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真白圭

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暗黒百物語 骸 真白圭 竹書房文庫
「返礼」
土木関連の会社を経営している加納さんが大学生の時の話。
化石の発掘に興味のあった加納さんは、夏休みを利用して、同学部の友人ふたりと北海道の廃坑と
なった石炭採掘場を訪れた。
目的はアンモナイトの化石で、夏場の四日間、採掘場の近場の河原にテントを張ったのだそうだ。
二日目の夕方、採掘場から戻ると、食材を埋めておいた場所が滅茶苦茶に掘り返されていた。
地面に残された痕跡は、幅の広い三角形の足跡で、先端に三つの爪跡が地面に深く残っていたそうだ。
その爪と爪の間には水掻きのような被膜の跡が薄っすらとあった。
調べると、足跡の主は川岸から二本の足でテントに近づき、腕を使って地面を掘り返した後
まっすぐに川へ引き返したようだった。
『これって、河童だよな?』 仲間の一人が呟いた。
その翌日、加納さんたちは 『ニッポニテス』 という名前のとても貴重なアンモナイトの化石を
発見することができた。四日間という期間からすると、とても幸運なことなのだそうだ。
後に、その化石は国立科学博物館へ寄贈され、今でも大切に保管されている。

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実話怪事記 狂い首 真白圭 竹書房文庫
「土下座」
数年前、岡本さんが父親を乗せて、車を運転していたときのこと。
父親と他愛のない会話を交わしながら、夕方の道路を飛ばしていたという。
すると、ヘッドライトの明かりの中に何かが映った。
それは、ちょこんと正座した和服姿の老婆のように見えた・・・・
が、そこは車道の真ん中である。
・・・・えっ?
一瞬、思考が停止したが、慌ててブレーキを踏み込み、ハンドルを対向車線側に切った。
老婆は車体の下に吸い込まれる瞬間、両手をつき、深々と頭を下げた。
なぜか、車体には衝撃がなかった。
何かを引きずる振動も、乗り上げた感触もない。
人を轢いたという感覚がまったくなかったのである。
あれは見間違いではなかったか、と記憶を巡らせていると・・・・
『あのババア、どこ行きやがった? 車道で土下座なんかしやがって!』
と言いながら、父親が車外へ飛び出して行った。
結局、何も見つからなかったという。

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実話怪事記 穢れ家 真白圭 竹書房文庫
「股壺」
新崎さんの家には変わった(習わし)がある。
三親等以内の親族が亡くなると、遺族はその遺体を必ず跨がなくてはならないのだ。
それは老若男女問わず、一族の者に義務付けらっれた(決まりごと)なのだという。
『前にですね、急な仕事が入って葬式に出られなかった親戚がいたんです。そしたらその人、火葬の当日に
あっさり死んでしまって・・・・それ以来、うちの家系の葬式って出席率が百パーセントなんですよ』
以前に一度だけ、海外旅行中に亡くなった親戚の子がいた。
その国の衛生法に触れるため、遺体を出国させる許可が下りなかった。
やむなく両親は、遺体を現地で焼き、骨にして帰国させたのだという。
『でも、葬式はやってないから・・・・親戚一同がその骨壺を跨いだんですよ』
葬式さえ行わなければ、遺体を跨がなくても障りはないらしい。
この(習わし)が、いつの時代に、どんな理由でできたのか、知るものはいない。

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実話怪事記 腐れ魂 真白圭 竹書房文庫
「定時巡回」
都内で交番勤務に就いているFさんは、最近あることに気づいた。
彼が毎晩、巡回で空けている間に、無人の交番を訊ねてくる老婆がいるらしいのだ。
と言うのも、彼が詰める交番では警官の不在時も出入口の施錠は行わず、その代わり室内を
監視カメラで録画している。
その映像を確認すると、毎晩決まった時刻に老婆が<ひょい>と、入り口から顔を覗かせる。
連日、この時間帯にしか来ないのも何かの事情があってのことかもしれない。
そう考えた彼は、ある晩、普段より早めに巡回を終わらせることにした。
そして、入り口を開けたまま、件の老婆が来るのを待った。
しかし、その晩に限って、いつまで経っても老婆は現れなかった。
念のため録画映像を確認してみると・・・・その晩も同じ時刻に老婆の姿があった。
だが、映像の中の自分は、老婆に全く気付いていない。
老婆が目の前で、Fさんの頭の上から爪先までを睨め回しているにもかかわらず・・・・。
それ以来、巡回の時刻を変えることはなかった。
老婆は今も監視カメラに映り続けている。

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生贄怪談 真白圭 竹書房文庫
「機外カメラ」
出張帰りの飛行機内で、沖野さんがぼんやりと前席の背もたれに備え付けの液晶画面を
眺めていた時のこと。
ランディングの体勢に入ると映画が途中で止まり、液晶画面には機外カメラからのライブ
映像が流れ始める・・・・・はずだったが、何故か画面の片側半分に女性が映っていた。
俯いて前髪が顔を隠した、知らない女だった。
ふと、隣の席の液晶画面が目に入ったが、そちらの画面に女の姿はなかった。
怖くなり、思わず持っていた雑誌を液晶画面に押しつけた。
『お客様、まもなく着陸しますので・・・・』
キャビンアテンダントに注意されて雑誌を手元に戻すと、女の姿は消えていた。
飛行機は、何事もなく空港へ着陸した。

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怪談 四十九夜 荼毘 黒木あるじ編著 竹書房文庫
黒木あるじ 黒史郎 我妻俊樹 つくね乱蔵 神薫 真白圭 他
「おりん」 真白圭
都内在住の野中さんが、友人から御嶽山への山登りに誘われた時の話だ。
元々、彼の実家は長野にあり、両親が他界した後は弟夫婦が住み暮らしている。
前日に弟夫婦の世話になった野中さんは、翌朝七時に出発の準備を始めた。
御嶽山ロープウエイの乗り場まで自家用車で行き、そこで友人ふたりと落ち合う約束をしていた。
弟夫婦は既に出かけており、家を出る前に戸締りをするよう頼まれていた。
玄関で登山靴を履き、上がり框から立ち上がると・・・・
『チリーン』 仏壇のおりんの響である。だが、家の中には誰もいないはずだ。
泥棒か? と思い仏間を覗いたが、やはり誰もいない。
不安になり、家中を見て回ったが、誰かが立ち入った気配は感じなかった。
実家のことが気がかりではあったが、とにかく御嶽山へ向かおうと車に乗り込んだ。
が・・・・なぜか、何度キーを回しても一向にエンジンがかからない。
『でも、変だと思ったんだよ。車は新車で購入して、まだ一年も経っていない。大体、東京から
長野まで何の問題もなく運転できていた訳だから』
他に打つ手もなく、JAFを呼んで整備工場までレッカーしてもらうことにした。
だが、整備士に調べて貰ってもエンジンが動かない理由は判明しなかった。
『そんなことをしているうちに、いつの間にか正午を過ぎていてね。さすがにその時間じゃ
山登りは無理だからさ。友人に電話して、謝っておこうと思ったんだよ』
だが、何度掛けても友人の携帯電話が不通だったという。

平成二十六年九月二十七日 午前十一時五十二分  御嶽山は大噴火した。
後の調査で、火口付近にいた登山者ら五十八名の命を奪う、戦後最悪の火山被害となった。
野中さんの友人ふたりも、噴火の犠牲者名簿に名を連ねることとなった。
『付き合いの長い奴らだったから辛くてね。もしも、おりんが鳴ったあのときに、アイツらを
止めていればって・・・・そう思うと、悔しいんだよ』

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怪談実話コンテスト傑作選 痕跡 真白圭 オペラ沢かおり 富園ハルク ひびきはじめ 貫井輝
仙堂ルリコ 福丸緑丸 稲冨伸明 
メディア・ファクトリィ
「つたえたいこと」 真白圭
都内で小料理屋を営む恵子さん「視える人」から聞いた話。
ある日、常連客である外国人のKさんから相談を受けた。
『わたしの部屋、コドモが来ます。いつも困ってます』
彼の話によると、小学生くらいの男の子が部屋の中をニコニコしながら走り回り
『お兄ちゃん、△#□○よ』と言って消えるとのこと。
『△#□○』の部分は自分が聞いたことのない言葉で理解できないらしい。
一度、見に来てほしいという彼の切実な訴えに、次の休みの夜に行くことにした。
部屋に着くと、男の子の霊だけだと思っていたら、強い敵意を感じる女の霊がいた。
これまでに感じたことのない敵意に、思わず倒れそうになる体をなんとか部屋の外に
出すと 『無理無理、私には無理』 『引越しなさい』を連呼した。
その後、彼は日本語にも慣れ、幽霊の男の子が彼に伝えたかった言葉がわかるように
なったとのこと。
しかし、その前に幽霊マンションからは引っ越していた。
小学生の男の子の霊が彼に伝えたかったこととは
『お兄ちゃん、ここに居たら殺されるよ』


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