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神薫

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神薫

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怨念怪談 葬難 神薫 竹書房文庫
「モテる」
素晴らしい美人が付き合ってほしいと言って来る。
承知すると、女の右手がぽたりと落ちる。
間を置かず左手も落ちる。
ふるいつきたくなるような、こぼれんばかりの乳房もずるい、ずるりと落ちる。
すらりとした左足がごろりと身体を離れる。
手足の無い薄い体でうねうねと這ってくる姿は、まるで蛇だ。

そんな夢を五日連続で見た翌朝、仕事が休みだったので洗車でもしようと車を見ると
タイヤとタイヤハウスの間におつまみの鱈のような長い物が挟まっている。
引き出してみるとバリバリ剥がれるそれは、轢かれて日にちが経ち、平べったく乾いた
白蛇の死骸だった。
自分の知らないうちに白蛇を轢いていたのだ。
白蛇は神の使いだといわれているのを思い出し、庭に穴を掘って丁寧に埋めてやった。
埋葬してからというもの、ぱたりとあの夢を見なくなった。

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FKB 怪幽録 骸拾い 神薫 竹書房文庫
「当世妖怪気質」
オカルト好きの三郎さんが夏の心霊番組を見ていると、中学生になった彼の倅の太郎君が
声をかけて来た。
『おやじ、いい年こいて、まだそんな子供騙しのような番組を見ているのかよ!!』
三郎さんと太郎君が言い争っていると、太郎君が爆弾宣言をした。
『ろくろっ首ならまだしも、幽霊なんてこの世にいるわけないだろう!』

太郎君の体験は、団地の1階に住んでいた小学生の時のこと。
三郎さんが夜勤の丑三つ時、蒸し暑さから目覚めた太郎君は外で大勢の人が無言で歩く
気配を磨りガラス越しに見る。
最初は黒っぽい服装だったが、最後の方では赤、青、緑、黄とカラフルになっていった。
そして、たまたま透明なガラス越しに見えた先には着物を纏った女性の胸元が見えた。
と、次の瞬間、女の首fがゴムのように伸び、透明なガラスの上部から顔が覗いた。
艶やかな日本髪に簪の細工が揺れ、富士額の下から煌めく双眸が太郎君の目と合う。
ろくろっ首は、いたずらっぽく 『にぃ~』 と笑いかけて来た。
太郎君は布団にまるまって気絶した。

三郎さんは 『倅は百鬼夜行を見たのでしょう。磨りガラスではなく透明なガラスで見たら
もっと多くの妖怪が見えたはずです。あ~もったいない』

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FKB 怪談女医 神薫 竹書房文庫
「あとがき」
宮城へボランティアに行った若い女性の話を聞いた。
物の欠片が積もる街で彼女たちボランティアは数人のグループで作業を行い、1日の
作業を終えて宿に帰る途中のことだった。
『あの、すみません』
最後尾を歩いていた彼女は、後ろから声を掛けられた。
『何でしょう?』 と彼女が返事をしながら振り向くと、若い男性が一人立っていた。
『僕は生きていますか?』
この人は何を言っているのか。足もある。服も着ている。透けてもいない。
変な人に絡まれたと思い、前を行く友人に声を掛けた直後・・・
『僕は死んだんですか・・・・』
ぽつりと、そんな声が聞こえたので振り返るが若い男は消えていた。

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怪談 四十九夜 怖気 神薫他 黒木あるじ監修 竹書房文庫
「四十九日」 神薫
チアキさんと彼女の母親は長年、家の独裁者である祖母に苦しめられてきた。
『嫁はともかく孫って普通、可愛いもんじゃないですか。あのババアは違ったんですよ。
息子の血が入っていようと、憎い女の子供だからババアは私も憎かったの』
熾烈な嫁姑戦争に巻き込まれた娘と、家庭の不破を仲裁もせずに仕事へ逃げ込む父親。
そんな父親が過労死したことを機に、母娘と祖母の力関係は逆転した。
愛息の急逝に気力を失った祖母は、生活習慣病の悪化により寝たきりになった。
ついに祖母が亡くなると母娘は喜びを爆発させ、通夜のさなかに祝杯をあげた。
葬式は近所への見栄で、グレードの高いものにした。
ある夜のこと、母の悲鳴でチアキさんは起こされた。悲鳴の聞こえた部屋に行くと
あうあうと言葉にならない悲鳴を上げながら、母は布団から離れようとしていた。
母は何から逃れようとしているのか、見れば掛け布団が人型に盛り上がっている。
掛け布団を剥ぐとそこには、お棺に入れたはずの祖母が胸の上で腕を組んで寝ていた。
『化けて出たのか、この糞ババア!!』
母が箒で、祖母の体を掃きだそうとしたが、箒は祖母の体を素通りするだけであった。
そんな祖母が天井の板にめり込むようにして見えなくなったのは四十九日のことだったという。
『どうせ出るなら祖母よりも、早くに死んだお父さんに出てきてほしかったですわぁ』
とチアキさんは笑った。

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怪談 四十九夜 神薫他 黒木あるじ監修 竹書房文庫
「彼氏の仕事」 神薫
芙美さんが、付き合い始めたばかりの彼氏とドライブデートした時のこと。
イルミネーションを見に行く予定だったが、彼が職場に忘れ物をしたということで、車は彼の会社へと向かった。
広い駐車場の隅っこに車を停めると、彼は芙美さんを残したまま会社へ入っていった。
退屈さを携帯をいじってまぎらわせていると、突如、車体が『ぐわん』と揺れた・・・・
『え? 何? 地震???』 と地震情報を検索している間も、車のあちこちが揺れた。
それは、地震というよりも誰かが車を揺すっているようだった。
てっきり彼氏のいたずらだと思って様子を見ていたが、どうも違うようだと気付いた。
そこへ彼氏が車に乗り込んできたが、同時に濃厚な線香の臭いが・・・・
それを疑問に思った彼女は、どういうことかと彼を問い詰めた。
『合コンでは、会社員だと言っていたの。まあ、嘘じゃないんだけど』
そこは斎場で、その晩には亡くなった人が安置されていたのだという。
その時、初めて知らされた彼の職業に、芙美さんは動揺した。
『死体のそばで私を待たせたの? 信じられない!』
彼女の怒りに対する彼氏の反応は、予想外だった。
『うちのお客様が、君を脅したって? そんなことをして、ご遺体に何の得があるんだよ』
彼は声を荒げて彼女を叱ったのだという。
『本気で怒った彼を見て、真面目に働いているってことがわかった。仕事に打ち込む男って、かっこいい』
この一件で葬儀屋の彼氏は 『とりあえずキープ』 から 『本命候補』 に昇格したそうである。

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宇津呂鹿太郎

久田樹生
鈴堂雲雀
橘百花
戸神重明
三雲央
泡沫虚唄
怪 異形夜話 神薫他 竹書房文庫
「心霊煙草」 神薫
或る女性霊能者を取材するために訪れたライブハウスでのこと。
『ここ、お化けがいるそうですね?』
『今日もいますよ。あそこに浮かんでいますね』
彼女の指摘した位置は噂と一致していた。
バー営業中のライブハウスなので、奏者は居ず、静まり返ったステージ上。
『私の身体に触っていると、霊感のない人でも見えることがあります。やってみます?』
という、彼女のお言葉に甘えて手を繋ぐ・・・1分間ほど経過したが視界に変化はない。
『あ、だめですか。じゃあ、これならわかりますよね?』
彼女は繋いでいた手を離すと煙草に火を点けて、ステージに向けて煙を<ふーっ>と
吐いた。
窓もなく空調もない部屋の中にも関わらず、煙はステージ上で鋭角に方向を変えると
お化けがいるという、ステージ右隅へと流れ着いた。
『煙草の煙は、霊のいる方へ流れて行くんですよ』
いつも霊が見えると疲れるので、自ら蓋をして霊を見えなくしていることが多いとのこと。
そんな時は煙草の煙で、霊が忍び寄って来ていないか確認しているという。

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FKB 饗宴7 神薫他 竹書房文庫
「見えるの見えないの」  神薫
祐希さんが中部某所に出かけた時の話。
地下道の発達した街で、食堂からブティックまであり、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
そして、いつもは上がる地上への階段をやり過ごすと行き止まりだった。
その当たりは昼間、営業していない店がシャッターを下ろしていた。
そんな寂しい場所で赤い服の女の子が一人、遊んでいる。
空中を指差して、楽しげに笑いながら何か言っている・・・
何が楽しいのか理解できなかったが、言っていることは聞こえてきた。
『アハ! いっぱい! いっぱい!』
屈託なく笑いながら、少女は突然こちらに向かって走り出した。
『その子、まっすぐ私に体当たりしてきたの』
祐希さんの腹部に頭から突っ込んだ少女は、勢い余って地面に転がった。
『大丈夫?』 と声を掛けるが、目の焦点は合っていないし、こちらの声も聞こえていない様子。
『ごめんなさいねぇ』 突然、背後から声を掛けられた。
その人は座り込んだ少女を片手でひょいと立たせると、祐希さんに耳打ちしてきた。
『ごめんなさいねぇ。この子、生きている人は見えていなくて』
『え? どういうこと?』
振り向いた時には、その人と少女の姿は忽然と消え失せていた。

神薫
花房観音
田房永子
明神ちさと

神薫
花房観音
田房永子
明神ちさと
FKB 恐怖 女子会 不詳の水 神薫他 竹書房文庫
「土屋さんのお姉さん」 神薫
土屋さんが小学生の頃、家で留守番をしていると電話がなった。
受話器を取って応答したところ、男の声がかえってきた。
『お姉さんに代わってもらえる?』
しかし、土屋さんは一人っ子で姉などいない。
その旨を男に説明するが、いくら説明しても男は頑として聞き入れようとしない。
『間違い電話じゃないですか?』
土屋さんが男に言うと、電話番号はおろか、住所、父母の氏名、年齢までも言い当てる。
それでも、いない、いないと答えていると・・・
『ああ? ふざけるなよ土屋~』 
怒気を含んだ男の声が頭の中に反響した。
とっさに受話器を置いて、電話を切った。
家の中にはいたくないと玄関へ出たところに母が帰って来た。
奇妙な電話のことを話すと、母の顔は蒼白となり、十六年前に事情があって産めなかった
子がいるのだと教えられた。
母と二人、父には内緒で菩提寺へ供養に行って以来、奇妙な電話はかかって来ない。


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