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営業のK
闇塗怪談 戻レナイ恐怖 営業のK 竹書房文庫
「無銭飲食」
そのショットバーに行くのは初めてだった。
大学時代の友人に誘われて神戸で飲み、その流れで訪れた店だった。
その時に 『あること』 が気になってしまい、つい怪訝な顔になっていたかもしれない。
気付いたマスターが 『どうかしましたか?』 と声を掛けてくれたのでストレートに疑問をぶつけた。
『あの・・・・さっきから何人ものお客さんがお勘定しないで、黙って店を出ていくけど、いいんですか?
あれって無銭飲食なんじゃ・・・・それともただの常連?』
すると、マスターは少し笑いながら、こう言った。
『ああ、お客さんは見える人・・・・なんですね?
お金は一度も貰ったことがありませんから、確かに無銭飲食なのかもしれませんね。
でも、あの人たちは純粋にお酒が飲みたくて此処に来てくれているんですよ。死んだ後もお酒が
飲みたくなって、幾多の店の中からこの店を選んでくれた。私にはそれだけで十分なんですよ。
生前は色々と大変な人生を送られた方もいるんでしょう。ですけど、死んだ後はそういう重荷を
全て降ろしてしてね、純粋にお酒を楽しんでもらえたらなって思うんです。 それにあの人たちが
来てくれるから、この店の独特の雰囲気も保たれている・・・・・。ほんと、持ちつ持たれつ
なんですよ。そんな人たちからお代なんて頂戴できません』
微笑むマスターに、常連客らしい男性がこう付け加えた。
『そうそう、大切な飲み仲間なんだよな!だから、もしもお代が必要なら俺たちがちゃんと払うさ』
男性はそう言って、グラスのウイスキーを一気に飲み干した。
こんな素敵な店なら、是非また来たい!! そう思った夜だった。

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闇塗怪談 解ケナイ恐怖 営業のK 竹書房文庫
「知人の死因」
知人が死んだ。自殺だというが、信じていない。
彼は地元でかなりの名家に生まれ、多くの土地と多くの影響力をもっている。
一族が住む土地には≪まだら様≫という謎の言い伝えがあった。
もっとも、それを知っているのは彼の一族の人間に限られる。
≪まだら様≫の起源は江戸時代よりももっと古く、当時の実情と≪まだら様≫がどんな繋がりで
生まれたのか、俺には知る由もない。
しかし、どうやら彼はその真相に辿り着いてしまったらしい。それを知った時、彼はかなり悩んだという。
このまま闇に葬るか、それとも事実は事実として白日の下に晒すか。彼は悩んだ末、自らの一族の
闇を記事として発表する道を選んだ。
そしてあの日の夜、俺に電話をかけてきた。それは公衆電話からで、訝しみながら電話に出た。
『Kか? 突然、公衆電話からですまない。でも、これはお前の身を守る為でもあるんだ。こんな話
他の奴に話しても理解してくれないと思ってさ。でも、お前なら、不思議な事に首を突っ込んで
ばかりいるお前なら、少しは信じて貰えると思ってさ・・・・』
『もしかしてアレか? お前の親族の忌まわしい過去に関する話か?』
『ああ。あの≪まだら様≫に関してのことだ。あれはな、過去だけの話じゃなかったんだよ。今も
現在進行形で行われている呪いなんだ。そこから生み出されて一族の繁栄を護らされているモノが
現実に存在していたんだよ・・・・』
呪いと確かに彼は言った。
『初めてそれを知った時は自分の一族が行ってきた愚行に恐怖し、そのまま見なかったことにしようと
思った。過去だけの話なら、きっとそうしていたと思う。だが・・・・そんな呪いの儀式がいまも続けられて
いて、そこから≪まだら様≫が生まれ続けているんだと悟ってしまったからには、このまま闇に葬る
べきではないと決断した。もう、この件に関する記事は出版社に届けてある。だから、三か月もすれば
全てが明るみ出て、我が一族はそのまま社会から抹殺されるだろう・・・。いや、そうなってもらわないと
困る。ただ、何らかの力が働いて出版されなかったとしたら、きっと俺も生きてはいられないだろう。
だから、もしも俺が行方不明になったり変死したりすることがあれば、それは≪まだら様≫の呪いに
よって殺されたのだと思ってほしい』
・・・・・アレは証拠一つ残さず、簡単に命を奪える。
『だから、な・・・・そうなったとしても絶対に俺の死の真相を探ったりしないでくれ。俺はお前まで巻き
添えにはしたくないんだ』
・・・・・聞いてくれてありがとう・・・・・。
そう言って、彼は静かに電話を切った。

それが、彼が自殺する一週間ほど前の出来事だ。だから俺は、彼が自殺したのではないと断言する。

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闇塗怪談 営業のK 竹書房文庫
「看護師の怖い話」
子供の頃、ナースセンターに泊まり込んでいる母親の所へ、夜に兄と遊びに行ったときのこと。
宿直の看護婦さんは五人ほどいて、楽しくお話をしてくれたのであるが、その時に何度も
ナースセンターの窓口に訪れる女性がいた。
看護婦さん全員が素っ気なく対応していたのが、子供心にも理不尽に感じた。
『ねえ、なんでもっと親切にしてあげないの?』
疑問を率直に口に出すと、近くで作業をしていた母親が眉を下げて教えてくれた。
『あの人はもう死んじゃった人だから、あまり親切にすると逆効果なの。だから、そっとして
おけばいいのよ!』

小さいながら話す声はちゃんと聞こえたし、姿もはっきり見えた。
(あれが幽霊だったのか・・・・)
そう思うと、今になって少しぞっとする。


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