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内藤駆
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内藤駆
恐怖箱 夜泣怪談 内藤駆 竹書房文庫
「ツツジ」
数年前の春、OLの戸内さんが体験した話。
戸内さんの出勤途中にある大きなマンションには沢山のツツジが植えてあり、朱色の花が辺りを彩っていた。
子供の頃を思い出し花に触れていると、その中に小さな手が突き出ていた。
驚いた戸内さんが手を引っこめると、小さな手は消えていた。

仕事帰りの夕方、なんとなく気になってマンション前のツツジを見た。
また、花々の間から小さい手が出ていて、ゆっくりと グー と パー を繰り返している。
可愛らしく思い、自分の人差し指を小さな手に当ててみた。
小さな手はゆっくりと彼女の指を握った。
戸内さんが微笑んでいると、突然、植込みの中から別の大人の手が出てきて彼女の手首を強く掴んだ。
そして、そのまま思いきり引っ張られ、ツツジの中に上半身を突っ込む形になった。
植込みの中には、顔色の悪い痩せた女の顔があり
『すみません、私がやりました』
女は目を大きく見開き、まるで機械のような抑揚のない喋り方で言った。
戸内さんは叫び声を上げてその場から逃げると、二度とマンションに近づかなくなった。

内藤駆
​​ 現代怪談 地獄めぐり 内藤駆 西浦和也ほか 竹書房文庫
「手」 内藤駆
伊達さんはある夜、四歳になる息子の達樹君と二人でベッドで寝ていた。
奥さんは生まれたばかりの下の子と里帰りしていた。
なかなか寝ない達樹君に伊達さんはイライラしていた。
『達樹、早く寝ないとこのカーテンを開けるぞ。窓の外にはオバケがいるんだぞ』
伊達さんは、そう言って枕元にある窓のカーテンを開けるふりをした。
『ウソだ。オバケなんていないよ』
達樹君は強がって言ったが、窓の外に広がる闇の世界を見るだけでも怖いはずだ。
『よし、開けてやる』
伊達さんは怒って勢いよくカーテンを開けた。
窓には手のひらがふたつ張り付いていた。
伊達さんは呆然となった。
達樹君は大声で泣き出した。
窓越しに夜空を見ると、はるか上空に浮かぶ雲から恐ろしく長い腕が伸びて来ていて
伊達さんの家の窓に掌を押し付けていたのだ。
結局、その夜は近所の兄の家に親子共々泊めてもらうことになった。


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