沢村有希 |
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令和怪談 澤村有希 |
| 「茶碗」 四十代後半を迎えた秋野早苗さんと食事をしているとき 『そういえば、うち、お宝があるのよ』 『祖父と父が骨董すきで、こどもの頃はよく見せられたけど、価値なんてわからない。でも一つだけ好きな物があった』 それは平安時代から鎌倉時代辺りの茶碗だ。値段は、思ったより安いと聞いた。 《でも、値段じゃない。これには価値があるんだ≫ そう祖父と父親が彼女に話して聞かせるのだが、その価値については教えてくれない。 しかし、彼女が中学生の頃だ。卵巣腫瘍だと診断された。 片側を切除することになったが、やはり 『将来、子供が出来にくくなる』と言われた。 手術の前々日、リビングに祖父があの鎌倉時代の茶碗を持ってきた。 中には透明の液体が入っている。 『これは?』 『山の湧き水。これをこの茶碗で飲めば手術も上手くいく』 ゆっくり口に含むと、冷たさと甘みを感じる。砂糖や果実のようなものではなく、済んだ幽けき甘みというのか。 美味しくてすぐに飲み干してしまった。おかわりを二回したところで、急に飲めなくなる。苦くて、一口も喉を通らない。 『この茶輪には昔の偉い人が術を掛けていて、これで湧き水を飲むと運気が上がり、体調もよくなるのだ。』 予想をしていなかった内容で驚いた。 そんなに良いものなら毎日、茶碗を使えばいいのにと言えば、祖父が首を振る。 『いやいや、ここぞというときに使えと言われているから。日常で使うと逆に毒になる』 そんなものかと頷いていると、祖父が頭を撫でた。 『これでもう大丈夫。手術は上手くいく。お前は子供も授かれる』 それから数年後、平成になってその茶碗が割れた。 『でもね。その茶碗の術は効いたと思うよ』 秋野さんには大学生になる子供がいる。 『あれだけ出来にくいって言われていたのにねぇ。でもその後、旦那とはすぐ別れちゃったけど。それからずっと独身。 流石の茶碗の術も、そっちは駄目だったかも』 |
沢村有希 |
| 一条怪聞録 摩楼館 怪奇事件簿 沢村有希 竹書房文庫 謎の雇われ店主、如月翔太郎が営むレトロモダンな喫茶店『摩楼館』。 そこに足繁く通う一人の男がいた。 怪談と珈琲と旨い物をこよなく愛するフリーライター、一条明である。 摩楼館には怪を呼び寄せる何かがあるらしい。 訪れる客はなにがしか怖い話を口にする。 今日も如月と一条、二人が集えばおのずと空恐ろしい話が始まる・・・・・。 摩楼館のオーナー鳴海翁も登場し、とっておきの実話怪談を披露する。 著者が自ら取材し集めてきた戦慄の実録怪談・・・・ 実際にあった事件、或いは社会的な問題に関係した恐怖体験談や不思議な怪異・・・・・を 摩楼館を舞台としたひとつの物語の中に散りばめた異色の実話ホラー。 小説という虚構の中で語られる究極・極上の実話怪談をどうぞ。 |