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川奈まり子
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八王子怪談

川奈まり子
八王子怪談 川奈まり子 竹書房怪談文庫
「家の禁忌」
五十一歳の恵子さんの家には家族に信じられていることが二つあった。
一つ、この家には、人の目には視えない何者かが棲みついている。
一つ、できるだけ屋敷と庭に変更を加えてはならない。
目に視えない何かは二階の空き部屋に棲んでいるようだった。杉板の引き戸が勝手に開いたり閉まったりし
廊下を歩いたり階段を上り下りする足音がする・・・・そんなことは日常茶飯事だった。
家や庭の普請を禁じるという掟は、実際に禁を破ってみた結果、守らねばならぬと家族全員が理解するに至った。
まず、彼女が高校生のとき、母の発案で庭にあった茱萸の木を伐り倒した。すると、その直後に父が高熱で倒れた。
入院して検査を受けたところ、虫歯が化膿したことが原因で脳に膿が溜まっており、快復には一年を要した。
二十歳のときには、これもまた母の発案で、家の増築工事を行った。果たして、竣工工事を待たずに父が呼吸困難で
緊急入院。今後は肺に膿が溜まっていた。すぐに背中から管を通して膿を抜き始めたが、入院の翌日から危篤に
陥った。
そこで初めて母は猛省し、その頃評判だった霊能者に相談した。祈祷してもらって家の四方に盛り塩をしたら
みるみる父の病が癒えて、一週間で退院できた。

川奈まり子
実話奇譚 夜葬 川奈まり子 竹書房文庫
「白くて丸い」
五十八歳の主婦、鶴田美智子さんの話。
よく晴れた二月の昼下がり、自宅のリビングでネットサーフィンを楽しんでいたら、ふと視界の隅で
何かが動いた気がした。
咄嗟にそちらを振り向くと、ドアを開けっ放しにしていたリビングの戸口のところに、ひと抱えもある
白い煙の塊が浮いているのが見えた。
床から七、八十センチぐらいの高さを滑らかに水平移動して接近してくるところだったが、美智子さんが
目を向けた途端、ピタリと動きを止めた。
真っ白な綿飴にも似た球体で、よく見たら球の横軸の両端にあたるところから、煙が二本伸びている。
まるで腕のようだ。顔はないが、なんとなく行き物の気配を備えている。
発見から一、二秒後、それを構成している白い煙の濃度が低くなってきたことに気付いた。
空気に溶け込むように、みるみる薄れて一分ほどで消滅してしまった。

川奈まり子
実話奇譚 怨色 川奈まり子 竹書房文庫
「同業者へ」
事件は二〇一五年七月に起きた。大阪府堺市にあるラブホテルの一室で、男性客が連れの女性を刃物で
差し殺した後、部屋の戸口で首を吊って自殺した。ラブホテル従業員からの通報を受けて駆け付けた
大阪府警堺署は、現場や遺体の状況などから、無理心中の可能性があると示唆した・・・・・。

無店舗型性風俗店でキャストとして働く美希さんによれば、毎年七月になると惨劇の舞台となった件の
ラブホテルの出入口から線香の匂いが漂いだすのだとか。
事件の翌年から始まり、今年も七月は一ヶ月間ずっと匂っていたそうである。
しかし、この匂いは、美希さんたちキャストにしか感じられない。
そこで殺された女性というのは同業者だったのだという。
線香の匂いは、同業者に向けたメッセージなのだろうか。
そのラブホテルのエレベーターの中には、こんな張り紙があるとのこと。
≪4階をご利用のお客様へ 4階で止まらないことがあります。その際は5階で降りて、階段をお使いください≫
常連客の間では、四階でエレベーターが止まらないのは霊の仕業だと囁かれているそうだ。
四階で事件があったのは周知の事実だから無理からぬことだろう。

川奈まり子
実話奇譚 呪情 川奈まり子 竹書房文庫
「野辺山高原のお百姓」
これは、畠山さんが一九九二年に長野県南佐久郡南牧村の野辺山高原駅付近で出遭った怪異である。
オートバイで野辺山高原の辺りを走っていたら、五十メートルくらい先の道の端に何か大きな道具を
肩に担いだ人が出てきた。
近くでよく見れば、人物は中年の男性で肩に担いでいるのは現代では見かけない鋤のようだが
なんと言っても大きな違和感は、みすぼらしい着物を尻っぱしょりにして、ちょんまげを結っていたことだ。
そして股引を穿いた下の足は、向こうの景色が透けて見えていた。
呆気に取られて見ていると、こちらには一瞥も寄越さず悠々と前を横切っていった。
道を渡り終えると、男の姿は道端の藪に吸い込まれるように消えてしまった。

川奈まり子
実話怪談 穢死 川奈まり子 竹書房文庫
「逆さ女」
都内有数の心霊スポット《千駄ヶ谷トンネル》の近くのビルで《逆さ女》を見たという佐藤菜々さん。
『このビルの地下に下りていく階段で見たんです』
二年前のある日。会社からの帰りに、知らない番号からスマホに着信があった。
会社からかもしれないと電話に出ると・・・
くぐもった上にかすれた女性の声で『わすれもの』 『とりにきて』 と言って切れた。
たまたま、会社の近くだったので戻ることにした。
いつも夜間は施錠されている防火扉が開いている。
『こっちこっち。わすれもの。とりにきて』 さっきの電話の声が聞こえてきた。
扉に近づき、中を覗き込もうとしたそのとき、顔の真ん中に、いきなり逆さまになった女の顔が
下がってきた。
菜々さんは悲鳴を上げて後ずさりした・・・・
女は逆さまの顔のまま床に下りると、四つん這いになり、菜々さん目掛けて走って来た。
ビルを飛び出し、無我夢中で走った。
信号を2つ渡り終えたところで振り返ってみると、《逆さ女》がすごいスピードで四つん這いのまま
千駄ヶ谷トンネルの中へと消えていった。


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