスポンサーから賞品が出るというもの。
ただ、ファクス送信されてきた中から無作為に出演者を選ぶため、時には小さい
子供が回答者になることがあった。
そんな時はアナウンサーが上手に答えを導く、それも人気の秘訣だったのでしょう。
その日は8歳の女の子からの応募で電話をかけた。
電話に出たのは弟だという男の子。
「おねえちゃんはいない」との答えだが、女の子の声が度々電話口から聞こえる。
クイズの問題を出して、正解となり、賞品を送ることになった。
番組終了後、先方の母親に電話が繋がり、委細を説明すると・・・・
8歳の女の子は二ヶ月に亡くなっていた。
番組は、娘からのファクス応募用紙をくださいとの母親の要望に応えようと探したが
ファクス応募用紙が見つかることはなかったとのこと。

つまみ枝豆

つまみ枝豆
「エド山口さんの体験した話」
夕方の時間帯に軽井沢の峠を車で走っていると、小さい女の子が1人で歩いてるのを
見かけた。かわいそうに思ったエドさんは車に乗せたそう。
聞けば、その女の子は麓の自分の家まで歩いて帰る途中だったとのこと。
しばらく行くと『ここでいい』と言って、女の子は車を降りていった。
女の子を降ろして車を発進させたが、ピンク色のポーチを忘れていったことに気づき
女の子の降りた場所へ引き返した。
家はあるが、人がいなかったりで女の子の家がわからない・・・しばらく歩くと葬式を
している家に出くわした。
参列者に、小さい女の子がいる家を尋ねると変な答えが返ってくるので、小さい女の子の
ポーチを届けに来た旨を説明した。すると、怪訝な顔で奥へ入っていってしまった。
しばらくすると、30代の男性でその家の主人らしい人が出てきた。
そのポーチは確かに娘の物で、お棺の中に入れてあげようと探していたとのこと。
娘は2日前に亡くなっているので、ポーチを入れてもらおうと見ず知らずの方にお願い
したのでしょうと言われた。焼香に行くと、まさしく車に乗せた女の子が額の中にいた。

エド山口さんは、女の子が頼んだくらいですから優しい方なのでしょうね。

つまみ枝豆

つまみ枝豆
「東名高速を走るワンボックスカーからブラリブラリと人間の足が・・・」
深夜、東名高速道路を奥様と走っている時の体験。
車は少なく、周りで走っている車はワンボックスカーだけだった。
インターから入り、スピードを上げていくと白いワンボックスカーに追いついた。
その白いワンボックスカーがフワフワと安定しない走りをしていたので
一気に追い越すことにした。
追い越し車線へ出て、そのワンボックスカーの横に並ぶと、後輪の間から足が
出ている。
マネキンの足には見えないので、奥様に観てもらうと「何もない」とのこと。
これは霊の類だと思い、更にスピードを上げて走り去ろうとすると
今度は前輪から顔が突き出していた。
運転手を一瞬だけ見たが、暗いので普通は見えない運転手の顔が、ライトに
照らされた様にはっきり見えたとのこと。
「アパートの窓に女の顔が」
学生時代に住んでいたアパートで体験した男性の怪異。
友人数人が遊びに来て、酒盛りをして床に就いたがどうも眠れない・・・
しばらくすると、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。
『隣は帰省していないはずだから、女性が部屋にいるわけがない』と思うが
聞こえてくる声が気になった男性は、すすり泣きが聞こえる場所へ起き出して行った。
声は窓の向こう側から聞こえる・・・・
カーテンを開けると、そこにはすすり泣く女の顔があった。
ここは2階、何の足場もない場所に人が立てるわけがない。
『あわわわ~』訳のわからない悲鳴で起こされた友人たちも女の姿を目撃した。
『電気を点けろ』の声に気づいた誰かが電気を点けると、女の姿は消えた・・・

朝倉三心

朝倉三心

朝倉三心

朝倉三心
心霊ショック2 朝倉三心 竹書房文庫

ブルックリンの魔女たち
儀式の終わりに高僧は、愛のシンボルとして位の高い魔女の足、性器、乳房、口へ口づけする。
男性の高僧は魔女の性器に、繁栄の儀式の一貫として聖油を塗り、洗礼をする。

朝倉三心
朝倉三心
事故で亡くなった使用人が幽霊となって現れ、椅子に座ったところを撮影したもの

北野誠

北野誠

北野誠

北野誠

北野誠

北野誠

オレンジの色は霊が怒っていると稲川淳二さんが言っていたと・・・

北野誠

北野誠
「犬神祓い 賢見神社へ」
西浦和也の知り合いのA君のつきあっている彼女が犬神の一族であるということ。
その彼女と北野誠、西浦和也が合わないようで、特に西浦和也は命に関わるほどの
大病をしてしまった。
北野誠も身に覚えのない痣が足にできたし、A君が来ると不思議な事が起きたりする。
もう、お祓いに行かないと本当にまずい。
もう『犬神』の話は終わりにするべく、四国へ飛んだ。
しかし、行くと決めたものの、神社までの道が大変なことになった。
爆弾低気圧が抜けて快晴のはずが、強風に加え雹が降る始末。
そして、カーナビまでも全く違う道を案内して、神社に辿りつけない。
賢見神社へ辿りついたのは、お祓いの約束の時間を1時間以上も過ぎてのこと。
それでも、お祓いは無事終了した。
終わってから神官さんと話をすると、北野誠の痣は犬神の世界ではよくあること
なんだと説明された。
『あと、柔らかい、こういう所を噛まれます』
そう言って示した場所は太ももの内側。
そこは、西浦和也が入院するはめになった人喰いバクテリアにやられた場所・・・・

北野誠

北野誠
「トーテムの家」
東京オリンピックの前後くらいに近畿の高級住宅街で殺人事件があった。
それから十年が経過、更地になった土地を値が安いからと、ある男が買った。
瑕疵物件であることは承知の上で購入、それから間もなく新居が建った。
男はそこに住み始めたが、一カ月のうち家で過ごす日は十日ほど。
ある日、男の家の庭に数メートルはあろうという、トーテムポールが立った。
それから、およそ十年、魔よけとしての任務を果たし続けた。
しかし、昭和の終り頃、トーテムポールの袂で男は死んでいた。
トーテムポールの力も及ばなかったと噂が流れた。
男の死因は心臓麻痺で、変死として処理された。
そして、土地は更地になり、また次の家が建った。
現在、この場所は高級住宅街の上、駅前の一等地であるにも関わらず、駐車場に
なっている。

地主家主が転々とした揚句に、人の住まない物件-----駐車場にされてしまう
元事故物件は少なくない。

北野誠

北野誠
「トンネル」
トゥナイト2という深夜番組で神奈川県の小坪トンネルへロケに行ったときのこと。
O興行の子の体験の順番で、ワンボックスのロケ車と乗用車を走らせた。
行きは出ない、帰りで出る そんな気がしたんだとか。
帰りのトンネルを通り過ぎる手前でロケ車の天井が鳴った。
『ぼーん』
トンネルを抜けた先でロケ車と乗用車が止まり、北野誠と池〇氏が車を降りると
今の今までロケ車に乗っていただろう白い衣のような物が飛び出し、トンネル内へと
飛んで消えた。
それは北野誠も池〇氏も目撃したとのこと。

林家三平

林家三平
「間違えた幽霊」
ある夏の夜、ボクの友人が文京区の炭団坂をひとりで歩いていた時のこと。
突然、後ろから背中を パシッ と叩かれて
『しっかりしろよ!』
男の声で言われたそうです。
振り返っても誰もいない・・・・
炭団坂を歩いているのは自分ひとりだけだった。
確かに背中を叩かれた感触はあるし、しっかりと男の声も聞こえた。
首をかしげながら、歩き出した。
5~6歩歩いたところで
『ヨシノブ、父さんは見ているぞ!』
再度、同じ声が聞こえ、また背中を パシッ と叩かれた。
これは人違いだと解り、頭にきた彼はここぞとばかりに怒鳴り散らした。
『俺はヨシノブじゃないし、親父も生きているよ!」
その後の彼は、声を掛けられることも、背中を叩かれることもなかったそうです。

池田貴族

池田貴族

池田貴族

池田貴族
「テレビ電波にのらなかった恐怖の映像」
絶壁の東尋坊からタレントの島崎俊郎さんが飛び込むテレビ企画。
『たけしの元気が出るテレビ』でのワンシーン。
結局、島崎さんは飛び込めずに終わったのですが・・・
実は、その撮影後の映像のチェックをしていたディレクターは、島崎さんが
飛び込めなかった海面の映像を見て、そのシーンをお蔵入りにさせた。
そのシーンには、海面より空に向かって無数の伸びる手が映っていた。
「飼い主とペットの生と死を超えた絆」
ガンが再発し、肝臓に転移したとの診断を受けた65歳の女性が自分のアパートへ
帰る途中で見つけた捨てられた子猫。
その猫を飼うつもりで連れて帰った。彼女には身寄りがなく、一人暮らし。
猫にユキちゃんという名をつけて、ユキちゃんが彼女の話し相手になった。
それから、しばらく経った定期検査の結果の日、医者からガンの進行が止まっている
ことを知らされる。ユキちゃんのお陰だ、密かに彼女はそう思う。
しかし、そのユキちゃんが白血病にかかっていた。
日に日に衰弱していくユキちゃんを看病していたが、ある日冷たくなってしまった。
そして、ユキちゃんを墓に埋葬すると、彼女の容態も悪化、何とか自力で病院へ
たどり着くことが出来たが、そのまま入院ということになった。
入院して数日経った深夜、病室の中から『ニャ~』という声が聞こえて来た。
『ユキちゃんかい?』と声をかけると『ニャ~』という返事。
彼女が点滴をしていない方の手をベッドから下に下げると、忘れもしないユキちゃんの
毛並みの良い感触が・・・。とても幸せな気分になった彼女は再び眠りに落ちた。
翌朝、彼女が目覚めると、脈を計りに来た看護師がいた。
彼女のかけていた毛布に猫の足跡があることから、すぐに取り替えるという・・・。
昨晩のことは夢ではなかった『ユキちゃん、ありがとう』と思いながら、もう一度
ガンと戦うことを決心した。
「おばあちゃんの病室に来た人」
体験者が看護師として勤務する病院に、近所の知り合いのおばあさんが入院してきた。
検査の結果、悪性の胃ガンだった。
何日か過ぎた、ある日から
「夜になると死んだおじいさんが来るの。私も長くないのかしら」と言うようになった。
そして、さらに悪化し、おばあさんは自力で呼吸できない状態になっていた。
夜勤の深夜、おばあさんの個室の前を通ると中から人の話す声が聞こえる・・・
おばあさんの言っていたことを思い出し、おじいさんかしら?と思いながら
病室のドアを開けるが中は闇。病室の電気を点けて見たが、誰もいなかった。
そして、いよいよという日。夜勤明け後も私服に着替えて付き添った。
・・・・夕刻。
ちょっと寝てしまって目を覚ますと、窓際に、初老の男性と手を繋いだ
おばあさんが立っていた。
夢でも見ているのかと思ったが、ベッドにはおばあさんが寝ている・・・・
そして、二人が夕日に解け込むように消えたとき、心拍数モニターが横線になった。

中岡俊哉

中岡俊哉

結城瞳

結城瞳
「夜中に見た幽霊部屋」
千葉県 28歳 会社員の体験。
初めての出張で訪れた地方でのこと。
先輩社員と2人で、2日間の仕事を終えて帰路につこうとしたが、運悪く列車は不通
連休とも重なり、その日の泊まる宿が見つからない。
地元タクシーに聞いて、ようやく1軒の宿を紹介してもらった。
夜も遅く、そのまま寝るしかなかった。
深夜トイレに起きると、隣の部屋で5人の男が楽しそうに酒を飲んでいる。
こんな夜中に迷惑なと思ったが、声が全く聞こえない。
不思議なこともあるものだと思ったが、翌朝のことを考えて、そのまま寝た。
翌朝、宿の主人に聞いてみたが、彼らの隣の部屋に宿泊客はいないという。
狐につままれたような気分で、タクシーに乗ったところで先輩に夕べの話をした。
『寝ぼけていたんだろう』と先輩は相手にしてくれなかったが
それを聞いていたタクシー運転手が・・・
『それ、本当の話ですよ。あの宿、出るんですよ』と手を前にたらした。
以前にガス事故があり、何人かの泊まり客が死んだそう。それ以来、出るようになったとのこと。
「豹変したツアー客。その影に恐怖の体験が」
仕切りたがる客が、急に元気を無くした。
添乗員はやりやすくなったのですが、試しに訳を聞いてみると・・・
夜中に目が覚めてしまったので温泉へ行ったとのこと。
大浴場の隣には、従業員専用の控え室があった。
その部屋から、宴会中と思われるような大きな声とコップを置く音が聞こえた。
風呂から出て来ても同じ・・・
お客の通る場所で、なおかつ深夜にバカ騒ぎをしている従業員に腹が立ったので
注意してやろうと、その部屋の暖簾を上げて中をのぞき込んでみると・・・
なんと中に居たのは猫、猫、猫、猫、猫だらけ。
しかも、エレベーターのドアが開いたかと思ったら猫の団体で、従業員控え室へ
続々と入室して行く。
化け猫だったのでしょうかね~
「事故で死んだ女性がお礼にきた」
タクシーを流していたら、横転している車を発見。
単独事故のようだと見ていたら、運転していたという
女性がやって来て2人が車内で怪我をしていることを訴えてきた。
携帯電話もなかった時代なので、近くの交番へ女性を連れて通報に行った。
警官に事情を説明し終えると、運転していた女性がいないことに気づいた。

現場に戻ってタクシードライバーが見たものは、即死したと聞かされた
運転していた女性。まさに、彼が乗せた女性だった。
その後タクシーに戻ると、女性が後部座席に現れ
お礼を言って消えたそうです。

並木伸一郎

並木伸一郎
本当にあった怪奇報道写真ファイル 並木伸一郞 竹書房

並木伸一郎

並木伸一郎

すすり泣きが鳴り響き、フスマに女性の頭部が浮かび上がった

三木孝祐

三木孝祐
「未明の国道16号線にヌード幽霊が出没する」
千葉県の国道16号線 金野井大橋でヌード幽霊が
出没するという。
ただし、いつもヌードというわけではなく、パンティと
ブラジャー姿もあれば、白い服を身に付けている時もある。
年齢は19~20歳くらいに見えるというから
男なら一見の価値はありそうだ。

上原尚子

上原尚子
短い話を、やたら長く引っ張って書いた感が
強くて好きになれません。

「僕に似ているアイツ」
数年後、または十数年後の自分に遭ってしまう
という人の話。

永田よしのり

永田よしのり
ザ・テレビジョン文庫
「最新!映画であった本当に怖い話」

「撮影所であった本当に怖い話を再編成
加筆・新取材した作品を加えた作品とのこと。

市販されているDVDでも、恐怖映像が
見られるというものがあり。
細かく見れば、もっと探し出せるかもです。
実録!呪われた心霊体験
雪道、事故が起こりそうになると先導してくれる軽トラックの幽霊の話。
その場所では、吹雪で視界が悪くなった軽トラックが
反対車線へ飛び出して大型トラックと正面衝突するという
死亡事故が起きていた。

それ以来、吹雪で事故が起こりそうになると先導して
くれる軽トラックの幽霊
が出没しているとのこと。
助けられた人は、思わず両手を合わせるそう・・・

元田隆晴

元田隆晴
「女子高生の死 携帯電話の不可解な通話記録」
午前2時23分に交通事故に遭い、即死したはずの女子高生が大学生の
恋人と3時9分まで携帯電話で通話していたという。

元田医師がその女子高生が乗った救急車を迎え入れたのが3時00分。
その後、3時43分に死亡診定をするまで彼女を見ていた。
事故後、恋人だと名乗る大学生が病院にやってきて、確かに3時9分まで
彼女と携帯電話で話していたと言う。
ただ、後半の通話での彼女の言葉は意味不明だったとのこと。
『別れないで』『ひとりぼっちはいや』『きれいね。お花畑』『あ、おばあちゃんだ』
最後に『あ、お医者さんが来た。ありがう。楽しかった』と言って切れた。

このことに疑問を抱いた元田医師は、警察へ事件性を調べるためにと言う理由で
彼女の通話記録を調べてもらった。
すると、確かに彼女の携帯電話は彼の自宅の電話へ2時10分から3時9分まで
通話中だった・・・・

元田隆晴

元田隆晴
「霊感体質の患者 病室の鏡に映った白髪の老婆」
病室で過去に死亡した患者がたくさん見えると苦情を言う入院患者。

彼女が別の病室へ行くと、今度は「とても言えません、怖くて・・・」。
なんとか聞き出すと、毎晩、鏡に血を吐いた老婆が映るという・・・
しかし、その病室で過去に亡くなった患者の遺物(入れ歯)が見つかると
苦情はなくなった。

元田隆晴
病怨
元田隆晴
「心停止」
心筋梗塞の発作で運び込まれてきた女性は
心停止。緊急手術の甲斐あって、再び心臓が
動き始めた。
その女性は自分の手術を、医師、看護師と
同じところから見ていたと言う・・・

元田隆晴

元田隆晴
「謎の女祈祷師」
脳幹部出血で、病院に運び込まれてきた患者の相談役と
いう女性。患者の病状が悪化すると苦行で助けるという。
二度の危機状態から脱した患者が峠を超えた後に
彼女と顔を合わせると、襟足から見える肌に、痣や傷が
多数あった・・・。
その患者は無事に回復して、後遺症もなく退院していったが
苦行の内容は、ついに教えてくれなかった・・・

元田隆晴

元田隆晴
「最後のラブレター」
亡くなった入院患者から届いたラブレター。
それは、現在の元田医師の原点となる内容でした。
現代社会に無くなってしまったような、他人への
『思いやりの心』をしみじみと感じる話です。
一読の価値あり。

元田隆晴

元田隆晴
「高速道路」
学会で九州へ行ったときのこと・・・交通事故に遭遇。
事故に遭った人の応急処置をしようとすると、1人の医師が
今しがた応急処置をしてくれたと言う・・・そして、次の医師が
来ると言って、その場を去って行ったとのこと。
後日、事故を扱った警官に、事故に遭ったご夫婦から聞いた
1人めの医師の特徴を話すと、事故現場から数百メートルの
場所に住む医師であることが判明。
ただし、3ヶ月前に亡くなっているという・・・

宗優子

宗優子

宗優子

宗優子

○の中に顔があります

久瑠璃魎

久瑠璃魎
「幽霊団地で見たものは」
優子さんは10年ぶりの中学校の同窓会で霊感のある友人と二次会へ行った。
その帰り道を間違えて、いつしか人のまばらな住宅街へと迷い込んでしまった。
そこで二人は、繁華街へと続くと思われる団地の中を通って行くことにした。
突然、霊感のある友人がピタっと歩みを止めて、一点を凝視した。
彼女の視線の先に目を向けると・・・・
『ひ~~!』 優子は1度も霊など見たことがなかった。
そこには仰向けの男が宙に浮いていた。
『ごめんなさい。私には力がないの』
霊感のある友人の声が傍らから聞こえると、男は闇へ消えていった。
『さあ、行くわよ』
友人は優子の手を取ると、繁華街へ向かって走り出した。
その間にも、数十もの人影が二人を追いかけるようにやって来る・・・・
『見ちゃダメ。前を向いて!』
二人が明るい場所まで来ると、もう人影は消えていた。
『ごめんね。私のせいで怖い思いをさせてしまって・・・・。優ちゃんにも見えたのね』
優子は中学校時代、彼女の霊感が羨ましかった。
しかし、この体験以来、羨ましいと思うことは二度となかった。

稲川淳二

稲川淳二
「稲川淳二の怪談冬フェス~幽宴~」がさる2018年11月24日羽田空港国際線ターミナル内にある
「ティアットスカイホール」で開催。
イベントの目玉として最も怖い怪談語りを決める「怪談最恐戦」最終決戦が繰り広げられた。
その地方予選大会を含む、最恐戦での熱い戦いとなった怪談を纏めて掲載。
あわせて、最高顧問稲川淳二の初期の傑作「さまよう人形」と、怪談最恐戦<投稿部門›として公募した
【最恐戦マンスリーコンテスト】より優秀作を収録した一冊。

稲川淳二

稲川淳二
昭和57年に温泉番組の収録で訪れた旅館で体験する恐怖。
その恐怖を再現したのが、テレビドラマ『迎えが来ない』。
平成3年に『迎えが来ない』の撮影がスタート。
撮影の合間に、更なる恐怖体験が!
更なる恐怖体験を再現したのが、平成12年に出したビデオ『恐怖劇場2』。
体験内容は、あまりに多いので本の中でじっくり体験してください。

稲川淳二

稲川淳二
「蓼科高原での不思議な出来事」
稲川淳二が蓼科高原のペンションへ事務所の人たちと
遊びに行ってた時のこと。
稲川淳二だけ大阪の仕事があり、事務所の若い男性に
茅野駅まで送ってもらった。
車から降りた後、車を見送っていると男性は若い女性と
待ち合わせをしていたようで、2人の女性が車に乗って
楽しく話してペンション方面へと去って行った。
数日後、その若い男性と顔を合わせたので冷やかしてやった。
『うまいこと、呼び込みやがって~』
彼は照れながら、頭をかいた。
『で、どっちなんだい?。おまえの彼女は?』
『助手席に座っていましたよ』不思議そうに彼が答える。
『いや後ろにもう一人、前の座席へ首を伸ばして話していた
女の子が乗っていただろ?』
『いえ、二人だけでした』・・・・・

数日後、『わかりました、わかりました』って彼がやってきた。
実は、当日は彼女ともう一人来る予定だったのだが
途中で事故に巻き込まれて亡くなっていたとのこと。

稲川淳二

稲川淳二
「引越しした後、部屋に落ちている謎のもの、いったい誰がこの部屋にいるのか」
東北の国立大学に通う男性が借りたアパートでのこと。
ある日、長い髪の毛を見つける。
女性を部屋に招いたこともないのに、おかしいなぁ~と思いながら捨てる。
すると、今度は友人から
『おまえの部屋に女性がいるのを見たぞ。彼女が出来たらなら紹介しろよ』
と言われた。彼女どころか、女性の知り合いもいないのに・・・。
ある日、窓ガラスに小さい手の跡があることを発見。
それは窓の内側から、女性の手の大きさの跡だった。
気持ちが悪いので、お札を部屋の中に貼った。
その後、しばらくは何もなく過ごしたが、ある晩、突如、それはやってきた。
真っ暗な中「ずず~」「ずず~」と畳を引きずる音が近づいてきたと思ったら
長い髪の毛が顔にかかった。仰向けに寝ていたので、どうも真上にいるようだ。
動こうにも動けない。
じーっと耐えていると、突然気配が消えた。体も自由になった。
急いで蛍光灯を点けると、部屋中のお札が剥がされて一箇所に丸めてあった。
彼は一目散に友人のアパートへ逃げ込んだ。
そして、荷物を取りに行くのにも同行してもらった。
荷物を取って帰りに寄ったラーメン屋で聞いていたら、彼の部屋は有名な
幽霊が出るという部屋だった・・・

稲川淳二

稲川淳二
「身の毛もよだつとは、こういう話を言うのでしょうねぇ」
ある女子高校生6人で旅行へ行くことになった。
そして、6人の中のA子の彼氏が現地で落ち合うことになっていた。
当日、列車を乗り継いで目的地の駅まで到着。
あとは、貸別荘までローカルバス。6人はバスに乗った。
バスの中は彼女たちしか客がおらず、ワイワイと楽しく騒いでいた。
突然、 ドーーーン!!
A子の目の前は真っ暗になったが、すぐに先ほどの風景が目に映る。
やがてバスは貸別荘へ到着。
荷物を運び入れて一段落すると、友人の一人とA子さんがお風呂へ。
そこで友人はA子さんに、彼氏が死んだことを説明するが、A子さんは信じない。
すると今度は、ドアをドンドン叩く音と共に彼の声が聞こえてきた。
『A子、ここを開けてくれ』
しかし他の5人は、口を揃えて
『ドアを開けたらA子が死の世界へ連れて行かれるよ」』
迷いに迷って、A子はドアを開けた・・・・
目の前が真っ白になったと思ったら体中が痛み出して、だんだ周りが見えて来た。
自分だけが座席に引っかかってる。
運転手も友人も、車両の前側に衝突して血だらけで誰も動かない。
次にA子さんが目覚めたのは病院のベッドの上。
実は、バスはトラックと接触して崖から落ちて運転手も友人5人も即死。
A子さんの彼氏もオートバイで事故に巻き込まれて即死。
友人たち5人はA子さんを道連れにしたかったのでしょうが、彼氏1人がA子さんを
生還させようとしたのでしょうね。

稲川淳二

稲川淳二
「杉山~、ありがとうな。ありがとうな!杉山ぁ!」名優は泣きながら叫んだ

10年間、マネージャーをやっていた杉山さんが入院中のある早朝の3時。
『おはようございます。4時きっかりにお迎えに上がります』と電話が入った。
声は聞き覚えのある杉山さんの声・・・
そこへ、今度は現マネージャーから電話が入った。
『おはようございます。4時30分にお迎えに上がります』
話を聞くと、電話をかけてきたのは今のが本日初めてで、杉山さんが
3時ころ病院で亡くなったとのこと。
それを聞いた途端、杉山さんが4時にあの世へ迎えにくると思って
怖くなった。
そして4時、杉山さんの霊とおぼしき気配が部屋に入ってきたときは
恐怖の絶頂。
しかし、部屋から出て行く時には『ただ単にあいさつへ来た』とわかり
『杉山~、ありがとうな。ありがとうな!杉山ぁ!』と出て行く気配に
泣きながら叫んでいたということです。


稲川淳二

稲川淳二
『怨念』というのはあるんだと思わせる事件がある・・・
あの大スターだった田宮二郎。
猟銃で自殺しちゃいましたよね。
田宮二郎が住んでいた土地の前の持ち主はドイツ人だったが
この人も猟銃で自殺して死んでるんだ。
そして、その前の持ち主はオランダ人で、すぐ下の川で
原因不明の死を遂げている。
原因として、田宮二郎宅の隣にお寺があって、そのお寺の
釣り鐘堂が田宮二郎宅のすぐ下にある。
その昔の戦国時代、合戦の手柄の申請に殺した相手の
手首を切って、上役へ届けた。
その届けられた手首を葬った場所が釣り鐘堂なんだ。


稲川淳二

稲川淳二
「お寺に泊まった銀行員」
ある関西にお住まいの銀行員の方からうかがった話だそう。
お寺のお賽銭を集金する担当の時期があって
正月明け早々に、あるお寺へ仕事で伺った。
その日のうちにお金が数え終わらないことと翌日も打ち合わせが
あったことから、その日はお寺に泊まらせてもらった。
深夜、目が覚めると大勢の人が話す声がする、しかもうるさい。
なんとか寝ようとするが、うるさくて寝られない。
しかたなく、こんな夜中に何を騒いでいるのか見に行くことにした。
騒がしいのは本堂のようで、
足音を忍ばせて本堂へ向かった。
『まけて~な~」
『い~や、これ以上は一銭もまけられまへん』
なんか、値引き交渉やってるな~と思いながら、本堂の戸をわずかに
開けてみたが誰も見えない・・・。
そこで、中が見えるほど戸を開けてみると・・・・
そこには彼が集めた賽銭を入れた袋が3つあるだけだった。
住職に話すと
『賽銭にこもった人々の執念や執着が話をさせたのだろう』と言ったとか。

稲川淳二

稲川淳二
「葬式の仕出し屋さんの話」
ある葬式の仕出し屋さんでパートで働く女性の話。
その日は、翌日の予約もなく、暇で早く帰ろうかな~と思っていると
店の裏口に真っ青な顔した男性が立っている。
よくあることらしいのですが、何度見ても気持ち悪い。
だって、生きている人ではないのだから・・・
裏口に生きていない人が立つと、必ず予約が入る。
その時も、案の定、予約の電話が葬儀屋から入った。
『○○町の○○さん、今亡くなったから、明日いつものやつで
 寿司○人前 てんぷら○人前・・・・予算は○○で』

稲川淳二

稲川淳二

本の中では「群馬県」と紹介されていますが、埼玉県熊谷市の交差点。
事故多発地帯であるとともに、霊の目撃も多い場所。
国道17号と国道407号線が交わる交差点。
国道407号線は、他の場所でも霊の目撃情報が多い道路となっている。

稲川淳二

稲川淳二
「死ぬほど怖い幸せな男の話」
自分の先祖を研究している祖父から聞いた先祖の名前。
これをメールアドレスに使い始めた途端、女にはモテモテ、給料は上がる。
さらには、自分の知らない叔父の遺産が転がり込む。
今が幸せ過ぎて、死ぬほど怖いという話・・・・

稲川淳二

稲川淳二
「学園祭の夜」
ある方の大学1年生のときの体験。
学園祭の時に、しこたまアルコールを飲んだあげくに
急性アルコール中毒で病院へ運ばれた・・・
病院に運ばれたことは記憶に残っていた。
深夜、ふっと目が覚めた。
すると、カーテンで仕切られた向こうで人の気配がする。
誰か付き添ってくれたのかと思い『すまないなぁ~』と声をかけた。
返ってきた答えは『行こうや』。
どこに行こうというのか・・・・
その声をよ~く思い出したら、高校3年に死んだ親友の声だった。
『お前、誰だ』
『俺だよ』
カーテンから手が出てきた・・・そのまま、朝まで気絶していたそうです。

稲川淳二

稲川淳二
北側の扉が鳴る」
稲川淳二のおばあさんが亡くなった時の話。
生前、おばあさんが言っていたことが、次々と現実のものとなる。
『人が亡くなると北側の扉がなる』・・・・かなり大きな音がしていたとのこと。
『人が亡くなると、生けた花がポキっと折れる』・・・・おばあさんが生けた花が
折れていたそうです。
『身内の人が亡くなると位牌が倒れる』・・・・『バタン』と大きな音がしたので
仏壇を開けてみると、地震でもないのに位牌が倒れていたとのこと。
おばあさんの言葉通り、かなり大きな音だったとか。

稲川淳二

稲川淳二
「鹿の面」
ある時、その旅館に家族連れのお客さんが来た。
お父さんとお母さん、それに小さなお子さんがいて、三人兄弟。
シーズンオフに来て近くの湖で釣りをするつもりだった。
着いてすぐ、お父さんは一人で釣りに出かけた。
お母さんは部屋で寝ていた。
子供たちは旅館の中を走り回っていて、鹿の顔の剥製を見つけた。
上のお兄ちゃんが弟たちにいいとこ見せようと、刀のおもちゃで
鹿の顔を叩いたり、鹿の鼻を切っ先で刺したりした。
すると、鹿の剥製が落ちたので怖くなった3人は母の元へ走った。
ただならぬ様子に訳を聞くと、母は子供たちを怒った。

その夜・・・
夕飯の時間になっても、お父さんが帰ってこない。
すると『警察から電話です。ご主人が、ご主人が・・・』
お母さんが電話に出ると、お父さんが湖に落ちて溺死。
警察は当初、誤って湖に落ちたと思っていたのですが
現場検証の結果、鹿の足跡があったそう。
どうやら、不意に背後から鹿が現れて、それに驚いて足を
滑らせて湖に落ちたらしい・・・・

沢村有希
謎の雇われ店主、如月翔太郎が営むレトロモダンな喫茶店『摩楼館』。
そこに足繁く通う一人の男がいた。
怪談と珈琲と旨い物をこよなく愛するフリーライター、一条明である。
摩楼館には怪を呼び寄せる何かがあるらしい。
訪れる客はなにがしか怖い話を口にする。
今日も如月と一条、二人が集えばおのずと空恐ろしい話が始まる・・・・・。
摩楼館のオーナー鳴海翁も登場し、とっておきの実話怪談を披露する。
著者が自ら取材し集めてきた戦慄の実録怪談・・・・
実際にあった事件、或いは社会的な問題に関係した恐怖体験談や不思議な怪異・・・・・を
摩楼館を舞台としたひとつの物語の中に散りばめた異色の実話ホラー。
小説という虚構の中で語られる究極・極上の実話怪談をどうぞ。

八樹輝虎
不思議 幕の内弁当 八樹輝虎 文芸社
「ザシキワラシ」
私の母は、A市にある旅館で仲居をしていたことがある。
その旅館ではザシキワラシが出るとの噂があった。
他の仲居さんの中にはザシキワラシを見たことがあるという人もいたが、母はまだ
見たことがなかった。

ある日、子連れの夫婦が泊まりに来た。
お子さんたち三人は元気にロビーを走り回っている。
『まあ、お子さんが三人も。元気でいいですねェ』
と母が言うと、その夫婦から。
『え? 二人ですよ』
と言われたという。

東出美千恵
人々は何を求めに来るのか?
今から十六年前の一九八五年に開業して以来、わたしの元を訪れる相談者の数は、優に五千人を超えています。
その中には、実に深刻な問題を抱える人たちもいました。
たとえば、医者から見放されるほど重い心身の病気や原因不明の疾患、何も悪いことをしていないのに度重なる
不幸に見舞われるなど、枚挙にいとまがありません。
いったいなぜ、このような問題が人々に襲いかかるのでしょう?
これはカウンセリング経験の積み重ねによって明らかになったことですが、本人の落ち度のみならず、本人を
取りまくさまざまな状況が強く影響しているのです。
もちろん、現在の本人に原因がある場合もあります。
ところが、本人は非常に真面目で誠実な努力家なのに、その努力が報われずにどうしても物事がうまくいかない
ケースがあります。
こういう場合は、人間の力ではどうすることもできません。
そこでわたしの背後にいる神々が、私の身体を通じて、相談者たちの『治療』を行います。
もちろん、一般の人たちには『彼ら』の姿は見えません。
しかし、その雰囲気を察知することはできます。
身体がフワッと温かくなったり、人によってはあまりに状態がひどいため、治療中に具合が悪くなることもありますが
最終的には人々の問題は解決します。
『彼ら』の力添えによって、病気は完治し、トラブルの源を完全に取り除くことが出来るのです。

猿田悠

猿田悠
恐い話怖い話 猿田悠 文芸社
「こっくりさん」
敬子さんが小学生の時、自宅で友人とコックリさんをすることになった。
『コックリさん、コックリさん、おいでください』
すると、突然、指を乗せている十円玉が動き出した。
『 の み も の 』
供え物が必要なのかと思い、水を入れたコップを供えた。
『私は、いつ結婚しますか?』 敬子さんが質問した。
『 5 ね ん ご  た べ も の 』
一時間もすると、質問することが尽きた。
『じゃあ、最後の質問ね。私がおばあちゃんになって、いつごろ死にますか?』
敬子さんの質問に対して、答えが出ません。
何か、供え物が必要なのかと思い再度、質問しました。
『コックリさん 何が欲しいですか?』
すると、十円玉がゆっくりと動き出しました。
『 お ま え の い の ち 』

国沢一誠

国沢一誠
「見つからない」
終電で帰って来た男が、線路脇で何かを探している女性を見かけた。
哀しそうに泣きながら、草むらにうずくまる女性に男は声を掛けた。
『何が見つからないのですか? 一緒に探しますよ』
女性はゆっくりと振り返り
『私の・・・・足が・・・・見つからない』
見れば、女性の額はぱっくりと割れて血が吹き出ていた。

その場所で電車に飛び込み、自殺した女の霊が、今も自分の足を探している。

稲川淳二

稲川淳二
「北国の病院の怪」
札幌のスキー場で右足を単純骨折をして市内の病院に
入院していた女性の体験。
入院1日めの深夜に看護婦と思われる足音が頻繁に聞こえてきて
あまり眠れなかったので、朝の回診で医師や看護師に聞いてみた。
しかし、昨晩の2階は何事もなく看護師が廊下を走るような事は
なかったとのこと。
そして4日めの深夜に、ついに正体を見てしまう・・・
2人部屋を1人で使用していた、もう一つの空きのベッドの間仕切りに
看護師と患者と思われるシルエットが写る。
『どうしよう、どうしよう、私のミスで死なせてしまうなんて・・・』
この場から逃げなくてはいけないと、ベッドから這い出ると
患者の老人と看護師の視線は自分へ向けられていた。
そのまま気を失い、朝助けられた。
その病室では看護師の点滴ミスにより患者が死亡
看護師は自殺を遂げていたことがわかり、その日、強引に退院した。
山口敏太郎
山口敏太郎

上の画像は会津・滝沢本陣で撮影した物だそうです。
左端に赤い帯が映り込んでいるとのこと。
「埼玉県東松山市 森林公園」
森林公園では子供の霊が目撃されるという。
画像の左下に異常に小さい顔の霊が映っているが
この子の霊なのだろうか・・・・


平野威馬雄

平野威馬雄
「新幹線の幽霊」
昭和39年10月1日、新幹線開通以後、小坂井トンネル内で頻繁に
青白い男の幽霊が運転士の間で目撃された。
そして、食堂車のウエイトレスの中にも、窓に映る男の顔を目撃した
人は多い。
また、それを裏付けるかのように、小坂井トンネルを受け持つ線路区では
男の幽霊は有名な話となっていた。
特に、小雨が降る日は必ず出るのだという。

池田貴族

池田貴族
「運転中のジェットコースターのレールの上に人が・・・」
ジェットコースターが走って行く先に、レールの上を
歩く人の姿が写っています。
下の画像参照

稲川淳二

稲川淳二
「ミステリーナイトツアー会場にて」
その名の通り、怪談話のライブをしている最中に起きたことなんです。
ちょうど、その時は『北海道の花嫁』の話をしていたときなんですが
会場がざわついたんです。そして左肩が重くなったのを感じた。
でも、話は最後まで続けたのです・・・
ライブ終了後、仕事関係の人で霊感のある人なんですが楽屋に
訪ねてくれたんです。
その方が、左肩に女の人が来ていたと・・・・
また、会場で作為的に動かしていた光とは別に、小さい光の塊が左右を
行きかい、漂っていたとのことでした。
こういうハプリングは時々あるんです。
それを、期待しているところもあるんです。


「お婆さんの忘れ物」
稲川淳二の知り合いの大工さんが、夜、自分の軽トラックを運転していると
雨が降り出した。
へッドライトを点けていたが前方が見づらい。
と、急に人影らしきものが道路に飛び出してきた。
大工さんは何とか避けて、車を止めた。
見ると、お婆さんが片手をついて座り込んでいる。
車を降りていくと・・・
『すみませんねぇ』とお婆さんが言った。
『家まで送るから車に乗って』
お婆さんんを車に乗せると、言われるままに運転して家に送り届けた。
車を発進させると『カタカタ』と音がする。
見れば助手席に風呂敷包みが置いてある。
お婆さんが忘れたと思い、今さっき、お婆さんが入って行った家に向かった。
呼んでもダメでドアを叩いていたら、隣の家の奥さんが出てきた。
事情を説明すると・・・・
その家にはお婆さんが1人で住んでいたが、1ヶ月前に県道で
轢き逃げ事故に遭い、亡くなっているとのこと。
その場所は、まさに大工さんがお婆さんを乗せた場所。
風呂敷包みを開けると、真新しい位牌が入っていた・・・

3日後、同僚に車で送ってもらう時にお婆さんの霊体験を話すと・・・・
突然、同僚がガタガタと震えだし、ひき逃げ事故を起こしたのは自分だと
白状することとなった。

中岡俊哉

中岡俊哉
私は、今回、語り部となって現実に起こった怖い話を書き上げてみた。
本書で紹介する五十話は、すべて私自身が収拾したもので、現実に起こった出来事ばかりである。
執筆の最中に寒気を覚え、ふと背後を振り返ってみるといったことは再三あった。
なかでも、呪いや祟りを受けた出来事の取材ノートを操るときには、当事者のように恐怖が
こみあげてくることもある。
恨みとか怨霊といったものをまったく信じない人もいるかもしれない。
しかし、実際に体験してしまった人は間違いなく存在し、いまだ苦しんでいる例もあるのだ。

中岡俊哉

中岡俊哉
小学校から中学、高校、専門学校、大学にいたるまで、どの学校にも代々語りつながれてきた
『恐怖の噂話』はあるものです。
そして、その噂話は、単なる噂にとどまることなく、現在でも、多くの教師、父兄、生徒たしによって
『本当の霊現象』であることが実証されています。
これは、そうした、本当にあった『学校の怪談なのです。

中岡俊哉

中岡俊哉
伊東かずえさんの体験
「死んだ少年ライダーが肩の上に」
『かずえちゃんのお母さん、霊感が強いんだって?』
そう言って、同僚たちはよく伊東さんのお母さんのことを噂にした。
3年ほど前の夏のこと。
スタッフの運転する車で帰宅する途中、車にはねられたオートバイが前輪をぐちゃぐちゃにして
ガードレールに刺さっていた。
『これじゃ、助からないだろう』
スタッフの言葉を聞いた途端、とても見る気になれなくて、顔を両手で覆いながら事故現場を
通り過ぎた。
じばらくすると、後方からものすごいスピードのオートバイがやってきて一瞬のうちに
追い越して行った。
そして、オートバイのテールランプは皆の見ている前で消えてしまった・・・・
その時、スタッフが不意に言った。
『ねぇ、さっきのオートバイが抜いて行った時、エンジンの音って聞こえた?』
車の窓は開いていたので、エンジン音が聞こえないはずはない。
帰宅すると、お母さんが彼女に言った。
『かずえ、あんた、またしょって来たね。肩の上に男の子がいるよ』

害虫駆除業者がとある家の屋根裏を撮影したら男の子の霊が写った
「当て逃げ犯を探す赤い軽自動車の亡霊」
投稿者の家族で旅行へ行った時のこと。
父親が運転する車に乗り込んで、高速道路を走行中に・・・・
『なんだ、あの車、やけに飛ばしているな』
バックミラーを見ながらの父親の独り言に、後部座席の二人が後ろを見た。
一台の赤い軽自動車が何度も追い越しをかけながら、グングン近付いてくる。
そして、追いつくとスピードを緩めて併走しはじめた。
車の窓からは若い女が血を滴らせた目でこちらを覗き込むように見ながら
何事か、叫んでいる。
それは頭の中に直接響くに声で・・・
『こいつじゃない、こいつじゃない』
赤い軽自動車は、再度スピードを上げると前の車を追いかけて行った。
落ち着きのなくなった父親は最も近いサービスエリアに入り、警備員に目にした
光景を話した。
『また、出ましたか・・・・』
赤い軽自動車は、数年前に白い車にあおられてハンドル操作を誤って事故死した
女性3人が乗っていた車で、今も捕まっていない犯人を捜しているとのこと。

山岸和彦

山岸和彦
幽霊を見た! 山岸和彦編著 二見書房
「トンネルの中の白い手」
私は中学生の時、自転車が大好きでした。
あれは、中学二年の六月だったと思います。梅雨の晴れ間に水戸街道を走ろうと思いました。
北へ向かって走っていたのですが、柏を過ぎたあたりで横道に入ってしまったようでした。
迷った挙句、水戸街道まで戻ることにしました。
しばらく行くと、道は長い下り坂になり、自転車の速度はぐんぐん上がっていきました。
その先にトンネルが見えてきたのですが、異変はトンネルに入ってすぐに起こりました。
急にガクンと失速してしまったのです。目で見てわかるほどの下り坂なのに、ペダルが重い。
わけがわからず、思わず後ろを振り返ると・・・・白い手がサドルステーを掴んでいました。
それは、肘から先だけの子供のような小さな手でした。
『うわあ~』
大声を上げた途端、私ははじかれるようにトンネルから外に押し出され、同時にペダルの
重さもなくなりました。
恐怖から焼けつくような喉の渇きを覚え、すぐ近くにあった商店に飛び込みました。
ジュースを買って、一気に飲み干すといくらか気分は落ち着きました。
お店のおばちゃんに、笑われるのを覚悟の上で白い手の話をすると・・・・
『去年の今頃かねえ。君と同い年くらいの男の子があのトンネルでトラックに轢かれて
即死だった。自転車に乗っててね。だから、スピードを出し過ぎてると、危ないよって
教えてくれたんだよ』
おばちゃんにお礼を言って店を出ると、トンネルのそばまで行って、そっと手を合わせました。

山岸和彦

山岸和彦
細い指がグイグイと喉を・・・「深夜、独身寮を歩きまわる女の霊」。
真夜中の炭鉱跡で遭遇したもの・・・「面白半分で行くから、そんな目に遭うんだ」。
泣きそうになりながら入ったトイレで・・・「夜八時、忘れ物を取りにいった学校での怖い話」。
気鋭のミステリー・ハンターが全国各地から集めた霊体験実録レポート。
廃墟、トンネル、公園、寮、ホテルなど「出る!」と噂の心霊スポットで起きた53の怨霊実話。

山岸和彦

山岸和彦
「トンネルの中で霊を轢いてしまった私」
静岡県のトンネル内であった男性の体験。
深夜の3時ころ、友人を乗せた車でトンネルに進入すると、人が歩いているのが見えた。
白い着物を着て、あろうことかトンネル内を横切った。
よく見ると、頭に三角巾を付けている・・・・
『これはヤバイものを見てしまった』
と思った瞬間に、白い着物の人がクルリと向きを変え、こちらに向かって来た。
彼は思いっきりアクセルを踏み込んで、1秒でも早くその場を通り過ぎようとした。
フロントガラスから数十センチのところまで来た時に、白い着物の人と目があって
しまった・・・・・・女性だった。
次の日から、毎晩、金縛りと得たいの知れない『重み』に悩まされる。
家族に相談しても『飲みすぎだから』の1言で片付けられる始末。
数日後、毎年恒例の菩提寺の草むしりに参加した。
そこで、住職に呼び止められて・・・
『最近、体の具合はどう?』
金縛りと重みがしんどいが、当たり障りのない返事をした。
『じゃあ、はっきり言おう。最近、トンネルとか暗い場所で女の霊を見ただろう。
 実は、さっきから君の隣にいるんだ』
彼はビビリまくり、住職に全てを打ち明け、車も見せた。
『この車で霊を轢いちゃったんだな。それで怒って憑いてきた』
さっそく、車ともども供養してもらい、金縛りもなくなったとのこと。
私たちが体験した「超」怖い話 ナムコナンジャタウン 二見文庫
「最初で最後の怖い話」
私が十七歳、高校生の時の話です。
ある日、同級生の桂子さんの家に遊びに行った時のこと。
ちょうどお母さんは外出していて、桂子さんが迎えてくれました。
桂子さんの部屋はきちんと片付けられていたのですが、窓から見える墓地が気になりました。
『ジュース持って来るね』 と言って、桂子さんが部屋を出て行きました。
『タンタンタンタン』 階段を軽快に駆け上がる足音が聞こえてきましたので桂子さんが
戻ってきたと思ったのですが、ドアの隙間から覗いた顔は四、五歳くらいの男の子でした。
近所の子でも来たのかと思っていると、男の子は部屋に入るなり押し入れの中に入ったのです。
その突飛な行動にどう反応したらよいかわからないでいると、桂子さんが戻ってきました。
『親戚の子か誰か、来たの? 押し入れに入っちゃったよ』
『見ちゃったんだ、お化け。親に怒られると、うちの押し入れに隠れに来るの。このごろは
親のお化けも馴れて探しに来ないのよ』
初めは冗談を言っているのかと思っていたのですが、信じられないという顔の私に気付くと
桂子さんは押し入れを開けて見せました。・・・・確かに誰もいませんでした。
「世にも奇怪な留守番電話」
これは、僕が広島で仕事をしているときに実際に起こった、切なくて哀しい話です。
平成三年三月三十日、その日は僕の誕生日。
友人と飲んで、そのまま彼の家に泊まりました。
起き出した昼過ぎに自宅の留守番電話に用件が入っていないか、確認すると・・・
『もしもし、亮二くん、お誕生日おめでとう。知恵です。元気ですか?』
続けて、留守番電話の声で
『三月三十日午前二時のメッセージです』
知恵はひとつ年下の大学の後輩で、飲みに行ったり、遊んだりしていました。
恋人が出来た話を聞いていたので、今度会う時はお祝いを渡さないとと思っていました。
午後九時ころに帰宅した僕は、知恵に電話をしてみました。
知恵のお母さんに、誕生日のメッセージをもたっら旨を伝えると、お父さんに代わりました。
『もしもし、知恵から電話があったのは何時ころですか?』
『昨夜の二時頃ですが、留守番電話にメッセージが録音されていました。』
『・・・・知恵は交通事故で亡くなりました・・・・昨夜の午前二時に』
放心状態の僕は、電話を切ると、留守番電話のテープを巻き戻して再生ボタンを押しました。
しかし、消去したわけでもないのに、知恵の録音部分だけが消えていたのです。
「あの世からの警告」
19歳の女性が中学3年生の時に体験した不思議な出来事。
夏休みに友人宅へ泊まりに行っていた時のこと。
次の日は映画を2人で観に行くことになっていたので、午前2時に寝ようと
いうことになった。
それぞれの寝床へ入り眠りに入った・・・・
すると、突如、金縛りに遭い、目が覚めた。
体の上に何かが乗っている感覚があったので目を開けると、50歳くらいの
作業着を着た男と目が合った。
男は血だらけで苦しそうにしていたが、合間に何かを訴えてくる。
『行くな、絶対に行くな』
行くな、と言われれば映画のことを指しているのでしょう。
しばらく後、男が消えてホッした瞬間、今度は天井一面に男の顔が現れ
『絶対に行くな!』
と言って消えた。
友人をたたき起こし、朝まで起きていた。
気味が悪いので映画に行くのは止めて、昼ごはんを食べながらテレビニュースを
見ていると・・・・
大勢の人の列に車が突っ込むという事故のニュース。
場所はまさに、2人が行こうとしていた映画館の前。
「1年3組 44番目の机」
体験者の男性が中学1年生の時のこと。
彼のクラスは1年3組。生徒数43名なのに、机は44あった。
しかし、44番目の机には誰も座らず、座ると死ぬという話が囁かれていた。
ある日、彼は部活を終了して教室に着替えをしに来た。
一週間前から部活の仲間とケンカをしたため、部室で着替える気になれなかった。
着替えを済ませると、44番目の席に座っている生徒がいることに気づいた。
影が薄く、向こう側が透けて見える・・・気味が悪いと思いながらも彼は声を掛けた。
『あのー』 その声にくるりと振り向いた。
『まだ帰らないの?』 ゆっくりと肯く。
『部活は終わったんだろう?』 ゆっくり肯く。
『じゃあ、いっしょに帰らないか?』 その答えに肯くと、後ろから付いて来た。
校門を出て、自宅へ向かうと彼もいっしょに付いて来る。
家に着く少し手前で
『じゃあ、ここで。あした、また学校で会おうな』
と手を振ると、はじめてうれしそうな笑顔になって遠ざかって行った。
翌朝、44番目の席の前で立っていると、ケンカをしていた仲間が声を掛けてきた。
『おおー、どうした?』そこで、昨日の話をするとともに、彼が誰なのかを調べることに。
すると、仲間の一人が44番目の席に座っていた人の話を聞いてきた。
もう何年も前、非常におとなしい男子生徒がいたが存在が希薄で誰にも話をしてもらえず
ある日、急な病でこの世を去ったということ。・・・・・その時
『よかったな』 仲間の声でない声が聞こえてきた。
仲間と仲直りをさせてくれた彼の笑顔は今でも憶えているとのこと。

北野 翔一

北野翔一
「仮眠室の重い幽霊」
新人ナースである彼女の初めての夜勤の日。
午前1時ころだろうか、先輩ナースが彼女に向かい
『1時間くらいなら休んできていいわよ』
慣れない夜勤に疲れきっていた彼女は素直に従うことにした。
仮眠室に入ると非常灯があり、わずかな光だが部屋の中が見渡せた。
彼女は2つあるベッドの1つへ入ると、すぐに眠りへと落ちた。
そして、夢の中で何かに押し潰されそうになる場面を見た彼女は目を覚ます。
目を開けるが真っ暗で何も見えない・・・確か非常灯があったはず。
よく見ると彼女の顔の先に、人の頭の10倍はあろうかという大きさの
ぶよぶよの頭があった。
これが非常灯の光を遮っていることに気づくと、夢で見た押し潰されそうな感覚を
下半身に感じた。
逃げ出そうとするが、金縛りで動けない。
このままでは犯されると感じた彼女は懇親の力を込めて脱出に成功・・・
下着姿のまま部屋を出て行ったそう。
『きっと患者さんの霊だと思う』と彼女は言う。
重病の症状の中に、ぶよぶよの頭になるものがあるとのこと。
「圏外トワイライトゾーン」
六本木のとあるビルの地下2階。通常は、どう考えても圏外のはずだが
アンテナが3本立つ。
発信も着信もできるが・・・・
その後、通話した相手に確認すると、自分と通話した憶えもないし
その携帯電話にもこちら番号の着信、発信履歴がない。
いったい誰と話をしていたのか・・・
「あなたですか?明日、亡くなる方は・・・」
ある男性が60歳の時に脳溢血で倒れ、生死を彷徨った時の体験。
ふっと気が遠くなって目覚めると、そこは寒い寒い禿山だった。
寒さに耐えられずに歩き回っていると、近所の花屋のお婆さんに出会った。
お婆さんに軽く頭を下げて挨拶を交わすと、洞窟を見つけて迷わず入った。
そこには仏像があり、それらは生きているように動きまわっていた。
それらの仏像に導かれるように奥へ奥へと入って行くと、女性の仏像に
『あなたですか?明日、亡くなる方は・・・』と問われた。
その男性は『いいえ、私は死にません』と答えた後に質問をした。
『もし、明日、死ななければ、ずっと長生きできますか?』
すると、女性の仏像は『ええ、長生き出来ます」と答えた。
しばらくすると、男性は自分を呼ぶ声に気づき、目覚めると病院のベッドの
上だった。
その後、男性はめきめき回復して、後遺症もなく元気になった。
そして、近所の花屋のお婆さんは、男性が入院した日に交通事故で亡くなった
とのこと。
あれは夢ではなかったと・・・・現在、男性は70歳。
「入院患者を死の世界へ連れ去る、招き婆」
ある看護師(女性)の体験。
ある夜、集中治療室を覗くと、見知らぬお婆さんが座っていた。
集中治療室患者のお爺さんに付き添う奥様だと思って通過した。
翌朝、そのお爺さんは亡くなった。
また、ある夜、同じお婆さんがある大部屋から出てくるところを見かけた。
お爺さんが亡くなったのに病院にいるのはおかしいと感じた彼女は
そっと後を付けた。
すると、すぐに消えてしまった・・・・。
そして、今度は大部屋の幼い男の子が亡くなった。

お婆さんの姿をした死神の目撃例は、かなりあるようですよ。
「Kをよろしく頼む」
小学校の教諭になって間もない頃のこと。
当時、小学四年生を担任していましたが、クラスにK君という男の子がいました。
K君は活発な子でクラスのリーダー的存在、運動が得意でした。
そんなある深夜こと、目覚めると目の前に知らない男が座っているではありませんか。
誰かが訪ねて来たのかと錯覚しましたが、そうではないことは男の様子から伺い
知れました。男の体はユラユラと揺れ、実態がはっきりしなかったのです。
唖然とする私に向かって男はこう言いました。
『Kをよろしく頼む』
そして、スーと消えて行ったのでした。
翌日、学校で授業をしていると、K君のお父さんが危篤なので帰宅させるよう連絡が
入りました。残念ながらK君のお父さんは亡くなってしまいます。
通夜の席でK君のお父さんの遺影を見ると、はたして『Kを頼む』と言ってきた男の顔。
私は、K君のお父さんの思いを胸に刻んで六年生まで担任を受け持ちました。
そして、成人式の時に同窓会で再会したK君に、はじめてあの日のお父さんのことを
打ち明けました。K君は声を詰まらせて、私の話を聞いていました。
「無縁仏に情けをかけたばっかりに・・・」
ある奥様の体験。
本社勤務だった旦那さんが、突如、田舎町の小さな支店に転勤。
転勤早々、仕事上のトラブルに巻き込まれて苦労する毎日。
そして、トラブルがおさまってくると、旦那さんが体を悪くしてしまって入院。
やっと退院できたと思ったら、会社のソフトボールの試合中に骨折・・・・。
ここに至って、叔母さんの勧めに従ってお払いを受けたそう。
すると、老夫婦が旦那さんに憑いていたとのこと。
なんでも、転勤になる1ヶ月ほどまえに出張でこの町に訪れた際、彼岸なのに
花も線香も上げられていない墓があったので、旦那さんが饅頭をお供えした。
その旦那さんを息子と勘違いした老夫婦の霊が、旦那さんに憑依した。
『息子じゃなかとよ・・・』
そう言って、老夫婦の霊は離れて行ったそう・・・。
その後、旦那さんはすぐに本社勤務に戻ったとのこと。


「国勢調査用紙108番の怪奇」
ある男性が、アルバイトで国勢調査の配布、回収をやった時の体験。
期日が近くなってきたが、1件の家だけコンタクトが取れない。
しかたなく、夜に出かけ、家に明かりが点くのを待った。
明かりが点いたので呼び鈴を鳴らしたが出てこない。
居留守を使われてはたまらないと何回も押すと、ようやく男性が玄関に出てきた。
国勢調査である旨と期限が迫っているため、今記入してほしい旨、説明する。
男性は、記入を終えると差し出して来た。御礼の言葉と引き換えに受け取る。
期日前日に、事務所へ全ての調査用紙を持って行くと・・・
1件足りない。調査番号を見ると108番。
108番は最後に取りに行った家なので、間違いなく受け取ったはず。
事務所からは再度訪問するよう言われ、しょうがなく訪問。
呼び鈴を鳴らすも誰も出てこない。
すると、お向かいの家の奥さんが不思議そうに見ている。
話を聞くと、訪問した家はご主人が4年前に亡くなってからは空き家になったまま。
息子さんの連絡先がわかるとのことで、後日、息子さんに家の中を見せていただいた。
すると、ほこりだらけの部屋の中に、綺麗な国勢調査用紙だけがポツンと置かれていた。
「縁起でもねぇ~仕事」
都内で車の修理工場を営む人の体験。
ある日、お得意さんが自動車事故で亡くなり、その事故車が修理に回されてきた。
『こんな車は廃車にした方がいいんだかね・・・』
独り言を言いながら修理を終えると、炬燵でうとうとしていたときのこと。
壁際に、亡くなったはずのお得意さんが座っているのです。
再度、確認しても亡くなったお得意さん・・・
『送ってくれ』と言われたが、何がなんだかわからない・・・。
しかし、このままではしかたないと思い
『どこへ送ればいいんですか?』 『山梨県の甲府のお寺まで』
『どうやって送ればいいんですか』『一緒にいるから』と肩へ両肩をまわして乗ってきた。
肩は重くなるし怖いしで、生きた心地もしないまま東京を出発した車は、なんとか甲府の
お寺に到着した。すると、いままで重かった肩がす~っと軽くなった・・・・。
以後、お得意さんには会っていないという。
「海面から伸びる無数の白い腕」
あるカップルが体験した話。
二人は親も公認の仲で、大学卒業後は結婚が決まっていたので、夏休みを使っての
二人だけの旅行も何の支障もなかった。
二人は京都のとある海岸へやってきた。
海で遊び、やがて夕日が沈むころになると宿へ戻ろうということになった。
『その前に、夕日をバックにあの岩場から海へ飛び込むから俺の雄姿を撮ってくれ』と
彼が言うので、彼女はカメラを出して構えた。そこへ彼が海へ飛び込む・・・。
『カシャ』 いいタイミングでシャッターも押せた。
やれやれと思い、彼が浮いてくるのを待つが浮いてこない・・・。
宿に帰り、警察に通報し、大捜索が行われたが、彼は見つからなかった。
最後まであきらめなかった彼女も、両親に付き添われながら自宅へ帰って行った。
そこで彼の最後の写真を思い出し、フィルムを現像に出した。
出来てきた写真を見ると、飛び込む彼の下には、たくさんの白い手が写っていた・・・
「死んでも終わりじゃない・・・」
仕事、恋人の裏切り等で人生に絶望を感じた女性が、自殺の名所で
体験する怪異。
死にたい、死にたいと思い、ついに足を踏み入れた山林。
はじめに目にしたのは、石に腰を掛けた中年の女性・・・
『ここで死ねば、次に石に座るのはあんただよ』
誰に言っているのか、わけがわからず足を速めた。
今度は若い男性が石に座っている・・・
『きみがここで死ねば、次にここに座るのはきみだよ』
先ほどの中年女性と同じことを言って来る。
次は若い女性・・・
何度も何度も同じ言葉を言われ、怖くなった女性は死のうとしていた
ことも忘れ、ただただ走り、1軒の喫茶店に飛び込んだ。
店はマスター1人で、お客は誰もいなかった。
今、あったことを聞いて欲しくて、マスターに話をした。
マスターは驚く様子もなく『このへんの人はみんな知っているけどね』
と前置きして
『ここで自殺した人は成仏できずに森の番人みたいに石に座っているんだ。
それで、自殺志願者に死んだらこうなるよ、こうなってもいいなら
死になさいって言っているんだ』
死んでも終わりじゃない・・・死んでも楽にならないんだ・・・・
女性は、もう少し頑張ってみようと東京に戻ったそう。
「友達5人と狐狗狸さんをしていたら奇妙なものが・・・」
体験者が中学2年生の時の二学期のはじめのこと。
いつもように、クラスメイト5人で狐狗狸さんをしていた。
下校時間の放送がなく「もう遅い時間だな」と思った時に
下を見ていた顔を上に上げて見ると・・・・
友達と友達の間に、青いかすりの着物を着た小狐が座っていた。
びっくりして、小狐を見つめていることしか出来なかった。
数秒後、小狐がパッと消えると我に返り、友達に小狐の話をするも
誰も見えなかったと言う・・・。
その後、何の災いもなかったが狐狗狸さんはやらなくなったとのこと。
「カラオケボックスの恐怖」
恋人同士の二人が体験した怪異。
休日のデートをドライブで楽しみ、夕刻時に空いてるカラオケは無いかと
古びたゲートをくぐると、目立たない場所にそのカラオケボッススはあった。
こんなへんぴな場所では空いているだとうと思い、入って見ると確かに
空いていた。空いていたが、一昔前のよな雰囲気。
カラオケの曲も最近のものはなく、古い演歌ばかり。
2~3曲を歌ったら出ようということになり、会計を済ますとカラオケボックスを
出ようとした・・・が、出口が見つからない。
ようやく、ガラスの向こうに出口らしき外灯を見つけ、ドアを開けようとしたが
開かない。開かないので、渾身の力を振り絞って、ようやく開いた。
外に出ると、そこはカラオケボックスなどではなく、鉄道貨物のコンテナだった。
突然、「こら~、そこで何やってる~」とどやされた。

『まったく、立ち入り禁止と書いてあるのに古いコンテナをラブホテル代わりに
使いやがって。この間も若いアベックがそのコンテナで死んでいたんだ』
「ズル・・・ズル・・・ズル・・・」
自動車免許取り立ての女性が体験する怪異。
深夜、親戚の家からの帰りで異様な物を見つける。
白っぽく光る何かが道の端にうずくまっているを見て、スピードを落とした。
よく見ると、白いセーターを来て、胸に大きな十字架のネックレスを
付けている。
具合が悪くなってうずくまっているのかと思い
『大丈夫ですか?』と声をかけようとした・・・・・その女性はおかしい・・・・
なんと、正座をした格好のまま、ズル・・・ズル・・・ズル・・・と移動している
アクセルを踏んで、その横を通り過ぎた。

数日後、ある友人に怪異体験の話をすると
『それって、この女の子じゃない?』と1枚のプリクラを見せられた。
その女の子は彼女の友人で、いっしょにプリクラを撮った後に、交通事故で
亡くなったとのこと。
プリクラに写る彼女は、白いセーターと大きな十字架を身につけていた・・・
「指きりげんまん嘘ついたら」
二十歳を過ぎたころに、検査入院をした女性の体験。
二人部屋に入院した彼女の隣のベッドには5歳の女の子がいた。
人形のようなかわいい女の子で、年の差があるにもかかわらず、すぐに仲良くなった。
『あと6つ寝たら手術をするの。そしたら、元気になるんだ』
女の子がそんな話をしたが、どうのような手術をするのかを母親から聞かされることは
なかった。
手術当日の朝、いつもに増して白い顔の女の子が点滴をしている姿が痛ましい。
『大丈夫。怖くもないし、痛くもないから頑張ってね』 と送り出すと
『うん。手術をして元気になるの。元気になったら、また遊んでね』
そんな女の子がいじらしく思えて、小指を絡めて・・・・
『ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます』と指切りをした。
女の子は『バイバイ』と手を振ると、手術室へ向かった。
どのくらい時間が経ったのか・・・・体調が悪くなり、体が全く動かないことに気づく。
見れば、手術中のはずの女の子がいる・・・・
『元気になったから、向こうで遊ぼう。』
『おねえちゃん、今苦しいの。あとでね』
今までなら『じゃあ、あとでね』と言ったいた女の子がしつこく『遊ぼう』と誘ってくる。
やがて、般若の顔へと変わった女の子が首を絞めてきた・・・・
薄れ行く意識の中が『助けて、助けて』と訴えていたら
『どうしたの、しっかりしなさい』 女性の母が助けてくれた。
そして、首にはくっきりと小さい手の跡が付いていた。
「花嫁人形が泣いている」
彼女の田舎には、お嫁に行くときは花嫁人形を持って行くという風習があって
彼女はフランス人形を持って嫁いで行った。
この時、彼女は妊娠5ヶ月だった。
結婚して2ヶ月ほどは甘い新婚生活を送っていたが、以後は夫の無断外泊が多くなり
二人の間は急激に冷めていった。
ある夜『あの人たち、きらい』いう声で目覚めた彼女が居間へ近づくと、夫と義母の声がした。
『だから、俺は最初から嫌だったんだ。だけど、子供が出来たらしょうがないだろう』
『それなら、子供が出来たら私が育てるから、別れればいいだろう』
二人の会話を聞いた彼女は無意識に手首を切っていた・・・・
しかし、彼女は実の母によって助けられた。
それには、こんな訳があった。その夜、母は孫のおしめを縫っていた。
ちょうど、彼女が手首を切った時間に仏壇がカタカタなり・・・・
『ママを助けて、ママを助けて』という声が聞こえて来た。
驚いて外を見ると、あのフランス人形が窓に写っていたそう。
その後、彼女は離婚をし、今ではフランス人形が娘の遊び相手になっているという。
フランス人形が助けてくれたのか、お腹の子が助けてくれたのか・・・
「あの人には・・・・影がない」
友人と二人で山へ登山に行った男性の体験。
1日の行程を歩き終え、テントを張って食事も取り、眠りについた。
深夜に『サクサク』という足音で二人とも目覚めた。
時間は午前1時。
すると、突然、テントの外から『すみませーん、お願いします』という
女性の声がした。
こんな深夜に、しかもこんな山奥にいったい誰が来たのか?
おそる、おそる、テントの入り口を開けると、そこには髪の長い
とても美しい女性が立っていた。
『友人が足をくじいたので助けてください』
早速、登山靴を履くと、女性の後に続いて歩き出した。
登山道を外れ、獣道に入ったところで、友人がしゃがんで靴紐を
結び直し始めた・・・私にも同じ動作を求めます。
友人は、あの女性に影がないのは絶対におかしいと言い
二人いっしょに全速力でテントへ走って戻ることにした。
テントに戻っても『すみませーん、お願いします』の声は明け方まで
続いた。
朝になり、二人は女性が案内していた道をたどってみた。
すると、小さな池があり、白骨化した死体を発見した。
長い黒髪だけが生きているようにユラユラと水中を揺れていた。
「私も死んでる・・・」
友人3人で海外へ旅行に行った女性の体験。
関西国際空港で待ち合わせの時間に遅れてきた1人が来ると
3人は飛行機でバリ島へと旅だった。
バリ島のホテルにチェックインすると、各が自宅へバリ島へ到着した
旨の連絡を入れ始めた。
すると、空港に遅れて来た友人が「おとうさんが死んじゃった」と
言い出した。
他の2人は、なんと言ったら良いのかわからず、オロオロしていると・・・
『私も、死んでる・・・』

実は、父親の運転する車で空港へ向かう途中、事故に遭い、2人とも
即死だった。
『私も、死んでる・・・』と言い残して、彼女は消えてしまったそうです。
「出して、出して、出して、出して」
格安賃貸物件に入居した、故郷の先輩が体験する霊体験の数々・・・
この物件に何かあると思い調べてみると、押し入れの奥行きが
不自然に狭いのを発見。
迷わず、壁を壊してみると、そこには以前に使われていたであろう
奥の壁があった。
その壁一面に
   出して 出して 出して 出して 出して 出して  
と口紅で書いた文字群があった。
「深夜の病室、ベッドの下から・・・」
ある病気で病院へ担ぎ込まれた女性の体験。
一命は取りとめたものの、ベッドの空きがなく産婦人科病棟で
浅い眠りを繰り返す毎日だったので、時間の感覚さえなかった。
ふと目覚めると、辺りは静まり返り、自分の心臓の音だけが
やけに大きく聞こえていたのを憶えています。
足元を見ると、血が流れているではありませんか。
とっさに体を動かそうとしたのですが、金縛りにあったように
ピクリとも動きません。
すると、今度は10歳くらいのおかっぱの女の子がゆっくりと
ベッドの下から出てきたのでした。顔は、今までに見たことが
ないような、怖い憎悪に満ちた顔をしています。
『どうして、そんなに怖い目をしているの?』と聞くと頭の中に
直接、答えが返ってきました。
『隣のベッドの人に・・・交通事故で・・殺された・・・
 絶対に許さない。子供を・・・産ませない』
心の中で『恨んでもしょうがないよ。私が祈ってあげる』と言うと
マッシュルームのような白い物体を残して消えてしまいました。
翌朝、『カーテン開けてもいいですか?』と隣の女性。
『どうぞ』と答えるとカーテンが開かれ、30代の女性が心配そうな
視線を向けてきました。
『重い病気ですか』 『ええ~まあ』と言葉を濁し『あなたは?』と
尋ねてみました。
『私、流産なんです。トイレで丸くて白いマッシュルームのような物が
出てきて驚いてしまい、不安になってここに来たら流産だと言われました。
もう3回目なんです。お医者様には異常はないと言われているですけど
何度も続くと自信がなくなって・・・・』


「お盆には霊もこの世にとどまる?」
8月のある日、瀬戸内海の小さな島に住む祖母の家に遊びに行った。
祖母は大層喜んでくれて、来た甲斐があったという感じだった。
帰る時には、フェリーの出航を港で見送ってくれた・・・・と
思ったら祖母が船に乗っている。どうやって乗ったのだろう?と
思いながらも、両親と兄も知らん顔をしているので、うちに遊びに
くるのだと一人納得していた。
うちに着いたあとも、祖母は皆と話し、ご飯をたべていた。
数日後、学校から帰ると祖母の姿が消えていた。
『おばあちゃんはどこに行ったの?』と両親に尋ねると、悲しい顔で
島で私たちを見送った際に、海に落ちて亡くなっていたと言うんです。

三木孝祐

三木孝祐
「怪異現象の現場で死体発見」 ・・・埼玉県秩父市
新聞に掲載された話なのですが、度々、女の幽霊が目撃される場所があって
地元で近づく人が少なくなっていた・・・・
その近くの防火用の貯水槽の中から女性の腐乱死体が発見された。
自分の遺体を発見してもらいたくて、夜な夜な出現していたのでしょうね。

結城瞳

結城瞳

加藤一
禍禍
加藤一
「待機」
変な夢を見て、うなされていると弟に起こされた。
そして『大丈夫?』と聞いてくる。
訳をたずねると、昨日、その部屋で友人と
コックリさんをやった。
コックリさんに
『どこから来ましたか?』
と質問したら
『ココデジットシテタ』
と答えがあったと・・・

中岡俊哉

中岡俊哉
出た!恐怖の新名所 中岡俊哉 二見文庫

ビデオに死者の霊が映る峡谷
『出る』と噂のドライブインのトイレ
格安ガレージに隠された秘密
亡霊が走る真昼の野球場の怪
首なし女の霊が出る『魔の踏切』
入居者が居つかない怪しい借家
死者がピアノを弾く家・・・・・
全国48ヵ所の最新情報をミステリー・ハンターの第一人者が徹底取材。
事実のみのもつ迫力であなたに迫る。

中岡俊哉

中岡俊哉
「国道299号線『正丸トンネル』の恐怖」  埼玉県入間郡・秩父郡
埼玉県の飯能から秩父に向かう正丸峠の正丸トンネルは、昔から怪談話の多い
場所として有名。
この日は、体験者の運転手と助手の二人が大型トラックで機械の部品を運ぶことになり
正丸トンネルを抜けて東京方面へと向かっていた。
正丸トンネルを抜けると間もなく
『ヒーッ ヒーッ』という物が擦れるような、人の悲鳴のような音がしだした。
二人はパーキングエリアへ車を駐車させると、点検することにした。
助手が懐中電灯で車の下を照らして、中を覗こうとした・・・
突然、懐中電灯を持った手を冷たいものに捕まれた。
必死の思いで振りほどくと、運転手に事情を説明した。
『そんなバカな・・・』と思いながら、運転手が車の下を覗くと、車で轢き殺したような
胸が潰れて頭蓋骨が崩れた男の姿があった。
『たいへんだ~』
すぐに、会社へ連絡を取り、事故係りと警察官がやってきた。
しかし、車の下を調べてみても死体も血痕も見あたらない。
事故係りは、二人を怒鳴りつけると警察官に謝り続けた。
二人が沈んでいると、古参の運転手がそっと言った。
『あまり気にするな。俺も正丸トンネルで事故死した霊を目撃したが、それが原因で
会社を辞めた奴が5人もいるぞ』

中岡俊哉

中岡俊哉
「幽霊目撃者多発の芦原トンネル」
壺坂寺の近くの芦原トンネルでは、多くの幽霊目撃情報がある。
壺坂寺のお坊さん、近くの食堂のおばちゃんからも目撃情報がもらえた。
トンネル内は事故多発地帯で、毎年4~5件の死亡事故が発生しているとのこと。
事故死した浮かばれない霊たちがトンネル内を彷徨っている。

お霊参り、『心霊写真』のトップに掲載している画像は、この芦原トンネルで撮影したもの。

中岡俊哉

中岡俊哉
「哀しいほど律儀な首吊り自殺者」
経営難に陥った会社を立て直そうとしていた社長がいた。
片腕と呼べる人が、ある日首吊り自殺をした。
原因は息子の借金。
息子が姿をくらましたので、両親のところに借金取りが押し掛けてきた。
葬儀の後、会社で彼の幽霊が目撃され、目撃した社員も辞めていった。
『社長、勘弁してください』
と幽霊は謝った。
『もういいんだ。君は成仏してくれ』
社長は会社をたたむことにした。

中岡俊哉

中岡俊哉
修学旅行で撮った写真にエクトプラズムが・・・

中岡俊哉

中岡俊哉
「死んだ父からの電話」
母を病気で亡くすと、父は再婚した。
後妻はとんでもない女で、亡くなった母に花を飾ろうとも、供え物をしようともしなかった。
父から頼んでも『死んだ人間に何をあげたって無駄なんですよ』の一点張り。
そして、今度は父が死んだ。後妻は、家に居座り、男を連れ込むようなこともしていた。
そしてある日、父から後妻へ電話が来た。
『俺だよ、俺』 
後妻は震え上がった。そして、数日後、車に跳ねられて父が息を引き取った病院へ
運び込まれた。
深夜、後妻のベッドに人の気配があることに気づいた看護師が向かうと
そこに父がいた。
病院では父の幽霊が出たと大騒ぎになった。
数日後、後妻は危篤状態に陥り、息を引き取った。

中岡俊哉

中岡俊哉
「下駄の音を響かせる女優の亡霊」
行きつけの銀座のクラブで飲んでいると、最近は売れていない女優が顔を出した。
マスターが追いかけるように迎えに行ったが、店を覗くと出て行ってしまった。
マスターが店を出ると、もうそこに女優の姿はなかったという。
それから数週間が過ぎると、マスターが事務所を訪ねて来た。
今まで一度も事務所へ来ることがなかったので、早速本題を聞いてみた。
すると、女優のことだと言う。
最近、全く店に顔も見せないし、マネージャーや付き人も解雇されてしまい
行方をしっている人が誰もいないとのこと。
それに近頃は、夕方になると女優が歩く下駄の音が聞こえて来る。
あの、足を引き摺るようにあるく独特のリズムは女優に間違いないのに
店を出て探してみるがいないとのこと。
妙に引っかかるので、女優のマンションまで一緒に行って欲しいということになった。
マンションの女優の部屋まで来たが、鍵がかかっているため管理人に開けてもらった。
中に入ると、グラスをもった女優が亡くなっていた。
部屋には大量の睡眠薬と仕事を干されたことへの恨み辛みが書かれた紙が置かれていた。
警察に知らせるために部屋を出ようとすると、女優が歩く下駄の音が聞こえてきた。
マスターが聞いた下駄の音も同じだと言う。
女優は死後50日で、顔だけ出して帰ってしまった時には、もうすでに亡くなっていた。

中岡俊哉

中岡俊哉


ほとんど時を同じくして撮影された二枚の写真。
遺影が帽子をかぶっていたり、いなかったり・・・・
故人は、亡くなる直前にこの帽子を欲しがっていたと言う。

中岡俊哉

中岡俊哉
「夜10時の客」
A子さんがアルバイトをしていた喫茶店では、常連客の大学生の男性がいた。
毎日のアルバイトを終えると、この喫茶店に来るのだった。
ある日、いつもより遅い時間にやってきた。
いつもより口数も少なく、すぐに帰ったしまう・・・そんなことが2日続いた次の日・・・・
その大学生の姉と名乗る女性が現れ、弟が3日前に血を吐いて亡くなったという。
その大学生に好感を持っていた彼女は、思わず気を失ってしまう。
目覚めた後、昨日、一昨日と午後10時ころに喫茶店に来たことを姉に伝えると
『じゃあ、弟の霊がこちらへ姿を見せたのですね』
大学生はA子さんに恋していたのでしょう。

中岡俊哉

中岡俊哉
「旅館内に出没する母娘の秘密」
ある宿に宿泊した男性の体験。
夜中、ラップ音とともに母娘の霊が出て来た。
恐怖におののいた男性は、宿の主人をたたき起こして、ことの顛末を
説明するが宿の主人は全く信しようとはしなかった。
宿の主人に腹を立てた男性だったが、部屋に戻るしか方策が見つからず
再び部屋へ。
そして、再度、母娘の幽霊のお出ましとなった。
今度は、金縛りに遭い、逃げようとしても逃げられない。
母親の霊が床の間の掛け軸の絵をわずかに破ると、それは消え
体も自由の身となった。
今度は掛け軸も破れ、血のようなものまで付着していたので、宿の主人も
信用して原因を調べることになった。
実は、宿の主人は2年前にこの宿を購入していたため、その前のことは
わからなかった。
前の持ち主に問い合わせると、3年前に娘1人を連れた女性がその部屋で
自殺していることがわかった。
宿帳に書かれた、名前、住所に該当者が居なかったことから無縁仏として
葬られた。
前の主人は自殺の話題が広まる前に、宿を売りに出したとのこと。

床の間の掛け軸の上の天井を開けてみると、そこにはスーツケースがあり
中には写真と裏には本当の名前と住所が書かれていた・・・・
見つけて欲しかったのでしょうね

中岡俊哉

中岡俊哉
「校舎の床下に残る怨念」
友人のマンションに泊まりに行った女子高生が体験した怪異。
夜中に、玄関が開き、労務者風の男が入って来た。
男は、全身が泥まみれ、服は破れ、首から胸にかけてドス黒い血が
付いている・・・
『お願い、助けてー』と逃げ惑う二人に向かって
『助けてやるものか、俺の恨みだ』と言い
『俺は、おまえらの校舎の建設中に事故にあって、下敷きになった。
俺は見殺しにされた。
俺の身体は下敷きになったまま、地中に埋められているんだ。
俺の身体を出してくれ。出してくれないと、学校をめちゃめちゃにしてやる。
お前らをみんな呪い殺してやる』
翌日、校長先生に昨晩のことを話すと、早速、鉄筋コンクリートの
地下部分が掘り起こされて、中から白骨化した男の死体が出て来た。
学校は、遺体を近くの寺に埋葬した。
その夜、労務者風の男が出て来て『ありがとう』と言って消えたそう・・・

エミール・シェラザード

エミール・シェラザード
愛の白魔術「愛する相手から連絡が入るようにする」

この魔法は、相手とあまり親しくなくても使うことが出来る。ただし、対称は一人だけ。
まだ使用したことのない白い和紙で上記の人型を作る。そして、朝一番にすった墨で
人型の左に自分の名前、右に相手の名前を書いて、真ん中で切断する。
この半分にした人型を自分の部屋の南へ自分、北へ相手をなるべく高い位置へピンで
止める。1ヶ月以内で相手から連絡が入るだろう。連絡が入ったら、必ず人型をひとつに
まとめて清い川か海へ流すこと。


中岡俊哉

中岡俊哉
心霊科学が探る死の世界の謎!
人間はみな、老いたくない、永遠の生命を得たいという、古来からの不老不死の願望がある。
しかし、どのどのように科学が進歩しても、人は死から逃れることはできなかった。
現代科学では解明できなかった『死』について、本書では心霊科学の見地から深く追求している。
『死ぬ瞬間』と『死後の世界』を知ることは、意義ある現世を送ることにつながるのだ。
死を過度に恐れることなく、新しい生命体としての死後の世界、霊界での生き方を考えてみて
ほしいと思う。

ブックカバーより

中岡俊哉

中岡俊哉

中岡俊哉

中岡俊哉

中岡俊哉

中岡俊哉

強い恨みを残す自殺者の霊だそうです

中岡俊哉

中岡俊哉
若い男性の霊が写っている

中岡俊哉

中岡俊哉
右上に女性の顔

中岡俊哉

中岡俊哉
男性の顔の霊

中岡俊哉

中岡俊哉

死ぬ前に恐山へ行きと言いながら亡くなった女性の友人が恐山の宿坊で記念写真を
撮ると、そこには亡くなった女性が写っていた。

中岡俊哉

中岡俊哉
沖縄県那覇市
「血まみれの老婆が首をしめにくる!」
この家に足を踏み入れた者は例外なく襲われている。
巣材で訪れたTVレポーターも病院へ運ばれた。
筆者も、あやうく病院送りとなるところだった。
老婆は、この家で強盗に殺された・・・

中岡俊哉

中岡俊哉

霊が現れた画像と、現れる前の画像が掲載されています。

中岡俊哉

中岡俊哉
地縛霊が漂う渓谷
和歌山県海草郡九度山町

丹生川で目撃された霊が心霊写真とともに紹介されています。


中岡俊哉

中岡俊哉
「心中事件の女」
あるカップルが心中をした。男は死亡したが、女は重態だが病院へ
搬送された。
ある日、女の姿がベッドから消えた・・・危篤状態で歩けるはずもないのに。
二日後、男の墓の前で息絶えているところを発見された。

平野威馬雄

平野威馬雄
「幽霊レース」
アメリカでの話。夜、列車に乗っていて、ふとカーテンを開けてみると
そのには、手が届きそうなところに顔を彩色のしたインディアンが
駿馬にまたがって走っていた。
肉体を持っているようにも見えるが、後光のようなものがさして
いるので幽霊だとわかるとのこと。
鉄道関係者の間では有名な話らしい。

平野威馬雄

平野威馬雄
「死神にとりつかれた町」
テレビで放送されたことのある話なんで知っている方も多いことでしょう。
東京都北区のとある町で、人が次々と死んでいくという事件がありました。
そのすぐ近くの公園は、東京大空襲で亡くなった方を埋葬した場所でも
あるのです。

また、この本の中で、医師一家4人の心中事件が取り上げられているの
ですが、管理人の友人家族なんです。
私は、この町に昭和45年まで住んでいました。
本を読んでいて、また思い出しました。
ご冥福をお祈りします。

平野威馬雄

平野威馬雄
「東京都港区麻布霞町・都電通り」
取り払われたはずの都電が夜中に走る・・・
都電が青で、乗っている乗客も青なら運転手も青。

矢追純一

矢追純一
「魔のトライアングルの謎を解くカギか」
高名な魔のトライアングルで大陸が出現・・・
レーダがとらえた大陸は移動している?
過去に現存していたアトランティス大陸なのか・・・

花房観音

「生霊に脅える女」 花房観音
『恋したい』が口癖のイツミさんは、私より少し年上の独身女性だ。
本人曰く『恋はしたいけど、結婚は向いていない。相手がしたがったら、私が逃げちゃう』
そんな彼女を、友人のフリーの編集者の男性に紹介した。
彼には奥さんも子供もいるから、仕事の上での紹介だ。
その後、この二人は急接近しているらしく、彼の奥さんからイツミさんの照会があった。
なんでも、二人で飲みに行ったりしているとのこと。
私が彼と仕事の繋がりが出来た時に初めて自宅へ招かれて、この奥さんと対面した。
一瞬、私を見据えていた・・・・その後、この女(私)は旦那とは何もないと判断したことだろう。
その奥さんが、イツミさんを問題視している。
私がイツミさんに意見したことから、彼女は自分へ飛んでくる生霊が私からの物だ思っている。
イツミさんのSNSには、花房とは書いていないものの、明らかに私への当てつけと思える書込みが
多数あった。
私には、そんな力はない。
真に怖ろしいのは、何も口にしない彼の奥さんだ。

黒木あるじ

黒木あるじ
全国怪談 オトリヨセ 恐怖大物産展 黒木あるじ 角川ホラー文庫
「おんなごころ」
その日、NPO職員の三浦さんは大阪市のH区にいた。
取材のためだったが、約束の時間よりだいぶ早く到着たので付近を散策することにした。
ある寺の塀の横目で歩いていると・・・
『もし』 突然、背後から声がした。
振り向くと、着物姿の女が立っており、うつむき加減の顔には黒髪がばさばさとかかっている。
『寺の門はどちらで』
女は顔を上げぬまま、細い声で言葉を続けた。
『すみません。私も余所から来たもので・・・このあたりは詳しくないんです』
『寺の門、どちらで』 こちらの話が聞こえていないのか、同じセリフを繰り返す。
『ですからね、わたしね』 焦れるあまり、女の方へ歩み寄ろうとした瞬間、影がおかしいと気付いた。
燦燦と陽が照っているというのに、影がない。
口を噤むと同時に、百メートルほど走って逃げた。
振り向いた時は女の姿はなかった。

取材を終え、先ほどの女の話をすると・・・
『ああ、それは大念仏さんとこの、お化けちゃいますか』
女性は、こともなげに言った。
『あそこのお寺さん、年にいっぺん幽霊の残した着物の袖を展示してますねん。ですから、その人』
『でも、ああやって出てくるということは成仏してなくて、この世に恨みか未練があるのでは?』
すると、女性が笑いながら・・・
『あんた、野暮やね。袖だけとはいえ、自分の着物をぎょうさんの人が見学するでしょ。
そら地獄だろうが極楽だろうが、気になって様子くらい見に来ますわ』
女いうんは、そういうもんです。

『あれから数年経ちましたけど、野暮が治らない所為か、未だに独り者ですよ』

黒木あるじ

黒木あるじ
全国怪談 オトリヨセ 黒木あるじ 角川ホラー文庫
「猫の居る部屋」
編集者のJさんが、祖母から聞いたという不思議な話を教えてくれた。
ある放課後、祖母は同級生の家に遊びに出かけた。
縁側で遊んでいると、ふいにどこかで『にゃあ~』と聞こえた。
養蚕農家にとって大敵の鼠を取るには、猫は必要不可欠であった。
この家も当然、猫がいるものと思い『にゃんこ見せて』とお願いするが、猫はいないという。
しかし、猫の声は絶えず聞こえてくる・・・
『もしかして』 同級生が唇に人差し指を当てると、静かに祖母の袖を引いた。
向かった先は、廊下の奥の和室だった。
『ちょっとだけ襖を開けて覗かないと、逃げちゃうから』
なんだ、やっぱり猫がいるんじゃないか。どうして、いないなんて言うんだろう。
部屋の中には、何も描かれていない無地の掛け軸がだらりと下がっており、その手前で
一匹の猫が遊んでいた。
『運がいいね。めったに見られないんだよ』と同級性。
そこへ同級生の父親が帰って来て
『おお、ウチの猫絵がまた遊んでいるか。ま、アレがあるからウチではお蚕さまが
鼠にやられねえんだ』

黒木あるじ

黒木あるじ
怪の地球儀 黒木あるじ ハルキ・ホラー文庫
「効能注意」
メキシコ人のマリアさんからうかがった話である。
彼女の知人で現在はアメリカ在住の女性、アイーダさんの体験だそうだ。
アイーダさんは二十代のころ、メキシコシティに暮らしていた。
ある日、彼女が売るタコスを贔屓にしている、魔術グッズを営む店主から何か買うように求められた。
しかたなく彼女は、お礼のつもりでたまたま目についた小ぶりの石鹸を買い求めた。
紙幣を数えながら、店主が彼女を見てニヤリと笑う。
『ウチのは市販品と違って、特別調合の本物だからな。まあ、気を付けて使いなよ』

その日の夜である。
彼女の八十歳になる祖母に、隣の若者が接吻をし続けるという事件が発生。
冷静になった若者曰く
『麻薬などやっていない!お宅のお祖母さんを見たら気持ちが抑え切れなくなって・・・・ 』
祖母は、家を出る前のシャワーでアイーダさんが購入した石鹸を使用していた。

『なんでも、旅行に来たニューヨーカーが彼女にひとめ惚れして、その日に求婚されたの』
この意味、わかるわよね。
マリアさんは不敵に笑って、話を全て終えた。

黒木あるじ

黒木あるじ
「参観日」
ワタナベさんという女性の小学時代の出来事である。
その日、彼女のクラスでは授業参観が行われていた。
生徒の親が教室の最後部に並び、子供たちの授業の様子を見守る。
生徒は緊張しているのか、先生に指名されると普段よりかしこまった態度で答える。
その様子に笑いがこぼれる。
そんな中、一人だけが暗い雰囲気だった。
授業参観の1ヶ月前に癌で母親を亡くしていたナオユキ君であった。
ワタナベさんは、ナオユキ君を気にかけていたが、言葉を掛けることもできなかった。
授業が終盤に近づいた頃、担任が暗い顔をしているナオユキ君に気がついた。
担任は黒板に書かれた計算式を答えるよう彼を指名した。
指名されたナオユキ君がのそりと立ち上がり、じっと考え込んだ。
答えがわからないのかと思い、いたたまれなくなったワタナベさんが代わりに手を
挙げて答えようとした瞬間・・・
『なおゆき』
教室中に女性の声が反響した。
その声は、ワタナベさん自身も聞き覚えのある、ナオユキ君の母親の声だった。
ナオユキ君は、音が聞こえるほどの涙を机に零しながら答えを口にした。
『正解です』 鼻をすすりながら担任が頷く。
誰からともなく湧きあがった拍手は、しばらく鳴りやまなかった。

黒木あるじ

黒木あるじ
「メイキャップアーティストの嗚咽」
ベテランのメイキャップアーティストであるXさんの元へ、顔なじみの大女優から電話が
入った。
「メイクをお願いしたいんだけど、明後日って時間ありますか?」
翌々日メイクに伺いますと約束して電話を切った。
ところが、当日の場所や時間を聴き損ねていたことに気付いた。
慌てて履歴を探して、電話をかける。
電話に出たのは、大女優の息子にあたる事務所幹部だった。
「母は、急性心不全で今朝亡くなりました。」
驚いて、今しがたのやり取りを告げると、受話器の向こうで息子が嗚咽を漏らした。
「おふくろ・・・いつもあなたのメイクは優しい表情になるって褒めていましたから。
きっと、最後の姿も化粧をして欲しかったんだと思います。」
改めて息子から依頼を受けた彼女は、葬儀当日、大女優の死に顔にメイクを施した。
参列を終え、タクシーを呼ぶためにXさんが携帯電話を確認すると、1件の不在通知が
履歴に残されていた。
あの大女優の番号だった。
「ありがとうって、言われているようで。今でもその履歴、消せないんです」

松村進吉

松村進吉
怪談稼業 侵蝕 松村進吉 角川書店
「ただ見て帰るの件」
地元の建設業者の方から『お化けの話を知っているねえちゃん』と紹介いただいたEさん。
その四十代と思われるEさんの実家(山奥の集落)での話。
小学三、四年生の時のこと。
深夜、眠れないでいると、小さく煌めくものが見えた。
なんだろうと見に行くと、蝋燭を持った真っ黒な人影が仏間に入って行くのが見えた。
そして、開け放たれた仏間には小指ほどの蝋燭が並んでいると思いきや、それは
黒い人影が手に手に持っている蝋燭だった。

この話を取材するために、草刈りをするEさんを手伝うという名目で実家へと向かった。
お祖母さんが健在で挨拶されたが、Eさんも知らないはずの松村の名前を知っていた。
また、Eさんが黒い人影の話をお祖母さんに振っても返事がない。
しかし、松村には泊まっていけという。そして、わけのわからない単語と『待っちょる』・・・・
結局、仏間を見ることもなく帰路についた。
『これ以上首を突っ込んで、私は無事でいられるのだろうか・・・・』

松村進吉

松村進吉
セメント怪談稼業 松村進吉 角川書店
「ある病院の件」
三十代の看護師、S野さんの体験。
彼女が今の仕事を始めて、まだ間もない頃。
彼女が担当グループに所属していたNさんという寝たきりのお婆さんが亡くなった。
Nさんに挨拶したい旨を先輩看護師に伝えると、私も一緒に行くと言われた。
そして主任看護師の元へ行くと、小声で事情を説明して許可を取ってくれた。
主任看護師は、S野さんに『丁度いいから、あなたも今のうちに見ておきなさい』
主任の言葉が何を指すものなのか、わからなかった。
Nさんとの対面、いつも通り眠っているようにも見えるが昨日とは違う肌の色。
S野さんは、その場で深々と頭を下げ、心の中でお別れの挨拶をした。
『S野、そのまま床を見て・・・・』
え?、とS野さんが瞼を開けて、そのまま床に視線を落とす。
『よく見て。ストレッチャーの周り』
携帯電話くらいの大きさの、白い曇り・・・
思わず、眉を顰める。それもひとつではなく、あちらこちらに、点々と列になって・・・・
裸足の子供の足跡。
『その病院で働いている人なら、みんな知っている話らしくて。いつかは知れること
だから、逆に早々に見せてしまって、必要以上に怖がらせないようにする方針だって』

松村進吉

松村進吉
「立ってろ」
高校3年、西尾君の体験。
ある日の数学の小テストの最中、後方から彼の頭上を越えて 『ビュンッ』
と、1本の鉛筆が黒板の方向へ飛んで行った。
それは凄い勢いで回転しながら、一直線に教卓に命中。
教室中に 『バシンッ』 という乾いた音を響かせた。
『・・・・誰だ!』
教卓から立ち上がった教師と、運悪く1番最初に目を合わせてしまったのが
他ならぬ西尾君であった。
『・・・・お前か。お前の方から飛んできたな、西尾』
『いや。違います』
『違わないよ。もうテストはいいから、後ろに立ってろ』
『ええっ?』
『ったく、この馬鹿が・・・・。こんな大事な時期に・・・』
突き放すような口調に、これ以上の抗議は無駄と悟った。
クラスの連中は、呆れた様子だった。
西尾君は全く腑に落ちないまま、数歩後ろに下がった。
彼の席は最後列だった。

福澤徹三

福澤徹三
怪の標本 福澤徹三 ハルキ・ホラー文庫
「怪の標本」
高校時代の友人T君の話である。T君の家は、地元でも有名企業を経営しており、閑静な住宅街の
一角に位置する日本家屋の豪邸だった。
その家に車が突っ込んでくる事故の件数が尋常ではない。T君が物心がついてから高校生までに
三十台近くの車が突っ込んできたという。
T君の家には不思議なことがもう一つあった。
T君には二つ年下の弟がいたが、弟の部屋から夜中に笑い声がするという。
T君が一階の部屋で受験勉強をしていると、二階の弟の部屋から笑い声が聞こえてきた。
友人を呼んで騒いでいるのだと思い、ソロリソロリと足音を忍ばせて階段を上がると、いきなり
弟の部屋をガラリと開けると怒鳴った。
『兄貴が勉強しよるのに、夜中に何しよるんじゃお前は!』
弟は布団の中から跳び起きて、何が起きたのかわからない様子で眼を擦っていた。
『友達を一瞬のうちに、どこに隠しよるんかわからん。不思議やけど犯人はあいつしかおらん。
ふてえ奴じゃ。いつか現場を見つけたら、どやしあげてやらないかん』
T君は寝不足の赤い眼をして、よく学校で毒づいていたが、ついに現場を取り押さえることは
できなかったらしい。
その後、父親の話で、笑い声は生きているものの仕業ではないことが知れたとのこと。

福澤徹三

福澤徹三

直進道路なのに何故か、落下事故が多い東京都足立区のK北橋。
管理人が隣の区に住んでいる時は幽霊が出る橋と言われていましたよ。
何度か、この橋を歩いて渡りました・・・・もちろん昼間・・・・

平谷美樹

平谷美樹
「花嫁の桜」
香澄さんはヘアスタイリストをしている。
6年前から市内のホテルで結婚式の仕事をするようになった。
自分の手で美しく変身した女性が愛する人のもとへ嫁いで行く、たとえ仕事でも
花嫁の感動を共有できた。
それが今では慣れてしまい、感動より効率を優先するようになっていた。
そんな時に1組のカップルが相談に来た。
年上の彼女で離婚歴があり小学生の子供がいる。男性は初婚。
二人は予算がないのでシンプルな式を希望していたが、打ち合わせを重ねると
彼女が重い病気で余命6ヶ月と宣告されていることが判明した。
話を聞いたホテルの担当者は二人に言った。
『我々の儲けなど構いません。最高の結婚式にしましょう。この世で一番幸せな
ご夫婦になってください』
その言葉通り、ホテル側は採算度外視で心のこもった素晴らしい結婚式を準備。
結婚式当日、花嫁の体調が悪いらしく、香澄さんは青白い顔をした彼女を
精一杯美しく演出した。ホテルのスタッフも懸命にサポートした。
披露宴の途中、ホテルの庭に桜の苗木を植樹するセレモニーが行われた。
花嫁は最後まで笑顔を絶やさず、参列者たちは『いい結婚式だった』と帰った。
新郎新婦とその家族はホテルのスタッフに涙ながらに感謝の言葉を述べ
スタッフも彼らとともに号泣した。
香澄さんも泣いた、この仕事を始めた頃のような感動だった。
それから2年、もう花嫁はこの世の人ではなくなってしまったが、彼女が夫と植えた
桜は他のどの苗よりも生育がよいので、毎年、可憐な花を咲かせることだろう。

平谷美樹

平谷美樹
「ボランティアさんの話」
東日本大震災の時に瓦礫撤去のボランティアをされていた方の体験。
沿岸では宿泊できる施設がなかったことから、1時間以上の車の移動で
朝は内陸から沿岸へ、夕刻は沿岸から内陸の宿泊施設へ通っていた。
その日の作業も終わり、明日の打ち合わせをしていた時のこと。
大人が大勢いる輪の中に小学4、5年生の男の子が紛れ込んできた。
まだ、電気も来ていない暗くなる時間帯に、周りは瓦礫の山・・・・
小学生には危険すぎる場所だった。
『もう暗くなるよ。はやくおうちに帰りなさい』
ボランティアの1人が声をかけた・・・
『ぼく、もっと生きたかった・・・・』 と言いながら小学生は薄くなって消えていった。
ボランティアたちは、恐怖より悲しい気持ちになって皆で手を合わせて
冥福を祈らずにはいられなかった。

平谷美樹

平谷美樹
「父の香り」
体験者の結婚式のこと。
雛壇の新婦の席に座っていると甘い香りが漂ってきた。
彼女は、はっとして周囲を見回した。
1年前に亡くなった彼女の父が吸っていたパイプの香りなのだ。
アロマティック煙草と言って、バニラの香料を添加したものを時に好んで
吸っていたという。
周りにパイプを吸っている人はいないし、バニラ系のデザートも出ていない。
彼女の母も香りに気がついた様で、目頭を押さえている。
この煙の香りをあんなに毛嫌いしていたのに、今はとても懐かしい・・・
『おとうさん』

平谷美樹

平谷美樹
「林の親子」
ある方の中学生の時の体験。
初夏のころに林間学校があり、県の施設に行った。
屋外のコテージに泊まり、夜はキャンプファイヤーという設定だった。
夕飯を終え、ようやファイヤーサークルに火が点けられた。
周囲は林で囲まれている。
ふと見ると、林の暗がりの中に人がいる・・・
親子連れと思える二人連れ。
その方向を見ながら話していると他のクラスの連中も寄ってきた。
『二人連れが立っているよな』
中には、子供に手を振る女子までいた。
その時、担任の教師に『集合』と言われ、親子連れのことは忘れた。
翌朝、トイレに行った。
その帰りに親子連れが立っていた場所を見に行くことにした。
林に近づくと柵があり、その先は崖になっていた。
親子連れは、、空中に浮いていたのだった。

平谷美樹

平谷美樹
「写真」
ある男性が本社の指示で、勤務する工場の現場を写真に撮った。
『至急』ということだがデジタルカメラではなく、普通のフィルムカメラで撮り
ネガとプリントを送れというもの。
早速、現像に出して、退社時に受け取った。
家に帰り、夕飯を食べながら写真の確認をしていた。
妻が横から覗き込んで・・・・
『これ、何?』
職場の簡単な説明をした。
『そうじゃなくて・・・・』
機械と床の隙間に、逆さまになった男の子の顔が写っていた。
白い顔は、どう見ても生きている人間の顔じゃない。
『どうするの?』
『至急ってことだから、写真を撮りなおす時間もない。このまま
明朝、宅配便で送るよ』
という訳で、彼の会社の本社資料には心霊写真が入っている。

平谷美樹

平谷美樹
「走る子供」
ある方が中学3年の時の体験。
友人と自転車で学校からの帰り道、目の前の脇道から子供が
飛び出してきた。
小学3年生くらいの男の子で、坊主頭で白いシャツに半ズボンを
はいていた。
やがて、その男の子は近所では1番の旧家へと入って行った。

翌朝、昨晩に男の子が入って行った旧家のおばあさんが来て
うちの祖母と話しているのが聞こえた。
『もうじき、うちの孫の○回忌になります。よろしくお願いします』
そうだ、あの家には男の子がいたが、川で溺れて死んだんだと
思い出した。
自分の命日に自宅に帰ってきたんだと思うと切ない気持ちになった
とのこと。

平谷美樹

平谷美樹

「霊」の存在を感じても見えない時は・・・犬の行動で判断するという話。
見えれば、崩れた姿か、綺麗な姿か、睨んだり怒っていたり
笑っていたりで危険度を判断できるが、見えない時は犬の判断に頼る。
霊の存在を感じているのに、犬が吠えない、そのまま居る場合は
害がない。
逆に、吠える、移動する場合は害のある霊だと判断して、早々に
立ち去る。
参考にどうぞ

平谷美樹

平谷美樹

こちらも100話あります。

「扉を叩く者」
ある方が自衛隊員だった時に、大きな事故が起きて多数の死者が出た。
その町の小学校の体育館が遺体安置所となり、調査の後
それぞれの遺族へ引き取られて行った。
撤収作業に追われている中で、体育館の扉が勝手に開くという話が
出たために、いっそ鍵をしめてしまえと数人の隊員が体育館へ向かった。
体育館内には誰もないことを確認して、鍵をかけた・・・その途端
内側から激しく扉を叩く音がガンガンをしてきたのです。
中にいた人を見逃して鍵をかけてしまったと思い、急いで扉を開けたが
体育館の中には誰もいなかったとのこと。

平谷美樹

平谷美樹
こちらも100話あり。

「お墓の形」
墓石を扱う商売をしている方が、注文の墓石を隣町へ立てに行った時のこと。
近くに奇妙な形の墓石を見つけた。
通常の墓石を斜めに切り落としたような形の墓石で新しくはない。
いっしょに作業をしていた地元の石屋の方に聞いたら・・・
『あの家は、代々刃物で切られて亡くなっている人が多い』

平谷美樹

平谷美樹
こちらは106話あるようです。

「葬儀屋さんの話 ドア」
ある方が葬儀屋に就職して間もない頃に、誰もいない事務所の自動ドアが
開くのを目撃して不思議に思う・・・。
それから数ヶ月経つと、それがどういうことか解りかけてきたある日
先輩といっしょに、誰もいない自動ドアが開くを目撃した。
先輩曰く『葬儀が入るよ』・・・『やっぱり』

平谷美樹

平谷美樹

こちらも100話あります。
第二話も、あえて一気に読まずに数日かけて読んだためか
何も起こりませんでした。

「怒られたはなし」
前作『百物語』を作っていたときの担当編集者が体験した話。
編集者が校正をチェックしていて問題点が出たので連絡を取った。
しかし、自宅が不在だったので急ぎだったことから携帯電話に電話をした。
電話をすると留守電になったのでメッセージを吹き込もうと用意したとき
 『うるせぇ!馬鹿ッ!』・・・・
携帯電話の持ち主のいたずらではないのは言うまでもありません。

平谷美樹

平谷美樹

1冊で100話あります。
100話を数日に渡って読んだためか、私自身に不思議なことは
起こりませんでした。

「鋏女」
角川春樹事務所は出るとのこと。髪の長い女が首をしめてきたり、裁ち鋏で
滅多刺しにされる。
刺されると傷は無いが激痛が走るということ。

平山夢明

平山夢明
「足跡」
あるデザイナーの女性の体験。
10年前の初冬、マンションのドアの前に産まれたばかりの仔猫が死んでいた。
かわいそうに思った彼女は会社に遅れるのも気にせず、近くの公園に仔猫を埋め
翌日に花束と線香を供えた。
1週間くらいすると、家のいろいろな場所に牡丹のような模様がつくようになった。
デザイナー仲間に模様を書いて説明すると、永く猫を飼っている男性が
『これ、猫の足跡だよ』
そこで、死んでいた仔猫の話をすると
『それ、絶対に来ていると思う。だけど、悪さをしに来ているのではなく、死んだことにも
気づかないまま、親切にしてくれた人を親だと思って懐いているだけだよ。
少しの間、放っておいてあげるのも供養だと思うよ』
そこで彼女は放っておくことにしたが、イラスト原稿の上に足跡が付くことに困り
近くの神社へ相談に行った。
彼女の話を聞いた宮司は、御神酒を皿に入れて玄関と窓際に置くようにと勧めた。
効果はてきめんで翌日から足跡がなくなったが、なくなると寂しくなる。
そこで、仕事が忙しい時はお神酒を出し、忙しくない時は足跡が見えるようにした。
ある日、街で占い師に呼び止められた。
占い師によれば、神獣に近い黄金に輝く雄猫が彼女を守っていると。

一介のデザイナーから人も羨む順調なキャリアを積んだ彼女に、来年、ベルギー、パリ
ニューヨークで個展を開くオファーが来ている。

平山夢明

平山夢明
「猫の目」
ある日、飼い猫と遊んでいると、突然、飼い猫がピタリと動きを止め
彼女の顔をマジマジと覗き込んで来た。
『うん?、どうした?』
飼い猫の顔を見た。
瞳を見ると、自分が映っていた・・・・
その後ろに、首が折れ曲がった男がいた。

平山夢明

平山夢明
「心霊さん、いらっしゃい!」
高浜君が所属する大学の自主制作映画サークルでドキュメンタリー映画を
作ることになった。
始めはどうなることかと思っていたが、いろいろな廃墟や曰くつきの場所
事故多発地帯等を撮影しているうちに、作品になってきた。
その日は、有る程度出来上がった段階の映像をチェックするために
高浜君の部屋に4人が集まった。
酒盛りしながら映像を見ていたが、昼間のバイトの疲れから眠ってしまった。
目が覚めると、外は明るくなり始めていた。
ふと見ると、テレビの前の座椅子に髪の長い女性が座っている。
手と足を前に伸ばして座っている・・・
『どうも見たことがない女性だなあ~、誰の彼女かなあ~』
外していた眼鏡をかけ、後頭部と思われる場所を凝視していると・・・・
目があった。体は前を向き、首だけ異様な角度に曲げている。
『生きている人間ではない』
鼻から下が抉られたようになかった・・・・そこで高浜君は気絶した。

『おい、起きろよ』
仲間の2人に起こされた。
昨夜はビデオテープが絡んでしまい、分解する工具を取りに帰ったとのこと。
早速、ビデオテープを引き出そうとすると・・・・
そこには、女性の髪の毛と思われる長い毛が大量に詰まっていた。
ビデオデッキごと、お寺へ供養に出したそう。

平山夢明

平山夢明
「相談」
相良さんは会社の後輩から、相談に乗って欲しいと訪問を受けた。
その後輩は何かと問題のある娘だった。
『まあ、問題行動は全て男女関係。その娘、ちょっと見がかわいいから男がコロっと
騙されちゃうのよ。そんでもって、彼女のいる男を奪っておいて、影でガッツポーズ
している噂だったわ』
後輩が来てドアを開けて、すぐ異変に気づいた。
後輩の後ろに、ブレた画像のような女が相良さんを睨みつけていた。
今まで幽霊なんて見たことなかったが、ひと目で生きている人間じゃないとわかった。
見ていると、ブレた画像の女はクローゼットの中へ入って消えた・・・
『あ~、なんだか急に楽になったので、もう帰ります』
後輩が急に元気になって、帰るという。
相良さんは、急いでクローゼットを開けるとブレた女がしがみ付いたブランド物の服を
袋に詰め込み・・・・
『お古で悪いけど、良かったら使って』
『先輩・・・・』
『元気出せって』
それから間もなく後輩は病気療養のため退社した。
狂ったのだとの噂があった。

平山夢明

平山夢明
「負の遺産」
産まれる時に2度も心肺停止した彼女の妊娠から
出産に関わる話。
自分の先祖が犯した『負の遺産』のために子が死産
難産となることが常の家系。
その恨みを母から聞きながら妊娠した。
出産までの間、悪い気配を感じると
『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝り続けた。
ある晩、悪い気配にお腹を蹴られ、激痛に耐えながら眠ってしまった。
朝、慌てた夫が彼女を揺り起こした。
枕は血で染まっていた。
彼女の耳の1部が千切れていた・・・。
それを聞いた母は
『これで、お腹の子はもう大丈夫。あんたも耳全部を持って行かれた
わけではないので良かったね』
と大喜びであった。
彼女は無事、女の子を出産した。

平山夢明

平山夢明
「水で死ぬ」
野宮さんという女性が大学時代の友人から聞いた話。
『私は水で死ぬの』と言っていた。
その原因は、小学生時代に3人で1人の少女をいじめぬいた・・・
最後には、あろうことか、亡くなった彼女の父の墓にいたずら書きをした。
そこで白目を剥いた彼女が3人へ向かい
『あまえは鉄で死ね』
『おまえは火で死ね』
『おまえは水で死ね』
小学校を卒業すると、いじめられた少女は転居して行った。
いじめた3人は地元中学へ進学したが、高校へいく頃には付き合いがなくなっていた。
高校2年になって、鉄で死ねと言われた女の子がスクーターを運転中にダンプに轢かれ、即死。
残った2人は、電話で話しながら『どうしよう』と繰り返していた。
そして、2年後、火で死ねと言われた女性が自宅でゴミを燃やしている最中にガスライターが爆発。近くにあった灯油へ引火して焼死。
そして、大学に進学して野宮さんへ告白すると、まもなく彼女は亡くなった。
不安を紛らすために飲んだ大量のアルコールが原因で、肝硬変で亡くなったのだとか。

勁文社の「超」怖い話全11巻の話を
抜粋したものと新作10話です。

平山夢明

平山夢明
「レントゲン」
自分の時間が取れずに、結婚もできないと
悩んでいた医師。
ある日、その悩みを先輩医師にすると
意外な解決策があった。
それは、レントゲン写真でその患者の生死が
わかるというものだった。

勁文社の新「超」怖い話3~Q(9)の話を
抜粋したものです。

平山夢明

平山夢明
「火葬場にて」
ある兄弟が火葬場で通夜をした。
深夜、トイレに向かうと自動ドアが開閉する音が響く。
翌朝、係員にその話をすると、自動ドアの電源は切っていたので開くはずがないと。
ようく見てみると、館内側のガラスに手の跡がビッシリと付いていた。

勁文社の新「超」怖い話5~7の話を抜粋した
ものです。

平山夢明
怖い本(1)
平山夢明
「ヴァンパイヤ」
ある日本人男性がアメリカ旅行をしていた時のこと。
ひょんなことで知り合いになったアメリカ人の男性に、機会があったら自宅に
寄るように言われたことを思い出し、その友人宅へ行った。
すると、友人の妹に『祖父はヴァンパイヤだから近づいてはダメ』と警告される。
危険を察知して、友人宅には泊まらず、自分の車の中で寝た。
深夜、目を覚ますと、外に祖父がいる・・・・車で逃げた。
逃げる時、祖父をカメラで何枚か撮った。
しかし、現像した写真には祖父の姿はなかった。

勁文社の新「超」怖い話1~3の中から抜粋したもの。

平山夢明

平山夢明
「峠の出来事」
ある土曜日の深夜、高校3年生の男女のカップルが車でドライブに出かけた。
車は山を登り始め、とあるカーブへ差し掛かったところ、急ブレーキで止まった。
彼がドアを開け、外に飛び出した。
『はねちゃったよ。急に飛び出して来るんだもん』
作業着の男だった。
救急車を呼ぶより、病院まで運んだ方が早いと判断した彼らは男を後部座席へ寝かせた。
車を発進させると猛スピードで走る。
途中、彼が大声で叫ぶと、すごい衝撃と大きな音が響いた。
今度は若い女だった。
かすかに動いたので生きていると思い、迷わず後部座席へ運んだ。
車に戻ると病院目指してぶっ飛ばした。
山を下ると救急病院が見えてきた。
彼は夜間救急搬送口に車を横付けすると、急いで入り口ドアを叩きだした。
『こら~』 警備員が飛んできた。
『あ、あ、大変なんです。ぼく、ぼく、はねてしまいました』
警備員が後部座席を覗き込むと
『まただ・・・』
その様子に、彼と彼女も車の後部座席を覗いた・・・・
そこには、大きな木の枝がふたつ乗っていただけだった。

大迫純一
あやかし通信『怪』
大迫純一
「宙を走るもののこと」
筆者の奥様が小学生だった時の体験。
夜中に目を覚ますと、宙に着物が浮いていた。
そして、それは天井付近まで上昇すると、手足を動かし
まるで空中を走るがごとくであったという・・・。

次には、兄の部屋にも出没したとのこと。

福井香代子

福井香代子
「お告げ」
Y子さんは、亡くなった祖母と話す夢を見た。
可愛がってくれ、大好きだった祖母の姿に心温まる思いを感じた。
Y子さんが呼びかける前に、祖母が口を開いた。
『人はな、Y子。いつ死ぬか、もう決まってんだ。-----は五十歳で死ぬ』
誰のことなのか聞きとれず
『それって、私のこと?』
『違う。おめえじゃねぇ』
そこで目が覚めた。

Y子さんの叔父が、祖父の命日に訪ねて来た。
しばらくゆっくり歓談していたが、いざ帰るという時になって、あの夢のことを思い出した。
聞き取れなかった名前は叔父ではないのか?
しかし、姿を見る限り元気だし、仕事もバリバリこなしているようだ。
馬鹿馬鹿しい、と思ったその夜に、叔父は風呂場で脳梗塞を発症して亡くなった。
夢の言葉通り、享年五十だったという。

中岡俊哉

中岡俊哉
死後界の霊写真 中岡 俊哉 永岡書店

バスの中の子供に関係する老人の顔とのこと(背後霊)

中岡俊哉

中岡俊哉
ネクタイ姿の男性の霊
「奥多摩の幽霊バイク」
彼女と夜、奥多摩へドライブに行った時のこと。
この辺りは走り屋が腕試しに来ることでも有名だと彼女と話していると
後方から、バイクの物と思われるライトの光が近づいて来た。
ものすごいスピードを出しているため、アッという間に追い越して
行きました。そして、その先のカーブを曲がり切れずにライトが
谷底へ落ちて行くのが見えました。
現場に着くと、すぐに強力ライトで10メートルたらずの谷底を
照らしましたが、人はおろかバイクさえも見つかりません。
それに、バイクが追突したはずのガードレールに何の傷も
ないのです。
きつねにつままれた気分で帰ってきた後に聞いた話では
猛スピードで消えるバイクの霊が度々目撃されているとのこと。


北野 翔一

北野翔一
「迎えに来たのは」
ある保育園でのこと。
保護者が迎えに来る時間になったので、それぞれの子供を引き渡していた。
その中に祖母が迎えに来た家があったが、何回か迎えに来ることがあった
のでスムーズに子供の引渡しが出来た。
しかし、顔色が悪いのと言葉を話さないことから「体の具合でも悪いのか」と
保育士の間で話をしていた最中に電話が鳴った。
電話に出ると、たった今、祖母が迎えに来た家からの電話だった。
家族に不幸があったので迎えが少し遅れるとのことなので、たった今
お祖母さんが迎えに来たことを告げると・・・・
亡くなったのはお祖母さんなので、そんなはずはないと言う。
急いで園児を追いかけて行くと、お祖母さんの姿はなかったものの
園児は今までお祖母さんと一緒だったと・・・

矢島誠

矢島誠
こけし」
『ガラスケースの中のこけしは火に入れて燃やしてね』
母は、そう言い残して息を引き取った。早すぎる死だった。
母から、こけしは燃やせと言われていたが、母が大切にしていた物を
燃やしてしまうのは寂しくて、こけしをガラスケースから出しておいた。
そのこけしは大きさが40センチほどの大きさで、なぜこのこけしだけが
ガラスケースに入っていたのか?と思いながら、他のこけしと同じ
場所へ並べた。
数日たった日、小さいこけしが無くなっているのに気づいた。
たしかに置いてあったこけしがない。
おかしいと思いながら数日が経った。また、小さいこけしがなくなった。
ふと見ると、大きいこけしの背丈が大きくなっているようだ・・・・
『もしかして、このこけしが他のこけしを食べたとか?!』
そんな想像をした日から数日経って、友人の子供を1晩預かることになった。
晩ご飯を食べさせて、就寝まで順調に運んで、子供は眠りについた。
突然、火のつくように泣き出した子供の元に行くと、あの大きなこけしが
子供の胸の上に乗り、大きな口で頭を食べようとしてる時だった。
思わず手でこけしをたたき落とした。
その後、ゴミのポリ容器の中へ突っ込んだ。
次の日、起きてみると、昨日ポリ容器の中へ捨てたはずのこけしが元の
場所に立っていた。
母の言葉を思い出し、神社でこけしを燃やした。

狩野英孝

狩野英孝

狩野英孝が撮影した心霊写真

織田無道

織田無道

落ち武者の自縛霊とのこと

織田無道

織田無道

本には、もっとはっきり写っています

山口敏太郎

山口敏太郎
「織田信長がやってくる」
筆者が手がけた歴史小説の執筆時に信長公に監視されていると思ったと。
小説のオリジナルキャラクターの『シチ』のモデルとした知人のシチさん
本人が実は、先祖がシチ衆として信長に仕えていた。
また、熊本城を取材する際に案内してくれた知人は『先祖が黒田官兵衛の
家臣』であることが後にわかった。
妻の母方で病人が出たので見舞いに行けば、先祖が加藤清正の家臣。
この話を『怪談ライブ』で話したところ、いつも協力してくれている人の
先祖が松永弾正久秀だった。
その他、妙なことがたくさん起きたが、小説が完成して大徳寺の坐像に
御礼に参ったところ、尼僧さんがこう言った。
『信長公は、最初、非協力的だったけど、今は山口さんの小説を認めて
いるようです』
この言葉を聴いて、ようやく安堵した。

つのだじろう

つのだじろう
あの日航事故・御巣鷹山で亡くなった坂本九が、つのだじろうに
一時、憑依していたという。
自分の家に帰りたいということで、つのだじろうの次に憑依した
霊能者に具体的なことを訴えた。
しかし、つのだじろうには柏木由紀子への伝が何も無かったために
悩んだ。
けれど、ふっと思い立って出かけた先の知り合いが柏木由紀子の
ご近所さんで普段からお付き合いのある方だったから、話はトントン
拍子に進んだ・・・九ちゃんは家に帰れたようです。

宗優子

宗優子
「学校霊 アキコ」
とある小学校でのこと。
ある女の子がいじめにあっていた。
その女の子を特にいじめるのは、同じクラスの女の子だった。
いじめられっ子の女の子は、お昼ご飯を食べるとトイレ隠れるのが常。
それを知っていて、いじめっ子の女の子はトイレにやってきた。
『ここにいるのはわかっているのだから、ドア開けなさいよ』
トイレの戸が開き、中には女の子の姿があった。
突然、いじめっ子は腕を掴まれたまま、トイレに引っ張られた。
戸が閉まると、彼女の腕を掴んだままの壁に浮き出た影が話し出した。
『いじめは楽しい?楽しいわよね。わたしもあなたをいじめてとっても楽しいもの。
今から、もっともっといじめてあげるわね』
(ごめんなさい、もういじめない)いじめっ子は心の中で言った。
『今、嘘をつこうとしたでしょう?ここから出たらいじめるんだって。
わたしにはわかるの。そのぐらいじゃないと私もいじめ甲斐がないわ』
いじめっ子の女の子は必死になって(もう、いじめません)と何回も心で叫んだ。
すると、トイレの戸が開いた。
それからは、いじめがなくなりアキコのことが学校で話題になったとのこと。」

宗優子
宗優子の「心霊写真の世界」
宗優子
「葬式の写真」
北海道では葬儀の時に記念写真を撮る。
ある会社の社長さんが亡くなった。
仕事上のお付合いの営業マンが通夜、告別式
火葬場へ、最後に記念写真を撮った。
その記念写真を持ち歩くようになると、仕事は
順調、恋人までできた。

しかし、ある日、恋人に振られ、会社も倒産・・・
実は、写真を入れたままの背広をクリーニング
へ出したために運が尽きたという話。

宗優子
「極上」の怖い話(取り憑かれた部屋)
宗優子
「ざるそばの家」
週に二回は、ざるそば3人前を注文してくる
ご主人と奥さん二人暮らしのお宅があった。
その日はざるそばではなく、天丼、鍋焼きの注文。
早速、出前に行くと、玄関の中から奥さんの声で
お金は外の下駄箱の上にあるから持って行って
とのこと。
次の日、どんぶりを取りに行くと、見知らぬ親子
連れがいる・・・出前のどんぶりを取りに来た旨
伝えると、昨日の時点でご夫婦は二人とも既に
亡くなっていたとのこと・・・・

稲川淳二

稲川淳二
川淳二のすご~く恐い話ベストセレクション 稲川淳二 リンド文庫
「お姉ちゃん、遊ぼう」
ある女子大生が入院先の病院で、隣のベッドの幼い女の子と仲良くなった。
女の子は、風貌から重病であろうと思われた。
そして、女の子の手術の日
『心配いらないよ。眠っている間に治っちゃうよ。元気になったら遊ぼうね』
『お姉ちゃん、じゃ、指切りしよう』
女の子はストレッチャーで運ばれていった。
女子大生は、女の子の無事を祈っているうちに、いつしか寝ていた・・・・
ふっと、目が覚めたが、体が動かない・・・・
何かが体に乗っている。
『お姉ちゃん、遊んで』 �顔がグッと現れた。
『ああ、良かった。終わったの』
女の子と遊び始めたが、おかしい、何か、おかしいと感じる・・・
『おとうさんは? おかあさんは?』 と聞いてもニコニコしているだけで何も答えない。
(この子、おかしい。やっぱり、この子、おかしい) と思った時
『お姉ちゃん、私と一緒に遊びに行こう』
『どこへ?』
『ちょっと、こっち行こう』
不安が広がった・・・・
『お姉ちゃん、行けないよ』
『お姉ちゃん、行こう』 と女の子が彼女の手を掴んで、引っ張った。
その女の子の手がすごく冷たかった・・・・
(この子は、あの子じゃない。この子は死んだんだ)と思った。
『お姉ちゃんは行かないよ』 と言うと
『嘘つき!』 と、ものすごい形相になって消えた・・・・

表がガタガタするので目が覚めた。
慌ただしく動く看護師さんに何があったか聞いてみると・・・・
『実は先ほど、手術中に亡くなりました』

稲川淳二

稲川淳二
真説・稲川淳二のすご~く恐い話 上がれない二階 稲川淳二 リンド文庫
「親友のS」
稲川淳二が四十九年ぶりにあった高校のクラスメイトのMから聞いた話。
彼は、木工の工芸家で、東京の奥多摩にある自分の工房で製作をしている。
仕事に没頭すると、家には帰らずに工房に泊まり込むことが多く、そんなある晩の事
工房の畳の上で明かりを消して横になった。
その日は珍しく寝付けない・・・・目を閉じて何とか寝ようとするが眠くならない。
普段は時計など見ない彼が時計を見れば、時刻は午前二時になっていた。
と、突然
『真っ暗でさ何も見えないよ。・・・まわりで人の気配はしているんだけど、やっぱりそっちがいい』
と闇の中で声がした。
”ん? Sの声だ!”
以前は泊りに来ていた親友の声がしたんで、びっくりしたものの、嬉しくなって
『おまえ、こんな時間に来たのかよ』
急いで起き上がると明かりを点けた。が、姿がない。
なんとも気になったので、唯一の連絡先である彼の姉に電話をしてみたところ
『弟は先日亡くなりました』
死亡時刻を聞くと、Sの声を聞いた時刻だった。
『亡くなるほんの少し前に、一瞬、弟の顔が笑ったんですよ』
とお姉さんが言ったそうです。
”ああ、自分を探す俺の姿を隠れて見ながら、笑ってたんだなぁSの奴”と思ったそう。

稲川淳二

稲川淳二
「ドスンと音がして」
ドスン と凄い音がして身体が激しく揺れた。
気がつくと
『俺、今どうなっている?』 声がした方を見ると、ナカノの顔から右の眼球が飛び出していた。
『こいつは酷いな』 周りの声から事故に巻き込まれたと気付く。
『お前、生きているか?』 ナカノの声が聞こえたが、そのまま意識が途切れた。
目が開くと、白い天井が見えた。そして、母親の顔が覗く。
その時になって、何があったのか初めてわかった。
ナカノと車で建設現場に差し掛かったところで交通渋滞につかまり、そこへバランスを
崩したクレーン車が倒れて来たのだ。
自分たちの車を直撃し、ナカノは即死だったそう。
そしてまた、意識が遠のいた。
電話の着信音が聞こえ、だんだん大きくなってくる。
電話に出るとナカノのだった・・・・これから来ると言う・・・ そこで目覚めた。
『夢か・・・夢だったのか・・・』
また、フーっと眠りについた。
そしてまた、電話の着信音が聞こえ、だんだん大きくなってくる。
電話に出るとナカノの声で・・・今、お前のところに来ていると言う・・・ そこで目覚めた。
『ああ夢か』 と目をつぶろうとすると人の気配を感じた。
当たりを見回すと、壁の前にナカノが立っている。
『あれ?ナカノは死んだんじゃなかったっけ?』
ナカノはゆっくりと近づいて来ると、自分を覗き込みながら・・・・
『なあ・・・ 俺といっしょに行こうや』 と言ってグーっと手を伸ばしてきた・・・・

稲川淳二

稲川淳二
首吊りのマンション」
東京の山の手のマンションに一人で住む、稲川淳二の従兄の女性の体験。
ある日、友人夫妻が海外旅行へ行くことになり留守番を頼まれた。
友人夫妻の住むマンションは高級マンションで、今までも度々遊びに来ていたので
勝手の知れた家であることから二つ返事でOKした。
留守番が始まったが居心地が良いことから、あっという間に2週間が過ぎた。
自分のマンションへも帰らないといけないと思い、夕方帰り、翌朝を迎えた。
朝、起きると騒々しい。閑静な山の手のはずなのに、近くに大勢の人の声。
しばらくすると、玄関のインターホンが鳴った。
それは警官で、隣に住む女性が遺体で発見され、死亡推定時刻が昨晩遅くである
ことから、何か見たり聞いたりしていないかとのことだった。
それを皮切りに、友人のマンションから自分のマンションへ帰る度に隣で自殺者が出た。
隣の自殺者が3人になってから、隣から人がいる物音が聞こえるようになった。
管理人に聞くと、オーナーから鍵を預かっているので誰も中には入れないとのこと。
ある晩、隣の足音が玄関を開ける音と共に外へ出た。
ドアの覗き穴から正体を見てやろうか、やめようかと思っているうちに目が暗闇になれ
スカートが見え、視線を上げるとブラウスが見え、その上に女の顔があった。
玄関の内側に見知らぬ女が立ち、自分を見つめていた。

稲川淳二

稲川淳二
「緑の館」
ある大学の教授が昭和の時代に講演を頼まれて、ある土地に来た時のこと。
講演を終え、一息ついているところへ知らない男が訪ねてきた。
自分の家に代々伝わる恐ろしい話を聞いてほしいと。ただ、この話を人に言うと
言った人間が命を取られるというもの。
男は2日に渡って話をするために教授の宿に通った。
その話とは、嫉妬深い嫁が死に、再婚すると怨霊となった嫁が花嫁を殺すという
ものだった。
話し終えた男が消えてしまったので、翌日、その男の家を訪ねてみると・・・・
男は3日前に蔵の中で死んでいて、教授のもとを訪れたのはこの世の人では
なかったと知る。

稲川淳二

稲川淳二
「閉ざされたブラインド」
ある若い女性が入居したアパートでのこと。
たたみは新しいし、壁も台所も綺麗で家賃が安い、いい物件だと思った。
しかし、日当たりが悪く部屋の中が暗い。
それでも家賃が安いからと割り切って生活していたが、1つだけ気になることがあった。
それは、窓の向こうにある隣接するアパートの1室の窓。
日当たりが悪いのに、四六時中ブラインドが閉まっている。
そんなある日、会社で同僚からこんな話を聞かされた。
30代のOLが自ら嘔吐したものに顔をうずめ、窒息死した。その後は、その部屋に
怨霊となって取り憑き、時々姿を見せるというもの。
『そう言えば、あんたのアパートの近くらしいよ』と聞いた時に、隣の閉めきった
ブラインドの部屋がそうなのではないかと思った。
それからしばらくしたある日、夜中に目が覚めた。布団にだれかが乗って息苦しい。
見ないように目を閉じていたが、『グェ~』との声に目を開けてしまった。
痩せこけた女の顔が目の前で彼女を睨んでいた・・・・意識が遠のく・・・
女が死んだのがこの部屋で、隣は見えないようにブラインドを閉じていたと気づいた。

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稲川淳二
「真下の怨霊」
NPO法人に勤務する女性の体験。
彼女はバリバリのキャリアウーマンでNPO法人の紹介であるアパートに越してきた。
しかし、明朗活発な彼女がアパートに住むようになって、暗く、他人と打ち解けない
性格と変わっていった。
そして、ある夜にゴロンと転がる物体の中に、目、鼻、口と付いているのを見てしまう。
『うぎゃ~』と言う声を出した後のことは覚えていない。
目が覚めたら病院のベッドの上だった。
医者が曰く
『あなたは肉体的にも精神的にも衰弱しきっていて、何時死んでもおかしくない』
彼女が真下の怨霊に狙われた1回めは、これで難を逃れた。
彼女は入院することで本来の明るさと明朗さを取り戻した。
そして、海外へ赴任して実績を残して日本に帰って来た。
たまたまの飲み会の席が入院するはめになったアパートの近くだった。
なぜか、彼女は飲み会の途中で席を抜け出し、そのアパートへ向かう。
そして、以前に自分が住んでいた部屋のドアに鍵がかかっていないことを確認すると
よせば良いのに部屋の中に入って行く。
そして、丸い輪の中に首を通したときに急に苦しくなった。
『もう、私は死ぬんだ』と思った時に、同じNPOの同僚の男性に助けられた。
彼女は自分から、上から下がるロープの輪に首を入れていたのでした。
しかし、彼が後を付けてきてくれたお陰で首が絞まった直後に救出することが出来て
彼女は2度に渡って一命を取り留めました。
実はその部屋は、不治の病で監禁された上で亡くなった男性の牢屋だったのです。
たぶん、彼は彼女を狙っていたと思うのです。

稲川淳二

稲川淳二
「非常階段の生首」
ある男性が、夜、自宅近くを友人と歩いている時のこと。
友人が急に
「俺、今、いやな物見ちゃったよ」と言う。
今しがた通り過ぎた建物の螺旋階段の上に首だけが乗っていたとのこと。
嫌がる友人を引き連れ、現場で確かめることにした。
そこは、いつもは見過ごしてしまっていた場所で建物に螺旋階段が
交差するように2つ付いている。
友人は、交差する当たりの場所で生首を見たと言うが、生首はなかった。
数日後、その男性が1人で歩いていた時に生首のことを思い出し
その場所へと行ってみることにした。
問題の建物に着くと、なんだかおかしい。
それは、確かに2つあった螺旋階段が1つしかなかったことだった。


稲川淳二

稲川淳二
「橋の女」
同僚数人と会社の上司の別荘へ遊びに行ったときのこと。
最終電車で来る同僚一人を駅まで車で迎えに出た男性は、途中の橋で
ピンクのスラックスをはいて、橋の下を眺める若い女性を見かける。
同僚を乗せ、別荘へ戻る車中でピンクのスラックスの女性の話をしたところ
『自殺ではないか?』とのことで、様子を見に行くことにした。
ピンクのスラックスをはいた女性は、相変わらず橋の下を眺めている様子。
二人も同じように、橋の下を見た。
すると、水面の上に女性の上半身が立っている・・・
訳がわからず眺めていたが、同僚が納得のいく説明をしてくれた。
『橋の上と下にいるのは同一人物で、橋の上が下半身、橋の下が上半身と
いうことだ』
つまりは生きている人間ではない、と気づいた二人は悲鳴とともに車へと逃げた。
別荘に着いて一連の話をすると、上司が過去に起きた橋での死亡事故の話をした。
大型トラックの事故に巻き込まれて、上半身と下半身を切断して亡くなった若い
女性がピンクのスラックスをはいていたとのこと。

稲川淳二

稲川淳二
「連れてけや」
稲川淳二が霊の探訪に出かけた先で体験した怪異。
仲間の運転する軽トラックに乗って、夜道を走っていると
『連れてけや』という声が二人の間から聞こえた。
その直後、携帯電話に霊感の強い友人から連絡が入った。
ただ、電話が混線しているようで、別の人の声が聞こえると言う。
車を停車させようと、廃墟と化したガソリンスタンドに入ろうとすると
『そこはダメ~』と言う友人の声とともに、電話が切れてしまった。
軽トラックは運転手がスピードを上げたために停車しなくて
済んだが、荷台に何かが見えると言う・・・。
突然、骸骨がフロントガラスに見え、消えたかと思うと天井が
ドンドンドンとすごい音を響かせるようになった。
やがて、音も収まり、事なきを得た。

後日、霊感の強い友人がその時の電話でのことを言うには・・・・
男とも女ともつかない低い声で
『こいつは生かしておかねぇ~』と言っていたそう。

稲川淳二

稲川淳二
「異人館に棲む少女」
ある方が中学生の夏休みに、宿泊先のペンションで体験した話。
宿の女主人から聞いた、異人館の幽霊屋敷に足を踏み入れた3人。
そこで見たものは人形のはずが肩に手をかけると、前を向いていた頭が
後ろを向いた・・・・
それに驚き、3人は一目散に逃げたが、女生徒がペンダントを落としたと言う。
夕飯の時間になり、彼女がペンションにいないことが判明したことで
男生徒2人は異人館へ向かった。
彼女は記憶のないままオルガンを弾き、2人が来て正気に戻った。
傍らのソファには昨日の人形が座っていた。
一人で歩いて来たのだろうか と疑問を持ちながらペンダントを探したが
見つからなかった。
その夜、彼女が寝付けないでいると・・・
『ギー、バッタン、ギー、バッタン・・・・・・』と音が聞こえて来た。
そして窓に、あの人形を見たという。
ペンダントは翌朝、ペンションの女主人から受け取った。
庭に落ちていたとのこと・・・・

稲川淳二
新稲川淳二のすご~く恐い話(窓を叩く女)
稲川淳二

「窓を叩く女」
稲川淳二さんが小学生のころの話だそうです。
友人のおじさんが、1階が工場、2階が事務所の建物の
夜警をやっていた時のこと。
ある晩に2階で音がするので見に行ったら、爆弾で顎が
飛んでしまったであろう女の幽霊が出た~。
怖くなり、自分の部屋である宿直室まで逃げて来た。
しかし、女の幽霊は宿直室まで追ってくる・・・

実は、たくさんの方が亡くなった防空壕の入り口が
宿直室の辺りなんだとか。
宿直室が最も幽霊が出る場所だったんですね。



稲川淳二
新稲川淳二のすご~く恐い話(真夜中の訪問者)
稲川淳二
「真夜中の訪問者」
夜中に友人から
『これから行っていい?』
と電話が入った。
しかし、彼の葬儀の通知を受け取っていた・・・・
受話器を置くと、彼が目の前にやってきた。
やたら早く来たな~と思うだけで不思議に感じず
生前と同じように話をする姿に、始めは
『なんだ、生きていたんじゃないか』
と思えた。
稲川淳二のツアーを楽しみにしている、と言って
『じゃあ』といつもの挨拶をすると・・・・
もう、その姿が消えていた。
その時に、彼はもう死んでいる『霊』であると確信したそうです・・・

稲川淳二

稲川淳二
「身代わり人形」
幼い頃は病弱で、成人まで生きられないのでは?と医者に言われていた女性が
成人を過ぎて結婚が決まった。
すると、一人っこの彼女の近辺でたびたび女の子が目撃されるようになる。
その女の子こそ 身代わり人形だった。
両親からも忘れ去られていた人形を出すと、体中傷だらけ。
感謝とお疲れ様とのことで、寺で魂を抜いてもらい供養してもらうことにした。
寺へ行き、住職が人形から魂を抜こうという話になったときに
住職がその女性に向かい・・・
『この人形がいい子でよかったですね。
いい子でなかったら、あなたは大丈夫ですが、旦那さんになる人は確実にあの世へ
連れて行かれてます』
と言われたそうです。
身代わり人形・・・元々は呪い用の人形ですからね。

稲川淳二
新稲川淳二のすご~く恐い話
稲川淳二
「北海道の花嫁」
北海道の牧場に働きに行っていた男が、そこの娘さんに『迎えに行く』と
言ったまま、東京へ戻り大学を卒業、就職して3年が過ぎた。
そして突如、働いていた北海道の牧場へ行くことにした。
牧場に着くと、娘さんが亡くなって墓に埋めてきたところだという。
その日は牧場に泊まった。
翌朝、目覚めると隣に亡くなった彼女が寝ている・・・・
彼女をお墓へ返して翌朝を迎えると、またも彼の隣に彼女が寝ている。
彼女が歩いてくる訳もない。
ビデオカメラを設置してみると、実は彼が墓から彼女を連れてきていた。
しかし、不明な点がある。
彼が彼女を連れて来た初日は、誰も彼に墓の場所を教えていないということ。

稲川淳二

稲川淳二
「八王子怨霊地帯」
ある番組で『首なし地蔵』に行ってみないかと言われた。
触ったり、いじったりするととんでもない祟りがあることは知っていたが
首なしの意味がわからなかったので行ってみることにした。
いざ、その場所に行ってみたらなかなか見つからない。
ようやく見つけた地蔵は、あろうことか、首がない上に、自分で自分の
首を持っている・・・・
その時、若手スタッフがその地蔵に触った・・・祟るという噂を聞いて
いなかった様子。
数日後、首なし地蔵を見に行った時のプロデューサーから電話が
かかってきた。
なんでも、地蔵に触れた若手スタッフがバイクで怪我したとのこと。
あの日、家が近っかた若手スタッフが家に帰ると友人から電話が
かかってきて、今から遊びに来いというので雨の中、バイクをブォ~と
出したらバンと事故った。
そして、不思議なことに電話を掛けてきた友人は、電話なんてしていないと言う

稲川淳二

稲川淳二
「川原でボール遊びする女の子」
奥多摩へキャンプをしに行った3人の男性の体験。
ある川原で、ちょうど何かを燃やした跡の場所を見つけたんで
ここで火を焚こうということになって、食って飲んで盛り上がった。
1人の男性が川原から「ボーン、ボーン、ボーン」と音が聞こえて来るのに気づいた。
『ボールを突いて遊んでるな。こんな遅い時間に』
と思った。
今度は、ボールがこちらに転がって来る音がした。
見ると、暗闇から転がって来るのは生首で、その後ろから首のない女の子が現れた。
そこで彼は気絶したそうです。
この場所って、もう死刑が執行された○○が女の子の遺体を焼いた場所では
ないかということです。

稲川淳二

稲川淳二
「最後のクラス会」
中学校を卒業して何十年目かの同窓会をやった時のこと。
一人の同窓会の出席者が、通知では18時30分の開始時間が18時に
変更になったとの幹事からの連絡を受けていた。
しかし、自己の都合で18時20分ころ会場に到着した。
会場に入ると、皆、黙って下を向いている・・・
『どうしたんだ?』と尋ねると幹事が話し出した。
今まで何回もやってきた同窓会に、クラスのいじめを一人で受けていたK美が
毎回参加していたので、今回の同窓会の開始時間の変更を通知しようと自宅へ
電話をしたところ、彼女の母が出て『K美は中学校を卒業してすぐに自殺した』・・

幹事が説明をしている間に時間は当初の開始時刻の18時30分になろうと
していた。
すでに、いじめを受けていた彼女以外の出席者は全員揃っている。
すると、宴会場の外からスリッパを履いて歩く音が
『ピタ・ピタ』
と近づいてくる。
これには一同『ごめんなさい』と謝った・・・
やがて足音は遠ざかって行ったそうです。

稲川淳二

稲川淳二
「泳がなかった友」
海辺で生まれ育った人の話。
その村には沖に小さな島があった。
泳ぎの得意だった彼は、これまた泳ぎの得意だった友人と島目指して
泳ぐことになった。波はおだやかだった。
しばらく一緒に泳いでいると、友人がボコっと沈んで浮いて来ない・・・
『あれ、あいつどうしたんだろう?』
心配になってきた。
そしたら、ガバっと友人が浮いてきた。
一安心しながら、一緒に島まで泳いで行った。
島に着くと、友人は暗い表情のまま口を開こうとしないで泣いている・・・
しかたなく浜辺に戻ることにした。
しばらく一緒に泳いでいたら友人がいなくなってしまった。
『どうしたんだろう?』
と思っていると、浜辺で人が多数集まっている。
人ごみの中へ入っていくと、今までいっしょに泳いでいたはずの友人の
水死体があったそう・・・

稲川淳二

稲川淳二
「靖国神社」
俳優の岡崎友紀さんの体験。
岡崎さんが幼かったころ、靖国神社が遊び場の一つだった。
若いお手伝いさんがいて、岡崎さんが遊びに行くとついて来る・・・
お嬢様付きのお手伝いさんだったのでしょう。
いつものように靖国神社の鳥居をくぐると、右手にある大きな木に
祠のような大きな穴が開いていて、岡崎さんとお手伝いさんは中へ
入ってみることにした。
長いトンネルを抜けるように、少し歩いていると先が明るくなってきた。
洞窟を出ると、そこは桜で有名な千鳥ヶ淵。
とてもじゃないが、今まで歩いた距離で行ける場所じゃない。
長い距離を歩いて家まで帰ったそうです。
次の日には、祠のような大きな穴はなかったとのこと。

管理人も、100メートルくらいしか歩いてないのに、2キロくらい先に
行ってしまったことがあります。

稲川淳二

稲川淳二
「血を吐く面」
稲川淳二が『アフタヌンショー』という番組の食事会で
一緒になった実業家の体験。
この人は古い物、イワク付の物を集めるのが趣味で
今までもいろいろと集めていた。
ある日、いいお面が手に入ったと聞いて、購入。
その日を境に不幸な出来事が続く・・・
経営しているお店が火事になったり、お店の従業員が自殺したりと。
やがて、その人自身にも心臓の異常が起こるようになる。
ある日、お面から大量の血が部屋中に撒き散らされている
光景を目の当たりにしたことから、原因がお面にあることに気づいた。
知り合いの霊能者に連絡をすると、面を持ってすぐに来るように言われた。
霊能者曰く、お面は生首で、もう少しで殺されるところだったとのこと。
古い物、特に外国の物は気をつけないと、とんでもないことになるそうです。

稲川淳二

稲川淳二

たまたま、ここを通りかかった霊とのこと

桜金造

桜金造
「和室?それとも洋室?」
桜金造自身が体験した、とてもややこしい怪異。
突然、仏像がたまらなく見たくなり、奈良、京都へ行った。
ちょうど、修学旅行シーズンで大きなホテルはいっぱい。
なんとか、古びたビジネスホテルで部屋が見つかった。
チェックイン時に、受付をしてくれた男性がパソコンをたたいていると・・・
27歳くらいの女性がやってきて
『お客様、洋室になさいますか?今日でしたら、洋室シングルのお値段で
特別に和室を提供させていただきます。いかがなさいますか?』
『じゃあ。和室にしてください』
キーを渡され、部屋に案内されるが暑いので冷房を強にした。
眠りに就いた、そして夢を見た。
それは、黒い煙に巻かれそうになりながら逃げて行く。熱い、ただただ熱い・・・
吸う息が熱い・・・肺が焼かれる、と思ったところで目が覚めた。
暑い、とても暑い、見るとエアコンが暖房の強に切り替わっていた。
とても気持ちの悪い部屋だと思い、周りを見て愕然とした。
和室で寝ていたはずが、ベッドに寝ている。しかも、部屋は見たこともない洋室。

このホテルに和室はないという・・・

桜金造

桜金造
「貧乏神はいる」
今は大繁盛の中華料理店は、知人が経営しているとのこと。
しかし、開店当初は客が来ない日が続いた。
他の店には客が流れるのに、どういうわけか客足が絶えたまま・・・
閉店を考えていた知人が相談してきた。
まず、店に行き、料理を食べたが、これと言って客が来ない理由が
見つからない。
それで、知りあいの霊能者に見てもらうことにした。
数日後、店に知らない男が入ってきた。
食事をするためのテーブルには座らず、待合せ用に設置した
テーブルに座っていた。
『もう大丈夫です』 この男が霊能者だった。
『貧乏神は、数軒お隣の店に追いやったから、ご安心を』
その晩から、オセヤオセヤの大盛況のお店になってしまうんです。
霊能者曰く、貧乏神は祓えない・・・追い払うしか出来ないそう・・・

桜金造

桜金造
「一家心中」
中学3年のときのご自身の体験。
夏休みのある朝、中学2年の時に千葉へ越したM君から
今日ボクの家に泊まりに来ないかと電話があった。
何でも、両親、姉が外泊するために自分しかいないとのこと。
早速、出かけた。
M君の家の最寄駅まで、M君が迎えに来てくれるはずがいないので
M君宅へ何回も電話をしたが出ない。しかたがないので、M君宅に
歩いて行った。チャイムを鳴らすとM君が出てきた。
何度も電話したと言ったが、電話はかかってこなかったと言われた。
その夜、M君と布団を並べて話しながら寝た・・・。
翌朝、目覚めるとM君がいないので、着替えて近くを歩いていると
パトカーが赤灯を点けて止まっていた。
なんだろうと見に行くと、それはM君一家の心中現場だった。
しかも、心中したのは4日前・・死んだM君から電話をもらい一夜を過ごした・・

桜金造

桜金造
「亀麻呂」
岩手県の旅館に座敷童が出るという緑風荘がある。
桜金造は、ここで座敷童を見た6ヶ月後から良い仕事がたくさん
来るようになったとのこと。

また、売れないころのネプチューンも似たような体験があった。
桜金造も同行した怪奇番組のロケで心霊スポットへ行った際
名倉が後ろを歩く原田へ突然「なんだよ」と言った。
原田が「え?」と言うと『今、肩を叩いたやろ。おどしのベタネタなんだから』
原田はやってないと連呼したが、名倉は信じてない様子だった。
ロケ終了の数日後、ロケのVTRをスタジオで見ながらトークする番組へ
移行していった。VTRを見ると、原田の腕は上がっておらず、名倉の肩を
たたく物は何もなかった。ただ、オレンジ色をした光が名倉の肩近くを通過
した直後に、名倉が『なんだよ』と振り向いていた。
肩を叩かれた時の感じを名倉にたずねると『頑張れよ、とか、元気かとか
励ますような感じでとてもフレンドリーでした』
それから、間もなくネプチューンが売れ出した。
亀麻呂のように、幸運をもたらす霊が確かに存在する。

中江克己
江戸に眠る七不思議と怖い話 中江克己 青春文庫
「池の主となった 片身の鱸」
あるとき、東海寺の僧たちが大きな鱸をさばき、片身を切り取っていた。
僧が殺生をするなど、とんでもないことである。
帰ってきた沢庵がその光景を見て、大声で𠮟りつけた。
そして、沢庵は片身になった鱸をとりあげると、池の中に投じたのである。
不思議なことに、鱸は片身だというのにすいすいと泳ぎだした。
その後、鱸は池の主となり、東海寺を末永く守ったという。
「虫のしらせ」
ある夫婦の体験。
ふたりの一人娘が霊となって現れた。
難しい試験にパスしたものの、そのまま闘病となり、一度も登校しなかった高校生活。
その高校の制服を着て、死んだ娘が現れたのだ。
うれしくて、うれしくて、何が飲みたいかと尋ねると、家にはないコーヒーが飲みたい
と言う。
紅茶ならあるが、コーヒーはないと夫が説明するが、頑としてコーヒーが飲みたいと。
生きている時は、そんなわがままを言う娘ではなかったと思いながら
夫婦はそろって、娘のコーヒー豆を買うために家を出た・・・・
すると、裏山が崩れて家を押し流してしまった。
死んだ娘がわがままを言ったのは、私たちを助けるためだったと解り、感謝の気持ちと
娘への愛おしさで涙した・・・・
「位牌のある部屋」
そのアパートに越して、3日目の深夜。
『コンコン』、小さいノックの音で目覚めた。時間は午前3時。
『どちらさまですか?』
『ケンジ、ケンジを出してください』と、か細い若い女の声。
『ここにはケンジという人はいませんよ』と答えるが女は
『ケンジを出してください』の一点張り。
気味が悪いので、無視して寝ることにした。
それから毎晩、午前3時になると女が来るようになった。
不動産屋に相談すると『ケンジ』という名の入居者はいなかったと言う。
藁にもすがる思いで、前の住人の電話番号を教えてもらい、電話をするが不通。
それなら部屋にヒントがあるかもしれないと、部屋中を探してみると位牌があった。
戒名に『健』の文字が入っている・・・ケンジ・・・間違いない。
午前3時を待ち、女が来るとチェーンロックしたままドアを少し開けた。
わずかに開いた隙間に位牌を差し出す・・・
『ケンジ』、氷のように冷たい指が触れると位牌が手から抜けた。
この間、目は閉じていた。見てはいけない物を見てしまいそうなので・・・。
それ以来、その女が来ることはなかった。
不動産屋の話では、前の住人は息子が無理心中で亡くなったため故郷へ帰った・・・。
真冬の闇の恐い話 怪奇ゾーン特報班(編)  青春文庫
「足音」
その年の2月のある日、朝から降り続いた雪は午後になっても止む気配を見せず
都会では珍しい大雪となった。
純子さんの働く会社では、早く退社するようにと指示があり、いつもより早い時間に
帰路についた。
電車を乗り継ぎ郊外の彼女の住む駅に着いた時には、雪は更に深くなっていた。
自宅の方向へ歩いているのは自分一人だが、自分以外の『サクサク』という足音が
聞こえてくる。
身を固くしていると、犬がやってきた。
犬は、純子さんを見ると『クーンクーン』と鼻を鳴らして寄ってくる。
犬の頭を撫でていると、犬の周りに足跡が増えていく・・・
足跡が純子さんを追い抜いて行くと、犬が後を追いかけて行く。
(これって幽霊????)
後を追いかけて行くと、誰かの足跡と犬の足跡が消えている場所は純子さんの家の玄関だった。
世にも妖しく恐ろしい話 謎の情報研究班(編)  青春文庫
「慰霊碑のそばでジョギング・ランナーは見た」
中学教師の小夜子さんは、3年ほど前から夜のジョギングをしている。
コースは、自宅を出て市街のはずれにある公園を回ってくるというもので、距離にして10キロ。
その夜、かつて街の大半を焼き尽くした大火災の慰霊碑の近くを走っていると、わずか
3メートルくらいの路地に無数の人がひしめきあっていた。
まるで地の底から湧き出るかのように群がる人々の顔は一様に焼けただれていた・・・・

意識を失った小夜子さんが目を覚ますと、目の前に母親の顔があった。
『慰霊碑の前で倒れていたいたのを、警察の人が見つけてくれたんだよ』
大都会の怪談 大追跡調査団(編) 青春文庫
「電話に出たのはいったい誰?」
榊原賢さんは本業のカメラマンのほかに、超常現象演出家という肩書で稼いでいた。
この仕事はアイディア勝負である。
シーンと静まった仕事部屋でラジカセのスイッチを入れた。時刻は深夜十二時。
ラジカセからは、前の年の『英国ダービー』の現場音が流れ始めた。
電話機の受話器を取ると、行きつけの飲み屋の番号を回す。
『ああ、今さぁ、ロンドンのアスコット競馬場にいるんだよ』
国際電話を装い、くだらないロンドンの談義を三分ほどした。
そしてすぐにタクシーに乗って、その飲み屋へ行って、青い顔をして店に入る・・・・
『ア、ア、アスコットで急にめまいがしたと思ったら、この店の前にいたんだ』 と言って
常連客を脅かそうというのが、その日のアイディアだった。

飲み屋のドアを押した。タバコの煙がムッと鼻をつく。
一歩中に入って、驚いたのは常連客ではなく、榊原さんの方だった。誰もいない・・・・
五分待ったが誰も現れないので、冷蔵庫を開けると、中は空っぽ。
突然、店を電話が鳴りだした。恐る恐る電話に出ると・・・・
『マスターが死んで、店は閉まっているはずなのに、誰かがいるみたいというので
電話したんだけど・・・・』
榊原さんは言葉を失った。では、先ほど掛けた電話に、いったい誰が出たっていうんだ。
夏休みの恐い話 怪奇ゾーン特報班 青春出版
「故郷のクラス会」
大学生の林弘さんのもとに、故郷の高校のクラス会のお知らせが届いた。
夏休みということもあり、さっそく帰省することにした。
東京駅で夜行列車に乗り込み、混雑する車内でなんとか座席を確保できた。
座席の向かいに、林さんと同じ年くらいのスーツを着たサラリーマン風の男が座った。
男は林さんをじっと見ているようで、その視線に気づいた林さんが男を見ると視線を外す。
顔を見ても、その男に見覚えがない。
しかし、視線を他に移すと、男からの視線を感じる・・・・
居心地の悪い思いをしながら列車に揺られていると、何時しか寝入っていた。
前の男が動く気配で目が覚めた・・・どうやら次の停車駅で下りるらしい・・・・
駅に停車した列車が走り出すと、ホームに立つ男の姿が見えた。
そして、この男の姿を終点の駅でも見てしまった林さんは、思わず悪寒が走った。
その夜、クラス会に出席した林さんに、幹事から封筒を渡された。
『これ、林に渡してくれって。君島さん、おまえにずいぶん感謝していたらしいぞ』
君島さんが病気で学校に登校できないため、家の近かった林さんがクラスを代表して
修学旅行のお土産や通知などを届けていた。
手紙には、『息子は生前あなたにもう一度会いたいといつも言っていた』
同封されていた写真には、列車の中で見た男と林さんが肩を組む姿が写っていた。
林さんは震えがおさまると、男の冥福を祈った。
恐怖巡礼 怪奇ミステリー探偵団 青春出版
「禍の風ぐるま」
青森県恐山の近くの旅館でのこと。
母親と男児の二人が泊まった。
その夜、男児が『外から声がする。誰かがぼくらを探しに来るよ』と言い続けた。
『大丈夫、何もいないから。安心して』
母親の言葉に、男児は眠りに就いた。
そして、母親も眠ろうとした時・・・
『どこに・・・いる・・・』
初めは幻聴かと思ったが、声はどんどん大きくなる・・・・
『わかった・・・ここだ・・・ここにいるんだ・・・・』
襖一枚隔てて、地の底から出たような声が響く。
ブルブルと震える母親に、寝ていたはずの息子が母親に掴みかかった。
『風ぐるまを倒したのはお前たちだなー!』
息子の手は母親の首を絞める。
薄れゆく意識の中で、恐山を見学する際に風ぐるまを倒して、そのままで来たことを
思い出した。
『ごめんなさい。明日、必ず元に戻しますから許してください』
「深夜バス」
ある男性が、深夜にガードレールを飛び越えて乗り合いバスを停めた。
『乗せてくれ~』
その日、職場の連中と飲んで高尾行きの最終列車に乗り遅れてしまった。
最終列車に乗り遅れた人のために深夜バスが運行されていることを思い出し
その停留所へ行く途中でバスを見つけた。
『高尾方面に行きますよね』と運転手に尋ねると
『何処へでも行きます』との返事・・・
変なことを言う運転手だな~と思いながら車中を眺めると。
口にチューブを付けたまま息をしていない老人、買い物袋にべったりと血を付けて
横たわる主婦等・・・・みんな死んでいる様子。
彼は、無理やりバスのドアをこじ開けると外へ身を投げた。
幸い草の上にでも落ちたのだろう、軽い痛みだけで済んだようだ・・・・
目を開けると明るい光が飛び込んで来て、真っ白で何も見えない。
『あなた、あなた。気が付いたのね』と妻の声がする。
ここは何処だ?と見ると病院のベッドだった。
彼はひき逃げ事故に遭い、生死の境を彷徨っていたのである。
「学校に戻りたかった少女」
ある高校のとあるクラスに長期間、病欠中の少女がいた。
入院したはじめの頃は、どうしたろうと気になっていたが、長期に渡ってくると
誰も気にならなくなっていたある日の夜11時、彼女からクラス全員へ電話が行った。
『明日、学校に行くからね』
翌日、学校へ行くと彼女が登校して来た。
顔色はよくなかったが、『よかったね』と声を掛けるクラスメートに笑顔で応えていた。
しかし、あまりにも顔色が悪いので、早退するように担任の教師が言ったが
彼女は終業時間まで学校にいた。
放課後、担任の教師が自宅まで送って行こうとする途中で、彼女は逃げるように
人混みへと消えて行った。
担任の教師が学校に戻ると、彼女の家から電話がかかってきた。
実は、彼女は前日の午後11時に病院で亡くなっていたのだ。
まさに、クラス全員が電話を受けた時間に・・・・

三浦竜
悠久の歴史のなかで無数の人間が山に出入りしてきたが、これまた無数の人間が山で命を落としている。
そのなかには、戦で山に追われ敵に討たれた者や自ら腹を切った者、事故や事件に巻き込まれ山中に
捨てられた者や自ら首をくくった者など、怨念をのこしたまま死んでいった者も少なくない。
不思議なことに、山での怪異体験を聞き、その地理、歴史、伝説などを調べていくと、いま述べたような
非業の死に行き着くことが多い。
つまり、浮かばれぬ魂の行方と山の目に見えない力とは、深い関係がありそうなのである。
しかし、山にはわれわれ人間の考えが及ばないほどの神秘的な世界があり、山に漂う霊気にはもっと
深い意味があるかもしれない。
その意味を探るための一助となるべく、本書にはいくつもの霊体験や怪異体験が報告されている。
それらを読み、何を思い浮かべるか、何を感じるかは、読者各位におまかせしたい。

朝業るみ子

朝業るみ子
「座敷童子」
OLをしているスハルさんは、趣味のタロット占いが口コミで評判になり、今では
週末だけだが占い部屋のオーナーとなっている。
近所の手芸店を経営している人が、奥の部屋が空いているから、使ったら?と
言ってくれたおかげなのだが・・・。
ところがこの部屋がただの部屋ではなかった。
何かいるのだ・・・・
そんなある日、近所の花屋に勤務する女性が、人から聞いたと店にやって来た。
いつも通り、恋愛、仕事とその他の人間関係をタロットで占った。
占いが終了すると、花屋の女性はこんな話をした。
『ここにいるボクね、うちの店にも来ますよ』
彼女は、俗にいう見える人だった・・・・
ボクは見える人にはちょっかいを出すが、見えない人には何もしない。
それに、このボクが出入りする店は、皆、羽振りが良いとのこと。
『ほんとかなーって思ったけど、まあ私も何か感じていたのは確かなので、お遊びの
つもりで、部屋の入口にこんな張り紙をしたのです』
”この部屋には天使が来ます。入室の際、挨拶してから入ってください”
『ボク』が喜んだのか、占い部屋は大層繁盛していて、今、スハルさんは会社を辞めて
本業にするか迷っているという。

朝業るみ子

朝業るみ子
「異界への扉」
ある人の実家は、山奥の旧家で曾祖母は今で言うところのシャーマンでした。
村人の問題を解決する、霊力も人格も尊敬されなければなることのできない巫女。
ある日、村の少年が行方不明になり、八方手を尽くしたが見つからずに曾祖母の元へ
相談に来た。すると、曾祖母は立ち所に少年の居場所を言い当てた。
少年は狐の柿の実を再三にわたり盗んで食べたので、狐に化かされて渋柿を
甘柿だと騙されたまま、黙々と渋柿を食べ続けていたのでした。

曾祖母曰く
狐狸の類に化かされた時は落ち着いて生の火で一服するか、狐狸に向かって
唐突な質問をすれば、返事の言葉を間違えて逃げて行くという・・・。
行けども行けども同じ道に戻って来てしまう時には、お試しあれ。

朝業るみ子

朝業るみ子
「フジツボ」
彼女が幼少を過ごした父親の実家に住んでいた時のこと。
近所には『イッサ』という名の目の鋭い初老のおばさんが住んでいた

大人からは変わった人と言われて嫌われていたが、子供には優しかった。
子供が遊びに来ると、喜んでお菓子をくれた。
ある時、友達と二人で訪問した彼女はトマトが食べたいとイッサに言った。
トマトは隣の畑にあるというので、彼女たちは自分で採って食べると言って畑へ行った。
その際、『裏へ行ったらいかんよ』と言われたが、ダメと言われると行きたくなるのが子供。
トマトを食べながら、彼女たちは裏への道を登って行った。
しばらく行くと灯篭があって、灯篭の中にはフジツボのような物が張り付いていた。
中からは白い芋虫のような物が時々顔を出す・・・。
数日後、イッサの家の前を通ると親戚筋のミズエばあの声が聞こえた。
ミズエばあはお嫁さんと仲が悪いことが有名で、彼女の家にも愚痴をこぼしに来ていた。
彼女がイッサの家に近づくと、話の内容が断片的に聞こえてきた。
『もう言うな。あんたの恨みは十分わかった』イッサの声。
『で、いつごろになる?』ミズエばあの声。
『昨夜、お伺いをたてたら、秋ごろには・・・』イッサの声。
『あ~、秋になったら私の恨みが晴れるんだね」ミズエばあの声。
ミズエばあがイッサに何かを頼んでいて、それが秋までに終わるということらしい。
二人の会話が終わった頃を見計らい『こんばんは』と入って行った。
二人は彼女を見ると、ギョッとした顔をして
『いつから、そこに居た?』と怖い顔でミズエばあに詰問された。
さっき来たばかりというと、さっきとはいつだと怒鳴られた。
彼女が返事に窮して黙っていると
『今日、ここで会ったことは誰にも言うな』と5000円札を彼女の手に握らせた。
1週間後、ミズエばあの家のお嫁さんが亡くなった。まだ40歳の元気の良い人が。
彼女も両親に連れられ、葬儀に行った。
お嫁さんの旦那さんであるミズエばあの長男は憔悴しきった様子で
『お別れしてくれ』と言いながら白い布を取った。
お嫁さんの耳から首筋にかけて、彼女が見た『フジツボ』が張り付いていた。
『まだ瘡(できもの)が取れないんだ。医者も奇病だと言って検査している間に・・・』

ミズエばあは無表情で座っていたとのこと。

朝業るみ子

朝業るみ子
「異界への扉」
ある人の実家は、山奥の旧家で曾祖母は今で言うところのシャーマンでした。
村人の問題を解決する、霊力も人格も尊敬されなければなることのできない巫女。
ある日、村の少年が行方不明になり、八方手を尽くしたが見つからずに曾祖母の元へ
相談に来た。すると、曾祖母は立ち所に少年の居場所を言い当てた。
少年は狐の柿の実を再三にわたり盗んで食べたので、狐に化かされて渋柿を甘柿だと
騙されたまま、黙々と渋柿を食べ続けていたのでした。

曾祖母曰く
狐狸の類に化かされた時は落ち着いて生の火で一服するか、狐狸に向かって
唐突な質問をすれば、返事の言葉を間違えて逃げて行くという・・・。
行けども行けども同じ道に戻って来てしまう時には、お試しあれ。
「惹かれて来た者」
私が勤めているのはゲームの下請け会社なのだが、数年前に子供向けの特撮
番組をゲーム化する という仕事を受けた時のこと。
その際、番組に登場するロボットのオモチャを大量に買い込んだのだ。
会社に届いたオモチャは、会議室に置き、みんなが好き勝手に遊んでいたが
数ヶ月が経つと、もう誰もがおもちゃを見向きもしなくなった。
そんな頃、深夜まで会社に残っていたスタッフのひとりが
『誰もいないはずの会議室から物音が聞こえる』 と言うと、それに同調する
スタッフが複数名いた。中には声まで聞いた者がいた。
数日後、深夜の会議室で、オモチャをいじる『カチャカチャ』という音にまじって
子供の笑い声を私自身が聞いてしまった。
早速、出社しているスタッフ全員で会議室に入ってみたものの、誰もいない。
このことをゲーム完成の打上げで、販売元の玩具メーカー社員に話すと・・・・
『亡くなったことを自覚できない子供達が、オモチャに惹かれて集まって来るん
ですよ。玩具業界ではわりとよくあることです』

猿田悠

猿田悠
「冷蔵庫」
冷蔵庫に入って出られなくなり亡くなるという事故がもとで、冷蔵庫で
霊が出るという話が流行ってた時の話。
小学校3年生の少年とその友人が、河原に不法投棄されている冷蔵庫で
本当に中から開けることが出来ないか を検証することにした。
冷蔵庫には友人が入り、10秒後に少年が外から開けるというもの。
友人が冷蔵庫に入り10秒後にドアを開けると、びっくりするほどの
大きく目を開けた友人がじーっと動かずに座っていた。
声を掛けても、揺り動かしても何の反応もない。
結局、救急車で病院へ運ばれた。
数週間後、正常に戻り、お見舞いに行くと・・・
あの日、冷蔵庫の中で何があったのかを言っても、大人は誰も信じて
くれないだろうから、少年にだけ教えてくれるという・・・・
   『中にもうひとりいた』

「校門まで」
隆くんが小学生の時に、家が近くでクラスメイトの美樹ちゃんという
女の子がいた。
病弱のため、入退院を繰り返していたので、あまり学校には来なかった。
入院中の美樹ちゃんの容態がよくないと聞いたいた、ある日
美樹ちゃんから電話がかって来た。
『明日、学校に行くから』
隆くんが何か話そうとすると
『あした、朝ね』と電話を切られてしまった。
翌朝、美樹ちゃんから電話があったことをお母さんに伝えると・・・
『へんねー、集中治療室に入ったと聞いたんだけど』と首をかしげていた。
そして、隆くんが学校に行こうと家を出ると、外で美樹ちゃんが待っていた。
美樹ちゃんは病院の話を楽しそうに聞かせてくれた。
二人で校門をくぐろうとした時に
『ごめん、私、薬を忘れたから取り帰る。先に行ってて、ありがとう』
教室に入ろうとすると担任の先生がいたので、美樹ちゃんのことを伝えた。
『そうか、わかった』とだけ答えがあった。
ホームルームが終了すると、隆くんだけが職員室に呼ばれた。
職員室に入ると椅子に座るように担任の先生に言われ・・・
『美樹ちゃんが昨日の夜に亡くなったそうだ。先生はこのあと、みんなに
知らせなければいけない。隆が朝見たことはみんなに内緒にしておこうな。
先生は美樹ちゃんが最後に学校まで来たかったんだと思うよ。
隆は良いことをしたよ』

学校にも来たかったのでしょうが、隆くんに恋していたのでしょうね

猿田悠

猿田悠
「温泉宿」
学生時代にバイクでよく旅行へ行っていた男性の体験。
いつも野宿なので、たまには温泉宿に泊まろうと、観光協会を訪ねた。
『なるべく安い宿を』
いろいろ電話で聞いてくれて、宿の情報をプリントして渡された。
宿に着くと、温泉につかり食事をすると早々に床に就いた。
深夜、男女の話し声に目が覚めた・・・・
『どうしてなの? 信じていたのに・・・・』
『しかたなかったんだよ・・・・』
暗い部屋の中を見渡しても誰もいない・・・
その時、トーンを落とした声が
『静かに! この人が起きちゃうじゃない』
この人って俺のこと?
そう思うと怖くなり、朝まで布団をかぶったまま、一睡もできなかったとのこと。

加藤一
妖弄記
加藤一
ぐいーん」
カスミさんが小学生の頃の話。
学校から帰って玄関先にランドセルを放り出す。
『ただいまっ!ユウちゃんちに遊ぴに行ってくる!
間髪を置かず、その足で友達の家に向かって全力疾走。
門を出て、家の前の道に飛ぴ出した。
菜園の横を走り抜けようとしたとき、不意に身体が持ち上がった。
『わっ?わっ?
誰かに足首を掴まれた感触がある。
そのまま、ぐいーん!と足を宙に引っ張りあげられた。
つんのめるように倒れていくのだが、足は相変わらず誰かが握りしめて
持ち上げているようで、ぐんと突きだした両手は地面に届かない。

そのまま前方宙返りの要領で一回転したカスミさんの足首は、不意に解き放たれた。
全力疾走の勢いを残したまま、背中から地面に叩き付けられる。
『・・・っ!』
暫くの間、息ができなかった。
そこは蹟くものなど何もない、真っ平らな道。
後には一陣のつむじ風が吹き抜けただけだった。

北野誠

北野誠
「白い悪魔」
オセロの松嶋が大阪で『白い悪魔』と呼ばれる由縁から始まる。
松嶋が『好き』 『良い』とか、好感を持った対象相手が不幸になる。
不幸というのは、人気が無くなったり、体調を壊したり、怪我したり、逮捕されたり・・・・
過去に何件かあったらしいが、亡くなるケースまで。
松嶋が『阪神には興味ないけど、H投手は好き』と言ったことがあったらしいが
結果は『興味ない』と言った星野阪神は優勝、H投手は肩を痛めて戦線を離脱・・・・。

北野誠

北野誠
「首」
言わずと知れた平将門の首塚の話。
平将門の史実を追う番組の取材で訪れた首塚で、外国高級車に乗った
おっさんにどやされる・・・。
このおっさん、実は平将門に助けられ、富を築いて現在が有る人だった。
助けられたと言っても約束を守らないと、実際に将門が報復に来るという。
将門との約束で、週に1度は首塚にお参りに来るとのこと。


管理人は平将門のファンなんです。


新倉イワオ

新倉イワオ
「転任」
ある小学校へ転任してきた教師の体験。
アパートを借りて生活していたが、そのアパートで顔のような
シミが浮かびあがるようになる。
そして、目鼻立ちまでわかるようになったところでシミが浮き
出た壁を壊して調べると・・・
そこには、数年前に行方不明となっていた小学生の骨の
一部が埋まっていた。
このことから犯人が捕まり、遺体も発見された。
この部屋を借りたのは、この教師で3人目なのに、なぜ
今までは何事もなかったのか・・・?
それは、亡くなった小学生は、生きていれば、この教師が
担任を務めるクラスになっていたという。

工藤美代子
​​
工藤美代子
なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか 工藤美代子 中公文庫
「中国娘の掛け軸」
二、三年前の五月の連休に、母と姪を連れて北京へ行った際、一幅の掛け軸を買った。
それは、一人の少女が中国服を着て横向きに立っている構図の掛け軸だった。
ある日、和室の掛け軸を『中国娘の掛け軸』に替えた。
そして翌日、掛け軸を見に行くと床の間が水浸しになっていたのだ。
誰に聞いても原因がわからないため、出入りの水道屋に来てもらったが、原因不明。
掛け軸を替えたことに母親が気付いて・・・・
『おや、掛け軸を替えたのね、なんだか陰気くさい娘の絵だね』 と言っているところに
姪がやってきた。
『おばちゃん、この絵だよ。やあね、おばちゃん気付かなかったの? これお化けの絵だよ』
『あら、美代子、そう言えばこの絵・・・・』 と言いかけて、母親が絶句する。
なんと、中国娘のの背景には滝の水がサーッと流れているのだ。今までちっとも
気付かなかったが、なるほど、娘は激しい水流の真中に浮かんでいる。

中国娘の掛け軸は、その日のうちにクルクル巻いて納戸に入れた。私は別に恐いとは
思わないが、また、床の間や畳がびしょ濡れになるのはかなわないのでしまってあるのだ。

工藤美代子

工藤美代子
何気なく生活している中での
心霊体験を何気なく書き綴った感じ。
本当の話っていうのが伝わってきます
「草津の白い男」
草津へスキーに行った晩のこと、吹雪いたので宿で寝ていたら
全身白づくめの男が入ってきて、壁の中へと消えて行った。
翌朝、宿の主人に尋ねたら
『雪山で死んだ男の霊が、勝手に部屋に入るので困っている』と
明るく言われたので何も言えなかった。
メイドたちの恐怖体験
「お帰りなさいませ~、ご主人さま~」
メイドカフェで働いていた、ご奉仕大好き少女が自室で亡くなっていた。
発見したのは同僚の女の子。

亡くなってからもアキバで見かけたという話を多く聞いた。
彼女の死を知っているのは、店長と発見者の女の子だけ。
亡くなった彼女は休んでいることにしていた。
最近、女の子が『お帰りなさいませ~、ご主人さま~』と死んだ彼女の
ファンの男の子に声を掛けると、亡くなった彼女の声がダブるそう・・・
合田一道 「精液を発射させる幽霊」
ある作家とスタッフ数名がテレビ局の依頼で北海道の僻地の集落へやって来た。
集落に着くと、学校の校長先生と今夜の宿となる牧場主が歓迎の宴を開いてくれた。
作家もスタッフもベロベロに酔ったところで、今夜の宿に案内された。
牧場主は、寒い夜だったのでストーブをガンガン焚いてくれた。
作家は酔いと暖かさで眠りに落ちた・・・・
太陽の光がまばゆいばかりの草原に美しい花が咲き乱れ、小鳥のさえずりが聞こえる
丘に立っていると、良い匂いが漂ってきた。
見れば、美しい女性が色気を発散させながらやって来る。
作家は女性の手を取り、草原をいっしょに駆けた。
ふいに女性が作家に両手を絡めると、二人は互いの唇を吸った。
そのまま花の中に倒れこむと、作家は女性の膨らみを感じながら行為に没頭していった。
朝、目覚めると、股間が濡れていた。
次々に起き出すスタッフ全員も、夢で女性といたして夢精していた。
その話を牧場主にすると・・・・
その部屋には以前、夫婦が住んでいたが夫が亡くなって妻は自殺。
その後に住んだ男性は、女性の霊に精液を搾り取られて痩せ細り
命の危険を感じて出て行ったとのことだった。
「形見分けした人にたたり?」
何年か前、知人の女性が亡くなり、葬儀の後に形見分けを行った。
それから何日も経たないうちに、形見分けをされた人の5人が
奇妙な出来事に遭遇した。
投稿者自身も、車に轢かれそうになったり、体調を崩して病院通いを
することになったり・・・。
それで、形見のせいじゃないかと思って、形見を焼いた。
すると、嘘のように何も起こらなくなった。
形見分けは、49日が過ぎないと、やってはいけないそう・・・

水鳥ねね
ねねさんのスピ生活 水鳥ねね イーストブレス

結城伸夫

結城伸夫
「遺影」      投稿者 ミッキー(男性・埼玉県)
ある日の深夜1時ころ、若手の救急隊員が一人で受け付け勤務をしていたところ
気付かないうちに対応窓口内に一人の老婆が立っていたという。
『こんな夜遅くに何の用でしょうか?』
『**町*丁目のAという家で死人が出る・・・・』
内容が内容だけに、救急隊員は本部へ問い合わせの連絡を入れたが、今のところは
どこからも通報は入っていないということだった。
老婆へ厳重注意をしようとしたが、窓口内に老婆の姿はなかった。
すぐに外に飛び出して老婆を探したが、その姿は気配とともにぷっつりと消えていたという。
それから三日後のこと、119番通報があり出動命令がかかった。
『**町*丁目のA宅において、急病人発生』
けたたましいサイレン音とともに救急車が現場に駆けつけた。
三日前に奇妙な体験をした若い救急隊員も同乗していた。
到着してみると、その家のお爺さんが浴槽で溺死していたという。
事件性を考慮して、警察へ連絡の上、警察官の到着を待つことにした。
家の中を何気なく眺めていると、飾られたある遺影を見た瞬間に3日前の記憶が鮮明に
蘇ってきた。それはまさしく、3日前に『死人が出る』と言いに来た老婆だったのだ。

結城伸夫

結城伸夫
「神棚」
小学3年生の時のこと。
父が商売を始めるために、神棚を買って来て、一番日当たりの良い
場所に設置した。
その頃、夜中の2時に目が覚めてしまい『眠れない』日が続いた。
そして、昼間は「何ものか」が家を徘徊して、家に居たくない気持ち。
いつから、そういうことになったかを考えると神棚が来てからだった。
日に日にやつれ、目の下にクマを作った娘の訴えを母が父にぶつけた。
『あの神棚、どこかでもらってきたのでしょ?』
『ちがうちがう、ホームセンターで買って来た』
父はホームセンターへ問い合わせに出かけた。
すると、うちにあった神棚は見本で、交換させられたとのこと。
なんでも、神棚を抱えて金を置いて持って来てしまったよう・・・・。
神棚を交換してからは、夜もぐっすり眠れ、徘徊する『何か』も消えた。

結城伸夫

結城伸夫
「任務完了」
この事件は宮城県警の捜査が入ったが、迷宮入りになった事件。
ある夏、高校生3人が夜間の学校のプールで泳ごうとやってきた。
着替えを済ませ泳ぎはじめたが、いやな感じがしたので早めに切り上げ
ようと仲間を捜した・・・
が、一人いない。
そこへ、水面にバシャバシャと音をたてて仲間の一人が浮いてきた。
『溺れたか』と、残り二人がプールへ飛び込もうとするが、金縛りに遭い
身体が動かない。
すると、日本兵と思しき大勢がプールを取り囲んできた。
その中の一人が前に進んで・・・
『任務、遂行いたします』と言うと、溺れた仲間がす~っと水面に沈んだ。
『任務完了いたします』と再度、兵が言うと、
大勢の日本兵と仲間の一人は跡形もなく消えてしまった・・・

結城伸夫

結城伸夫
「かごめかごめ」
幼稚園の時に、皆で『か~ごめ、かごめ~』をやって居た時のこと。
『うしろの正面だ~~れ』と歌い、鬼になった女の子が当てようとするが
何回やっても当たらない。
鬼である女の子も、周りの子も飽きてしまい、誰ともなく
『もう、止めようか?』と声がしたので、鬼の女の子は嬉しくなって
目を開けて、周りを見た・・・・
すると、周りには誰もいないのに耳元で
『もう、やめちゃうの?』
という少女の声がした。

南山宏

恐怖のミステリーゾーン 南山宏 廣済堂文庫
幽霊屋敷として昔から有名なイギリスのロングリード邸の幽霊廊下での霊写真。
アメリカのNBCtテレビがアメリカ全土へ放送して、大評判になった画像。
立会人からはもっと大きいものに見えたとのこと。


平野威馬雄

平野威馬雄
恐怖夜話 おばけの本 平野威馬雄 廣済堂文庫
「歴史の古い沖縄の巫女 ユタ」
沖縄には、内地の市子、巫女、くちよせ・・・などのような、神との仲立ちをするユタという
神がかりがいる。
内地でも幽霊が現れたり、たたりをするような時には、なぜそんなことが起こるのか
神主だの、祈祷師だの巫女だのに見てもらう。
つまり、霊を見る力のある人に頼って、いわゆる霊視を働かしてもらうわけだ。
昭和四十八年二月十六日の夜、日本テレビ『木曜スペシャル』で、ひめゆりの塔に
出没する幽霊の写真が放映されたが、この写真の撮影は、前年の十二月十一日正午
付近に誰もいないことを確認したうえで撮影されたもので、確かにその時その場所には
誰もいなかった。もちろん、写真にも写っていなかった。
ところが、東京に帰ってそのフィルムを編集する段階になって、スタッフは・・・
『出たッ!』 と腰を抜かした。
はっきりと幽霊が写っていたのだ。
それも一つだけではない。一寸法師大の人間が腰をおろして、こっちを見ているようなのや
白無垢をつけた女が立ち去ろうとしているかっこうや、たむろす兵隊など・・・・
しかも、カラーフイルムなのに、幽霊の部分だけがモノクロになっていた。

中岡俊哉

中岡俊哉
「旅館の庭に女の霊が・・・」
昭和58年2月、群馬県の伊香保温泉へ旅行へ行った家族の体験。
ある旅館に宿泊した家族が、庭を歩く顔から血を流した女を見るが
すぐに消えてしまったことから幽霊ではないかと思う。
やがて、寝ている部屋にも現れたことから、宿の主人に尋ねると
6年前に失恋により投身自殺をした娘であるという。
姿を見せるだけで霊障はないので安心するように言われたとのこと。

福澤遙
​​ 心霊現象を扱った著作の多くは、人物は仮名、地名なども大変あいまいで、本当にその話がどこで
起きたのか検証する手段がないというのがほとんどだ。
本書の執筆に当たっては、そのような伝聞に頼って書くのではなく、必ず本人から話を聞き
できうる限り現地を取材することとした。
著者自らが足を運んで集めた世にも恐ろしい霊都の怪異譚。
「湯治場の怪異」
踊り稽古で知り合った、私、かすみさん、小百合さんの三人はいつも行動を共にしていました。
三人とも既に未亡人となっていましたので、寂しさを紛らすには一緒にいるしかなかったんです。
三年前、かすみさんの提案で湯治場へ温泉三昧の旅行に行くことになりました。
かすみさんの予約してくれた宿は、由緒ある湯治場で青々とした山壊に抱かれた秘湯という
感じでした。
宿に着いたものの、温泉に入る前に買い物をすることになり、食糧、お酒を買い込みました。
そして温泉・・・・来て良かったな~と実感。
その後、料理をするため私は包丁で野菜を切り始めたのですが、とんとんとん・・・・
急に目の前がかすんで来て、めまいがして来ました・・・・
自分の名前を呼ばれているような気がして、我に返った私でしたが、目の前のかすみさんが
青ざめた顔をして腕には包帯をしています。
そして小百合さんは顔に包帯をして、布団に横たわっています。
『どうしたの?』 私は訳がわからず、たずねました。
『春代さん、あなた本当に憶えていないの?』
かすみさんは、怒りに震えながら、私が突然倒れたかと思うと起き上がり、ものすごい形相で
私たち二人に向かって包丁で切りかかって来たと説明しました。
二人が懸命になだめても、錯乱した私は包丁を振り回していたそうです。
そんな声を聞きつけて、宿の主人が飛んできました。
『ああ、お客様に乗り移ったんですね・・・・』
宿の主人によると・・・・昔、不倫旅行に来た男女がいて、女は追いかけて来た男の妻に刺殺された。
妻は包丁を振り回し、女の顔、腹を何度も突き刺して絶命させた。そして夫の胸を一突きで絶命
させると、喉をかい切って自殺したとのこと。
『以前、一度だけ、お客様と同じように錯乱された女性がおりました。幸い、大きな事故にならずに
済んだのですが・・・・』 自殺した妻の怨念と『波長』が合ってしまったのだろう・・・・
『あなたが悪いんじゃないのはわかっているんだけど・・・・』 二人はそう言って、離れて行きました。
真冬の恐怖体験 「招くねこ
愛猫がいなくなった。3ヶ月経っても帰って来ない。
忘れかけたころに愛猫の姿をプールの近くで
見かけるが、プールでは中学生が溺れていた。
実は、愛猫はその中学生に殺され、まさに復讐の
最中であったと後で知る・・・
呪われた写真 鑑定結果は見た人の判断に任せるとして・・・
多くの写真にしっかりとわかる形で写っています。
『踏み切りの亡霊』という心霊写真が『霊』そのものと
いう感じに見えます。

画像は下

稲川淳二

稲川淳二
赤いはんてん
山中湖の話
ユキちゃん
死の旅館
東北地方の大学生のアパート
女王様の歩道橋
207号室の患者
森末さんに貰った話
赤い日記帳


ベストなんで、読んでない話を読むにはお得!!

稲川淳二

稲川淳二
桂米助さんの体験
帰宅したある日、高校のクラス会の連絡が入ったと奥様から知らされた。
誰から電話が入ったかと訊くと『Tさんという女性』だったとのこと。
確かにTさんは同じクラスだったが付き合いがなかったので、他の同級生に
電話をしてみた。
『元気かー、今度クラス会をやるんだってなー』
と言うと
『おまえ、どうして知ってるんだ?』
と訊かれたので
『Tから電話がかかってきて知った』
と応えると
『え?Tは20歳の時に死んでいるぜ』
その時は、悪い冗談を言うものだと思っていた。
その後、クラス会へ出席して、自分に連絡をしてくれた人を探したが・・・いない。
そして、思い出した・・・自分は引越しをして間もなかったので、誰にも電話番号を
知らせていなかったと。
幽霊だからかけることが出来た電話だったと、それ以後は霊の存在を信じるように
なったんだとか。

稲川淳二

稲川淳二
「タクシーをまわした妻」
知り合いのカメラマンのお話しなんです。
病院に入院していた妻が危篤という連絡を受けたが、終電は終わっているし
自宅周りはタクシーが通るような場所じゃない・・・途方に暮れながら家を出ると1台の
タクシーが家の前に停まっていた。
『このタクシー乗れる?』
運転手が言うには、タクシーに乗せてきた女性がお宅の家に入って行ったところとのこと。
その料金も払うということで車を出してもらった。
運転手に女性の特徴を聞いたところ、間違いなく入院中の妻だった。
運転手には気味の悪い話だったが、女性の乗ってきた病院へ引き返した。
カメラマンが病院に着いた時、奥さんは生きていたのですが、死の直前・・・・
しかし、カメラマンが手を握り励ましていたら、意識が戻ったのです。
奇跡です・・・今も奥さまはご健在です。
病室で寝ていた奥さまは・・・
『どうにか、主人に来て欲しい』 と強く思っていたそうです。

稲川淳二

稲川淳二
「3年A組」
今はもう、亡くなってしまった男性の体験なんです。
大学の生活にも慣れてきた彼の元へ、中学の同窓会の通知が来た。
夏休みだったので同窓会の後、中学時代の親友4人で会った。
そして、中学時代の話に花が咲き『3年の時に行った神社に行こう』
ということになった。
それは、クラス全員で願い事を書いた紙を箱に入れて神社に供えた
ことを思い出したからだった。
行ってみると、箱はそこにあった。
たまたま取り出した紙に書いてあった名前は、高校の時にトラックを
走っていて倒れて亡くなった女生徒のものだった。
頭が良くて綺麗な人だったが、目立たない、控えめな女性だった。
中を見ると『○○君が好き』・・・・
○○君とは4人の中の1人、そして『これを勝手に見た者は必ず殺す』
と書いてあったのです・・・・・・
その後、〇〇君は彼女の霊に付きまとわれ『お願い、死んで』
と抱きすくめられた等の体験をしていた。
そして、ある日、親友の一人にすべて打ち明けたそうです。
でも、その2日後、東北自動車道で事故に巻き込まれて亡くなった
・・・即死だったそう。

稲川淳二

稲川淳二

後ろに霊が・・
「浮かぶ女」
恋人同士のカップルが北海道旅行をしたときのこと。
二人は大沼国定公園へと行き、ボートへ乗り込んだ。
大沼は、多くの藻や水草が茂る濁った水が特徴。
二人は水草の多さに呆れながらもボートを進ませていた。
ふと見ると、ボートの縁を白い指が掴んでいる・・・・
そして、黒髪の女性が水面から顔を現した。
ボートの縁に手を掛けて顔を上げているのに、ボートが全く傾むかない・・・・
女性は深く沈んだ目で二人を見ると、ゆっくりと水面へと帰っていった。
二人は慌てて岸へと戻り、ちょうど通りかかった地元の人に、たった今
見た光景を話した。
『見たんです・・・・水の中から女の人が・・・・』
ところが、意外にも驚かず、返ってきた言葉は
『やっぱりね』
「結婚を引き裂く女」
母の知り合いの息子さんと、お見合いという感じで紹介されて、お付き合い
するようになった彼女の体験。
二人の結婚が決まってから、おかしなことが起こり始めた・・・・。
もととも夢は見ないのに、何者かに首を絞められたり、彼に電話をしようとして
ダイヤルを押し間違えたり、目の前に居る彼に近寄れないという夢を見る
ようになった。
そして、次は現実の世界でそれは起こった。ある日、自転車に乗っていると
後ろから来た自転車にいきなり肩をぶつけられた。しかも、ぶつけた自転車は
前方でUターンをすると再び、彼女めがけて突進してきたのである。
しかし、ギリギリのところを通り過ぎただけで、彼女に怪我はなかった。
自転車に乗っていたのは女。その女がすれ違いざま「やめろー」と言った・・・
この女、彼の元彼女・・・そして今はこの世の人ではない。
「見つからない彼女」
あるタレントが地方へ営業に行った時の話。
1日の仕事が終わり、ホテルの部屋でくつろいでいると、部屋をノックする
音が聞こえてきた。覗き窓から見ると、かわいい女の子だった。
ドアを開けると、サイフを無くしてしまって今晩泊まる部屋がないので
突然で申し訳けないが泊めて欲しいとの申し出だった。
相手を知らないのに泊められるわけないだろう、と思いながら彼女と話して
いたら、悪い人ではないことがわかったので泊めてあげることにした。
翌朝、目覚めると彼女がいない・・・・。
見ると、テーブルの上に昨晩のお礼と自分の携帯番号を書いたメモが
置いてあった。まあ、いいか~と支度を始めると、部屋の電話がなった。
電話は彼女からだった・・・車の調子が悪いので見て欲しいとのこと。
彼女のメモをつかんでホテルを出て、言われた場所にやってきたが彼女の
姿がないので携帯へ電話した。『林を抜けた、もっと奥です』
言われた通り林を抜け出ると、今にも崩れそうな崖の途中に、もう何年も
放置されていただろうボロボロの車があった。
彼女がいないことから、再度彼女の携帯へ電話をしてみた。
すると、明らかにボロボロの車の中から携帯電話の着信音が聞こえている。
『これは危険だ』と思ってホテルへ引き返して警察へ通報した。
警察の調べでは、白骨化した女性の遺体が発見されたとのことだった。
「衝突事故から私を救った第六感」
今、自衛隊のイージス艦と漁船の衝突事故が問題に
なっていますが、今から十数年前にも同じことをやらか
しているんですよ。
潜水艦と釣り船の衝突事故。
当日、その釣り船に乗らなかったために命拾いした人の
第六感の働きの様子。

山口敏太郎

山口敏太郎
「お母さんのお味噌汁」
小学3年生、転校したばかりで唯一親しい友達と学校に行くのに
珍しく自分が彼女を迎えに行った時のことでした。
彼女の家の前まで来ると、味噌汁のいい匂いが漂ってきました。
匂いに誘われるまま、台所の方へ回ってみると、友達のお母さんと
思われる人に声を掛けられた。
上がって待つように言われたが、外で待っていると友達がやってきた。
朝食をいっしょに食べようと言われ、彼女が味噌汁を暖めた。
彼女のお母さんが来ないので「お母さん、綺麗でやさしいね」と彼女に
言うと、急に大粒の涙を流して泣き始めてしまいました。
彼女のお母さんは数年前に亡くなったそう・・・・
お母さんの写真を見せてもらうと、台所で声を掛けてきたのは
まぎれもなく彼女のお母さんでした。
有名人の心霊体験談

ラジオの生放送で、心霊スポットから中継するという番組で
現地から届いた『オバケじゃないもん』の女の子の声・・・
現地のタレントの声でもない。
「怪奇なり、ニッポン!」
日本には、幽霊が出る、呪われているなど、怖いうわさの絶えないオカルトミステリースポットが
多数ある。
本書はその中の86ヶ所を厳選して、調査・紹介するものだ。
オカルトミステリースポットの中には、単なるうわさや都市伝説にしかすぎない場所もなくはない。
しかし本書で紹介する86ヶ所については、そうしたうわさが出回る根拠がある。
何らかの悲しくも無残な事件がそれらの場所で実際に起こっているのだ。
それを知ると、そこがなぜそういった恐ろしい話につきまとわれているのか、納得せざるを
得ない。
この本を読んで、もしどこかの場所を訪れるのであれば、かならず犠牲者たちを供養する
気持ちを持って訪ねてほしい。

小菅宏

小菅宏
「表参道(渋谷区)」
『フツーさ、背筋がゾクッとする体験は、夜間ですよ。ところが青山通りから表参道を
西へ向かう道筋、特に明治神宮の信号を過ぎて明治通りを超え、神宮橋の信号の
右手に明治神宮南参道がフロント越しに見える辺りは昼間でもヤバイです。
なにか知らないが胸が締め付けられて息苦しくなる経験を、たびたびしています。
運転に支障をきたすし、あの現象には何か祟りがあるって、運転手仲間で噂して
います。」

『妙に耳がざわつくんです。運転中に大勢の声がして、お経のように聞こえます』

太平洋戦争末期にはB29による空襲で、原宿は焼け野原となり、多数の犠牲者を
出した場所であることから、明治神宮へと通じる表参道は霊魂の通り道になって
いるという人がいる。

平川陽一

平川陽一
山と村の怖い話 平川 陽一 宝島社
「霊が憑きやすいトンネル」
霊の憑きやすい場所を霊能者に尋ねると、まず第一にトンネルをあげる。
古いトンネルにはほとんど何らかの霊がいると言ってもいいようだ。
自分が霊に弱いタイプだとわかっている人は、できればトンネルのない道を選ぶべき。
それが無理なら、トンネルを通るときにはスピードを緩めて安全運転に徹する。
ここで、日本各地の『出る』といわれるトンネルを紹介してみたい。
●北海道積丹の念仏トンネル
トンネルの隣の海岸は『賽の河原』と呼ばれる。海難事故で死んだ人々が弔なわれている。
●岩手県岩泉町の押角トンネル
夜中に、トンネル入り口に女の霊が立つ。トンネルを走っているとエンジンが止まることがある。
●神奈川県逗子市の小坪トンネル
このトンネルの上にある曼荼羅堂や切通しはかなり『出る』という噂。
●埼玉県飯能市の吹上トンネル
『トンネルの中でクラクションを鳴らすと霊が寄る』という怪奇話がある。
●徳島県橘町の鴉トンネル
深夜に車で走ると、後部座席に女性が座っていたりするという。
怨霊地図 関東一都六県 2003年9月9日発行 TJMOOK 宝島社
事件現場、処刑場跡、廃墟ほか 背筋も凍る 最新!恐怖の66ヵ所

「笑う首」 埼玉県大里郡寄居町S橋
タクシー運転手が恐れる有名な場所
深夜にタクシーを運転中、何かが歩道から飛び出して来たため、急ハンドルと急ブレーキをかけた。
バックミラーを見ると、黒い塊が道路に転がっている。急いで車を降りて向かうと、その物体が振り向いた。
最新「心霊スポット」121 怨霊地図 関東一都六県 04年版 TJMOOK 宝島社
東京都・北区・K公園
地元の高校生が夜十時に公園を通ると、風もないのにブランコが揺れていた。
そして宙に浮く、三つの人魂・・・・
震える高校生に人魂が近づくと
『こっちだよ、こっちだよ』と低い声で言って消えた。
それ以来、高校生は不眠症になってしまったとのこと。

小池壮彦

小池壮彦

大正9年4月7日の新聞に掲載された心霊写真

平山夢明

平山夢明
「お遍路」
学生時代に四国八十八ヶ所をお遍路して一人歩いた女性の体験。
旅路は順調に進んだが、高知に入ってから変なことが起き始めた。
その日、宿に着くと自分宛の電話がかかって来たという・・・
何か起きたのかと自宅に電話をするが、家族は誰もかけていないという。
若い女で、電話の時に彼女の名前を確かに告げたとのこと。
次の宿でも同じ・・・
彼女は事前に宿を家族に知らせていなかったため、彼女の行動を知る
者は誰もいないはずなのに、先回りするよに電話がかかってくる。
そんなこんなでお遍路も終わりに近づいた頃に、着いた宿に電話が
かかってきた。
『もしもし』
『おねえちゃんでしょ?』
『どちら様でしょう?』
相手は、彼女の苗字と彼女の住所で名乗った。
彼女はひとりっ子だったので
『私、妹いませんけど』
<なら、おまえが死ねば良かったな>突然、野太い男の声になった。

自宅に帰り、ことの顛末を両親に話したが思い当たることはないという。
「廃病院の窓辺に佇む死んだ院長の幽霊」
求人の張り紙が以前から出ていた小児科医院へ面接を受けに行った。
しばらく待つように言われシートに座って待っていると、診察室の入口付近に
白衣を着た背の高い老人がいるのに気付いた。
『こんにちは!』と声を掛けると、軽く会釈をして立ち去りました。
しばらくすると診察室に入るように言われ、40代半ばの先生に採用をいただいた。
勤務するようになって、度々見かける長身でメガネを掛けた白衣の老人の話を
先輩看護師にすると、それは死んだ先代の院長先生だと教えられた。
その後、医院がビルに建て替えられるため解雇となり、その町を離れた。
数年後、結婚が決まったため、かつての先輩看護師へ連絡すると
医院はビルに建て替えられることなく、今は廃墟となっているとのこと。
『院長先生が、誰もいない2階の窓から見ているんだって・・・・』
先輩看護師が近所の人から聞いた話とのこと。
「中庭に埋まった死者の秘密」
ある老人が病院で亡くなった。ご遺体をご家族の家に
運んだが、老人の意向との理由で通夜も葬儀も
家族である息子夫婦は行わなかった。
ある日、その病院の看護師に呼び止められた。
亡くなった老人の幽霊が出て、庭の一部を掘っている
という。早速、その部分を掘り返してみると・・・
子犬、子猫・・動物の子どもの屍骸がたくさん出てきた。
いつもニコニコと温厚は顔をしていたが、実は息子を
深く恨んでいたのではないか?という話。
「新撰組の幽霊」
京都の大学の馬術部には新撰組の幽霊が出るとのこと。
どうも、新撰組の詰め所跡にその合宿所は造られたらしい。
深夜、馬が怯える鳴き声がすると、武士姿の幽霊が二対一で切り合いを始める。
そして、着物姿の女性の幽霊が出ると消えていくというもの・・・。
その昔、女性を巡っての隊士の争いがあったらしい。

室生忠

室生忠
「二号に別れに来た亡霊」
昭和五十年ころの出来事。
京都のとある高級料亭の女将は、二十年来、ある政治家の二号(妾)をしていた。
しかし、旦那である政治家は胃潰瘍で入院中。
囲われ者である彼女は見舞いにも行けず、イライラして寝付けない晩だった。
『ちょっと病院を抜け出して、おまえに会いに来たよ』
と、旦那である政治家がやってきて、久しぶりに猛烈な女の喜びを与えてくれた。
だが、翌朝、秘書から電話があって
『先生は実はガンで、昨夜、病院で亡くなられました」

室生忠

室生忠
「レールにうごめく亡霊群」
昭和37年に起きた 三河島事故。
その事故は、江戸時代に重刑者の処刑場だったことにも関係するのか。
そのレールの上では、手や足がない血だるまの霊が目撃される。
一人二人ではなく、何十人もの血だるまの霊がトボトボと歩いていく。
また、現場近くでは血を流した霊が現れては消えていくという。

マーク・矢崎

マーク・矢崎
「いじめの怨念」
幼い頃から病弱で、体育の授業は見学、2時間おきに薬を服用していた関口容子さんが
薬の副作用で心臓が弱くなり、14歳という短い生涯に幕を閉じた。
彼女はクラスでいじめを受けていた。
しかし、彼女が亡くなると重病だったことを知り、多くの生徒が謝罪の念を持った。
そんな中、1番に容子さんを嫌っていた亮子は告別式にも参列しなかった。
それから、亮子の様子がおかしくなった。
風邪、腹痛、頭痛で学校を休んでおり、もう1ヶ月を過ぎている。
心配になった何人かのクラスメイトが亮子のお見舞いに出かけた。
亮子の母親に案内されて、部屋の前まで来ると・・・
『入って来ないで! 誰も入って来ないで!』
『クラスの方がお見舞いに来てくれたのよ』
母親がドアを開けると、そこには変わり果てた亮子の姿があった。
ほおはこけ、髪はボサボサ、顔色も悪い・・・・
『汚い顔ね』 『亮子って、きたなーい。亮子って、くさーい』
そんな声が聞こえて来た。その声はまぎれもなく容子さんの声だった。
生前、亮子にさんざん言われ続けた言葉だった・・・・
「残された声」
御巣鷹山の日航機墜落事故の際に現地へ派遣されたヘリコプターのパイロットの体験。
彼の任務は、現場と麓の本部の間の水、食料の補給と遺体の輸送だった。
ヘリコプターの調子が悪くなったのは、立川を3機で飛び立ち、間もなくのことだった。
無線が全く使えなくなった。3機で連絡を取り合う無線ですら使えない。
そして、御巣鷹山に近付くにつれノイズが酷くなり、ノイズが消えたと思うと様々な
声が無線に入ってきた・・・・
『痛い、痛いよう。お母さん、お母さぁん・・・』
『アツイ・・・誰か助けてぇ』
『くっ、落ちる・・・』
『・・・まだ、死にたくない・・・』
無線は最後まで使えなかった。トランシーバーさえも使えない・・・
無線を点けると霊の声が聞こえてくるので、全て手旗信号で行う。
任務が終わって帰るときに、コックピットに塩を盛り
『成仏しますように』
と祈ったら無線が使えるようになったとのこと。
「最後の長距離電話」
いつものように仕事が終わり、自宅に帰り夕飯を食べる。
風呂に入って、いつのも時間に就寝した。
夜中、電話のベルで目覚めた。
時計を見ると、午前2時45分・・・
間違い電話だと思ったが、電話が切れないので出ることにした。
『もしもし・・・』
『私、Y。こんな時間にごめんね』
Yは高校時代の親友。そう言えば最近、連絡してなかったなと思った。
何かの相談か、聞いて欲しいことがあるのかと思えば帰ってくる
返事は「なんでもない」。
電話を切ったあとに、心配になったので翌日は会社を休んでYの家に
行ってみることにした。
電車を乗り継ぎ、とりあえず実家へ向かう。
実家に着くと、Yが死んだという・・・
大急ぎでYの家に向かう。
亡くなったのは、午前2時50分・・・
「とばっちり」
無理して中古物件のマンションを買ったOLの体験。
ある深夜、帰宅すると玄関ドアが開いていた。
空き巣と思い、警察へ通報。
駆けつけた警察官が調べると、部屋の中で知らない女性が首吊り自殺をはかっていた。
警察の調べでわかったことは、死んだ女性は前の住人の同棲相手だった。
しかも、この事件があってから、度々彼女の霊に悩まされた。
『出て行け~』
不動産会社へ売却を依頼するも、事故物件になるので大幅に値が低下。
無理して買った価格なので、とてもじゃないが今のままでは売却できない。
途方に暮れながらOLが最後にとった方法は、事故物件に告知義務の過ぎる
10年間を機械に部屋を貸すことだった。
つまり、携帯のアンテナ基地として貸しているとのこと。

黒田みのる

黒田みのる
「なぶり殺された猫の恨み」
ある日、飼い猫が目に釘を刺され、首を針金で固定された状態で
帰ってきた。
すぐに動物病院へ連れて行ったが、それから間もなく死んでしまった。
犯人を捜すべく、いろいろと聞いて回ると中学生の2人連れが愛猫を
抱いていたことがわかった。早速、その1人に話を聞いた。
すると、愛猫の目に釘を刺したりしたのはもう1人の奴で、猫を傷つけた
場所で自転車操作が不能となり、柵に激突して目を怪我して入院中で
あるという・・・
「からみつく犬の霊」
捜索願が出されていた男の子の遺体が川で見つかった。その足には
何故か白骨化した犬が・・・・


ちょうど1ヶ月ほど前に、男の子の父親が家の物置に子供を生んだ犬を
見つけた。親犬はシッポを振って迎えたが、子犬を取り上げようとすると
猛然と吠え掛かってきた。それに腹を立てた父親は木刀を持ってきて
親犬の脳天に一撃を加え殺した上、生きている子犬もろとも川へ捨てた
のである。
わが子の遺体に喰らい付いて離れない犬の白骨には、頭蓋骨に陥没痕が
はっきりと残っていた・・・・
実録 芸能人の体験した心霊現象300 メディアックス

稲川淳二

稲川淳二
「ミステリーナイトツアー会場にて」
その名の通り、怪談話のライブをしている最中に起きたことなんです。
ちょうど、その時は「北海道の花嫁」の話をしていたときなんですが
会場がざわついたんです。そして左肩が重くなったのを感じた。
でも、話は最後まで続けたのです・・・
ライブ終了後、仕事関係の人で霊感のある人なんですが楽屋に訪ねて
くれたんです。その方が、左肩に女の人が来ていたと・・・・
また、会場で作為的に動かしていた光とは別に、小さい光の塊が左右を
行きかい、漂っていたとのことでした。

こういうハプリングは時々あるんです。
それを、期待しているところもあるんです。
添乗員が持ち歩く「幽霊旅館手帳」は存在する。
自分の担当のツアー客が問題の部屋に当たった場合は
事前に部屋の変更を交渉するという。
そして、添乗員自身の宿泊部屋となるケースもある。
また、一般客と隔離させたい芸能人には、宿泊施設側があえて
幽霊部屋を提供するとのこと。
芸能人に霊体験者が多いのは、こういうことも原因の1つなのでは
ないでしょうか。
「海の上の恐ろしい老婆」
高校時代に何人かで海へ出かけた。
数時間経つと、一人の男の子を除いては全員が陸へ上がっていた。
仲間の数人が、心配になって上がって来ない奴を探した。
すると、沖合いに彼が浮いているのを発見、直ちに救助を呼んだ。
しかし、彼は助からなかった。
数日後、意気傷心した仲間が集まって海に行った時の写真を見ていた
その時・・・『なんだこれは!!』
全員がその写真に釘付けになった。
先日、海で死んだ男の子を写した写真には、ものすごい形相の老婆が
彼の頭を押さえつけている・・・・その姿が写真に写っていたのです。
「四百年前の亡霊が通る街道」
多田銀山-兵庫県川辺郡猪名川町にあるこの銀山に通じる街道に
今なお、殺された人夫や囚人の霊が通る・・・・

赤ん坊の夜泣きで一家が眠れないということで、僧侶を呼んで祈祷を
してもらった。祈祷が終わると僧侶は「この家の前の街道を夜な夜な
ノドをからした囚人らしい亡霊が何人も何人も通るのです。今晩から
大きな容器に水をくんで出しておきなさい」

夜中に外を雨戸の隙間から見ると、月明かりの街道を人影のような
ものが続いており、その影は手桶の前で止まっては、動いて行く。
翌朝、手桶を見ると、いっぱいに入れた水が3分の1ほどに減っていた。

稲川淳二

稲川淳二
「餌食」
母を伯父と祖父に殺された娘が、親の仇を取るために
姉妹のように一緒に育った来た、伯父の娘(従兄弟)を殺そうとする。
従兄弟の彼が間一髪のところで助けるが、娘を殺人者にしないように
との殺された母の霊が彼を現場へと導いたのでした。

稲川淳二の創作怪談

中村豪

中村豪
僕の相方・石井が引越した時のこと。
『何か部屋にいないか、視に来てよ』
と言われ、引っ越したばかりの部屋へ行きました。
その部屋は、石井ご自慢の、広めだが変な形をした”スーパー1K”という物件。
でも、ベッドを置いてある一角にいたのです。
烏帽子をかぶった、平安時代の貴族のようなお方が。
僕は
『あのベッドのある一角は、あのお方のスペースみたい。とても偉いみたいだから
物とか置くのは良くないよ』
と伝えました。
石井はその一角を潔くそのお方に差しだしました。

黒田みのる

黒田みのる

後ろに写っているのは土地の浮遊霊とのこと
携帯電話、ポケベル、電子メール、プリクラ・・・・。
急速に進むデジタル機器のお陰で便利になった日常の生活。
ところが、機器が進化すればするほど、信じられないような怪奇現象が次々とおこり始めたのだ。
人の怨念はデジタル回線に乗って、またはパソコンに潜り込んで、憎い相手に恨みを晴らす。
そう・・・・死に至るまで。
電脳ツールは時として、人を恐怖のどん底に突き落とす。
・・・・・そこで、実際にあった恐怖体験を、都市を中心に集めてみた。
今夜はあなたにおこるかも・・・・

さたなきあ

さたなきあ
恐怖袋 さたなきあ ワニ文庫
「C家の主人は門の掛けがねを外し、B家の玄関ドアに向かって歩き始めた。
自宅の和室から様子を見ていたA家の奥さんは自分の目がおかしくなった気がした。
ドアへと狭い庭を進むC家の主人の後に・・・・その背中にぴったりと張り付くようにして
誰かがいるのである。
今の今まで門灯に照らされていたのはC家の主人ただ一人であったはずなのに・・・・」

今年も怪談の季節がやってきた。本当にあった震える話をお届けする。

さたなきあ

さたなきあ

魑魅の館 さたなきあ ワニ文庫
「本日休診」
浅沼さんは、その町で暮らすようになって、まだ間がなかった。
彼女には三歳になる一人息子がいるため、小児科医院は欠かせない。
しかし、ある事情であわただしく新居を決めてしまったので予備知識がない。
たまたま、近くに看板が出ていたのを見つけたので、出かけてみた。
病院は見つかったが、ドアには『本日休診』と札が掛けてある。
ドアの前で立っていると、背後から声がした。
『そこはだめよ。いつ来たってやっていないわよ』
振り返ると、買い物袋を下げた婦人が立っていた。
婦人が、その医院のことを説明してくれた。
その医院は、院長が息子に代わって人気がなくなり、患者が減った。
そして、誤審により髪の長い女性を死亡させると、奇妙なことが起き出した。
それは、死亡した髪の長い女性がたびたび目撃されるようになったのである。
これにより、患者は去り、看護師は辞めていく、院長はおかしくなってしまったとのこと。

さたなきあ

さたなきあ
とてつもなく怖い話 さたなきあ ワニ文庫
「呼び出し音」
城山家では、年金暮らしの夫の父のためにバリアフリー、バスユニットも
最新式のものにした。
夫の父が昼間から風呂に入り、呼び出し音と音声でバスユニットの機能の
説明をやたら求めてくるため、業者に依頼して呼び出し音、スピーカー機能を
止めてもらっていた。
その後、夫の父はあっけなく他界・・・・。
葬儀のバタバタで風呂の呼び出し機能など忘れていたが、誰もいないはずの
風呂場から呼び出し音が鳴る。
鳴るはずのない呼び出し音が・・・・。
はじめは信じない夫であったが、ある日、亡くなった父の声を風呂場で聞いた。
『ぬるいんだよ』

さたなきあ

さたなきあ
<半ば開いた扉の陰に、なにか、ある。
たったいま、うつろな空間であることを確認したばかりのロッカー。
にもかかわらず、そこに、バサバサの髪が・・・・人の後頭部が・・・・のぞいていた。
まさか。
たとえ子どもであったとしても、人が潜める大きさなどではない空間だ。
なのに『それ』はそこにいて、そして・・・・>

人を怖がらせるもよし、自分が震えあがるもよし。
今年も、たまらなく怖い、本当にあった怪談集がやってきた!

さたなきあ

さたなきあ
「葬儀場奇談」
香川さんの友人のお父さんが急死をして、その葬儀に参列したときのこと。
僧侶の読経が始まった・・・
しかし、時折、僧侶の口から苦しげな声が漏れる。
そして、親族からの焼香へ・・・
喪主である故人の奥さんが今まさに香をつまもうとしたその時、香鉢が舞い、香が飛び散った。
ホール内がざわめいた・・・
ふらっ、と奥さんの体が揺れ、そばにいた葬儀社の社員が間一髪で体を支えるのに間にあった。
進行役が何か言ったようだが、香川さんは憶えていない。
なんとか、焼香、僧侶の読経が終わり、人々が移動しかけた時に
『ギャ~~~~』
場内に大勢の悲鳴が上がった・・・・
それは、祭壇の上部から覗く二つの眼のためだった。
香川さんは、そのまま斎場を後にした・・・・

さたなきあ

さたなきあ
現実と隣り合わせる異界は時に私たちの日常へ恐怖のメッセージを送ってきます。
子供たちが偶然地面から掘り出した人の顔。
拾い主に次々と不幸が降りかかるお守り。
法事の日に目撃された手招きする怪しい白い腕・・・・。
周囲の人々に本当に起こった不思議で恐ろしい体験の数々を収録。

彼らにもたらされた異界からのメッセージとは一体・・・・

さたなきあ

さたなきあ
「ひとりでに鍵が開く!」
つい最近、奥さんを亡くされた飯島さんは、あまり自宅へ帰ろうとしない。
子供もなく、両親もすでに他界している飯島さんにとって、奥さんの記憶が残っている自宅は
淋しすぎるのかと思ったが、違うらしい。
鍵が外れると言う。
朝、鍵をかけて仕事に向かい、そして帰宅する・・・・ひとり暮らしの飯島さんの自宅である。
朝、鍵をかければ、当然、帰宅時にも鍵がかかっていなければならない・・・・
はじめのうちは、鍵をかけ忘れたと思った。次は泥棒を疑ったが、盗難にあった物はない。
そうこうしているうちに、気味が悪くなり、勤務先の仮眠室に泊まったり、カプセルホテルに泊まる
ことが多くなってきた。
ちなみに、たった一つしかない合鍵は、奥さんが亡くなった時に棺の中に入れたそうだ。

さたなきあ

さたなきあ
「ブックインフォメーション」
誰もいないはずの二階から人の声が・・・・・
耳のせいでは片づけられない。
二人、あるいはそれ以上の人間が、ぼそりぼそりと何かを話しているのだ。
そんなことが続いたある日、意を決した彼は二階への階段をゆっくりと上がり始めた・・・・
彼はそこで何を見てしまったのか!?
実際にあなたの隣で起こっている身の毛もよだつ戦慄の怪談実話集!
恐怖がぎっしり!!

さたなきあ

さたなきあ
「倉庫街怪話」
二十代の桂川君が就職したのは巨大な物流基地の一角にある倉庫だった。
最初の一週間は、覚えるなければならないことと肉体労働で目がまわったそうだが、それ以後
少しづつ仕事に慣れ、半年ほどすると周囲のさまざまな事に余裕をもって対応できるようになった。
そんな中、あることに気付いた。
誰もいない方向から声がしたり、人の歩く音がしても、ほとんどの人が無視を決め込んでいる。
入社以来、桂川君が仕事を教えているもらっている先輩に聞いたことがあった。
『誰もいないはずの方向から、オーイと声がすることがあるのですが・・・・』
『呼ばれても応えなくていい。それと指示がない限り、声のする場所へ行くな。特に一人の時は絶対に行くな』
ある日、検品のミスが見つかり、仕訳をし直すことになった。
現物が到着するのを待っていると、館内放送で桂川君を除く全員が事務所へ呼ばれていった。
ひとり、倉庫に残された桂川君は、急に心細くなった・・・・・・『オーイ、こっちだ』
上の方から先輩の声がした・・・・顔を上げると、中二階に続く階段に立って、こちらに手を振っている。
『なんですか?用事ですか?』 と答えながら桂川君は、その方向に歩き出していた。
ところが先輩は、桂川君の問いかけに答えることなく階段を上って行く・・・・
桂川君は慌てて、先輩の後を追って階段を上った。
『ハアハアハア、ハアハアハア』 ようやく先輩に追いついたと思った・・・と見ると先輩ではない・・・ような・・・
『あんた、誰だ?』 と言った瞬間に、ものすごい力で肩を掴まれた・・・・
『オイ、桂川、何をしているんだ!』 先輩が肩を掴んでいた。
訳のわからない桂川君に先輩が説明した。一歩進んでいたら、遥か下に転落していたと。
過去に何人もこの場所で転落事故が起きている。自分が以前に、いるはずのない男を目撃した後に転落
しそうになったことから、桂川君がここに居ると思って来たとのこと。

さたなきあ

さたなきあ
「雨男のはなし」
どんよりとした曇り空の夕方、学生街の一室で先輩後輩の二人の学生がとりとめのない話をしていた。
『雨の夜になると、この窓の下を男が通るんだ』
先輩が言う。その部屋は二階にあって、窓の下には細い道が建物に挟まれて通っていた。
『男が、ですか』
後輩は答えたが、だからなんなんだと言う態度がありありと窺えた。
そんな後輩の態度にかまうことなく続ける。
『ここに座って窓の下を見ていると、必ず通る。青い靴に青い服を着ていて、傘もささずに歩いて行く』
『はあ~』
『このあたりは街灯がないだろう。なのに、その男が通ると青い火の玉のようにボ~っと見えるんだ。
そして、足音もたてずにす~っと下を通って行く。一時間に三回くらい通るんだ。間違いなく同じ奴だ』
『へ~』
『この道な、一本道なんだ』
『知っていますよ』
『突き当たりは行き止まりで、この先は抜け道もない。両側は建物の壁で乗り越えられない。
なのに、青い男は同じ方向からやってきて、この窓の下を通る。Uターンする姿は見ていない』
後輩は、ようやく先輩の話が理解できると、急に落ち着きがなくなった。

さたなきあ

さたなきあ
「そこはワルい場所」
地方から京阪間の大学に合格した山下君は、入学の準備に忙しかった。
そんな中、下宿先を決めるために、ある物件に訪れた。
そこは、何故か西側の窓が塗り潰されたように見える形で閉鎖されていた。
即決だとも少し家賃を下げると言われて、即決した。
引っ越した初日、夢を見た。
それは、塗り潰されて無いはずの窓から中年の女性がこちらを覗いているというものだった・・・・
それから、夢なのか現実なのか、無いはずの窓から中年女性が覗く姿を翌朝に思い出す。
そんなある深夜・・・・
アルミサッシの窓が開く音、カラカラカラ・・・・という音が聞こえて来た。
そちらを向くと、無いはずの窓と、そこから覗く中年の女の顔。
ここは2階だし、足場もない、ましてや窓もない場所からどうして女が覗いている????
女は芋虫のように、頭を窓から少しずつ部屋の中へと入ってくる・・・・
『ドサッ!』
部屋に落ちたような音がすると、部屋の四方から現れた男女の顔がいっせいにこちらを向く・・・
耐えられなくなった彼は絶叫を上げると、部屋中の灯りを点けた。

さたなきあ

さたなきあ
「いつも出会う団地の子供」
H県内の、ある巨大団地で一人暮らしをしている歌川さんは小学校の教師である。
彼女はずいぶん前から、その子供に気付いていた。
仕事柄、帰宅が遅い彼女が団地内を歩いていると、暗がりに立つ子供に気付くのだ。
年齢は四~五歳くらい。
団地内に子供が遊ぶ場所は多々あるが、子供が遊ぶ時間はとうに過ぎている。
『ボク、どうしたの?お母さんは?』 
その子供は後ろの階段を上って、302号室へ入ったようだった。
その後も帰宅時間に度々子供を見かけた歌川さんは、休日に団地の管理担当者に相談した。
夜中に見かけるD棟の302号室の子供を放置していていいものかと打ち明けた。
管理担当者は部屋番号を聞くと、彼女を伴って部屋の前に赴いた。
『ね、この通り閉まっている。表札も出ていない。』
唖然として見ている歌川さんの前で、マスターキーを出してドアを開けた。
中はガランとして、内部には何もなかった。
しかし、自分は確かに数日前、この部屋の前まで子供を追いかけて来たのだ。
すると、管理人はぼそっと話し出した。
以前、この部屋には母親とその子供が住んでいたが、ある事故があって空き家になった。
その事故とは、母親が子供と長期旅行に行くのに購入した大型のキャリーバッグに子供が誤って
入ってしまった。その時は母親が外出している最中で、死因は熱中症とも窒息死とも言われた。

さたなきあ

さたなきあ
「飛び込み営業 営業マンが五軒目に訪れた家」
悪徳リフォーム会社の優秀な社員が体験した話。
東条氏は二十代だが、この業界ではトップクラスの営業成績である。
お客の利益など、微塵も考えない。考えるのは、会社の営業成績表ばかり。
そんな彼が、その日、五軒目の家でカモと思える老夫人に玄関の戸を開けてもらった。
あとは、家に入り込んで、あることないことデッチ上げてリフォーム代を稼ぐだけ。
そんな考えを巡らせていた彼を乗せるように、老夫人が玄関で身体を端に寄せた。
『二階が・・・』 聞きとれるか聞きとれないくらいの声で老夫人が言った。
入れということだろうと、勝手に彼は判断して二階へと上がって行った。
『二階の奥の部屋、奥の部屋』
二階を見上げる老夫人の姿が何故か霞んで見えるが、構わず奥へと進んで行った。
何やら後ろを付いて来る気配がするが、振り向いても誰もいない。
やがて、奥の部屋まで辿り着くと、そこには介護ベッドと介護機器がかつて使われていたで
あろう残骸が置いてあった。ほこりをかぶり、もう何年も人が入っていないような状態。
そして、そのベッドの上には大量の黒髪と女の顔があった。
女が寝ているなら布団がその分盛り上がっているはずだが、布団は平らなままだ。
彼は咄嗟に一階へと向かったが、一階の様相は先ほどとは一転して荒廃していた。
まさに二階と同じ状態だった。
錆ついた玄関をこじ開けるようにして外に出ると、そこは見るからに廃墟と化した家だった。

佐藤有文

佐藤有文

秋本あまん

秋本あまん
「海で見たもの」
釣り好きの石原さんは、S岬で霊に釣竿を持って行かれるという強烈な体験をした。
その後はしばらくS岬へ行かなかった石原さんだったが、夜の十一時には引き上げることに
決めて、S岬通いを再開した。
そんなある晩のことだった。
『しまった。こんな時間か・・・』
その日はなかなかの大漁で、つい夢中になり、時刻は十二時近くになっていた。
あわてて帰り支度を始めると、若い男性の二人組がやってきて、石原さんの隣で釣り支度を
始めた。
二人組は、石原さんのクーラーボックスをのぞいて、釣れてますね~ などと言っている。
『ここ、なんか変なものが出るみたいだから、早く帰ったほうがいいですよ』
石原さんは、彼らにそう言うと車の場所まで歩いて行った。
服を着替えたところで、二人組が血相を変えて走ってくるのが見えた。
『何かあったんですか?』
と彼らに聞くと・・・・
足元の海で誰かが話している声が聞こえた・・・・二人ともはっきりと声を聞いたとのこと。
もちろん、その晩は船など一艘も出ていない。
無人の海面から話し声がしていたのだ。

秋本あまん

秋本あまん
「天袋のトランク」
ある姉弟が体験した小学生の時の話。
白血病で同居していた叔父さん(大学生)が亡くなり、家で葬式をあげた。
そして、49日を過ぎた頃、夜中のトイレで二人が叔父の霊を目撃する。
生きていた時のままの姿に、死んだことは頭でわかっていても怖くはなかった。
そして、最後に叔父の霊を見た時に
『天袋のトランク』
と叔父が言って消えた・・・・
天袋を見るとトランクがあり、中にはB5ノートに書かれた大量のマンガが出てきた。
叔父が一生懸命に書いたマンガだった。
マンガは姉弟で分けて、大切にしまってあるとのこと。
もうすぐ、姉の彼女には子供が生まれるが、生まれた子には絶対に叔父のマンガを
読ませるんだとか。
「自殺した愛人秘書の祟り」
社長秘書と愛人が亡くなった後とも知らずに、社長秘書として採用になった
女性の体験。
勤務して数ヶ月で社長と肉体関係を結んだ彼女は、ある日のこと秘書室で
事に至った。インポテンツになった社長に電動のおもちゃで何度目かの絶頂の
際、膣痙攣を起こしてしまい、心臓の鼓動がとてつもなく激しくなってきた。
その時、『元社長秘書が死んだのは心臓発作が原因で、これは元愛人の
祟りかもしれない』と彼女は思ったそう。
幸い、社長が大量の水を彼女に掛けたおかげで難を逃れた・・・
その後、彼女は会社の辞め、社長の愛人になったとのこと。
社外でいたす分には祟られないらしい・・・

織田無道

織田無道
「異霊界に立つホテル」
そのホテルで警備員をしている男性の体験。
深夜、午前0時過ぎに館内の巡回を行っていた時のこと。
突然、女性の声で『ギャー』という叫びが聞こえてきた。
すぐに声のする方向へ行き
『今、悲鳴を上げていた方はどこにいるんですか?』と尋ねると
『助けて』と女子トイレの中から聞こえてきた。
急いで女子トイレに入ると、そこには腰を抜かした状態の若い女性がいた。
開け放たれた個室のドア付近を指差し
「あわわわ・・・」と震えている。
そのトイレは以前にもシミが顔に見えると怖がる客がいたので、大丈夫だと説明した。
ところが、警備員へしがみついてきた女性は説明を聞くことなく、今度は天井を指差した。
警備員がつられるままに天井を見上げると・・・・
そこには筋肉の盛り上がった赤黒い腕が天井に吸い込まれるところだった。
『トイレに入ろうとしたら、天井からあの腕が出てきた』
それ以来、そのトイレは夜間、使用禁止になったとか。
有名人の心霊体験談

ラジオの生放送で、心霊スポットから中継するという番組で
現地から届いた『オバケじゃないもん』の女の子の声・・・
現地のタレントの声でもない。
「背中を流してくれる幽霊」
投稿者のお父様の体験。
その日も酒を飲んで、深夜の帰宅途中のこと。
鼻歌交じりに自転車のペダルをこいでいると、風もないのに
突然、横からタックルを受けたように横倒しになった。
しょうがねーなー と思いながら、自転車を立て、また走り出した。
すると、また横からのタックルを受け、横に倒れた。
その時、ふいに思い出したのが、自殺したお父様の友人の顔。
『やめてくれんか。静かに家へ返してくれ』
友人の名前を暗闇に叫んだ。
すると、何事もなく、家まで帰れたのでした。
そのまま、風呂に入った。
石鹸をつけて体を洗っていると、誰かが背中を洗ってくれている。
後ろを見ても誰もいないが・・・・
『もう、いいかげんにしてくれよ』
と言うと、いなくなったとのこと。
ちなみに、このお父様、お寺の息子で小さい時から霊を見ているツワモノ。
中岡俊哉
中岡俊哉

柴田集治
あとがき
霊は、私たちの先祖のはずですが、その先祖が人間社会に害を与えていたのには、私自身、驚きと戸惑いを
禁じ得ませんでした。
霊の真実と現実とは、実のところ、そんなものだったのです。
私は、この本を執筆するにあたって、いろいろ思いあぐねました。
私の論ずることが、いかに真実でも、TVや雑誌で報じられていることとは、あまりにも裏腹なことを書かなければ
ならないことや、霊を解いてしまってよいのかということを考えたからです。
世の中には、霊について書かれたものが、たくさん出回っています。
その内容は、どれを読んでも似たりよったりで、これが霊だとばかりに自信たっぷりに書かれていますが、その実
霊について何も真実を知らず、ただ興味本位に書いたとしか思えないものばかりです。
そのような興味本位と思える誤った霊知識が、残念ながら、いまの世の中の常識のように思われている中で
私の執筆したこの本が、どこまで皆さんに受け入れていただけるか、正直言って、一抹の不安はありますが
しかし、いまや、そのようなことを懸念しているときではないと判断し、執筆を決意いたしました。
専心道へおみえになる皆さん方の話を聞いていますと、やはりTVや雑誌の受け売り知識でしかないのです。
その知識が正しければ別に問題はないのですが、霊障を受けているとはっきりわかる人たちでさえ、そのような
誤った受け売り知識しか持っていないので、霊障の恐ろしさを説明するのに苦労します。

中岡俊哉

中岡俊哉
霊気ただよう 怪奇心霊写真集 心霊写真を徹底的に鑑定する 中岡 俊哉 三心堂出版社


中岡俊哉

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