松村進吉
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怪談稼業 侵蝕 松村進吉 角川書店
「ただ見て帰るの件」
地元の建設業者の方から『お化けの話を知っているねえちゃん』と紹介いただいたEさん。
その四十代と思われるEさんの実家(山奥の集落)での話。
小学三、四年生の時のこと。
深夜、眠れないでいると、小さく煌めくものが見えた。
なんだろうと見に行くと、蝋燭を持った真っ黒な人影が仏間に入って行くのが見えた。
そして、開け放たれた仏間には小指ほどの蝋燭が並んでいると思いきや、それは
黒い人影が手に手に持っている蝋燭だった。

この話を取材するために、草刈りをするEさんを手伝うという名目で実家へと向かった。
お祖母さんが健在で挨拶されたが、Eさんも知らないはずの松村の名前を知っていた。
また、Eさんが黒い人影の話をお祖母さんに振っても返事がない。
しかし、松村には泊まっていけという。そして、わけのわからない単語と『待っちょる』・・・・
結局、仏間を見ることもなく帰路についた。
『これ以上首を突っ込んで、私は無事でいられるのだろうか・・・・』

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セメント怪談稼業 松村進吉 角川書店
「ある病院の件」
三十代の看護師、S野さんの体験。
彼女が今の仕事を始めて、まだ間もない頃。
彼女が担当グループに所属していたNさんという寝たきりのお婆さんが亡くなった。
Nさんに挨拶したい旨を先輩看護師に伝えると、私も一緒に行くと言われた。
そして主任看護師の元へ行くと、小声で事情を説明して許可を取ってくれた。
主任看護師は、S野さんに『丁度いいから、あなたも今のうちに見ておきなさい』
主任の言葉が何を指すものなのか、わからなかった。
Nさんとの対面、いつも通り眠っているようにも見えるが昨日とは違う肌の色。
S野さんは、その場で深々と頭を下げ、心の中でお別れの挨拶をした。
『S野、そのまま床を見て・・・・』
え?、とS野さんが瞼を開けて、そのまま床に視線を落とす。
『よく見て。ストレッチャーの周り』
携帯電話くらいの大きさの、白い曇り・・・
思わず、眉を顰める。それもひとつではなく、あちらこちらに、点々と列になって・・・・
裸足の子供の足跡。
『その病院で働いている人なら、みんな知っている話らしくて。いつかは知れること
だから、逆に早々に見せてしまって、必要以上に怖がらせないようにする方針だって』

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学生怪談 松村進吉 ハルキ・ホラー文庫
「立ってろ」

高校3年、西尾君の体験。
ある日の数学の小テストの最中、後方から彼の頭上を越えて 『ビュンッ』
と、1本の鉛筆が黒板の方向へ飛んで行った。
それは凄い勢いで回転しながら、一直線に教卓に命中。
教室中に 『バシンッ』 という乾いた音を響かせた。
『・・・・誰だ!』
教卓から立ち上がった教師と、運悪く1番最初に目を合わせてしまったのが
他ならぬ西尾君であった。
『・・・・お前か。お前の方から飛んできたな、西尾』
『いや。違います』
『違わないよ。もうテストはいいから、後ろに立ってろ』
『ええっ?』
『ったく、この馬鹿が・・・・。こんな大事な時期に・・・』
突き放すような口調に、これ以上の抗議は無駄と悟った。
クラスの連中は、呆れた様子だった。
西尾君は全く腑に落ちないまま、数歩後ろに下がった。
彼の席は最後列だった。

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猫怪談 松村進吉 黒木あるじ 我妻俊樹他 竹書房文庫
「ねこなで」 松村進吉
夜・・・・枕元で、飼い猫が喉を鳴らしている。
薄目を開けると、闇にも白い女の手が、柔らかな毛並みをゆっくりと撫でている。
爪の長い、見知らぬ手である。

ゴロゴロゴロ・・・・ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ。

翌朝、齢十三年になる長患いの三毛猫は安らかに息を引き取っていた。

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「超」怖い話ベストセレクション 奈落 松村進吉 竹書房文庫
「免許証」

昨日、交付されたばかりの乙野さんの運転免許証はゴールドである。
三センチ足らずの顔写真の中で澄まし顔の彼女。
その首にうっ血痕がある。
やや赤味がかった黒色の内出血。
向かって右端は、四本の細い筋に分かれている。
恐らく指の痕だと思われる。
ご存知の通り、運転免許証の写真は免許サンターで撮影される。
今、目の前にいる乙野さんの首に、うっ血痕のかけらもない。
心当たりは、ないという。

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「超」怖い話 丙 松村進吉 竹書房文庫
「逆上」
佐渡氏は今から二十年ほど前、当時の恋人と酷い別れ方をした。
『いやー、本当にもうちょっとで死ぬところだっただよ、俺』
別れる、別れないの怒鳴り合いの末、もうこのマンションに来ないように伝えたところ
彼女が急に静かになった。
そして、ソファーに座って泣き始めた。
喫煙者の佐渡氏は、ベランダへ出て煙草を吸い、灰皿へ吸殻を入れようとしたその時・・・
身体がその場でブワッーと五十センチほど持ち上がり、ベランダの手すりの外へ上半身が
飛び出した。
慌てて両手で手すりを掴み、十二階から転落死することから逃れた。
その後、警察を呼び、彼女は殺人未遂で逮捕された。
だが話は、女性の逮捕で終わらなかった。
裁判が始まった辺りから、コップが粉々に割れる、皿が粉々に割れる現象が二、三日
おきに連続して起きた。
そのような現象は女性の実刑が確定するまで、都合二十数回発生したという。
『・・・まったく、彼女が浮気したことで別れたのに、勝手なもんだよな』
「超」怖い話 辛

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「超」怖い話 辛(かのと) 松村進吉 竹書房怪談文庫
「魂追い」
工藤さんの田舎では人魂が非常に縁起の悪いものだと伝わっている。
これは大昔の話ではなく、今現在も警告として、言い伝えられているものだという。
当時の地元の若い衆は、何かにつけて寄り集まり、酒を飲んでは自慢話をしたり
小競り合いをしたりするのが日常であった。
彼女の大叔父である工藤氏も、呼ばれれば平日であろうが残業帰りであろうが
ホイホイと出向くのが当たり前の習慣だった。
そんなある日、いつものように誘いの電話があったのは、風呂と夕飯が済んだ午後七時。
支度をして、ぶらりと某氏の家に向かったのだが、夜の空気が騒めいているようで
どことなく落ち着かない。
やがて遠くにポッと某氏宅の灯が見えてきた。
それと同時に 『・・・・あっちだあっちだ!』 『ああー、消えた、いやまた出た』 と興奮した
若い衆の声も聞こえる。
工藤氏は咄嗟に走り出した。
『なんだなんだ、どうした!』
『おお、クッさん、アレ見てみろ!人魂が出たぞ』
樹々に覆われた深い谷の合間を、すう、すう、と蛍のような動きで浮遊する物体が見えた。
『ワイ、降りて行ってみるわ』 『おお、そんならワイも』
どやどやと、谷への道を走り出す者達。いっしょに行こうと当然誘われたが、こちらを誘うような
人魂の動きが気になったので行かなかった。
『・・・・あんなモンを追いかけたら、騙されて、谷に落とされてしまう。ワイは行かん。お前らもやめろ』
『なんじゃクッさん怖気づいたんか。そしたらワイらが捕まえてきてやるから、ここで待っとれ』
竿の長いタモを手に取り、都合三人ばかりが谷の中へ入って行った。
残った工藤氏ら数人は、上から彼らの声が遠のいていくのを眺めていた。

・・・・そして誰も帰って来なかった。
三人とも谷底の川に落ち、流されてしまったのである。
『・・・・大叔父は、その時のことをずっと悔やんでいましたね。引き留めればよかった、って』

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「超」怖い話 乙 松村進吉 竹書房文庫
「さまたげ」

ベテラン大工の鷲尾さんに伺った話。
平成になってすぐのこと、彼は田舎町で新築工事を請け負うことになった。
渡された図面を確認し仕事の段取を組んだ。
そして、着工前の地鎮祭に出席することにした。
当日は朝から猛烈な風が吹いていた。
四方に立てた細い竹は、今にも折れそうに揺れ、それらを繋ぐしめ縄は
ゴム紐のようにピョンピョンと上下に跳ねた。
綺麗に整えられた三角の斎砂が、上から上から渦を巻いて削り取られ
みるみる目減りしていく。
なんだか妙な具合だと思っていると、神主の祝詞を打ち消すように女の
甲高い声が聞こえて来た。
それを聞いた神主さんは、真っ青な顔になり・・・
『もう、続けられない』 と言って途中で儀式を中断して帰ってしまった。
鷲尾さんも即座に仕事を断り、逃げて来たとのこと。
その女の声が唱えていたのは般若心経、遥か頭上の空中から響いていた。

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「超」怖い話Ωオメガ 松村進吉 竹書房文庫
「挨拶」
つい昨年のこと。
猪田氏が車で営業先を回っていると、奥さんから携帯に電話があった。
『今、うちに≪ニシオさん≫という方がいらしていたんだけど、様子が変で・・』
少し考えてから、猪田氏はブレーキを踏んで路肩に車を停めた。
『イシオって、○△建材の西尾さんじゃ?』
『わからないわよ、名刺とかなかったから』
『その人がなんだって?』
『会社を辞めることになったんだけど、ご主人に大変お世話になったので
帰ったら宜しくお伝えくださいって。・・・でも変なの。顔色が真っ黒で
ずっと目を瞑っているよ、話している最中も。私もう、気味が悪くって』
『はあ・・・』とため息をついた。

その日のうちに、彼は郊外の西尾氏宅を訪れ、葬儀に参列できなかったことを
仏前で詫びたという。
奥さんには、今でも事の次第は打ち明けていない。
自分が死人と話したと知れば、卒倒しかねない・・・

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「超」怖い話Tタウ 松村進吉 竹書房文庫
「だるま」

暗い、帰り道。
住宅街を歩いていると、遠くの街灯の下に女の姿がある。
真上から照らされている光のせいで、服も顔もよくわからない。
こちらを向いたまま、何をするでもなく佇んでいる。
― 厭な感じだな、と思った途端。

スッー と女の頭だけが真横に移動して、右の闇に消えた・・・

スッー と首から膝までが真横に移動して、右の闇に消えた・・・

音はしない。
後には、膝から下だけの足がこちらを向いて立っている。

足が竦んで動けなくなる。

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「超」怖い話Xカイ 松村進吉 竹書房文庫
「ある別れ」

大島さんのお母さんが専門学生だった頃の話。
当時、彼女には社会人の彼氏がいた。
大きな会社に勤務していたが、ある日、他県へ異動になった。
若い二人にはショックだったが、毎日の長電話で穴を埋めていた。
そんなある日、彼に電話をすると数回の呼び出し音の後に電話が切れた。
また、電話する・・・・切れる・・・・そんなことを繰り返していると・・・・
『もしもし・・・』 突然、女の声が聞こえた。
受話器を取る音もないまま、女の声が聞こえたので受話器を置いてしまった。
次の日から長電話は再会したものの、女の影が気になってしかたがない。
思いつめた彼女は、土曜日の晩に彼のアパートを訪ねた。
彼の部屋のドアを開けると、部屋の中に女が座っていた・・・
女は座ったまま滑るように彼女に近づくと・・・
『か・・か・・・かえれ!』
浮気の疑いは晴れたが、それよりはるかに質が悪い。
それ以来、彼との仲はギクシャクして、ついに別れてしまったとのこと。
今でも思い出す度に寒気がするのは・・・
彼女が見た女の顔には目玉の代わりにぽっかりと開いた黒い穴がふたつ
あるだけだった。

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FKBふたり怪談 参 松村進吉 幽戸玄太 竹書房文庫
「それはそれ、これはこれ」  松村進吉

彼女が敵の正体を察したのは、初めてその存在に気付いてから、半年ばかり
過ぎた頃のことであった。
・・・・夫は不倫をしている・・・・
その不倫相手は図々しいことに、彼女たち夫婦と同居していた。
夫の寝室を数十分おきに覗いてみるのだが、こちらの動きを察するなり
滑るようにして夫のベッドの下へ隠れてしまう。
『な・・・頼むから、一回だけ俺と病院へ行こう。俺を信用してくれ』
『うるさい。私に近付かないで。私をどうかしたいんだったら、その前に
あの女をここに連れて来て』
『・・・だから、そんな女はいないんだよ。何回調べれば気が済むんだ』
『ケ!よく言うわよ。白々しい』
彼女は音を立てないように夫の部屋の前に移動すると、ドアを開け放つ。
『ほら見ろ、そこにいるじゃないか』と叫ぶ間に、相手はベッドと床の間の
5センチほどの隙間に逃げ込んでしまう。
怒号を上げた彼女は、自らも5センチの隙間に入ろうとのたうつ。
そんな錯乱を繰り返すうち、両手の指を脱臼するに至り、救急車で搬送。
『結果としてそれで、きちんと処置が受けられた。夫には今でも本当に
申し訳けなかったと思っています。』
あれ以来、不思議なものを見るようになってしまったとのこと。

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FKB異聞フラグメント 悪霊 松村進吉 竹書房文庫
「番」

愛川さんのお母さんの実家は、町から少し外れた田園地帯にある。
お祖母さんが一人で住んでいて、農家を営んでいる。
もう七十歳を超えているというが、大変お元気だという。
『いつもテキパキしていて。たまに訪ねて行くと、一緒に畑に行こうって』
愛川さんも自分専用の長靴、作業用エプロンを付けて、ついて行く。
その際、お祖母さんは必ず、出がけに玄関の方を振り返って
『ほな、留守番な!』 と声を張る。
すると----長い板張りの廊下の奥からパタパタパタパタパタパタ と何かが
駆けて来る。
音、だけである。
一度もその姿を見たことがないが、確かに何かが走って来るのだという。
『もう慣れました。小学校の時はちょっと怖かったかな』

二十年ほど前、幼い愛川さんがお祖母さんと一緒に畑から帰って来ると
少しだけ開いた玄関の前に、猿が----何やら赤い泡を吹いて死んでいた。
猿の首は百八十度反対を向いていたという。

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FKB異聞フラグメント 切断 松村進吉 竹書房文庫
「かけっこ」

午前4時頃・・・コンビニの帰り道。
公園で動き回る顔が薄っすらと見えた。
嬉しげな奇声を上げていたことから、子供かな?と思った。
しかし、子供だとしたら異常な時間帯である。
気味が悪いので、その場を早く通り過ぎようと早歩きになった。
ちょうど、もっとも公園に近づく場所で何気なく子供を見ると・・・
顔しか見えない子供が、遊具全ての存在を無視して通り抜けていた。

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「超」怖い話Tタウ 松村進吉 竹書房文庫
「無言」
美容師の女性の体験。
その日は、仕事を終えると彼のマンションへ向かった。
閉店後のミーティングが長引くと、お店に近い彼のマンションに泊まるのが常だった。
渡されている合鍵を使ってドアを開けると、女物のサンダルがあった。
一瞬、逆上して頭に血が上るのが解ったが、何かの事情があるに違いないと自分に
言い聞かせて落ち着きを取り戻した。
『ただいま~!』
いつもより大きな声で言うと、彼女は部屋の中へ入って行った。
部屋の中に彼の姿はなく、彼女と同年齢と思われる二十歳前後の見知らぬ女が
正座をしていた。
『ど、どちら様ですか?』
女は急に立ち上がると、あろうことか、そのまま床から30センチほど浮き上がった。
見上げる彼女の目には、首に巻きつけられたコードと、死体と化した女の姿が
首吊り自殺の映像となって飛び込んできた。
気絶した彼女は、部屋に戻ってきた彼氏によって起こされた。
タバコを買いに外出して、戻ったら彼女が倒れていたんでびっくりしたとのこと。
そして、今日の仏さんが彼女と同じくらいの年齢で可愛そうに思っていたところだと言う。
彼氏の職業は葬儀屋で、その日は首吊りで亡くなった看護師の葬儀だった。

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「超」怖い話Ρロー 松村進吉 竹書房文庫
「連れて帰る」

後輩の頼みを聞いたことで、自分の部屋に霊を招き入れてしまった男性。
どうしたら良いのかと考えてながら歩いていた時に見たものは、車に轢かれた
猫の親子だった。皆、死んでいると思ったら1匹だけ彼を見て威嚇し始めた。
『ウウウ、ウウウルルル』
彼は子猫を自分の部屋に連れて帰り、ホームセンターで粉ミルク等を買ってきた。
部屋にいる霊に悩まされていた彼だったが、子猫がいるだけで気が休まる思いだった。
ミルクを飲んで気持ちよく寝ていた子猫が起きだした。
風もないのにユラユラと揺れるカーテンに向かって
『ウウウ、ウウウルルル』と威嚇をはじめた。
するとカーテンの下の方から灰色の男の顔が現れた。
彼は、逃げなければと思うのだが体が動かない。
その間も子猫は灰色の顔を威嚇し続けた。
やがて、動かなかった体が動くようになると霊は消えていた。
その後、霊が部屋に出ることはなかった。
しかし、部屋に猫がいることを隣人より通報されて、猫を飼うなら出て行くように通告された。
長年、住んだ部屋だったが彼は引っ越した。
そして、ペット可の部屋に移り住んで、今では『ウルル』と名づけた子猫と同居している。

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「超」怖い話Ξクシー 松村進吉 竹書房文庫
「骨を拾う」

ある女性が、過去に5回、墓に落ちたという話。
そして、怪我はないが、必ず、骨を触ってしまうという・・・
割れた瓶に腕を突っ込んでしまったり、土に混ざったかけらを掴んでしまったり。
3回は実家の墓地で、1回は遠縁の親戚の墓、もう1回はご主人の実家の墓。
不注意と言えばそれまでだが、気づいた時には落ちているらしい。
骨を収集している業者の人が、驚いた顔をしながら助け起こしてくれる。
親戚たちは『またか』をいう顔をして『早く手を洗って来い』と言う・・・

ご主人が、ある霊能者に奥様の話をしたところ、笑いながら奥様に向かって
『それは全部、あなたを好きだった人や、あなたが産んだ人の骨ですよ。
それだけ、あなたはたくさんの人に好かれていたということです。前世、前々世で・・・・」

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「超」怖い話 甲 松村進吉 竹書房文庫
「穴で待つ」

数年前、千葉氏の父親が亡くなった時の話だという。
葬儀自体はつつがなく終り、四十九日も過ぎた。
これまで家に置いてあったお骨を、先祖代々の墓へ納めなければならない。
法要を済ませると、親戚らと墓へ向かった。
墓を洗い、水を替えて、花と線香を供えた。
次に墓の蓋を千葉氏の弟が開け、そこに陶器の骨壷を納めようとした。
その時、千葉氏と弟だけが墓の中にいる母親の顔を見ることになる。
千葉氏は驚く弟を押しのけると、素早く父親の骨壷で母親の顔を隠して
蓋を閉めた。
『・・・親父は母を、若い時からずっと苦労させてきて。丁度今の僕くらいの
年に、母は先に亡くなってしまったんです』
・・・・あれだけ苦しめたんだから、恨んでないとも言い切れないでしょうな、とも
言っていた。
どんな苦労をかけていたのかは、千葉氏が話したくないようだった。

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「超」怖い話 怪記 松村進吉 竹書房文庫
「ショベルヘッド」

バイク好きが集まる集会所みたいな場所があった。
仲間内では最年長で、バイクいじりに関しては自信があり
若い連中の指導したり、説教じみた話もするKさんの体験。
ある日、若い後輩が、ハーレーのビンテージモデルである
『ショベルヘッド』に乗ってやってきた。
『なんで、そんなバイクに乗っているんだ?』の問いに
『先輩に譲ってもらった』。
ふと、Kさんがショベルヘッドを見て大声で
『誰か、奴を止めろ』と言ったが、若い後輩は行ってしまった。
しばらくすると『ドーン』と大砲のような音。
数百メートル先でショベルヘッドが大破していた。
乗っていた彼は、木材を積んだトレーラーの隙間に挟まり
絶命していることは明らかだった。

この事故の前に、Kさんは何を見たのか・・・
若い彼が乗ってきた『ショベルヘッド』は、エンジンからプラグは
抜けているし、エンジンのボルトは絞まってないし・・・
全く動くはずのない死んだ『ショベルヘッド』だった。

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深澤夜

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深澤夜
恐怖箱 しおづけ手帖 松村進吉 深澤夜 竹書房文庫
「異聞フラグメント B」 松村進吉

毎朝5時ころにウォーキングをしている時のことだったという。
月に1~2度見かけるリーゼント頭のヤンキーが近づいてくる。
『おはよう』と声をかけるが、相手は黙ったまま・・・・
最近の若者はばか者か・・・などと思いながら遭えば声を掛けていた。
そんなある日、そのリーゼントのヤンキーがいつもと違う場所を走っていた。
『ん?』
なにか、おかしい・・・
そこに道はなく、海の上を走っていたという。
それから2年、リーゼントのヤンキーとすれ違うが、声はかけていないとのこと。


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