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鈴堂雲雀

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鈴堂雲雀

鈴堂雲雀
恐怖箱 凶界線

鈴堂雲雀

竹書房文庫
「瓜二つ」
内藤さんは、築十年のアパートで一人暮らしをしている。
そこでの生活が三年を過ぎたころ、二十代前半と思われる女の霊が出るようになった。
最初は霊ということで恐怖心があったものの、『美人である』ことが下心へと変わった。
『お恥ずかしい話なんですが、胸を触ってみたい、と思いまして・・・・』
手を伸ばし、触れた・・・・生身の女性と同じく、柔らかな感触が手に伝わる。
その瞬間、無表情だった霊が嫌悪感を浮かべ、強烈なビンタを見舞って来た。
その後も女の霊は現れ続けた。
そんなある日、友人からの合コンの誘いで出かけてみると・・・
霊の女と瓜二つの女性がテーブルに座っていた。
女性の名は里美というらしい。
あからさまに内藤さんを避ける。
二次会へ移動した際、内藤さんは彼女に近づいた。
『ねえ、さっきから無視しているようだけど、俺何かした?』
『え?あ、ちょっと知っている人に似てたから・・・』
5分ほどすると、里美は意を決したように話を始めた。
『貴方の顔が私の部屋に出る霊と瓜二つなんです。胸を触ってくるんです・・・』

合コン後、里美とは何度か会って飲んでいるが、話は互いの家に現れる霊の報告会。
現実社内では何の進展もない二人であるが、『霊としての内藤さん』の行動は日に日に
エスカレートしているようで、里美さんは嫌悪感を顔に表す。
一方『霊としての里美』も、無表情だった顔に侮蔑の表情を宿すようになってしまった。
何ともやりきれない内藤さんは、今現在、背を向けて寝ているとのこと。

鈴堂雲雀

鈴堂雲雀
恐怖箱 吼錆

鈴堂雲雀

竹書房文庫
「具現」
『はじめて見たのは二年程前なんですが・・・・』
奥さんと喧嘩をした際、何も言わずに涙を流している奥さんの背中から黒い靄が出て
やがては身体全体を包み込むほどに広がった。
『その時は吃驚しましたが、オーラというものかと思いまして・・・・』
お互いが冷静になって仲直りをすると、奥さんから発せられていた黒い靄は消えた。

三カ月ほど前、いつもの夫婦喧嘩を始めると、奥さんから黒い靄が出てきた。
黒い靄は奥さんの身体を離れると、凝縮されて蝶の形へ変化していった。
やがて、蝶へと姿を変えた黒い靄は、窓から外へと飛んで行ってしまった。
その途端・・・
『私、考えたんだけど・・・』
奥さんが冷静になった。
これ以降、奥さんから黒い靄が出ることはなくなったとのこと。

鈴堂雲雀

鈴堂雲雀
恐怖箱 睡蓮

鈴堂雲雀
鳥飼誠
三雲央

竹書房文庫
「ベランダの蛍」 鈴堂雲雀
集合住宅の四階に住む名越さんはベランダで煙草を吹かしていた。
すると、蛍を彷彿とさせる小さな灯りがふわりと落ちてくる。
灯りは消えることなく、彼の肩辺りで直角に方向を変えて、ベランダの中に入って来た。
そして、毎日、火の点いた煙草が落ちてくるようになった。
上は空き部屋、その上は独居老人が住んでいる。
止める奥さんを宥めすかして、名越さんは独居老人の部屋に向かったが、返事がない。
そこで、管理会社へ今までの経緯を説明し、証拠の品を差し出す旨、伝えた。
次の日、仕事から帰ると、奥さんが待ってましたとばかりに駆け寄って来た。
独居老人は亡くなっていたのだ。
老人の遺体が見つかって以降、煙草が落ちてくることはなくなった。
散々止められなかった煙草も、吸う気が全く起きなくなり、その後は一本も手にしてない。
だが、奥さんが他の主婦と井戸端会議をしていた最中に真下の住人から言われた台詞は
一瞬にして奥さんを凍り付かせた。
『―あの・・・気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど・・・御主人にベランダから煙草を
投げ捨てるのを止めてほしい、って、それとなく伝えてくれないかしら・・・・?』

寺川智人
つくね乱蔵
鈴堂雲雀

寺川智人
つくね乱蔵
鈴堂雲雀
恐怖箱 油照

寺川智人
つくね乱蔵
鈴堂雲雀

竹書房文庫
「もう一度だけ」 鈴堂雲雀
絵里子さんのお爺さんは、その昔、瓶のサイダーを好んで飲んでいた。
お気に入りの栓抜きで 『シュポーン』 と栓を抜くと豪快にラッパ飲み。
しかし、最近はペットボトルが幅を利かせており、瓶のサイダーを入手することは
困難になっていた。
『ペットボトルでななく、瓶のサイダーが飲みたいんだよ。味が違うんだよ』
『お爺ちゃん、もうお店で売っていないんだよ。それに味も変わらないよ』
そんな会話が繰り返されていた。
ある日、お爺さんは布団の中で冷たくなっていた。
葬儀も終わり、日常の落ち着きを取り戻した頃、絵里子さんは夜中に目を覚ました。
ポーン シュポーン・・・ 
見ると、目の前にお爺さんが生前と同じ姿で座り、サイダーの栓を開けるしぐさを
しながら、口から『ポーン シュポーン』と声を発していた。
未練があるのか・・・・と感じた絵里子さんは
『分かった。お爺ちゃん、3日待って。必ず、見つけてくるから』
翌日の朝から探しはじめ、3日目には3本のサイダーが見つかった。
それをお爺ちゃんの仏壇へ、愛用の栓抜きと共に供えた。
『シュポ シュポ シュポ』 小気味よい音がすると栓が抜けた。
その時、お爺ちゃんの遺影が幸せそうに笑っていた。
その栓が、今は家族のお守りになっているんだとか。


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