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丸山政也

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丸山政也

丸山政也
エモ怖 丸山政也 松村進吉 鳴崎朝寝 竹書房怪談文庫
「おんぶ」 丸山政也
八十代の女性Nさんの話である。
七十年ほど前のこと、Nさんがお使いに出た時の帰りに町の目抜き通りを歩いていると
近所の小さな男の子が泣きながら蹲っていた。
どうしたのかと思ってわけを尋ねると、お腹が痛くて歩けないという。
心配なのでNさんは腰をかがめて男の子をおんぶした。その子の両親の元へ送り届けて
あげようと思ったのである。
二百メートルほど歩いた頃、話しかけても返答がないので、気になって首を後ろに向けて
みると、どうしたことか、おんぶしている感覚はあるのに男の子の姿がない。
いったいどうなっているのか、あの子はどこへ行ってしまったのか、必死に周囲を探すが
見当たらない。
不思議なのは、背負っているぬくもりがまだはっきりと背中に残っていることだった。
その足で男の子の家に行ってみると、子どもの母親が出てきて
『息子が今日、腸チフスで死にました』 泣きはらした顔でそういった。
驚きのあまり家を訪れた事情も話せず、Nさんは帰宅したそうである。
その日以降、絶えず男の子をおんぶしている感覚があったが、結婚して子どもを授かると
それもなくなったという。

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怪談五色 破戒 丸山政也 他 竹書房文庫
「砂場」 丸山政也
Cさんは中学生のとき、修学旅行先の宿で友達と怪談話で盛り上がった。
その夜、幼い頃よく遊んだ公園の夢を見た。
陽が落ちて、薄暗い砂場の前にひとり佇んでいる。
ただそれだけなのだが、目覚めが悪い。
寝る前に怪談話などしたせいかと思っていた。
その日、自宅に帰ると、仲の良かった大学生の従兄弟がくだんの公園のトイレで首を吊ったことを知った。
砂場のほうを見つめるように揺れており、両眼の充血が凄まじかったという。

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恐怖実話 奇想怪談 丸山政也 竹書房文庫
「水たまり」
長く認知症を患っていた祖母が亡くなり、Jさんは通夜のため久方ぶりに父方の実家を訪れた。
煙草を吸おうと庭先に出ると、小さな水たまりに足を突っ込み、買ったばかりの革靴を汚してしまった。
ここのところ何日も雨が降っていなかったので、誰かがこの場所に水を捨てたのに違いない。
翌日も煙草を吸いに庭に出ると、再び水たまりに足を突っ込んでしまった。
昨日と同じ場所である。
前日のは、とっくに干上がっているはずなので、また今日になって誰かが水を捨てたのだろうか。
ちょうどその時、従兄弟が玄関から顔を出したので、水たまりのことを告げると
『ああ、祖母ちゃんボケとったでさ、よくそこんとこで尻出して小便しとったわ。
そうか、まだおるんやなぁ』
そう言われたという。

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奇譚 百物語 鳥葬 丸山政也 竹書房怪談文庫
「シュークリーム」
主婦のN子さんの話である。
十年ほど前のある日、以前の職場の同僚が家に遊びに来たという。
手土産を渡されたが、見ると最近駅前にできたケーキ店の箱だった。
礼を言って開けてみると、美味しそうなパイ生地のシュークリームがぎっしり入っていた。
一つずつケーキ皿に取りだし、コーヒーを淹れて、昔のことを色々話しながら食べた。
二時間ほどいて同僚は帰っていったが、しばらくすると部活を終えた高校生の息子が帰ってきた。
おなかがへったといって冷蔵庫を開けると
『あ、これ駅前のケーキ屋のだよね。食べてもいいの?』
夕飯前なので、ふとつだけとN子さんは答えた。
箱を開けた息子が
『なにこれ、こんなの食べられないよ』
箱の中を見ると、残りのシュークリーム全てが手で握り潰したようにペシャンコになっていて
中のクリームが外に出ていた。
そんなはずはない。どうしたら、こんなふうになるのか・・・・。
すると、その日の夜、昼間遊びに来た同僚の夫から電話があった。
妻が帰宅途中に交通事故に遭い、つい先ほど病院で亡くなったと告げられたそうである。

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奇譚 百物語 獄門 丸山政也 竹書房文庫
「走り高跳び」
Uさんは高校生の時、陸上部に所属していたが、グラウンドに走り高跳びのスタンドを設置すると
突然、見知らぬ男子生徒がそこに向けて走り出し、背面跳びでジャンプしたまま姿が消えてしまう
という現象がたびたび目撃されていたそうである。
男子生徒は緑色のTシャツを着ているそうだが、背中には聞いたこともない学校の名前がプリント
されていたという。

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奇譚 百物語 死海 丸山政也 竹書房文庫
「プール」
Nさんが中学生の時、水泳の授業中に潜水で泳いでいると、自分のすぐ真下に白髪の老人が
眼を開けて仰向けに横たわっている。
驚きのあまりプールから飛び出したが、泳いでいたのは底すれすれ深さだったという。

後に、二十五年ほど前に同じ町内に住む高齢の男性が夜中にプールへ飛び込んで溺死した
出来事があったのを知った。
それは、今のプールが作られる前のことだったという。

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奇譚 百物語 拾骨 丸山政也 竹書房文庫
「ダム湖」
三十年ほど前、ある土木会社の社長がダム建設現場で亡くなったという。
ダム湖に沈む予定の古い墓地の前で、地面に顔を突っ伏して死んでいたそうである。
心筋梗塞だった。
社長自らが現場に赴くことはなかったので、社員は皆不思議に思ったが、それ以上に不可解だったのは
発見されるまでの丸二日間、いなくなったことに誰も気づかなかったことだ。
その後の五年の間に、社長の妻が病死、長男が自殺、次男が交通事故死で会社も潰れたとのこと。

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実話怪談 奇譚 百物語 丸山政也 竹書房文庫
「作家の死」
友人C君が信州・白馬の旅館に泊まったときのこと。
夜中に寝ていると、突然金縛りに遭った。どうやっても体が動かない。
それでも瞼だけは開けられた。周囲を見廻すと、文机にうつ伏せになっている人がいる。
男だ。
どうやら寝ているようである。丸くなった背中が見えるだけで、顔は見えない。
畳の上には、くしゃくしゃになった紙のようなものが散乱している。
なんだろう、これは・・・・・
そんなことを思いながらもC君は再び眠ってしまった。
翌朝起きると、畳の上に紙のようなものはない。もちろん、文机もなければ男もいない。
仲居に事情を話すと、番頭がやってきた。
はっきりと言わないが、過去に何かあったような素振りだった。
更に執拗に訊ねると・・・
以前、その部屋の宿泊客で自殺した者がいたという。ただし、部屋で死んだのではなかった。
近くの断崖から飛び降りたそうである。たしかに男は作家だったが、無名な詩人だったという。

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怪談実話 死神は招くよ 丸山政也 メディアファクトリー
「犬小屋」
Cさんの子供の頃、モモという雑種犬を飼っていたという。
紀州犬と柴犬の掛け合わせだったが、綺麗な白色をしていた。
友達の家からモモを貰ってきたとき、父親が大変に怒ったそうだ。
しかし、文句を言いながらも日曜大工で立派な檻と、その中に犬小屋を作ってくれた。
Cさんの幼い記憶は常にモモといっしょだった。
そんなモモが、ある日から元気がなくなり、最後は家族の見守る中で逝った。
動物病院で診察を行けた時には手遅れ状態のフェラリアだった。
父親が庭の隅に大きな穴を掘り、モモを埋葬した。
その日の深夜、隣の両親の部屋から窓を開ける音がしたと思ったら母親が部屋に
入ってきた。
『見て!犬小屋にモモが!』
布団を蹴って、両親の部屋に行く。その真下に犬小屋がある。
窓から下を見ると、檻の中に白いものが動いている。
大きさも、動き方もモモにしか見えない。元気な時の姿だった。
Cさんの横には父親が立っている。
泣いていた。
モモが逝く時も静かに見守っていた父が、埋めるための穴を黙々と掘っていた父が
肩を震わせて涙を流している。
父親が泣いたのを見たのは、後にも先にもその1回だけだという。


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