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立原透耶




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立原透耶

立原透耶
怪談実話系 魔 立原透耶 安曇潤平 森山東 朱雀門出ほか メディアファクトリー
「柴犬」 立原透耶
Mさんの実家では柴犬をずっと飼っていた。十七年間生きて本当に人間っぽく、Mさん一家に
とっては大切な家族の一員であった。
しかし十七歳というのは犬にとっては高齢で、最後のほうは老衰がはじまり、ずっとおむつを
していた。
ある明け方、二階で寝ていたMさんの母親が突然むくりと起き上がって
『〇〇(犬の名前)ちゃん、今死んだかも』
柴犬は一階にいたので、家族全員が慌てて階段を駆け下りた。
愛犬はまだぬくもりを残していた。
けれども、もう息はしていなかった。
みんなで泣きに泣いたのは言うまでもない。

その後、台所の床下収納を開けようとするカチャカチャという犬の爪音や、ドアの隙間に
突っ込む鼻息、ガタンという物音などが毎日のように続いた。
結局、ペット専用の葬儀が済み、供養が完全に終わるまで、その気配は続いた。
そしてその度に顔を合わせて、『ああ、いるね』 『うん、いるね』 と微笑みあったのだそうである。

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怪談実話集ひとり百物語 悪夢の連鎖 立原透耶 メディアファクトリー
「会いにきたよ」
文筆業のU氏は子供の時から実家で柴犬を飼っていた。大学生になって実家を離れたが
もう年寄りになっている犬のことは常に気にかかっていた。
ある日、母親から犬が死んだと電話がかかってきた。
ちょうど土曜日で、当時は金融機関は全て休みの上、手持ちが少なく、実家に帰るほどの
金額がない。借りようとした姉ともすれ違い、結局駆けつけることが出来なかった。
母親たちからは 『おまえは冷たい』 などと叱られたが、本当は犬に会いたかったのだ。
一ヶ月後のことである。 『ああ、今日はあいつの月命日だな』 とぼんやり考えていると
部屋がなぜか獣臭くなっている。それも懐かしい臭いだ。愛犬の臭いと同じである。
そう思った瞬間、柴犬が彼の顔を舐めた。
抱きしめると短いごわごわした毛の感触がした・・・が、すぐに消えてしまった。
目を開けると、しっぽを振っている愛犬がいた。残念なことに目が合うと消えてしまった。
翌朝、彼は実家に電話した。
『俺がお別れに会いに行けなかったから、ヤマ(犬の名)の方から会いにきてくれたよ』

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怪談実話集ひとり百物語 闇より深い闇 立原透耶 メディアファクトリー
「ガチャガチャ」
ある人から聞いた話である。
高校一年のある日のこと、部活で帰りがとても遅くなってしまった。
高速道路の横を自転車で走っていると、ガチャガチャという音が聞こえてきた。
こんな夜中になんだろうと思って近づいてみると、小さい子供が金網をガチャガチャと
揺すっていた。
早く帰りな、と言おうとして気付いた・・・・
車一台も走らない夜中だというのに、こんな小さな子供が一人でいるのはおかしい。
『ガチャガチャ』 子供の後ろ姿が見える・・・・
怖くなって、そのまま全速力で自転車に乗って逃げた。
翌朝、おそるおそるもう一度その場所に来てみると、小さな花束が金網の下に
供えられていた。どうやらそこは事故現場だったらしい。
よく見ると、玩具も供えてあった。
ああ、そうか、とそこで初めて納得した。

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怪談実話集ひとり百物語 夢の中の少女 立原透耶 メディアファクトリー
「おーい」
雪の降りしきる冬、三泊四日の出張でホテル泊だった。
ツインルームである。窓側はどうしたって冬の寒さがしみこんでくる。
内側のベッドに陣取ると、私は携帯電話をいじりはしめた。
いつのまにか心地よい疲れが襲ってきて・・・・うとうとしていたらしい。
寝ぼけた頭で、室内の灯りを落とす。
と。
不意に、隣のベッドから 『おーい』 と呼ばれた。
男の声だ。
反射的に 『はーい』 と間の抜けた返事をしてから、気が付いた。
ここは確かにツイン・ルームだが、私一人で使用している。
隣のベッドには誰もいないはずだ。
(え?)
驚いて目をぱっちり開けた瞬間、目の前に見知らぬ中年男性の顔が大写しになった。
『わっ』
私が叫ぶのと同時に、相手も叫んだ。
そして、唐突に消えてしまったのである。

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怪談実話集ひとり百物語 立原透耶 メディアファクトリー
著者自身、家族、周りの人の体験を綴った百話
「床の影」
著者自身が参加した出版社のパーティー後、作家仲間がホテルの一室で怪談話を
していた時のこと。
作家の一人が突如
『私、もう寝ます』と言って、部屋を出て行ってしまった。
呆然と彼女を見送る一同。
すると一人の作家が、出て行った彼女が先ほどまで座っている場所を指差して
『あいつが出て行ったのは、このせいだ』
一同、言われた場所を見ると、そこには黒い影が居る。
今度は、部屋に残った方が一人、また一人と部屋を出て行く番になった。
その部屋に泊まる予定だった作家も、他の部屋で寝ることにした。
翌朝、荷物を取りに自分の部屋へ戻った彼女が言った。
『黒い影は、まだいた』


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