吉田悠軌 |
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恐怖実話 怪の残滓 吉田悠軌 |
実話怪談 怪の残滓 吉田悠軌 竹書房怪談文庫 「秋津駅・新秋津駅」 その日もいつものように秋津駅と新秋津駅を乗り換えのため移動していた。 夕方、人通りの多い時間帯なので、周囲は同じ目的の人々が多数歩いている。 ノリコはスマホをイジリながら、前を行く人だけを注意して歩を進めていた。時間にしたら、一、二分程度・・・・ ふと顔を上げたノリコは、思わずビクリと足を止めた。さっきまで周りにいた人々が全て消えたのである。 それどころか、自分自身がまったく見覚えのない場所にいるではないか。 あたりを見渡せば、周囲は畑が広がっているばかり。ただ、整地されただけの閑散とした荒れ畑だ。 秋津町はのどかな郊外だ。駅から一キロほども歩けば、田畑が広がっているのは知っている。 しかし、一瞬でそんな所に来てしまった意味が分からない。 スマホの地図で位置を確認しようとしたが、なぜかGPSは秋津駅と新秋津駅の中間点でかたまっており うんともすんとも動かない。電波を確認しても圏外で反応なし。 とにかくこの場所を離れようと歩き出した。そのうち両側の畑が途切れ、代わりに団地のような住宅棟が並びだす。 心細くなったノリコは団地の中に入り込んで行った。 しんと静まり返った敷地を足早に進んでいくと、行き止まりのようなポイントに出くわした。ただ、住宅棟の一階は 通路となっており、向こう側へ突っ切ることができそうだ。 住宅棟の裏手へと出ると、突然、周囲がざわめきに包まれた。ノリコのすぐ横をバスが通り過ぎて行き、目の前を 人々がせわしなく行きかっている。カン、カンという踏切の音も聞こえてきたではないか。 いつのまにか、新秋津駅の裏手に出ていたのである。 秋津駅と新秋津駅の狭間、そこでおかしな目に遭ったという人はまだまだ他にもいるようだ。 |
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実話怪談 怪の残像 吉田悠軌 竹書房怪談文庫 「六本」 職場の先輩が大学生の頃だから、三十年も前、バイク仲間五人で伊豆半島へツーリングへ 出かけた時のことだという。 日が暮れて、目についた旅館に転がり込んだ。 ツーリングの疲れから、他の人はすぐに寝息を立て始めたが、先輩はなかなか眠りにつけない。 突如、寝ている布団を引っ張られた。 驚いて顔を上げると、目の前の時計の後ろから、細い腕が六本、こちらに向けて手招きするではないか。 六本の手が、おいでおいと折れるたび、布団ごと体が腕に吸い寄せられて行く。 そして、足元が壁に触れるかと思った時、腕たちは先輩の左足へと延びていった。そして、左ふとももが 六本の手にガッシリつかまれる感触がして・・・・ 目覚めると朝になっていた。 嫌な夢を見たなぁ、と思ったが、自分の寝ている布団だけが、大きくずれて壁に付いているのを見て愕然とした。 その後、現在までに、先輩は四回、左足を骨折している。 先輩はいつも、左足のふとももを笑いながら叩きつつ、こう話を終える。 『自分がいつ死ぬかわからないけど、それまでにこの足、あと二回は折れるんだろうねえ』 |
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実話怪談 怪の残響 吉田悠軌 竹書房怪談文庫 「五人女」 夏江さんという女性の高校時代の体験談。 不良少女だった彼女は、たびたび仲間たちとの夜遊びを重ねていた。といっても 夜の公園でタバコを吸いながらおしゃべりする・・・という程度のものだったが。 その日もいつも通り、悪友二人とタバコをふかしながらベンチに座って談笑していた。 気が付くと、時刻は22時を回っていた。 そこで夏江さんは、どこからか鋭い視線が刺さってくる気配を感じた。 見ると公園の入り口あたりに、複数の人影が立っている。五人の影が横一列に並んでいる。 『誰かが通報して、警察が来たのかも』 やばい、やばい、と三人はあわててタバコをもみ消した。 少しの間、にらみ合いのような状況になったが、五人の影は動かない。 『・・・・もう、行くべ』 そうっと立ち上がった夏江さんたちは、人影から視線をそらさず、反対方向の出口へと 歩き出した。 その瞬間、人影が五つそろって、すっと前に歩き出した。 音もなく、滑るように・・・・次第に姿がはっきり浮かび上がってくる。 全員、女だ。しかし、やけに派手な格好をしているような・・・・ 『ぎゃああああ~』 友人二人は悲鳴とともに走り去って行った。一人残された夏江さんは、その場に立ち止まって 近づいてくる五人の女をじっと見つめた。 『・・・なんかさ、友だち二人は幽霊だと思って逃げたみたいなんだけど、私は逆にテレビの 撮影かなっておもっちゃたんだよね。ほら、ドラマの大奥とそっくりの格好だったんだよね。 やっぱり、あれ、幽霊だったのかな?』 |
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| 実話怪談 怪の手形 吉田悠軌 竹書房文庫 「幽霊の証明」 竹芝さんがまだ二十歳前だった時のこと。 当時よくつるんでいた先輩はドライブが趣味で、竹芝さんを助手席に乗せては 関東近郊へと繰り出していた。 その夜は、心霊トンネルがあるという埼玉県の峠道に繰り出した。 トンネルに到着すると、トンネル手前で停車した。 そしてフロントガラスの先を見つめている・・・・ 『あそこ、女の子がいるよな』 先輩はそう言うと車を降りて女の子に近づき、声を掛けた。 『どうしたの? 一人?』 『車とかないの? 待ち合わせじゃないんだよね』 『街まで送ってくから、乗ってきなよ』 女の子は返事こそしないものの、車に戻る二人の後をついてくる。 『はい、乗って乗って』 先輩はドアを開けると、後部座席に女の子を乗せた。 車を発進させると、先輩は次々に質問を投げかけるが、返事はいっこうにない。 『・・・・ここで降ろしてください』 突然、女の子が口を開いた。 『え? こんなところで?』 『ここで降ろしてください』 『じゃあ、またね』 女の子を降ろすと、先輩は窓から手を振りながら峠道を下って行く。 そして道幅が広くなったところで車をUターンさせ、猛スピードで車を走らせる。 やがて女の子が道の真ん中に佇む姿が見えてきた。 車はスピードを落とさずに突進する。 ボンネットの先が女に当たる・・・衝撃を予測してとっさに身をかがめたが、立体映像を 通過するがごとく、車体はそのままスムーズに走り抜けて行った。 『あの女、やっぱり幽霊だったな』 以上が、幽霊を証明する実験に出くわした体験談である。 |
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| 実話怪談 怪の足跡 吉田悠軌 竹書房文庫 「嫌な日」 とにかく、気持ちの悪い一日だった。 十年以上も前、今田さんが当時付き合っていた彼女と旅行した日のこと。 貧乏な二人は東海道線の鈍行列車に乗って、ゆっくりと熱海を目指した。 しかし、その社内から変だった。 ボックス席の対面に座っていた老人が『バカにするな!』『そんなこと許されるのか』 と、突然怒鳴りつけてきた。危険を感じて、他の車両に移動した。 移動した車両でも、ドアに寄り掛かった男がこちらを睨んでブツブツ言う・・・。 ようやく熱海駅に着いた今田さんがホテルのチェックインを済まそうとすると フロントから予約など受け付けていないと告げられた。 そんな筈はないと押し問答を繰り返した末、ようやく特別に部屋を確保できた。 さらに観光を楽しもうと海岸に出れば、不良の若者たちにわけもなく絡まれ たまたま入ったコンビニでは男の子の幽霊に出くわす。 今田さんはつとめて明るい口調で彼女に言った。 『なんだろうね、今日はなんか、変なことばかり起こる一日だね』 『しかたないよ』 『え?しかたないって、何が?』 『だって今日、前の彼の命日だから』 |
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| 放課後怪談部 吉田悠軌 六月書房 この本で語られている怪談は全て、本当にあったかもしれない話です。 直接体験した人が『こんなことがあってね』と話してくれたり または誰かの体験談を『こんな話を聞いてね』と教えてくれたりしたものです。 彼らから受け取った話を、この本に書くことで、私もこれらの怪談の一部になりました。 もちろん、これから読むあなたも。 こうして風邪に感染するように、怪談語りの環は広がっていきます。 しかし、怪談は、文章ではなく、人から人へと口で伝えていくのが、本当のあり方です。 そこも、風邪と似ているところですね。 あなたも、この本の怪談を誰かに話してみてくれませんか。 |