工藤美代子 |
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怖い顔の話 工藤美代子 角川書店 「ノンフィクション作家だってお化けは怖い」を「怖い顔の話」へ改題して文庫化したもの。 文庫版のためのあとがき 今年になってから、私自身に起きた不思議な変化があった。 もうこの歳になって、そんなことがあるものかと今も半信半疑だ。 それは、急に他人の顔から以前より多くのものを読み取れるようになったのである。 二か月前に近所の歯医者へ行った。密かにクマさんと呼んでいる先生はとても親切で腕がいい。 以前、トラブルを抱えていると聞いていたがクマさんはすっきりした顔をしていて、肩のうしろから 真面目そうな女性の顔が覗いている。あまり化粧をしていないが綺麗な人だった。 『先生、もしかして最近、何か大きな変化がありました?』 治療が終わった後に尋ねると、クマさんはぎょっとした顔をして、私を見た。 『やっと前の件が片付いて、今ね、結婚の準備をしているんです』 『ああ、前の方はエキセントリックな人だったでしょう。でも、今度の方は理知的でおきれいな人』 『そうそう、工藤さんにお話ししてなかったですが、変な女に引っかかって・・・。でもなんで そんなことがわかるんですか? 僕しゃべってないですよね』 『もちろん何も伺ってないですが、先生の肩越しに素敵な女性のお顔がちらっと見えたんです』 ここでクマさんは『うわあー』と大きな声を上げた。 『家に帰ったら彼女に言いますよ。それ、喜ぶと思うな』と世にも幸せそうな顔をした。 そうしたら、翌日の昼過ぎに『ノンフィクション作家だってお化けは怖い』を担当した角川書店の 光森優子さんから電話があり、この本を文庫化するにあたって『怖い顔の話』に改題したいと 相談された。もちろん、大喜びで快諾した。 さらに幸運が重なって荒俣宏先生にお会いする機会があり、文庫版のために対談をお願い したら、気持ちよくお引き受け下さった。 こうして、山田太一先生との対談と、荒俣宏先生との対談が収録されるという贅沢な願いが 叶ったのだった。 |
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ノンフィクション作家だってお化けは怖い 工藤美代子 角川書店 「ヨシエさんの霊感」 昭和三十一年に私の母と父が離婚した。 この時、母と行動を共にしてくれたのがお手伝いのヨシエさんだ。 そして、私が六歳、初めて小学校に入学した途端、毎朝ひどい腹痛になやまされた。 往診に来てくれた医者にも原因がわからない。 ベッドで七転八倒にているとヨシエさんが傍らに来て、静かに私のお腹をさすり始めた。 翌日から私は小学校に通えるようになった。あれは何だったのか、いまだにわからない。 おそらく私はヨシエさんの特別な能力に初めて触れた日だったのだろう。 また、ある時は・・・ 『さっきね、玄関のチャイムが鳴ったので出て行ったら、きれいにお化粧をした隣の奥さんが にっこり笑って、何も言わずに帰ったんですよ』 ヨシエさんの言葉に私と母は顔を見合わせた。 お隣の奥さんは末期ガンで入院中のはずだからだ。 その晩、息子さんから奥さんが亡くなったという電話が来た。 |
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もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら 工藤美代子 メディアファクトリー 「三島由紀夫の首」 筆者が二十代後半だった頃、当時の夫に連れられて川端康成邸を訪ねた時こと。 川端康成は亡くなっていたが、秀子夫人が養女の夫とともに美しい日本家屋に暮らしていた。 三十分くらいでお暇するはずが夕飯を食べて行くことになった。 『あなた、ときどき不思議な体験をなさるかしら?』 秀子夫人が唐突に聞いて来た。 『はい』 と私は迷わず答えた。 秀子夫人も、度々あちらの世界の人たちを見てきた人だった。 三島由紀夫が切腹の上、介錯されて命を絶ったのが昭和45年。 その時の三島由紀夫の遺体を確認したのが川端康成だった。 秀子夫人曰く 三島が可哀相な姿で何度も訪ねて来たので、いつも法要をお願いしている高僧を呼んでお経を 上げてもらった。 三島の法要を終えると、高僧からこんな話を聞かされた。 三島由紀夫にはとんでもないものが憑いている。 なので、私ができたことは首を据えることだけだった。 この霊には、さわってはいけないものが憑いている。 |
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なぜノンフィクション作家はお化けが視えるのか 工藤美代子 中公文庫 「中国娘の掛け軸」 二、三年前の五月の連休に、母と姪を連れて北京へ行った際、一幅の掛け軸を買った。 それは、一人の少女が中国服を着て横向きに立っている構図の掛け軸だった。 ある日、和室の掛け軸を『中国娘の掛け軸』に替えた。 そして翌日、掛け軸を見に行くと床の間が水浸しになっていたのだ。 誰に聞いても原因がわからないため、出入りの水道屋に来てもらったが、原因不明。 掛け軸を替えたことに母親が気付いて・・・・ 『おや、掛け軸を替えたのね、なんだか陰気くさい娘の絵だね』 と言っているところに 姪がやってきた。 『おばちゃん、この絵だよ。やあね、おばちゃん気付かなかったの? これお化けの絵だよ』 『あら、美代子、そう言えばこの絵・・・・』 と言いかけて、母親が絶句する。 なんと、中国娘のの背景には滝の水がサーッと流れているのだ。今までちっとも 気付かなかったが、なるほど、娘は激しい水流の真中に浮かんでいる。 中国娘の掛け軸は、その日のうちにクルクル巻いて納戸に入れた。私は別に恐いとは 思わないが、また、床の間や畳がびしょ濡れになるのはかなわないのでしまってあるのだ。 |
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日々是怪談 工藤美代子 中公文庫 何気なく生活している中での 心霊体験を何気なく書き綴った感じ。 本当の話っていうのが伝わってきます |