サーチ:
キーワード:
Amazon.co.jp のロゴ
加藤一





Amazon 楽天市場
「忌」怖い話
大祥忌


加藤一

加藤一
「忌」怖い話 卒哭怪談 加藤一著 竹書房怪談文庫
「カミサマ」
津軽にはカミサマがいる。
この場合のカミサマというのは、恐山などで知られるイタコと概ね同じで、祖霊を憑依させて
口伝えする役割を持つ霊能者である。
あるとき、鈴木さんはカミサマと会う機会があった。
カミサマは会うなり全ての行程をすっ飛ばして鈴木さんを指差し
『あんた!仏壇さご飯あげへぇ!』 (ご飯をあげなさい!) と怒鳴りつけた。
確かに、このところ仏壇にお供えを疎かにしがちだった。
『なすて分かったの?』 (なぜ) 驚いて訊ねたところ
『なの父っちゃんが、なの後ろで空腹いたって訴えでらはんで。守る力が出ねって喋っちゅう』
(あなたのお父さんが、あなたの後ろでお腹がすいていると訴えているから。守る力が出ないと喋っている)

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 卒哭怪談 加藤一著 竹書房文庫
「パレード」
ある年末のこと。
例年なら山口君は正月休みに合わせた帰省はしないのだが、この年は珍しく大晦日に帰った。
とりあえず、床の間のある客間に布団を敷いて寝ることにした。

夜中に目が覚めた。
夜の静寂の中で、ひそひそと声が聞こえる。
『帰ろう』
声のするほうを見ると、そこに行列があった。
『帰ろう。この年を終えて帰ろう』
ひそひそ、わいわいと賑やかしい。
姿形は人とさほど変わらないが、それらは何とも福福しい。
百鬼夜行のようでもあったが、あやかし類はおらず、福の神というのか、ひと仕事終えた
歳神の類が行列を作っていた。
『兄ちゃん、一緒に行くか』
一行から山口君を招く声が聞こえる。
付いて行こうと体を起こそうとするのだが、ぴくりとも動かない。

気が付くと夜が明けていて、新年になっていた。
あのまま彼らに付いて行きたかった。
ただ 『行く』 のか 『逝く』 のか、それを自分で選べるのかはわからないけれども。

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 回向怪談 加藤一著 竹書房文庫
「猫追い」
郁未さんが可愛がっている猫が興奮気味に廊下を駆け抜けて行った。
一人遊びをしているのかと思ったが、どうも違うようだ。
少年が猫をじゃらして楽しそうに戯れている。
猫はバタバタと廊下を駆け、踵を返して少年の足にじゃれつく。
郁未さんはこの少年の名前を知らない。どこの誰なのかさえも知らない。
先だって、榛名神社にお詣りに行った後、Tシャツの裾を引っ張られたので誰だろうと
振り向いたが誰もいなかった。
猫と遊ぶ少年が家に現れるようになったのは、この日の後からなので、恐らく拾って
来てしまったのだろう。
今のところ、猫と戯れる以外に害はないので放置している。
猫の後を追いかけて走る少年の後ろを、郁未さんの祖父がトコトコと付いて行く。
祖父もまた故人である。

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 香典怪談 加藤一著 竹書房文庫
「看護師長」
川添さんは非常に優秀な看護師で、系列病院からヘッドハンティングされて
看護部長の肩書で移籍した。
川添さん自身は有能かつ円滑な日々を過ごしたが、移籍先の病院はそうでもなかった。
まず、手術室看護師長のお子さんが事故で大けがを負い、入院。
次に外科病棟看護師長の実母が脳梗塞で倒れ、亡くなった。
続いて内科病棟看護師長の実父が事故で亡くなったのである。
どういうわけか、各病棟の看護師長の縁者ばかりが次々と不幸に見舞われる。
それも川添さんが着任した後に始まっている。
いつしか『新しい看護部長が何かを連れてきたのではないか』という疑いが噂された。
川添さんは、偶然だと思っていたが・・・・
そんなある日、病気を苦にした患者が病棟の屋上から投身自殺をした。
その患者が落ちた場所が川添さんの車の駐車スペースだったのだ。
この日は非番だったで被害はなかったが、出勤日であったら巻き込まれていた
可能性がある。
偶然だと思っていたことが、狙われているという悪意を感じたことで厄払いを受けた。
ごく普通の厄払いであったが、あれほど続いていた看護師長の不幸は、この日を
境にぱったりと止んだ。

加藤一

加藤一
「忌」怖い話 加藤一著 竹書房文庫
「首輪」
いつもより少し早い時間に仕事が終わって、自転車で地元の道を走る。
逢魔ヶ時よりやや遅い、辺りが薄闇から深い闇に変わる時間帯。
自転車のペダルを漕いでいると、ライトに照らされた先を横切るものがいる・・・・
『うおっと!』
慌ててブレーキをかけて減速・・・・
そのライトの先を横切ったのは、赤い首の・・・・・いや・・・・首輪のみ。
首輪の主であるはずの生き物の姿はなく、ただ首輪だけが空中をツーーーっと
横切っていく。
首輪の横切った高さと首輪の大きさから言えば、おそらくは猫。
呆気に取られているうちに、首輪は自動販売機の隙間に潜り込んで横丁の路地裏に
消えた。

加藤一編

加藤一編
恐怖箱 屍役所 加藤一編 竹書房文庫
鏑木さんが自衛隊の任務に就いていた九州は小郡駐屯地の話。
駐屯地のの近隣には大原古戦場を始めとする古い戦の跡地が散在しているため
施設内に祠を建てて祀っている。
当時は管理を自衛隊生徒が担当していたそうで、業務内容は祠の盃の水替えや祠の清掃など。
教官から 『サボると祟られっぞ』 と脅しつけられているのだが、実際に舐めてかかってサボると
身体の一部が腫れたり謎の高熱に見舞われたりする。しかも再現率百パーセントである。
ある晩のこと。鏑木さんは一日の業務を終え、営内の居室で横になっていた。
デスクワークもあるが基本は訓練など日々身体を使う仕事であるので、寝台に入ると寝付きは早い。
横になるのと眠りに就くのがほぼ同時くらいの寝付きの良さである。
寝返りを打ったその拍子に、背中に激しい衝撃が走った。
まるで全力疾走してきた馬に踏まれたかのような打突である。
激痛に呼吸が止まり、んがっ、とも声が出ない。
身体を捻ると、背中の上で堂々たる体躯の馬が蹄を蹴立てている。
鐙と具足がチラリと見えた。
『まあね、よくあるんですよ。うちの駐屯地、古戦場跡にある訳ですからね』

加藤一編

加藤一編
恐怖箱 遺伝記 加藤一編 竹書房文庫
原因不明の怪異は勿論それだけで十分怖い。
だが、それに呪いや祟りといった原因、因果が絡む時、怖さは何倍にも膨れ上がる。
いわくつきの恐怖は理由なき恐怖を遥かに凌ぐものなのだ。
そしてその因果が過去に深ければ深いほど、未来に犠牲が連なれば連なるほど
おぞましさは増大する。
そんな恐怖の本質に迫ろうとしたのが本書、実験的ホラー小説大会【遺伝記】の傑作選である。
収録の24話はどれも独立したひとつの話として楽しめる。
どこから読んでも構わない。
だが、すべてがどこかで繋がっていることにお気づきになるだろう。
巧妙に張り巡らされた因果の糸。
邪悪な蜘蛛の巣の罠にかからぬようくれぐれもご用心あれ。

加藤一

加藤一
恐怖箱 百眼 加藤一編 高田公太 ねこや堂 神沼三平太 竹書房文庫
「封筒」 加藤 一
榊原さんが勤めるショッピングモールで、とあるイベントが行われることになった。
イベント会場は盛況で、家族連れやカップルが招待券を手に続々押しかけてくる。
『いらっしゃいませ!招待券はこちらにお願いします!』
そこへ、ひとりの中年女性が現れた。
おばさんは、ぺらっとした薄い封筒を差し出した。
(招待券はこの中に入れたままなんだな)と思いながら、封筒を受け取る。
ズシッ・・・・と重い。
あわてて中を確認するが、封筒の中は空っぽだった。
おばさんは榊原さんの対応を待たずに、勝手に会場へと進んでしまう。
声を掛けようとして、言葉に詰まった。
ざわめきと人いきれに目の前を遮られる。
一人、二人、三人・・・・もっと沢山。
まるで、おばさんが集団を引率しているようだが、おばさん以外の姿はない。
何やら得体の知れない集団は、おばさん共々会場に吸い込まれて行った。
イベントは事故もなく成功裏に終えた、とのこと。

加藤一

加藤一
恐怖箱 怪泊 加藤一編 竹書房文庫
「つまらない余興」
芳紀が高校の修学旅行へ行った時のこと。
宿の大広間で夕食を終え、宿の人々との交流会が行われた。
宿の女将はステージに上がると、近隣の名所、地名の由来や名物といった観光案内を
淡々と語った。
続いて、旅行期間中行動を共にするバスガイドさんの簡単な自己紹介があり、マイクは
学年主任へと渡り、高校の学校紹介を終えると言葉に詰まった。
まだ、始まったばかりで解散とはしがたい。そこで、学年主任は芳紀を指名した。
『芳紀、おまえ、何かやれ』
指名されたものの、咄嗟に何をしようか思いつくものでもない・・・
『じゃあ、面白い話も特にないから、つまらない話をします』
それでいいからやれ とステージに押し上げられた芳紀は、怪談話をすることにした。
芳紀自身、心霊体験には事欠かない。毎日、何らかの心霊体験をしていると言っても
過言ではない。こんな機会なら語って聞かせても余興のひとつにはなるだろう。
『え~、僕が家で寝ていたら金縛りにあって・・・・』
心霊体験を話し始めると、皆、前のめりになって聞き入っている。
そして、話が山場に差し掛かった時だった。
『で・・・そのとき・・・・』 そのとき、バンッ!というサッシのガラスを叩く大きな音が
広間に響き渡った・・・・。しかし、視聴者一同に変化はなく、騒ぎも起きない。
演出のための間にしては長すぎる沈黙の芳紀へ学年主任が声を掛けた。
『・・・それで?』 どうやら彼らには一切聞こえていないと理解した。
今度はガラスに髪を振り乱した女が張り付き、話を聞きながら芳紀を見据える。
女を見ないように話をするのが精一杯で、何の話をしたのかもわからないまま
漸く、話を終えた。
それでも同級生達には大評判だった。
放心状態でステージを降りるとき、傍らにいたバスガイドさんが耳打ちしてきた。
『さっき、話の途中で凄い音がして・・・急に嫌な感じがしたんだけど、大丈夫だった?』
『・・・いや・・・・もう、身体ガチガチで気持ち悪いっす』
『そうよねえ。こんなたくさんの人の前で怪談なんてやるもんじゃないわねえ』

加藤一

加藤一
恐怖箱 怪客 加藤一編 竹書房文庫
「しゃせー」
今はいぶし銀の男前になっている真さんは、若い頃は新宿の有名ホストクラブの
ナンバーワンだった。
ホストの世界では1日でも早く入ったほうが先輩。
後輩の接客は先輩が教える。
挨拶もできないような奴もいるので、挨拶から教える。
その店では、挨拶が完璧な奴がカウンターにいた。
ホストが出勤してくると 『しゃせー』 と頭を下げてお辞儀をする。
お客様が入店すると、これまた『しゃせー』と頭を下げる。
店の人間は、この挨拶を手本としている。
そいつは深々と頭を下げると、その姿勢のままじわじわ薄くなって消えてしまう。
カウンターからは1歩も出ない。
『彼、指名はできないの?』と戯れに訊ねてくる客もいる。

加藤一

加藤一
恐怖箱 十三 加藤一編 竹書房文庫
「貼付中」 鳥飼誠
中村さんがリゾートホテルに泊まったときのこと。
ホテル内のプールに行こうと歩いていると、前方から清掃員と思われる女性が
紙袋を持って走ってきた。
『何を急いでいるのやら・・・・でも廊下は走るなよ』 と心の中で思った。
清掃員の女性は、すれ違う時に軽く頭を下げただけで行ってしまった。
何を急いでいるのかと思って清掃員を舐めるように見ていた中村さんは
紙袋の中に大量のお札があったことを見逃さなかった。
おそらく、大急ぎで多くの部屋に貼るのでしょう・・・・

加藤一

加藤一
恐怖箱 怪生 加藤一編 竹書房文庫
「帰郷」 寺川智人
久栄さんが子供を連れて帰省したのは数年振りのことだった。
子供たちは大はしゃぎで遊びまわった。
しかし、楽しい時間は早く過ぎるもので、帰宅の時間となってしまった。
駅までの道を歩いている最中に子供たちは、やたら後ろを振り向く。
『どうしたの?』 とたずねると・・・・
長男がジェスチャーを交えながら・・・・
『大きくて、ふさふさな毛でタヌキみたいな、しっぽがふわふわなワンコがついてくるの』
それは、彼女が実家に住んでいた時に飼っていた大型犬のボス。
彼女に大変懐いていた犬だったが、もう他界している。
『ついてくる』
『まだいるよ』
そんなやりとりが続いたが・・・
『あ、いなくなっちゃった~』
久恵さんには見えなかったが、ボスに見送られたと思うと嬉しかった。
彼女は今も、ボスの写真を大切に持っている。

加藤一

加藤一
恐怖箱 鬼灯 加藤一編 竹書房文庫
「先読み」 ぼっこし屋
著者の祖父は、人の生死に関わる事に対して鋭い予見を発揮した。
『いきなりな、その情景が浮かぶんだわ』
祖父は自らの能力をそう説明した。
その祖父が、ある日の朝食の後に倒れ、それから4日後に亡くなった。
早速葬儀の手配をと考えていたところ、すっかり疎遠になってしまった
菩提寺の住職が訪ねてきた。
『生前の故人に頼まれたものですから』
聞けば、1週間前に祖父がふらりと現れ、枕飾りを頼んだとのこと。
『故人から《手紙を用意してあるから、もし、俺が死んだら葬儀の時に
読み上げてほしい》と言付かっております』
その手紙は御斎の席で読み上げられた・・・書き出しはこんな一文・・・・
『本日は晴天に恵まれ、ご参列いただいた皆様のお足を汚さずに・・・・・』
その日の空は、連日の荒天が嘘のように晴れ渡っていた。

加藤一

加藤一
恐怖箱 怪想 加藤一編 竹書房文庫
「それで、何を?」
ある男性が大学時代に家賃 月2万5千円のボロアパートに住んでいた時のこと。
住んでいるのは貧乏学生の男ばかり、そして皆彼女がいないのも同じだった。
そんなボロアパートに女の幽霊が出た、そして若くてかなりかわいい。
他の部屋の住人に話をすると、皆の部屋にも出るとのこと。
ただ、出るだけで実害がない・・・・どころか、かわいいので見ているだけで嬉しい。
そんなある晩、インスタントラーメンを作ろうと共同の炊事場へ向かった。
すると、ある部屋のドアが大きな音とともに開き、中から先輩が飛び出して来た。
『寝ていたら、突然、女の幽霊に首を絞められた・・・・』
今までは害がなかったが、首を絞められるとあっては放っておけない。
『お祓いとか、しないとダメですかね~』
そう進言すると、慌てたように
『あ、いやいや、それには及ばん。もう、慣れたし、落ち着いたから寝るわ』
そう言って、自分の部屋へ帰って行った。
女の幽霊が首を絞めたと聞いて、住人の誰もが次は俺かと身構えたが何もなかった。
先輩が襲われたのも、その1回だけで、後には何も起こらなかった。

『あのとき先輩は、女の幽霊にエッチなことをしようとしたんじゃないかと思うんです。
幽霊だけど、かわいい子だし、先輩はずっと女いなかったし・・・』

加藤一

加藤一
「極」怖い話 災時期 加藤一著 竹書房文庫
「どすんどすん」
ある夜、千葉氏が寝ていると、明け方近くに寝床から縦の衝撃が響く。
身体が弾むほどの強い衝撃が続く。
『な・・なんだ? 地震?』
千葉氏が瞼を開けると目の前に誰かの尻があった。
ベッドの縁に腰を下ろした誰かが、尻圧でマットレスを揺らしているのである。
寝ぼけ頭で真っ先に思い浮かんだのは奥さんであるが、奥さんは出産のため
実家に帰省中・・・
『何してんねん?』
誰かと問うより、ベッドを揺らすことを咎めた。
すると、尻を揺らしていた人物が尻の動きを止め、こちらに振り向いた。
『ごめんねぇ』
それは千葉氏の会社の後輩だった、三瓶さんという女性だった。
見慣れたニコニコ顔だが、どこか寂しそうな表情を浮かべている。
彼女は暫く前に会社を辞めているので、連絡先は知らないし、家を教えたこともない。
驚く千葉氏が声を掛けた瞬間に、彼女は消えた。
どうしたことかと首を捻りながら、翌朝、出社したところで謎が解けた。
『おい、千葉、三瓶さん亡くなったらしいで』
亡くなったのは今日の明け方だったそう。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 謝肉災 加藤一著 竹書房文庫
「タメスケ」
夜、尿意で目が覚めた。
暗い廊下をひたひた歩いてトイレに入った。
トイレの明かりを点けたと同時に、窓の外からジャラジャラと鎖の音がした。
丁度、トイレの外側にタメスケの犬小屋があるのだ。
家族がトイレに起きるたびに目を覚ましてしまうのか、タメスケは自分を繋いだ
鎖をジャラジャラ鳴らして犬小屋の周りをうろうろする。
『いっぺん目を覚ますと夜中でも散歩連れて行けとか騒ぐんだよな、あいつ。
しょうがねぇな~・・・』
洗面所で洗った手をぷらぷら振りながら乾かして、勝手口に向かおうと・・・
そこで気付いた。
タメスケ。あいつ昨年に死んだんだ。
その後、1度だけ『ふわうっ!』というヘタレた鳴き声を聞いた。
確かにそれも長年聞き慣れたタメスケの一鳴きだった。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 遺託 加藤一著 竹書房文庫
「遺託 位牌の遺言」
ネットラジオ放送から始まった怪異。
亡くなったお婆さんの霊から加藤一に委託された遺言の実行。
加藤一が選ばれて、お婆さんの意思を確認する。
今回の件を本に執筆することも許された・・・・

本当?っと思った方は是非読んでみてください。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 地鎮災 加藤一著 竹書房文庫
「整備工場」
外車好きの小牧君の話。
3度の飯より車が好きで自らポルシェに乗っている小牧君は、好きが高じて
仕事も外車専門の整備工場勤務という、腕のいい修理工である。
持ち込まれる車は高級車や稀少車ばかり。
いつものように持ち込まれた車を整備していると、ガレージの入口に人影がある。
老人が周囲を見回し、整備工場の中を覗き込む。
客か、不届き者か、と思い小牧君は車の下から這い出た。
小牧君の姿を見ると、老人は両手を合わせ、拝むように擦り合わせた。
2~3度手を擦り合わせると、笑みを浮かべた。
その笑みは、侮りと憐みが入り混じったものだった。
それから数日後、整備工場で小火が出た。
整備中の車から漏れたオイルに引火したのだという。
預かっていた車には損傷があったものの、初期消火が早かったことから大事には
至らなかった。
しかし、当日はスパークが飛ぶような作業はしていなかった。
引火の原因になるものが何もない。
その工場は千日前の近所にあるが、仮店舗で近日中に移転するとのこと。

そんなわけで、大阪最強の心霊スポットとして名高い千日前の障りは、どうやら
21世紀の今も燻り続けているらしい。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 甦怪 加藤一編 竹書房文庫
「セクハラ」
ある女性の体験。
会社帰り、突如、抱きつかれた。
『ひえ~』と声を上げると
『驚いた?』と聞き慣れた声。
取引先の男性だった。
『これって、セクハラですよ』と言うと
『ごめんごめん、急ぐからまたね!』
豪快に笑いながら去って行った。

翌日、同僚にその話をした。
すると、その取引先の男性は先月に亡くなっていた・・・・
『またね!』と言われたことを思い出し、セクハラより困る。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 面妖 加藤一著 竹書房文庫
「法事の晩」
幼かったエリさんが親戚の法事に出かけて行った家でのこと。
日が落ちた頃、縁側に寝そべって庭を眺めていると、庭の右手から何かが
転がってきた。
ごろんごろんごろんごろん・・・・・
大人の身の丈ほどある大きな丸いもの。
『なんだろう?』
よく見ると、それは大きな顔だった。
眉はなく、歯が黒く染められている・・・・
巨大な顔は、ごろんごろんと転がってエリさんの前を通り過ぎると
左手の暗闇の中へ消えていった。
後ろを向いたが大人は誰も気づいていないので、このまま黙っている
ことにした。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 罠 加藤一 竹書房文庫
「2008年3月4日にメールで送られてきた話」
ある高校生の男子がアルバイトで叔父の仕事を手伝っていた。
昼も近くなったことから、叔父が昼飯をコンビニで買ってくると言う。
暇だった彼は、何気なく持っていた携帯電話でトラックの助手席周りを
撮影してみた。
撮影してみては映像を確認するということを何度かしていたのだが・・・
どうも最初に撮った映像にだけ、居るはずのない女性の顔が映っている。

問題の動画はこちら
 ←でダウンロードできない場合はこちら
18秒目と23~27秒目で映っているサイドミラーの右下に女性の顔が
映っている。
MP4ファイルなので、リアルプレイヤー等でご覧ください。

加藤一

加藤一
「極」怖い話 加藤一 竹書房文庫
「家」
ある投稿者から、ある理由によって日本一強い神社のお守りを手に入れたいと
著者へ相談が入る。日本一強い神社の話は平山夢明氏が執筆したため
氏へ問い合わせるが、もう忘れてしまったとのことだった。
そこで『ある理由』というのを聞いてみると・・・・
学生時代の友人が結婚して、資産家である夫の実家へ入ってからというもの、不幸続き。
実家の税金滞納を肩代わりさせられた他、義理の兄の借金までも肩代わり・・・・
そして子供たちは原因不明の病気で入院してしまう始末。
友人自身は、立派な家と資産を子に継がせたいという一心で不幸にしがみついていた。
姑は姑で先祖を大事にしないばかりか、義理の母を死ぬまで小屋へ追いやっていた。
そのため、今の不幸は先祖霊のためではないかと思い、日本一のお守りを友人に
渡したかったとのこと。
一度、入院した友人の子供の見舞いに行くと
『おばさん、この病院お化けが出るの。でも、家よりはよっぽどまし』
その後、友人は夫と離婚して家を出た。
それから数年後、以前と変わらない友人と会って、安心したとのこと。


加藤一

加藤一
恐怖箱 金木犀 超-1怪コレクション 加藤一編 竹書房文庫
本書「恐怖箱 超-1怪コレクション 金木犀」は最強実話怪談著者発掘大会
超-1/2011年大会の傑作選である。
著者挨拶
戸神重明―初めまして。『怪談の鬼』を目指して今後も修行を重ねます!
三雲央―気持ちの整理がつかないまま今に至っていあmす。色々ありすぎました。
つくね乱蔵―金木犀の花のように、散り果てて尚、残る想いを描いていきたい。
宇津呂鹿―怪異溢れるこの世界で得られた全ての出会いに友情と感謝を込めて。
ねこや堂―今年も眠れぬ夜を過ごしました。皆様に障りがないことを祈りつつ。
イスカ―悩めるという幸せ。再び此処に名を連ねられた奇跡に感謝します。
高野清華―挑戦。被災。迷い。続行。全てのものに感謝します。そして祈り。
神沼三平太―金木犀の花言葉に「謙遜」と「真実」の語有。是実話怪談への戒也。

加藤一

加藤一
恐怖箱 超-1怪コレクション 女郎花 加藤一編 竹書房文庫
「町の散髪屋さん」
ある男性が行きつけの散髪屋さんへ行った時のこと。
その日は体が重く、だるくて、店のクーラーで涼もうと思っていた。
いつもはニコニコを迎えてくれる老夫婦が、ジロジロと男性を見ている。
『やれやれ、どこで何をしてきたのか』
爺さんは、見たこともないしかめっ面で男性を一番奥の椅子に座らせると
新しい上着に着替えて、神棚へ向かった。
老夫婦が並んで拍手を打ち、爺さんが朗々と声を張り上げた。
ほたら祓うか、とポツリと言うとバリカンを手にした。
『爺ちゃん、丸刈りは勘弁してよ』
『黙てーぃ!』
丸刈りを終えると、両手を組んで頭、両肩、背中と打ち始めた。
『よし!何とかなった』
ふぅと力が抜けた男性が鏡を見て、悲鳴を上げそうになった。
自分の背中から黒い影のような物が出て来て、やがて消えた。
すると、今まで重かった体がスーっと軽くなった。
『あんまり妙な場所で遊ぶんじゃねぇぞ』
爺さんは朗らかに笑い、汗を拭った。

加藤一

加藤一
恐怖箱 超-1怪コレクション 彼岸花 加藤一編 竹書房文庫
「地下住居」
定年後は、沖縄で暮らすために家まで購入していた男性の体験。
ある時、出張で沖縄へ行くことになった。
出張のついでに、購入した家に泊まって草むしりでもしようと思っていた。
家に到着すると、近くを散歩しよう歩き出す。
前から気になっていた防空壕へと足が向く。
天然の洞窟を利用して、太平洋戦争時は数百人もの人たちが避難していたとのこと。
現在は史跡として、数百円払えば誰でも入場できる。
入り口は質素なものだった。
受付の老人に入場料を払うと、懐中電灯を渡され
『中は暗いので、気をつけてください』
洞窟の入り口から中に入ると、大人3人が並んで通れるほどの道をを奥へと進んだ。
すると、少し広い空間に出た。
そこには、鍋や釜の生活用品が散乱しており、当時より手付かずの状態のようだ。
そう思った途端、周囲に数百人の気配がしてきた。
息遣い、衣擦れ、足音、焦げ臭いにおい・・・
『取り殺される』と思い、体を動かそうとするが金縛りになったように動けない。
それでも渾身の力を振り絞り、這うようにして洞窟を出ると体から汗が噴出していた。
受付を出ようとすると、彼を見た老人が
『そんな真っ青な顔をしてどうしたんですか。それに頭から水をかぶったように
びっしょりだ』
そう言いながら、その老人には驚いた様子は全くなかった。

加藤一

加藤一
恐怖箱 超-1怪コレクション 黄昏の章 加藤一編 竹書房文庫
「仲間」
毎朝、ジョギングをしているという方の体験。
5時に起きて30分ほど走る。
出会う顔ぶれはほとんど決まっている。
それと、顔のない足音に出会うという。
1度、足音にぶつかって、いつの間に脱げたのか
ジョギングシューズが目の前から足音と共に
走り去っていったそうだ。
未だ、走り去ったジョギングシューズは見つからないとのこと。

加藤一

加藤一
恐怖箱 超-1怪コレクション 黄昏の章 加藤一編 竹書房文庫
「近所迷惑」
深夜、一人暮らしのアパートで横になりながら歌っていたら
所狭しと天井いっぱいに張り付いた数十個の顔に
『しーー』とたしなめられた。
『「しーー』に人差し指は付かなかったとのこと。

加藤一

加藤一
「弩」怖い話 ―螺旋怪談 加藤一 竹書房文庫
「いたずらをした」
大学生の小林と高校生のカオリは家庭教師と生徒という隠れ蓑で、付き合っていた。
しかも、高校生の彼女を既に食っていた。
しかし、貧乏学生の小林にホテルに入る金などないことから、もっぱら二人はお外で
いたすことが多かった。
しばらくは、森林公園の駐車場の車中でいたしていたが、それに代わる場所を探していた。
それを見つけたのはカオリだった。
『センセ、いい場所見つけたよ』
それは稲荷神社だった。木に囲まれ、宮司も不在なことから昼間でも使える。
さっそく、神社へ足を踏み入れ、お社の中で日が傾くまで楽しんだ。
『もう、そろそ帰らないといけない時間だろう』
二人は下着を身に着けたり、洋服のしわを延ばしたりした。
送っていくと言う小林の申し出を断り、カオリは帰っていった。
次の日からカオリは無意識のうちに下半身を露出させて手で弄ぶようになった。
小林がたまたま通った公園で、カオリが下半身を露出させているのを発見して
無理やり引っ張ってきた。
『ねえ、神社でしよ?』 カオリは指の動きを止めない。
その時、小林の携帯電話がなった。母親からだった。
『いますぐ、山本の伯母さんのところへ行け。彼女も一緒にな』
タクシーを拾って、山本の伯母さんの家に着くなり、一喝された。
『あなたたち、もういったい何をやっているの!』
いきなり怒鳴られ、事情を飲み込めないでいると・・・・
『お稲荷さんでエッチなこと、してたでしょ? わかるのよ、バカやってると』
伯母はカオリの背中を数珠でさすりながら、小林を睨みつけた。
カオリに狐が憑いてしまったということらしい。
神社でアオカンはタブーなんだとか。

加藤一
「弩」怖い話(2)
加藤一
「弩」怖い話2 加藤一 竹書房文庫
「橋の下の借家」
修子と二郎が結婚して、初めて住んだのが橋の下の借家だった。
住んで1年もしないうちに、たびたび橋からの身投げ自殺があり
遺体に慣れてしまったほど。
そんなある日、修子の幼馴染の和一が尋ねてくる。
二郎とは初対面だったが、お互いに気持ちよく酒を飲んだ。
二郎は寝てしまったが、和一は泊まることを遠慮してナナハンで帰って行った・・・・
しばらくすると、ドンドンと戸が叩かれ、再び和一が現れた。
『修ちゃん、ごめんよ』と言うと、ナナハンを乗って帰って行ったが・・・・
不思議とバイクの音がしなかった。
次の日、駐在がやってきて和一が行方不明になっていることを告げた。
そして、橋の下から和一と思われる胴体が見つかったが、首が見つからない。
その日から和一が暗い部屋に毎晩、出て来るようになった。
『修ちゃん、ごめんよ』
しだいに、昼夜問わずに修子の前に現れるようになって
『修ちゃん、ごめんよ』というと消える。
修子は、首が見つかれば出てこなくなると思い、警察が何度も捜した場所へ行った。
こんな場所にあるわけない、と思いながら草を掻き分けると、和一がいた。
綺麗な顔で、まるで生きているようだ。
すぐさま、駐在に知らせに走った。戻ってみると、首は綺麗ではなかった。
首が見つかり、葬儀が済むと和一は出なくなったが・・・・
夫の二郎が毎晩、うなされるようになった。
「ゆるしてくれー、ゆるしてくれー」 誰に許しを請うているのかは、わからずじまいだった。

加藤一

加藤一
「弩」怖い話3 加藤一 竹書房文庫
「喋る」
自分の彼氏とアレをいたしていると、彼氏の一物が浮気を喋ると言う・・・。
彼氏の一物を口にしていると・・・・
"ケイコの方が上手だったな" とか "ヨウコは裏まで舐めてくれた" とか・・・
"昨日はケイコと3回した" 彼氏の声ではない声が話し出すのだとか。
腹が立ってきたので、舐めるのを止めて
『あんた、昨日、何してた?』と彼氏に言うと
『パチンコ、遊んでた』とか言い訳をしている間も彼氏のアレは喋る・・・
"ケイコとした。口に1回、後ろで1回、中に1回・・・・"
『そうやって嘘つかれると、すごくムカつくんだよね。ケイコって女とやったでしょ。
口に1回、後ろに1回、しかも中出しまでしてさ』
彼氏は顔面蒼白・・・
前の彼氏の時も同じだったが、ただ体だけの関係の男の一物は喋らないとのこと。

加藤一

加藤一
「弩」怖い話4 加藤一 竹書房文庫
「ならばよし」
ある夫婦が新居へ越したばかりのこと。
ベッドの代わりに、キャンプ用のエアーマットを敷いていた。
そのマットに二人でゴロンと横になった時に子供の頃の話になった。
『ねーねー、私ね、小さい頃、お化けが見える子だったんだよ』
『へえー、そうなんだ。この部屋に居そうかい?』
『う~ん、ちょっとわからないな』
すると夫が悪戯っぽく、天井へ向かって言った。
『おい!もし、ここに幽霊がいるなら今すぐ出て行け!』
軽いジョークのつもりで言ったのだが、部屋中の灯りが一斉に消えた。
夫は色を失ったが、妻の前で怯えた姿は見せられないと思ったのか・・・
『よ、よし。じゃあ、邪魔しないと約束するなら、居てもいい』
すると、部屋中の灯りが点灯した。
この部屋で3年ほど暮らしたらしいが、いろいろなことがあったとのこと。
『邪魔しない約束』はあまり守られなかったと。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 超-1怪コレクション 加藤一編 竹書房文庫
「てんぷら」
台所で母が夕飯の支度をしていた。
その日の晩ご飯はてんぷらだった。
『あー!!』
母が大声を出した。
『ジュ!!』ひときわ大きな音。
火傷でもいたのかと思い、台所へ駆け込む。
<ピチピチピチピチピチ>
何かが勢い良く足元を通過して行く。
それは、台所を抜け、居間に入り狂ったように暴れる。
やがて、それは動かなくなった。
父が帰り、油にまみれた『それ』を摘み上げると
まぎれもなく、こんがり揚がった海老の天ぷらだった。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 超-1怪コレクション2 加藤一編 竹書房文庫
「甘味」
彼氏と八王子城址へ肝試しへ行った女性の体験。
その帰り道、彼氏とファミレスへ寄るとたまらなく
甘い物が食べたくなった。
ダイエット中なので必死に我慢・・・。
その夜、着物を着たたくさんの女性が世話をして
くれる夢を見たが、お饅頭をすすめられた時は
夢の中なのに必死で我慢した。
目覚めると、甘い物がたまらなく食べたくなり
我慢できずにファミレスでデザートを3品平らげた。
帰宅後、寝込んでしまった夢の中で・・・
たくさんの着物を着た女性が喜んでいた。
『ありがとうございました』
『おいしかった』と涙を流していた・・・・。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 超-1怪コレクション3 加藤一編 竹書房文庫
「壁紙」
こっくりさんソフトを使っていた人の話。
パソコンのマウスポインターが10円玉の役目を果たして
質問に答えてくれるという。
ある日、いつものように『お帰りください』と言うと
『いいえ』と答えが出て帰ってくれない。
何度やっても『いいえ』と出るので、無理やり『はい』へ
動かしてお帰りいただいた。
『ふ~』と安心のため息をつくと、メールが来ていることに
気が付いた。
『あれ?』自分からメールなんておかしいな~と思いながら
開封すると『かってにかえすな』・・・・
それ以来、ソフトも削除して、壁紙も削除したが、時々
マウスポインターが勝手に動くという。
でも、パソコンを買い換える余裕はないらしい・・・

加藤一

加藤一
「超」怖い話 クラシック ベストセレクション 殯 加藤一著 竹書房文庫
過去に掲載された話 87話と書きおろしの4話。
「蜘蛛の巣」 書きおろし
樋木さんの子供の頃の話。
罰あたりなことだが、樋木さんたちは墓地でお供え物を投げて遊んでいた。
ある日、いつものように墓地で遊んでいると掌が痛み出した。
どこをぶつけたのかと掌を見ると、手首から掌に向けて蜘蛛の巣のような模様が浮かび上がっている。
手を擦ってみても、洗ってみても消える気配がない。
『罰が当たったかもしれない』
怖くなった樋木さんは母親に泣きついた。
母親は樋木さんを拝み屋さんへ連れて行った。
彼は墓に連れて行かれ、投げ散らかした墓のお供え物をきちんとやり直した。
すると痛みは消え、蜘蛛巣の模様も消えた。
拝み屋さんが言うには、墓の横に立つ家が死んだ人の通り道になっているとのこと。
『今になって思えば、墓で遊んでいた時に注意された爺さん婆さん達も、人じゃなかったかも
しれません』

加藤一

加藤一
「超」怖い話 子 加藤一編著 久田樹生 深澤夜 渡部正和 竹書房怪談文庫
「要救助者ゼロ」
その日、佐倉さんは久々に仕事が早く片付いた。
日があるうちに会社を出るなんて、いつぶりだろう。
車通りの多い大通りを避け、線路沿いの道を目指して通りを折れた。
と、線路にぶつかるT字路の突き当りに、何か塊のようなものがある。
道路上に蹲るそれは布か袋か。
数歩近づいたところで正体がわかった。路面に人が倒れている。
Yシャツにスラックスの見知らぬ男である。
俯せに倒れたまま、ピクリとも動かない。
意識がないなら最初にすべきは何だっけ。救急車だっけ。ADEだっけ。
懐の携帯電話を確かめながら、佐倉さんは男の元へ足早に駆け寄った。
何はともあれ助けなければ。
『大丈夫ですか?』
声を掛ける。
倒れた男まで、あと数歩。
そこで男は忽然と消えてしまった。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 亥 加藤一編著 久田樹生 深澤夜 竹書房文庫
「あかんでー」
安斉さんの勤める会社はそこそこ大きい。
専務以上になると専用の部屋を与えられる。
その中の常務の部屋には、会社の中で一番立派な神棚があった。
なぜ常務の部屋の神棚が一番立派なのか、古株の上司にたずねたところ・・・
『常務の部屋に神棚があると、常務が死なん』
わけがわからない・・・・
詳しく聞くと、常務の部屋から神棚を撤去すると、その時の常務が死んでしまうというのだ。
歴代の常務の中に、昇格して神棚を撤去させた人が数人いたらしい。
そのたびに、その命令を下した当人・・・・その時の常務が死んだ。
『事故死、自殺、病気、いろいろあるげな』
他の役職の部屋はどうなのかと訊ねても、一切そんなことはないらしい。
『それだで、常務に昇進した者には (神棚を動かしたらあかんでー) と毎回直で教えとる
らしいぞ、会長が』

加藤一

加藤一
「超」怖い話 戌 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「用水路」
『うちの近くに小さな水路があるんですけどね・・・・』
齢七十を疾うに越したと目される小関さんは、好奇心旺盛なご婦人である。
彼女の住むアパートの裏に、コンクリートで固められた横幅三メートル程の小さな
用水路があるが、何故か人が寄り付かない。
魚はいるのに釣りをしている人を見たことがない。
『それで私、気になっちゃって・・・』
近くの大型釣具店の店長をしている知人に、その用水路について聞いてみた。
『うーん、あそこは近寄り難いというか、とにかく嫌なんだよね。あそこはうちの
釣り場案内でも絶対に紹介しないことにしているんだ。うん、あそこはダメ』
ある日の夜更けに、彼女はその用水路を一人で見に行った。
懐中電灯で用水路を照らしていると、一匹の大きな鮒が水面から飛び上がった。
そのとき、真っ黒な影が水路を横切り、飛び上がっていた鮒を水路の向こう側へと
飛ばした。その鮒目掛けて、多数の黒い影が殺到したのである。
『逃げなきゃ、早くにげなきゃ』 と思った時に、背後から腰の辺りをポンと叩かれた。
うまく首が回らない状態で振り返ると、ボサボサに乱れた長い髪、黒く変色した上着
真っ赤なスカートを身にまとった小さな女の子らしき姿があった。
その口元には、汚らしい歯でしっかり咥えられた、血濡れの鮒の姿が垣間見える。
瀕死の鮒の鰓蓋が、断末魔のようにピクリと開いた。
それを見た瞬間、彼女は生まれて初めて気絶した。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 申 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「夏のドライブ」
それは、七月の夜十時~十一時のこと。
眠巣君は仕事から自転車で帰る途中だった。
怪しかった空模様から雨が一気に降り出した。
自宅まで、あと少しというところで一台の車が眠巣君を追い越して行った。
左側の窓から女性の肘が突き出されている。
思わず、いい女が左ハンドルのオープンカーでハイウエイを飛ばす映像を思い出す。
『いやいや、何も雨の中に肘を突き出すこともあるまいに・・・』 と思った。
前方を見ると、肘を突き出した車が赤信号に捕まって速度を落とす・・・・
そこに追いつき掛けたところで、眠巣君は幾つかの事柄に気付いた。
まず、運転手は男だった。
車は右ハンドルの国産車で、乗っているのは男だけで助手席は無人。
車内はエアコンが効いているようで、眠巣君から見える助手席の窓はぴっちりと
閉まっていた。
無人の助手席側の閉じた窓から、女の腕だけが突き出ていた。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 酉 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「インガオーホー」
伊藤さんが以前ワーキングホリデーで某国に訪れた時のこと。
人種差別的な発言の多い国から来た、嫌われ者の男が二人いた。
その男たちが、伊藤さんの知人の小柄で美人で人当りの良い園さんという
日本人女性に近づいた。
園さんは毅然とした態度で、『隙あらば・・・』という男二人を突っぱねた。
すると、彼らは彼女へ嫌がらせを始めた。
周囲に悪い噂を流すが、周囲が彼らの言うことを信じない。
業を煮やした彼らは園さんへ攻撃を始めた。
周囲が彼女を心配すると・・・
『大丈夫。ちょっと、あの人たちやり過ぎたと思う』

それは、園さんが実家から持ってきた般若心経の経本と数珠を盗み、破ったり
壊したりしてから彼女の部屋の前に捨てたのだ。
『そんなことして、無事に済むわけないよね!』
嫌われ者の男二人は、大金を落とす、病気や怪我で弱っていく、果ては
強制退去となり母国へ送還されて行った。

『ソノは憎い相手を呪うことができる呪術者だ』
そう言われた園さんは
『呪いと言うより、因果応報だねぇ、あれは』
日本人全員で英語圏の人たちへ、因果応報を説明した。
これにより誤解を解いた彼らの間で『インガオーホー』という言葉が流行った。
微妙に違った用法もあったが、苦笑いしてスルーしたのも、今はいい思い出だ。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 未 加藤一編著 久田樹生 渡部正和 深澤夜 竹書房文庫
「羊蹄山」
秋満さんの友人に 森という小太りの男性がいた。
彼は運動が苦手なうえ、食べることとゲームが好きというインドア派。
そんな森が突然こんなことを言い出した。
『僕、羊蹄山へ行きたい。登りたい』
今は初冬で雪の心配もあるのでと忠告するが、どうしても登りたいと言う。
飲みながら理由を聞くと・・・・
昨年、亡くなった祖母が毎夜、彼の元を訪れるという。
その祖母が『羊蹄山へ行け』と森へ命令してくるのだ。
そして、羊蹄山へ行ったら登山し、ある場所の湧水を汲んで、それを墓前に供える。
そう指示してくるのだと森は言う。
『羊蹄山へ行かないと、僕死ぬんだ』
取ってきた湧水を供えなければ死ぬぞ、と祖母は脅しつけると続けた。
それから二週間後、森は失踪した。
会社を無断欠勤して消息を絶った。
その後、森の両親が会社を訪ねて来て、手掛かりを訊ねる。
秋満さんは、あの『羊蹄山』のことを両親へ伝えた。
あれから十一年、森が見つかったという話は未だ聞かない。

加藤一

加藤一
「超」怖い話 午 加藤一編著 竹書房文庫
「看護学校の寮」
大川さんが看護学校で寮住まいをしていた頃の話。
寮の友人の部屋には、知らない女がいた。
髪の長い無表情な女で、肩を落としてかくりと項垂れている。
窓とベッドの間に立っていて、窓を背にしている。
その長い髪はベッドに触れるか触れないか、といったところまでの長さだった。
初めて訪室した時は驚いたが、いつ訪ねても同じ場所に、同じ姿で立っている
だけなので、そういうものだと納得した。
ある日、その友人から相談を受けた。
『大川さん、霊感が強いんでしょ? うちの部屋に何かいない?』
『どうして?』
『寝ているとね、顔に何かが当たるんだよね』
『頭、どっちに向けている?』
『窓側』
女の髪の先が友人の顔に触れているのだ。
『頭の向き、変えた方がいいよ。窓側に足を向けて寝たらいいと思う』
寮生活があと半年ある・・・・友人に女のことは黙っていた・・・・。

加藤一

加藤一
「超」怖い話Ψ(プサイ) 加藤一編著 竹書房文庫
「最後の米」
高橋さんが貧乏学生だった頃の話である。
彼がアルバイトから帰ってきて夕飯の準備を始めたところ、米櫃には米がほんの
少ししか残っていなかった。
一粒残らず計量カップに入れると、丁度ぴったり一合分だけは確保できた。
今日はこれで何とかなるが、明日からどうしようか?
アルバイトの給料が入るのはまだ先だし、米を買う金などあるはずんもない。

翌日、昨夜同様、アルバイトから帰ってきて夕飯の準備を始めたところ、米櫃には
米がほんの少ししか残っていない。
一粒残らず計量カップに入れると、丁度ぴったり一合分だけは確保できた。
『あれ?昨日もこんなんじゃなかったっけ?』
確かに、米はもう一粒もないはずである。
少々気味悪く思いながらも、ありがたく夕飯を頂いた。
この現象が続いたのは三日の間だけだった。
翌朝、実家から長らく昏睡状態だった祖父が亡くなったと連絡が入った。
卒中で倒れるまでは米作りだけが生きがいの、優しいおじいさんだったという。

加藤一

加藤一
「超」怖い話Σ(シグマ) 加藤一編著 竹書房文庫
「泡沫」
犬の散歩は、いつも決まった道を行くことにしている。
ある日、散歩の途中で新しいシルバーアクセサリーの店を見つけた。
入口ドアのガラス越しに店内をのぞく。
狭い店内にいかつい人間が二人した。どちらも客でないことは見て取れる。
リードの先で犬が吠える。
宥めながら、もう一度店内を見る。
すると、沢山の風船が浮かんでいる・・・と思ったものの、それは人の頭だった。
数にして十数個、驚きを通り越してしまい、冷静に観察する余裕が出てくる。
色は黄ばんだ白、年齢、性別はバラバラのようだ。
ゆらり、ゆらりと幽かに揺れながら、その場に留まっている。
店内の二人は、それに気付いた様子はない。
犬が吠えながらリードを引っ張る。早くこの場から離れたいようだ。
何となく、あそこに入る店がすぐに潰れる理由が分かる気がした。

加藤一

加藤一
「超」怖い話Φ(ファイ) 加藤一編著 竹書房文庫
「入る」
ふと、目覚めた。
耳元から女の声が聞こえた。
『わたしはいるの』
その言葉を繰り返す。
体は金縛りになったように動かない。
動く目だけで周りを見ると、白く浮かび上がった女がいた。
(私に何をしたいの)と強く念じると・・・
『私、あなたに、入る』と、はっきり言った。
同時に頸を掴まれ、口が上下に開けられていく。
『入るの、私。ここからあなたに入る』
苦し紛れに体をよじると、玉のような物を掴んだ。
そのまま、気を失った。

気が付くと手には数珠が握られていた。
これ以降、女が現れることはなかった。
ただ、女が入った後なのかどうかは、わからない。

加藤一

加藤一
「超」怖い話I(イオタ) 加藤一 竹書房文庫
「握手会」
おばあさんがシンガポールのホテルに宿泊
した時のこと。
寝ていると天井から何本もの腕が下りてくる。
その手を見た瞬間に『兵隊さん』と思った。
咄嗟に、その手と握手。
片っ端から握手をすると、手は満足したのか
スルスルと天井へ帰って行った。

加藤一

加藤一
「超」怖い話Λ(ラムダ) 加藤一 竹書房文庫
「理由」
喫煙していることを隠していた女性が体験する序曲。
会社で受けた電話で聞こえてきた言葉が
『ユルサヘンデ ユルサアヘンデ・・・』
やがて、自分のアパートまで『ユルサヘンデ』の男がやってきて彼女を襲う。
たばこを吸わなきゃ良いので・・・・
躊躇することなく禁煙に踏み切ったとのこと。

「狩猟」
昭和初期の尋常小学校でのこと。
何をしでかしたのかは憶えていないとのことですが
クラスの男子と校舎の外の川の前に立たされた。
教室の前なので、教室から丸見えの場所。
『おまえが悪い』だの『おまえのせいだ』だの
言い争っているうちに、ふいに大人の背丈の手の長い
ものすごく猫背の『何か』がクラスの男子を後ろから
羽交い締めにしたかと思うと、そのまま川に飛び込んだ。
『ああああああああああ~~~』
大声を上げると教師や生徒が集まってきた。
事の顛末を告げると、警察、消防が捜索したが、結局
男子は見つからなかった・・・・

河童ですかね

加藤一

加藤一
「超」怖い話N(ニュー) 加藤一 竹書房文庫
「やまめ」
ある男性が野草を採るために山に入った。
かなり歩いた場所でとても立派な1本のクヌギの木を見つけた。
夏になると、クワガタやカブトムシがこの木に群がるのだろうな~と思っていると
目の前の枝に蛇の尻尾が見えた。
マムシだと危ないな~と思いながら見ていると、今までに見たことのない蛇の模様。
そして、蛇が鎌首を上げると・・・そこには平安時代を思わせる女の顔があった。
その女の顔が何か珍しい物でも見るように、こちらを眺めている。
どれくらいにらめっこをしていた後だろうか、女が言った。
『あんたぁ~、ここきたら~、あかんよぉ~』
馴れ馴れしい、京都訛りの若い女の声だった。
思わず腰を抜かし這うようにして、その場を逃げ出した。
後日、山に詳しい友人に話すと、それは山の女で『やまめ』というらしい。
魚のやまめとは別ものとのこと。

加藤一

加藤一
「超」怖い話π(パイ) 加藤一 竹書房文庫
「バイト」
フリーター時代に塗装屋でバイトしていた男性の体験。
親方から筋が良いと褒められ、一時は一生の仕事にしようかと思ったこともあった。
そんなある日、あるアパートの仕事が入った。
現場に行くと、紙が壁一面に張られている・・・お札だ。
塗装をする前に、塗装面をサンダー(ヤスリ)で綺麗にしなくてはならない。
サンダーを使い、表面を削ろうとするが何箇所かが、削れない。
親方に、その話をすると『トラックから白い道具箱を持って来い』と言われた。
白い道具箱の中には粗塩が入っていた。
親方は粗塩を手に取ると、壁にこすり付けていく。
すると、綺麗にお札が落ちた。。
『サンダーで落ちないのに、粗塩でおちるんじゃホンモノだ』
その日、家に帰ると高熱と悪寒に襲われ、そのまま数日床に伏した。

それがきっかけで、そのバイトを辞めた。

加藤一

加藤一
怖い 全国から取材した厳選の恐怖体験31話 加藤一 竹書房文庫
「自慢の心霊写真」
里帰りをした時に行った墓参りで取った写真。
心霊写真ということで『あなたのしらない世界』へ応募。
見事、番組で採用され、出演していた霊能者には
『たいへんに良い写真』と太鼓判を押されたので大事に保管していた。
数年後、霊能力のある人に、その写真を見せようとすると
写真の入った封筒を見せただけで、『恐ろしい』と言いながら
帰ってしまったという話。

加藤一
禍禍
加藤一
禍禍(まがまが) 加藤一 二見文庫
「待機」
変な夢を見て、うなされていると弟に起こされた。
そして『大丈夫?』と聞いてくる。
訳をたずねると、昨日、その部屋で友人と
コックリさんをやった。
コックリさんに
『どこから来ましたか?』
と質問したら
『ココデジットシテタ』
と答えがあったと・・・

加藤一
妖弄記
加藤一
妖弄記 加藤一 マイクロマガジン社
ぐいーん」
カスミさんが小学生の頃の話。
学校から帰って玄関先にランドセルを放り出す。
『ただいまっ!ユウちゃんちに遊ぴに行ってくる!
間髪を置かず、その足で友達の家に向かって全力疾走。
門を出て、家の前の道に飛ぴ出した。
菜園の横を走り抜けようとしたとき、不意に身体が持ち上がった。
『わっ?わっ?
誰かに足首を掴まれた感触がある。
そのまま、ぐいーん!と足を宙に引っ張りあげられた。
つんのめるように倒れていくのだが、足は相変わらず誰かが握りしめて
持ち上げているようで、ぐんと突きだした両手は地面に届かない。

そのまま前方宙返りの要領で一回転したカスミさんの足首は、不意に解き放たれた。
全力疾走の勢いを残したまま、背中から地面に叩き付けられる。
『・・・っ!』
暫くの間、息ができなかった。
そこは蹟くものなど何もない、真っ平らな道。
後には一陣のつむじ風が吹き抜けただけだった。


戻る