高橋克彦 |
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黄昏綺譚 高橋克彦 毎日新聞社 |
「十人が見た白い影」 私の父の実家は田舎の大きな寺である。 宿泊費がいらないことから、部長をしていた演劇部の合宿に利用したことがあった。 昼は一応、秋に予定している芝居の稽古に励んだものの、夜はすることがないので 本堂でお化けの話をすることにした。 その時のお化けの話の内容は全く憶えていないが、不思議なことはその後に起きた。 話が終わると、後輩のひとりが山門を見つめているのに気付いた。 山門を見ると、山門の屋根の下に真っ白い浴衣を着た男が立っていた。 時刻は深夜の1時である。お寺と言えども客が来るような時間ではない。 見ていると、その男は山門の扉に隠れるように消えた・・・・。 後輩の一人が山門へ走って確かめに行ったが、誰もいないとのこと。 そして、その後輩が山門の屋根の下に立ってみた。 本堂から見ると、輪郭はおろか後輩がそこに立っていることさえわからない程の闇。 どうして、さっきの真っ白い浴衣の男は鮮明に視えたのだろうと、私たちは騒いだ。 騒ぎを聞きつけた寺の住職である叔父が起きだしてきたので、先ほどの怪異を告げると 『やれやれ、今夜は起きていないといかんね』 叔父は何事もない顔で頷くと 『もう少しすると連絡が入るだろう』 つまり、死者が寺に挨拶に来たというのである。 私たちは笑ったが、一時間もしないうちに現実となった。 車で何時間も離れている病院に入院していた老人が、少し前に亡くなったという連絡が 寺に入ったのである。私たちの見たのがその老人であったのは疑いない。 |