サーチ:
キーワード:
Amazon.co.jp のロゴ
黒史郎

アンケートモニター登録

Amazon 楽天市場
異界怪談 闇憑

黒史郎

黒史郎
異界怪談 闇憑 黒史郎 竹書房怪談文庫
「お祭り」
福岡県の田舎に住む親戚から、和田さんが二十年以上前に聞いた話。
戦前のことだという。
椎茸の採れる四月前後、村の人たちが集まる日があった。
お祭りとかオコモリといっていたが祭囃子などもなく、家々で寿司やら握り飯を作って、それをヒノキの薄板で
作ったワリゴという箱に入れて氏神様のところへ持って行った。
それが済むと集会場に集まって、多めに拵えてあった寿司とにぎり飯と煮物なんかを並べ、皆で食べる。
ある年、氏神様に供えるほうではない、皆で食べるほうの握り飯だか寿司のなかに、指が入っていた。
子供の指で、そんなものが入った握り飯だか寿司が十二、三も出てきたものだから大騒ぎになった。
村の子供は一人もいなくなっていないので、どこの子供の指なのかもわからなかった。
異界怪談 暗狩

黒史郎

黒史郎
異界怪談 暗狩 黒史郎 竹書房怪談文庫
「鬼圧」
怜美さんが島根にある友人の実家へ泊まりに行った時のこと。
夕食をご馳走になっている時、友人の母親から 『経験ある?』 と訊ねられた。
怜美さんは質問の意図をちゃんと理解していた。
事前に友人から 『うちのマミー霊感あるんだよ』 と聞いていたのだ。
『ないです』 と怜美さんは答えた。
『じゃあ、話しておいた方がいいかもね』
友人の母親・咲江さんは、この家の立地の話をし出した。
近くには古い葬祭場があり、まわりには三軒の民家があり、そのうちの一軒が友人宅である。
『何が言いたいかというと、うちの入り口と葬祭場の入り口がまっすぐ繋がっていて、入り口は出口でもあるから
葬祭場から出てきたものが、この家にまっすぐ入って来ちゃうってこと』
仮通夜は故人と遺族が過ごす最後の夜であるが、住宅地が近いこともあって、遺族は自宅に帰ってしまう。
そのため、葬祭場に残された故人が寂しがってこの友人宅に来ることがあるのだそうだ。
『と言っても、すたすた歩いて入って来るわけじゃないの』
まず、家で飼っている犬が急に激しく吠えだす。
玄関ドアが開く音がする。
ドアが開くと気圧で一瞬カーテンが膨らむ。
そういうことが起き出したら、入ってきていうのだという。
怜美さんはおそるおそる訊ねた。
『それって・・・何か悪いことが起きたり、変な物を見ちゃったりとかは・・・・』
ないない、と咲江さんは笑いながら手を振る。
『なにかあったら、ここに住んでないから』
すると、友人宅のコーギーが急にバフッバフッと吠え出した。
玄関の方からガチャッとドアの開く音がする。
室内をぬるい空気が流れていき、怜美さんの肌を舐めていく。
『えっ? なに? なにこれ?』
咲江さんは 『ほらね』 という顔をしていた。

黒史郎

黒史郎
異界怪談 底無 黒史郎 竹書房文庫
「にけつ」
八城さんはバイト帰りの夜道で 『おう』 と声を掛けられた。
『あ、どうも、こんばんは』
地元の不良グループに属している先輩だ。腕っぷしは強いが暴力沙汰を好まず、性格も
優しくて面白いので後輩からは慕われている人だった。
この時、先輩は錆びた自転車に乗っており、後ろに小学生くらいの男の子を乗せていた。
『弟さんですか?』
『そやねん、こいつがな、そこの文房具店に行けって、うるさいねん』
『でも、もう閉まっているんじゃないですかね』
『でも、しゃーないねん』
その夜、先輩は文房具店付近の道路で軽自動車に撥ねられて亡くなった。
教えてくれたのは、先輩から家族同然に可愛がってもらっていた後輩だった。
弟の安否について尋ねてみたところ、『え?』という顔をする。
『弟さん、まだ小学生だろ? どうだったか心配でさ』
『いや、死んじゃいましたよ』
・・・・ああ、そうだったのか・・・・ぎゅっと胸が痛くなった。
『でも、けっこう前の話ですよ』
『・・・前?』
『ええ。四、五年前ですよ。交通事故で』
え、じゃあ、あの子は・・・・あの晩に先輩が後ろに乗せていたのは誰なのだろう。

黒史郎

黒史郎
異界怪談 暗渠 黒史郎 竹書房文庫
「白髪」
ある夏の晩。
菜苗さんが眠っていると、『えーん、えーん』 と子供の泣く声が聞こえてきた。
見ると部屋のドアが開いていて、とば口に子供の影が立っている。
菜苗さんが目覚めたのがわかったのか、『ママ、ママ』 と呼び始めた。
『なに? そこでなにしているの?』 とたずねた。
『おばあちゃん、きた』
そういうと足元に何かを置いて、パタパタと走り去ってしまった。
部屋のあかりを点けると、先ほど子供が立っていた位置に白髪が束で落ちている。
隣で寝ていた夫を揺り起こし、今あったことを伝えた。
夫婦に子どもはいない。
白髪がなにを意味するのか、わからないという。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 漆黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「まきう」
鹿塩さんが自宅でテレビゲームをやっていると、急にザァァァァッときた。
窓の向こうの景色が、あっという間に白く煙った。
『すげぇ雨だなぁ』
呑気に眺めていたが、洗濯物を外に干していたことを思い出し、慌ててベランダへ出た。
バケツをひっくり返したような大粒の雨が横殴りに吹きつける。
『痛ぁ~!』
雨が熱かった。
熱いを通り越して痛かった。
雨の当たったところが焼けるような痛みが走る。
瞬間的に 『酸性雨』 という言葉が脳裏に走り、死に物狂いで部屋の中へ転がり込んだ。
雨はすぐに止んだ。
洗濯物は無事、濡れずに済んだ。ベランダも鹿塩さんも濡れていなかった。
雨の痕跡が全くない。
ただ、シャツの肩の部分に虫食いのような穴がいくつも開いていた。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 魔黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「らいおんがいる」
十二年前のことは、まだ亜美さんの中で不気味な靄として残っているという。
年長さんの息子が唐突に
『じいじの家にライオンがいる』 と言ってきたことがあった。
じいじとは、新潟に住む亜美さんの義父のことで、息子はまだ二回しか行ったことがない。
『じいじはライオンとなにしているの?』
『じいじ、食べられちゃった』
『え?食べられちゃったの』
その日の午後、息子を迎えに行こうと準備していた時に電話があった。
義父の家が火事になり、家は全焼、義父だけが亡くなった。

ひと月が過ぎ、やや落ち着きをとりもどした頃のこと。
幼稚園の先生から、二か月前に息子が描いたという絵を返された。
しばらく玄関に展示されていたので、返すのが遅れたのだそうだ。
そこには、ライオンと、眼鏡をかけて灰色の服を着た人が描かれている。
ひと目で灰色の人は義父だとわかった。
ライオンは、グラデーションの鮮やかな炎のようなタテガミだったという。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 闇黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「鑿と盃」
昨年の春頃から花野さんの住むマンションの部屋に二人の幽霊が現れている。
一人はアイヌの民族衣装のようなものを着た高齢の男で、手には鑿と木槌を持っている。
鑿を構え、木槌を振り上げ、何かを彫るような所作をするが、音はなく、彫っているものは見えない。
それと向かい合う形で、凛とした居住まいの白装束の髪の長い男が現れる。
雰囲気から年齢は二十代くらいで、浮き出るように鮮やかな赤色の小さな盃を持っており
それを勢いよくクイッと呷る。
二人は同時に現れ、各々のやる事を黙々と繰り返すだけで、互いに目も合わせない。
おそらく、花野さんにも関心を持っていない。
そのような状況なので今のところはこれといった害はないという。
出始めの頃はすぐに引っ越したいと思ったが、何度も見ているうちに少しも怖いと思わなくなった。
ただ、これが現れると落ち着いて眠ることができず、二人とも一時間は同じことをやり続けるので
その点は少し困っているのだそうだ。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「できもの」
『これ見てよ、最悪なんだけど・・・』
呉君がアルバイトから帰ると、同棲中の彼女が顔を近づけてきた。
聞けば、目頭の横に土留色の粒が出来ていると言う。
『ねえ、こんなの前からあった? けっこう前からあった?』
そう何度も聞かれるが、正直にわからないと答える。
下手にいじると良くないからと、皮膚科を受診することを勧める・・・・
そんな夢を見て、目が覚めた。
夢の内容は現実とは程遠い、彼女もいないし、同棲何て、ほんとの夢。
しかし、彼の眠る布団の後ろには、もう一人の存在を感じる。
触れ合うほどの近さに顔があるようだが、吐息は聞こえない。
『皮膚科行った?』 思わず口に出して聞いてみた。
部屋の中の蛍光灯が勝手に点灯し、視野が一気に広がった。
おののきながら、後ろを覗いてみたが夢の彼女はいなかった。
その代わり、テレビに女の白い顔が映り込んできた。
『夢の彼女の顔ではない』
怖くなった彼は、携帯電話と財布を持って部屋を飛び出た。
部屋を出る間際に何か聞こえたが、何を言っているのか確かめる気にはならなかった。

黒史郎

黒史郎
実話蒐録集 暗黒怪談 黒史郎 竹書房文庫
「運動部の秘め事」
夏目さんが高校教師だった二十年以上前の話である。
当時、運動部の部室は、あらゆる校則違反の温床となっていた。
顧問の教師が部室に一切顔を出さない、それをいいことに好き放題していたのである。
教師の多くが風紀の爛れをわかっていたが、面倒という気持ちが先立ち、見て見ぬふりで放置していると
いう状態だった。
夏目さんは、こういう教師の怠慢が許せなかった。
自分が顧問を務めているバレーボール部は、月に一度、抜き打ちチェックをしていた。
いきなり鞄を開けさせる場合もあるし、練習中に無人の部室に入り、違和感がないかを確認することも
あった。煙草の臭いは誤魔化せないという。また、不自然な香水の匂いも、煙草の臭いを消すための
ものだという疑念を抱くという。
そんなある日、部室の臭いに問題がないと思った・・・・その後に・・・におう・・・精液のにおいだ。
その先にはスポーツバッグがあり、もごもごと動いている。
精液のにおいが漂うスポーツバッグからは赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
部員全員を部室に連れていき、目の前でスポーツバッグを開けさせたが、泣き声を発するこうな物は
なかった。
それ以来、風紀にうるさく言わなくなったが、「避妊だけはしっかりしろ」と忠告していたそう。

黒史郎

黒史郎
FKB ふたり怪談 伍 黒史郎 黒木あるじ 竹書房文庫
「沈黙の龍」 黒史郎
『絵に描いたような江戸っ子でした』
大島さんの祖父は、破天荒で口が悪く、いつも誰かとケンカしているイメージがあったという。
好きなものは祭りと朝風呂とするめ。
祭りになると誰よりも目立ちたがり、上着を脱いで裸になる。
その背中にある昇り龍の刺青は、祖父唯一の自慢だった。
そんな元気な祖父が、ある日突然に亡くなった。

四十九日が過ぎて落ち着くと、家がやけに静かに感じる。
『ああ、もうおじいちゃんはいないんだ』と実感した。
部屋でひとり遺品の整理をしていると、涙で曇る視界の隅に見慣れた背中がある。
『おじいちゃん?』
おじいちゃんのことだから、自分が死んだことに気付いていないんだ。
背中には、自慢の昇り龍がない・・・・
祖父は堅気になったのだな・・・・そう思った。

黒史郎

黒史郎
FKB 黒塗怪談 笑う裂傷女 黒史郎 竹書房文庫
「いたずら」
『キャッ、キィィーって、最近は猿なんだよね』
今年、還暦を迎える式部さんは ”この手のもの”の悪戯が珍しくないという。
昨日、猿の鳴き声のようなものを聞いた時も『またか』と思ったが、聞こえた場所が
寝室からだったので妻の仏壇が心配になり向かった。
寝室の襖を開けた。
カタカタという音が仏壇の方から聞こえてくる。
仏壇の扉を開けると、音は更に共鳴した。
妻の遺影が、彫りの深い見知らぬ男性の顔に変わっている。
遺影がパタンと倒れる。
遺影を起こすと妻の顔に戻っていた。
『まったく、何がしたいのやら・・・』
呆れて部屋を出る式部さんを呼び止めるように、キャッキャッキャッと猿の鳴き声が
聞こえた。
それからも度々、いたずらをされる。
『寂しい一人暮らしだから歓迎したいが、何者かが知りたいんだ。妻でないことは確か』


戻る