ドイツの救急医療 ホームへ 本文へジャンプ

ホームへ
不都合な真実・・・今治市の救急医療体制は存続できるか


2008年2月15日号 今治医師会々報
            木原病院 木下研一
 今治市には「24時間・365日」の救急医療体制が存在し、時間的空白のないこの体制が人口17万人程度の市で実施されていることは高く評価される。これに加えて、日曜・祭日には小児科と内科の当番制度がある。

 しかし一般的に日本の救急医療体制、就中診療時間外の救急体制は実に貧弱である。最近では近畿において救急隊が受診施設にたどり着くまでに長時間を要したという報道をしばしば見受けるが、ここでは平成14年に岩手県で起きた痛ましい症例を挙げよう。この件では、生後8ヶ月の男児が2日間続いた発熱・嘔吐・下痢のために医療施設を探したが受け入れ先が見つからず、午後9時になんとか眼科医の診察を受けることができた。しかし結局は翌朝の8時頃に亡くなったというものである(朝日新聞)。その後に彼の地で救急体制が改善されたかどうかは不明であるが、現在の医療のあり方から想像して状況が大きく変わったとは考え難い。

 冒頭に述べたように、当地では現在のところこの様な例が発生することは考えられない。しかし医師数の減少、特に産科医と外科医(声高には語られていないが、・・・詳細は後述する)の減少は著しく、この傾向が続くと当市においても安穏としてはいられない。

 先ず総医師数である。世界的な規模で比較すると、日本の医師数はOECD(経済協力開発機構)加盟30ヵ国の中で27番目に位置する。具体的な数値を挙げると、同加盟国における医師数の平均は人口1,000人あたり3.0人で、最高がドイツ・フランス・スエーデンの3.4人である。これに対して日本では2.0人と、多い国の60%に満たない。(図1)。

 国別医師数の順位は医学部入学定員の削減によって更に後退しつつある。即ち、1984年(S59)には8,280人であった定員は2004年(H16)には7,625人に減少しており(文部科学省資料)、このまま推移すると2020年にはOECDの中で最下位になるであろうと指摘されいる(図2)。

 次に問題になるのは診療科別の医師数である。科別の資料は少なく、また解釈も難しい。「表1」は日米の比較であり、昨今問題になっている実情は一応把握できる。第一に小児科医と産婦人科医の不足は顕かである。しかし一口に産婦人科といっても、その中で産科を扱っている医師となると更に低率であろう。

 外科についても数値の解釈が必要である。この表で見ると日本には有り余るほどの外科医が存在することになる。しかし外科医として登録されている医師の何%が実際に「外科」を担当しているであろうか。これは推定でしかないが、おそらく半数は最後に記載されている家庭医的な存在であると思われる(現在の私を含めて)。欧米では、胃切除程度の手術に年間150例以上かかわるのが外科医であって、外科医は医療を行う限り一生外科医であり続ける。そういう意味で、日本で実働している外科医の数は表の半分以下と読むべきである。また日本では馴染みがないが、家庭医とは3~5年間の専門教育を受けた「家庭医という名の専門医」であり、内科に次いで多くの医師が所属する重要な科である。ここのところを見逃すととんでもない解釈が生まれる。

 今治の救急医療もこの様な状況下で続けられており、その中で準夜と深夜の救急の殆ど全ての窓口を外科医が担っている。しかし前述の如く外科医の減少は著しく、最早人員の確保は困難になってきており、現行制度の継続は危ぶまれる。

 日本の国力が現在の医師数しか維持できないとすれば、それはそれでやむを得ない現実であろう。ただしこの場合には実情を行政や日本医師会が国民・市民に十分に説明して理解を得るべきである。またメディアも単に個々の事例を報道するだけでなく、問題の根幹を正しく把握すべきである。
今治市の救急体制が崩壊することのない様に願いつつ。


参考文献など
①医師数:公表された数字であり、インターネットで検索すれば多数の文献にあたる

②1図、2図:医療・介護CBニュース 2007 による

③表1:医師偏在問題の原因を考える 山田省吾 学術の動向2007.5

④その他:
a.医療崩壊 「立ち去り型サボタージュ」とは何か 小松秀樹著
b.崩壊する日本の医療 鈴木厚著

⑤救急医療の今昔と彼我 木下研一 ホームページ
  http://www3.plala.or.jp/imabarikinoshita/kyuukyuu.htm







このページのTOPへ

サイトマップへ