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入江敦彦
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入江敦彦
怖いこわい京都 入江敦彦 新潮文庫
「釘抜きさん」
正式名称『石像寺』。だが誰もが『釘抜きさん』と呼ぶ。

狭い境内は地元の京都人たちでいつもいっぱいだ。
縁台に座って、お寺が振舞ってくださる渋茶を啜りながら洛中耳袋を堪能したものだ。
あるバーサマの悩みは隣人の騒音であった。夜な夜なガラゴロと石臼を挽くような、すり鉢の
ような音が響く。眠れないほどではないが、一晩中続くのでとにかくイライラする。
注意をしようと試みたが、いつノックをしても部屋にいたためしがない。
『そやし大家さんに相談してんわ。そしたら、どうえ? うちの隣、空家やってん。もう、ずーっと』
そこで釘抜さんに願を掛けに来たのだという。
ここで耳にした霊がらみの話はそれだけではない。
聞かせてくれたのは老女というにはまだ若い、色香の残るご婦人で、どうやらすぐそこの
上七軒の女将さんであるらしかった。彼女を悩ませているのは『狐憑き』。
なんと舞妓さんの一人がそうなのだという。
『可愛らして座持ちもようて、ほんまにええ子ですわ。それが春前くらいからおかしゅうなって・・・
興奮したら、泡吹いて倒れはるまで手ェつけられしまへん。 こないだなんか踊りの最中に
おいど絡げて(お尻捲って)オシッコしてしまはってねぇ・・・・』

隣家のポルターガイストだの狐憑きだの、釘抜きさんもご苦労なことである。
この小さな寺院は、まるでそんな厄介事の標本箱みたいである。


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