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神沼三平太




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吐気草

神沼三平太
実話怪談 吐気草 神沼三平太 竹書房文庫
「錆山」
雅子さんは夕飯を軽く摘まむと、神戸の街を出て六甲山の方に向けてハンドルを切った。
最近、むしゃくしゃすることが続いているので、車通りの少ない道を走りたかった。
だが、走り出して一時間で道を見失った。案内板をどこかで見落としたのだろうか。
街灯もなくなり、店はおろか信号も標識もない。
だらだらと続く一本道。Uターンしようにも、二車線では3ナンバーの車は切り返せない。
かと言って、もはやバックで戻れる距離でもない。
しばらく進むと急こう配の道になった。このまま行けば峠を越えられると思った。
そのとき、雅子さんの目に先行する光が入った。明らかに車のヘッドライトだ。
きっと、どこかの町に向かう地元民の車に違いない。このままついて行けばいい。
だが、5分経っても10分経っても追いつけなかった。
『・・・・もういいや』 雅子さんは車を停めた。
もう疲れた。このまま先行する車に引き回されて、どこかに辿り着ける保証はない。
怖い・・・・
恐ろしいと涙が出ると初めて知った。彼女は泣きながら、大声で歌を歌い続けた。
歌って歌って、歌い続けて車内で寝てしまった。
コンコン、コンコン。
誰かが何かを叩く音で目が覚めた。朝だ。
コンコンという音は、野良仕事の格好をした中年男性が、運転席側のサイドガラスを
叩いている音だった。
慌てて窓を下げると、男性は雅子さんに訊ねた。
『ここ、うちの土地やけど、あんた何しとん』
不法侵入を詫びて、正直に夕べ迷ったことを話した。すると、男性は眉間に皺を寄せた。
『おねえちゃん、ちょっと車降りてくれるか。見てもらいたいもんがあんねんけど』
何があるのだろうと車を降りると、男性は車の前方を指差した。
『ほれ、あっちな。道なんかあれへんやろ』
確かに、五メートルも歩いた先は崖になっていた。
『おねえちゃん。あんたごっつ運ええわ』
男性が崖の下も見てみろと言うので、恐る恐る覗き込んだ。目が眩む・・・
崖の下の木々の間には、錆びついた車が何台も積み重なっていた。その横には巨大な
トレーラーがねじれたように腹を見せている。
『ここなぁ。もう何台も落ちたんか知らん。ほん最近、あのトレーラーも落ちたんやで』
ヘリコプターの手配やらが大変で、いまだにトレーラーの遺体は未回収だという。
『迷い込んできた車で命があったんは、多分おねえちゃんだけやで。あのトレーラーも
あんたみたいに、連れて来られたんちゃうかな』

神沼三平太

神沼三平太
実話怪談 怖気草 神沼三平太 竹書房文庫
「水没」
震災の年、明代さんの母方のお墓が崩れた。連絡があったのは半年も後だった。
お墓は先祖代々のものだったが、現在墓守をするのは五十歳になった彼女だけ。
家から墓までは飛行機を利用しないと行けないため、現地の業者へ依頼。
施工担当者からの連絡で見積もりや工期の話をした。
その際、最近、身内を水の事故で亡くしてないかと聞かれたが、即座に否定した。
後日、施工担当者と墓地の管理をしているお寺の住職の立ち合いの元で、先祖供養をした。
また、可能な限り早急にお墓の復旧を行うように日程も組んだ。
明代さんは、お墓が崩れてからの半年間に、水の事故で立て続けに身内を亡くしていたことを
施工担当者に告げた。
弟が浴槽で溺死。妹二人も入浴中の急な心肺停止で、計三人が亡くなっている。
『あぁ、やはりそうでいらっしゃいましたか』
頭を垂れた担当者は、住職に聞かれないように、声を潜めてこう続けた。
『この墓地には、そういうお宅様が少なからずいらっしゃったものですから』
恐怖箱 心霊外科

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 心霊外科 神沼三平太 竹書房怪談文庫
「金色の宝船」
年末に体調を崩して、年越しで入院していた中村さんは、その朝も病院の窓から皇居の方向を見ていた。
彼の世代は天皇陛下に対する思い入れが強い。
昭和天皇の体調は、テレビなどで伝えられていることもあり、何となくそちらの方向を眺めて回復を願っていた。
その朝は視界に奇妙なものが映り込んだ。
金色に輝く巨大な宝船である。
俄には信じられなかったが、ああ、そういうことかと得心した。
中村さんはその場で合掌し、深く深く首を垂れた。
時計を確認すると、午前6時半。
昭和64年1月7日の出来事である。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 怪玩 神沼三平太 竹書房怪談文庫
「唄い独楽」
それを祖父がそれをいつ入手したものかは、もう分からない。
多趣味で顔の広い祖父は、土産物だと言って時々おかしなものを持ち帰った。
『この独楽は、元旦の朝にだけ回すんだそうな』
独楽回しは正月の遊びだが、亀田家では吉凶を占う為の儀式になった。
そこから吉凶を読み取ることが出来るのも祖父だけだった。
五年、十年と続くと正月に占うのは当然のことになった。
その年も家族の見守る中、祖父が独楽を回しはじめた。
『これはダメだ。何が起きるか話したくもない』
祖父はその夜から体調を崩した。二月に肺炎をを起こして亡くなった。
次は祖母だった。 そして父。夏までに葬式が三回。
元々病気がちだった母は、親戚に家の処分をを頼み、都内に引っ越した。
『あんな独楽、お祖父ちゃんが持ってきたから、あんなことになったのよ』

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 魍魎百物語 神沼三平太 竹書房文庫
「駿河台」
都内にあるその施設の地下には、女性専用の室内プールがある。
石山さんはそこの警備員として働き始めたときに、深夜のプールの水面に自動掃除機が
浮いているのに気付いたという。
それは、黒くて直径が二十センチくらいの丸形、中心から放射線状に黒くて細長いブラシが
ゆらゆらと水面に漂っていた。
それがプールのコースに沿うように、幾つも動いていた。
『最近、自動掃除機が流行っているから、それのプール版だと思ったわけ。大きい施設は
さすがだな~と思って、先輩に言ったんだよ』
報告を受けた先輩は、石山さんに呆れた顔をした後で、吐き捨てるように言った。
『それは掃除機じゃねぇよ。水に浮いた女の頭だよ。夜になると、あのプールは出るんだよ』

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 切裂百物語 神沼三平太 竹書房文庫
「口紅」
以前、舞台女優をしていた人の話。
『昔ね、あたし、物がなくなる劇場に出演していたことがあるの』
なくなると言っても金目のものではなく、ライターや筆記用具といった小物ばかり。
そして何かの拍子に見つかる。
関係者は皆、小さな男の子が悪戯しているのだと言っていた。
ある日、彼女が楽屋に戻ると、まだ小学校にも上がっていないような歳の男の子が
自分の化粧ポーチに手を突っ込んで中を漁っていた。
『悪さしちゃダメでしょ!』
頭ごなしに怒鳴りつけると、男の子はビクッと身を縮め、口紅を握りしめたまま消えた。
最後にカランと口紅が落ちた。
『その後、その劇場では別の男の子も出るようになっちゃってね。二人揃って悪戯するから
どんどんエスカレートして、最後は鏡を割られたりして大変だったのよ』
その劇場は今もある。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 常闇百物語 神沼三平太 竹書房文庫
「音飛び」
木下さんは、深夜に冨士の樹海を走っていた。
カーステレオでロックのCDを大音量でかけていたが、道に穴が開いていたらしく
車体がガクンと跳ねた・・・・CDが音飛びをした。
普段ならすぐに音が復帰するはずだが、なかなか再生が始まらない。
旧式のカーステレオだからかなぁと思いながら、カーブでハンドルを切る。
そのとき、スピーカーから声が聞こえた。
『わたし、ここで死にました』
淡々とした男性の声だった。
木下さんが『え?』と思った瞬間に、CDの大音量が復活した。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 叫怪 神沼三平太 竹書房文庫
「カラスの神様」
関西圏の大学に通う小山さんの体験。
彼の実家のある地域ではカラスを祭った神社があるが、大学のゼミの研究対象に決定した。
ただ、過去に別の大学の調査があった時、奉納してあった砂金を助手が盗むという事件があり
結局、助手は車ごと崖から転落した状態で見つかった。
しかも、遺体となった助手の両目がなく、周りにはカラスの羽が散乱していたことから呪いと噂された。
そして、小山さん達の現地調査の時も、何者かが砂金を盗んだ。
盗んだのは、調査に同行したアジア人留学生だった。
彼は、カラスに見張られていて外出できないと、小山さんに電話で助けを求めてきたのだ。
砂金を返すよう詰め寄る小山さんに、アジア人留学生は開き直った態度で砂金を渡した。
さらに、神社と地域の人々をまとめて呪うと言い出した。
数日後、小山さんの地元では何事もなかったが、アジア人留学生の両親が自動車事故で亡くなった。
懇意にしていた呪術師も同乗していた。
地元警察によると、事故直後にカラスの群れが車を取り囲んで近づける状況ではなかったが
カラスが去った現場を確認すると三人の目がなかった。
翌日、アジア人留学生はバイク事故で亡くなった。彼の周りにもカラスが集まり、両目が失われていた。

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恐怖箱 醜怪 神沼三平太 竹書房文庫
「カナヅチ」
長沼さんの祖父が亡くなった時の話である。
祖母が『散骨をしよう』と言い出した。
先祖代々の墓もあったが、一族で船に乗り、沖合でセレモニーを行った。
その翌日、長沼さんの伯父が祖母の元を訪ねてきた。
『昨晩、ぐっしょり濡れた親父が出てきて、恨みがましそうな目で俺を見るんだよ。
お袋、親父のことで何か思い当たることはないか?』
しかし、何も思い当たることがないと祖母が伝えると、安心したように帰って行った。
その後、祖母は何か思い出したようで
『そういえば、あの人が泳いだところを見たことがなかったなって、考えていたのよ。
もしかしたら、あの人、カナヅチだったんじゃないかしらねぇ・・・・』
数日後、伯父が訪ねてきて、菩提寺の住職に相談したとのこと。
住職が言うには
『遺骨が全部あれば何とかできるかもしれないが、それは無理でしょうから
とりあえずお経を上げておきますから』
祖父が亡くなって四十九日が経った。
伯父は布団の中でぐっしょりと濡れ、冷たくなっていた。
検死の結果、死因は溺死。
伯父の肺の中は、海水と同じ濃度の塩水でいっぱいになっていた。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 坑怪 神沼三平太 竹書房文庫
「不惑蒸散」
磯田さんの祖父は、庭に生えている樹を伐ってはいけないと常々繰り返し言っていた。
祖父曰く この家を建てるときに悪いものを樹に封じている。下手なことをすると祟られるぞ。
育ちすぎた枝葉の手入れを磯田さんの父親が申し入れるが、祖父の態度は一貫して頑なだった。
そんな冬のある日、祖父がくも膜下出血で亡くなった。

『親父も亡くなったことだし、庭を整理しよう』
業者に依頼すると、ここまで広かったのかと思うような何もない庭になった。
その年の夏、父親の肩に植物の葉が付いているのに気がついた。
その葉は、どうも自分にしか見えていないようだ。
『どうもやたら喉が渇くんだ』
父親がやたら水を飲むようになった・・・・
一日二リットル水を飲むと良いと言うが、そんな量を遥かに超える。
そして、ある日、蒸し暑くなった自室の中で死んでいた。
遺体は警察へ回されることに・・・・
父親の身体は水分が異常に不足していた。
死因は、脱水症状による急性循環不全。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 崩怪 神沼三平太 竹書房文庫
「肩まで」
繁華街の産婦人科で看護師をしていた木村さんから聞いた話。
場所柄、その産婦人科には水商売や身体を売る女性も多くやって来た。
そして、堕胎に来る女性の多くが、木村さんが見ると赤ん坊を身体にしがみ付かせている。
勿論、身体に何も付いていない人もいるが、そういう人は≪初めて≫の堕胎手術の人。
堕胎した回数が3回だと、一人目は足 二人目は腰 三人目は肩にぶら下がる。
ただ、不思議と肩にまで赤ん坊にしがみ付かれている女性は、それ以降その病院には
姿を見せなくなる。つまり、堕胎の回数が四回を超えると来なくなってしまうのだ。
病院を変えたのか、堕胎する必要がなくなったのか・・・。
待合室で待っている女性を見ていると、赤ん坊はいずれも泣き声一つ上げずに
<ぎゅっと>母親の身体にしがみ付いている。
どの赤ん坊も例外なく、その母親の顔をじーっと眺めているという。

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
恐怖箱 彼岸百物語 加藤一 高田公太 神沼三平太 ねこや堂 竹書房文庫
「現代的魔女」 神沼三平太
友人に日英ハーフの女性がいる。日本語も英語も堪能である。
英国に住んでいる彼女の友人から聞いた話。
ある夜、その友人の父親が道を歩いていると、空を飛ぶ魔女を見た。
行きつけのパブでその話をすると、スコッチの飲みすぎだろうと信じて
もらえなかった。
しかし、数日の間にそのパブの常連の中から何人もの目撃者が出た。
俄には信じられない話だが、皆が同じものを見たと口を揃えるので
周囲も信じるほかになかったという。
『その魔女さ、飛ぶ時にサイクロン式の掃除機に跨っていたんだって。
あの吸引力が変わらないってコピーで有名な奴。 あれさ会社もイギリスだし
魔女も国産品を買うんだなって話で落ち着いたらしいよ』

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
恐怖箱 百舌 高田公太 神沼三平太 ねこや堂 竹書房文庫
「俊足」 神沼三平太
新幹線の窓から外を眺めていると、何かが新幹線と同じ速度で並走している。
いや、まさか。
最初は自分の見ているものが信じられず、別のものではないかと思いながら観察した。
・・・・あれ、やっぱり人 だよね。
自分自身に問いかけたくなるほど、不思議な光景。
黒い服を着て、覆面をしている忍者姿の人影が、何処までも付いてくる。
場所は、岐阜県から滋賀県に入ったあたりだという。

高田公太
神沼三平太
ねこや堂

高田公太
神沼三平太
ねこや堂
恐怖箱 百聞 高田公太 神沼三平太 ねこや堂 竹書房文庫
「判子」 神沼三平太
『何これ~』
温泉の脱衣所で、洋一さんは友人に背中を指さされた。
『何か変?』
と訊くと
『判子がいっぱい捺してある・・・・』
と言われた。
そこで、友人にデジカメで背中を撮ってもらった。
そのプレビュー画面を見て洋一さんが絶句した。
鈴木、山田、佐藤、出口、山下・・・・
まるで印鑑を押したような、小さな円で囲まれた薄桃色の文字が背中一面に
無数に浮き出ていた。

高田公太
深澤夜
神沼三平太

高田公太
深澤夜
神沼三平太
恐怖箱 蝦蟇 高田公太 深澤夜 神沼三平太 竹書房文庫
「天井」 神沼三平太
ある夏の夕方、長男が天井をポカンと眺めていた。
声をかけたが、反応がない。
天井を見ると、天井から30センチほどの空中に水が溜まっていた。
その中を魚が悠々と泳いでいる。
『親父、これ、魚だよな』
『ああ、魚だ』
15分ほど眺めていたが、買い物から帰った家内が
『何やってるの』
と電気を点けると見えなくなった。

神沼三平太

神沼三平太
恐怖箱 臨怪 神沼三平太 竹書房文庫
「放置自転車」
湘南の海の近くに住んでいた時の男性の体験。
その一軒屋は、海の近くではあったが、駅から遠かった。
元々は祖父母の家だったが、二人が亡くなると男性が管理人兼住人となった。
ある夜、酒に酔った勢いで、駅で見慣れた放置自転車の1台を拝借してきた。
次の朝に、元の場所へ返せばいいだろうとの考えであった。
もう1週間以上前から同じ場所に放置された自転車で、黒いペンキが塗られていた。
翌朝、自転車を昨晩あった場所に置き、改札へと向かった。
その夜、帰宅してみると、今朝返したはずの自転車が敷地内に置いてある。
不思議に思ったで、次の日には別の駅の有料駐輪場へ置いて来た。
しかし、帰宅してみると、またも自転車は自宅に戻っている。
恐ろしくなった彼は、自転車を橋の欄干から川の中へ捨てた。
けれど、またも自転車は戻って来た。
これは悪戯や嫌がらせの類ではなく、ヤバイものだと感じたが、対策がわからない。
そこへ弟から電話が来た。
『最近、何かに追われていることってある?』
『なんでお前がそれを知っているんだ?』
『実は、毎晩、兄貴が黒い犬に追われる夢を見るんだ。そして、最後は犬に食われて
兄貴が死ぬ』
弟から、お祓いには塩か酒を使うという話を聞き、酒を使って清めることにした。
自転車をバラバラに分解して、酒で清めて1日置いた・・・
元の自転車に戻らないことを確認して、半分だけ燃えないゴミとして出した。
1日待って、自転車が戻って来ないことを確認して、もう半分をゴミに出した。
黒い自転車が戻ってくることはなかった。


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