ムラシタ ショウイチ |
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FKB 怪幽録 笑う死体の話 ムラシタショウイチ 竹書房文庫 |
「幽霊の話」 初めて幽霊らしき物体を見たのは十二歳の頃だった。 友人の家から自転車で帰宅途中、対岸の土手に髪の長い女が立っていた。 黄昏時だったが、やけに女がはっきり見えた。 女は私を追いかけるように対岸の土手を、起立したままの姿勢で移動していた。 やがて土手が切れて国道に差し掛かると、対岸の女は、いつのまにか消えていた。 安堵の息をついたのもつかの間、自転車が追突されたような揺れ方をした。 驚いて振り向くと、対岸を移動していたはずの女が荷台をグイグイ押していた。 荷台を押す指には赤紫の斑点がいくつも浮かんでいた。 気が動転するとは、まさにこのことである。 私は、倒けつ転びつ、ほうほうの体で家まで逃げた。 お陰で、自転車はハンドルがおかしくなってしまった。 翌日、同級生から、あの川で数日前に男女が死んでいたのだと聞かされた。 心中という言葉を知らなかった身でも、あまりよくない死に方なのは理解していた。 それにしても、何故、女だけが化けて出て、男の姿がなかったのは今も謎のまま。 |