井川林檎
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怪談最恐戦2020

井川林檎
怪談最恐戦 怪談最恐戦実行委員会編 竹書房怪談文庫
「拒まれる」 井川林檎
弟夫婦が両親と同居して以来、年末年始は帰省しないことにした。
大晦日、会社の寮はいよいよ寂しくなった。
そこへ同じ課のUさんがやって来た。
『今夜、寮にはうちらだけだよ』
Uさんはコンビニの袋からビールやらつまみやらを出して並べた。
『どうして帰らないの?』と私は言った。
早くもビールを一缶あけ、Uさんは酔っていた。
『帰る家がないの』
    *
五年前、Uさんは田舎に帰省しようとしていた。けれど、できなかった。
電車に乗って、故郷まで行こうとした。×駅で降りたら実家はすぐ近く。
どういうわけか、電車が×駅に停まらない。乗り越したと思って、反対の電車に乗っても×駅に着かない。
車掌を捕まえて、この電車は×駅に停まるはずでしょ!と抗議したら、さっき停車しましたよと言われた。
それでも何度も電車を乗り換え、×駅で降りようと試みた。
しかし、終電も×駅を通過してしまい、別の駅で宿を求めた。
実家に電話をしても誰も出ない。今日帰省する予定だから心配しているだろうと電話を掛け続けた。
真夜中の0時頃、やっと電話に出た。
『〇駅に泊まっている。明日はそっちへ行くから』 『ああ、わかったよ』 電話に出たのは母親だった。
翌朝、ニュースで火事が報じられていた。木造二階建てが全焼、住人は全員連絡がつかない。
『それ、私の家だったの』
もしあの日、×駅で降車して実家に帰省していたらUさんも火災に巻き込まれていた。
『それにしても電話に母が出た時刻、うちは燃えている最中だったはずなんだよね』


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