下駄華緒
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怪談忌中録 煙仏

下駄華緒
怪談忌中録 煙仏 下駄華緒 竹書房怪談文庫
「深夜の病院で」
ある深夜二時のこと。
『〇〇病院へ向かってくれ』 と上司から連絡があり、いつものスーツに着替え目的の病院へ向かった。
到着すると裏口から入っていく。
亡くなった方は高齢の男性で、お名前は 『ミチオ』 さん。病室にはご家族が四、五人おられるということだった。
薄暗い廊下を急ぎ足でコツコツと歩いていると、前方のベンチに人影が見える。
近づいていくと、ベンチには高齢の女性が座っていた。
通り過ぎようとしたところ、その女性が頭を下げ
『お世話になります』 と言う。
え? と思ったものの 『あ、こんばんは』 と軽く会釈をして病室へ向かった。
『葬儀社のものです』 と挨拶をし、これからのことを話し合うことになった。
まずは、亡くなった故人のお顔を拝見させていただく。
ご遺体はなんと女性だった。
(あれ?男性だと聞いていたんだけどな) と心の中で思いながら、遺族に確認をした。
『亡くなられた方のお名前ですが・・・・』 と訊くと 『××ミチヨ』 であった。
電話の際に 『ミチオ』 と聞き間違えて 『ミチオ=男性』 だと思い込んでいたのだ。
そして、はっと気が付いた。
今、目の前にいる故人の顔は、先ほど廊下のベンチに座っていた高齢の女性と瓜二つだと。
『お世話になります』
その言葉の意味が、その時ようやくわかった。


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