幽木武彦 |
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| 算命学怪談 占い師の怖い話 幽木武彦 竹書房怪談文庫 「峠の出来事」 高木さんが起こしたバイク事故でのこと。 『スピードの出し過ぎだったんだよね。カーブを曲がり切れなくて、対向車のトラックとバーン! 救急車にかつぎこまれたんだけど ”俺、死ぬかもな” ってマジで思いましたよ』 意識が朦朧とした中で、処置室だったのではないかと言う。 大勢の医者や看護師が、さかんに何事かを叫びながら、高木さんの視界に出たり入ったりした。 『救急患者ってのはこんなに大勢で診るものなのかって、他人事みたいに見ていました』 やがて、事故の知らせを受け、家族が駆けつけて来た。 泣きながら自分の名を呼ぶ母親の声を、ぼんやりとしびれた頭で聞いていた。 医者たちの数は、ますます増えた。 医者だけで、七、八人はいる。 みな、ヒソヒソ話で 『今夜が峠だ。だな、峠だ。死ぬかもしれない。うん、死ぬかもな』と話す。 高木さんは ”全部聞こえているよ” と思いながら彼らのデリカシーの無さに呆れ、憤慨していた。 しかし幸運にも一命を取り留めた。 話ができるまで回復すると、多くの医者から好き放題言われたことを母親にぶちまけた。 すると、母親は怪訝そうに 『お医者さんは二人くらいしかいなかったはずよ』 思い返してみると、次々と高木さんの顔を覗き込む医者の中で真剣な顔つきで覗く医者は一部 だけだった。あとの連中は、どいつもこいつもなんだかとても嬉しそう。あからさまに笑っている 奴もいたという。 もう少しで、彼らの世界に行くところだったんだ・・・・背筋に鳥肌が立った。 |