我妻俊樹
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瞬殺怪談 刺 我妻俊樹 平山夢明 伊計翼 小田イ輔 神薫 川奈まり子ほか 竹書房文庫
「地獄の声」 我妻俊樹
優子さんの職場にバイトで来ていた男の子は霊感があって、葬式の家の前を通るとたまにひどい怒鳴り声が
聞こえてくるらしい。
『死んだ人の名前がいろんな声で呼ばれてるんだ』
最初は何事かと思ったが他の人にはきこえないとわかり、この世のものの声ではないのだと知ったという。
彼曰く 『たぶん、名前を呼ばれてる仏さんは地獄に落ちるんだと思う』
呼ぶ声は老若男女さまざまに入り乱れているが、やさしく呼びかけるような口調はひとつもない。
まさに地獄から響いているような声ばかりなのだそうだ。
みみざんげ

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忌印恐怖譚 みみざんげ 我妻俊樹 竹書房文庫
「血まみれ入道」
友作さんの母親の生家の土蔵には、坊主頭の化け物が出るという言い伝えがあった。
しかもその化け物は顔も手足も装束も血で真っ赤に染まっており、それはそれは恐ろしい姿なのだそうだ。
母親がその家で暮らしたのは十年間だが、その十年で血まみれ入道を六回見たという。
ただ、見るたびに入道の姿は小さくなっていった。
最初は土蔵の梁越しに見下ろしてくるほどの大入道だったのが、最後に見たときは母親とたいして背丈が
かわらなくなっており 『血まみれ小坊主』 といった程度だったと彼女は語る。
化け物がさらに小さくなっていったのかは、生家との縁が切れているのでわからないという話だ。

我妻俊樹

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忌印恐怖譚 めくらまし 我妻俊樹 竹書房文庫
「しんだ」
その駅では何度か飛び込み自殺があった。
昨日もあったんだよな~と思いつつ、ベンチに腰掛けていると隣に誰かが座り身体を摺り寄せてくる。
ぎょっとなって見たら、肩から上と腰から下の無いスーツ姿の男だった。
ジェスチャーで 『おれ、ここで、とびこんで、しんだ』 と伝えると消えたという。

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忌印恐怖譚 くちけむり 我妻俊樹 竹書房文庫
「関西のホテル」
明奈さんが仕事で予約した関西のホテルに入ると、部屋の中に仏壇が置いてあった。
驚いてフロントに言ったら、平謝りですぐに部屋を替えてくれた。
しかし、一体どうして客室に仏壇があるの? という明奈さんの質問には・・・・
『前のお客様が置いていかれたものを係員が見落としました』 という不可解な説明だった。
そのことを出張から帰ってきた明奈さんが職場でみんなに話していたら、フロアの電話機が
一斉に鳴り出した。
電話に出てみると、どの電話も 『係員が見落としました係員が見落としました』
壊れたレコードのように繰り返した後で切れてしまったという。
着信履歴はなかったそう。

我妻俊樹

我妻俊樹
奇々耳草紙憑き人 我妻俊樹 竹書房文庫
「さそり」
西日本のかない大きな繁華街に昔からあるラブホテルでは、たまに客室からフロントに
『部屋にさそりが出た! すぐ来てくれ!』 と男の声で電話がかかって来るという。
その部屋はいつも同じなのだが、電話は使用中のときに限らず、空室時にもかかってくる。
いずれにせよ従業員が駆け付けると・・・・
『電話などかけていない』と客に言われるか、空室なら誰もいない。
だから、そういう電話があった場合は無視するようにと申し送りされているらしい。
ちなみに、これまで館内でさそりを目撃した従業員は一人もいないという。


奇々耳草紙祟り場 我妻俊樹 竹書房文庫
「煙の話」

某島出身の細見さんが、夏に子供連れで帰省したときのこと。
夜、花火をしようということになって、たくさんの花火をもって海辺の駐車場へ向かった。
付近は人家から離れているので、大騒ぎをしながら花火を楽しんでいた。
そんななか、細見さんが筒の花火に点火する。
高く噴き上げる花火に歓声を上げていると、煙の立ち込めている其処此処に大勢の
老人の姿が浮かびあがる・・・・
もちろん、そんな場所に大勢の老人がいるはずがない。
細見さんは、子供たちが楽しんでいるので目にした光景を口に出すことはなかった。
「それに爺さんたち、みんなニコニコしながら見ていたんですよ。孫を眺めているみたいに
子供たちを見ていたのでしょうね」
この世のものならぬギャラリーに見守られつつ、一家の花火大会は最後の一本まで
続けられた。

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奇々耳草紙死怨 我妻俊樹 竹書房文庫
「ひさしぶり」

OLの田岡さんが深夜のスーパー銭湯で頭をドライヤーで乾かしていたら鏡に小学校の同級生だった
フミヨが映った。
びっくりして『どうしたの、ひさしぶりー』と振り返ったら誰もいない。
気のせいかと思って再び鏡を見ると、フミヨがニコニコして後ろに立っているように映る。
だが、振り返ると誰もいない・・・
そもそも小学生のときの面影が何もないくらい痩せこけているのに、どうしてフミヨだとわかったのか?
そう思ったら鏡の中のフミヨが田岡さんに近づいてきて『死んだからだよ』とささやいた。
気が付くと、田岡さんはドライヤーを頭に当て続けてやけどする手前だった。

そのフミヨは二日前に練炭自殺していた・・・

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奇々耳草紙呪詛 我妻俊樹 竹書房文庫
「足を落とす」

終電で帰って来た市雄さんが、近道をするため畑の中を行こうと決めた。
夜中だし、ばれないだろうと足を踏み出した数歩目で右足がずっぽり土中に落ち込んでしまった。
その時、確かに地面の下から
『ぎゃーーーー』 という金切り声が聞こえたので、あわてて足を引き抜くと畑を飛び出して走った。
気付いたら右足の靴は履いておらず、足を引き抜いた際に土中へ置いてきてしまったらしい。

帰宅すると奥さんが部屋の中で、涙と鼻水まみれの顔で腰を抜かしている。
どうしたのか訊ねると・・・・奥さんは中空を指差し・・・・
『今、そこから足が出てきて、それで・・・・』
今度は床を指差し・・・
『これが落ちてきたの』
見ればテーブルの下に、市雄さんが無くしたばかりの革靴の右足が転がっていた。
靴の中には、あふれんばかりの黒い土が詰まってる。

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FKB実話怪談覚書水霊魂 我妻俊樹 竹書房文庫
「見送り」

笠間さんが某県の競技場でサッカーの試合を見た帰り、ラーメン屋に立ち寄った時のこと。
店の奥から 『ぐしゃっ』 という音がした。
すると、店員たちが慌てた様子で動き出した。
やがて店の前に救急車が止まり、担架であご髭のある恰幅のよい店主と思われる男性が
運ばれて行った。
心配げにに戸口に立って見送る店員たちに混じって、店主そっくりの恰幅のよいあご髭の男が
うつろな目で救急車を見送っていた。
双子なのだろうかと思って笠間さんが見続けていると、他の店員たちは持ち場に戻って行ったのに
その男だけがその場に立ったままだった。
そして、時間の経過とともに体が透けていったという。
二ヶ月後に店の前を通るとシャッターが下り、閉店を知らせる貼り紙があった。

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FKB実話怪談覚書忌之刻 我妻俊樹 竹書房文庫
「自転車」

線路沿いの、人がすれ違うのもやっとの道を歩いている時だった。
後ろから自転車のベルを続けて鳴らされた。
素子さんは立ち止まった。
夕闇のあかりの中で、くすんだ黄色いポロシャツを着た女が自転車で近づいてくるのが見えた。
端に寄って待っていると、女はスピードも緩めず、目礼もせずに走り去って行った。
女は、はるか先の陸橋の階段の下に自転車をとめて陸橋を渡る。
やがて素子さんも女がとめた自転車のところに辿り着いた。
今の今まで女が乗っていたはずの自転車だったが、錆びてボロボロな上に、線路の金網から伸びた
ツタがスポークに巻きついていた。
他に自転車は見当たらない。
とてもじゃないが、昨日、今日に置いた自転車ではない。
その時、強い視線を感じた・・・・階段の手すりから、さっきの女がすごい形相でにらんでいた。

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FKB怪幽録奇々耳草紙 我妻俊樹 竹書房文庫
「一字」

Nさんの職場では毎年のように自殺者を出しているが、今まで亡くなった人たちは
ほとんどの場合、氏名にある漢字一文字が含まれている。
読み方はまちまちで苗字だったり名前だったり、位置もさまざまだが、どこかに
その一文字が入っていた。
そして、その一文字とは旧社名に含まれていた一文字なのである。
『人名として決してありふれているとは言えない、その一文字の入った氏名の
新入社員やアルバイトを、会社が毎年少なからぬ人数を採用し続けていることが
一番怖いんですよ』
とNさんは声をひそめてつぶやいた。

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FKB実話怪談覚書冥妖鬼 我妻俊樹 竹書房文庫
「お昼寝」

慎二さんは幼稚園に1ヶ月くらいしか通わなかったらしい。
登園を嫌がったという記憶もないので不思議に思い、中学生の頃に母親へ尋ねた。
『お昼寝の時間に、あんたが白目剥いておじいさんみたいな声で
≪ゆるせ~ゆるせ~≫と唸るから保母さんが怖がっちゃって』と言われた。

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FKB実話怪談覚書有毒花 我妻俊樹 竹書房文庫「食べ合わせ」
書店員の大迫さんの家では、芋類を二品以上同時に食卓に並べてはいけないという
決まりがある。
謂われがあるわけではなく、経験上でやめたほうがいいと伝わっている程度のもの。
なんとなく守ってはいるが、いつ破ってもいいだろうと思っていた。
それは、大迫さんのお母さんも同じで、お父さんのいない晩の食卓にポテトサラダと
サツマイモの天ぷらが並んだ日があった。
『芋のおかずがかぶっているねー』 と二人で相談したが、まあいいか~と
食べ始めようとしていたところで家の電話が鳴った。
『電話は父の上司からでした。会社を出たところで父がバイクにはねられて
救急車で運ばれたという連絡でした』
かけつけた病院では、さいわい命に別条はなく、照れ笑いをしたお父さんがいた。
『さすがに芋のことは父に言えませんでした』
もし、芋に箸を付けていたらどうなっていたかを考えると寒気がするという。

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ふたり怪談 弐 我妻俊樹 黒木あるじ 竹書房文庫
「深更」 我妻俊樹
交差点の真ん中にトラックが停まっている。
事故だろうか?
深夜で車の通りはばったり途絶えている。
運転手の急病かもしれない。
通報すべきか、迷いながら黄点滅の信号を横断した。
トラックから、かすかにアイドリングの音がひびく。
背後からライトに照らされる・・・・振り返るとパトカーが1台近づいてきた。
ほっとして、歩道から事態を見守ることにした。
ハトカーが交差点に進入する。
トラックは動かない。
ハトカーは音もなくトラックに接近すると・・・・
そのまま速度を落とさずにトラックの荷台を通り抜けて行った・・・・

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怪談五色 死相 我妻俊樹 平山夢明 岩井志麻子 小田イ輔 福澤徹三 竹書房文庫
「骨壺」 我妻俊樹
丸田さんの同い年の友人が若くして亡くなって、一年後に彼の夢枕に立った。
『どうして俺だけ暗いところにいるんだ。出してくれ。女のいっぱいいるところへ連れてってくれ』
懐かしい友が泣きそうな顔で訴えてくるので、さっそく墓に行って骨壺を取り出そうとすると・・・
ちょうどそこへ共通の友人であるSが来て止められた。
実はSもまったく同じ夢を見て、友人の骨壺を持ち出そうと墓地へ来たのだが、白い箱を
抱えた丸田さんの姿を目の当たりにして急に正気に返ったのだという。

たぶん丸田さんたちと同じ夢を見た者が、他にもいたのだろう。
というのも翌年の命日に墓参りに来た家族が中を確かめたところ、骨壺が何者かによって
盗まれていることがわかり、二十八年経った今も行方不明のままだからである。


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