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つくね乱蔵



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FKB怪・百物語 つくね乱蔵 ほか 竹書房文庫
「長い土下座」 つくね乱蔵
聡美さんが中学生の頃、女手一人で育ててくれた母が再婚を決めた。
相手は大手スーパーの経営者である。
幼い頃から苦労してきた母が掴んだ幸せに、聡美さんも心から祝福した。
ついでに、いつも疑問に思っていることを母に尋ねた。
『あの人はどうするの? って言うか、いつまであのままなの』
母は少し躊躇った後、淡々と話し始めた。
『あんたの五歳の誕生日に、あいつは父親のくせして逃げたの。部下と不倫した揚句
借金だけ残して。お母さん、親の反対を押し切って結婚したからさ、帰るに帰れなくて。
あんた抱えて、やれることは全部やったわね』
初めて聞く話である。
『半年くらい経った頃かな、警察から連絡があって。お宅の御主人が自殺されたので
確認して欲しいって言われた。だから、こう言ってやった』

自分には主人はいません。誰が死んだか知りませんが、勝手に処理してください。

『それからずっと、ああやって部屋の隅で土下座してんのよ』
聡美さんは黙ったまま、母を見ているしかなかった。
今でもまだ、土下座を続けているという。

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FKB怪談五色 つくね乱蔵 ほか 竹書房文庫
「笑顔の記念写真」
関口さんは貧しい家庭で生まれ育った。
夫婦共働きでようやく一般家庭の収入と同じくらいであったが、根っから明るい
父母のおかげで笑いの絶えない毎日だった。
そんな父の口癖が
『おまえを遊園地に連れて行ってやりたいな』
そんな父が自動車事故で他界した。四十二歳だった。
悲しみに耐えながら葬儀を終え、日々の暮らしが落ち着いて来た頃、封書が届いた。
父宛の封書の中には遊園地の招待券が入っていた。
生前の父が出版社の懸賞に応募していたのだ。
父の葬儀以来、涙を見せなかった母が泣いた。
快晴の日曜日、関口さんは母とともに、生まれて初めての遊園地を楽しんでいた。
ジェットコースターから降りてきた時のことである。
『絶好のポイントから撮れています。お写真どうですか?』
写真を持った係員が話しかけて来た。
贅沢はできない。招待券はあるものの、お弁当持参で来たくらいなのだ。
だが、写真を見るなり、母は高価な写真を購入した。
『どうしたの?お母さん。そんなの買っちゃって』
『ここ、見てごらん』
ジェットコースターが下りに差し掛かる瞬間を捕えた写真だ。
楽しげに笑う母子の後ろで、もっと楽しげに笑う父の顔が写っていた。

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恐怖箱 厭獄 つくね乱蔵 竹書房文庫
「新しい家族」
二年前に夫を亡くした甲本さんに、結婚を申し込む男性が現れた。
相手は中田利伸さん、職場の上司で、同じく再婚だ。
真っ先に考えることは一人娘の明日香ちゃんのこと。
再来年に小学校を卒業する。なるべくなら、多感な青春時代を迎える前に新しい家庭を築きたい。
甲本さんは、結婚したい男性がいることを打ち明けることにした。
『ほら、この人だよ。優しそうでしょ』
スマートホンの画像を見た瞬間、明日香ちゃんが悲鳴を上げて離れた。
畳に突っ伏したまま、怖い怖いと譫言のように繰り返している。
甲本さんは、ようやく明日香ちゃんを落ち着かせ、何が怖いのか訊いてみた。
この人が半年ほど前から夢に現れる。
『この人が怖いんじゃなくて、いっしょにいる変なのが怖い』
甲本さんは中田さんに、おかしいのはわかっていると前置きして相談した。
すると、心当たりがあると言う。
『多分、前の妻だと思う』
病魔に侵された前妻の最後の言葉が『あなたをずっと見守るから』
明日香ちゃんが怖がっているのは、僕の側にいる妻ではないか。
中田さんは涙声でそう言った。
帰宅した甲本さんは、明日香ちゃんに話し始めた。
中田さんと一緒にいるのは奥さんさった人で、中田さんを心配して離れられないの。
だから怖がることはないの。
『天国へ行ってください、とお母さんといっしょにお願いしてほしいの』
『わかった。わたし、がんばってみる』
その週の日曜日、甲本さんは明日香ちゃんとともに中田さんを出迎えた。
『明日香、見える?』
『ねえ、お母さん、どの人にお願いするの?』
どの人とはどういうことか・・・・訊かれた明日香ちゃんは、そっと呟いた。
『七人いるよ』

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恐怖箱 万霊塔 つくね乱蔵 竹書房文庫
「石の箱」
上松さんが子供のころの話である。
八月に入って間もない頃、学校の近くの森の中を仲間とともに歩いていた。
目的は、上級生から聞いた噂を確かめるためである。
森の奥に石でできた箱があるのだが、それは古代の棺桶で、中にはミイラが入っているというのだ。
二十分ほど歩いたところで、木々の間からそれらしきものが見えてきた。
鉄柵に囲まれていたが、難なく乗り越えられた。
一辺が一メートル程度の正方形の石の箱。高さが、上松さんの胸あたり。
蓋に使われているも同じ石で、厚さが十センチほどあり、押したくらいではビクともしない。
全員で力を合わせ、少しずつ、少しずつ動かすと、ようやく隙間が空いた。
上松さんはリュックサックから懐中電灯を取り出すと、箱の中を照らしてみた。
中には古びた布が一枚と、茶碗のような容器が一つ。
急につまらなくなり、帰ることにした。
来た道を引き返すと、背後の石から音がした。
振り返ると、蓋が動いている。
蓋が閉まる最後の瞬間、下から押し上げている手が見えたそうだ。
とても小さい手だったという。

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恐怖箱 絶望怪談 つくね乱蔵 竹書房文庫
「希望」
ここに集めてきた怪異は、何ひとつ解決せずに続いているものが多い。
考えてみれば、それは当然のことである。
どういう形であれ決着が付けば、いつの日かそれは淡い思い出に変えて片付けておける。
あのときは本当に怖かったねぇ、とほんのり笑って話せる。
だが、真に悪意ある存在は、安易で穏やかな決着から遠く離れた場所にいる。
そして私も、そのような穏やかな思い出話を書こうとは思わない。
ということで、ここには絶望という言葉に値するような怪異が揃ってしまった。

今回の表紙は、厭怪も担当してくださった芳賀沼先生の手によるものだ。
凄まじく怖い絵だ。
けれど、その巧みな筆致による質感が何とも言えず美しい。
この絵のタイトルは 『恵みの雨』 描かれたテーマは 『希望』 だという。
絶望怪談の表紙が希望という、あまりにも上出来な仕掛けである。

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恐怖箱 厭魂 つくね乱蔵 竹書房文庫
「足湯」
うまいラーメン屋ができたと聞き、徒歩5分の散歩に出かけた。
開店早々に行けたおかげで、テーブル席でゆっくりと楽しめた。
すっかり気に入ってしまい、休日のたびに足しげく通った。
その日は用事があり、いつもの時間には行けず、たまたま空いていたカウンター席に座った。
厨房では、手際よく麺を湯切りしている者、その奥で餃子を焼いている者、あと一人は大きな
寸胴鍋に足を入れて立っている者が見える・・・・
『え?』
おしぼりで顔をぬぐい、もう一度、寸胴鍋を見た。
間違いない。やはり、男が寸胴鍋に足を入れて立っている。
ふと、視線を上げると男は寸胴鍋に立っているのではなく、首を吊ってぶら下がった足の先に
鍋があるという感じだった。
その時、餃子を焼いてい店員が、スープ作りに取り掛かった。
寸胴鍋に近づいて、中身をかき回す。
その間、男の体はふわりと揺らいでいたが、その姿が消えることはなく、店員が離れると足は
ふたたび寸胴鍋の中へと入って行く・・・
『へい、お待ち』
目の前に盛大な湯気を放つラーメンが置かれた。
そのラーメンと吊り下がる男を交互に見つめるうち、吐き気に襲われたので勘定を済ませて
店を出た。

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恐怖箱厭怪 つくね乱蔵 竹書房文庫
「救急絆創膏」
朝、起きようとして、右手に違和感を覚えた。
小指と薬指をひとまとめにして絆創膏が巻かれていた。
記憶を辿ったが思い当たらない。傷もない。この種類の絆創膏は家にない・・・・
その翌朝、また貼ってあった。
昨日と同じ指だが、絆創膏の種類が昨日とは違う。
その夜、手袋をして寝た。
目覚めた時には手袋を脱いでいた。
そして、指にはまたしても絆創膏。
もしかしたら、自分は寝ている間に彷徨っているのではないかと考えた。
納得できる答えは見つからないが、自分が夢中歩行しているのなら証拠が残ると思い
ベッドサイドに薄く小麦粉を撒いた。
翌朝、右手の指全てがひとまとめになっていた。
小麦粉には足跡が残っている。
ただし、自分のものではない。
小学生くらいの小さな足跡が、外側からベッドに向かっているのがわかる。
しかし、戻った足跡はない・・・・
誰にも相談できないまま二週間が過ぎ、それは突然止んだ。

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恐怖箱厭鬼 つくね乱蔵 竹書房文庫
「笑う女」
夫婦の寝室に、女が突然現れた。
『あなた、誰? どこから入ってきたの?』
大きな声に起こされた古川さんが目覚めると、確かに女が部屋の角に立っている。
女は、古川さんと妻が見ている前で消えた。
これが始りであった。
女は、時と場所を選ばずに現れ、消えた。
妻が言うには恨みでも買っているのでは? とのことだが、情けない話、女性経験が
少ない上に全ての女性に捨てられたのは古川さんの方だった。
そして、繰り返す恐怖に疲れてしまった妻は実家に戻ってしまった。
とうとう、古川さん夫妻は離婚に至った・・・
独りきりの部屋で、郵送されてきた離婚届けに実印を押した瞬間、女が現れた。
裂けそうなくらいに口を開け、涙を流しながら笑っている。
それまで、溜まりに溜まっていた怒りが恐怖を打ち消して噴出した。
『おまえ、いったい俺の何なんだよ』 古川さんは怒りのままに怒鳴った。
『赤の他人よ』
女は、そう言って消えた・・・・以後、現れていないという。

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恐怖箱怪戦 加藤一編著 竹書房文庫
「多勢に無勢」 つくね乱蔵
宮本さんは終戦後間もなく、山に籠もった。
家族も家も全てを失い、しかし死ぬことも出来ずに山へ逃げた。
瓦礫で小屋を作り、魚を捕り、山菜や野草を食べて暮らしていた。
そんな世捨て人の暮らしの中で、たったひとつの生きがいが呪いだった。
きっかけは、近くの古い神社の裏手に無数の釘を打ちつけられた木があり、その場に
残った藁人形で何が行われていたのか理解できたの言う。
最初のターゲットは新兵時代に散々いたぶってくれた上岡という上等兵。
昼夜を問わず熱心に、心に占める恨み事を延々と言葉にし続けたある日、上岡が苦しむ
姿が炎の中に浮かんで消えた。
『ああ、今死んだな』
相手が死んだことが唐突にわかったと同時に、たまらなく快感だった。
次のターゲットは真田上等兵、こいつも酷い奴だった・・・・
そして最終のターゲットとして思案した結果、自分を戦争に追いやったと思える
尊い御仁に決定した。
死ぬしかなかった戦友のためにも、宮本さんは今まで以上に呪いの念を強く送った。
が、その試みは三日と保たなかった。
『無理ですね。呪いをぶつけようとしたんですが、とんでもない数の人に守られている。
しかも私と違って、その全員が本職。勝てるわけがない』
四日目の夜、純白の衣装に身を固めた本職達が宮本さんの夢枕に立った。
『もう止めておけ、宮本』 ・・・・・名前で呼ばれたという。

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恐怖箱白夜つくね乱蔵 橘百花 三雲央 竹書房文庫
「赤い指輪」 つくね乱蔵
仕事を終え、帰宅途中の電車の中で早野さんは胃に不快感を覚えた。
じんわり締め付けられるような痛みで、ここ最近ずっと続いている。
帰宅すると、嘘のように痛みが消えるため、仕事のストレスと自己診断していた。

この日も例に違わず、胃が痛みだした。
苦痛に顔をゆがめていると、その顔を正面から見据える着物姿の女性がいる。
『あの、私の顔に何か付いていますか?』
『あんた、今、胃のここが痛くないか? あんたの胃袋を手が握りしめているだわ。
小指に赤い石が付いた指輪をしている。早いとこ何とかしないと、あんた胃がんになるよ』
指摘を受けた場所は、まさに痛い場所だったが、馬鹿げたことと鼻で笑った。
女性はそう言い捨てると去って行った・・・。
家に帰ると、妻の小指には赤い石の指輪があった。
『あのとき、もっとしっかり妻と向かい合っておけば良かった・・・』
病院の待合室で、痩せ細った早野さんは寂しげに笑った。

寺川智人
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鈴堂雲雀

寺川智人
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鈴堂雲雀
恐怖箱油照 寺川智人 つくね乱蔵 鈴堂雲雀 竹書房文庫
「なめくじ2匹」 つくね乱蔵
入梅して3日目。
雨音を聞きながら本を読んでいると、背後でささやく声がした。
一人暮らしで、誰もいないのはわかっている。
『聞こえてるくせに』
今度ははっきりと聞こえた。
声のする方をみると、天井にナメクジが2匹いた。
塩でも振ってやろうと再度近づくと、それは濡れて輝く唇だった。
近づくと、唇はにんまりと笑って消えた。

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原田空
深澤夜

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原田空

深澤夜
恐怖箱蛇苺 つくね乱蔵 深澤夜 原田空 竹書房文庫
「がんばれマリーさん」 つくね乱蔵
総合病院の医事課に勤務している男性の体験。
10年ほど前のこと、フィリピン人のマリーさんという患者さんがいた。
容態が思わしくないので、何度も本国へ知らせるように言うのだが・・・・
本人は日本語がわからないし、後見人の風俗経営者は無駄と取り合わない。
治療の甲斐もなく、マリーさんは他界。
その死後すぐに、風俗経営者は遺体を引き取って行くと言う・・・
医師と看護師の見送りも断って、ワゴン車の座席へボロ布を巻いた遺体を固定すると
引き上げて行った。
と見ると、後部座席にマリーさんが座っている。
そして、その細腕を風俗営業者の首へ巻きつけた・・・・


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山際みさき
橘百花

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山際みさき
橘百花
恐怖箱蝙蝠 つくね乱蔵 山際みさき 橘百花 竹書房文庫
「プロフェッショナル」 つくね乱蔵
彼が営業所長として赴任してきた2ヶ月前より営業成績が格段に落ちた。
特に、営業トップ2が人身事故で入院したことが大きい。
そんなことを考えながらため息をついていると、雑草の生い茂る空き地に目が行った。
業者を頼む金はないが自分でやる時間もないので、シルバー人材センターへ
依頼することにした。
翌日、老人たちがぞくぞくと集まってきた。
ぺちゃくちゃと話し、ケラケラ笑いながら何とも賑やかであるが、手も動く。
しばらくすると、喧騒が止まった。
どうしたのかと思って頭を上げると、1人の老人が事務所へとやってきた。
『すみませんが、責任者の方はいらっしゃいますか?』
『責任者は私ですが、何か?』
聞けば、除草をしていたら出てきた物があるので見てほしいとのこと。
現場に行くと、出てきたのは骨壷だった。
『あんまり、よろしくない物が入ってますな。所長さん、誰かに恨まれている』
思い当たるのは、前の所長。己の才覚の無さにも気づかず、影で散々貶められた。
『思い当たることがあるようですな。領収書が出ませんが、これも掃除しますか?』
この老人達に何が出来るのかと不安もあったが、頭を下げた。
事務所に来た老人が皆に何事か指示すると、骨壷を囲むように輪になった。
その中で先ほどの老人が息を吸い込むと、一気に骨壷へと息を吹きかけた。
すると、信じられないことに骨壷が明るい光に包まれた。
次の日から営業成績が上がってきた。
入院していた2人も医者が驚く回復を見せ、退院した。
老人達から別請求されてきた額はわずかなものだった。


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