しのはら史絵
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弔い怪談 葬歌

しのはら史絵
弔い怪談 葬歌 しのはら史絵 竹書房怪談文庫
「感情移入」
新聞奨学金制度を使い、大学を卒業した富山さんの話である。
朝夕の新聞配達をしながら大学に通っていた富山さんは多忙を極めていた。
朝は二時台に起きて販売所に行き、大量の新聞をバイクに積んで配り回るのだ。
配達場所の一つに五階建てのマンションがあった。
エレベーターがない上に、各部屋のドアポストに新聞を入れなくてはいけない場所だった。
はじめは苦痛でしかなかったが、いつの頃からか髪の長い可愛い女性が入り口付近に佇むように
なっていた。来るにも、来る日も悲しい表情で玄関の外から中を見つめていた。
大雨注意報が出ていた、ある日のこと、彼女はびしょ濡れになりながらも誰かを待っていた。
『こんな日にもあんな可愛い娘を待たせるなんて・・・・』
無性に腹が立った富山さんは、まず彼女にタオルを手渡そうと 『あの』 と話しかけた。
するとその女性は、ゆっくりと振り向いた。
『あなた、私のこと視えるの?』
思いがけない言葉に、富山さんは戸惑った。
『視えるなら、あれ、はがしてきて』
彼女が指さす方を見ると、壁にお札が貼られていたという。
『あれ、はがさないと、入れないの』 と話す彼女の両目はだんだん外側に寄って来ていた。
富山さんは、全速力で逃げ出したという。

寺井広樹
しのはら史絵
お化け屋敷で本当にあった怖い話 寺井広樹 しのはら史絵 TOブックス
「お化け屋敷スタッフの恐怖体験 心霊動画」
心霊動画を使ったイベントがあった。
動画を見ていただき、動画に映っているヨシ君という男の子の霊を供養してくださいというもの。
お客様はお化け屋敷に入る前に、ヨシ君が映っている動画を観なくてはならない。
イベント中のある日、その動画を見ていたお客様が 『ヨシ君以外の子も映ってましたね』 
とスタッフに言ってきた。
そのスタッフは、お客様と一緒に動画を早戻しして、その場面を教えてもらった。
『ああ、ここです。ほら、その窓に女の子が!』
小学生くらいに見える女の子が、長い髪を真ん中で分けていて身体をゆらゆらと揺らしながら
教室の中を覗いている。

後で動画を隅々まで確認したところ、女の子は最初から窓に映っていた。
この話を聞かせてくれたAさんは、撮影から編集まで立ち会っていたが、その女の子には全く
気が付かなかったとのこと。
更に驚くことに、撮影時にAさんがいた場所が、ちょうど女の子の霊が立っていた所だ。
Aさんはその場にしゃがみ込み、動画に映らないよう隠れていたという。


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