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牛抱せん夏
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牛抱せん夏
呪女怪談 牛抱せん夏 竹書房怪談文庫
「蚊帳」
長田さんのお祖父さんの話だ。
生まれつき心臓が弱かった。十代のころ、療養を兼ねて群馬のお寺にお世話になった。
寝床は、普段は客間として使用されている座敷に住職の奥様が布団を敷いてくれ
そこに蚊帳を吊ってくれた。
寺へ来て四日目のことだった。
真夜中、寝苦しさで目が覚めた。
吊った蚊帳の上に、若い女が腹ばいに張り付いていて、笑いながらこちらを見ている。
女は目が合うと、蚊帳を爪でカリカリとしだした。
思わず悲鳴を上げ、蚊帳をめくって外に出た。
悲鳴を聞きつけて住職と奥様が客間にやってきた。
今あったことを話すと、住職は血相を変えて本堂へ向かった。
そこには新仏が安置されていた。
婚約していた男性に捨てられた若い女性だそうだ。
『あなたに惚れてしまったのかもしれないが、厄介なことになった』
どう厄介なのかはわからないが、それ以上のことは聞けなかった。

牛抱せん夏
実話怪談 幽廓 牛抱せん夏 竹書房怪談文庫
「帰り道」
塾を終えた夏美さんは自転車に飛び乗ると、いつもの大通りとは別な裏道へと進んだ。
夜は人通りもなく寂しい道だが、ここを通ればかなりショートカットできる。
鼻歌を歌いながらペダルをこいでいく。住宅街に入り少し行くと十字路が見えてきた。
その時、ふと見ると右前方にカーブミラーがあり、左方向の坂道から自転車が勢いよく
下って来るのが映っていた。
肌着姿のおじいさんだ。かなりのスピードが出ている。
夏美さんはぶつからないよう、十字路の前で自転車を止めると、おじいさんが通り抜けるのを
待つことにした。
ところが、いくら待っても自転車は下って来ない。あれほどのスピードを出していれば一瞬で
通り過ぎるはずだ。
不思議に思い、おじいさんが走ってくる坂道の方へ首を伸ばして覗いてみた。
おじいさんの姿はない。
(おかしいな) と思ったときだった。
悪寒が走り、振り向くとカーブミラーいっぱいに先ほどのおじいさんの巨大な顔があり
満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

牛抱せん夏
実話怪談 呪紋 牛抱せん夏 竹書房文庫
「祖父の葬儀にて」
マサルさんが高校二年生の時、大好きだった祖父が亡くなった。
葬儀が終わり、親族一同がお茶を客間で飲んでいるときだった。
マサルさんの母親の一番上の姉が言い出した。
『黙っていようと思ったんだけど、白装束を着せているとき父さんの目が開いたのよ』
『あんたも見たの?私も見たわよ』
と、二番目の姉も言う。
それを聞いていたマサルさんの母親は、姉たちの顔を見回しながら
『そりゃそうよ。だって姉さんたち、白装束を着せながら父さんの悪口を言っていたんじゃない!
父さん怒ったのよ』
そう言って怒りながら部屋を出て行った、という話。

牛抱せん夏
現代怪談 地獄めぐり 羅刹 響洋平 村上ロック シークエンスはやと 徳光正行 竹書房怪談文庫
「ドライバー」 牛抱せん夏
トラック運転手の男性の体験談である。
ある夏の夜、荷物を積み込んで東北の目的地に向かった。
途中、空気の入れ替えをしようと窓を開ける。ふとサイドミラーに目をやると、荷台のシートが
風にあおられパタパタとなびいているのが見えた。
それが・・・・・・何か変だ。
シートは青色なのだが、ミラーに映るものは黒い。
不思議に思い目をこらすと、それはシートではなく黒髪だった。
車体の横に全身真っ黒な女が張り付き、運転席のすぐそばまできていた。
思わず悲鳴をあげたと同時に、開けた窓からのぞき込む女に手首をつかまれた。
急ブレーキをかけて振り払う。
幸い後続車はなかった。
車を道の端に寄せ、荷台や周辺を探したが、黒い女の姿はどこにもなかった。
届け先に到着して右手首を確認すると、爪の痕がくっきりと残っていた。

牛抱せん夏
千葉の怖い話 牛抱せん夏 TOブックス
「生首さん」
オカルト作家の山口敏太郎さんの事務所を訪問した時のこと。
和室に通されて山口さんの話を聞いていると・・・・
目の前の窓ガラスに映る自分の姿にかぶって、生首が浮いて見えた。
私の様子に気づいた山口さんが
『どうしたの?何か見えた?』 と聞かれましたが、生首が見えたとは言えませんでした。
しかし、その後、夕飯の時間になると・・・
『うちの事務所、生首が出るんです』
と山口さんが言い出しました。
奥様も見ているし、下宿していた人も見ているらしい。

それから3年後、人気アイドルグループのOさんが山口さんの事務所へ来た時のこと。
『この事務所、何か感じる場所はありますか?』 と聞いたところ
『このあたり』
と示した場所は、下宿していた人と奥様が生首を目撃した場所だったのです。


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