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鬼怪談
現代実話異録

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鬼怪談 現代実話異録 加藤一編 SOO他 竹書房怪談文庫
「鬼石」 SOO
友人Aから聞いた話。彼は十代半ばに大病をし、手術・入院をしていた時期があった。
病室は六人部屋だったが、運良く人の良い患者が集まり、居心地の良い部屋だった。そのため、ベッドの
カーテンは誰も閉めず、昼も夜も開けっ放しだった。
ある夜の消灯後、Aは隣のベッドとの間に気配を感じた。そちらに目をやると、Aのベッドとの間に誰かが
背を向けて立っている。子供くらいの背丈で全身は真っ黒、影をうんと濃くしたような雰囲気だったそうだ。
影は何かを呟いていた。けれど声が小さくて内容は聞こえない。Aは怖くなり慌てて布団を被った。
その日から影は毎晩現れた。そのたびに隣のベッドの枕元に立ち、何かをブツブツ呟く続ける。昼間の様子では
隣のベッドの患者が影の存在に気付いていないらしい。特に害がないものかもしれないと思うことにしたという。
しかし七日目の夜、隣のベッドの患者が急変し、そのまま亡くなってしまった。死ぬような病気ではなく、手術も
成功したと聞いていたのに。
Aは翌日、見舞いに来た祖父にその話をした。祖父は難しい顔で聞いていたが 『明日、また来る』 と行って帰った。
そしてその夜、影はAの枕元に立った。枕元に立たれて初めて影の言葉を聞き取れた。
『コッチイイヨコッチイイヨコッチイイヨコッチイイヨコッチイイヨ・・・・』
影は延々とそう呟き続けた。怖くて怖くて震えていたら朝になっていたそうだ。
翌日、祖父が約束通り来た。そして石を一個Aに渡した。祖父が『鬼石』と呼んで、長年玄関に飾っていたものだ。
鬼石は掌に載る大きさで、二か所 角のような突起がある。
Aは祖父の言いつけ通り、その晩、鬼石を枕元に置いて寝た。
その夜も影は現れたが、影が呟き始めると不意に野太い男の怒鳴り声が響いた。
『やかましい!』
途端、影はさっと溶けるように消えた。Aもびっくりした。声が鬼石から聞こえたからだ。
翌日、祖父にその話をすると、『鬼に勝てるものはそういないからな』 と笑った。
実話怪談 樹海村

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​​​ 実話怪談 樹海村 SOO他 竹書房文庫
「慰め」
私の母は、いわゆる樹海パトロールのボランティアに参加していた。
昔から肝っ玉の太い人で、それ以上に情けに厚い人だった。
ある年の年末に近い日だったそうだ。この時期は、特に自殺を目的とした来訪者が多くなる。
この日も母たちは一体の死体を発見し、ふたりの男女をそれぞれ保護した。
その帰り道のことである。母は木々の間をゆらゆらと歩く人影のようなものを見つけた。樹海は溶岩質の
地面の上を木の根が縄のように這っているため、慣れない人はふらふらとした歩みになるそうだ。
母は、もしやと思って目をこらした。案の定、それは若い女だった。
『あんた、どうしたの』
女の青白い顔は土で汚れ、半開きの口からはヒュウヒュウと息が漏れているだけだった。
『あったまるよ』 リュックサックから水筒を取り出し、紙コップへ暖かいお茶を入れて手渡した。
『ありがとう・・・』 女は蚊の鳴くような声でこう言うと紙コップを口へと運んだ。
母は女が飲み終えるのを待つと、女の手に自分の連絡先を書いた紙を握らせた。
『さあ、戻ろう。こんな暗いところにいちゃ駄目だよ』
母がそう言うと女は頷いた。しかし、水筒をしまうわずかな時間のうちに消えてしまった。紙コップも一緒に。
数日後、母の元に警察から連絡があった。樹海で見つかった死体が握っていたメモに連絡先が書いて
あったため、電話したということだった。母は慌てて警察へ向かった。死体は発見時、既に白骨化していたらしい。
母は女と遭遇した話をした。
『奥さんのお蔭で成仏したんでしょうね』
警官はそう言った。女の死体のそばには、どう考えても新しすぎる紙コップがひとつ、落ちていたという。
『あれが、後にも先にも幽霊を見た、ただ一度の体験だよ』 と母は笑っていた。


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