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小原猛

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琉球奇譚
イチジャマの
飛び交う家


小原猛
琉球奇譚 イチジャマの飛び交う家 小原猛 竹書房怪談文庫
「七色の羽」
ある時、神谷家の庭に大きな水溜まりができた。真夏の日照りが続く、蒸し暑い日のことである。
雨が降った気配もなく、周囲は全く濡れていなかった。庭の一角だけがニメール四方にわたって池のように
なってしまっている。
『この水はどっから来ようったんかね』
神谷家のものたちはそんなことを呟きながら水溜りの周囲を見てみたが、水源となるようなものは見当たらず
ちょっと遠くにあった水道の蛇口も閉まったままだった。
ふとその時、水溜りに目をやると、なにやら七色に輝く美しい羽のようなものが横切るのが見えた。
一瞬だったので、水の上に張った油のせいかと思ったが、どうやら違う。
その羽は七色に輝きながら水溜まりの上を飛んでいた。
ところが水溜りの外側には、澄み切った青空しかない。鳥などどこにもいない。
それは白鳥ぐらいの大きな鳥の羽で、七色に輝きながら水面の上を何度も何度も横切ったという。
水溜りは三日後にはすっかりなくなり、地面はすっかり渇ききってしまった。

小原猛
琉球奇譚 キリキザ・ワイの怪 小原猛 竹書房文庫
「ウチカビ」
沖縄では旧盆になると、先祖を家にお迎えして、おもてなしをしてから再びグソー(あの世)に送り返す。
その行事の最後の締めとして、その場にいる人全員が玄関先で、黄土色の紙で出来たあの世のお金
『ウチカビ』を燃やす。
新城家では、幸春オジイが年の初めに亡くなったばかりだったので、家族一同が玄関先に集まって
ウチカビを燃やした。
『あんたはもう、生きている時は女を作ったり、隠し子を作ったり、詐欺罪で同級生から訴えられたり
はー、もう大変だったさ。あんたよ、うちのお墓に入れたのは運が良かったと思いなさいよ』
鶴子オバアが憎々しげに言い放った。
『お母さん、言い過ぎだってば』と娘のまきこさんが言った。
『言い過ぎなんてことはないよ。あいつは本当に酷い男だったさ。あんな奴にウチカビなんてあげる
必要はないんだよ。あいつにはスーパーの広告を札束の形に切ったものを燃やせばいいんだよ』
そう言って鶴子オバアは、幸春オジイに上げる予定だったウチカビを三分の一に減らして火を点けた。
『これでは三途の川を渡る船賃さえ払えないかもね』 まきこさんが言った。
『三途の川で溺れたらいいさー』 そう言って鶴子オバアは笑った。
その時だった。残りのウチカビを持っていた孫のさおりちゃんの目の前に右手が突如現れて、残りの
ウチカビを掴むと、そのまま空間に引っ込んで消えた。
その場にいた子供たち全員が泣き始めた。
『オジイ、あんたはそこまで強欲なのかい。もう二度と新城家に顔を出すんじゃないよ』
部屋に戻った大人たちは、生前に強欲だった人は死んでも強欲なんだと話をしたとのこと。

小原猛
沖縄の怖い話 弐 小原猛 TOブックス
「俺の骨」
戦後、すぐの話。
首里に住んでいた山里さんは、首里城に転がっていた骸骨を拾ってきては近くの廃屋に集めて
遊んでいた。
今では考えられないことだが、当時は日本兵、アメリカ兵の死体がゴロゴロ転がっていたという。
その日も骸骨を拾って、木造の廃屋の中に運び込もうとしていた。
だが、廃屋の中に人の気配がした。
そこには一人の日本兵がいた。
『何しているの?』 山里さんは思わずそう聞いた。
『俺の骨を探している』
そう答える日本兵の首から上が無かった。
怖くなった山里さんは一目散に逃げ帰った。
次の日、恐る恐る廃屋に立ち寄ってみると、何故か一個の骸骨だけが石垣の上に置かれていた。
それ以来、骸骨集めはやめたという。

小原猛
沖縄の怖い話 小原猛 TOブックス
「ヒラウコー」
山入端さんは、いわゆる墓の工事業者である。
コンクリート製の墓は、門中と呼ばれる親戚一同の骨を収容するものなのでかなり大きい。
そして墓には分厚いコンクリート製の蓋がついていて、納骨の時などはそれを外すように出来ている。
門中に屈強な男手がいれば彼らが蓋を外すのだが、いない場合は山入端さんが呼ばれる。
ある時、北谷の門中墓の蓋を外して欲しいという依頼があり、同僚といっしょに現場へ向かった。
蓋を開けると、ヒラウコーと呼ばれる線香の臭いが墓の中からしてきた。
おそるおそる中に入ると、ヒラウコーを焚いた後などない。
さらに進むと頻繁に肩をポンポンを叩かれる。
そこで、山入端さんが試しに自分が持ってきた新品のタバコを一箱取り出してから、こう言った。
『あのー、すみませんが私たち二人は門中の者じゃないんで、お墓の工事業者なんです。
これからお墓の中を掃除して、門中の方をお招きしますのでよろしくお願いします。これはどうぞ
受け取ってください』
タバコを一箱、墓の内部にお供えすると、それきり肩は叩かれなくなった。
納骨を終えると一人のオバアにこんなことを言われた。
『あんたたちよ、先祖がタバコありがとうと喜んでいるよ。いい仕事したねー。また何かあったら
あんたたちに頼むさ』
それ以来、墓の中で何かあった際は、必ずタバコを一箱お供えするそうだ。


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