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小田イ輔

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未成仏百物語

小田イ輔

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未成仏百物語 小田イ輔 他 竹書房文庫
「憶えていて」 小田イ輔
田舎のスナックに勤務する女性の体験。
ある日、見るからに死にそうな男性客の相手をすることになった。
男性は、もうすぐ癌で死ぬという・・・・、話を聞いて欲しかった・・・・
『死ぬのが怖い』 と何度も言っていたが、それより怖いのは・・・・
『自分の死後、誰も自分のことを憶えていないだろうことが怖い』 と言っていた。
そして 『だから憶えていて欲しい』  『自分がこうして今日、この店に来たことを憶えていて欲しい』
重い話だけど 『わかりました』 と言うしかなった。
話すだけ話すと、帰り際
『本当にありがとう』 と言って、めちゃくちゃ綺麗なお辞儀をしてくれた。

それから1年後、彼氏の家でテレビを見ていると、後ろで筋トレしていた彼が・・・・
『憶えてる?』 と言う。無視していたら
『憶えてる?』 『憶えてる?』 『憶えてる?』 『憶えてる?』 繰り返し言って来る。
うるさいと思いながら 『うん』 と返事をすると
彼が私に向かって、めちゃくちゃ綺麗なお辞儀をしてきた。
うわわ~、去年の客だと思い出した。
もし、来年も同じ事があったら
『私、あなたの家族でもなんでもないんで』 と言おうと思っているとのこと。
怪談奇聞 嚙ミ狂イ

小田イ輔

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怪談奇聞 噛ミ狂イ 小田イ輔 竹書房文庫
「知らせ」
Oさんの家では、虫の知らせとして鏡が漆喰を塗ったように白くなるという。
一瞬のできごとであり、すぐに元通りになるらしいのだが、家族の誰かがそれを
目撃すると、その日のうちに必ず近しい人間の訃報が届く。
どの鏡が白くなるという決まりはないものの、使用頻度の高さもあって、洗面所の
鏡がそうなるのを目撃されることが多いとのこと。
ある朝、彼女の父が白くなった鏡を見たようで、母親に喪服をクリーニングへ出して
おいて欲しいと頼んで仕事に行った。
亡くなったのは、その父だったそうだ。

小田イ輔

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怪談奇聞 立チ腐レ 小田イ輔 竹書房文庫
「自己申告」
高齢者福祉に携わっているWさんは、その日、市営住宅に住む独居老人を訪ねた。
呼び鈴を押しても反応はなかったが、鍵が掛かっていなかったためドアは開いた。
すると目の前には老人が倒れており、その傍らに倒れている老人本人が座っていた。
座っている方の老人は、硬直したWさんに向かって 『死んだ』 と一言呟き消えた。
倒れている方の老人は、確かに死んでいたという。

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怪談奇聞 啜リ泣キ 小田イ輔 竹書房文庫
「しらせ」

N氏の弁
『急にリビングの水槽が割れてさ、そこら中水浸しになっちゃって』

M氏の弁
『アパートに帰って来たら台所と風呂の蛇口が全開になっててさ』

二人の共通の幼馴染が、入水自殺した日のできごとだという。

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怪談奇聞 祟リ喰イ 小田イ輔 竹書房文庫
「舞台袖にて」
ある俳優さんから伺った話。
彼の大学は自前の小劇場を備えており、演劇科の学生がたびたび芝居の公演を行っていたそうだ。
その日の公演は、役者も裏方も、いつもより忙しく動く必要のある構成だった。
舞台での演技の後、袖に入ってすぐに着替えを行い、再び舞台に飛び出なければならない役者もいて
終始バタバタしっぱなしという状況。
そんな中、早着替えを行わなければならない役者の一人が、舞台袖のトラブルが原因で着替えが進まず
このままでは出番に間に合わないという状況に陥ってしまった。
しかし、彼のそんな状況を見かねた女性スタッフの一人が、無言のまま飛びついて衣装替えの
手伝いを行ったことで事なきを得たそうだ。
終演後、その役者が、手伝ってくれたスタッフにお礼を述べたところ
『私、こっちにつきっきりだったので手伝っていませんよ』 と不思議な顔をされた。
それならばと、裏方全員に聞いて回ったが、彼を手伝ったと名乗り出る者はいなかった。
ただ、その時の演目が戦時中の悲劇を扱った作品だったこともあり、全員がなんとなく納得したという。

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実話コレクション 忌怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「戻り声」
夏の暑い日だったそうだ。
Eさんたちは仲良しグループで集まり河原でバーベキューをしていた。
地元の人間しかやってこない穴場スペースなためか、Eさんたち以外は誰もいない。
昼から始まり、夕暮れ時。
『たぁあうすぅけぇえええてぇえ』
突然、川上から声が聞こえてきた。
何事かと全員が立ち上がり、皆で川の上流へ視線を向ける。
『たぁ~すけ~て~』
どうやら、徐々に近づいているようだ。
今度は目の前で声がしたが、誰もいない。
勢い服を脱いだ数人も、固まったまま動かない。
やがて、聞こえるのは川のせせらぎのみとなる。
皆が無言で、顔を合わせている。
しかしEさんだけは全く別のものに目を奪われていた。
すぐ目の前の水面から、顔を半分だけ出してこちらを覗っている子供。
目の前で声が聞こえる前から気付いていたという。
子供は、撤収作業の間も、Eさんたちを見つめていたそうだ。


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実話コレクション 憑怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「箸」
現在大学生のR君から伺った話。
その日、家族との夕食を終えた彼は、自分の食器を台所へと運んでいた。
途中で箸が一本床に落ちた・・・・彼は食器を流しに入れると箸の落ちたあたりを探すが見つからない。
ソファーと床の間や、それらしき場所をライトを照らしながら這いつくばって探すがない。
すると、その様子を冷やかしながら晩酌をしていた父親が、立ち上がるなり居間を出て行った。
そして 『あったぞ』 と父親の声。
途端に、近くでテレビを見ていた母親が 『やっぱり』 と笑った。
何のことかわからないまま、父親の声のするほうへ行ってみると
『ほれ、あそこ』 と風呂場の照明を指差している。
風呂場の電球を覆うカバーの中に、ついさっき居間で床に落としたはずの箸が入っていた。
父と母はなんだか嬉しそうに 『懐かしい!』 と言い合っている。
話を聞いてみると、R君が小さい頃、何かを無くすたびに風呂場の照明から出てくるということが
頻発したらしい。
これまで、彼のおしゃぶりから始まり、様々な小物が見つかっているとのこと。
十年以上起きていなかったことだが、もしやと思った父親が覗いたところ案の定。
『子供のころを思い出す』 と両親はとても嬉しそうにR君の頭を撫でた。
それは、彼が進学のために上京する前日のことであったという。

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実話コレクション 邪怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「挨拶」
Lさんが会社帰りの道を歩いていると不意に肩を叩かれ『ヨッ!』と声を掛けられた。
声を掛けて来た男は、Lさんの会社の元同僚で数年前に亡くなっている。
たじろぐLさんを尻目に、男はそのまま立ち去って行く。

何の用があるのか不明だが、もう十数年続いているという。

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実話コレクション 厭怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「歴史ある宿」
Rさんは、一人である温泉宿に泊まっていた。
部屋数は少なく十部屋程度。ゆったり過ごせる分、料金は割高。
温泉の泉質は好みのものであり、食事も予想を上回る豪華なものだった。
宿の建物は古く木造で、廊下を歩けばギシギシと音がする。
鄙びた雰囲気を満喫し、寝る前にひと風呂浴びると床に就いた。
『あはははは、おお~いいぞ』
どこからか宴会でもやっていると思われる音が聞こえ、目が覚めた。
時計を見れば零時を過ぎている。
折角の良い宿の想い出が台無しになると思いながら、部屋を出てトイレに向かった。
薄暗い廊下を歩いていると、先ほどの喧騒が聞こえていないことに気付いた。
そして、受付の際に『本日は貸し切りみたいなもの』と宿の主人が言っていたのを思い出した。
『なんだ、気のせいか・・・』
用を済ませ、部屋の前までやって来ると中から先ほどの喧騒が聞こえて来た。
そのまま、階下のフロントへと向かった。
主人へ経緯を話すと『歴史ある宿ですから』と一言。
部屋を変えるという主人の提案を断ってから、部屋に戻ると静かになっていたそう。

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実話コレクション 呪怪談 小田イ輔 竹書房文庫
「お祓いしていますから」
Hさんが母親の見舞いのために病院の玄関を入ったのは二十時ころ。
面会時間ギリギリだったため、人はまばらだ。
母親の部屋へ向かおうとエレベーターに乗り込んだところで、こちらに駆けて来る女性が見えた。
あの人もエレベーターに乗るのだろうと『開』のボタンを押したまま、待った。
急いでいる様子の割に音もなく乗り込む女性は、Hさんに黙礼をするでもなく奥へと進んだ。
『何階ですか?』 とHさんが尋ねるも無言のままなので、Hさんと同じく三階へ行くものと理解した。
”チン”と音がしてエレベーターのドアが開く。
Hさんは『開』のボタンを押すと 『どうぞ』 と言って振り向いた。
誰もいない・・・・
さっき駆け込んで来たはずの、あの女性がどこにもいない。
エレベーターから飛び出ると、足早にナースステーションへ向かった。
途中、顔見知りの看護師を見つけて縋り付く。
『いま、あの・・・エレベーターのなかで・・・・』
取りみだしたHさんの様子に、看護師は動じるでもなく言った。
『大丈夫ですよ、ちゃんとお祓いしていますから』
『大丈夫って・・・・だって、いま・・・・』
『大丈夫です、ご安心ください』
もう、頷くしかなかった。つまり、お祓いしないと大丈夫じゃないものが”出る”・・・・

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FKB怪幽録 呪の穴 小田イ輔 竹書房文庫
「ついてくる者」
E子さんが中学生だったころ。
授業中、ふとした拍子に廊下に目をやると、黒いスーツを着た教師らしきショートカットの若い
女が通る。
しかし、そのような職員は学校にはおらず、目撃したのもE子さんだけだった。

高校は、地元から百キロ以上離れた、別の町の進学校だった。
『あの中学校へ行くこともなくなったので、もうあの女を見ることもないなと思っていたのですが』
女は高校にも現れた。
地元の中学校に居たはずの幽霊ではなかったのか?
E子さんはその時点で、初めて嫌な感じを覚えた。
高校を卒業して、首都圏の大学へ進学したが、そこにも女は現れた。
『こうなったらこれは土地に憑いているものではなく、私自身に憑いているものだと感じたんです』
最後に、彼女にこの話を書いて良いか確認する。
『ええ、もちろん書いてください。土地のものでもなく、私自身にも全く身に覚えがない女ですから。
あるいは、この話を読んだ人の所へ行っちゃえばいいなって、そういう気持ちで話しています』

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FKB怪幽録 奇の穴 小田イ輔 竹書房文庫
「湯船の中で」
年頃になる二人の娘さんの父である橋本さんが大好きな風呂に浸かっていた。
『その日は丁度、お盆時期で盆礼のために親戚中を回ってきたところだったからクタクタ
だったんだ』
追い炊きに、追い炊きを重ねていた。
すると、突然、給湯穴からブクブクと空気が沸いてきた。
『今までは、そんなことはなかったので故障かなと思って・・・
明日は休みなのに、故障の手配をしなくてはだめかな・・・お盆の時期では業者も休みかも
しれないな・・・』
しょんぼりしていると、湯船の中に自分の手の他に、もう一本の手が見えた。
その、もう一本の手を凝視していると見覚えのあるものが目に入った。
『妻に贈った指輪だったんだ』
橋本さんは数年前に奥さんを亡くしている。
『ああって納得したんだよ。さっきから考えていたことと言えば明日をどうダラダラ過ごす
かということだから』
------ 心配しなくても朝一番で会いに行くから。
心の中でそう告げると、妻の手は湯船に溶け出すように消えた。
次の日は早起きをしてお墓に向かったという。
『たぶん、心配もあったんじゃないかな、若い頃は湯船の中で寝てしまう事が多くって
何度も彼女に怒られていたから』
給湯器は壊れていなかった。


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