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上毛鬼談 群魔 戸神重明 |
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上毛鬼談 群魔 戸神重明 竹書房怪談文庫 「飛ばす話」 悪いものを他人へ飛ばしてしまう・・・・そんな話・・・・ 十年ほど前のこと、空手の有段者であるEさんは、新前橋駅近くの公園で小学生の息子と娘に 稽古をつけていた。 けれども、出し抜けに辺りが闇夜のように真っ暗になってしまった。その暗黒の中に白い髑髏が現れた。 マントに身を包んで、柄の長い大きな鎌持っている。 (死神か!) 死神は鎌を振り上げ、Eさんに襲い掛かって来た。 (殺られてたまるか!) Eさんは気合と共に、渾身の力を込めた前蹴りを死神の鳩尾へぶちかました。 死神は吹っ飛んで、底知れぬ深い闇へと消えていった。 そして・・・・ 娘の前回し蹴りが脇腹に当たって、その非力な衝撃で我に返った。 どうやら、熱中症を起こして、立ったまま昏睡していたらしい。ただちに稽古を中止してペットボトルの水を飲んだ。 『危ないところだったよ。あのまま斬りつけられていたら、死んでいたかもな』 それからひと月ほどして、Eさんの小学校時代からの親友が急死した。その日、親友は自宅にいて急に 『気分が、悪く、なった。救急車をよんでくれ・・・・』 と言って廊下で倒れた。 『死神だ・・・・。鎌で、斬られた・・・・』 譫言なのか、何度かそう呟いたのが最後の言葉になったという。 |
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怪談標本箱 雨鬼 戸神重明 竹書房文庫 「ドライバーG氏 三十七歳、男性」 『山沿いの道路を走っていたときのことです。真っ暗な夜道に狸が飛び出してきたんです。 小さかったから子狸でしょう。距離がまだ離れていたので、僕は慌てることなくブレーキペダルを 軽く踏みました。ところが、その後ろから現れたものを見て、ぎょっとしました。 人間の二本足がヘッドライトの光の中に浮かび上がったからです。それは太腿まである ごっつい男の足でした。ズボンを穿いていなくて裸足でした。 狸はジグザグに路上を逃げ回っていて、二本足はそれを追いかけていました。 僕が運転する車が近づくと、どちらも道路を横切って暗闇に姿を消しました。 そんなもんでも、田舎の夜道で出会うと、気味が悪くてねえ、鼾をかいて眠っているお客さんを うらやましく思ったもんですよ。』 |
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怪談標本箱 生霊ノ左 戸神重明 竹書房文庫 「あとがき」 某デパートの四階にある女子トイレでのこと。そこは手洗い場に手を出すと、センサーが反応して 自動で水が出るのだが、誰もいないのに水が流れ出ることがよく起きていた。 そのため(お化けが出るトイレ)と噂されていたという。 ある日、女子高生の理奈さんは、学校で怪談好きのクラスメイト二人から誘われた。 『あんたなら見えるんじゃない?どんなお化けがいるのか、見て教えてよ』 『いいよ。見えるかどうか、わからないけどね』 理奈さんは、過去に見た霊に怖さを感じていなかったので軽い気持ちで承諾した。 放課後、そのデパートに行ってみると、四階のトイレは通路の奥にあった。 理奈さんがトイレに入ると、誰もいない手洗い場から水が流れ出ている。 それも何者かが手を洗っているかのように、蛇口から出た水が四散していた。 『あ、いるみたいよ、お化け』 『ほんとだ、ねえ、姿が見える?』 仲間が笑顔でささやく。 何もいないわよ・・・・と答えようとした理奈さんは、息を呑んで立ちつくした。 手洗い場の前に忽然と、セーラー服を着た娘の姿が浮かび上がってきたのである。 脳天が割れて、赤黒い鮮血が滴り、長い黒髪や衣服に広がっている。 娘の顔は、理奈さんと瓜二つ。死人のような白く濁った目を鏡に向け、半ば呆然と血まみれの 手を洗い続けていた。 理奈さんは悲鳴を上げることすらできないまま、腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。 それ以来、そのデパートに行けなくなったという。 |
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恐怖箱 呪祭 戸神重明 雨宮淳司 神沼三平太他竹書房文庫 「古寺の裏手」 啓一さんは日が暮れた頃、山の麓にある寺に用事があって赴き、便所を借りた。 男子便所に入ると大きな窓がある。 用を足して、手を洗いながら何気なく窓の外を眺めたところ、便所から広がった灯りで裏手の土手が見えた。 そのとき、夕闇の向こうから・・・ゴトン、ゴトンゴトン、ゴトン・・・・と音が聞こえ、つづけて線路の上を照らす灯りが 見えてきた。 電車が来るな ― 鉄道が好きな啓一さんは、窓から電車を眺めようとした。 やがて、大きな物体がやって来たのだが・・・・・電車ではなかった。 数万か、数十万かと思われる人間の足が絡み合い、わさわさと蠢きながら線路を進んでいるのだ。 どの足も何も履いておらず、青白い光を放っていて、ゴトン、ゴトンと大きな金属音を発している。 それは、唖然として目を瞠る啓一さんの目の前をゆっくり通り過ぎると暗闇の中へ遠ざかって行った。 |
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恐怖箱 煉獄怪談 戸神重明 雨宮淳司 竹書房文庫 「午前三時の電話」 戸神重明 『もしもし、あたしだよ。駅に着いたんだけど来ていないからどうしたのかと思ってさあー』 寝苦しい真夏の午前三時、鳴り響く電話に渋々受話器を取ると、知らない老婆の声が・・・ 『ええと、どちらさんですか?』 『もしもし、あたしだよ。駅に着いたんだけど来ていないからどうしたのかと思ってさあー』 相手は壊れた機械のように、同じ言葉を何度も繰り返す。 『何だ、いたずら電話か。馬鹿野郎!』 怒鳴りながら受話器を叩きつけるように置いた。 (あれ~? うちの電話って、もう使っていなかったよな・・・) 長年独り身の彼は外出していることが多く、携帯電話だけで事足りる。 基本料金だけ払うのも不経済なので固定電話は解約していたのである。 念のために電話機のコードを見ると、壁の差し込み口から確かに抜けていた。 |
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恐怖箱 深怪 戸神重明 竹書房文庫 「白い壁」 栃木県でのこと。 武雄さんが長年暮らしている洋風住宅で、ある日キッチンのほうから猫の鳴き声が 聞こえて来た。 彼は猫嫌いで一度も飼ったことがない。 野良猫でも入り込んだか? とキッチンへと行ってみると・・・・・ 白い壁から猫の首が突き出ていた。 『こらっ!!』 大声で怒鳴ると、猫は壁から勢いよく飛び出してきた。 虎毛の大きな猫で、武雄さんの足元をすり抜けると庭へ出て、どこかに行ってしまった。 白い壁を調べたが、穴は開いていなかった。 のちに、リフォームでその壁を壊したが、猫の死骸は出てこなかったという。 |
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恐怖箱 狐手袋 戸神重明 鈴堂雲雀 橘百花 竹書房文庫 「ごめんね」 戸神重明 『・・・ごめんね・・・・・ごめんね・・・・・』 午前四時、電話の向こうで若い女が泣きじゃくりながら謝り続けている。 携帯電話が普及する以前、勝則さんの家では黒電話を使用していた。 ひと月か、ふた月に一度、未明に電話があり、電話に出ると無言・・・ 『どちらさまですか?』 と問いかけると、小声で泣き出す。 電話に出ないと、いつまでもベルが鳴り続ける。 そうなると出るしかないので怒鳴りつけてやったこともあるが効果がない。 寝る前に電話線を外すことにしてから、電話機が深夜に鳴ることはなかった。 半年ほど過ぎた頃、勝則さんは風呂場で自分の陰嚢に黒子を発見した。 どす黒くて、割と大きいのが三つある。 黒子は癌化することがあると聞いていたので、気になった。 そこで、ある晩、無料の医療電話相談窓口に電話をしてみることにした。 電話に出たのが若々しい女医だったので、詳細は省くことにした。 『あのう・・・黒子が出来て気になるのですが、何科の病院へ行けばよいでしょうか?』 『皮膚科です』 ああそうですかと電話を切ろうとしたところ・・・・ 『金玉に黒子が出来ているんだろう!癌だよ、癌。苦しんで死にやがれ』 女医は急にドスの利いた口調で言い放つと、電話を切った。 (ひどい医者だな、でも何でわかったんだろう?) クレームの電話を入れようと受話器を上げるが発信音が出ない。 『あれ?』 よく見ると電話線が外れていた。 |
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恐怖箱 空蝉 戸神重明 鈴堂雲雀 鳥飼誠 竹書房文庫 「座敷翁」 戸神重明 その日、村井さんが外出先から自宅へ戻って来ると、隣家の前の路傍に老人と老婆が 座り込んでいた。 どちらも小奇麗な和服を着て、真っ白な髪を調えて品が良い。 具合でも悪いのかと思い、声を掛けると二人は微笑んだ。 『この家に長く居た者なんだがね・・・・今日、出て行くことになって・・・・』 言い終わるか終らぬうちに、二人の姿は消えてしまった。 『え? 今のは何だ?』 村井さんは家に逃げ帰ったが、二人のことは誰にも言わなかった。 隣家は江戸時代から続く旧家で、当代の主は近くで商店を経営しており、かなりの財を 蓄えていると噂されていた。 ところが、翌日、その家の主が車で人を轢き殺してしまい、逮捕された。 代わって、息子が店を継いだが、一度失われた信頼は回復せず、数年後に倒産した。 |
戸神重明 深澤夜 鳥飼誠 |
戸神重明 鳥飼誠 深澤夜 |
恐怖箱 魂迎 戸神重明 深澤夜 鳥飼誠 竹書房文庫 「アオガエル」 戸神重明 勝沼さんが登山に行った帰りのこと。 山奥の森に囲まれた舗装道路を車で走っていると、途中で大雨が降ってきた。 すると、次々に蛙が道路に飛び出してくる。 減速して轢かないように運転したが、何匹かは轢いていしまった。 大きい緑色の蛙を轢いた時は、タイヤの感触があって後味が悪かった。 暫く走ると、緑色をした軽自動車が対向車として現れ、こちらの車線へ進入して 減速せずに突っ込んで来た。 よく見ると、それは巨大なアオガエルだった。 『駄目だ!』 急ブレーキを踏んだと同時に目をつぶってしまった。 次の衝撃を覚悟していたが、伝わって来ない。 目を開けると、巨大なアオガエルは消えていた。 |