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ZOTTO 木原浩勝 絵・中川翔子 ポプラ社 「後ろ姿」 Aさんには、エリコさんという一人娘がいた。 そのエリコさんが、四年ほど前に結婚したときのことである。 結婚式の当日、Aさんはエリコさんが2歳の時に亡くなった奥さんの遺影を胸に抱いて 式場の人からの案内を待っていた。 『本日はおめでとうございます。お待たせいたしました。どうぞ、こちらへ』 式場の人から声を掛けられ花嫁の控室に入ると、目の前に純白のウエディングドレスを着た 娘の後ろ姿があった。 ”この後ろ姿を見ていられるのも今日で最後か・・・・”と思った。 その時エリコさんの動きが止まった。 『申し訳けありません、皆さん。しばらくの間、父と二人だけにしていただけますか』 式場の担当者も親戚も、エリコさんの願いに笑顔を浮かべて、控室を出て行った。 二人っきりになっても、エリコさんは後ろ姿のままだ。 『お父さん・・・・』 Aさんが返事をしようと思ったそのとき 『お父さん・・・・お父さん』 エリコさんの呼びかけが、何度も何度も続く。 エリコさんの声が、いつしか亡くなった奥さんの声になっていた。 『母さん・・・・母さんなのか』 エリコさんの後ろ向きのベールの中に奥さんの顔が浮かんでくる。 『お父さん、今日まで本当にありがとう・・・』 ニッコリ笑うと、エリコさんの頭の中に沈むように消えていった。 唖然としていると、エリコさんがゆっくりとこちらに振り向く。 『お父さん・・・・今日まで本当にありがとう・・・・』 |
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現世怪談 招かざる客 木原浩勝 講談社 「招かざる客」 私の祖父ちゃんが心筋梗塞で亡くなった時のこと。 家に運び込まれ、布団に寝かされたまま、ピクリとも動かないし、生きていれば邪魔としか いいようのない顔に掛けられた白い布。 こんな情景を生まれて初めて見た私は受け入れることが出来ませんから、絶対すぐに 動き出すと信じて、枕元に座ってずっと見つめていたんです。 と、その時・・・・パッ! 顔に掛けてあった白い布が、強い鼻息で吹き飛ばされたかのように真上に舞い上がって 私の頭の上を飛び越えるとヒラヒラ舞いながら畳の上に落ちたんです。 その瞬間を、両親も親戚も見ていました。 父が布を丁寧に・・・・整えるように被せ終えた時でした。 パッ! また真上に舞い上がったんです。 『うちの祖父ちゃんに限って、こんな往生際が悪いわけがない!』 父が周りに言い放ったんです。 すると部屋のどこからか、嬉しそうに笑う五、六人の男女の声が響き渡った。 『これはモノノケだ。モノノケが来たんだ』 そう叫ぶと父は祖父の猟銃を持って来ると祖父の 枕元に置いたんです。 『モノノケは鉄を嫌う。鉄砲なら尚更怖かろう』 父はそう言うと、祖父の顔にまたゆっくりと布を被せたんです。 銃がこの部屋に持ち込まれた途端、笑い声が止まり、急に部屋が明るくなりました。 これが良かったのか、意味があったのか、無事に葬儀を全て終えることが出来ました。 |
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現世怪談 開かずの壺 木原浩勝 講談社 「ボウリング」 私が子供の頃、ボウリングが大ブームでした。 ボウリング場へ連れて行ってくれない親は、おもちゃのボウリングを買ってくれたのでした。 それからは毎日、おもちゃのボウリングで遊んでいましたが、ある日ピンが1本なくなったんです。 しかたなく9本ボウリングをしていたのですが、仏間で遊んでいるときに仏壇の中のおじいちゃんの 位牌を見て 『これだ』 と思ったのです。 それからは、おじいちゃんの位牌を1番ピンにして遊んでいたのでした。 ある日、呼びに来た父に見つかり、こっぴどく怒られました。 次の日から、また9本ボウリングのスタートです。 つまらないなぁ~とピンを箱から出していると、やけに綺麗なピンが1本出てきたのです。 不思議に思いながらピンを並べていると10本そろっているのです。 これは父が探してくれたと思い、仏間から大きな声で 『おとうさん、ありがとう』 と礼を言うと 『違う、違う。ワシだ、ワシだ』 と言う声が聞こえて来たのです。 声がする方には仏壇しかありません。 私は、この出来事を父に言いに行きました。 すると、ゴツンと頭を殴られ 『おじいちゃんだろ! ちゃんとお礼言っとけ』と怒られたのでした。 |
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現世怪談 白刃の盾 木原浩勝 講談社 「指に輪」 一九七〇年代の頃の話。 いつの間にか気が付くと三つ上の中学二年生の姉を訪ねて、毎日別々の人が来るようになった。 引っ込み思案だった姉に多くの友達ができたと喜んでいたので、来る人のことは聞かないように していたのですが、母が我慢できずに姉に訊いてみた。 『背後霊を見て、相談役になってあげているの。私は、人に見えないものが見えるの!』 霊の話になると姉の顔は自信たっぷりになり、妹の私から見ても、もう一人の誰かに乗っ取られて いるかのように見えました。 それから二週間ほどした日曜日。 母が、頭が真っ白なおばさんを家に連れてきました。 おばさんは、姉の後ろに回り込むと、姉の目の前で指で輪を作ったんです。 と、姉が小さく一声上げたんです。 『だめよ。目をそらしたり瞑ったりしないで、よーくごらんなさい。何が見える?』 『いい?これがあなたが見えると言ったことよ』 『こんなもの見たことない。これ一体、何ですか』 『だから、あなたがずっと見えていると言い続けてきたものでしょ?』 『ええ?』 姉はすすり泣きから大きく声を出して泣き崩れ、その拍子におばあさんは指を離したんです。 『はい、ありがと。いい?お姉ちゃん。見えないものは見えないままがいいの。今までのことは その場限りの話からどんどん大きく膨らんで、見えていることにしないと引っ込みがつかなく なったんでしょ?でもね、本当に見えていたら、こんな嫌なものなのよ。もう今この時点から これまでやってきたことは止めてね。この先も言い続けたら、自分で作った話が形を成して 見えたり、見せてやるというようなモノまで集まって、お姉ちゃんがお姉ちゃんでいられなく なるのよ』 姉は黙ったまま素直に、首を縦に振りました。 |
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禁忌楼 木原浩勝 講談社 「姑」 お姑さんが怖いものって何でしょう? 夫と結婚すると、遠く離れて暮らしているはずの姑が現れては消えるということが続きました。 そして、息子が生まれると・・・ 昼過ぎにうたた寝をして、息子の泣き声で目を覚ますと、姑が物凄い顔で睨んでいました。 『何やってるの!はよう、お乳をはげんかいな』 びっくりして返事をすると、顔だけが浮いていて、その後消えていきました。 こんなことをくり返しながら、息子が五歳になり、三人で実家に行ったときのことです。 息子が玄関に入るなり、出迎えた姑に飛びつきました。 『おばあちゃん、怖いから、もう夜中に来るの、止めてくれない!?』 息子にこう言われると、姑の笑顔が一瞬に崩れました。 そして、その日はしばらく、息子とは口がきけませんでした。 姑が怖いものって、孫から嫌われることかもしれませんね。 |
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「白いセダンに乗っていると・・・・」 富士五湖道路、国道138号線。 もし、車でこの道を行くなら、白いセダンは避けた方が良いという・・・ あるドライバーがこの道を白いセダンで走っていた。 すると、バックミラーに赤い点が見えた。 それは見ている間に大きくなり、4人の血を流した女性の乗る軽自動車だとわかった。 ドライバーはかなりのスピードを出していたが、それをはるかに凌ぐスピードで追いつき ドライバーを睨んだままの女性たちは 『こいつじゃない、こいつじゃない』と悔しい表情で追い越していった。 |
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「相手役」 漫画家のMさんの体験である。 彼女は高校の時、広島県S女子高校の演劇部に在籍していたという。 その高校の講堂のステージに上がって、一人でセリフの練習をすることがあった。 『与ひょう』 と相手の名前を呼んだ。 すると、次の与ひょうのセリフが返ってきた。 『あれ?』 当たりを見まわしたが、相手役の子はおろか、誰もいない。 練習中にセリフを忘れたりすると背後から小さな声で教えてくれる、が振り返っても 誰もいない・・・・ そんなことがMさんのみならず、同級生たちの間で頻繁に起こっていた。 『まあ、慣れるよ』 と先輩たちは言うから、きっと同じ体験をして来たのだろう。 『ここに長いこと棲みついている幽霊たちは、セリフを憶えちゃったんじゃない?』 同級生たちはそんなことを言いだすようになり、二、三ヶ月もすると、それが当たり前に 思うようになったという。 |
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怪談狩り 禍々しい家 中山市朗 「家賃」 K子さん夫婦が新築のマンションへ引っ越した。 K子さんは専業主婦。 夫が仕事へ出かけると、部屋の中は一人だけ。 ところが、夫が朝出かけた途端に物音がしだす。 台所のシンクから、ボンボンと音がしたかと思うと、戸棚の内側からバンバンと叩く音がする。 ある時は、地下収納庫の扉、そして押入れの襖、襖はたまに勝手に開く。 トイレにいると、家には誰もいないはずなのにノックされる。 そして、とうとうK子さんがキレた。 部屋の真ん中に仁王立ちになると 『いるんだったら、家賃払え!!』 そう一喝した。 以後、音はピタリと止んだ。 |
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怪談狩り 黄泉からのメッセージ 中山市朗 「生首の予言」 Hさんという女性がいる。Hさんの旧姓は、ある土地と因縁が深く、また珍しいものだそうだ。 その本家筋にあたる者は、親族の不幸があると髪がザンバラの落ち武者のような生首を夢枕で 見るそうだ。幼いころから、彼女は何度も生首を見ては親族の不幸を知ったらい。 彼女が結婚する前、姉と大阪で暮らしていたときのこと。 ある早朝、パッと目が覚めた。 すると目の前に生首が浮いている・・・・ (え?今起きているのに、あれが見えている) 『摂津の国、数多の人、死に候』 と生首が声を発して消えた。 (摂津の国って、どこ? 大阪?神戸? 死ぬ?) なんだか頭がこんがらがっていると、ガタッと家が大きく揺れた。 地震だ。それも大きい。 しばらくして揺れは収まった。 阪神淡路大地震である。 親族同士連絡を取り合ったが、全員の無事を確認した。 親族全員が、なぜか目覚めて、生首を見て『摂津の国、数多の人、死に候』の声を聞いたという。 結婚して、今の姓になってからは、もう夢枕に生首が出ることはなくなったらしい。 ちなみに、彼女が高校生の時のこと。 担任の先生が『親戚縁者が死ぬとき、生首が夢枕の中に出てきて知らせてくれるんや』と話した。 『先生の故郷はどこですか?』と聞いたところ、父親の出身地と同じだったそうだ。 |
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怪談狩り 四季異聞録 中山市朗 「タカシの引っ越し」 OLのM子さんが数年前のこと。 当時二十七歳だった彼女には、一歳年上の彼がいた。名前はタカシさん。 春になって、タカシさんは職場が変わったので引っ越しをすることになった。 引っ越し当日はM子さんも手伝うつもりで準備していたが、見事に裏切られた。 そして数日後、彼から事情を説明された。 それは、引っ越し当日、新居となるアパートの部屋で女性が首をつって死んでいたというものだった。 女性は、彼の元婚約者。彼は、納得して別れたと思っていたが、彼女は違っていた。 彼を思い続け、首を吊ったところで彼に助けてもらうつもりで死んで行ったのだ。 その話を聞いたM子さんは彼と別れて連絡を絶った。 その後、彼と共通の知り合いの友人から彼の死を知らされる。 元婚約者が首を吊った部屋で、彼もまた首を吊って死んだとのこと。 アパートの契約は解約していたので、どうやって部屋に入ったのかも不明とのこと。 その日は、元婚約者の四十九日だったそうだ。 |
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怪談狩り 赤い顔 中山市朗 「受信番号」 テレビ番組の収録で、真夜中の京都東山の周辺を散策した。 体験者がこの近くのホテルで遭遇した怪奇を語る。 ホテルのあった場所は、その昔墓地であったという。 そういえば、東山東麓には霊園の看板がいくつもある。 この場所からも『K霊園』という大きな看板が見える。 そのとき、マネージャーのN君の携帯電話が鳴った。 『こんな夜中にだれや』 と言いながら電話に出る。 すぐに 『えっ』 と小さく叫ぶと携帯電話を見つめた。 『これ以上詮索するな、で、すぐ切れました』 という。 N君は発信者番号を見ながら首をかしげる。 『知らない人ですね。 075、京都ですね』 というN君の顔色がみるみる変わった。 『どうした』 『あそこからです』 携帯電話に表示されていたのは 『K霊園』 の看板に書かれた電話番号だった。 |
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怪談狩り あの子はだあれ? 中山市朗 「花嫁」 戦前の話だという。 Sさんの父が六、七歳の頃、実家は農家で茨城県Y村に家族八人で暮らしていた。 ある日、町へ出かけていったおじいさんが帰ってくると 『お客さんだよ』 と叫んだ。 こんな寒村にお客とは珍しいと思いながら庭に出てみると、馬の背中に、縄でぐるぐる巻きに 縛られた一匹の狐がいる。 『この狐、どうしたの?」 『それかな・・・・・・』 町で用事を済ませ、馬を引いて帰路について、村に通じる一本道に出た。 そこに一人の若い女性が、なんと文金高島田の花嫁衣装で立っていた。 訊けば、今日Y村へ嫁ぐことになっているという。 婚礼と言えば、村での一大イベントなのに聞いていないのはおかいい。 それに、さっきまで大人しかった馬が、女を見てしきりに嘶いている。 (そういうことか)とおじいさんは察知した。 『それは良かった。わしもY村の者でな、今帰るところじゃ。よろしかったら裸馬だけれど 乗っていきなされ』 それを聞くと、女は馬の背に乗ろうとした。そのスキを見てぐるぐるに縛ったのがこの狐だという。 おじいさんは、家族に狐を見せると 『もう悪さをするんじゃないぞ』 と言って縄を解いた。 狐は山へ帰って行ったという。 |
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「千日前怪談縁起」 中山市朗 ある打ち合わせで、大阪ミナミの寿司店に入った。 まずはビールを飲み、寿司をつまんで世間話をしていると、背後のドアが開いて閉じる。 『誰もいないのになんでドアが開くの』 と私が言うと 『さっきドアが開いたとき、きっとあの人が入って来たんだと思う』 『あの人って?』 『ほら、あのカウンター席』 見れば、二十代後半から三十代くらいのピンクのスーツを着た女性がいる。 我々が店に入って来た時には、確かにいなかった。 打ち合わせが始まった・・・・すると、またドアが開いて閉まった。 そして、カウンター席の女性はいない・・・・ カウンター内で黙々と魚をさばく職人さんに声を掛けた。 『すみません。今ここに女の人、座ってはりましたよね。何も注文せんと帰って行きはり ましたようですけど』 すると職人さんは一瞬きょとんをした表情をしたが、次にはニヤリと笑った。 『お客さんたち、やっぱり見てはったんですね。あれ、人間やないんですわ』 『はあ? どういうことです?』 『ここ、千日前ですから』 |
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隣之怪 息子の証明 木原浩勝 角川書店 「私のできること」 私の家は、みな信心深かったので、小学校に上がる前には、観自在菩薩と般若心経を 諳んじていました。 中学生の時、九州へ家族旅行へ行った時の話です。 ホテルの従業員の方から、紅葉の眺めのスポットをお聞きしたので家族で向かいました。 祖父、祖母、両親、そして私の順であるいていると 『もしもし』 と突然、真後ろから声をかけられました。 振り返れば、赤い半纏を着たおじいさんと、井桁の模様のズボンを穿いたおばあさんでした。 二人は、どうしてもお願いしたいことがあるので、いっしょに来てほしいと言うのです。 返事に迷っていると、二人で深々と頭を下げてお願いされるので、行くことにしました。 『では、こちらへ・・・・』 二人の後をついて行くと、大小二つのお墓が並んでいました。 『ありがたいお経を唱えてくれんか』 『はい、わかりました。それならできます』 私はお墓の前に座ると、毎朝のおつとめのように、観自在菩薩・・・・と唱えたのです。 お経を終えると、おじいさんとおばあさんの姿はありませんでした。 |
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「父の居ぬ間」 体験者が小学三年生の時、実家であるお寺で体験した話。 その日、母は何かの用事で出かけ、父は檀家の法事の打ち合わせで、ともに家をあけて いました。家には私一人だったわけです。 普段から、本堂で遊ぶなと言われていたので、ここは本堂で遊ぼうと思いました。 以前から目を付けていた『木魚』と『磬子』を思う存分叩いてやろうと思い、本堂へ向かい ました。 ポク ポク ポク ポク ポク ポク・・・・ボワーン ボワーン ボワーン・・・・ すると、耳元で小さな声が 『やめなさい』・・・・思わず首が縮みました。 しかし、周りを見ても誰もいません。 気のせいだと思い、また叩き始めました。 ポク ポク ポク ポク ポク ポク・・・・ボワーン ボワーン ボワーン・・・・ 『やめろというとろうがっ!!』 今度は、大きな強い口調で言われた僕は本堂から逃げ出しました。 しばらくすると、すごい形相の父が帰宅し、僕の悪戯を攻め立てます。 僕は見られていないと思っていたので、誤魔化す自信がありました。 『こいつ、嘘までついてとぼける気か』 父の言葉に僕は震えあがりました。 『さっきな、檀家さんで話をしていると耳の中から ポク ポク ボワーンと鳴りだした。 すると、お前の亡くなった祖父さんがな、優しくやめなさいと言ってくれているのに おまえという奴は聞きもせず、調子に乗りおって!!』 |
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「病の間」 大学時代の同級生の実家のある部屋の話。 その部屋に泊まった人は、次々と自殺を遂げてしまうというもの。 夏休みに、その実家へ遊びに行った体験者が『病の間』をカメラで撮影。 映っていたのは、映るはずのないカメラをセットしていた自分・・・・ そして、真っ白な女。 数年後、実家を取り壊すことになり、その工事に立ち会った同級生が見たものは 『病の間』の礎石に使われていた、おびただしい墓石の数々だった。 |
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「命日」 大学卒業が近づいた頃、友人に誘われて彼の実家へ行った男性の体験。 東北の山奥ながら彼の実家は旧家で、建物を見ると『お屋敷』というたたずまいだった。 到着すると、彼の家族が皆、歓迎してくれることはわかったが、何か雰囲気がおかしい。 友人に尋ねると『もう少ししたら話す』とのこと。 だが、二日目の夜が明けると、今までの雰囲気とは一変。 彼の親戚が全て集まってきたような大勢の人たちでが、飲めや歌えやの大宴会が 始まっていた。 彼の両親に見つかると『まあ、一杯』と酒をすすめられ、次は祖父、祖母・・・ 目が覚めると布団の中だった。 二日酔いの重い頭を持ち上げて起き出すと、宴会はまだまだ続いているようだった。 席に戻ると、またまた酒を注がれる・・・ たまらなく、外へ逃げ出した元へ友人が追いかけて来た。 そして『理由を説明する』という。 すぐ近くの先祖代々の墓へ案内されると、墓の裏を見るように言われる。 墓の裏には没した日にちが刻まれえているが、ほとんどの墓石の日にちが3月27日に なっていた。酔いが一瞬で醒めたところで友人が説明をはじめた。 『大往生だったり、事故だったり、死因についてはバラバラだけど3月27日に死ぬ。 そのため3月28日になっても皆が無事だと、今年は誰も亡くならなかったことを祝い 親戚中が集まって1~2日宴会するんだ。まるで、呪いや祟りみたいだろう?』 |
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「百円」 体験者が5歳の時の話。 近くに、ひいおばあちゃんが住んでいて、遊びに行くと百円くれるので毎日通っていた。 そして、ひいおばあちゃんの近くには、いつもひいおじいちゃんが無言で座っていた。 ある日、ひいおばあちゃんが亡くなった。悲しかった。 百円が欲しくて通ったわけではなく、ひいおばあちゃんが好きだったんだと気づいた。 ひいおばあちゃんの葬儀が終わった後に家に行ってみると、雨戸が閉められていた。 その雨戸を無理やり開けて中に入ると、座っているひいおじいちゃんに向かって 懸命に百円をねだった。 懸命さが功を奏し、ひいおじいちゃんが奥の間を往復した手には百円が握られていた。 それから毎日、ひいおじいちゃんから百円をもらって、駄菓子屋へ通った。 ある日、毎日どこへ行くのかと父に尋ねられた。 ひいおじいちゃんちと答えると、父の顔が曇って、誰も住んでいないと言われた。 ひいおじいちゃんがいるのに変なことを言う、と思い、無視して出かけた。 駄菓子を家に持って帰ると、父に詳しく説明させられ、2度と行くなと言われた。 しかし、次の日もひいおじいちゃんの家に行き、雨戸を開けようとしたが 釘が打ち付けてあって開かない。家に帰ると父に抗議した。 すると、父にひいおじいちゃんの容貌を聞かれ、毎日見てきた姿を答えると・・・・ 「ひいおじいちゃんは、おまえが生まれる、ずーっと前に死んだんだ」 |
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単行本 文庫本 中山市朗 |
琉球金剛院正一位法会師の肩書きを持つ男性が2日間に渡って 著者に語った体験談。 彼の仕事仲間の男性が婚約した。 婚約した女性は、彼も良く知る人物だった。 その頃、仕事仲間の男性をしきりに誘惑しよとしていた妖艶な双子姉妹がいた。 姉妹は、男性が婚約したことを知ると、婚約者の女性を執拗にいじめるようになる。 面と向かって罵倒、塩酸を掛けたり、犬の生首を彼女のアパート玄関に置いたりと・・・ エスカレートしていくいじめに耐えられなくなった彼女は自殺する。 彼女のアパートからは、姉妹を呪う書置きや藁人形が出てくる。 彼女の死後、二人の姉妹の周囲で奇妙な事件が続発、やがて被害は実家へも。 実家の父親の依頼で、琉球金剛院正一位法会師の彼が実家へと向かう。 大豪邸に住む双子姉妹家族。 それが、最後には全焼。生き残ったのは父親だけだった。 そして、なまなりさんと関わった琉球金剛院正一位法会師の彼も多くのものを失う。 なまなりさん、それは自殺した女性の怨念と、家系を呪うものの合体したもの。 怨念は、呪う相手を倒した後も、そこに居座り続ける・・・・ これは実話で、現に人が4人亡くなっている話。 この姉妹が何もしなければ、被害者は誰も出なかったのですよ。 いじめは報復されるよ・・・・必ず・・・・ |
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九十九怪談 第十夜 木原浩勝 角川書店 「みそ汁」 ある人がマレーシアのホテルに泊まった時のこと。 夜中、妙な音で目が覚めた。 グー、キュルルルル、グー、キュルルルル・・・・・。 カエルかと思ったが、何度も聞いているうちに、空腹時のお腹から鳴る音だと気づいた。 とそこへ、入り口のドアの前にいきなり男の姿が現れた。 ガリガリに痩せてドロにまみれた後ろ姿。 しかも、汚れたふんどしをしめて、頭には鉄兜。その鉄兜には日除けのボロ布が付いている。 旧日本陸軍の兵隊さんだとすぐにわかった。 ちゃんと確かめようと、枕元のスタンドの明かりを点けると、そこには誰もいなかった。 いつの間にか、あの空腹時の音もしなくなっていた。 同じ国の人間だと思うと放ってはおけない。 ひょっとして、お腹が空いたまま亡くなられた人が日本人の自分と出会ったので懐かしく思って 現れたのかもしれない・・・・ 何かしてあげられることはないだろうか・・・・? そうだと思い出して、カバンの中からインスタントのみそ汁を取り出すと、コーヒーカップに入れて お湯を注いだ。 それを、さっき兵隊さんが立っていた場所に置いて寝たのだという。 朝、目が覚めるとコーヒーカップのみそ汁はきれいにカラッポになっていた。 |
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九十九怪談 第九夜 木原浩勝 角川書店 「靖国」 太平洋戦争の真っただ中、深夜、ジャングルの中で大雨に遭い、木の根方で休んでいた時のこと。 背後から大勢の人の気配がするので木を盾にして身を隠した。 こちらに近づいて来ないようなので、そっと覗いてみると、どこの部隊なのか友軍が一列にならんで 行進している。 自身は、この酷い戦局の中で部隊から逸れ、飢えと雨で体力と体温を奪われてボロボロになって いるというのに、一行は軽やかに行進しているように見える。 元気一杯に出陣した時の自分を思い浮かべた。 眺めているうちに、彼らの異様さに気が付いた。 彼らの軍服が、下ろしたてのように綺麗なのだ。 おかしいと思いながらも我慢できなくて、彼ら一行に近づくと、最後列の若者に声を掛けた。 『おい貴様、どこの部隊だ? どこに向かっているのか? 俺も連れていってくれ』 すると若者は 『自分達はこれから ・ ・ ・ ・ ・ ・ に率いられて靖国へ行くところです。お連れすることは できません』 靖国って・・・お前・・・・ 彼ら一行の先には、ジャングルの中だというのに人ほどの大きさの白い玉のようなものが見える。 なんと彼らはその中に向かって吸い込まれるように入っていくのだ。 やがて最後の若者が入っていくと、フッと消えてなくなった。 後は元の通りの暗い雨のジャングルの中・・・・。 |
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九十九怪談 第八夜 木原浩勝 角川書店 「ヤード」 古い国産車に乗っているFさんは、修理もメンテナンスも自分で行う。 ある日、部品を探しに訪れた自動車修理店でのこと。 車の部品が山積みされた場所の手前に、他とは雰囲気の違う車があったので いろいろと社長に尋ねていると・・・・ 『オカルト、信じますか?』と聞かれ、あいまいな返事をしたところ・・・・ 『ちょっと、試乗してみましょう。ヤードに案内しますよ』と、Fさんを連れ出した。 車のドアを開けてFさんが乗り込むと、ドアが閉められた。 『そのまましばらくシートに座っていてください』 すると後部シートで、バンバンドンドンと、まるでシートで人が暴れ回るような騒ぎが始まった。 驚いて振り返ったが誰もいない。 これだけの騒ぎなのに車は全く揺れていない。 Fさんが後部シートを見つめているその時、後ろからポンポンと二度右肩を叩かれた。 びっくりして、叩かれた方を振り返ったが、そもそも車内にはFさんしかいない。 ドアは閉まったままだし、社長は外にいる。 Fさんは慌てて車の外に飛び出した。 『どうです?怖かったでしょ?何年かに一台こんな車が来るんです。神主さんにお祓いを してもらってから、売りに出したり、オーナーさんにお戻ししたりするんです』 |
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九十九怪談 第七夜 木原浩勝 角川書店 「達磨」 噺家の三遊亭歌橘師匠からうかがった話。 師匠が小学生の夏、友達数人でお泊まり会をしようというこになった。 友達の一人がお寺の息子だったので、そのお寺に泊まらせてもらうことにした。 泊まる部屋は十二畳、達磨の掛け軸があるだけという簡素な部屋。 泊まる前に、友達の父親(住職)から注意があった。 それは、達磨の掛け軸に足を向けて寝ないという奇妙なもの。 その夜のこと、遊び疲れて寝ようということになったが、一人がお寺の息子に尋ねた。 『ねえ、どうして達磨に足を向けて寝てはいけないの?』 『知らないよ、そんなこと』 お寺の息子がそんな答えをしたものだから、それなら皆で足を向けて寝てみようという ことになった。 翌朝、起きてみると全員の布団がぐるりと反対へ動かされて、達磨の掛け軸に頭を向けて いたので大騒ぎになった。 |
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九十九怪談 第六夜 木原浩勝 角川書店 「四の重」 Hさんのお母さんが子供だったころ。 正月になると、必ずお父さんが重箱の蓋を取って、一の重、二の重と広げるという。 重箱は五段重ねであったが、必ず四段目が空になっていた。 四はない、つまり、死なない、という縁起担ぎだと教えられた。 更に、その重箱を広げるのは家長の役割で、家族の誰もそれをやってはならない。 Hさんのお母さんが小学三、四年生だった頃のお正月。 お腹が空いて、つまみ食いをしようと、こっそりお重を広げた時だった。 四の重の底に、三年前に亡くなったお祖母ちゃんのすごく怒った顔が映っていた。 びっくりして、周りを見渡したが部屋には自分しかいない。 再度、お重の底を見ると、もっと怒った顔になっていたので、慌ててお重を元に戻した。 それ以来、決してお正月に勝手にお重に触らないようになったのだという。 |
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九十九怪談 第五夜 木原浩勝 角川書店 「会釈」 日本に長く住むアメリカ人Oさんの体験。 ある夜のこと、帰宅途中にちょっとしたことを思い出した。 毎朝、出勤途中で挨拶を交わすおじいさんの姿をここ四日ほど見ていない。 そして、おじいさんの家の明かりが点いているところも、ここ四日ほど見ていない。 ちょうど、おじいさんの家の前を通りかかると窓におじいさんの顔が見える。 よかったと思ったが、ちょっとおかしい。 窓は真っ暗なのに、おじいさんの顔ははっきり見える。 しかも、何が気になるのか、周りをキョロキョロと見回している。 まるで、誰かを探しているようだ。 その時、パッと目が合った。 咄嗟にOさんが会釈をすると、おじいさんも会釈を返した。 しかし、またキョロキョロと周りを見回し始めた・・・ 『私じゃない、誰かを探しているのかな?』 そして、翌朝、おじいさんの家の前に救急車が停まって、人だかりができていた。 その中のひとりに話を聞くと、一週間ほど前に亡くなっていたらしい。 『誰かに自分のことを伝えたかったのに、私が外国人だから言葉が通じないと思った のかもしれませんね』 とOさんが残念そうな顔をした。 |
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九十九怪談 第四夜 木原浩勝 角川書店 「お姉さん」 夏休み、友達の家に遊びに行った時のこと。 トイレに行きたくて、廊下を歩いていた。 障子が開いている部屋があったので覗いてみると、中学生くらいのお姉さんが布団で 寝ていた。 病気なのかと思いながらトイレを済ませた後に、再度、覗いてみた。 すると、変なことに気付いた。 夏の最中、障子をいっぱいに開けているのに、お姉さんは分厚い布団に寝ている。 『暑くないのかなぁ』 と思いながら、部屋に戻って遊びの続きをした。 そこへ、友達のお母さんが冷たいジュースを持ってきてくれたので、さっきのお姉さんの 話をすると・・・ 『あぁ、あなたも見たの? あれは私のお姉さんよ』 どうみても中学生くらいにしか、見えなかったのに・・・・ その顔を読まれたのか 『おばさんが小さい時にね、死んじゃったのよ』 と、すこし悲しそうな顔をしながら部屋を出て行った。 |
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九十九怪談 第三夜 木原浩勝 角川書店 「ネズミ」 Wさんの家では鶏を飼っていた。 鶏のエサ、卵、ヒヨコを狙ってネズミが現れる。 ネズミ捕りが仕掛けられ、ネズミが入ると父が川で殺して流した。 殺されるネズミがかわいそうで、Wさんはネズミを殺す役を買って出て 捕まったネズミを山奥で逃がしていた。 そんなある日、山奥で転倒して足の骨を折ったようで、どうにも身動きが 取れなくなってしまった。 日が暮れてきたので、こんな山奥じゃ誰も来ないと焦っていると・・・・ 山の斜面を自分が降りてきた。自分そっくりで、着ている服もおなじ。 こんどは父の声がして 『おいこら! どこだ!』 『父さん、ここだよ、ここにいる。助けて』 と精一杯の声を上げると・・・ 自分そっくりの奴が頭をペコリと下げて 『いつもネズミをありがとう』 と言うと斜面を降りて行ったと同時に狐に変わった。 父の背中に負ぶさり斜面を登りきると 『家で、あんなに騒いで逃げ回るからバチが当たったんだ』 と父に言われた。 『え?誰が?』 と不思議に思って聞いてみると 『ふざけるな。お前、お前に決まってんだろ』 |
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九十九怪談 第二夜 木原浩勝 角川書店 「お姉さん」 ある女性が大学の卒論に苦労していた時のこと。 気分転換に、近くの喫茶店で資料の読み込みをしていた。 すると、彼女と同年代くらいの女性が現れ、他の席が空いているにも関わらず 相席したいと言ってきた。 前に座ると 『お姉さん、卒論をやっているんですよね。今の時期は大変ですね』 お姉さん?誰だろう?知っている顔ではないし・・・・ その後、一方的に自分の兄の話をして、話が終わると帰ると言う。 帰り際 『そうそう、私、アメリカへ留学に行くんです』 それから数年後、ある男性と恋に落ちて結婚することになった。 結婚式当日、新郎の父から、アメリカ留学から帰って来た娘との紹介があった。 彼からの話でしか知らない妹だったが、数年前に自分を『お姉さん』と言った女性と 気づいてびっくりした。 妹さんは『やっぱりお姉さんだった』と言って笑った。 |
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九十九怪談 第一夜 木原浩勝 角川書店 「手紙」 結婚が決まって、部屋の中を整理していた女性の体験。 手紙の束を見つけ、懐かしさに浸っていると、未開封の手紙を発見。 それは、彼女が高校生の時に亡くなった母からのものだった。 切手が張ってあり、消印も押してある。 消印の日付は、母が亡くなって一年後のものだった。 開封して、中を見ると更に驚く内容だった・・・ 『おめでとう、。もうすぐ結婚式ね。出席できなくてごめんなさい。 幸せになってね。 母より』 |
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現代百物語 新耳袋 第十夜 木原浩勝 中山市朗 「郵便物」 ある日、送られて来た郵便物には、なくした財布が入っていた。 1週間ほど前に、彼女とボーリング場の廃墟へ肝試しに行った先で 他のグループと喧嘩になり、その時に落としたものだった。 幸いなことに、自転車で通りかかったおじいさんが仲裁してくれて怪我もなかった。 お礼を言いたくて、差出人の住所と名前から電話番号を調べた。 そこは老人ホーム、電話をかけて事のいきさつとおじいさんの名前をいうが、信用しない。 1ヶ月前に亡くなっているので、いたずらと思われた様子。 埒が明かないので、現地へ向かった。 財布が送られて来た封筒を見せると、確かにおじいさんの筆跡だとのこと。 担当者は、恐る恐るおじいさんの写真を持ってきた。 『確かに、この人です。本当に亡くなっているのですか?』 騒ぎを聞きつけて、老人が集まってきた。 そんなバカな話があるか、という人がほとんどだったが、おじいさんと親しかったという人が 『それは、あの人に間違いない。彼は、ボーリングに勤務して、毎日、自転車で通っていた』 それからは、腹が立って喧嘩をしそうになるとおじいさんを思い出すと言う。 そうすると、気が休まるのだとか。 今も封筒は大切に保管してある。 |
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現代百物語 新耳袋 第九夜 木原浩勝 中山市朗 「托鉢僧」 ある神社に、長旅をしてきたと思われる托鉢僧が1晩の宿を求めてきた。 旦那さんは「坊主がなんでわざわざ神社に泊まるのだ」と怒ったが、奥さんがとりなして 托鉢僧へ食事を出した。 食事を終えた僧へ更に風呂を勧めた。 僧が風呂に入ってしばらくすると、何かあったのでは?と気になり出した。 そして、待てど暮らせど、一向に出てこない。 風呂の中で倒れていても困ると、業を煮やした旦那さんが風呂場へ見に行った。 風呂場の近くまで来ると 『ピチャ、ピチャ、ピチャ』 お湯の音がしているので確かに入っているようだと思い、今度はそ~っと覗いてみた。 すると、そこに僧の姿はなく、代わりに大狸が縁に乗り 『ピチャ、ピチャ、ピチャ』と 大きな尻尾を湯船に浮かし、動かしていた・・・・・・・・・・・ 逃げた大狸が使った茶碗と箸が、今もその神社に保管されているとのこと。 |
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現代百物語 新耳袋 第八夜 木原浩勝 中山市朗 「いってきます」 女子大に通う姉と、中学に通う妹の二人暮らしの姉妹。 父は単身赴任、母は早くに亡くなったので額縁の中で笑っている。 妹はクラブ活動で朝が早いため、姉が起きる時間に家を出る。 玄関から大きな声で『いってきま~す』と聞こえる。 玄関から見れば、正面に母が笑っている。 それにしても、妹はいつからバカでかい声で『いってきます』を言うようになったのか。 近所に響き渡る大きい声、そして誰も答えてはくれないというのに・・・ ふと姉も玄関で靴を履いている時に、妹のように大きな声で挨拶してみる気になった。 『いってきます!!』 『いってらっしゃい』 母の声だった・・・ |
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現代百物語 新耳袋 第七夜 木原浩勝 中山市朗 「蔦」 あるお坊さんの体験。 彼は、小学生の時の事故がもとで両足が不自由なため義足を使用していた。 将来を悲観し、ずいぶんと無茶をしている彼を見ていた祖母の計らいでお坊さんが 修行するよう、説得に来るようになった。 高校生になった彼は『坊主の道もありかな』と思い、初めての修行へ出かけて行った。 修行僧は1列になって雪の積もった高野山へ登って行く・・・その殿を彼は歩いた。 しかし、義足と杖で歩く彼は皆からどんどんと遅れていく。やがて、見えなくなる。 そこで杖が滑り、彼は崖から転落した・・・が、なんとか蔦に手が届き 一命は取り留めたものの、両方の義足と杖は崖下へ落ちてしまっていた。 懸命に腕の力だけを頼りに、何時間も掛けて崖の上を目指した。 しかし、義足も杖も崖下へ落ちてしまったのだから、上がれても移動する手段がない。 そう思った彼は『この世に仏なんていない』と呟いた・・・ 崖を登り切った彼がそこで見たものは、崖下へ落ちてしまったはずの義足と杖だった。 『仏はいる』 |
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現代百物語 新耳袋 第六夜 木原浩勝 中山市朗 「風呂耳袋」 一番風呂を狙って入った銭湯でのこと。 60歳くらいと70歳くらいのおじいさんが話していた。 『で、奥さん、まだ来てます?』 『ええ、夕べも来まして。これがうるさいんです』 『うらやましいですよ。うちのが亡くなって20年。一度も来たことがない』 『いえいえ、来ても黙っていてくれれば良いのですが、この食べ物は体に悪いだの 部屋が片付いてないのと、とにかくうるさいのです』 『いやいや本当にうらやましい』 『とんでもない。これでは、うちのが死んだ気がしない。もっとゆっくりしたいのに』 ・・・・ 『でも、そろそろ逝ってやらにゃならんと思うのです。寂しいから出るのだと』 そう言いながら、二人は湯船から出て行った・・・ 「本堂の灯り」 お寺のお嬢さんから聞いた話。 彼女が8歳の時、深夜、トイレに起きると本堂に灯りが点いていた。 お父さんがお勤めをしているのかと思い、立ち止まると後ろから肩を叩かれた。 振り返るとお父さんがいた。 本堂に灯りが点いていることを告げると 『おまえは寝なさい』と言い置いて、本堂へと向かった。 それから8年後、その時のことを聞かされた。 その日の昼、近くの廃寺から動物の無縁仏の墓石を引き取り、裏山へ奉ったと言う。 その夜の深夜、本堂に灯りが点いていたとのこと。彼女が知っているのはこれだけ。 お父さんが本堂へ向かうと、犬猫や鳥、鼠、狐、狸、馬、牛が頭に火の点いた蝋燭を 頭に立てて、びっしりと本堂を埋めつくしていた。 これは、お経を唱えてくれということだと思い、一心に読経した。 すると途中で、気配がスーッと昇っていくのがわかり、成仏してくれたと思ったとのこと。 『人間だけでなく、動物たちを鎮めるのも仏の道なんや』 お父さんは、そう言ったそうです。 |
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現代百物語 新耳袋 第五夜 木原浩勝 中山市朗 「ブラックリスト」 不動産屋で働く人の話。 時々、ある資料に目を通すという。 お客がすぐに出て行ってしまう物件、キズのある物件等が一覧になっている 社内資料。 通称『ブラックリスト』 状態と共に原因も記入されている。 中には『夜、となりの病院の霊安室がうるさい』というものがあるという・・・ 「ひとこと」 ある男子大学生の体験。 もうすぐ卒業だというのに就職先が決まらない。 決まらないと焦っていたら、今度は卒業できるかどうかということになってきた。 悩み症の彼は悩んだが、悩んで解決するわけもなく・・・・ どうにでもなれ~という気持ちから 『あ~、死んでしまいたい』と一人暮らしのアパートの一室でつぶやいた・・・ すると、天井から 『じゃあ、いっしょに』・・・・女性の声だったそう・・・・ |
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現代百物語 新耳袋 第四夜 木原浩勝 中山市朗 「山小屋の客」 ある男性が山のガイドを始めて間もない頃の話。 ある冬の登山のガイドをしていた時のこと。 山小屋に6人のパーティが3組泊まった。 外は雪。 しかし、吹雪とまでは行かない雪で明朝には止むだろうと話していた。 夜の9時頃、当然ながら山小屋の外は暗黒の世界。 風の音だけが鳴り響く・・・。 すると『ザク、ザク、ザク』という足音が聞こえてきた。 『誰か上がって来ましたね』 足音が山小屋の入り口前で止まると、外側の戸を開ける音がした。 そして、内側の戸の前まで足音が聞こえると、今度は体の雪を払う音がした。 山小屋の戸は室温を逃がさないために二重構造になっており、外側の戸を開けて 内側の戸まで進み、内側の戸を開けると室内に入れる仕組みになっている。 内側の戸付近にいた人が内側の戸を開けた・・・・ しかし、そこには誰もいない。 「確かに音がしましたよね」と話をしていると また「ザク、ザク、ザク」という足音が外から聞こえて来た。 そして、先ほどと同じように山小屋の外側の戸の前で足音が止まると 戸を開ける音、内側の戸までの足音に続き、体の雪を払う音・・・・ 今度こそ人がいるだろうと内側の戸を開けると、誰もいない。 気味が悪いと騒ぎ始めると、同行していたベテランガイドの男性が言った。 『こんな時間にやって来るのは人じゃないんだよ』 |
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現代百物語 新耳袋 第三夜 木原浩勝 中山市朗 「先祖の声」 男性の体験。 ある占い師にみてもらっていると 『あなた、ご先祖の墓参りに全く行ってないでしょ』と言われてドキっとした。 そこで、30年ぶりくらいとなる墓参りに行くことにした。 妻と二人の子供を連れて、霊園に到着。 地図を見ながら、ご先祖の墓を探すがわからない・・・ 挙句の果ては、霊園の中で道に迷ってしまった・・・・。 『一体、うちの墓はどこにあるのだろうね』と奥さんと話をし始めると (コッチダヨ)と背後から聞こえた。 振り返ると、そこがご先祖の墓だった 「ばあさんが来る」 ある男性の親戚に、横暴な老人がいた。 そして、ある時、その老人の奥さんが亡くなった。 老人は、何かと奥さんに暴力をふるっていた人だった。 奥さんへの同情の言葉はあっても、ひとりになった老人へは自業自得の思いが皆に あった。 ある日、横暴なはずの老人が、家に来て頭を下げた。 『あなたの家にしばらく泊めてくれ。または、わしの家にしばらく泊まってくれ』 事情を尋ねると、毎夜、毎夜、死んだおばあさんが出てきて、体のあちこちを 一晩中、手で、ぺちゃ、ぺちゃ、と叩いているとのこと。 『一晩だけでもええから』と頭を畳にこすりつけるように頭を下げるので、無下に 断るわけにもいかず、一晩だけ老人の家に泊まることにした。 その夜、老人の隣に布団を敷いて寝た。 深夜、嫌な臭いと、老人の声で目覚めた。 『ううう~、ううう~、やめろ~、たたくな~』 見ると、老人は布団を跳ね除け、その上に座り込んでいる。 そして『ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ』という音がする度に、老人が腕を振り回して 見えない何かをふり払っているように見えた。 『ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ』という音はひっきりなしに続いていたという。 |
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現代百物語 新耳袋 第二夜 木原浩勝 中山市朗 「閻魔大王」 ある方の祖父が亡くなった通夜の席で、祖母が明かした不思議な話。 ある大晦日の夜、祖母と叔母(祖父と祖母の娘)の2人で年越そばを食べに 近くのそば屋へ行った。 ところが、そばを一口食べただけで『気持ちが悪い』と叔母が吐いた。 急いで自宅に連れて帰り、ベッドに寝かせた。 しばらくすると、叔母は意識を取り戻したが、ベッドに誰かが座っている。 声を掛けようとすると、ポンと飛んで叔母の腹の上に乗ってきた。 それは、よく見る閻魔大王にそっくりだった。 その閻魔大王は、地獄帳のような物を叔母の胸の上に置くと、すごい速度で ページを指でめくり始めた。 『お前は誰じゃ』と問われたので、叔母は名前を答えた。 すると、『お前は死ぬことになっておる』と言われ 『私は死にたくありません。どうか助けてください』とお願いするが 『だめじゃ』と閻魔大王に睨まれる。 私は死ぬんだ・・・・と覚悟してお経を唱えだした・・・ そこへ祖父が部屋に入ってきて、仏壇の前に座ってお経を唱えだした。 『南無妙法蓮華経・・・・』 その瞬間、閻魔大王は闇に消えた。 祖父は『何か胸騒ぎがして、襖を開けたら娘の上に大きな物ノ怪がおる。 もう、必死でお題目を唱えたんじゃ』と言っていたそう。 『おじいさんが亡くなったので、もうこの話をしてよかろうと思う』と祖母が言ったとか。 「つかんだもの」 千葉の九十九里へキャンプへ行った男性の体験。 真夜中の海は気持ちがいいということになり、夜の海で遊んでいた。 しばらくすると、足が立つような浅瀬の下から何者かに足をグイと引っ張られた。 『あ』と声を上げて足をバタつかせるが、足首をしっかりとつかまれており 引き込まれるのは時間の問題だった。 それでも、助かりたい一心で今度は手を動かして、つかまる物を探した。 すると、硬いしっかりとした物に手が届いた。 その瞬間に足首をつかんでいた物から開放され、皆が待つ浜辺まで 誘導される形で帰ることが出来た。 浜から上がってきた彼を見て、皆が大声で言う。 『お前、何を持っているんだ!』 彼がつかんでいたものは、卒塔婆だった・・・ |
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現代百物語 新耳袋 第一夜 木原浩勝 中山市朗 「仏壇の間」 体験者が小学生の時の話で、時代は太平洋戦争の真っ只中。 ある夜、ふと目が覚めて『着替えて、仏間に行かなくちゃ』という気になった。 着替えて仏間へ行くと、家族全員が揃っていた。 とても信心深い家族だったので、仏壇に向かうことは日常的な行いだったのだが こんな夜に皆が仏壇の間に揃うのはめずらいい。 『なんだ、おまえたちもきたのか。では皆でお勤めをしよう』 仏間の襖を閉め、父の言葉で全員が念仏を唱え始めた。 念仏は朝まで続いた・・・ 『さあ、もう終わりにしよう』 襖を開けると、隣の部屋がない・・・ あたりは瓦礫の山と化し、煙が漂い、ぷすぷすと燃えている。 焼夷弾が落ちたのだ。 しかし、爆音も爆風も炎も襖1枚隔てただけの仏間には届かなかった。 家族全員が不思議な力によって命拾いしたという話。 「狐の化身」 北海道出身の男性が学生時代に体験した話。 仲間数人と肝試しをすることになった。 山へ向かっている1本道の途中にある神社へ指定した物を置いてくるというもの。 彼の順番になってスタート。 しばらく登っていくと、着物姿の女性が立っているのが見えた。 その横顔を見ると・・・綺麗だ。 そして、山からハイカーの男性が降りてきた。 男性は着物女性に声を掛ける 『すみません、駅へ行くにはどう行けばいいのでしょうか?』 『この道をまっすぐ行けば30分くらいで着きますが、今の時間では2時間ほど駅で 待つことになりますから、よろしければうちに寄って行きませんか?』 女性が誘っていると確信した彼は、そーっと2人の後をついていった。 ほどなく大きな家があり、中からは男女の嬌声が聞こえてくる。 障子の窓を見つけると、指で穴を開けた・・・・ 中では、二組の足が絡み合い、上下しながら移動していく。 『おい、おまえ何やってるんだ?』 彼の帰りが遅いので、仲間が様子を見に来た。 なんと、彼が覗いていたのは馬の尻の穴だった・・・・ 落語で同じような話があるが、こんな恥ずかしい体験を作ってまで人にしないとのこと。 |